説明

樹脂タンク溶着部材

【課題】従来の低透過性樹脂より更に低透過性を有するポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の単層材で樹脂タンク溶着部材を成形することにより、従来の規制より更に厳しい規制をクリアでき、その生産コストを低減できる樹脂タンク溶着部材を提供すること。
【解決手段】燃料透過防止機能を有する樹脂タンクとの溶着部材、例えば、パイプ継手、燃料流出防止弁ORVR弁等の燃料制御弁、ポンプ、濾過器等であって、該溶着部材は、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の単層材で成形される樹脂タンク溶着部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、燃料タンク等の樹脂タンクとの取り付けを確実に行うとともに、燃料タンク内の燃料透過等の流出がない樹脂タンク溶着部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料タンク、特に自動車用の燃料タンクは、走行中及び停車中にかかわらず炭化水素ガス等からなる蒸発燃料の外部への放出を抑えるための気密性に関する要求が厳しくなっており、燃料タンクは勿論のこと、燃料タンクに直接乃至間接的に取り付けられる各部品、即ち、例えばパイプ継手、燃料制御弁、ポンプ、或いは濾過器等自体、或いはそれらとの取り付け箇所からの燃料の漏洩を低減することが喫緊の課題として強く求められている。
【0003】
また、自動車は、軽量化ならびに低コスト化の要求も厳しくなっており、燃料タンクもプラスティック化が図られ、現在では、防錆ならびに軽量化等で優れた高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂からなるタンクが主流になっている。燃料タンクに直接乃至間接的に取り付けられる各部品もそれに合わせて樹脂化が図られ、燃料タンクとの取り付けを容易にするために、各部品の燃料タンクとの取り付け部には、燃料タンクと同じ材質の樹脂が用いられ、両者を熱溶着して接合する手段が採用されるようになっている。
【0004】
このような現状を踏まえ、燃料タンクならびに燃料タンクに取り付けられる各部品として以下に述べるようなものが知られている。
【0005】
即ち、燃料タンクは、軽量化等の要請で樹脂を用いて一体成形されるところ、その成形には、低価格で耐衝撃性に優れた高密度ポリエチレン樹脂が用いられる。ところが、高密度ポリエチレン樹脂は、僅かではあるが、炭化水素ガスを透過することが知られており、そのような弊害をなくすものとして図7に示すような燃料タンク壁の積層構造が提案されている。
【0006】
この燃料タンク1は、基本的にはタンクの内側部分を構成するインナシェル2と、タンクの外側部分を構成するアウタシェル3と、両シェル2、3間に介在される炭化水素ガスの透過を防止するバリア層4の積層構造からなる。なお、両シェル2、3とバリア層4との間にはそれぞれ接着層を有している。
【0007】
具体的には、前記インナシェル2及びアウタシェル3は、従来の高密度ポリエチレン樹脂を用い、前記接着層は、高密度ポリエチレン樹脂を高機能化し、接着性を有する変性高密度ポリエチレン樹脂(接着性を有するが、炭化水素ガスは透過する。)を用い、前記バリア層4は、炭化水素ガスの透過を防止する樹脂、例えば、株式会社クラレ製のEVOH樹脂(エバール)等が用いられる。このように燃料タンクでは、燃料透過対策はほぼ完璧に行われているといえる。
【0008】
ところで、燃料タンク1に取り付けられる樹脂タンク溶着部材として図6に示すパイプ継手5が知られている。このパイプ継手5は、本体6と筒部7とを有し、本体6は、下方に開口するカップ状を呈する高密度ポリエチレン樹脂で、その底部には筒状の溶着部8を有し、該溶着部8は、樹脂タンク1の上壁に設けられる開口9の上部外周面に溶着される。また、筒部7は、本体6の上方側面に本体6と一体形成される円筒状のポリアミド樹脂で、その先端には、ホースが圧入され、図示しないキャニスターに連通され、燃料タンク1内の蒸発燃料を該キャニスターに吸着させる。
【0009】
上記パイプ継手5の管壁は、透過性の低いポリアミド(PA)樹脂からなる内周層10、及び燃料タンク1への溶着性と内周層10のポリアミド樹脂との接着性に優れる変性高密度ポリエチレン樹脂からなる外周層11により形成されている。そして内周層10及び外周層11は、まず型に変性高密度ポリエチレン樹脂を流し込み外周層11を成形し、続いて外周層11の内側にポリアミド(PA)樹脂を流し込んで内周層10を成形している。即ち、パイプ継手5は、二色成形により製造される(特許文献1参照)。
【0010】
ところで、従来の透過性の低いポリアミド(PA)樹脂は、燃料ガスの大気への放出を防止することができるが、完全に防止できるものではなく、例えば、米国で既に施行されれている「P−ZEV」規制をクリアするためには必ずしも十分といえるものではなかった。
【0011】
即ち、従来の樹脂成分は、芳香族ポリマーを含んだポリアミドとポリオレフィンの複合樹脂組成物を用いる方法(特許文献2)や、ポリアミド樹脂とポリフェニレンスルフィド樹脂の複合樹脂組成物を用いる方法(特許文献3)が示されている。しかし、これらは高価な樹脂組成物を用いたり、成形体中に帯状分散層を設けさせるため、金型設計に制約があるなどの問題点があった。さらには、ポリアミド樹脂にポリオレフィン樹脂と層状ケイ酸塩を配合させた樹脂を用いる方法(特許文献4)が示されているが、ポリオレフィン層を連続層にしている点が、本願と異なり、ガス透過性には優れるが燃料タンク部材との熱溶着性に劣るなどの問題がある。
【0012】
また、層状ケイ酸塩を用いた樹脂組成物では、ポリアミド100質量部にpKaが0〜6の酸と共存させた状態でポリアミド樹脂を重合し、さらにポリオレフィン等を混合した組成物(特許文献5)や、ポリアミド樹脂に膨潤性合成フッ素雲母を均一に分散させた樹脂と超高分子量ポリオレフィンを混合した樹脂組成物(特許文献6)や、高い酸素ガスバリアー性を達成するため、膨潤性フッ素雲母系鉱物が分子レベルで分散された樹脂組成物とポリオレフィン類との混合物(特許文献7)が提案されているが、いずれも、ポリアミド樹脂のアミノ末端基濃度やポリオレフィン類の無水マレイン酸量を、燃料タンクに溶着させる部品に適した量にコントロールしておらず、得られたポリオレフィン類との混合物では、ガス透過性とポリオレフィン樹脂との溶着強度の両立に問題があった。
【0013】
それとともに、従来のものは、透過性の低いポリアミド樹脂は燃料タンク1の溶着部8近傍までしか設けられておらず、以下のような燃料の漏出があった。即ち、図7で示すように、丸1及び丸7で示す蒸発燃料は、それぞれ内周層10及びバリア層4により遮蔽され外部への放出はほとんどなくなるが、丸3での流れは、丸5の流れのように低透過性でない外周層11より外部に放出されるとともに、丸6の流れのようにやはり低透過性ではないアウタシェル3より外部に放出されており、外部への漏出を少しでも低減する対策が強く求められていた。
【0014】
さらに、上記従来のものは、外周層11の内側に内周層10を流し込む二色成形であったため、成形工数が多くなりそれだけ生産コストが高騰するという弊害を有していた。それとともに、二色成形であるため、その形状はある程度限られ、形状の自由度に制約が生じるという弊害をも有していた。
【特許文献1】特開2004−11419号公報
【特許文献2】特開2005-298639号公報
【特許文献3】特開2002−284991号公報
【特許文献4】特開2001−302910号公報
【特許文献5】特許第3409921号公報
【特許文献6】特開平10−279792号公報
【特許文献7】特開2001−98147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明の目的は、従来の低透過性樹脂より更に低透過性を有するポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の単層材で樹脂タンク溶着部材を成形することにより、従来の規制より更に厳しい規制をクリアでき、その生産コストを低減できる樹脂タンク溶着部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本願発明は、以下のような構成を採用してなる。
【0017】
