説明

樹脂密着性に優れた樹脂塗装アルミニウム板

【課題】絞り加工により有底円筒状構造体を形成する成形加工後において、樹脂密着性に優れたアルミニウム板を提供する。
【解決手段】算術平均高さRaが0.1μm以上0.5μm以下かつ負荷長さ率Rmr(1.5μm)が50%以上であるアルミニウム材の表面に、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有しかつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル樹脂からなり、乾燥重量5mg/m以上5000mg/m以下である樹脂塗膜を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を設けたアルミニウム板に関し、特に絞り加工により有底円筒状構造体を形成する成形加工後において、樹脂密着性に優れたアルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板(以下、アルミニウム板とする)は、軽量で適度な機械的特性を有し、かつ美感、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種容器類、構造材、機械部品等に広く使われている。
上記用途のアルミニウム板は、耐食性・耐溶出性のさらなる向上、外観の向上およびキズつき防止等のため、その表面に樹脂塗料の塗装および樹脂フィルムのラミネート加工が施されることが多い。このときアルミニウム板には、樹脂密着性ならびに耐食性を向上させるため、既存技術に基づいた下地処理(例えばリン酸クロメート、クロム酸クロメートおよびリン酸ジルコニウム等の化成型下地処理)が施されるのが一般的である。アルミニウム製キャップの場合、材料のアルミニウム板に下地処理および樹脂被覆を施してから成型加工するプレコート材料が多く用いられている。
キャップ成型用プレコートアルミニウム合金板に対しては、成型加工をしても樹脂の剥離が生じないための樹脂密着性や、腐食雰囲気に侵されない耐食性、ならびに高度な成型に耐えうる加工性が要求される。こうした要求に対し、特に塗膜密着性向上の立場から、広範な分野においてさまざまな提案がなされている。特に下地処理方法においては、従来技術に基づく化成型下地処理に加え、その上に密着性を向上させる有機物を設けた後、それらの上に樹脂を設ける方法が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1は、アルミニウム板にリン酸クロメート処理を施した後、特定のフェノール重合体を含む溶液中で処理するか、またはアルミニウム板にリン酸クロメート処理を施し、次いでシラン処理を施して表面処理アルミニウム板を作成し、これに熱可塑性樹脂を被覆して樹脂被覆アルミニウム板とし、絞りしごき加工を施してコンデンサー外装用容器に成形する方法を提案している。
又、特許文献2は、化成型下地処理皮膜が、Cr付着量が1mg/m以上30mg/m以下かつ表面C量が50mg/m以下であるリン酸クロメートであり、その上に重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有し、かつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル酸化合物の重合体を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設け、その上に乾燥重量に対し5mass%以上の顔料を含有する塗膜を設けたキャップ成形用アルミニウム板を提供している。
さらに特許文献3は、表面の凹凸の平均間隔Smが5〜200μmの範囲内にあり、かつ凹凸の斜面の平均傾斜角θaが3〜30°の範囲内にあり、しかも十点平均粗さRzが0.5〜5μmの範囲内にあることを特徴とする、被覆層の密着性に優れた被覆用アルミニウム合金板を提案している。

【特許文献1】特開2001−303273公報
【特許文献2】特開2008−126515公報
