説明

樹脂成形品の成形方法並びに成形金型

【課題】内面にリブを一体化した樹脂成形品の成形方法並びに成形金型であって、リブを突出す直上げ駒を使用しても、製品表面に白化等の外観不良が発生することを防止する。
【解決手段】内面にリブ11を一体化したキッキングプレート(樹脂成形品)10は、可動側金型30と固定側金型40との型締め時に形成されるキャビティC内に溶融樹脂Mを射出充填することで所要形状に成形され、成形後、固定側金型40に配置したリブ用直上げ駒53のリブ対向面55にリブ用直上げ駒53の動作方向に沿う浅い段差56形状等、直上げ駒53からリブ11の外側面12に力が伝達される形状を採用することで、応力を分散させて製品表面への白化の発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キッキングプレート、ピラーガーニッシュ等の自動車用内装部品に好適な樹脂成形品の成形方法並びに成形金型に係り、特に、内面にリブを備えた樹脂成形品をリブ用直上げ駒で突出す際に製品表面に白化等の外観不良が生じることを可及的に防止でき、外観見栄えを高めた樹脂成形品の成形方法並びに成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は車両のドア開口部の下側に位置するサイドシルパネル(図示せず)の表面に装着される自動車用内装部品の一例であるキッキングプレート1を示す斜視図であり、キッキングプレート1は、図7に示す外観形状を備え、かつ図8に示す断面形状を備えた樹脂成形品が使用され、通常は汎用の熱可塑性樹脂を射出成形工法により所要形状に成形して構成されている。
【0003】
そして、キッキングプレート1は、図8,図9に示すように、リブ2や図示しないクリップ取付座等を内面に一体化して構成され、リブ2を内面に有するキッキングプレート1を成形する従来例について、図10を基に説明する。図面において、成形金型3は、所定ストローク上下動可能な可動側金型4と固定側金型5とから構成され、可動側金型4と固定側金型5とを型締めして形成されるキャビティC内に溶融樹脂Mを射出充填してキッキングプレート1が所要形状に成形される。この時、溶融樹脂Mの樹脂通路として、固定側金型5に図示しない射出機が連設されており、この射出機からホットランナ5a、バルブゲート5bを通じてキャビティC内に溶融樹脂Mが射出充填される。
【0004】
更に、キッキングプレート1を成形した後脱型する際、リブ2が固定側金型5から円滑に脱型できるように、リブ2対応部分における固定側金型5には、リブ用直上げ駒6が配置されており、キッキングプレート1の成形後、可動側金型4が上方に型開き動作するのと連繋して、突出し板7が上昇して、これと連動して、リブ用直上げ駒6も上昇し、キッキングプレート1が突出される。尚、樹脂成形品の内面にリブを一体形成し、成形後、リブを突出し機構により突出す従来例としては特許文献1に示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−90614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来のリブ2を内面に一体化したキッキングプレート1の成形方法は、リブ2を固定側金型5からスムーズに脱型できるように、キッキングプレート1の成形後、リブ用直上げ駒6でリブ2を型開き方向に突出しているが、リブ用直上げ駒6の動作時には、リブ用直上げ駒6の上面6aと当接する面(図10中符号Aで示す)及びリブ2の先端部分(図10中符号Bで示す)に応力が集中し、特に、符号Aで示す部位に負荷が集中するため、キッキングプレート1の製品表面に白化が生じ外観性能を低下させるという不具合が指摘されていた。
【0007】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内面にリブを有する樹脂成形品を成形した後、リブ用直上げ駒により突出し操作しても、製品表面側に白化等の外観不良が生じることがなく、外観見栄えを高めた樹脂成形品を成形できる樹脂成形品の成形方法並びに成形金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、可動側金型と固定側金型との間に画成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、内面にリブを有する樹脂成形品を所要形状に成形するとともに、成形後の型開動作と連繋して固定側金型に配置されたリブ用直上げ駒によりリブを押し上げて、樹脂成形品を離型させる樹脂成形品の成形方法において、前記リブ用直上げ駒におけるリブ対向面をリブ用直上げ駒の突出し動作時、リブの外側面と干渉する形状に設定することにより、リブ用直上げ駒の動作時の応力をリブの外側面に分散させることで、リブ用直上げ駒の上面から樹脂成形品の裏面への応力集中を回避するようにしたことを特徴とする。