請求項1に係る発明においては、燃料透過防止機能を有する樹脂タンクとの溶着部材であって、該溶着部材は、ポリアミド樹脂100質量部に対して2〜20質量部の膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されてなるポリアミド樹脂組成物であって、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件下で測定した際の相対粘度が2.0以上であり、かつ、アミノ末端基量が0.07mmol/g以下であるポリアミド樹脂組成物(A)と、密度が0.92g/cm以上のポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0〜4.0質量部以下の酸無水物等で変性されたポリオレフィン系樹脂組成物(B)からなるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物であって、(A)で示されるポリアミド樹脂組成物100質量部と、(B)で示されるポリオレフィン系樹脂組成物50〜150質量部から得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の単層材で成形される構成。そしてこのような構成により、燃料タンクとの溶着部を含め樹脂タンク溶着部材からの燃料の透過がより低減し、且つ樹脂タンク溶着部材の生産コストが低減する。
【0018】
請求項2に係る発明においては、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物中に、ポリオレフィン系樹脂(B)が島構造を有する構成。そしてこのような構成により、請求項1に係る発明と同様に、燃料タンクとの溶着部を含め樹脂タンク溶着部材からの燃料の透過がより低減し、且つ樹脂タンク溶着部材の生産コストが低減する。
【0019】
請求項3に係る発明においては、前記樹脂タンク溶着部材は、弁部材を有するケースとで燃料制御弁を形成する構成。そしてこのような構成により、請求項1または2に係る発明の作用に加え、燃料制御弁においても燃料の透過が低減し、且つ樹脂タンク溶着部材の生産コストが低減する。
【0020】
請求項4に係る発明においては、前記ケースは、前記樹脂タンク溶着部材と前記樹脂タンクとの溶着部の内側で前記樹脂タンク溶着部材に溶着される構成。そしてこのような構成により、請求項3に係る発明の作用に加え、ケースからの燃料の透過がなくなるとともに、樹脂タンク溶着部材とケースとの接合が容易になる。
【0021】
請求項5に係る発明においては、前記ケースは、前記樹脂タンク溶着部材と前記樹脂タンクとの溶着部の内側で前記樹脂タンク溶着部材にスナップフィット(或いは無理ばめともいう。)により取り付けられる構成。そしてこのような構成により、請求項3に係る発明の作用に加え、ケースからの燃料の透過がなくなるとともに、樹脂タンク溶着部材とケースとの接合が容易になる。
【0022】
請求項6に係る発明においては、前記樹脂タンクは、少なくとも外側に位置するアウタシェルと該アウタシェルの内側に位置する燃料透過防止層を有する積層構造からなる構成。そしてこのような構成により、請求項1ないし5のいずれか一に係る発明の作用に加え、燃料タンク系統からの燃料の透過がなくなる。
【0023】
請求項7に係る発明においては、前記樹脂タンク溶着部材の溶着部の長さ(或いは高さ)は、前記アウタシェルの厚さより大きい構成。樹脂タンク溶着部材の溶着部と樹脂タンクとの溶着は、両部材の溶着箇所を加熱し、両部材を圧着することにより行われる。その場合、例えば、樹脂タンク側の加熱温度を高くすることにより、樹脂タンク溶着部材の溶着部は樹脂タンクのアウタシェル内に深く圧入することができるようになる。即ち、上記構成により、樹脂タンク溶着部材の溶着部の先端は、樹脂タンクのバリア層近傍まで圧入することができ、請求項1ないし6のいずれか一に係る発明の作用に加え、図7で示す丸6のような外部への放出が低減する。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明においては、燃料透過防止機能を有する樹脂タンクとの溶着部材を、ポリアミド樹脂100質量部に対して2〜20質量部の膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されてなるポリアミド樹脂組成物であって、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件下で測定した際の相対粘度が2.0以上であり、かつ、アミノ末端基量が0.07mmol/g以下であるポリアミド樹脂組成物(A)と、密度が0.92g/cm以上のポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0〜4.0質量部以下の酸無水物等で変性されたポリオレフィン系樹脂組成物(B)からなるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物であって、(A)で示されるポリアミド樹脂組成物100質量部と、(B)で示されるポリオレフィン系樹脂組成物50〜150質量部から得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の単層材で成形することにより、燃料タンクとの溶着部は勿論のこと、その他の部分からの燃料の透過を従来のもの以上に低減することができ、より厳しい規制にも対応することができる。また、樹脂タンク溶着部材は、単層で成形するため生産コストを低減することができる。更に、単層で成形するため樹脂タンク溶着部材の形状の自由度を高めることができる。
【0025】
請求項2に係る発明においては、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物中に、ポリオレフィン系樹脂(B)が島構造を有することにより、請求項1に係る発明と同様に、燃料タンクとの溶着部は勿論のこと、その他の部分からの燃料の透過を従来のもの以上に低減することができ、より厳しい規制にも対応することができる。また、樹脂タンク溶着部材は、単層で成形するため生産コストを低減することができる。更に、単層で成形するため樹脂タンク溶着部材の形状の自由度を高めることができる。
【0026】
請求項3に係る発明においては、樹脂タンク溶着部材を燃料制御弁の一部品として形成することにより、燃料制御弁においても請求項1または2に係る発明の効果と同様な効果を奏することができる。
【0027】
請求項4に係る発明においては、ケースを、樹脂タンク溶着部材と樹脂タンクとの溶着部の内側で樹脂タンク溶着部材に溶着することにより、ケースを燃料透過防止機能を有する部材で包囲する形態で配置することになり、燃料制御弁においても請求項3に係る発明の効果と同様な効果を奏することができる。また、ケースは、樹脂タンク溶着部材と樹脂タンクとの溶着部の内側なら樹脂タンク溶着部材の底部のどこでもよいため、取り付けの自由度を高め且つ取り付けを容易にすることができる。
【0028】
請求項5に係る発明においては、ケースを、樹脂タンク溶着部材と樹脂タンクとの溶着部の内側で樹脂タンク溶着部材にスナップフィット(或いは無理ばめともいう。)により取り付けることにより、ケースを燃料透過防止機能を有する部材で包囲する形態で配置することになり、燃料制御弁においても請求項3に係る発明の効果と同様な効果を奏することができる。また、ケースは、樹脂タンク溶着部材と樹脂タンクとの溶着部の内側なら樹脂タンク溶着部材の底部のどこでもよいため、取り付けの自由度を高め且つ取り付けを容易にすることができる。
【0029】
請求項6に係る発明においては、樹脂タンクを、少なくとも外側に位置するアウタシェルと該アウタシェルの内側に位置する燃料透過防止層を有する積層構造にすることにより、請求項1ないし5のいずれか一に係る発明の効果に加え、燃料タンク系統からの燃料の透過を低減することができる。
【0030】
請求項7に係る発明においては、樹脂タンク溶着部材の溶着部の長さ(或いは高さ)をアウタシェルの厚さより大きくすることにより、樹脂タンク溶着部材の溶着部の先端と樹脂タンクのバリア層との間の隙間を短くすることができるため、樹脂タンクのアウタシェルより図7で示す丸6のような外部への燃料の放出量を低減することができる。
【実施例】
【0031】
図1ないし図3は、樹脂タンク溶着部材等であり、図1は、燃料透過防止機能を有する樹脂タンクである燃料タンクに樹脂タンク溶着部材を取り付けた状態を示す断面図を示し、図2は、図1の四角で囲ったA部の拡大図を示し、図3は、樹脂タンクである燃料タンクの一部拡大断面図を示す。