【特許文献3】特許3680206公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような従来技術には、以下のような問題があった。すなわち、ボトル缶を始めとする再密閉可能な容器に用いられるアルミニウム製キャップは、深絞り成型、スクリュー成型、更にはピルファープルーフ化に伴うミシン目加工など、特許文献1の対象であるコンデンサーケースと比べ、非常に厳しい加工を受ける。加えて、ボトル缶がホット飲料に採用されるようになったため、キャップの樹脂に耐レトルト性も要求されるようになっている。さらに近年は、コスト低減の観点からアルミニウム薄肉化の要求が高まっており、アルミニウム素材の薄肉・高強度化が検討されているが、こうした高強度材をキャップに加工した場合、金型クリアランスはよりシビアに、また成型荷重はより高くなるため、材料表面にかかるストレスが従来以上に高くなる。
こうした条件に対し、特許文献1、2および3のような技術では、厳しい加工を受けた後の樹脂密着性が不足するため、レトルト後の塗膜剥離のような問題が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、アルミニウム板表面において、甲)表面粗さにおける「凸」を全体的に低くする一方で「凹」のみを深くすること、および、乙)重量平均分子量500あたり1個以上のカルボキシル基を含有しかつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル樹脂を5mg/m以上5000mg/m以下の付着量にて設けること、が有効であることを見出した。
【0006】
すなわち、算術平均高さRaが0.1μm以上0.5μm以下かつ負荷長さ率Rmr(1.5μm)が50%以上であるアルミニウム材の表面に、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有しかつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル樹脂からなり、乾燥重量5mg/m以上5000mg/m以下である樹脂塗膜を形成したことを特徴とするアルミニウム板。
【0007】
また、熱間圧延あるいは冷間圧延により製造されるアルミニウム板であって、表面の形状が最大高さRzが1.0μm以上5.0μm以下であるロールにて最終圧延を施し、次いで表面の形状が算術平均高さRaが0.01μm以上0.5μm以下であるロールにて矯正工程を行った後、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有かつ重量平均分子量が1000以上100万以下である水性または溶剤性のアクリル樹脂塗料を、乾燥重量にて5mg/m以上5000mg/m以下となるよう塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒以下乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたアルミニウム板の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の請求項に従って作られたアルミニウム板は、適切な表面粗さの構成によりアンカー効果が発揮され、また適切なアクリル樹脂の存在によってアルミニウム表面と樹脂との密着性がさらに高められる結果、成型加工後の樹脂密着性にきわめて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を順に説明する。
本発明は、大きく分けて二つの要素により構成されている。すなわち、「アルミニウム材の表面に50%以上を越えるなだらかな表面と、適度な深さとなる凹部を有する表面を形成すること」と、「上記の表面粗さをもつ表面にアクリル樹脂からなる樹脂塗膜を形成すること」である。
【0010】
第一に、表面粗さの作用について説明する。
まずアルミニウム板表面は、算術平均高さRaが0.1μm以上0.5μm以下でなければならない。算術平均高さとは、基準長さにおける粗さ曲線の絶対値の平均であり、その測定方法はJIS B 0601-2001に従う。これは、凹凸の度合いを直感的に表現する指標として最も多用されており、数値が低いほど滑らかな表面であることを表している。Raが0.1μmを下回る場合、表面が滑らか過ぎるために、その上に塗装およびラミネート等の手段により樹脂を設けて成型加工した場合、凹部に樹脂が流れ込むことによる密着性向上効果、いわゆるアンカー効果が発生せず、樹脂の密着性が低下する。反対にRaが0.5μmを上回る場合、全体的な凹凸が激しいため、上述のアンカー効果による密着性向上が、ある程度期待できる。しかし一方で、凸部において樹脂塗膜が局部的に薄くなり、その部分が加工中にひび割れ、剥離の起点となりやすい。
