説明

樹脂含浸フレキシブルグラファイト製品

樹脂含浸フレキシブルグラファイト材料から複合体を調製する。含浸材料を高温加圧下で圧縮して硬化させ、電子・熱マネイジメント(ETM)装置、スーパーキャパシタ、及び二次電池などで使用するのに適する構造に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離グラファイトの圧縮された粒子(一般的に、フレキシブルグラファイトと呼ばれる)を樹脂含浸したものから形成された製品に関し、当該製品は、熱及び圧力下で硬化されたものであり、電気・熱マネイジメント(ETM)に使用される熱輸送又は大容量キャパシターや二次電池用の電極などの応用に有益である。
【背景技術】
【0002】
圧縮された剥離グラファイトからなる製品は、樹脂含浸されたグラファイトシートを含む複合材料として、従来から知られている。これらの構造は、例えばガスケット製造の際に有用であることが判明している。
【0003】
ガスケット材料での有用性に加え、グラファイト複合体はまた、熱伝達装置又は冷却装置としても有用であることが判明している。熱輸送装置として様々な固体構造を使用することは、当該技術分野において既知である。例えば、Banksの米国特許第5,316,080号及び米国特許第5,224,030号は、好適なバインダーと接合させたダイヤモンド及びガス由来グラファイト繊維の、熱伝達装置としての有用性を開示している。この装置を使用して、半導体などの供給源からヒートシンクへの受動的な熱伝導を行う。
【0004】
グラファイト系熱マネイジメント部品は、電子応用分野においていくつかの利点があり、コンピュータ、コミュニケーション装置、及び他の電子装置における熱発生部品の潜在的な負の効果を除去するのに役立つ。グラファイト系熱マネイジメント部品は、ヒートシンク、ヒートパイプ、及びヒートスプレッダを含み、これらすべてのものは、銅又はアルミニウムと同等又はそれ以上の熱伝導率を有するが、銅やアルミニウムの僅か数分の一の重量しか有さず、設計の自由度が非常に高い。グラファイト系熱マネイジメント製品は、グラファイトの高い方向特性を有するという利点を有し、熱の影響を受けやすい部品から熱を遠ざけることができる。熱マネイジメントに使用される一般的なアルミニウム合金と比較して、グラファイトは、銅(おおよそ400ワット/メーターケルビン、すなわちW/mK)と同等又はそれ以上の値である、300%までの高い熱伝導率を示す。さらに、アルミニウムや銅は等方性であり、好ましい方向に熱を導くことは困難である。
【0005】
本発明において使用されるグラファイト材料は、剥離グラファイトの圧縮された粒子から形成されるグラファイト材料である。
【0006】
以下、グラファイト及びそれを加工してフレキシブル材料を製造する一般的な方法について簡単に説明しておく。グラファイトは、炭素原子の六角形配列又は網目構造の層面から構成されている。これらの六角形に配列された炭素原子の層面は、実質的に平坦であり、かつ実質的に平行で等距離となるように互いの層面が配向又は配列されている。炭素原子からなる実質的に平坦で平行な等距離の、通常グラフェーン層又は基底面と称されるシート又は層は、互いに連結又は結合され、それらの群はクリスタリット形態で配列されている。高度に配列したグラファイトは、相当大きいクリスタリットからなり、そのクリスタリットは、互いに高度に整列もしくは配向し、よく整列した炭素層を有する。換言すれば、高度に配列したグラファイトは、好ましい高いクリスタリット配向度を有する。ここで、グラファイトは、異方性構造を有するため、熱伝導率や電気伝導率及び流体拡散性に高い方向性を有する多数の特性を示すか、又は有している。
【0007】
簡単に述べると、グラファイトは、炭素の層状構造、即ち、弱いファンデルワールス力により互いに接合した炭素原子の層又は薄層が重なった構造を有することが特徴である。グラファイト構造を考える際、通常、2つの軸(又は方向)、即ち、c軸(又は方向)及びa軸(又は方向)が特筆される。単純化するために、c軸(又は方向)は、炭素層に垂直な方向と考えることができる。a軸(又は方向)は、炭素層に平行な方向、又はc軸方向に垂直な方向と考えることができる。フレキシブルグラファイト製品の製造に適するグラファイトは、非常に高い配向度を有している。
【0008】
上記したように、炭素原子からなる平行な層を共に保持している結合力は、弱いファンデルワールス力のみである。天然グラファイトの化学処理により、炭素の層又は薄層が重なり合った間隔が相当広くなり、層と垂直な方向、即ちc軸方向に著しく広がるため、炭素層の重なり特性が実質的に保たれたまま、膨張ないし膨大化したグラファイト構造が形成される。
【0009】