【0032】
本願発明の樹脂タンクは、燃料を入れるタンクであればどのようなものでもよく、以下においては燃料タンクとして説明する。また、樹脂タンク溶着部材は、樹脂タンクに取り付けられるものであればどのようなものでもよく、例えば、パイプ継手、燃料流出防止弁ORVR弁等の燃料制御弁、ポンプ、濾過器等であってもよく、パイプ継手であればパイプ部及び燃料タンクとの取付部全体を含み、燃料制御弁、ポンプ、濾過器等であればそれらを収納するケースを含む。
【0033】
図1はパイプ継手の例を示す。パイプ継手20は、本体部21及び筒部22を有し、後記する低透過性樹脂であるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物により形成される単層部材である。本体部21は、略カップの部分であり、その底部には燃料タンク30に溶着される環状の溶着部23が垂下する形態で設けられている。前記筒部22は、本体部21の上部に一体形成されるL字状の筒部分で、その一端は、本体部21の中空部に連通し、その他端の管端22aには、他の連結パイプが取り付けられる。そして、全体が組み立てられた後では、燃料タンク30内で発生する炭化水素ガス等からなる蒸発燃料は、パイプ継手20及び連結パイプを介して排出され、例えば図示しないキャニスタに吸着される。
【0034】
燃料タンク30は、内側部分となるインナシェル31と、外側部分となるアウタシェル32と、両シェル31、32間に配設される燃料の透過を防止する燃料透過防止層としてのバリア層33、及びインナシェル31とバリア層33間、並びにアウタシェル32とバリア層33間にそれぞれ介在される上部接着層34a及び下部接着層34bの5層構造からなる。なお、図2に示すように、本体部21底部の溶着部23の長さ(或いは高さ)Hは、燃料タンク30のアウタシェル32の厚さhよりも大きくされている。
【0035】
具体的には、前記インナシェル31及びアウタシェル32は、高密度ポリエチレン樹脂からなり、前記上部接着層34a及び下部接着層34bは、高密度ポリエチレン樹脂を高機能化した接着性を有する変性高密度ポリエチレン樹脂(接着性を有するが、炭化水素ガスは透過する。)からなり、前記バリア層33は、燃料の透過を防止する樹脂、例えば、株式会社クラレ製のEVOH樹脂(エバール)等からなる。その結果、燃料タンク30内の燃料が黒矢印丸5のように透過する場合、インナシェル31内は透過するが、バリア層33によって遮断されるため、黒矢印丸6のように外部に流出するものはほとんどなくなる。
【0036】
この燃料タンク30とパイプ継手20との熱溶着は例えば次のように行われる。即ち、燃料タンク30に設ける開口35を包囲する形態でパイプ継手20を載せ、燃料タンク30とパイプ継手20の溶着部23を近接させる。そして両部材30、23の溶着箇所に図示しない熱板を介在させ、両部材30、23の溶着箇所を加熱する。両部材30、23の溶着箇所が加熱し溶着可能になった時点で、前記熱板を取り去り、パイプ継手20を燃料タンク30に押し付け、両部材30、23を溶着結合する。この溶着結合は、熱板を用いるもの以外には、例えば、振動溶着或いは超音波溶着等を用いても良い。
【0037】
なお、溶着に際し、例えば、本体部21底部の溶着部23の加熱温度よりアウタシェル32の溶着箇所の温度を高温にする等により、溶着部23をアウタシェル32内により深く圧入することができる。即ち、この例では、上述したように、溶着部23の長さHは、燃料タンク30のアウタシェル32の厚さhよりも大きくされており、低透過性樹脂からなる溶着部23の先端を燃料タンク30のバリア層33近傍まで圧入することにより図2で丸4で示す燃料の透過をより低減することができる。
【0038】
本願発明は、このような溶着構造を採用することにより、図2に示すように、燃料タンク30の燃料が黒矢印丸5のように燃料タンク壁を介して流出しようとしても、バリア層33により遮蔽されるため丸6のように流出するものはほとんどなくなり、また、黒矢印丸1のようにパイプ継手20を介して流出しようとしても、パイプ継手20は後記するポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物により遮蔽されるため丸2のように流出するものもほとんどなくなる。
【0039】
また、パイプ継手20の溶着部23と燃料タンク30との溶着箇所においては、図7の従来のものでは、丸5で示すような流出があったが、この例のものでは、そのような流出はなくなる。しかしながら、黒矢印丸3及び丸4のように流出するものは依然として残るが、溶着部23の先端をアウタシェル32内により深く圧入することにより黒矢印丸4のように流出するものをより低減することができる。
【0040】
次に、樹脂タンク溶着部材を燃料制御弁である燃料流出防止弁の一部材として用いる例について述べる。図4は、樹脂タンク溶着部材であるキャップと、ケースとを溶着して形成した燃料流出防止弁の断面図を示し、図5は、樹脂タンク溶着部材であるキャップと、ケースとをスナップフィット(係止突起を係止溝に嵌合する固着手段であって、無理ばめとも呼ばれる。)により取り付けて形成した燃料流出防止弁の断面図である。
【0041】
燃料流出防止弁40は、キャップ41、ケース50及びフロート60等からなり、燃料タンク30の上壁面に取り付けられる。前記キャップ41は、樹脂タンク溶着部材であり、前記パイプ継手20に相当する部材である。キャップ41は、本体部42及び筒部43を有し、後記する低透過性樹脂であるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物により形成される単層部材である。本体部42は、略カップ状の部分であり、その底部には燃料タンク30に溶着される環状の第1溶着部44と、該第1溶着部44の内側で、且つ第1溶着部44より軸心方向の長さが長く、ケース50の上面に溶着される環状の第2溶着部45が垂下する形態で設けられている。
【0042】
筒部43は、本体部42の上部に一体形成されるL字状の筒部分で、その一端は、本体部42の中空部に連通し、その他端の管端43aには、他の連結パイプが取り付けられる。そして、全体が組み立てられた後では、燃料タンク30内で発生する炭化水素ガス等からなる蒸発燃料は、例えば図示しないキャニスタに吸着される。
【0043】
燃料タンク30は、既に説明したものと同じである。即ち、内側部分となるインナシェル31と、外側部分となるアウタシェル32と、両シェル31、32間に配設される燃料の透過を防止する燃料透過防止層としてのバリア層33、及びインナシェル31とバリア層33間、並びにアウタシェル32とバリア層33間にそれぞれ介在される上部接着層34a及び下部接着層34bの5層構造からなり、また、図4に示すように、本体部42底部の第1溶着部44の長さHは、燃料タンク30のアウタシェル32の厚さhよりも大きくされている。
【0044】
この燃料タンク30とキャップ41との熱溶着は例えば次のように行われる。即ち、燃料タンク30に設ける開口35を包囲する形態でキャップ41を載せ、燃料タンク30とキャップ41の第1溶着部44を近接させる。そして両部材30、44の溶着箇所に図示しない熱板を介在させ、両部材30、44の溶着箇所を加熱する。両部材30、44の溶着箇所が加熱し溶着可能になった時点で、前記熱板を取り去り、キャップ41を燃料タンク30に押し付け、両部材30、44を溶着結合する。この溶着結合は、熱板を用いるもの以外には、例えば、振動溶着或いは超音波溶着等を用いても良い。
【0045】
キャップ41の第2溶着部45には、ケース50が取り付けられる。このケース50は、燃料タンク30の開口35より小さい外径を有する下方が開放した樹脂製の筒状部材であり、上壁面の外周部には、環状突部51が設けられるとともに、中央部には、内底面に弁座54が形成される小径開口部52を有する。そして、環状突部51は、例えば上述した溶着手段によりキャップ41の第2溶着部45に溶着される。第2溶着部45は、第1溶着部44の内側に設けられるため、組立後ではケース50は、低透過性樹脂で包囲されることになり、低廉な樹脂での成形が可能になる。
【0046】