【0011】
加えてアルミニウム板表面は、負荷長さ率Rmr(1.5μm)が50%以上であることが必要である。これは、樹脂塗膜が局部的に薄くなることを防止しつつ、アンカー効果を最大限に利用するために必須となる項目である。負荷長さ率とは、ある切断レベルc(本発明においては1.5μm)における輪郭曲線要素の負荷長さMrの評価長さに対する比率を表したものであり、その測定方法はJIS B 0601-2001に従う。Rmr(1.5μm)=50%ということは、最も高い凸部から1.5μmの深さで表面を水平に切断すると、表面の50%が切り取られることを意味している。本発明によると、最も高い凸部から1.5μm以内に、全体の50%以上の領域が含まれる。言い換えると、高低差1.5μm以内という非常に滑らかな領域が全体の50%以上を占めた状態である。
【0012】
上記のRaおよびRmr(1.5μm)の条件を満たした状態を定性的に表現すると、「全体としてはアンカー効果が期待できる程度に荒れており、その50%以上は非常に平滑な台地状で、残りは凹部」という形状になる。突出した凸部が存在しないことで、塗膜の薄い部分が発生せず、凹部が散在していることで、塗膜がアンカー効果を発揮する。この効果の組み合わせにより、優れた加工性を発揮するものである。
なおアルミニウム板は、上記条件を満たす限り、製造方法および材質は問わない。具体的には、圧延材、押出材、鋳造材および鍛造材等のいずれも適用可能であり、材質としては1000系、3000系、5000系および7000系など、工業的に用いられるアルミニウム合金のいずれにも有効である。
【0013】
第二に、アクリル樹脂の作用について説明する。
本発明においてアルミニウム板表面に設けるための物質としては、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有し、かつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル樹脂が最も適している。これは、アクリル樹脂に含まれるカルボキシル基が、アルミニウム表面に存在するAl-O部分や、化成処理皮膜においては皮膜表面の極性基と強固に結びつくとともに、樹脂の骨格部が塗膜の樹脂成分と溶融接着層形成効果を発揮するため、アルミニウム表面と塗膜の双方に強力に作用するためである。この他、アクリル樹脂は一般的に、屈折率が高く無色であることや、内分泌かく乱性物質(いわゆる環境ホルモン)であることが指摘されるビスフェノールAを含有しないこと等、食品包装用途として好ましい性質を備えている。以上の要件を満たす限り、本発明においては、従来技術にて公知であるアクリル樹脂をそのまま適用できる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリヒドロキシアクリル酸、ポリヒドロキシアクリル酸エステルおよびそれらの共重合体などが好適である。加えて、アンモニア、アミン類あるいはアルカリ金属水酸化物等でpH調整した樹脂も、同様に好適に用いることができる。さらに、メラミン系化合物およびユリア系化合物を架橋剤として添加した樹脂も、同様に好適に用いることができる。
また、本発明に用いるアクリル樹脂の分子量は、重量平均分子量にして1000以上100万以下のものでなければならない。これは、重量平均分子量が1000を下回ると、樹脂塗膜の水溶性が高まり、レトルト処理等におけるアクリル樹脂層の溶出が懸念されるためであり、100万を上回ると、樹脂塗膜の柔軟性が損なわれて樹脂皮膜自身の割れが発生しやすくなる上、粘度が増大することによる塗装ムラ等が生じやすいためである。
【0014】
そして本発明において、上記のアクリル樹脂からなる樹脂塗膜は乾燥重量5mg/m2以上5000mg/m2以下であることが必須である。これは、樹脂塗膜が乾燥重量5mg/m2を下回るように塗布すると、アルミニウム板表面に均一に塗布することが工業的に難しく、部分的に塗布抜け等が生じる危険性がある。また5000mg/m2を上回ると、アクリル樹脂層の残留応力が大きくなり、強い加工を行った際に樹脂層の凝集破壊を招くためである。さらに、樹脂塗膜の乾燥重量は、10mg/m2以上500mg/m2以下であれば、より好ましい。これは、10mg/m2以上であれば塗布抜け発生の危険がほぼ回避できること、ならびに本発明の効果は500mg/m2にてほぼ飽和するため、それ以上多量に樹脂塗膜を設けてもコスト的に不利になるという、いずれも工業的な理由によるものである。
