説明

樹脂、フィルム、これを用いた位相差フィルムおよび表示装置

【課題】溶融粘度が低く、環境負荷が小さく、流動性、成形性、波長分散性に優れた、さらに光弾性係数が小さく、耐熱性に優れ、薄膜化を可能にする位相差発現性を十分に有する樹脂の提供。
【解決手段】下記(i)および(ii)を満足する樹脂。
(i)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(ii)1〜200μmのいずれかの厚みのフィルムに成形して、未延伸または任意の温度、任意の倍率で延伸し、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルム用途に好適な樹脂およびフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】

現在、位相差フィルムとしては、ポリカーボネートや環状ポリオレフィン等の樹脂からなるフィルムが用いられている。ここで、位相差フィルムとは、X軸方向、Y軸方向とも同位相の入射光がフィルムを通過すると、X軸方向とY軸方向の出射光に位相のズレを与える機能を有するフィルムを意味し、たとえば液晶ディスプレイにおいては、この位相差フィルムが、視野角補償、色補償、直線偏光の円偏光への変換などの用途に用いられている。
【0003】
特に、反射型および半透過型液晶ディスプレイでは、偏光板と位相差フィルムを組み合わせた円偏光板として用いられている。この円偏光板は、入射した無偏光の光を円偏光に変換する働きを持つ。この円偏光板に用いる位相差フィルムは、全可視光領域の波長λ(nm)に対し波長の4分の1の位相差であることが望まれるが、これを1枚で満足するフィルムを得ることは困難であった。
【0004】
偏光板と環状ポリオレフィンからなる1枚以上の位相差フィルムとを、位相差フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸がそれぞれ特定の角度となるように積層し、可視光領域の広帯域で、円偏光を得る方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。しかし、この積層型の位相差フィルムは、構成部材コストおよび貼合コストが大きく、またディスプレイの薄膜化、軽量化には限界があるという問題があった。
【0005】
また、1枚で可視光領域の広帯域において、1/4波長に近い位相差が得られる熱可塑性フィルム(例えば、特許文献2〜4参照)が知られているが、これらの樹脂は溶融粘度が高いため溶液流延法により製膜する必要があり、生産性が悪く、また用いる溶媒が環境に悪影響を与える問題があった。
【0006】
一方、フルオレン構造を含むポリエステル樹脂(例えば、特許文献5〜7参照)が知られているが、低複屈折であることを特徴としており、一般的な延伸条件において得られる位相差は極めて小さい。そのため、この樹脂を用いたフィルムにおいて、1/4波長の位相差を得るためには、フィルム厚みを極めて大きくする必要があり、ディスプレイの薄膜化、軽量化の目的を損なうことに加え、可視光領域においてその位相差が1/4波長となる波長域が狭いという問題があった。
【0007】
また、脂環構造とフルオレン構造を含むポリエステル樹脂として、硬化樹脂を得るのに有用である樹脂(例えば、特許文献8参照)が知られており、バインダーに用いられるシクロヘキセン構造を含むポリエステル樹脂(例えば、特許文献9参照)および高い耐熱性を有する樹脂としてデカリン構造を基本骨格としたポリエステル樹脂(例えば、特許文献10参照)についても知られているが、これらの樹脂を位相差フィルムとして用いることは考えられていなかった。
【特許文献1】特開平5−2108号公報
【特許文献2】特開2005−156685号公報
【特許文献3】特開2002−127244号公報
【特許文献4】特開2000−137116号公報
【特許文献5】特許第3331121号
【特許文献6】特開平11−060706号公報
【特許文献7】特開2004−315676号公報
【特許文献8】特開2004−250547号公報
【特許文献9】特開2003−082079号公報
【特許文献10】特開平6−056976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、溶融粘度が低く、環境負荷が小さく、流動性、成形性、波長分散性に優れた樹脂およびフィルムを提供することにある。さらには、光弾性係数が小さく、耐熱性に優れ、薄膜化を可能にする位相差発現性を十分に有する樹脂およびフィルム、特に位相差フィルムに好適な樹脂およびフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】

上記目的を達成するために本発明によれば、下記(i)および(ii)を満足する樹脂(第1の発明)が提供される。
【0011】
(i)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(ii)厚み200μmのフィルムに成形して、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
【0012】
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)
また、本発明によれば、下記(iii)および(iv)を満足するフィルム(第2の発明)が提供される。
【0013】
(iii)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(iv)波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
【0014】
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)
さらに、本発明の位相差フィルムは、上記の樹脂またはフィルムからなることを特徴とし、本発明の表示装置は、上記の樹脂またはフィルム、特に位相差フィルムを用いてなることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明の樹脂、およびフィルムを構成する樹脂は、ポリエステル樹脂であること、樹脂を構成するジオール単位として下記化学式(1)で表される構造単位、ジカルボン酸単位として下記化学式(2)で表される構造単位および下記化学式(3)で表される構造単位のいずれかを含むこと、または下記化学式(1)〜(3)およびジオール単位として(4)または(5)で表される構造単位を全て含み、化学式(1)〜(3)および(4)または(5)のモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、次式(E)〜(G)を満たしていることが望ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜4のアルキレン基であり、pは0〜3の整数を示す。R、Rは同一または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、q、rは0〜4の整数を示す。
【0018】
【化2】

【0019】
ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、mは0〜4の整数を示す。
【0020】
【化3】

【0021】
ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜6の整数を示す。
【0022】
【化4】

【0023】
ただし、式中のR6は炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【0024】
【化5】

