説明

樹脂成形体

【課題】 内部に流体を貯留あるいは通流する内部空間を形成するための樹脂成形体において、金属製電極が樹脂成形体の壁部を貫通するように設けられた部分からの流体の漏洩を防止あるいは抑制する。
【解決手段】 流体を貯蔵または通流する内部空間を画成し、流体の電圧もしくは電流を検知できるように、電極2を一体化した樹脂成形体1において、電極2が一体化される部分に、前記内部空間と互いに連通もしくは一致する中空空間6を有するパイプ状部分を形成すると共に、一体化された電極は、その一端2aが前記パイプ状部分3の第1壁部分31の外部に露出するとともに、前記第1壁部分31を貫通し、さらに前記中空空間6を露出状態で径方向に横断して、その他端部2bが前記第1壁部分31と対向する第2壁部分32に埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐圧気密容器や輸液配管などの、内部に液体や気体などの流体を貯蔵あるいは通流する空間を形成するための樹脂成形体に関する。特に、樹脂成形体が樹脂の射出成形により成形され、電極が樹脂成形体の壁部を貫通するようにインサート成形によって一体成形された樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液体や気体などの流体を貯蔵するためのタンク・圧力容器やそれらの部品、又はそれら流体を通流するための流路を形成する部材などとして、合成樹脂を射出成形することにより得られる中空形状の樹脂成形体を使用することが広く行われている。また、これら樹脂成形体において、内部の流体に電圧や電流を印加したり、あるいは、内部の流体の電位、電流などを検知したりするために、樹脂成形体の壁部を外部から内部に貫通するように、金属製の電極をインサート成形によって樹脂成形体に一体化することも行われている。
【0003】
電極のインサート成形を行う場合には、金属製の電極と樹脂成形体の界面の接着性が悪いと、界面を伝って内部の流体が外部に漏洩するおそれがあり、その改善が試みられてきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、インサート成形される金属部品にあらかじめケミカルエッチング処理を施すことにより、樹脂成形体と金属部品の接着性を高めて気密性を高めることが開示されている。また、特許文献2には、インサートされる金属部品に断面V字状の凹溝を部品外周全周に亘って設けて、金属製電極と樹脂成形体の界面からの流体の漏洩を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−225352号公報
【特許文献2】特開平7−256693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来技術によっても、金属製の電極と樹脂成形体の界面からの流体の漏洩を完全に防止することは難しい。
【0007】
すなわち、樹脂成形体100の外部に露出する電極99の端部99aにコネクターや電線を結線する電極接続作業時に、電極外端部99aにかかる力によって電極99の倒れ方向に変位が与えられると(図6参照)、電極99と樹脂成形体100の界面の密着性が損なわれ、電極99を埋設した部分のシール性が劣化するおそれがあった。特に、電極を設ける部位のレイアウト上の制限などによって、電極が貫通する部分の樹脂成形体の壁の肉厚が厚くできない場合には、そのようなおそれが顕著となりやすい。
【0008】
したがって、本発明の目的は、内部に流体を貯留あるいは通流する内部空間を形成するための樹脂成形体において、金属製電極が樹脂成形体の壁部を貫通するように設けられた部分からの流体の漏洩を防止あるいは抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、鋭意検討の結果、樹脂成形体に電極が一体化される部分をパイプ状に形成して、パイプ状部分の互いに対向する第1壁部と第2壁部分に電極を貫通・埋設するようにすると、電極の支持が強固となって上記課題が解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、流体を貯蔵または通流する内部空間を画成し、その外部から流体に電圧もしくは電流を印加又は流体の電圧もしくは電流を検知できるように、電極をインサート射出成形によって一体化した樹脂成形体であって、電極が一体化される部分において、前記内部空間と互いに連通もしくは一致する中空空間を有するパイプ状部分が形成されると共に、一体化された電極は、その一端が前記パイプ状部分の第1壁部分の外部に露出するとともに、前記第1壁部分を貫通し、さらに前記中空空間を露出状態で径方向に横断して、その他端部が前記第1壁部分と対向する第2壁部分に埋設されていることを特徴とする樹脂成形体である。