化学的又は熱的に膨張した、より詳細には、もとのc軸方向寸法の約80倍以上もの最終厚さ(又はc軸方向寸法)を有する程度に膨張したグラファイトフレークは、バインダーを使用せずに、例えば、ウエブ、紙、ストリップ、テープ等(一般に「フレキシブルグラファイト」と呼ばれる)の膨張グラファイトの凝集又は一体化したシートに形成される。もとのc軸方向寸法の約80倍以上もの最終厚さ(又はc軸寸法)を有する程度にまで膨張したグラファイト粒子は、大容量化した膨張グラファイト粒子間での機械的な絡み合いや凝集力を有するために、バインダー材料を用いなくとも圧縮して一体化したフレキシブル物品に形成することができると考えられる。
【0010】
フレキシビリティに加え、上述のようなグラファイト材料はまた、膨張グラファイト粒子が非常に高圧縮、例えばロール加工等から生じる材料の対向面に対して実質的に平行に配向しているため、天然のグラファイト出発材料にやや劣るが、それに匹敵する程度に、熱伝導性や導電率及び流体拡散に対して高い異方性度を有することが判明している。このように製造した材料は優れたフレキシビリティ、良好な強度及び非常に高い配向性を有する。これらの特性を更に十分に利用する加工に対する必要性が存在する。
【0011】
簡単に述べると、異方性グラファイト材料(例えば、シート、物品、ウエブ、紙、ストリップ、テープ、箔、マット等)の製造方法は、もとの粒子寸法の約80倍以上ものc軸方向寸法を有する膨張グラファイト粒子を、バインダーを用いずに所定負荷で圧縮又は圧密化して、実質的に平坦で一体化したグラファイト製品を形成する工程を含む。典型的には、形成した物品は、フレキシブルで、比較的薄い(即ち、5mm以下)シートであるが、より厚い物品もこのように製造することができる。その外観が一般的にウォーム様即ち虫状になる膨張グラファイト粒子は、一度圧縮すると圧縮ひずみが残り、対向シート主表面との整列が維持される。物品の特性は、コーティング及び/又は圧縮工程前にバインダー若しくは添加剤を添加することにより変更してもよい(米国特許第3,404,061号(Shaneら)を参照)。材料の密度及び厚さは、圧縮の度合いを制御することにより変更できる。
【0012】
表面細部にエンボス加工又は成形を必要とする場合、密度は低い方が有利である。密度を低下させると良好な細部が得られる。しかしながら、一般に、より高密度のシートには、より高い面内強度、熱伝導性及び導電率の方が好ましい。典型的には、材料密度は、約0.04g/cm〜約1.4g/cmの範囲内である。
【0013】
上述のように作製したグラファイト材料は、典型的には、グラファイト粒子が材料の主対向平行表面と平行して整列しているので適切な異方性度を示し、ロールプレスにより異方性の程度が増して密度も増加する。ロールプレスされた異方性材料においては、厚さ、即ち、対向する平行表面に垂直な方向はc軸方向を含み、長さ及び幅に沿って広がる方向、即ち、対向主表面に沿った又は平行な方向はa軸方向を含む。また、材料の熱的性質や電気的性質及び流体拡散特性は、c軸方向とa軸方向とでは、大きさが何桁も異なる。
【発明の開示】
【0014】
本発明の目的は、電子・熱マネイジメント(ETM)、スーパーキャパシタ又は二次電池での使用に適する樹脂含浸グラファイト製品を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、面内特性が向上したグラファイト構造を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、a軸方向に比較的高い熱伝導性を有し、c軸方向に比較的低い熱伝導性を有する機械加工が可能なグラファイト構造を提供することである。
【0017】
これらの及び他の目的は、本発明により達成され、剥離グラファイトの圧縮粒子から形成される樹脂含浸グラファイト製品を含む構造を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、エポキシ含浸グラファイト製品を(例えば、カレンダー加工により)圧縮し、次いで高温加圧下で硬化させると、その結果生じた材料が予測し得ない程良好な機械的特性及び熱特性を示し、且つ良好な機械加工性をも有するという知見に基づくものである。
【0019】
本発明による現行材料を改良する方法を説明する前に、本発明の製品を形成するための主要基盤となるグラファイトと、グラファイトから一体化物品を形成する方法に関して順に簡単に説明する。
グラファイト製品の調製
【0020】