【0025】
ただし、式中のRは側鎖に炭素数1〜10のアルキレン基を1つ以上含む。
【0026】
80 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(E)
−0.6c + 45 < a < −0.5c + 65・・・(F)
0.5c + 25 > a・・・(G)
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、以下に説明するとおり、溶融粘度が低く、環境負荷が小さく、流動性、成形性、波長分散性に優れた樹脂およびフィルムを提供することができる。そのため、溶媒を用いて樹脂の粘度を低くする必要がなく、フィルムの製造の際に、溶媒が環境に与える影響をなくすことができ、生産性が高い溶融製膜法を用いることができる。また、本発明の位相差フィルムは、広範囲の可視光波長域で光を円偏光に変換することができ、反射型および半透過型液晶ディスプレイ(表示装置)に組み込んだ際に、光漏れや、黒表示が青みを帯びることによるコントラスト低下や色相変化を少なくすることができる。
【0028】
さらに、本発明によれば、光弾性係数が小さく、耐熱性に優れ、薄膜化を可能にする位相差発現性を十分に有する樹脂およびフィルム、特に位相差フィルムに好適な樹脂およびフィルムを提供することができる。本発明の位相差フィルムを用いた円偏光板においては、使用環境の湿熱条件や発生する応力によるフィルムの寸法変化や位相差変化を小さくすることができ、光の額縁漏れや色ムラをなくすことができる。また、本発明の位相差フィルムは、位相差フィルム1枚と偏光板のみで良好な円偏光板を作製できるので、2枚以上積層したフィルムと比較して、構成部材のコスト、貼合コストを小さくすることができる。
【0029】
このように、1/4波長位相差フィルムとして好適な樹脂およびフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0031】
まず、第1の発明について説明する。第1の発明では、本発明の樹脂が、下記(i)および(ii)を満足することが必要である。
【0032】
(i)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(ii)厚み200μmのフィルムに成形して、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
【0033】
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)
溶融粘度は、好ましくは50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、より好ましくは、100Pa・s以上、500Pa・s以下である。1000Pa・s以下の場合は、流動性、成形性に優れ、溶融粘度を下げるために溶融温度を高くする必要がなく、樹脂の熱分解を防ぐことができ、またフィルターにより異物が取り除けるため好ましい。1000Pa・sより大きい場合は、流動性、成形性に劣るため好ましくない。例えば、光学用樹脂としては、ポリカーボネート、セルロースなどが挙げられるが、これらの樹脂は溶融粘度が高く、製膜可能な溶融粘度になるよう温度を上げるとポリマーが分解または劣化する問題があるため、樹脂を溶媒に溶かして粘度を下げ、溶液流延法を用いる必要がある。溶液流延法を用いる場合は、生産性が低くなるため好ましくなく、また用いる溶媒が環境に影響を与えることがあるためからも好ましくない。10Pa・sより小さい場合は、製膜が困難となるため好ましくない。
【0034】
溶融粘度を10Pa・s以上にする方法として、本発明の樹脂がポリエステルである場合は、例えば、エステル交換反応を200〜220℃の温度でスタートさせることが好ましく、反応率が約50%を超えてから220〜235℃まで昇温することが好ましい。200℃未満でエステル交換反応を行う場合は、反応が進行せず溶融粘度が上がらないことがあるので好ましくなく、400℃を超えて行う場合は、樹脂の熱分解や着色が生じることがあり好ましくない。
【0035】
溶融粘度を1000Pa・s以下にする方法として、例えば分子鎖の絡み合いを少なくする方法が挙げられる。ポリカーボネートのように剛直な構造からなる樹脂は、芳香環の立体障害のため分子の回転性が悪く、1000Pa・s以下とするためには、低分子量とすることで分子鎖の絡み合いを減らす必要があるが、製膜が困難となるため好ましくない。主鎖に回転性が良いメチレン基、エーテル基のような分子構造、例えばエチレングリコールを含む樹脂は、分子鎖が曲がりやすく、分子鎖の絡み合いを少なくできるため、溶融粘度を1000Pa・s以下とすることができ好ましい。また、重合反応が進行し、樹脂の分子量が大きくなるに従い、溶融粘度が高くなるため、重合装置の攪拌トルクも上昇する。重合終了時の攪拌トルクと樹脂の溶融粘度との関係を求め、目的の溶融粘度を満足する攪拌トルクで、重合反応を停止することが好ましい。また、樹脂の分子量は、溶融粘度と相関関係があり、樹脂の分子量と溶融粘度との関係を求めておくことで、溶融粘度から樹脂の分子量を推定することができる。
【0036】
位相差フィルムと偏光板を組み合わせて円偏光板として用いる場合、各波長における位相差が1/4となることが好ましい。波長628.2nmにおける位相差R(628.2)と波長548.3nmにおける位相差R(548.3)と波長480.4nmにおける位相差R(480.4)が次式を満たすことが理想であり、この理想値に近い場合を波長分散性が良いという。
【0037】
R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) = 628.2/548.3
R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) = 480.4/548.3
本発明の樹脂は、厚み200μmのフィルムに成形して、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、上式(A)および(B)を満足することが必要である。なお、本発明において「厚み200μmのフィルムに成形して」とは実際に厚み200μmのフィルムを成形した場合および、厚み200μm以外の厚みのフィルムを成形し、位相差を厚み200μmの時の位相差に換算した場合の両方を示す。
【0038】
フィルムの厚みと位相差は「位相差=ΔN×厚み」が成り立つ。このため厚み(L)(μm)の時の波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(L・λ)(nm)としたとき、下式
R(200・λ)(nm)=200・R(L・λ)/L
によりR(200・λ)(nm)を換算することが可能である。
【0039】
(ただしR(200・λ)(nm)は位相差を厚み200μmの時の波長λの光に対する位相差、ΔNは複屈折)
より好ましくは、次式(C)および(D)を満たすことであり、さらに好ましくは次式(H)および(I)を満たすことであり、最も好ましくは次式(J)および(K)を満たすことである。本発明の樹脂を厚み200μmのフィルムに成形する方法として、例えば金型を用いて厚み200μmに成形する方法や、厚み200μm以上に成形後、(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で、1.1〜10倍のいずれかの延伸倍率で、一軸延伸、ニ軸延伸などの方法で延伸する方法が挙げられる。
【0040】
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.20・・・(C)
0.82 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.92・・・(D)
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.18・・・(H)
0.82 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.90・・・(I)
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.16・・・(J)
0.84 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.90・・・(K)
上式(A)および(B)を満たす樹脂からなるフィルム1枚を、偏光板と組み合わせ円偏光板として用いた際に、広範囲の可視光波長域において、位相差がそれぞれの波長の1/4に近く、反射型および半透過型液晶ディスプレイの光漏れによるコントラスト低下や色相変化が少なくなり、さらに構成部材のコストおよび貼合コストも少なくなるため好ましい。
【0041】
上記(i)および(ii)を満たす方法としては、溶融粘度、波長分散性の観点から、カルド構造、単環または多環の不飽和脂肪族環構造、および単環または多環の飽和脂肪族環構造の全てを有することが好ましい。カルド構造とは、一般に上記化学式(1)で表される構造のように、主鎖部分の芳香環2個と、フルオレン環がちょうつがい状に結合されている構造のことである。
【0042】
例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位が、それぞれ下記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=35、b=5、c=45、d=15とする方法が挙げられる。この樹脂を、ホットプレス法を用いて製膜し、例えば延伸温度130℃、延伸速度1%/秒、延伸倍率2.5倍の一軸延伸を行ったとき、溶融粘度360Pa・s、R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)=1.11、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)=0.82を得ることができる。
【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
上式(C)および(D)を満たす方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=40、b=10、c=40、d=10とする方法が挙げられる。この樹脂を、ホットプレス法を用いて製膜し、例えば延伸温度135℃、延伸速度1%/秒、延伸倍率2.6倍の一軸延伸を行ったとき、溶融粘度400Pa・s、R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)=1.10、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)=0.84を得ることができる。
【0047】
本発明の樹脂においては、光弾性係数(以下、光弾性係数をCσと表記する)が−30×10−12 Pa−1以上、30×10−12Pa−1以下であることが好ましい。より好ましくは−28×10−12 Pa−1以上、28×10−12Pa−1以下であり、もっとも好ましくは−26×10−12 Pa−1以上、26×10−12Pa−1以下である。Cσが−30×10−12 Pa−1未満、または30×10−12Pa−1より大きい場合は、フィルムを液晶セルに偏光板とともに貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力により、位相差ムラが発生し、コントラストの低下や色相変化を起こすことがあり好ましくない。
【0048】
Cσを−30×10−12 Pa−1以上、30×10−12Pa−1以下にする方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=35、b=5、c=45、d=15とする方法が挙げられる。
【0049】
また、本発明の樹脂が脂環構造を有していることが好ましい。脂環構造としては、例えばシクロヘキサン構造、シクロペンタン構造、デカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造、シクロヘキセン構造、シクロペンテン構造、ノルボルネン構造、スピロ環構造などが挙げられる。また、Tgの向上を目的として芳香族構造を多く導入するとCσが大きくなる傾向にあり好ましくないが、9,9−ビスフェニルフルオレン構造からなる芳香族は、主鎖方向の芳香環と主鎖と直交する方向のフルオレン環(芳香環)が分極を打ち消しあうため、高いTgと小さいCσの両立が可能になることから、本発明の樹脂が9,9−ビスフェニルフルオレン構造を有していることも好ましい。