【0011】
本発明においては、電極の他端側が第2壁部分を貫通せずに、他端側の先端が第2壁部分に埋入されているとすることが好ましい(請求項2)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極が、パイプ状部分の第1壁部分を貫通すると共に、第1壁部分と対向する第2壁部分に埋設されて、樹脂成形体に一体化されているので、樹脂成形体外部に露出する電極端部に電線を接続する際に、電極端部に力がかかっても、電極が樹脂成形体に対して強固に支持されて、電極の倒れ変位や、電極と樹脂成形体の界面の密着性の劣化が未然に防止され、電極取り付け部位からの内部流体の漏洩を防止あるいは抑制できるという効果が得られる。
【0013】
さらに、電極の他端側の先端を第2壁部に埋入した場合には(請求項2)、第2壁部側において電極に起因する流体の漏洩を完全に防止でき、より効果的に内部流体の漏洩防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態である樹脂成形体の形状を示す断面図である。
【図2】本発明第1実施形態の樹脂成形体の射出成形に使用する金型構造を示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態の樹脂成形体を使用したリザーバタンク構造を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態の樹脂成形体の形状を示す断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態の樹脂成形体の形状を示す断面図である。
【図6】従来の樹脂成形品における電極取付部の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、合成樹脂製パイプを例にして説明する。図1に示す合成樹脂製パイプ1は、合成樹脂の射出成形により形成された樹脂パイプ3に、金属製の電極2がインサート成形により一体化された部材である。合成樹脂製パイプ1には、例えば、その両側にゴムチューブなどを接続して、内部の中空空間6を電解質液などを輸送するための流路として使用することができ、さらに、パイプ3の壁の外側と内側を貫通するように一体化された電極の外周側端部2aに電線を接続して、パイプ内部の流体に電圧を印加したり、あるいは、パイプ内部の流体の電位を検知したりすることに使用できる。
【0016】
樹脂パイプ3は、熱可塑性樹脂などの合成樹脂を射出成形することによって得られる部材であり、その内部には液体を通流するための中空空間6が画成されている。樹脂パイプ3を形成する合成樹脂としては、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂のほか、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム材料が使用できる。
【0017】
電極2は、樹脂パイプ3の内部の中空空間6と樹脂パイプ3の外部とを互いに電気的に結ぶように、樹脂パイプ3の壁31を貫通するようにされた金属製の棒状部材である。電極2の材料としては、アルミ、鉄、銅などの導電性の金属が使用できるほか、炭素質含有材料なども使用できる。必要に応じて、電極2には金メッキなどを施しても良い。電極2の基本形状としては、図1に示したようなピン状、丸棒状の形状でも良いが、角棒状やその他の形状のものであっても良い。
【0018】
電極2はその一端2aが、樹脂パイプ3の外部に露出するようにされ、樹脂パイプ3の第1壁部31を貫通して、電極2の一部(中央部)2cが中空空間6に露出するようにされている。さらに、電極2は、樹脂パイプ3の内部空間6を径方向に横断して、電極の他端2bが樹脂パイプの反対側の第2壁部32(すなわち、樹脂パイプ3の第1壁部分31と対向して設けられる樹脂パイプ3の壁部分)に埋設されている。本実施形態においては、電極の他端2bは、樹脂パイプの第2壁部32を貫通せずに、他端2bの先端が第2壁部分32に埋入されている。
【0019】
上記合成樹脂製パイプ1の製造方法について説明する。