グラファイトは、原子が平坦層状に共有結合した面同士が、より弱く結合した結晶形態の炭素である。天然グラファイトフレーク等のグラファイト粒子を、例えば、硫酸及び硝酸の溶液からなる挿入物質(インターカラント)で処理することにより、グラファイトの結晶構造が反応してグラファイトとインターカラントとの化合物が形成される。処理したグラファイト粒子を、以下「インターカラントグラファイト粒子」と称する。高温暴露すると、グラファイト内のインターカラントが分解及び揮発して、インターカラントグラファイト粒子が、c軸方向、即ち、グラファイトの結晶面に垂直な方向に、もとの容積の約80倍以上もの寸法に蛇腹状に膨張する。剥離グラファイト粒子は、外観が虫状であるので、一般的にウォームと称されており、「膨張グラファイトの粒子」と称されることもある。ウォームは、共に圧縮して物品とすることができる。この物品は、もとのグラファイトフレークとは異なり、種々の形状に形成及び切断でき、また変形により機械的影響を受けて小さな横軸開口を備えることができる。
【0021】
本発明の材料用のグラファイト出発材料としては、熱に暴露したときに有機酸や無機酸だけでなくハロゲンを挿入して膨張させることが可能な、高度に黒鉛化した炭素質材料等がある。これらの黒鉛化度の高い炭素質材料は、最も好ましくは黒鉛化度が約1.0である。この開示で使用される用語「黒鉛化度」とは、下式による値(g)を意味する:
【数1】

(式中、d(002)は、結晶構造における炭素の黒鉛層間の間隔(単位:オングストローム)である)。グラファイト層間の間隔dは、標準X線回折法により測定される。(002)、(004)及び(006)ミラー指数に対応する回折ピークの位置を測定し、標準最小二乗法を用いてこれらのピークの全てについて全誤差を最小にする間隔を導く。黒鉛化度が高い炭素質材料の例として、種々の原料から得られる天然グラファイトだけでなく、他の炭素質材料、例えば、化学蒸着により調製した炭素が挙げられる。天然グラファイトが最も好ましい。
【0022】
本発明に使用される材料用のグラファイト出発材料は、出発材料の結晶構造が所要の黒鉛化度を保ち、かつこれらが剥離し得る限り、非炭素成分を含有してもよい。一般的に、結晶構造に必要とされる黒鉛化度を有し、かつ剥離し得るいずれの炭素含有材料も、本発明と共に使用するのに好適である。このようなグラファイトの灰分は、好ましくは20重量%未満である。より好ましくは、本発明に用いられるグラファイトは、少なくとも約94%の純度を有する。最も好ましい実施態様では、使用するグラファイトは、少なくとも約98%の純度を有する。
【0023】
グラファイトシートを製造するための一般的な方法が、米国特許第3,404,061号(Shane等)に記載されている。この文献に開示されている内容は、引用することにより本明細書の内容の一部とされる。Shane等の方法を実施する1つの実施態様では、天然グラファイトフレークを、例えば、硝酸と硫酸の混合物溶液に分散させる、有利には、グラファイトフレーク100重量部当たりインターカラント溶液を約20〜約300重量部(pph)の量で含む溶液に分散させることにより天然グラファイトフレークに物質挿入を行う。インターカレーション溶液は、当該技術分野において既知の酸化剤等のインターカレーション剤を含有する。それらの例として、酸化剤及び酸化性混合物を含有するもの、例えば、硝酸、塩素酸カリウム、クロム酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸カリウム、二クロム酸カリウム、過塩素酸等を含有する溶液、又は混合物、例えば、濃硝酸と塩素酸塩の混合物、クロム酸とリン酸の混合物、硫酸と硝酸の混合物、もしくは強有機酸(例えば、トリフルオロ酢酸)とこの有機酸に溶解する強酸化剤との混合物を含有する溶液が挙げられる。別の方法として、電位を使用してグラファイトの酸化を生じさせることができる。電解酸化を用いてグラファイト結晶に導入できる化学種には、硫酸だけでなく他の酸も挙げられる。
【0024】
好ましい実施態様では、インターカレーション剤は、硫酸又は硫酸及びリン酸と、酸化剤、即ち、硝酸、過塩素酸、クロム酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、ヨウ素酸若しくは過ヨウ素酸との混合物の溶液等である。あまり好ましくないが、塩化第2鉄等のハロゲン化金属、及び塩化第2鉄と硫酸との混合物、又はハロゲン化物、例えば臭素と硫酸の溶液として、あるいは臭素を有機溶媒に溶解した溶液として臭素を含有できる。
【0025】
インターカレーション溶液の量は、約20〜約150pphの範囲でよく、より典型的には約50〜約120pphの範囲でよい。フレークに物質挿入した後、過剰な溶液をフレークから取り除いて、フレークを水洗する。別の方法として、インターカレーション溶液の量は、約10〜約50pphに限定してもよい。この量では、米国特許第4,895,713号に教示及び説明されているように、洗浄工程を省略してもよい。上記文献に開示されている内容も、引用することにより本明細書の内容の一部とされる。
【0026】