【0009】
そして、本発明方法に使用する成形金型は、内面にリブを有する樹脂成形品を成形する樹脂成形品の成形金型であって、上記成形金型は、所定ストローク可動する可動側金型と、固定側金型と、リブを当接支持して突出すリブ用直上げ駒を含む樹脂成形品の突出し機構とを備え、前記リブ用直上げ駒におけるリブ対向面には、リブ用直上げ駒の動作方向に沿って一列、あるいは複数列の段差が形成されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、樹脂成形品としては、自動車用内装部品としてのキッキングプレート、ピラーガーニッシュ等、合成樹脂の射出成形工法により所要形状に成形されるものであって、内面にリブを一体化したものに適用される。
【0011】
また、成形金型は、可動側金型、固定側金型と、固定側金型に配置される突出し機構を備えており、特に、樹脂成形品にリブが一体化されているため、脱型時、リブが固定側金型からスムーズに脱型できるようにリブを型開方向に突出すリブ用直上げ駒が設けられているとともに、本発明方法に使用する成形金型のリブ用直上げ駒におけるリブ外側面に当接するリブ対向面には、直上げ駒が上昇する際に生じる応力を伝達する干渉構造が採用されている、例えば、リブ対向面には直上げ駒の動作方向に沿って浅い段差が一列、あるいは複数列設けられる等が適している。そして、樹脂成形品を取り出す際、障害にならない程度の浅い形状での干渉構造が好ましい。
【0012】
従って、本願発明によれば、可動側金型と固定側金型とを型締めして、両金型間に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、内面にリブを一体化した樹脂成形品を成形した後、可動側金型が型開方向に動作するのと連繋して、リブを型開方向に突出すリブ用直上げ駒が動作する際、従来では直上げ駒の上面とリブ先端の二箇所に応力が集中していたが、リブの外側面とリブ用直上げ駒のリブ対向面との間には、干渉構造が採用されているため、リブ用直上げ駒の突出し動作時には、リブの外側面へ力が伝達されることから、リブ用直上げ駒の上面から樹脂成形品裏面への負荷が低減し、製品表面に白化が生じることを可及的に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明した通り、本発明に係る樹脂成形品の成形方法並びに成形金型は、可動側金型と固定側金型とで画成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、内面にリブを一体化した樹脂成形品を所要形状に成形した後、可動側金型の型開動作と連繋して、リブ用直上げ駒によりリブを型開方向に突出し操作する際、リブ用直上げ駒のリブ対向面には、動作方向に沿う浅い段差等の干渉構造が設定されているため、リブ用直上げ駒の突出し動作時にリブ外側面へ応力が伝達され、リブ用直上げ駒の上面、すなわち、樹脂成形品の裏面に応力が集中することがない。従って、製品裏面への負荷が低減し、製品表面が白化することがないことから、樹脂成形品の外観性能を著しく高めることができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂成形品の成形方法並びに成形金型の具体的な実施例について添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0015】
図1乃至図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明方法を適用して成形したキッキングプレートを示す斜視図、図2は同キッキングプレートの構成を示す断面図、図3は同キッキングプレートにおける内面形状を示す斜視図、図4は本発明に係る樹脂成形品の成形金型を示す全体図、図5,図6は同成形金型を使用したキッキングプレートの成形時の状態、並びにキッキングプレートの突出し時の状態をそれぞれ示す説明図である。
【0016】