【0050】
本発明の樹脂は、ガラス転移温度(以下、ガラス転移温度をTgと表記する)が120℃以上であることが好ましい。より好ましくは125℃以上であり、最も好ましくは130℃以上である。120℃未満では、位相差フィルムの使用環境の条件にもよるが配向緩和等の問題が発生し、長期の位相差安定性が保てないことがあり好ましくない。一方、一般的にフィルムの延伸はTg付近で行うので、Tgが高すぎるとフィルムの延伸に必要な温度が高くなる。そのため、コストが高くなり生産性が低下することがあり、上限は特にないが一般的には300℃以下であればよい。Tgを120℃以上にする方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ、上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=40、b=10、c=40、d=10とする方法が挙げられる。また、本発明の樹脂がデカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造のような剛直な構造の脂環構造、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、9,9−ビスフェニルフルオレン構造などの芳香族構造などを有していることが好ましい。
【0051】
位相差は複屈折×厚みで与えられるため、各樹脂で得られた位相差を厚みで規格化し、複屈折の値で位相差発現性を比較することができる。
【0052】
本発明の樹脂は、厚み200μmのフィルムに成形し、波長548.3nmにおける位相差R(548.3)を厚みで規格化した複屈折をΔNとしたとき、ΔNが1.5×10−3以上、20×10−3以下であることが好ましい。本発明の樹脂を厚み200μmのフィルムに成形する方法として、例えば金型を用いて厚み200μmに成形する方法や、厚み200μm以上に成形後、(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で、1.1〜10倍のいずれかの延伸倍率で、一軸延伸、ニ軸延伸などの方法で延伸する方法が挙げられる。このような樹脂からなる位相差フィルムは、2枚以上積層した位相差フィルムよりも薄くでき、好ましい。より好ましくは、1.6×10−3以上、15×10−3以下であり、さらに好ましくは1.7×10−3以上、10×10−3以下である。ΔNを1.5×10−3以上、20×10−3以下にする方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=25、b=5、c=45、d=25とする方法が挙げられる。
【0053】
ΔNを1.5×10−3以上、20×10−3以下とする方法として、好ましくは延伸開始速度を50%/分以上、4000%/分以下とすることであり、より好ましくは100%/分以上、3000%/分以下であり、もっとも好ましくは200%/分以上、2000%/分以下である。延伸開始速度が遅すぎると、延伸による分子鎖の配向と同時に配向緩和が生じるため、十分な位相差が得られないため好ましくなく、早すぎると応力集中によるフィルム破れやクラックによる白化が生じるため好ましくない。延伸開始後の延伸速度には特に限定はないが、50%/分以上、10000%/分以下が好ましい。
【0054】
波長548.3nmの1/4の位相差は137.075nmであり、R(548.3)の値が137.075nmに近い位相差フィルムを偏光板と組み合わせた円偏光板は、波長548.3nmの光で円偏光を得ることができることから好ましい。ΔNが1.5×10−3未満の場合は、137.075nmの位相差を得るために必要な厚みが大きくなり、本発明の位相差フィルムを用いた液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくなく、20×10−3を超える場合は、位相差の制御が困難になり好ましくない。
【0055】
本発明の樹脂は、溶融粘度、波長分散性、光弾性係数、ガラス転移温度、位相差発現性の観点から、カルド構造、単環または多環の不飽和脂肪族環構造、および単環または多環の飽和脂肪族環構造の全てを有することが好ましい。より好ましくは、単環または多環の不飽和脂肪族環構造が、1つの不飽和構造を有することである。さらに好ましくは、樹脂がポリエステル樹脂であることである。
【0056】
本発明の樹脂は、ジオール単位であるカルド構造として上記化学式(1)で表される構造単位を含むことが好ましい。上記化学式(1)で表される構造単位は、好ましくはq=0、r=0である。R、Rがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基の場合は原料コストが高くなることや、Tgの低下があり好ましくない。p=1であることが好ましく、Rは同一でエチレン基であることが好ましい。アルキレン基の炭素数が大きい場合はTgが下がり好ましくなく、p=0の場合は重合の反応性が悪くなり好ましくない。より好ましくは、上記化学式(6)で表される構造単位である。また、樹脂を構成するジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0057】
上記化学式(1)で表される構造単位の誘導体としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられ、これらの中でも、Cσ、耐熱性、重合性の観点から9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが好ましい。
【0058】
本発明の樹脂は、ジカルボン酸単位である単環または多環の不飽和脂肪族環構造として上記化学式(2)で表される構造単位を有することが好ましい。上記化学式(2)で表される構造単位は、好ましくはm=0であり、Rがアルキル基、シクロアルキル基、アリール基の場合は、原料コストが高くなることや、Tgの低下、樹脂の着色などがあり好ましくない。より好ましくは、上記化学式(7)で表される構造単位である。また、樹脂を構成するジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0059】
上記化学式(2)で表される構造単位の誘導体としては、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸およびこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物などの酸無水物、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸ジメチルなどの低級アルキルエステルなどなどが挙げられる。1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸を用いると、この樹脂からなる1/4波長位相差フィルムを偏光板と組み合わせた円偏光板は、広範囲の可視光波長域で光を円偏光に変換することができ、反射型または半透過型液晶ディスプレイに組み込んだ際の光漏れによるコントラスト低下や色相変化を少なくすることができ好ましい。
【0060】
本発明の樹脂は、ジカルボン酸単位である単環または多環の飽和脂肪族環構造として、上記化学式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。上記化学式(3)で表される構造単位は、好ましくはn=0であり、Rがアルキル基、シクロアルキル基、アリール基の場合は、原料コストが高くなることや、Tgの低下などがあり好ましくない。より好ましくは、上記化学式(8)で表される構造単位である。また、樹脂を構成するジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0061】
上記化学式(3)で表される構造単位の誘導体としては、例えば2,6−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸、1,6−デカリンジカルボン酸、2,7−デカリンジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルなどの低級アルキルエステルなどが挙げられる。波長分散性、Cσ、耐熱性の観点から2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0062】
本発明の樹脂は、上記化学式(1)〜(3)および(4)または(5)で表される構造単位を含み、化学式(1)〜(3)および(4)または(5)のモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、上式(E)〜(G)を満たしていることがより好ましい。
【0063】
ジオール単位として上記化学式(4)で表される構造単位のRは炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。上記化学式(4)で表される構造単位の誘導体としては、例えばジオール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどの脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノールなどの環構造を有するジオールが挙げられる。本発明の樹脂フィルムの延伸性、柔軟性の観点から好ましくはエチレングリコールであり、Cσの低減、耐熱性の観点から、好ましくは3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロピレングリコール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、1,2−デカリンジメタノール、1,3−デカリンジメタノール、1,4−デカリンジメタノール、1,6−デカリンジメタノール、2,7−デカリンジメタノールである。より好ましくはエチレングリコール、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6−デカリンジメタノールである。本発明の目的を損なわない範囲で、単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができ、例えばエチレングリコール、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6−デカリンジメタノールを併用することで耐熱性、光学特性、柔軟性、機械特性を調節することができる。
【0064】
本発明の樹脂は、ジオール単位として上記化学式(5)で表される構造単位を含むことが好ましい。ただし、上記化学式(5)で表される構造単位のRは側鎖に炭素数1〜10のアルキル基を1つ以上含んでいる。また、樹脂を構成するジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0065】
側鎖に炭素数1〜10のアルキル基を一つ以上含むと、Cσを低減できるので好ましく、また側鎖のアルキル基が立体障害となり、Tgが向上するので好ましい。Cσを低減できる理由については、側鎖としてアルキル鎖を持つことで、分子鎖全体の分極率を小さくすると考えている。側鎖の炭素数が10を超えて大きい場合には、Tgが低下することがあるので好ましくない。
【0066】
側鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、イソブチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、イソブチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。アルキル基を複数含む場合は同一でもよいし、異なっていてもよいが、隣り合う炭素原子および/または同一の炭素原子に結合していることがTg向上、Cσ低減の観点からより好ましい。
【0067】
また、Rの主鎖としては、例えば炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基などが挙げられ、好ましくはアルキレン基、シクロアルキレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。Rが、下記化学式(9)、(10)であると特に好ましい。
【0068】
【化9】