また、ケース50の底部には、大径開口部53が形成され、この大径開口部53を介してフロート60が収納され、その後、底板55が取り付けられる。底板55には同心円状に複数の連通口56が設けられ、取り付け後には燃料タンク30内の蒸発燃料は、この連通口56を介してケース50内に侵入する。また、底板55の外周端には、直角に折り曲げられ、且つその先端部に矩形状の係止孔58を有する複数本の係止突片57が設けられており、底板55をケース50の大径開口部53に係止突片57から押し込み、係止突片57先端部の係止孔58をケース50下方の外周面に形成される係止爪59にスナップフィット係合させることにより固定する。
【0047】
前記フロート60は、ケース50に底板55を取り付ける前に挿入され、更にフロート60の内底部と底板55の上面との間にはスプリング61が介在される。このスプリング61は、ケース50内に燃料が侵入した際のフロート60の上動を助ける。また、フロート60の上面中央には、円錐状の弁体62が形成される、この弁体62は、通常時では図4の右側の「フロート開弁時」のように、弁座54から離間しているが、例えば自動車が傾斜等してケース50内に燃料が侵入すると左側の「フロート閉弁時」のように、フロート60の上動により弁座54に当接し、燃料のキャップ41側への流出を防止する。
【0048】
この場合においても、燃料流出防止弁のキャップ41を後記する低透過性樹脂であるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物により形成することにより、従来の燃料流出防止弁に比べ燃料の外部への流出をより低減することができる。
【0049】
図5に同じ燃料流出防止弁ではあるが、キャップ41にケース50をスナップフィット係合させる例を示す。図4のものとの相違は、主としてキャップ41とケース50との取付箇所であるため、主として相違する箇所を説明する。
【0050】
即ち、図4のキャップ41の第2溶着部45に相当する箇所には、第2取付部70が形成される。第2取付部70は、第2溶着部45と同様の環状の突出部71と複数個の取付突片72からなる。取付突片72は、突出部71の底部外周端から垂下し、その先端部に矩形状の係止孔73を有する横断面円弧状の細長い矩形状の部分であり、複数個略等間隔に設けられるとともに、ケース50の外径より若干大きい位置になるように配置される。
【0051】
ケース50は、基本的には図4のものと同じであるが、環状突部51に相当する部分には、環状溝75が形成されるとともに、該環状溝75内には、Oリング76が嵌合される。また、ケース50の上方外周部には、前記取付突片72の先端部に形成される係止孔73に係合可能な複数個の係止爪74が設けられる。
【0052】
その取り付けは、次のように行われる。即ち、ケース50の環状溝75にOリング76を取り付け、ケース50をOリング76部分を先にして第2取付部70の取付突片72内に押し込み、ケース50の係止爪74を取付突片72の係止孔73にスナップフィット(或いは無理ばめ)係合させることにより固定する。
【0053】
この取り付けの場合、取付部には隙間が生じるため、例えば自動車が傾斜した際、燃料が隙間を通ってキャップ41の内部空間に出ようとするが、その間にはOリング76が介在するため、燃料はOリング76で遮蔽される。このように、図5のものにおいても図4のものと同様に、従来の燃料流出防止弁に比べ燃料の外部への漏出をより低減することができる。
【0054】
次に、樹脂タンク溶着部材の組成について以下に詳細に説明する。
【0055】
本発明は、耐燃料透過性に優れ、かつ、ポリオレフィン系樹脂組成物と溶着させた場合、溶着強度に優れ、しかもこれを燃料中に浸漬させた場合、溶着強度の低下が少ない樹脂組成物を提供することにある。具体的には、ポリアミド樹脂組成物(A)とポリオレフィン系樹脂組成物(B)から得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物と、他のポリオレフィン系樹脂組成物との溶着強度が15MPa以上であり、燃料浸漬後の溶着強度保持率が60%以上であり、燃料透過率が0.50mg・mm/cm・24h以下であることを、本特許では基準とした。なお、これらの測定方法等は後述する。
【0056】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されてなるポリアミド樹脂組成物(A)と、酸無水物等で変性されたポリオレフィン系樹脂組成物(B)から得られるポリアミド/ポリオレフィン樹脂組成物が、上記課題を解決し、高い生産性を有することを見出した。
【0057】
すなわち、本発明のポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対して2〜20質量%の膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されてなるポリアミド樹脂組成物であって、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件下で測定した際の相対粘度が2.0以上であり、かつ、アミノ末端基量が0.07mmol/g以下であるポリアミド樹脂組(A)と、密度が0.92g/cm以上のポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0〜4.0質量部以下の酸無水物等で変性されたポリオレフィン系樹脂組成物(B)からなるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物であって、(A)で示されるポリアミド樹脂組成物100質量部と、(B)で示されるポリオレフィン系樹脂組成物50〜150質量部から得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物である。
【0058】
ポリアミド樹脂組成物(A)とはポリアミド樹脂マトリックス中に膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されたものである。ここで珪酸塩層とは、膨潤性層状珪酸塩を構成する基本単位であり、膨潤性層状珪酸塩の層構造を崩すこと(以下、「劈開」という)によって得られる板状の無機結晶である。本発明における珪酸塩層とは、この珪酸塩層の一枚一枚、もしくは層間にポリアミド分子鎖が挿入されているが、その積層構造が完全には崩れていない状態を意味し、必ずしも一枚一枚にまで剥離されている必要はない。また分子レベルで分散されるとは、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層がポリアミド樹脂マトリックス中に分散する際に、それぞれが平均1nm以上の層間距離を保ち、互いに塊を形成することなく存在している状態をいう。ここで塊とは原料である膨潤性層状珪酸塩が全く劈開していない状態を指す。また層間距離とは前記珪酸塩層の重心間距離である。かかる状態は、ポリアミド複合材料の試験片について、例えば透過型電子顕微鏡観察を行うことにより確認することができる。
【0059】
本発明において用いる膨潤性層状珪酸塩は、珪酸塩を主成分とする負に帯電した結晶層とその層間に介在するイオン交換能を有するカチオンとからなる構造を有するものであり、後述する方法で求めた陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g以上であることが望ましい。この陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g未満のものでは、膨潤能が低いためにポリアミド複合材料の製造時に実質的に未劈開状態のままとなり、性能の向上が認められない。本発明においては陽イオン交換容量の値の上限に特に制限はなく、現実に調製可能な膨潤性層状珪酸塩の中から適当なものを選べばよい。
【0060】
かかる膨潤性層状珪酸塩としては、天然に産出するものでも人工的に合成あるいは変成されたものでもよく、例えばスメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、ソーコナイト等)、バーミキュライト族(バーミキュライト等)、雲母族(フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、レピドライト等)、脆雲母族(マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等)、緑泥石族(ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモナイト、ニマイト等)が挙げられるが、本発明においてはNa型あるいはLi型膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが特に好適に用いられる。