図1乃至図3において、本発明に係る樹脂成形品の成形方法を適用して成形される樹脂成形品は、車両のドア開口部の下側に設定されているサイドシルパネル(図示せず)の表面に装着されるキッキングプレート10である。このキッキングプレート10は、熱可塑性樹脂を素材として、射出成形工法により図示する形状に成形されている。使用する熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等から適宜選択されて良い。尚、本実施例においては、ポリプロピレン系樹脂が使用されており、キッキングプレート10は、サイドシルパネルを覆うように、断面略C字状で車両の前後方向に沿って延びる長尺体から構成され、図2,図3に示すように、内面にリブ11が一体化されている。このリブ11は、キッキングプレート10の隣接部品に取り付けるための取付具を支持する支持リブを示す。そして、本発明では、後述するように、リブ11を突出すための突出し機構の構成に改良を加えることで、キッキングプレート10の製品表面に生じる白化を可及的に防止したことが特徴であり、突出し機構の構成から波及するものとして、リブ11の外側面12には、複数列(本実施例では上下四列)の段差13が形成されている。
【0017】
次いで、上記キッキングプレート10を成形するのに使用する成形金型20の構成について、図4を基に説明する。成形金型20は、所定ストローク上下動可能な可動側金型30と、可動側金型30の下方に位置する固定側金型40とから大略構成されている。更に詳しくは、可動側金型30は、昇降シリンダ31の動作により所定ストローク固定側金型40に対して上下動作を行ない、可動側金型30と固定側金型40との型締め、並びに型開きが行なわれる。
【0018】
一方、固定側金型40には、ホットランナ41、バルブゲート42とからなる樹脂通路が設けられており、射出機から送られてくる溶融樹脂Mは、ホットランナ41、バルブゲート42を経て、キャビティC内に供給される。更に、固定側金型40には、キッキングプレート10を成形した後、キッキングプレート10を円滑に取り出せるように突出し機構50が設けられている。この突出し機構50は、突出し板51に連結された突出しピン52をキッキングプレート10の裏面から上方に突出すことで、固定側金型40の型面から成形されたキッキングプレート10を円滑に取り出せるようにしたもので、特に、キッキングプレート10にリブ11を設定した箇所は、リブ11が固定側金型40の型面に食い込み易く、脱型性に難があるため、リブ11については、リブ用直上げ駒53が設けられ、このリブ用直上げ駒53を支持する支持ピン54が突出し板51に連結されている。従って、突出し板51には突出しピン52、並びにリブ用直上げ駒53を配設することにより、リブ11を一体化したキッキングプレート10を円滑に突出し脱型できる仕組みが採用されている。更に、本発明においては、リブ用直上げ駒53のリブ対向面55には、リブ用直上げ駒53の動作方向(上下方向)に沿って一列、あるいは複数列の段差56が形成されている。
【0019】
従って、リブ11の外側面12とリブ用直上げ駒53のリブ対向面55との間は、浅い段差同士が嵌合するという干渉構造が採用されているため、リブ用直上げ駒53の動作時には、リブ用直上げ駒53からの応力がリブ11の外側面12に広範囲に伝達されることになる。
【0020】
次に、上記成形金型20を使用して、キッキングプレート10の成形工程並びに突出し工程について説明する。図5に示すように、可動側金型30が昇降シリンダ31の動作により所定ストローク下降して、可動側金型30と固定側金型40とが型締めされて、両金型30,40間で形成されるキャビティC内に図示しない射出機から溶融樹脂Mからホットランナ41、バルブゲート42を通じてキャビティC内に射出充填されることで、キッキングプレート10が内面にリブ11を一体化するように所要形状に成形される。この時、リブ用直上げ駒53のリブ対向面55には、動作方向に沿って四列の段差56が形成されており、この段差56は、段差56間のピッチ間隔5.0mm、段差56の高さはリブ厚みを含めて0.5〜1.0mmに設定するのが好ましい。
【0021】