【0069】
【化10】

【0070】
本発明の樹脂は、より好ましくは、次式(L)〜(N)を満たすことであり、さらに好ましくは次式(O)〜(Q)を満たすことである。
【0071】
90 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(L)
−0.6c + 50 ≦ a ≦ −0.5c + 63・・・(M)
0.5c + 23 ≧ a・・・(N)
95 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(O)
−0.6c + 50 ≦ a ≦ −0.5c + 60・・・(P)
0.5c + 20 ≧ a・・・(Q)
a ≦ −0.6c + 45、a ≧ −0.5c + 65、a≧ 0.5c + 24の場合は、波長分散性が悪く、反射型および半透過型液晶ディスプレイなどに偏光板と組み合わせ円偏光板として用いた際に、黒表示が青みを帯びたり、コントラスト低下や色相変化が生じることがあり好ましくない。
【0072】
また、a≦ −0.6c + 45の場合は、Tgが120℃未満となることがあり、位相差フィルムの使用環境の条件にもよるが配向緩和等の問題が発生し、長期の位相差安定性が保てないことがあり好ましくない。また、Cσが−30×10−12 Pa−1未満、または30×10−12 Pa−1より大きくなることがあり、フィルムを液晶セルに偏光板とともに貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力により、位相差ムラが発生し、コントラストの低下や色相変化を起こすことがあり好ましくない。
また、a≧ −0.5c + 65の場合は、ΔNが1.5×10−3未満となることがあり、位相差発現性が悪く、本発明のポリエステル樹脂を1/4波長位相差フィルムとして用いる場合に必要なフィルム厚みが厚くなり、液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくない。
【0073】
第2の発明のフィルムは、下記(iii)および(iv)を満足するフィルムである。
【0074】
(iii)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(iv)波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
【0075】
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)
溶融粘度は好ましくは50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、より好ましくは、100Pa・s以上、500Pa・s以下である。1000Pa・s以下の場合は、流動性、成形性に優れ、溶融粘度を下げるために溶融温度を高くする必要がなく、樹脂の熱分解を防ぐことができ、またフィルターにより異物が取り除けるため好ましい。1000Pa・sより大きい場合は、流動性、成形性に劣るため好ましくない。例えば、光学用フィルムとしては、ポリカーボネート、セルロースなどの樹脂からなるフィルムが挙げられるが、これらの樹脂は溶融粘度が高く、製膜可能な溶融粘度になるよう温度を上げるとポリマーが分解または劣化する問題があるため、樹脂を溶媒に溶かして粘度を下げ、溶液流延法を用いる必要がある。溶液流延法を用いる場合は、生産性が低くなるため好ましくなく、また用いる溶媒が環境に影響を与えることがあるためからも好ましくない。10Pa・sより小さい場合は、製膜が困難となるため好ましくない。
【0076】
溶融粘度を10Pa・s以上にする方法として、本発明のフィルムを構成する樹脂がポリエステルである場合は、例えば、エステル交換反応を200〜220℃の温度でスタートさせることが好ましく、反応率が約50%を超えてから220〜235℃まで昇温することが好ましい。200℃未満でエステル交換反応を行う場合は、反応が進行せず溶融粘度が上がらないことがあるので好ましくなく、400℃を超えて行う場合は、樹脂の熱分解や着色が生じることがあり好ましくない。
【0077】
溶融粘度を1000Pa・s以下にする方法として、例えば分子鎖の絡み合いを少なくする方法が挙げられる。ポリカーボネートのように剛直な構造からなる樹脂は、芳香環の立体障害のため分子の回転性が悪く、1000Pa・s以下とするためには、低分子量とすることで分子鎖の絡み合いを減らす必要があるが、製膜が困難となるため好ましくない。主鎖に回転性が良いメチレン基、エーテル基のような分子構造、例えばエチレングリコールを含む樹脂は、分子鎖が曲がりやすく、分子鎖の絡み合いを少なくできるため、溶融粘度を1000Pa・s以下とすることができ好ましい。また、重合反応が進行し、樹脂の分子量が大きくなるに従い、溶融粘度が高くなるため、重合装置の攪拌トルクも上昇する。重合終了時の攪拌トルクと樹脂の溶融粘度との関係を求め、目的の溶融粘度を満足する攪拌トルクで重合反応を停止することが好ましい。また、樹脂の分子量は、溶融粘度と相関関係があり、樹脂の分子量と溶融粘度との関係を求めておくことで、溶融粘度から樹脂の分子量を推定することができる。
【0078】
位相差フィルムと偏光板を組み合わせて円偏光板として用いる場合、各波長における位相差が1/4となることが好ましい。波長628.2nmにおける位相差R(628.2)と波長548.3nmにおける位相差R(548.3)と波長480.4nmにおける位相差R(480.4)が次式を満たすことが理想であり、この理想値に近い場合を波長分散性が良いという。
【0079】
R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) = 628.2/548.3
R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) = 480.4/548.3
本発明のフィルムは、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、上式(A)および(B)を満足することが必要である。より好ましくは、次式(C)および(D)を満たすことであり、さらに好ましくは次式(H)および(I)を満たすことであり、最も好ましくは次式(J)および(K)を満たすことである。
【0080】
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.20・・・(C)
0.82 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.92・・・(D)
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.18・・・(H)
0.82 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.90・・・(I)
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.16・・・(J)
0.84 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.90・・・(K)
上式(A)および(B)を満たすフィルム1枚を、偏光板と組み合わせ円偏光板として用いた際に、広範囲の可視光波長域において、位相差がそれぞれの波長の1/4に近く、反射型および半透過型液晶ディスプレイの光漏れによるコントラスト低下や色相変化が少なくなり、さらに構成部材のコストおよび貼合コストも少なくなるため好ましい。
【0081】
上記(iii)および(iv)を満たす方法としては、溶融粘度、波長分散性の観点から、カルド構造、単環または多環の不飽和脂肪族環構造、および単環または多環の飽和脂肪族環構造の全てを有するフィルムであることが好ましい。
【0082】
例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=35、b=5、c=45、d=15とする方法が挙げられる。この樹脂を、ホットプレス法を用いて製膜し、例えば延伸温度130℃、延伸速度1%/秒、延伸倍率2.5倍の一軸延伸を行ったとき、溶融粘度360Pa・s、R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)=1.11、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)=0.82を得ることができる。
【0083】
上式(C)および(D)を満たす方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=40、b=10、c=40、d=10とする方法が挙げられる。この樹脂を、ホットプレス法を用いて製膜し、例えば延伸温度135℃、延伸速度1%/秒、延伸倍率2.6倍の一軸延伸を行ったとき、溶融粘度400Pa・s、R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)=1.10、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)=0.84を得ることができる。
【0084】
本発明のフィルムにおいては、全光線透過率が85%以上、100%以下であることが、透明度が高く、位相差フィルムなど多様な光学用途として好適に利用できることから好ましい。より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは94%以上である。例えば、上記化学式(2)で表される構造単位が、m=1である、Rがメチル基の場合は、樹脂が着色することがあり好ましくなく、上記化学式(7)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0085】
本発明のフィルムにおいては、ヘイズが0.0%以上、2.5%以下であることが、透明度が高く、位相差フィルムなど多様な光学用途として好適に利用できることから好ましい。より好ましくは2.0%以下であり、さらに好ましくは1.5%以下である。例えば公知の製膜方法のT−ダイ法において、Tダイ口金から吐出させた樹脂を、静電印加法を用いて冷却されたドラム上に、密着冷却固化させて室温まで急冷し、未延伸フィルムを得ることが好ましい。
【0086】
本発明のフィルムは、Cσが−30×10−12 Pa−1以上、30×10−12 Pa−1以下であることが好ましい。より好ましくは−28×10−12Pa−1以上、28×10−12 Pa−1以下であり、もっとも好ましくは−26×10−12Pa−1以上、26×10−12 Pa−1である。Cσが−30×10−12Pa−1未満、または30×10−12 Pa−1より大きい場合は、フィルムを液晶セルに偏光板とともに貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力により、位相差ムラが発生し、コントラストの低下や色相変化を起こすことがあり好ましくない。
【0087】
Cσを−30×10−12 Pa−1以上、30×10−12Pa−1以下にする方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=35、b=5、c=45、d=15とする方法が挙げられる。また、本発明のフィルムが脂環構造を有していることが好ましい。脂環構造としては、例えばシクロヘキサン構造、シクロペンタン構造、デカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造、シクロヘキセン構造、シクロペンテン構造、ノルボルネン構造、スピロ環構造などが挙げられる。また、Tgの向上を目的として芳香族構造を多く導入するとCσが大きくなる傾向にあり好ましくないが、9,9−ビスフェニルフルオレン構造からなる芳香族は、主鎖方向の芳香環と主鎖と直交する方向のフルオレン環(芳香環)が分極を打ち消しあうため、高いTgと小さいCσの両立が可能になることから、本発明のフィルムが9,9−ビスフェニルフルオレン構造を有していることも好ましい。
【0088】