インターカレーション溶液で処理したグラファイトフレークの粒子は、必要に応じて、例えば、25℃〜125℃の範囲の温度で酸化性インターカレーション溶液の表面膜と反応するアルコール類、糖類、アルデヒド類及びエステル類から選択された還元性有機剤と混合して接触させることができる。好適な具体的有機剤としては、ヘキサデカノール、オクタデカノール、1−オクタノール、2−オクタノール、デシルアルコール、1,10−デカンジオール、デシルアルデヒド、1−プロパノール、1,3−プロパンジオール、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、デキストロース、フルクトース、ラクトース、スクロース、ジャガイモデンプン、エチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールモノステアレート、グリセロールモノステアレート、ジメチルオキシレート、ジエチルオキシレート、メチルホルメート、エチルホルメート、アスコルビン酸、及びリグニン由来化合物、例えば、リグノ硫酸ナトリウムが挙げられる。有機還元剤の量は、グラファイトフレーク粒子の約0.5〜4重量%であるのが好適である。
【0027】
インターカレーション前、インターカレーション中、もしくはインターカレーション直後に膨張助剤を使用して改善することもできる。これらの改善には、剥離温度の低下及び膨張体積(「ウォーム体積」とも称される)の増加などがある。このための膨張助剤は、インターカレーション溶液に十分溶解して膨張を改善できる有機材料であるのが有利である。より詳細には、この種の有機材料としては、炭素、水素、及び酸素含有物を用いてもよく、このような有機材料のみを用いることが好ましい。カルボン酸が特に効果的であることが判明している。膨張助剤として有用である好適なカルボン酸は、炭素原子が少なくとも1個、好ましくは炭素原子が最大約15個である、芳香族、脂肪族又はシクロ脂肪族、直鎖又は分岐鎖、飽和及び不飽和のモノカルボン酸類、ジカルボン酸類並びに多カルボン酸類から選択できるが、このカルボン酸は、1つ以上の剥離面で適度な改善をするのに有効な量のインターカレーション溶液に可溶である。好適な有機溶媒を用いて、インターカレーション溶液への有機膨張助剤の溶解度を改善することができる。
【0028】
飽和脂肪族カルボン酸類の代表例としては、H(CHCOOH(式中、nは0〜約5の数である)等で表される酸類、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸等が挙げられる。カルボン酸類の代わりに、無水物又は反応性カルボン酸誘導体、例えば、アルキルエステルを用いることもできる。アルキルエステル類の代表例は、ギ酸メチル及びギ酸エチルである。硫酸、硝酸及び他の既知の水性インターカラントは、ギ酸を分解して最終的に水と二酸化炭素とすることができる。このため、ギ酸及び他の敏感な膨張助剤を、グラファイトフレークを水性のインターカラントに浸漬する前にグラファイトフレークと接触させるのが有利である。代表的なジカルボン酸として、炭素原子が2〜12個である脂肪族ジカルボン酸、特にシュウ酸、フマル酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,5−ペンタンジカルボン酸、1,6−ヘキサンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸、例えば、フタル酸又はテレフタル酸が挙げられる。代表的なアルキルエステルとして、ジメチルオキシレート及びジエチルオキシレートが挙げられる。代表的なシクロ脂肪族酸として、シクロヘキサンカルボン酸が挙げられ、代表的な芳香族カルボン酸として、安息香酸、ナフトエ酸、アントラニル酸、p−アミノ安息香酸、サリチル酸、o−、m−及びp−トリル酸、メトキシ及びエトキシ安息香酸、アセトアセタミド安息香酸類及びアセタミド安息香酸類、フェニル酢酸並びにナフトエ酸類が挙げられる。代表的なヒドロキシ芳香族酸としては、ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸及び7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が挙げられる。多カルボン酸の中で代表的なものとしては、クエン酸が挙げられる。
【0029】
インターカレーション溶液は水性であり、剥離を高めるのに有効な量として、好ましくは膨張助剤を約1%〜約10%の量で含有する。インターカレーション水溶液に浸漬する前又は後に膨張助剤をグラファイトフレークと接触させる実施態様では、膨張助剤をグラファイトと混合するに際して、典型的には約0.2重量%〜約10重量%の量のグラファイトフレークと、好適な手段、例えばVブレンダーにより混合できる。
【0030】