【0015】
このようにして得られたアルミニウム板は、その表面に塗装およびラミネート等の手段により樹脂を設けることで、特にキャップ成型用の材料として好適に用いることができる。樹脂塗膜に用いられる樹脂については、従来技術に基づくものであればよい。例えば塗料であれば、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂および塩化ビニル系樹脂等、一般的に用いられる樹脂をそのまま用いることができる。また塗料は、水溶性であっても溶剤性であってもよく、酸化チタン等の顔料が含まれていてもよい。また例えばラミネートであれば、従来技術に基づき製造されたポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等のフィルムを、フィルム融点以上の温度にて熱圧着すればよい。さらにこれらの樹脂の上には、色彩付与を目的とした各種インキ層を設けてもよく、トップコートとして各種仕上げクリアー塗膜を設けてもよい。
【0016】
本発明のような成型加工後の樹脂密着性に優れたアルミニウム板を得る製造方法として、表面の形状が最大高さRzが1.0μm以上5.0μm以下であるロールにて最終圧延を施し、次いで表面の形状が算術平均高さRaが0.1μm以上0.5μm以下であるロールにて矯正工程を行った後、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有かつ重量平均分子量が1000以上100万以下である水性または溶剤性のアクリル樹脂塗料を、乾燥重量にて5mg/m以上5000mg/m以下となるよう塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒以下乾燥させる方法を挙げることができる。
【0017】
アルミニウム素材の成型方法は、ダイキャスト等の鋳造、ロールによる圧延、金型による押出や引抜などが挙げられるものの、アルミニウム板を製造する方法としては、ほとんど全て、ロールによる熱間あるいは冷間圧延が用いられる。特に、適度な機械的特性を得るために、熱間圧延によりある程度の板厚まで圧延した後、引き続き冷間圧延を行う方法が多く用いられる。 ここで、圧延の最終段階、すなわち素材が圧延ロールに触れる最後のパスにおいて、圧延ロールの表面を最大高さRzが1.0μm以上5.0μm以下とすることにより、素材にロール粗さが転写される。この工程は、アルミニウム板表面を適度に荒らすことが目的であり、ロール表面のRzが1.0μm未満では板表面に十分な凹が形成されず、以降で説明する矯正工程後においてRaが小さくなりすぎる。一方で5.0μmを上回ると、矯正工程で凸が潰しきれないほど表面が荒れてしまい、矯正工程後のRaが大きくなりすぎ、いずれも不適である。
【0018】
続いて、上記圧延工程にて適度に表面を荒らされたアルミニウム板に対し、ロール表面の算術平均高さRaが0.01μm以上0.5μm以下であるロールにて矯正工程を行うことにより、請求項1の要請に沿った表面粗さを持つアルミニウム板が得られる。矯正工程は、レベリング工程やレベラー工程などとも称され、主に冷間圧延後のアルミニウム板のひずみを取り除くために実施されるもので、ローラーレベラーと呼ばれる設備を用いることが多い。このローラーレベラーにおいて、表面の算術平均高さRaが0.01μm以上0.5μm以下という平滑なロールを使用することにより、材料表面の凹凸が適度に押しつぶされる。
具体的には、圧延工程終了時のアルミニウム表面には、凹の部分と凸の部分がほぼ等量存在しているが、平滑なロールによる矯正工程を受けると、凹の部分はそのまま保存される一方で、凸の部分のみが押しつぶされて平滑化する。その結果、アルミニウム板表面において、Raを0.1〜0.5μmに保ちながら、Rmr(1.5μm)が50%以上であるアルミニウム板が得られるものである。ローラーレベラーのロール表面のRaが0.01μmを下回ると、ロールが平滑すぎるため空転し、矯正工程が十分に行われない可能性がある。反対に0.5μmを上回ると、アルミニウム板の凸を押しつぶす作用が十分に働かず、板表面のRaが大きくなりすぎる。