本発明のフィルムは、Tgが120℃以上であることが好ましい。より好ましくは125℃以上であり、最も好ましくは130℃以上である。120℃未満では、位相差フィルムの使用環境の条件にもよるが配向緩和等の問題が発生し、長期の位相差安定性が保てないことがあり好ましくない。一方、一般的にフィルムの延伸はTg付近で行うので、Tgが高すぎるとフィルムの延伸に必要な温度が高くなる。そのため、コストが高くなり生産性が低下することがあり、上限は特にないが一般的には300℃以下であればよい。Tgを120℃以上にする方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=40、b=10、c=40、d=10とする方法が挙げられる。また、本発明のフィルムがデカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造のような剛直な構造の脂環構造、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、9,9−ビスフェニルフルオレン構造などの芳香族構造などを有していることが好ましい。
【0089】
位相差は複屈折×厚みで与えられるため、各フィルムで得られた位相差を厚みで規格化し、複屈折の値で位相差発現性を比較することができる。
【0090】
本発明のフィルムは、波長548.3nmにおける位相差R(548.3)を厚みで規格化した複屈折をΔNとしたとき、ΔNが1.5×10−3以上、20×10−3以下であることが好ましい。本発明のフィルムは未延伸でもよいし、延伸してもよく、延伸フィルムは、例えば(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で、1.1〜10倍のいずれかの延伸倍率で、一軸延伸、ニ軸延伸などの方法で作製できる。
【0091】
このようなフィルムからなる位相差フィルムは、2枚以上積層した位相差フィルムよりも薄くでき、好ましい。より好ましくは、1.6×10−3以上、15×10−3以下であり、さらに好ましくは1.7×10−3以上、10×10−3以下である。ΔNを1.5×10−3以上、20×10−3以下にする方法としては、例えば、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位がそれぞれ上記化学式(6)〜(8)で表される構造単位であり、上記化学式(4)のRがエチレン基であり、そのモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、a=25、b=5、c=45、d=25とする方法が挙げられる。
【0092】
ΔNが1.5×10−3以上、20×10−3以下とする方法として、好ましくは延伸開始速度を50%/分以上、4000%/分以下とすることであり、より好ましくは100%/分以上、3000%/分以下であり、もっとも好ましくは200%/分以上、2000%/分以下である。延伸開始速度が遅すぎると、延伸による分子鎖の配向と同時に配向緩和が生じるため、十分な位相差が得られないため好ましくなく、早すぎると応力集中によるフィルム破れやクラックによる白化が生じるため好ましくない。延伸開始後の延伸速度には特に限定はないが、50%/分以上、10000%/分以下が好ましい。
【0093】
波長548.3nmの1/4の位相差は137.075nmであり、R(548.3)の値が137.075nmに近い位相差フィルムを偏光板と組み合わせた円偏光板は、波長548.3nmの光で円偏光を得ることができることから好ましい。ΔNが1.5×10−3未満の場合は、137.075nmの位相差を得るために必要な厚みが大きくなり、本発明の位相差フィルムを用いた液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくなく、20×10−3を超える場合は、位相差の制御が困難になり好ましくない。
【0094】
本発明のフィルムは、溶融粘度、波長分散性、Cσ、Tg、位相差発現性の観点から、カルド構造および、単環または多環の不飽和脂肪族環構造および、単環または多環の飽和脂肪族環構造の全てを有することが好ましい。より好ましくは、単環または多環の不飽和脂肪族環構造が、1つの不飽和構造を有することである。さらに好ましくは、樹脂がポリエステル樹脂であることである。
【0095】
本発明のフィルムは、ジオール単位であるカルド構造として上記化学式(1)で表される構造単位を含むことが好ましい。上記化学式(1)で表される構造単位は、好ましくはq=0、r=0である。R、Rがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基の場合は原料コストが高くなることや、Tgの低下があり好ましくない。p=1であることが好ましく、Rは同一でエチレン基であることが好ましい。アルキレン基の炭素数が大きい場合はTgが下がり好ましくなく、p=0の場合は重合の反応性が悪くなり好ましくない。より好ましくは、上記化学式(6)で表される構造単位である。また、ジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含ことが好ましい。式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0096】
上記化学式(1)で表される構造単位の誘導体としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられ、これらの中でも、Cσ、耐熱性、重合性の観点から9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが好ましい。
【0097】
本発明のフィルムは、ジカルボン酸単位である単環または多環の不飽和脂肪族環構造として上記化学式(2)で表される構造単位を有することが好ましい。上記化学式(2)で表される構造単位は、好ましくはm=0であり、Rがアルキル基、シクロアルキル基、アリール基の場合は、原料コストが高くなることや、Tgの低下、樹脂の着色などがあり好ましくない。より好ましくは、上記化学式(7)で表される構造単位である。また、ジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0098】
上記化学式(2)で表される構造単位の誘導体としては、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸およびこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物などの酸無水物、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸ジメチルなどの低級アルキルエステルなどなどが挙げられる。1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸を用いると、このフィルムからなる1/4波長位相差フィルムを偏光板と組み合わせた円偏光板は、広範囲の可視光波長域で光を円偏光に変換することができ、反射型または半透過型液晶ディスプレイに組み込んだ際の光漏れによるコントラスト低下や色相変化を少なくすることができ好ましい。
【0099】
本発明のフィルムは、ジカルボン酸単位である単環または多環の飽和脂肪族環構造として上記化学式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。上記化学式(3)で表される構造単位は、好ましくはn=0であり、Rがアルキル基、シクロアルキル基、アリール基の場合は、原料コストが高くなることや、Tgの低下などがあり好ましくない。より好ましくは、上記化学式(8)で表される構造単位である。また、ジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0100】
上記化学式(3)で表される構造単位の誘導体としては、例えば2,6−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸、1,6−デカリンジカルボン酸、2,7−デカリンジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルなどの低級アルキルエステルなどが挙げられる。波長分散性、光弾性係数、耐熱性の観点から2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0101】
本発明のフィルムは、ジオール単位として上記化学式(4)で表される構造単位のRは炭素数1〜50のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基であることが好ましい。上記化学式(4)で表される構造単位の誘導体としては、例えばジオール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどの脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノールなどの環構造を有するジオールが挙げられる。本発明のフィルムの延伸性、柔軟性の観点から好ましくはエチレングリコールであり、Cσの低減、耐熱性の観点から、好ましくは3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロピレングリコール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、1,2−デカリンジメタノール、1,3−デカリンジメタノール、1,4−デカリンジメタノール、1,6−デカリンジメタノール、2,7−デカリンジメタノールである。より好ましくはエチレングリコール、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6−デカリンジメタノールである。本発明の目的を損なわない範囲で、単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができ、例えばエチレングリコール、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6−デカリンジメタノールを併用することで耐熱性、光学特性、柔軟性、機械特性を調節することができる。
【0102】
本発明のフィルムは、ジオール単位として上記化学式(5)で表される構造単位を含むことが好ましい。ただし、上記化学式(5)で表される構造単位のRは側鎖に炭素数1〜10のアルキル基を1つ以上含んでいる。また、ジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含むことが好ましい。式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基であることが好ましい。
【0103】
側鎖に炭素数1〜10のアルキル基を一つ以上含むと、Cσを低減できるので好ましく、また側鎖のアルキル基が立体障害となり、Tgが向上するので好ましい。Cσを低減できる理由については、側鎖としてアルキル鎖を持つことで、分子鎖全体の分極率を小さくすると考えている。側鎖の炭素数が10を超えて大きい場合には、Tgが低下することがあるので好ましくない。
【0104】
側鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、イソブチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、イソブチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。アルキル基を複数含む場合は同一でもよいし、異なっていてもよいが、隣り合う炭素原子および/または同一の炭素原子に結合していることがTg向上、Cσ低減の観点からより好ましい。
【0105】
また、Rの主鎖としては、例えば炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基などが挙げられ、好ましくはアルキレン基、シクロアルキレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。Rが、下記化学式(9)、(10)であると特に好ましい。
【0106】
【化9】