【0061】
本発明において好適に用いられる膨潤性フッ素雲母は一般的に次式で示される構造式を有するものである。
α(MgLiβ)Siα
(式中で、Mはイオン交換性のカチオンを表し、具体的にはナトリウムやリチウムが挙げられる。また、α、β、X、YおよびZはそれぞれ係数を表し、0≦α≦0.5、0≦β≦0.5、2.5≦X≦3、10≦Y≦11、1.0≦Z≦2.0、である)
このような膨潤性フッ素雲母の製造法としては、例えば酸化珪素、酸化マグネシウムおよび各種フッ化物とを混合し、その混合物を電気炉あるいはガス炉中で1400〜1500℃の温度範囲で完全に溶融し、その冷却過程で反応容器内に膨潤性フッ素雲母の結晶成長させる溶融法が挙げられる。
【0062】
一方、タルク〔MgSi10(OH)〕を出発物質として用い、これにアルカリ金属イオンをインターカレーションして膨潤性を付与し、膨潤性フッ素雲母を得る方法もある(特開平2−149415号公報)。この方法では、所定の配合比で混合したタルクと珪フッ化アルカリを、磁性ルツボ内で700〜1200℃の温度下に短時間加熱処理することによって、膨潤性フッ素雲母を得ることができる。
【0063】
この際、タルクと混合する珪フッ化アルカリの量は、混合物全体の10〜35質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲をはずれる場合には膨潤性フッ素雲母の生成収率が低下する傾向にある。
【0064】
本発明に用いるモンモリロナイトは次式で表されるもので、天然に産出するものを水ひ処理等を用いて、精製することにより得ることができる。
Si(Al2−aMg)O10(OH)・nH
(式中で、Mはナトリウム等のカチオンを表し、0.25≦a≦0.6である。また層間のイオン交換性カチオンと結合している水分子の数はカチオン種や湿度等の条件によって様々に変わりうるので、式中ではnHOで表した)
またモンモリロナイトにはマグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト等の同型イオン置換体の存在が知られており、これらを用いてもよい。
【0065】
本発明においては上記した膨潤性層状珪酸塩の初期粒子径について特に制限はない。ここで初期粒子径とは本発明において用いるポリアミド樹脂組成物(A)を製造するに当たって用いる原料としての膨潤性層状珪酸塩の粒子径であり、複合材料中の珪酸塩層の大きさとは異なるものである。しかしこの粒子径もまた得られたポリアミド複合材料の物性、特に剛性や耐熱性に少なからず影響を及ぼす。従って、上記した膨潤性層状珪酸塩の混合比率を選択するに当たってはこの点も考慮するのが望ましく、必要に応じてジェットミル等で粉砕して粒子径をコントロールすることは好ましい。
【0066】
ここで、膨潤性フッ素雲母系鉱物をインターカレーション法により合成する場合には、原料であるタルクの粒子径を適切に選択することにより初期粒子径を変更することができる。粉砕との併用により、より広い範囲で初期粒子径を調節することができる点で好ましい方法である。
【0067】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物(A)のポリアミド樹脂とは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。その原料の具体例としては、アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等がある。またラクタムとしてはε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等がある。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等がある。またジカルボン酸としては、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等がある。またこれらジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
【0068】
かかるポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0069】
本発明においてはポリアミド樹脂組成物(A)の相対粘度(分子量)がそれぞれ規定の範囲にある必要がある。すなわちポリアミド樹脂組成物(A)のポリアミド樹脂マトリックスに対しては、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が、2.0以上であることが必要である。この値が2.0未満であると、得られたポリアミド樹脂組成物は溶着強度に劣るので好ましくない。さらに、ポリアミド樹脂組成物(A)のアミド末端基濃度が、0.07mmol/gを超えると、酸無水物等で変性されたポリオレフィン系樹脂組成物(B)と混合した場合、得られるポリアミド/ポリオレフィン樹脂組成物がゲル化する傾向にあるため、成形材料として好ましくない。
【0070】
本発明のポリアミド樹脂組成物(A)の製造方法は、基本的には、適宜選択した膨潤性層状珪酸塩の存在下、所定量のモノマーをオートクレーブに仕込んだ後、水等の開始剤を用い、温度240〜300℃、圧力0.2〜3MPa、1〜15時間の範囲内で溶融重縮合法によればよい。ナイロン6を樹脂マトリックスとする場合には、温度250〜280℃、圧力0.5〜2MPa、3〜5時間の範囲で重合することが好ましい。
【0071】
また、重合後のポリアミド樹脂組成物に残留しているポリアミドのモノマーを除去するために、該ポリアミド樹脂組成物のペレットに対して熱水による精練を行うことが好ましい。この場合、好ましくは90〜100℃の熱水中で8時間以上の処理を行えばよい。
【0072】
膨潤性層状珪酸塩の配合量は、ポリアミド樹脂組成物中に灰分として2〜20質量%とすることが好ましい。この配合量が2質量%未満では、耐燃料透過性が減少するため、タンク用部品としての機能を満たさなくなるためである。一方この配合量が20質量%を越える場合には、オートクレーブから生成したポリアミド樹脂組成物を払い出すことが困難となり、収率が大きく低下するため好ましくない。
【0073】
また、上記した膨潤性層状珪酸塩とポリアミド樹脂の重合に要するポリアミドモノマーの一部を、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の分散媒中で混合させる工程を設けることが望ましい。一般的に、この工程における温度条件は室温、あるいは必要に応じて室温以上、分散媒の沸点以下で行い、ホモミキサーや超音波式分散機、高圧分散機等を用いることが望ましい。
【0074】
かかるポリアミド樹脂組成物(A)を製造するに当たっては酸を添加してもよい。一般的に言って、酸を添加することにより、膨潤性層状珪酸塩の劈開が促進されポリアミド樹脂マトリックス中への珪酸塩層の分散がより進行するため好ましい。
【0075】
上記の酸としては、pKa(25℃、水中での値)が0〜6または負の酸であるなら有機酸でも無機酸でもよく、具体的には安息香酸、セバシン酸、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等が挙げられる。
【0076】
酸の添加量は、使用する膨潤性層状珪酸塩の全陽イオン交換容量に対して1.0〜5.0モル量程度とすることが、膨潤性層状珪酸塩の劈開およびポリアミド樹脂マトリックスにおける重合触媒としての作用の点から好ましい。
【0077】
本発明のポリアミド樹脂組成物(A)を製造するに当たっては、その特性を大きく損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等を添加してもよい。
【0078】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0079】
強化材としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0080】