【0019】
なお、このようにアルミニウム板の表面粗さ形状を整えた後、続くアクリル樹脂塗料の濡れ性を向上させること、あるいは素材の耐食性をさらに向上させることを目的とし、従来技術に基づく脱脂工程および化成処理工程を追加することができる。具体的には、pHが9〜13程度の市販アルカリ脱脂剤の水溶液を60度前後に加熱し、スプレーにてアルミニウム板表面に吹き付ける等の脱脂工程や、脱脂工程後にリン酸クロムおよびフッ化水素酸を作用させるリン酸クロメート処理等の化成処理工程が挙げられる。近年は環境対応型の化成処理として、ジルコニウム化合物やチタン化合物等を利用した、いわゆるノンクロム化成処理も用いられるようになっており、本発明においても当然適用可能である。
【0020】
このようにして、理想的な表面粗さ形状が得られたアルミニウム表面に対し、適当な濃度に調製した水性または溶剤性のカルボキシル基含有アクリル樹脂塗料を塗布し乾燥させることにより、請求項1のアルミニウム板を得ることができる。この際、乾燥温度が30℃を下回ると、水または溶剤の揮発速度が遅いため、生産性に悪影響を及ぼし、また乾燥温度が300℃を上回ると、温度維持のためのエネルギーが無駄になる他、特に水溶性アクリル樹脂を用いた場合に液膜の突沸が発生しやすいため、いずれも好ましくない。生産性、エネルギーおよび突沸防止の観点からは、乾燥温度は60℃以上200℃以下とすることが、さらに好ましい。乾燥時間が1秒を下回る条件設定では、水または溶剤の揮発が十分に行われず、また600秒を上回ると生産性に悪影響を及ぼし、いずれも好ましくない。溶剤揮発、および生産性の観点からは、乾燥時間は10秒以上60秒以下とすることが、さらに好ましい。なお、アクリル樹脂塗料の塗布方法については特に制限はなく、板を溶液に浸漬した後ロールで絞る方法や、コーターロールにより板に塗りつける方法、およびスプレーにより板に吹き付ける方法等を用いることができる。中でも、アクリル樹脂の付着量が5mg/m2以上5000mg/m2以下となるように制御するためには、コーターロールを用いた方法が特に好ましい。なお、アクリル樹脂の付着量を測定するためには、付着量の狙い値が約500mg/m2以下の場合は反射赤外吸収スペクトル測定法、それ以上の場合は重量法を用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
アルミニウム材として、板厚0.23mmのJIS5151−H39合金板を使用した。板の製造工程の詳細および板表面の粗さ測定結果は、表1に記載したとおりである。これらの板に対し、前処理として従来技術に基づく脱脂処理あるいはリン酸クロメート処理を実施した。すなわち、市販のアルカリ脱脂剤「サーフクリーナー EC370」(日本ペイント製、濃度1.0%、温度60℃)により板表面を脱脂するとともに、一部の実施例に対しては市販のリン酸クロメート処理剤「アルサーフ408/48」(日本ペイント製、濃度2.0%/0.4%、温度45℃)によりリン酸クロメート皮膜を形成させた。皮膜の量は、Cr付着量=10mg/mに調整した。
【0022】
上記のアルミニウム材表面に塗布するためのアクリル樹脂塗料として、表2に示す性状のアクリル樹脂を水又は有機溶媒(2−ブタノン)に溶解したものを用いた。表2のアクリル樹脂には、A:ポリアクリル酸、B:ポリアクリル酸、C:ポリメタクリル酸エステル、D:ポリアクリル酸エステル、E:ポリアクリル酸、F:ポリアクリル酸エステルを用いた。アクリル樹脂塗料の濃度は、100g/リットルとした。これらの溶液を、ステンレスバーコーターにて表3に示す乾燥重量となるように塗布し、雰囲気120℃・風速15m/秒の炉において30秒乾燥させた。
このようにして得られたサンプルに対し、以下の評価を実施した。
【0023】
〔塗料の塗布〕
サンプルに対し、以下の手順にて塗装を実施した。
・外面(後述のキャップ成型において、外面に相当する面): 市販のキャップ用溶剤型塗料「ホワイトコーチング」(酸化チタン顔料含有,ポリエステル系樹脂,塗膜量13g/m2狙い,焼付温度=190℃,焼付時間=600秒)を塗布した上に、市販のキャップ用溶剤型塗料「トップコート」(ポリエステル系樹脂,塗膜量5g/m2狙い,焼付温度=180℃,焼付時間=600秒)を塗布した。