【0107】
【化10】

【0108】
本発明のフィルムは、上記化学式(1)〜(4)で表される構造単位を含み、化学式(1)〜(3)および(4)または(5)のモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、上式(E)〜(G)を満たしていることがより好ましい。
【0109】
本発明のフィルムは、より好ましくは、次式(L)〜(N)を満たすことであり、さらに好ましくは次式(O)〜(Q)を満たすことである。
【0110】
90 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(L)
−0.6c + 50 ≦ a ≦ −0.5c + 63・・・(M)
0.5c + 23 ≧ a・・・(N)
95 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(O)
−0.6c + 50 ≦ a ≦ −0.5c + 60・・・(P)
0.5c + 20 ≧ a・・・(Q)
a ≦ −0.6c + 45、a ≧ −0.5c + 65、a≧ 0.5c + 24の場合は、波長分散性が悪く、反射型および半透過型液晶ディスプレイなどに偏光板と組み合わせ円偏光板として用いた際に、黒表示が青みを帯びたり、コントラスト低下や色相変化が生じることがあり好ましくない。
【0111】
また、a≦ −0.6c + 45の場合は、Tgが120℃未満となることがあり、位相差フィルムの使用環境の条件にもよるが配向緩和等の問題が発生し、長期の位相差安定性が保てないことがあり好ましくない。また、Cσが−30×10−12 Pa−1未満、または30×10−12 Pa−1より大きくなることがあり、フィルムを液晶セルに偏光板とともに貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力により、位相差ムラが発生し、コントラストの低下や色相変化を起こすことがあり好ましくない。
【0112】
また、a≧ −0.5c + 65の場合は、ΔNが1.5×10−3未満となることがあり、位相差発現性が悪く、本発明のポリエステル樹脂を1/4波長位相差フィルムとして用いる場合に必要なフィルム厚みが厚くなり、液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくない。
【0113】
第1の発明の樹脂の重合方法に限定はなく、公知の重合法、例えば、ジカルボン酸とグリコールを誘導体とするエステル化法、ジカルボン酸ジエステルとグリコールを用いるエステル交換法などを用いることができる。
【0114】
エステル交換法の場合、例えば2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、エチレングリコールを用いる場合、テレフタル酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、エチレングリコールを所定のポリマー組成となるように反応容器へ仕込む。この際、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加することにより反応性が良好になる。これらを150℃程度で溶融後、触媒として酢酸マンガンを添加し撹拌する。150℃で、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。ついで235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させる。その後200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸を加える。2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのようにジカルボン酸のエステル形成性誘導体ではなく、ジカルボン酸やジカルボン酸無水物を用いる場合は、このように途中で加えることにより反応性を良好にすることができる。その後、再び235℃まで昇温することでエステル交換反応を実施する。
【0115】
エステル反応終了後、トリメチルリン酸を加え、撹拌後に水を蒸発させる。さらに、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇するので、撹拌トルクが0.2N・mとなった時点で反応を終了し、重合装置から樹脂を水槽へ吐出する。攪拌トルクが0.2N・m未満で反応を終了すると、溶融粘度が低く、成形が困難になることがあるので好ましくなく、0.2N・mを大きく超えた場合は、溶融粘度が高くなりすぎるので、製膜可能な溶融粘度になるよう押出温度を上げる必要があるが、その際に樹脂の熱分解や着色が生じることがあるので好ましくない。吐出された樹脂は水槽で急冷し、カッターでチップとする。得られた樹脂は95℃の温水が満たされた水槽に投入して5時間水処理を行う。水処理後、脱水機を用いて樹脂から水分を除去する。
【0116】
このようにして本発明の樹脂を得ることができるが、上記方法に限定されるわけではない。樹脂の各構造単位のモル分率(%)は、例えば熱分解ガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)法や、樹脂を加水分解し、生成物をシリル化など誘導体化した後に、GC−MS法、及びNMRなどの方法を用いて測定することができる。
【0117】
第1の発明の樹脂をフィルムに成形する方法および第2の発明のフィルムを製膜する方法としては、公知の製膜方法を用いて製膜することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法などの製造方法が使用できるが、厚みムラ減少、異物削減の観点からT−ダイ法、流延法、ホットプレス法が好ましく使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいはニ軸押出しスクリューのついたエクストルーダ溶融押出し装置が使用できる。好ましくはL/D=25以上120以下のニ軸混練押出機が着色を防ぐことができる点で好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。特に本発明の樹脂は非晶性であるため乾燥が難しいため、ベント式押出機は乾燥せずに溶融押出しできる点で好ましく用いられる。押出温度としては(Tg + 100)〜(Tg + 200)℃の範囲のいずれかの温度で行うことができる。キャスト方法は溶融した樹脂をギアーポンプで計量した後にTダイ口金から吐出させ、冷却されたドラム上に、密着手段である静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体に密着冷却固化させて室温まで急冷し、未延伸フィルムを得ることが好ましい。特に本発明の樹脂フィルムでは良好な平面性や均一な厚み、光学特性が要求されるため、静電印加法が特に好ましく用いられる。
【0118】
上記に記載の製膜方法により製造した未延伸フィルムを、(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で一軸延伸、ニ軸延伸などの方法で延伸することが好ましい。二軸延伸の延伸方式は特に限定はなく、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの方法を用いることができる。延伸温度は好ましくは(Tg−30)℃〜(Tg+30)℃の範囲であり、より好ましくは(Tg−10)℃〜(Tg+20)℃の範囲である。延伸温度が高すぎると十分な位相差が得られないことがあり、低すぎるとフィルム破れが生じ好ましくない。延伸倍率は、特に限定はなく目的とした位相差に応じて決めることができる。延伸速度には特に限定はないが、50〜10000%/分が好ましい。延伸速度が遅すぎると、十分な位相差が得られないことや生産性が低くなり、早過ぎるとフィルム破れが生じ好ましくない。
【0119】
第1の発明の樹脂をフィルムに成形し、上述のとおり延伸した後のフィルム厚み、および第2の発明のフィルムの厚みは1〜300μmであることが好ましい。より好ましくは7〜150μmであり、さらに好ましくは10〜80μmである。1μm未満の場合はフィルムのハンドリングが困難になることがあり、300μmを超える場合は光線透過率が低くなることがあり、また本発明の位相差フィルムを用いた液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくない。
【0120】
本発明の樹脂は、溶融粘度が低く、環境負荷が小さく、流動性および成形性に優れており、例えば上記製膜方法または/および延伸方法を用い、フィルムとして用いることができる。また、本発明のフィルムは、波長分散性、耐熱性、Cσ、位相差発現性に優れているので、位相差フィルムとして用いることができ、より好ましい用途は偏光板と組み合わせ円偏光版として利用できる1/4波長位相差フィルムとして用いることである。目的の位相差と波長分散性を得る方法としては、上記延伸方法を用いることができる。
【0121】
本発明の樹脂または/およびフィルムは、位相差フィルムまたは/および表示装置に用いることができる。例えば、反射型および半透過型液晶ディスプレイにおいて、視野角補償、色補償、直線偏光の円偏光への変換などの用途に用いることができる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0123】
なお、物性の測定は次の方法に従って行った。
【0124】
(1)溶融粘度
JIS−K7210−1976(参考試験)に準処して測定した。測定には、下記測定器、および条件にて行った。
【0125】
装置:フローテスター CFT−500(島津製作所製)
ダイの長さ:10mm
ダイの内径:1.0mm
予熱時間:5分
温度:270℃
荷重:10kgf、50kgfおよび100kgf
サンプル:5mm角に裁断したフィルム、またはチップ、または粉末状の樹脂。
【0126】
サンプル調整:10−3Pa−1以下に減圧した真空乾燥機を用いて、100℃、24時間の乾燥を行った。
【0127】
測定結果:各荷重、3回測定を行った。せん断速度をx、溶融粘度をyとする。Y=lny、X=lnx、A=lnaとし、最小二乗法を用いて直線Y=AX+bを求めた。さらに、求めたAよりaを導き、累乗近似式y=axを用いて、せん断速度が100s−1の際の溶融粘度を算出した。
【0128】
(2)波長分散、複屈折
下記測定器を用いて測定した。
【0129】
装置:自動複屈折計 KOBRA−21ADH/DSP (王子計測機器製)
サンプルホルダー:ADH−05−5(0.5mm以下)、φ5mm
測定モード:波長分散特性測定
入射角:0°
吸収端波長:0nm
測定波長:480.4nm、548.3nm、628.2nm、752.7nm
サンプル:1〜200μmのいずれかの厚みのフィルム。
サンプルの厚み:フィルム厚みは5点測定し、その平均値を有効数字3桁で算出した。
【0130】
測定結果:波長λ(nm)の時の位相差をR(λ)(nm)と記載した。各サンプル5回測定を行い、その平均値を有効数字3桁で算出し、波長分散とΔNを導いた。
【0131】
波長分散:R(628.2)/R(548.3)、R(480.4)/R(548.3)より算出した。
【0132】
ΔN:R(548.3)(nm)/(フィルム厚み)(nm)より算出した。
【0133】
(3)全光線透過率、ヘイズ
JIS−K7105−1981に準拠した光学条件にて、下記測定器を用いて測定した。
【0134】
装置:直読ヘーズメーターHGM−2DP(C光源用) (スガ試験機社製)
光源:ハロゲンランプ12V、50W
受光特性:395〜745nm
サンプル:1〜200μmのいずれかの厚みのフィルム
測定結果:5枚のフィルムを測定し、その平均値を有効数字2桁で算出した。
【0135】
(4)光弾性係数
下記測定器および測定方法にて測定した。
【0136】
装置:セルギャップ検査装置 RETS−1200(大塚電子株式会社製)
サンプル:1〜200μmのいずれかの厚みのフィルムに成形した樹脂、または1〜200μmのいずれかの厚みのフィルム
サンプルサイズ:20mm×50mm
サンプル厚み:フィルム厚みは5点測定し、その平均値を有効数字3桁で算出しd(nm)とした。
【0137】
測定スポット径:φ5mm
光源:589nm
測定方法:サンプルの厚みをd(nm)とし、長手方向の両端を冶具で挟み、長手方向に9.8×10Paの応力σ(Pa−1)をかけた。この状態で、位相差R(nm)を測定した。
測定結果:張力をかける前の位相差をR、かけた後の位相差をRとした。
光弾性係数(Cσ):Cσ=(R―R)/(σ×d)より、光弾性係数(Cσ)(Pa−1)を計算した。5枚のフィルムを測定し、その平均値を有効数字2桁で算出した。
【0138】
(5)ガラス転移温度
測定には、下記測定器および条件にて行った。
【0139】
装置:示差走査熱量計 DSC−7型(Perkin Elmer社製)
測定条件:窒素雰囲気下
測定範囲:25〜300℃
昇温速度:20℃/分
サンプル:チップ状の樹脂またはフィルム
サンプル量:5mg
測定結果:JIS−K7121−1987の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に準処して、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸補講に等距離にある直線と、ガラス単位の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。測定は5回行い、その平均値を有効数字3桁で算出した。
【0140】
[実施例1]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル102質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を17質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0141】
二酸化ゲルマニウムを0.04質量部添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧しエチレングリコールを留出させた。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、撹拌トルクが0.2N・mとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出した。吐出された樹脂は水槽で急冷後、カッターでチップとした。
【0142】
得られた樹脂のチップを減圧乾燥した後、次のようなホットプレス法を用いて製膜した。金属板の上にポリイミドフィルムを重ね、そのポリイミドフィルム上に内側の枠が8cm四方である金属の枠を重ねた。金属の枠内の中央部にチップ3.5gを乗せた。さらにポリイミドフィルムと金属板を重ね、270℃で2分間予熱の後、10kgf/cmの圧力で10秒間プレスした。
【0143】
プレス終了後、フィルムを挟んだ金属板を水につけてフィルムを冷却固化し、金属枠からフィルムを切り出した。さらに切り出したフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、135℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.6倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0144】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0145】
[実施例2]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル115質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン154質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を9質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0146】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、130℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0147】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0148】
[実施例3]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル115質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン110質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を9質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0149】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、120℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.6倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0150】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0151】
[実施例4]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル90質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン154質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を26質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0152】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、125℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0153】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0154】