グラファイトフレークに物質挿入した後及びインターカラントをコーティングしたインターカラントグラファイトフレークと有機還元剤との混合に続いて、混合物を、25℃〜125℃の範囲の温度に暴露して還元剤とインターカラントコーティングとの反応を促進する。加熱期間は最大で約2時間であり、上記範囲において高温の場合には、加熱時間は更に短くてもよく、例えば、少なくとも約10分間である。より高温では、30分間以下の時間、例えば、10〜25分間程度でよい。
【0031】
上記のグラファイトフレークに物質挿入する方法、及びその剥離方法は、黒鉛化温度、即ち、約3000℃以上の範囲の温度でグラファイトフレークを前処理したり、滑性添加剤のインターカラントに含有させることにより有利に促進できることがある。
【0032】
グラファイトフレークの前処理又はアニーリングを行うと、その後グラファイトフレークに物質挿入したり剥離したりする際に、膨張が顕著に高まる(即ち、膨張体積が最大300%及びそれ以上増加する)。実際には、膨張の増加が、アニーリング工程を含まない同様の処理と比較して、少なくとも約50%であることが望ましい。アニーリング工程で用いられる温度は、3000℃よりも顕著に低いことがあってはならない。これは、温度がたとえ100℃低くても実質的に膨張が減少するからである。
【0033】
本発明においては、インターカレーション及びそれに続く剥離によって、フレークの膨張度合いが高くなるのに十分な時間にわたってアニーリングを行う。典型的には、所要時間は、1時間以上、好ましくは1〜3時間必要であり、不活性環境下で行うのが最も有利である。最良の結果を得るには、アニーリングを行ったグラファイトフレークを、当該技術分野において既知の他の工程、即ち、有機還元剤や有機酸等のインターカレーション助剤の存在下で物質挿入を行ったり、物質挿入に続いて界面活性剤により洗浄を行ったりして膨張度を高める。更に、最良の結果を得るには、物質挿入工程を反復してもよい。
【0034】
本発明のアニーリング工程は、黒鉛化の分野で既知であり、かつ認識されている誘導炉あるいは他の同様な装置において実施してもよい。本発明で用いる温度について、3000℃の範囲の温度は、黒鉛化工程で用いられる最も高い温度である。
【0035】
インターカレーションアニーリングの前工程を施したグラファイトを用いて製造したウォームが「塊」となってしまい、面積重量の均一性に悪影響を及ぼすことがあることが観察される。そのため、「自由流動」ウォームを形成するのに役立つような添加剤を用いることが非常に望ましい。滑性添加剤をインターカレーション溶液に添加することにより、圧縮装置の床(例えば、グラファイトウォームを一体化グラファイト製品に圧縮(又は「カレンダー加工」)するのに従来から使用されているカレンダーステーションの床)全体にウォームがより均一に分布しやすくなる。従って、得られた物品は、面積重量の均一性が増し、引張り強度がより大きくなる。滑性添加剤は、好ましくは長鎖炭化水素であり、より好ましくは少なくとも約10個の炭素を有する炭化水素である。たとえ他の官能基が存在しても、長鎖炭化水素基を有する他の有機化合物を用いることもできる。
【0036】
滑性添加剤は、より好ましくは油であり、鉱油が最も好ましい。これはとりわけ、鉱油が油やけや不快な匂いを生じにくい(長期間保存するのに重要な考慮事項であり得る)からである。ここで、上記で詳述した膨張助剤の中には、滑性添加剤の定義を満たすものもある。これらの材料を膨張助剤として使用するとき、インターカラントに別個の滑性添加剤を含有させる必要がない場合もある。
【0037】
滑性添加剤は、少なくとも約1.4pph、より好ましくは少なくとも約1.8pphの量でインターカラント中に存在する。滑性添加剤の含有量の上限は、下限値ほど重要ではないものの、約4pphを超える量で滑性添加剤を包含しても顕著なさらなる利点が得られないようである。
【0038】
このように処理したグラファイト粒子は、「インターカラントグラファイトの粒子」と称されることがある。高温、例えば、少なくとも約160℃の温度、とりわけ約700℃〜1000℃及びそれ以上の温度に暴露すると、インターカラントグラファイトの粒子は、c軸方向、即ち、構成グラファイト粒子の結晶面に垂直な方向に、蛇腹状にもとの体積の約80〜1000倍以上にも膨張する。膨張、即ち、剥離したグラファイト粒子は、その外観が虫状であることから、一般的にウォームと称される。ウォームを、共に圧縮成形して物品とすることができる。この物品は、もとのグラファイトフレークとは異なり、以下で説明するように、種々の形状に形成したり切断でき、また変形により機械的影響を受けて小さな横軸開口を備える。
【0039】