・内面(後述のキャップ成型において、内面に相当する面): 市販のキャップ用溶剤型塗料「トップコート」(ポリエステル系樹脂,塗膜量5g/m2狙い,焼付温度=180℃,焼付時間=600秒)を塗布した。
【0024】
〔キャップ加工後の密着性評価〕
上記の塗装サンプルの両面に、市販のシリコン系潤滑剤を50mg/m2ずつ塗布し、キャップ成型機により絞り成型加工(キャップ径=38mm、キャップ高さ=18mm)を行った後、ミシン目加工・スクリュー加工の順に行った。得られたキャップに対し、ミシン目部、キャップ下端およびビード部の塗膜剥離状態を、成型直後/レトルト後(125℃×30分)にて目視観察した。ミシン目部、キャップ下端およびビード部の全長に対する剥離発生部位の長さを%単位で記録し、これらの平均値に対し、以下の基準にて判定を行った。
剥離発生0%以上5%未満 判定=◎
剥離発生5%以上10%未満 判定=○
剥離発生10%以上25%未満 判定=△
剥離発生25%以上50%未満 判定=×
剥離発生50%以上 判定=××
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
表3から明らかなように、実施例1〜14は、本発明要件である表面粗さおよびアクリル樹脂の条件を満たすため、キャップ成型試験において、成型直後/レトルト後とも良好な結果を示した。一方、比較例1〜11は、本発明の要件を満たしていないため、塗膜剥離が目立つ結果となった。具体的には、比較例1および2は、Raが低すぎるため、アンカー効果が不足し、塗膜剥離が発生している。比較例3は、表面のRaが高すぎるため、塗膜が局所的に薄くなり、塗膜が加工に耐えられず、剥離している。比較例4は、Raは適正であるもののRmr(1.5μm)が低すぎるため、やはり塗膜が局所的に薄くなり、加工に耐えられずに剥離を生じている。比較例5は、Raが高すぎかつRmr(1.5μm)が低すぎるため、アクリル樹脂の効果にもかかわらず加工性が著しく低下し、塗膜剥離を生じている。比較例6は、アクリル樹脂が設けられておらず、塗膜のアルミニウム板に対する密着性が不足するため、塗膜剥離を生じている。比較例7は、アクリル樹脂のカルボキシル基が不足しているため密着性が不足し、比較例8は、アクリル樹脂の分子量が低すぎるため、成型自体には効果を持つものの、レトルト処理後の剥離が顕著である。比較例9は、アクリル樹脂の分子量が高すぎるため、成型の際に樹脂が割れてしまい、塗膜剥離が発生している。比較例10は、アクリル樹脂の塗布量が少なすぎるため、塗膜剥離が抑制しきれない。比較例11は、アクリル樹脂が多すぎるため、成型の際に樹脂層に応力が蓄積され、塗膜剥離を誘発している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
算術平均高さRaが0.1μm以上0.5μm以下かつ負荷長さ率Rmr(1.5μm)が50%以上であるアルミニウム材の表面に、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有しかつ重量平均分子量が1000以上100万以下であるアクリル樹脂からなり、乾燥重量5mg/m以上5000mg/m以下である樹脂塗膜を形成したことを特徴とする、成型加工後の樹脂密着性に優れた樹脂塗装アルミニウム板。
【請求項2】
熱間圧延又は冷間圧延により製造されるアルミニウム板であって、表面の形状が最大高さRzが1.0μm以上5.0μm以下であるロールにて最終圧延を施し、次いで表面の形状が算術平均高さRaが0.01μm以上0.5μm以下であるロールにて矯正工程を行った後、重量平均分子量500につき1個以上のカルボキシル基を含有かつ重量平均分子量が1000以上100万以下である水性または溶剤性のアクリル樹脂塗料を、乾燥重量にて5mg/m以上5000mg/m以下となるよう塗布し、30℃以上300℃以下の雰囲気にて1秒以上600秒以下乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れた樹脂塗装アルミニウム板製造方法。

【公開番号】特開2010−137475(P2010−137475A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317543(P2008−317543)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】