[実施例5]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル127質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0155】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、140℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.8倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0156】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0157】
[実施例6]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル102質量部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル20質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0158】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、135℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0159】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0160】
[実施例7]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル76質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6―テトラヒドロフタル酸を34質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0161】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、130℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.7倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0162】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0163】
[実施例8]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル102質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン198質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6―テトラヒドロフタル酸を17質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0164】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、145℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、3.1倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0165】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0166】
[実施例9]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル127質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン88質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0167】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、135℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0168】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0169】
[実施例10]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル64質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6―テトラヒドロフタル酸を43質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0170】
その後は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のチップとフィルムを得たのち、110℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0171】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0172】
[実施例11]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル102質量部、テレフタル酸ジメチル20質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0173】
その後は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のチップとフィルムを得たのち、150℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、3倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0174】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0175】
[実施例12]
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル90質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を9質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0176】
その後は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のチップとフィルムを得たのち、110℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.3倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表3〜5に示した。
【0177】
[実施例13]
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル90質量部、2,3-ブタンジオール36質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.06質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を9質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.0195質量部加え、水を蒸発させた。
【0178】
ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC400をTi原子としてポリマー質量に対して0.005質量部となるよう添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧した。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、撹拌トルクが0.2N・mとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出した。吐出された樹脂は水槽で急冷後、カッターでチップとした。
【0179】
その後は実施例1と同様にしてフィルムを得たのち、115℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、3.1倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0180】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表3〜5に示した。
【0181】
[実施例14]
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル90質量部、1,3-プロパンジオール32質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.06質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を9質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.0195質量部加え、水を蒸発させた。
【0182】
ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC400をTi原子としてポリマー質量に対してを0.005質量部となるよう添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧した。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、撹拌トルクが0.2N・mとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出した。吐出された樹脂は水槽で急冷後、カッターでチップとした。
【0183】
その後は実施例1と同様にしてフィルムを得たのち、110℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.9倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0184】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表3〜5に示した。
【0185】
[実施例15]
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル90質量部、2,2‐ジメチル‐1,3−プロパンジオール42質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.06質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を9質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.0195質量部加え、水を蒸発させた。
【0186】
ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC400をTi原子としてポリマー質量に対して0.005質量部となるよう添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧した。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、撹拌トルクが0.2N・mとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出した。吐出された樹脂は水槽で急冷後、カッターでチップとした。
【0187】
その後は実施例1と同様にしてフィルムを得たのち、115℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.9倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0188】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表3〜5に示した。
[実施例16]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル76質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6―テトラヒドロフタル酸を34質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0189】
その後は実施例1と同様にして樹脂のチップとフィルムを得たのち、110℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、1.9倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0190】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表3〜5に示した。
【0191】
[実施例17]
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル76質量部、2,3−ブタンジオール36質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒としてテトラ−n−ブトキシチタンを0.06質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis-1,2,3,6‐テトラヒドロフタル酸を34質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.097質量部加え、水を蒸発させた。
【0192】
ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC400をTi原子としてポリマー質量に対して0.01質量部となるよう添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧した。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、撹拌トルクが0.2N・mとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出した。吐出された樹脂は水槽で急冷後、カッターでチップとした。
【0193】
その後は実施例1と同様にしてフィルムを得たのち、115℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.0倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0194】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表3〜5に示した。
【0195】
[比較例1]
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み、これにビスフェノールAと9,9−ビス(4−(3―メチルフェニル))フルオレンを50:50(モル%)の比率で溶解させ、少量のハイドロサルファイトを加えた。次に塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p−tert−ブチルフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間撹拌して反応を終了させた。反応終了後有機相を分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得た。
【0196】
この共重合体とメルク社製のシアノビフェニル系混合液晶「BL007」をそれぞれ、96:4(質量部)の比率でメチレンクロライドに溶解させ、溶液を作製した。この溶液からキャストフィルムを作製した。さらにフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、220℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、1.9倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0197】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0198】
[比較例2]
和光純薬工業(株)製の極限粘度[η]=1.335、アセチル化度2.917のセルローストリアセテート100質量部を塩化メチレン50質量部に溶解させた。これに96%酢酸水溶液1000質量部を加え、減圧により塩化メチレンを除去しながら、70℃で100分間、酢酸と水による酢酸セルロースの加水分解を行った。反応物を過剰の水により、沈殿、洗浄し、乾燥することにより、アセチル化度2.661のセルロースアセテートを得た。
【0199】
このポリマーを用い、実施例1と同様にしてフィルムの作製を試みたが、ポリマーが熱分解したため作製できなかった。
【0200】
そこで、このポリマー100質量部及び可塑剤であるフタル酸ジブチル3質量部を塩化メチレン/メタノール(質量比9/1)混合溶液700質量部に溶解させた。この溶液からキャストフィルムを作製した。さらにフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、145℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、1.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0201】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。フィルムの熱分解により、溶融粘度は測定できなかった。
【0202】
[比較例3]
テレフタル酸ジメチル97質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン88質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。
【0203】
その後は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のチップとフィルムを得たのち、140℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0204】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、全光線透過率、ヘイズ、一軸延伸後のフィルムの溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1、表2に示した。
【0205】
また、実施例1〜5、7〜10得られた樹脂の各構成単位のモル分率を図1のグラフに示した。
【0206】
【表1】