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂組成物(B)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、α―オレフィン共重合体などが上げられるが、その密度は、0.92g/cm以上であることが好ましい。0.92g/cm未満の場合、ポリアミド樹脂組成物(A)と混錬して得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物と他のポリオレフィン系樹脂組成物との溶着強度が、燃料中に浸漬させると低下する傾向にあり、好ましくない。さらに、このポリオレフィン系樹脂組成物(B)は、ポリアミド樹脂組成物(A)と良好な相溶性を得るために、α、β−不飽和カルボン酸や酸無水物等で変性させることが必要である。ポリオレフィン系樹脂組成物とポリアミド樹脂組成物の混錬物を得る場合、一般的にα、β−不飽和カルボン酸やそのエステル、さらには酸無水物などのポリオレフィン樹脂にグラフトさせて改質することが、特開昭53−1288に示されているように公知の技術であり、本ポリオレフィン系樹脂組成物に関しても、この手法を適用する。
【0081】
この変性量は、ポリオレフィン系樹脂(B)100質量部に対して、1〜4質量部以下が好ましい。1質量部未満の場合、ポリアミド樹脂組成物(A)との混錬して得られてポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物と、他のポリオレフィン系樹脂組成物との溶着強度が低くなるため好ましくなく、反対に4質量部を超えると、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の作成時にガスの発生が見られ、この組成物を得ることが出来ない。
【0082】
ポリオレフィン系樹脂組成物(B)の配合量は、ポリアミド樹脂組成物(A)100質量部に対して、50〜150質量部以下が好ましい。ポリオレフィン系樹脂組成物(B)の配合量が50質量部未満の場合、得られたポリアミド樹脂組成物(A)とのポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物と、他のポリオレフィン系樹脂との溶着強度が基準値に満たない。また、ポリオレフィン系樹脂組成物(B)の配合量が150質量部以上の場合、耐燃料透過性が基準値に満たないため、好ましくない。また、耐燃料透過性および他のオレフィン系樹脂組成物との溶着強度や、これを燃料中に浸漬させた後の強度保持率に優れる樹脂組成物のモルフォロジーを観察すると、ポリオレフィン系樹脂組成物が島構造を有していることがわかった。特許文献3では、ポリオレフィン系樹脂が連続層を形成しており、本願とは異なる。
【0083】
ポリアミド樹脂組成物(A)とポリオレフィン系樹脂組成物(B)を、混錬して、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得る時の混合方法は、一般的な溶融混錬法を用いる事ができる。溶融混錬機は一軸より、二軸の方が好ましいが、十分な反応時間を得られるならば、これらの樹脂組成物を成形機に混合して投入し、反応と成形を同時に行っても良い。混錬温度は、一例としてポリアミド6樹脂の場合、ポリアミド樹脂組成物(A)が十分溶融する240℃以上であり、かつ、ポリアミド樹脂組成物(A)が分解しない300℃未満が好ましい。
【0084】
ポリアミド樹脂組成物(A)とポリオレフィン系樹脂組成物(B)から得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物と、他のポリオレフィン系樹脂組成物との溶着方法は、熱溶着法や振動融着法、超音波溶着法、レーザー溶着、二色成形などの射出溶着法などがあるが、どれを用いてもよい。
【0085】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例ならびに比較例で用いた原料および物性試験の測定方法は次の通りである。
【0086】
1.原料
膨潤性フッ素雲母(M−1)
ボールミルにより平均粒子径が4.0μmとなるように粉砕したタルクに対し、平均粒子径が10μmの珪フッ化ナトリウムを全量の15質量%となるように混合した。これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより、平均粒径4.0μmの膨潤性フッ素雲母(M−1)を得た。この膨潤性フッ素雲母の組成は、
Na0.60Mg2.63Si201.77、後述する測定方法により得られた陽イオン交換容量は110ミリ当量/100gであった。
【0087】
2.測定方法
(1)陽イオン交換容量
日本ベントナイト工業会標準試験方法によるベントナイト(粉状)の陽イオン交換容量測定方法(JBAS−106−77)に基づいて求めた。
すなわち、浸出液容器、浸出管および受器を縦方向に連結した装置を用いて、まず初めに、層状珪酸塩をpH=7に調製した1N酢酸アンモニウム水溶液により、その層間のイオン交換性カチオンの全てをNHに交換する。その後、水とエチルアルコールを用いて十分に洗浄してから、前記したNH型の層状珪酸塩を10質量%の塩化カリウム水溶液中に浸し、試料中のNHをKへと交換する。引き続いて、前記したイオン交換反応に伴い浸出したNHを0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定することにより、原料である膨潤性層状珪酸塩の陽イオン交換容量(ミリ当量/100g)を求めた。
【0088】
(2)ポリアミド樹脂組成物(A)の無機灰分率
ポリアミド樹脂組成物(A)中に含まれる膨潤性フッ素雲母の配合量は、ε―カプロラクタムの重合度が100%でなく、未反応物を精錬工程で除くため、仕込値と異なる。そのため、得られたポリアミド樹脂組成物(A)の乾燥ペレットを磁性ルツボに精秤し、500℃に保持した電気炉で空気中15時間焼却処理した後の残渣を無機灰分として、次式に従って無機灰分率を求めた。
無機灰分(質量%)={無機灰分質量(g)}/{焼却処理前の試料の全質量(g)}×100
【0089】
(3)ポリアミド樹脂(A)マトリックスの相対粘度(分子量)
96質量%濃硫酸中に、ポリアミド複合材料の乾燥ペレットの濃度が1g/dlになるように溶解させ、G−3ガラスフィルターにより無機成分を濾別した後測定に供した。測定はウベローデ型粘度計を用い、25℃で行った。
【0090】
(4)ポリアミド樹脂組成物(A)のアミノ末端基濃度
ポリアミド樹脂組成物(A)をメタルレゾールに70℃にて溶解させ、G−3ガラスフィルターにより無機成分を濾別した後、0.1mol/リットルのp−トルエンスルホン酸にて滴定した。
【0091】
(5)ポリアミド/ポリオレフィン樹脂組成物の溶着強度
まず、ポリアミド樹脂組成物(A)とポリオレフィン系樹脂組成物(B)から得られたポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物と、ポリエチレン(プライムポリマー社製 520MB)で作られたISOダンベル片を、それぞれ中央部で切断した。その後、熱溶着法でこれらを溶着した後、引張強度をISO 527規格に基づいて測定した。本特許では、15MPa以上を基準とした。
【0092】
(6)ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の耐燃料透過性
10ミリリットルのイソオクタン/トルエン/エタノール=45/45/10(容量比)を上部に穴の開いたステンレス製の容器に入れ、その上部に50mmΦ、厚み1mmに成形したポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を取り付ける。燃料は、この樹脂組成物を通してのみ、ステンレス容器外に放出される。60℃の乾燥機内に上記のステンレス容器を入れて、質量減少量を測定することより、燃料透過率を算出した。本特許では、0.5mg・mm/cm・24h以下を基準とした。
【0093】
(7)ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の燃料浸漬試験
上記で得られたダンベル片を、イソオクタン/トルエン/エタノール=45/45/10(容量比)に、60℃、120時間浸漬させた後、引張強度をISO 527規格に基づいて測定した。本特許では、(5)で得られた初期の溶着強度の60%以上の保持率を基準とした。
【0094】
(8)ポリアミド樹脂/ポリオレフィン系樹脂のモルフォロジー観察
上記で得られたダンベル片を、ダイヤモンドカッターを用いて薄片状に切り出し、透過型電子顕微鏡観察を行った。ポリアミド成分をリンダングステン酸で黒色に染色し、ポリオレフィン系樹脂組成物の存在状態を確認した。
【0095】