上述のように調製したグラファイト材料は、密着していて取扱い強度が良好であり、好適には、例えば成形又はロールプレスにより厚さ約0.075mm〜30mmで一般的密度1立方センチメートル当たり約0.1〜1.5グラム(g/cc)まで圧縮される。米国特許第5,902,762号(引用することにより本明細書の内容の一部とされる)に記載されているように、約1.5〜30重量%のセラミック添加剤をインターカラントグラファイトフレークと混合し、グラファイトの最終製品における樹脂含浸率を高めることができる。添加剤としては、長さが約0.15〜1.5ミリメートルのセラミック繊維粒子が挙げられる。粒子の幅は、約0.04〜0.004mmであるのが好適である。セラミック繊維粒子はグラファイトに対して非反応性かつ非接着性であり、最大約1100℃、好ましくは約1400℃以上の温度で安定である。好適なセラミック繊維粒子は、細断した石英ガラス繊維、炭素とグラファイトの繊維、ジルコニア、窒化ホウ素、炭化ケイ素とマグネシアの繊維、天然の鉱物繊維、例えばメタケイ酸カルシウム繊維、ケイ酸カルシウムアルミニウム繊維、酸化アルミニウム繊維などから形成される。
【0040】
上述のように、また、グラファイト材料を樹脂で処理し、吸収された樹脂は、硬化後、材料の耐湿性や取扱い強度、すなわち、剛性を高めるだけでなく、シートの形態を「固定」することができる。エポキシ含浸グラファイト製品内の樹脂量は、最終的な硬化構造は高密度且つ密着性でありつつも、高密度化グラファイト構造に伴う異方性の熱伝導性は維持される、又は向上されることを保証する程度に十分な量であるべきである。好適な樹脂含量は、好ましくは少なくとも約3重量%、より好ましくは約5〜35重量%であり、好適には最大約60重量%である。本発明の実施にとりわけ有用であることが判明した樹脂としては、アクリル型、エポキシ型及びフェノール型樹脂系、フルオロ系ポリマー、又はそれらの混合物などが挙げられる。好適なエポキシ樹脂系としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)、及び他の多官能樹脂系などが挙げられる。使用し得るフェノール系樹脂としては、レゾールフェノール樹脂及びノボラックフェノール樹脂などがある。任意に、フレキシブルグラファイトには、樹脂に加えて、又は樹脂の代わりに繊維及び/又は塩を含浸させてもよい。更に、特性(例えば、粘着性、材料流動性、疎水性など)を改変するために、反応性又は非反応性添加剤を樹脂系と共に使用してもよい。
【0041】
典型的な樹脂含浸工程では、フレキシブルグラファイト材料を容器に通し、例えばスプレーノズルから出る樹脂系をフレキシブルグラファイト材料に含浸させる。この樹脂系を、真空チャンバを用いて「マットを通して引張る」のが有利である。典型的には、しかし必ずしもそうでなくてもよいが、樹脂系は溶媒和になり、フレキシブルグラファイトへの適用が容易になる。その後、好ましくは樹脂を乾燥させ、樹脂及び樹脂含浸物品の粘着性を低減させる。
【0042】
別の方法として、本発明のフレキシブルグラファイトは、新たに膨張させたウォームではなく再粉砕したフレキシブルグラファイトシートの粒子を利用してもよい。再粉砕材料は、新たに形成した材料、リサイクルした材料、スクラップシート材料又は他の好適な原料であってもよい。
【0043】
また、本発明の方法においては、未使用材料とリサイクル材料との混合物を使用してもよい。
【0044】
リサイクル材料の原料は、上記のように圧縮成形した物品やその物品の切れ端部分、又は、例えば、前カレンダー加工ロールで圧縮した樹脂未含浸シートであってよい。更に、原料は、樹脂を含浸させ硬化させていないものでも、樹脂を含浸させて硬化させたものでもよい。また、原料は、フローフィールドプレート又は電極等のリサイクルしたフレキシブルグラファイト燃料電池成分であってもよい。グラファイトの種々の原料を各々そのまま使用してもよいし、天然グラファイトフレークと混合して用いてもよい。
【0045】
フレキシブルグラファイトシートの原料が得られたら、次いで、ジェットミル、エアーミル、ブレンダー等の既知の方法又は装置により粉砕して粒子を生成することができる。粒子の大部分が20USメッシュを通過するような直径を有することが好ましい。粒子の大部分(約20%を超え、最も好ましくは約50%を超える)が80USメッシュを通過しないような直径を有するものであることがより好ましい。粒子は、粒度が約20メッシュを超えないものであることが最も望ましい。粉砕工程中に樹脂系に対して熱損傷を与えないように、フレキシブルグラファイトの粉砕中に樹脂を含浸させる際にフレキシブルグラファイトを冷却することが望ましいこともある。
【0046】
粉砕粒子のサイズは、グラファイト製品の機械加工性及び成形性と、所望の熱特性とがバランスするように選択すればよい。従って、粒子が小さいほど、グラファイト製品の機械加工及び/又は成形がより容易となり、一方、粒子が大きいほど、グラファイト製品の異方性が大きくなり、従って、面内の導電率及び熱伝導性がより大きくなる。
【0047】