【0207】
【表2】

【0208】
【表3】

【0209】
【表4】

【0210】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明の樹脂およびフィルムは、光弾性係数が小さく、耐熱性に優れ、薄膜化を可能にする位相差発現性を十分に有することから、位相差フィルムとして、また特に反射型および半透過型液晶ディスプレイなどの表示装置における視野角補償、色補償、直線偏光の円偏光への変換などの用途として、有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】実施例および比較例で得られた樹脂の各構成単位のモル分率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)および(ii)を満足する樹脂。
(i)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(ii)厚み200μmのフィルムに成形して、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)
【請求項2】
厚み200μmのフィルムに成形して、次式(C)および(D)を満足する請求項1に記載の樹脂。
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.20・・・(C)
0.82 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.92・・・(D)
【請求項3】
光弾性係数が−30×10−12 Pa−1以上、30×10−12 Pa−1以下である請求項1または2に記載の樹脂。
【請求項4】
ガラス転移温度が120℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂。
【請求項5】
厚み200μmのフィルムに成形して、波長548.3nmにおける複屈折をΔNとしたとき、ΔNが1.5×10−3以上、20×10−3以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂。
【請求項6】
樹脂がポリエステル樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂。
【請求項7】
樹脂を構成するジオール単位として、下記化学式(1)で表される構造単位を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂。
【化1】

ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜4のアルキレン基であり、pは0〜3の整数を示す。R、Rは同一または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、q、rは0〜4の整数を示す。
【請求項8】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含む請求項7に記載の樹脂。
ただし、式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項9】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、下記化学式(2)で表される構造単位を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂。
【化2】

ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、mは0〜4の整数を示す。
【請求項10】
樹脂を構成するジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含む請求項9に記載の樹脂。
ただし、式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項11】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、下記化学式(3)で表される構造単位を含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂。
【化3】

ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜6の整数を示す。
【請求項12】
樹脂を構成するジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含む請求項11に記載の樹脂。
ただし、式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項13】
樹脂が、上記化学式(1)〜(3)、下記化学式(4)で表される構造単位を含み、化学式(1)〜(4)のモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、次式(E)〜(G)を満たしている請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂。
【化4】

ただし、式中のR6は炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
80 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(E)
−0.6c + 45 < a < −0.5c + 65・・・(F)
0.5c + 25 > a・・・(G)
【請求項14】
樹脂を構成するジオール単位として、化学式(5)で表される構造単位を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂。
【化5】

ただし、式中のRは側鎖に炭素数1〜10のアルキル基を1つ以上含む。
【請求項15】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含む請求項14に記載の樹脂。
ただし、式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項16】
下記(iii)および(iv)を満足するフィルム。
(iii)温度が270℃、せん断速度100s−1における溶融粘度が10Pa・s以上、1000Pa・s以下であること、
(iv)波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、下式(A)および(B)を満足すること。
1.00 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 2.00・・・(A)
0.05 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.00・・・(B)
【請求項17】
次式(C)および(D)を満足する請求項16に記載のフィルム。
1.10 ≦ R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 1.20・・・(C)
0.82 ≦ R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) ≦ 0.92・・・(D)
【請求項18】
全光線透過率が85%以上、100%以下である請求項16または17に記載のフィルム。
【請求項19】
ヘイズが0.0%以上、2.5%以下である請求項16〜18のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項20】
光弾性係数が−30×10−12 Pa−1以上、30×10−12 Pa−1以下である請求項16〜19のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項21】
ガラス転移温度が120℃以上である請求項16〜20のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項22】
波長548.3nmにおける複屈折をΔNとしたとき、ΔNが1.5×10−3以上、20×10−3以下である請求項16〜21のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項23】
ポリエステル樹脂からなる請求項16〜22のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項24】
樹脂を構成するジオール単位として、下記化学式(1)で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項16〜23のいずれか1項に記載のフィルム。
【化6】

ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜4のアルキレン基であり、pは0〜3の整数を示す。R、Rは同一または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、q、rは0〜4の整数を示す。
【請求項25】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項24に記載のフィルム。
ただし、式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項26】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、下記化学式(2)で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項16〜25のいずれか1項に記載のフィルム。
【化7】

ただし、式中のRは同一または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、mは0〜4の整数を示す。
【請求項27】
樹脂を構成するジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項26に記載のフィルム。
ただし、式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項28】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、下記化学式(3)で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項16〜27のいずれか1項に記載のフィルム。
【化8】

ただし、式中のRは同一、または異なる炭素数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜6の整数を示す。
【請求項29】
樹脂を構成するジオール単位として、[−O−Y−O−]で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項28に記載のフィルム。
ただし、式中のYは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項30】
上記化学式(1)〜(3)、下記化学式(4)で表される構造単位を含み、化学式(1)〜(4)のモル分率(%)をそれぞれa〜dとしたとき、次式(E)〜(G)を満たしている樹脂からなる請求項16〜29のいずれか1項に記載のフィルム。
【化9】

ただし、式中のR6は炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
80 ≦ a + b + c + d ≦ 100・・・(E)
−0.6c + 45 < a < −0.5c + 65・・・(F)
0.5c + 25 > a・・・(G)
【請求項31】
樹脂を構成するジオール単位として、化学式(5)で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項16〜30のいずれか1項に記載のフィルム。
【化10】

ただし、式中のRは側鎖に炭素数1〜10のアルキル基を1つ以上含む。
【請求項32】
樹脂を構成するジカルボン酸単位として、[−OC−X−CO−]で表される構造単位を含む樹脂からなる請求項31に記載のフィルム。
ただし、式中のXは、炭素数1〜50のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基を示す。
【請求項33】
請求項1〜32のいずれか1項に記載の樹脂またはフィルムからなる位相差フィルム。
【請求項34】
請求項33に記載の位相差フィルムを用いた表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−13747(P2008−13747A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76057(P2007−76057)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】