表1に示すように相対粘度、アミノ末端基量および灰分量の異なるPA1からPA6のポリアミド樹脂組成物(A)を作製した。下記にこれらの作成方法について述べる。
【表1】


【0096】
〔参考例1〕ポリアミド樹脂組成物(PA1)
膨潤性フッ素雲母M−1 500g(全陽イオン交換容量は0.55molに相当する)をε−カプロラクタム1kgおよび水1kgとを混合して得た溶液中に加え、室温下、ホモミキサーを用いて1.5時間かく拌した。この膨潤性フッ素雲母分散液の全量を、予めε−カプロラクタム9kgおよび85質量%リン酸水溶液63.4g(0.55mol)を仕込み、これらを95℃で溶融させておいた内容積30リットルのオートクレーブに投入し、撹拌しながら260℃に加熱し、圧力0.7MPaまで昇圧した。その後、徐々に水蒸気を放出しつつ温度260℃、圧力0.7MPaを1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに10分間重合した。
【0097】
重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してポリアミド樹脂組成物からなるペレットを得た。次いでこのペレットを95℃の熱水で8時間精錬した後、乾燥した。
【0098】
灰分測定によるPA1中の無機灰分率は、5.3質量%であった。また相対粘度は2.7、アミノ末端基濃度は0.042mmol/gであった。
【0099】
〔参考例2〕ポリアミド樹脂組成物(PA2)
放圧後の重合時間を60分間とした以外は、参考例1と同様にポリアミド樹脂組成物を作製した。灰分測定によるPA2中の珪酸塩層の含有量は5.2質量%、相対粘度は3.5、アミノ末端基濃度は0.030mmol/gであった。
【0100】
〔参考例3〕ポリアミド樹脂組成物(PA3)
膨潤性フッ素雲母M−1を370g(全陽イオン交換容量は0.41molに相当する)、85質量%リン酸水溶液47.3g(0.41mol)配合した以外は、参考例1と同様にポリアミド樹脂組成物を作製した。灰分測定によるPA3中の珪酸塩層の含有量は3.9質量%、相対粘度は2.7、アミノ末端基濃度は0.041mmol/gであった。
【0101】
〔参考例4〕ポリアミド樹脂組成物(PA4)
放圧後の重合時間を1分間とした以外は、参考例1と同様にポリアミド樹脂組成物を作製した。灰分測定によるPA4中の珪酸塩層の含有量は5.3質量%、相対粘度は1.8、アミノ末端基濃度は0.056mmol/gであった。
【0102】
〔参考例5〕ポリアミド樹脂組成物(PA5)
膨潤性フッ素雲母M−1を100g(全陽イオン交換容量は0.11molに相当する)、85質量%リン酸水溶液12.7g(0.11mol)配合した以外は、参考例1と同様にポリアミド樹脂組成物(A)を作製した。灰分測定によるPA5中の珪酸塩層の含有量は0.9質量%、相対粘度は2.7、アミノ末端基濃度は0.045mmol/gであった。
【0103】
〔参考例6〕ポリアミド樹脂組成物(PA6)
放圧後にヘキサメチレンジアミンを40g配合し、その後の重合時間を60分間とした以外は参考例1と同様にポリアミド樹脂組成物(A)を作製した。灰分測定によるPA6中の珪酸塩層の含有量は5.3質量%、相対粘度は2.4、アミノ末端基濃度は0.079mmol/gであった。
【0104】
表2に示すように密度および無水マレイン酸配合量の異なるPO1からPO4のポリオレフィン系樹脂組成物(B)を作製した。下記にこれらの作成方法について述べる。
【表2】


【0105】
〔参考例7〕ポリオレフィン系樹脂組成物(PO1)
密度0.94g/cmのポリエチレン樹脂10kgに対し、200gの無水マレイン酸をブレンドし、二軸混錬機を用いて樹脂温度を180℃〜220℃にし、ポリエチレン樹脂の酸変性を行った。
【0106】
〔参考例8〕ポリオレフィン系樹脂組成物(PO2)
密度0.89g/cmのポリエチレン樹脂を原料に用いた以外は、参考例7と同様にポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。
【0107】
〔参考例9〕ポリオレフィン系樹脂組成物(PO3)
無水マレイン酸の配合量を0.5質量部とした以外は、参考例7と同様にポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。
【0108】
〔参考例10〕ポリオレフィン系樹脂組成物(PO4)
無水マレイン酸の配合量を5.0質量部とした以外は、参考例7と同様にポリオレフィン系樹脂組成物を作製した。
【0109】
実施例1〜5
表3に示す実施例1〜5の組成のポリアミド/ポリオレフィン樹脂組成物は、東芝機械社製TEM−37SS型押出機を用いて、溶融混錬させて作製した。得られた樹脂組成物は、耐燃料透過性、溶着強度、燃料浸漬試験を行い結果を表3に示した。
【表3】


【0110】
〔実施例1〕
(PA1)100質量部と(PO1)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は18MPa、燃料浸漬後は15MPaであり、溶着強度保持率は83%、そして、燃料透過率は0.10mg・mm/cm・24hとなりいずれも基準値を満たした。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かった。電子顕微鏡観察を行った写真を図1に示す。
【0111】
〔実施例2〕
(PA1)100質量部と(PO1)125質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は25MPa、燃料浸漬後は16MPaであり、溶着強度保持率は64%、そして、燃料透過率は0.20mg・mm/cm・24hとなりいずれも基準値を満たした。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かった。
【0112】
〔実施例3〕
(PA1)100質量部と(PO1)75質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は15MPa、燃料浸漬後は10MPaであり、溶着強度保持率は67%、そして、燃料透過率は0.07mg・mm/cm・24hとなりいずれも基準値を満たした。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かった。
【0113】
〔実施例4〕
(PA2)100質量部と(PO1)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は20MPa、燃料浸漬後は16MPaであり、溶着強度保持率は80%、そして、燃料透過率は0.11mg・mm/cm・24hとなりいずれも基準値を満たした。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かった。
【0114】
〔実施例5〕
(PA3)100質量部と(PO1)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は18MPa、燃料浸漬後は16MPaであり、溶着強度保持率は89%、そして、燃料透過率は0.23mg・mm/cm・24hとなりいずれも基準値を満たした。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かった。
【0115】
比較例1〜8
表4に示す比較例1〜8の組成のポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物は、東芝機械社製TEM−37SS型押出機を用いて、溶融混錬させて作製した。得られた樹脂組成物は、耐燃料透過性、溶着強度、燃料浸漬試験を行い結果を表4に示した。
【表4】


【0116】
〔比較例1〕
(PA1)100質量部と(PO1)40質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は7MPa、燃料浸漬後は3MPaであり、溶着強度保持率は43%、そして、燃料透過率は0.06mg・mm/cm・24hとなった。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かったが、PO1の配合量が少ないため、溶着強度および燃料浸漬後の溶着強度保持率が、基準値より低くなったと考えられる。
【0117】
〔比較例2〕