原料を粉砕し(原料に樹脂を含浸させた場合、その後、粒子から樹脂を除去するのが好ましい)、次にそれを再膨張させる。上記の物質挿入及び剥離方法、並びに米国特許第3,404,061号(Shane等)や米国特許第4,895,713号(Greinke等)に記載されている物質挿入及び剥離方法を用いることにより、再膨張させてもよい。
【0048】
典型的には、物質挿入の後、炉においてインターカラント粒子を加熱することにより粒子を剥離する。この剥離工程中、天然のインターカラントグラファイトフレークを、リサイクルしたインターカラント粒子に添加してもよい。再膨張工程中、粒子を膨張させて比容積が少なくとも約100cc/gで最大約350cc/g以上の範囲とすることが好ましい。最終的に、再膨張工程の後、以下で説明するように、再膨張させた粒子を圧縮して凝集材料とし、樹脂を含浸させてもよい。
【0049】
前述の記載に従って調製したグラファイト材料は、一般に、剥離グラファイトの圧縮粒子とも呼ばれる。これらのグラファイト材料には樹脂を含浸させてあるので、電子・熱マネイジメント用などの意図した用途においてシートを使用する前に、シート内の樹脂を硬化させる必要がある。
【0050】
本発明によれば、上述のように調製した樹脂含浸グラファイト材料を圧縮して所望の厚さ(一般には、厚さ約0.35mm〜0.5mm)及び形状にする。その際、含浸マットの密度は約1.4g/cm〜約1.9g/cmである。
【0051】
樹脂含浸圧縮フレキシブルグラファイト材料を連続的に形成するための装置の1つのタイプが国際特許公開公報WO00/64808(この開示は引用することにより本明細書の内容の一部とされる)に示されている。
【0052】
圧縮工程(例えば、カレンダー加工)の後、含浸材料を好適なサイズの片に切断し、プレス内に載置し、ここで樹脂を高温で硬化させる。この温度は、硬化圧力下で薄層構造は高密度化されるが、構造の熱特性には悪影響を及ぼさないことを保証する程度に十分な温度でなければならない。一般に、これには、少なくとも約90℃、一般には最大約200℃の温度が必要とされる。最も好ましくは、硬化は、約150℃〜200℃の温度で行われる。硬化に用いられる圧力は、ある程度は、使用する温度の関数であるが、構造の熱特性に悪影響を及ぼすことなく、薄層の高密度化を確実に行う程度に十分な圧力である。一般に、製造の便宜上、所要の程度まで構造を高密度化させる必要最小の圧力が使用される。その圧力は、一般に、少なくとも約7メガパスカル(Mpa:1平方インチ当たり約1000ポンドに相当)であり、約35Mpa(約5000psiに相当)を超える必要はなく、より一般的には約7Mpa〜21Mpa(1000psi〜3000psi)である。硬化時間は、樹脂系並びに使用する温度及び密度に応じて変えてもよいが、一般には約0.5時間〜2時間である。硬化が完了すると、複合体は少なくとも約1.8g/cmの密度、及び一般的には約1.8g/cm〜2.0g/cmの密度を有すると考えられる。
【0053】
カレンダー加工又は成形によるシート形成は、本発明の実施に際して有用なグラファイト材料を形成する最も一般的な方法であるが、他の形成方法も使用できる。例えば、剥離グラファイト粒子を圧縮成形して、網状にするか、又は網状に近い形状とすることができる。それ故、ある形状又は外形を持ったヒートシンク又はヒートスプレッダなどの製品が最終用途で必要となる場合、樹脂含浸の前又は後にグラファイト製品を成形してその形状又は外形とすることができる。その後、同じ形状を持った金型内で硬化を行う。実際、好ましい実施態様では、圧縮及び硬化を同じ金型内で行う。次いで、機械加工を行って最終形状とすることができる。
【0054】
本発明の、高温で加圧硬化されたグラファイト/樹脂複合体は、銅の重量画分にて、銅の面内熱伝導性に匹敵するか、又はそれを超える面内熱伝導性を有するグラファイト系複合材料を初めて提供する。より詳細には、本発明の複合体は、少なくとも約300W/mKの面内熱伝導性を示し、約15W/mK未満、より好ましくは約10W/mK未満の面貫通(through−plane)熱伝導性を有する。この材料は、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、ヒートパイプなどの熱放散用途において、特に銅の重量が不都合となる場合に極めて有用である。
【0055】
上述の説明は、当業者が本発明を実施できるように意図されている。当業者がこの説明を読めば明白になるであろう可能な変形及び修正の全てを詳述することを意図するものではない。しかしながら、かかる全ての修正及び変形は、特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内に包含されることを意図している。特許請求の範囲は、文脈上他の意味に解釈する場合を除き、本発明が意図する目的を達成する程に効果的な構成又は順序で示した要素及び工程を包含するように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温で加圧硬化された、樹脂含浸グラファイト製品を含む、樹脂/グラファイト複合材料。