合成樹脂製パイプ1は、以下に示すように、金属製電極2をインサート部材とした合成樹脂のインサート射出成形により製造される。図2は、合成樹脂製パイプ1を射出成形するための金型構造の模式図である。図2には、電極2を保持した状態で金型を型閉じした状態を示す。射出成形用の金型は、合成樹脂製パイプ1の外周面を形成する一対のキャビティ型41,42と、合成樹脂製パイプ1の内周面を形成する一対の分割コア43,44とを主要な構成部材として構成される。なお、図2において、キャビティ型41,42はパイプ1の中心線に沿った断面で示しているが、コア型43,44や電極2は断面とせずに図示している。
【0020】
キャビティ型41に設けられたピン穴に電極2となる所定長さのピンを挿入し、電極2を分割コア型43,44の突合せ面に設けられた電極保持溝ではさむようにして、電極2を仮保持する。この状態で、キャビティ型42を型閉じする。すると、キャビティ型41,42と分割コア型43,44によって、キャビティ5が形成される(図2の状態)。この型閉じ状態でゲート51から樹脂材料をキャビティ5内に射出し、樹脂を固化させた後に型開きして成形品を取り出し、電極2がインサート射出成形により一体化された合成樹脂製パイプ1が完成する。
【0021】
樹脂の射出及び固化に関しては、樹脂材料が熱可塑性樹脂である場合には、加熱により半溶融状態とした樹脂を金型内に射出し金型内で冷却により固化させて、樹脂材料が熱硬化性樹脂やゴム材料である場合には、液状あるいは軟化させた樹脂材料を金型内に射出し金型内で架橋反応させて固化させる汎用の方法によればよい。
【0022】
本発明の作用効果を説明する。本発明の合成樹脂製パイプ1においては、電極2がインサート成形されて樹脂成形体と一体化される部分が中空のパイプ状に形成される(上記実施形態では、樹脂成形体そのものがパイプ状に形成されている)とともに、電極2は、パイプ状部分の第1壁部31を貫通するとともに、電極2の他端部2bが第1壁部31と対向するパイプ状部分の第2壁部32に埋設されているので、電極2を、第1壁部31と第2壁部32の両方で支持して、樹脂パイプ3に強固に固定することができる。したがって、電線やコネクターを接続すべき電極先端部2aに力がかかった場合であっても、電極2が倒れ方向に変位してしまって、電極と樹脂成形体との間の界面の密着性やシール性が劣化することを予防でき、電極取り付け部からの流体の漏洩を防止あるいは抑制できる。
【0023】
また、本実施形態のように、電極の他端2b側を、その先端部が第2壁部32を貫通しないように埋入させた場合には、第2壁部32の側では電極2に起因する流体漏れが発生するおそれがなくなるため、より効果的に流体の漏洩を防止あるいは抑制できて、より好ましい。
【0024】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分については同様の番号を付すと共にその詳細な説明を省略する。
【0025】
図3、図4には、例えば、ブレーキ液のリザーバタンク等に使用される本発明の第2の実施形態を示す。
樹脂成形体10は、タンク本体部材8とともにリザーバタンクを構成する蓋部材であり、タンク本体部材8の開口部をふさぎ、ブレーキ液を貯留するための内部空間を画成するようにタンク本体部材8に一体化されている。
タンク本体部材8は金属製であっても樹脂製であっても良い。又、樹脂成形体10とタンク本体部材8の接続一体化は、適度な液密性が得られれば、ねじ込み式でも、接着でも良い。
【0026】
樹脂成形体10は、合成樹脂の射出成形によって形成される蓋成形体7に、金属製の電極9がインサート成形によって一体化された部材である。
蓋成形体7は、略円盤状の蓋本体部70のタンク内部となる側に、略トンネル状のパイプ部71が一体に形成され、パイプ部71と蓋本体部70との間には、中空の空間11が形成されている。ここで、パイプ部71の中空空間11は、リザーバタンクに組み立てられた際に、タンク本体8の内部空間81と連通するように、その両端部が開放されている。
【0027】
電極9は、蓋成形体7のパイプ部71が形成された部分に一体化されている。
電極9は、その一端9aが、蓋成形品7のタンク外部となる側に露出し、蓋本体部70を貫通し、中空空間11に露出し、さらにパイプ部71を貫通して、他端9bがタンク内部空間の側に露出するように、蓋成形体7に対し一体化されている。なお、本実施形態においては、電極9が蓋本体部70を貫通する部分において、電極9の外周にはリング状の突条が3本設けられている。
【0028】
本実施形態においても、蓋成形体7を射出成形する際に電極9をインサート射出成形によって一体化して製造することができる。また、本実施形態においても、蓋成形体7の蓋本体部(第1壁部分に相当)70とそれに対向するパイプ部(第2壁部分に相当)71とによって電極9を強固に支持し、電極端部9aに力が加えられようとも、電極9と蓋成形体7の界面からの液漏れのおそれを低減することができる。