更に、リブ11を含めたキッキングプレート10が所要形状に成形された後、可動側金型30が昇降シリンダ31の動作により、型開方向に上昇操作され、それとほぼ同時に固定側金型40内に配置されている突出し板51が上昇し、突出しピン52がキッキングプレート10の一般部の裏面を突出すと同時に、リブ11については、リブ用直上げ駒53がリブ11自体を突出すことで、固定側金型40からキッキングプレート10が取り出し易い位置まで突出される。この時、リブ用直上げ駒53のリブ対向面55には、四列の浅い段差56が形成されているため、リブ用直上げ駒53が動作する際の応力はこの段差56を通じてリブ11の外側面12に伝わり、応力が分散されることで、直上げ駒53の上面53aに従来のように応力が集中することがない。従って、キッキングプレート10表面に白化等の外観不良が生じることがなく、良好な外観見栄えを確保することができるとともに、リブ用直上げ駒53とリブ11とは浅い段差形状で嵌合しているため、リブ11の取り外しは容易に行なえる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上説明した実施例は、成形金型20におけるリブ用直上げ駒53のリブ対向面55に四列の浅い段差56を設定したが、一列の段差、あるいは二列、三列の段差でも良い。また、段差56の他に、リブの取り外しが簡単に行なえ、かつリブ用直上げ駒53の上昇動作時に応力が伝わる構成であれば、形状は特に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る樹脂成形品の成形方法を適用して成形したキッキングプレートを示す斜視図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】図1に示すキッキングプレートにおける内面形状を示す説明図である。
【図4】本発明に係る樹脂成形品の成形金型の一実施例の構成を示す全体図である。
【図5】図4に示す成形金型を使用してキッキングプレートを成形する際の成形時の状態を示す説明図である。
【図6】図4に示す成形金型を使用してキッキングプレートを成形した後の突出し工程を示す説明図である。
【図7】従来のキッキングプレートを示す説明図である。
【図8】図7中VIII−VIII線断面図である。
【図9】従来のキッキングプレートにおけるリブの形状を示す説明図である。
【図10】従来のキッキングプレートの成形工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10 キッキングプレート
11 リブ
12 外側面
13 段差
20 成形金型
30 可動側金型
31 昇降シリンダ
40 固定側金型
41 ホットランナ
42 バルブゲート
50 突出し機構
51 突出し板
52 突出しピン
53 リブ用直上げ駒
53a 上面
54 支持ピン
55 リブ対向面
56 段差
C キャビティ
M 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側金型(30)と固定側金型(40)との間に画成されるキャビティ(C)内に溶融樹脂(M)を射出充填して、内面にリブ(11)を有する樹脂成形品(10)を所要形状に成形するとともに、成形後の型開動作と連繋して固定側金型(40)に配置されたリブ用直上げ駒(53)によりリブ(11)を押し上げて、樹脂成形品(10)を離型させる樹脂成形品の成形方法において、
前記リブ用直上げ駒(53)におけるリブ対向面(55)をリブ用直上げ駒(53)の突出し動作時、リブ(11)の外側面(12)と干渉する形状に設定することにより、リブ用直上げ駒(53)の動作時の応力をリブ(11)の外側面(12)に分散させることで、リブ用直上げ駒(53)の上面(53a)から樹脂成形品(10)の裏面への応力集中を回避するようにしたことを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
内面にリブ(11)を有する樹脂成形品(10)を成形する樹脂成形品(10)の成形金型(20)であって、上記成形金型(20)は、所定ストローク可動する可動側金型(30)と、固定側金型(40)と、リブ(11)を当接支持して突出すリブ用直上げ駒(53)を含む樹脂成形品(10)の突出し機構(50)とを備え、前記リブ用直上げ駒(53)におけるリブ対向面(55)には、リブ用直上げ駒(53)の動作方向に沿って一列、あるいは複数列の段差(56)が形成されていることを特徴とする樹脂成形品の成形金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−196166(P2009−196166A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38877(P2008−38877)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】