【請求項2】
前記樹脂がエポキシである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記グラファイト製品が、少なくとも約90℃の温度で、かつ少なくとも約7MPaの圧力で、加圧硬化したものである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記硬化した複合材料の密度が、約1.8g/cmよりも大きい、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記グラファイト製品が、約200℃未満の温度で、かつ約35MPa以下の圧力で、加圧硬化したものである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
高温で加圧硬化された、剥離グラファイトの圧縮粒子からなる樹脂含浸シートを少なくとも1つ含む、電子熱マネイジメント装置。
【請求項7】
前記グラファイトシートが、少なくとも約90℃の温度で、かつ少なくとも約7MPaの圧力で、加圧硬化したものである、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
熱伝導性に異方性があり、かつ、少なくとも一平面において300W/mKよりも大きい熱伝導性を有する、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記熱伝導性の異方性が、熱伝導性が高い方の面と、低い方の面との間において、少なくとも15倍異なる、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記加圧硬化したグラファイトシートの密度が、約1.85g/cmよりも大きい、請求項6に記載の装置。
【請求項11】
前記グラファイトシートが、少なくとも3重量%の樹脂含有量を有する、請求項6に記載の装置。
【請求項12】
前記グラファイトシートが、約5〜約35重量%の樹脂含有量を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
面内熱伝導率が約300W/mKよりも大きく、かつ面貫通熱伝導率が約15W/mK未満である、高温で加圧硬化された、剥離グラファイトの圧縮粒子からなる樹脂含浸シートを少なくとも1つ含む、異方性電子熱マネイジメント装置。
【請求項14】
前記樹脂がエポキシである、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記樹脂含浸シートの密度が、少なくとも約1.85g/cmである、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
グラファイト製品を樹脂で含浸し、加圧かつ高温下で前記樹脂を硬化させることを含む、樹脂/グラファイト複合材料の製造方法。
【請求項17】
前記樹脂がエポキシである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記グラファイト製品が、少なくとも約90℃の温度で、かつ少なくとも約7MPaの圧力で、加圧硬化したものである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記硬化した複合材料の密度が、約1.8g/cm3よりも大きい、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記グラファイト製品が、約200℃未満の温度で、かつ約35MPa以下の圧力で、加圧硬化したものである、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2007−533818(P2007−533818A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509442(P2007−509442)
【出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/016581
【国際公開番号】WO2005/108057
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(505064286)アドバンスド、エナジー、テクノロジー、インコーポレーテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED ENERGY TECHNOLOGY INC.
【Fターム(参考)】