【0029】
なお、電極9を支持する部分のうち、パイプ状部分の第2壁部においては、電極が第2壁部を貫通していてもよいし、電極先端部が第2壁部に埋入されていても良い。
前述した第1実施形態のように、第2壁部分に電極先端部が埋入されていれば、第2壁部分からの流体の漏れを防止する観点でより好ましいが、第2実施形態のようにその必要がないあるいはその必要性が低い場合には、電極が第2壁部を貫通するようにしても差し支えない。
【0030】
図5には、本発明のさらに他の実施形態である樹脂成形品Aを示す。
樹脂成形品Aは、全体が円筒状のパイプ状に形成されたポリプロピレン樹脂製の樹脂成形部Qの内側に、あらかじめ円筒状に形成された多孔質のセラミック製インサート部品Cと、角棒状の金属製電極部品Eとをインサート部品としてインサート成形により一体化した部品であり、樹脂成形品Aは電気浸透流ポンプに組み込まれて使用に供される。電気浸透流ポンプとは、特開2006−22807号公報などに開示されている液体用ポンプであり、液体中にセラミック製多孔質体をはさんで電極を設け、直流電圧を印加すると液体に電気浸透流と呼ばれると呼ばれる流れが生ずる現象を基本原理とするポンプである。樹脂成形品Aには、電気浸透流ポンプの構成部品のうち、セラミック製多孔質体Cと一方の電極Eが一体化されている。
【0031】
セラミック製インサート部品Cと角棒状の金属製電極部品Eとは、互いに密着するように当接して、それぞれ樹脂成形部Qと一体化されており、電極部品Eの一端E1は、樹脂成形部Qの第1壁部Q1を貫通して、樹脂成形品Aの外周面から外側に突出しているとともに、電極部品Eの中央部E3は、樹脂成形部Qの中空部QZに露出し、電極部品Eの他端E2は、樹脂成形部Qの第1壁部Q1に対向する第2壁部Q2に埋入されている。
【0032】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、電極を一体化した部分からの内部流体の漏れを効果的に防止あるいは抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、内部に流体を貯留・通流する空間を形成または画成するための樹脂成形体において、樹脂成形体を貫通するような電極を設ける部位に広く利用可能である。本発明によれば、電極を設ける部位からの流体の漏れを効果的に抑制・防止できて、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0034】
1 合成樹脂製パイプ
2 電極
3 樹脂パイプ
31 第1壁部
32 第2壁部
6 中空空間(内部空間)
41、42 キャビティ型
43、44 コア型
5 キャビティ
51 ゲート
8 タンク本体部材
10 樹脂成形体
7 蓋成形体
70 蓋本体部
71 パイプ部
9 電極
11 中空空間
Q パイプ状樹脂成形部
C セラミック製インサート部品
E 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を貯蔵または通流する内部空間を画成し、その外部から流体に電圧もしくは電流を印加又は流体の電圧もしくは電流を検知できるように、電極をインサート射出成形によって一体化した樹脂成形体であって、
電極が一体化される部分において、前記内部空間と互いに連通もしくは一致する中空空間を有するパイプ状部分が形成されると共に、
一体化された電極は、その一端が前記パイプ状部分の第1壁部分の外部に露出するとともに、前記第1壁部分を貫通し、さらに前記中空空間を露出状態で径方向に横断して、その他端部が前記第1壁部分と対向する第2壁部分に埋設されていることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
電極の他端側が第2壁部分を貫通せずに、他端側の先端が第2壁部分に埋入されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−46009(P2011−46009A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194078(P2009−194078)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(506320875)ナノフュージョン株式会社 (6)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】