(PA1)100質量部と(PO1)200質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は28MPa、燃料浸漬後は14MPaであり、溶着強度保持率は50%、そして、燃料透過率は5.1mg・mm/cm・24hとなった。PO1の配合量が多いため、燃料浸漬後の溶着強度保持率および燃料透過率が、基準値より低くなったと考えられる。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が海構造を形成していることが分かった。電子顕微鏡観察を行った写真を図2に示す。
【0118】
〔比較例3〕
(PA4)100質量部と(PO1)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は10MPa、燃料浸漬後は3MPaであり、溶着強度保持率は30%、そして、燃料透過率は0.12mg・mm/cm・24hとなった。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成しており、PA4の相対粘度が低いために、溶着強度および燃料浸漬後の溶着強度が、基準値より低くなったと考えられる。
【0119】
〔比較例4〕
(PA5)100質量部と(PO1)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は18MPa、燃料浸漬後14MPaであり、溶着強度保持率は78%、そして、燃料透過率は14.2mg・mm/cm・24hとなった。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が島構造を形成していることが分かったが、PA1中の雲母量が少ないため、燃料透過率が基準値より多くなったと考えられる。
【0120】
〔比較例5〕
(PA6)100質量部と(PO1)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。これらを成形する際、ゲル化し、測定に供するサンプルを得る事が出来なかった。
【0121】
〔比較例6〕
(PA1)100質量部と(PO2)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は15MPa、燃料浸漬後は5MPaであり、溶着強度保持率は33%、そして、燃料透過率は1.52mg・mm/cm・24hとなった。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が海構造を形成していることが分かった。PO2の密度低いため、溶着強度と燃料浸漬後の溶着強度保持率が、基準値より低くなり、燃料透過率も基準値を超えたと考えられる。
【0122】
〔比較例7〕
(PA1)100質量部と(PO3)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬し、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得た。溶着強度は6MPa、燃料浸漬後は2MPaであり、溶着強度保持率は33%、そして、燃料透過率は0.20mg・mm/cm・24hとなった。モルフォロジー観察を行ったところ、(PO1)が海構造を形成していることが分かった。PO3のポリオレフィン系樹脂組成物の無水マレイン酸変性量が少ないために、溶着強度および燃料浸漬後の溶着強度が基準値より低くなったと考えられる。
【0123】
〔比較例8〕
(PA1)100質量部と(PO4)100質量部を220℃〜260℃で溶融混錬したところ、ガスの発生量が多く、押出時の操業が困難であり、ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物を得る事ができなかった。
【0124】
本願発明は、上記実施の態様の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本願発明の樹脂タンク溶着部材(パイプ継手)の断面図
【図2】図1のA部の拡大断面図。
【図3】樹脂タンクである燃料タンクの一部拡大断面図
【図4】本願発明の他の樹脂タンク溶着部材(燃料流出防止弁)の断面図
【図5】本願発明の更に他の樹脂タンク溶着部材(燃料流出防止弁)の断面図
【図6】従来の樹脂タンク溶着部材(パイプ継手)の断面図
【図7】図6のB部の拡大断面図
【図8】実施例1のモルフォロジー観察写真図
【図9】比較例2のモルフォロジー観察写真図
【符号の説明】
【0126】
20…パイプ継手 21…本体部
22…筒部 22a…管端
23…溶着部 30…燃料タンク
31…インナシェル 32…アウタシェル
33…バリア層 34a…上部接着層
34b…下部接着層 35…開口
40…燃料流出防止弁 41…キャップ
42…本体部 43…筒部
43a…管端 44…第1溶着部
45…第2溶着部 50…ケース
51…環状突部 52…小径開口部
53…大径開口部 54…弁座
55…底板 56…連通口
57…係止突片 58…係止孔
59…係止爪 60…フロート
61…スプリング 62…弁体
70…第2取付部 71…突出部
72…取付突片 73…係止孔
74…係止爪 75…環状溝
76…Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料透過防止機能を有する樹脂タンクとの溶着部材であって、該溶着部材は、ポリアミド樹脂100質量部に対して2〜20質量部の膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されてなるポリアミド樹脂組成物であって、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件下で測定した際の相対粘度が2.0以上であり、かつ、アミノ末端基量が0.07mmol/g以下であるポリアミド樹脂組成物(A)と、密度が0.92g/cm以上のポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1.0〜4.0質量部以下の酸無水物等で変性されたポリオレフィン系樹脂組成物(B)からなるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物であって、(A)で示されるポリアミド樹脂組成物100質量部と、(B)で示されるポリオレフィン系樹脂組成物50〜150質量部から得られるポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物の単層材で成形されることを特徴とする樹脂タンク溶着部材。
【請求項2】
ポリアミド/ポリオレフィン系樹脂組成物中に、ポリオレフィン系樹脂(B)が島構造を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂タンク溶着部材。
【請求項3】
前記樹脂タンク溶着部材は、弁部材を有するケースとで燃料制御弁を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂タンク溶着部材。
【請求項4】
前記ケースは、前記樹脂タンク溶着部材と前記樹脂タンクとの溶着部の内側で前記樹脂タンク溶着部材に溶着されることを特徴とする請求項3に記載の樹脂タンク溶着部材。
【請求項5】
前記ケースは、前記樹脂タンク溶着部材と前記樹脂タンクとの溶着部の内側で前記樹脂タンク溶着部材にスナップフィットにより取り付けられることを特徴とする請求項3に記載の樹脂タンク溶着部材。
【請求項6】
前記樹脂タンクは、少なくとも外側に位置するアウタシェルと該アウタシェルの内側に位置する燃料透過防止層を有する積層構造からなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載の樹脂タンク溶着部材。
【請求項7】
前記樹脂タンク溶着部材の溶着部の長さは、前記アウタシェルの厚さより大きいことを特徴とする請求項6に記載の樹脂タンク溶着部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−162401(P2008−162401A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353941(P2006−353941)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000161840)京三電機株式会社 (99)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】