説明

樹脂成形部品及び製造方法

【課題】インサート部品と樹脂との接合性をより有効に高めることができる樹脂成形部品及び製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明による樹脂成形部品1は、インサート部品2とインサート部品2を外包する樹脂3を有する樹脂成形部品1であって、インサート部品2は樹脂3のインサート部品2に対向する面の少なくとも一部3aを押圧する押圧部2aを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば乗用車、トラック、バス等の車両や家庭用機器又は産業用機器に適用されて好適な半導体装置を含む樹脂成形部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やIPM(Intelligent Power Module)等の半導体素子を含む樹脂成形部品の製造にあたってはインサート成形が広く用いられる。インサート成形とは、樹脂成形製品の中に構造部品や金属端子などのインサート部品を溶けた樹脂を流し込む前に成形型内に入れた後、樹脂を充填することで成形する技術を一般に指し、生産性を高める等の種々のメリットを有するため、例えば特許文献1に記載されているように一般的に多用される。
【0003】
上述したインサート成形は生産性が高い等の利点を有するが、特に電子部品に用いられた場合に、インサート部品に電気の導通経路の機能を具備させることが多い。その場合に、ワイヤーボンディング等でリード線を接合する必要性が発生する。ところが、インサート成形は原理的に、成形後に高温から冷める時に収縮が発生し、流し込んだ樹脂とインサート部品との間に隙間が発生しやすい。樹脂とインサート部品との間に隙間が存在すると、この隙間が例えば振動接合等の接合時に、インサート部品の揺れを許容してしまい、ワイヤーボンディングでの接合性を阻害する要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−164286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その対策としてインサート部品の樹脂に対向する表面に溝を付けたり、インサート部品表面の面精度を荒くすることで、いわゆるくさび効果により接合性を担保することも考えられるが、現時点では有効性は必ずしも高くない。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、インサート部品と樹脂との接合性をより有効に高めることができる樹脂成形部品及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明による樹脂成形部品は、
インサート部品と当該インサート部品を外包する樹脂を有する樹脂成形部品であって、前記インサート部品は前記樹脂の前記インサート部品に対向する面の少なくとも一部を押圧する押圧部を含むことを特徴とする。
【0008】
また上記の課題を解決するため、本発明による製造方法は、
前記インサート部品を成形型内に載置する載置ステップと、前記成形型内に前記樹脂を充填する充填ステップと、前記押圧部に押圧力を蓄積する蓄積ステップと、前記樹脂の硬化時に前記押圧力を解放する解放ステップを含むことを特徴とする前記樹脂成形部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記インサート部品と前記樹脂との接合性をより有効に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施例1の樹脂成形部品1及び製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】実施例1の樹脂成形部品1を構成するインサート部品2の構成の詳細を示す模式断面図である。
【図3】実施例1の樹脂成形部品1に対して給電又は接地を目的とする配線を行う場合の利点を説明する模式断面図である。
【図4】本発明に係る実施例2の樹脂成形部品11のインサート部品12の構成の詳細を示す模式断面図である。
【図5】実施例2の樹脂成形部品11及び製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【図6】本発明に係る実施例3の樹脂成形部品21のインサート部品22の構成の詳細を示す模式断面図である。
【図7】実施例3の樹脂成形部品21及び製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【図8】本発明に係る実施例4の樹脂成形部品31のインサート部品2及びクリップ5の構成の詳細を示す模式断面図である。
【図9】実施例4の樹脂成形部品31及び製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【図10】本発明に係る実施例5の樹脂成形部品41のインサート部品42の構成の詳細を示す模式断面図である。
【図11】実施例5の樹脂成形部品41及び製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例1の樹脂成形部品1は、図1に示すように、インサート部品2とインサート部品2を外包する樹脂3を有する樹脂成形部品1であって、インサート部品2は樹脂3のインサート部品2に対向する面の少なくとも一部3aを押圧する押圧部2aを含む。
【0013】
インサート部品2は、アルミニウム又は銅等の熱伝導性及び電気伝導性の高い平板状の二枚の母材を、例えばプレス加工により方形状に打ち抜き、図2中下側の位置する側のみに図1に示す位置決めピンP1、P2に対応する穴2b、2cを形成した後、図示しない楔状のスペーサを挟んで積層して、図2中右側の適宜の箇所を溶接又はリベット締め等の適宜の接合手法によって接合して、左側に開くスリットSを有する形態にて構成される。押圧部2aはスリットSを有する側の端部により構成される。
【0014】
本実施例1の樹脂成形部品1を形成するための成形型は、図1(a)に示す上下一対の上型UMと下型DMとにより、梨地内の白抜きの四角形状の空間状に構成される。下型DMには、インサート部品2の穴2b、2cに対応する位置決めピンP1、P2が上方に指向させて設けられ、上型UMには、インサート部品2の上側の表面に図2(b)に示す樹脂3を構成する構成材3Mを充填するときに当接する押しピンP3が下方に指向させて設けられている。図1(a)に示すように、位置決めピンP1、P2にインサート部品2の穴2b、2cを嵌め込む形態にて、インサート部品2が下型DMに載置される。
【0015】
スリットSの押圧部2a側の端部における拡開幅は図1(a)に示すように、上型UMが下型DMに対して上下方向に離隔されていて、成形型が形成されておらず、インサート部品2の上側の表面には押しピンP3による当接力も、構成材3Mによる圧力も作用しない状態においては寸法Aをなす。
【0016】
ここで図1(b)に示すように、上型UMが下型DMに対して閉じられて成形型が形成され、押しピンP3がインサート部品2の上側の表面に当接する状態においては、インサート部品2の押圧部2aは当接力により上下方向に圧縮され、スリットSの厚みは寸法Aよりも小さい寸法Bをなす。スリットSが寸法Aから寸法Bへと小さくされた分、インサート部品2には弾性エネルギーが蓄積される。
【0017】
図1(b)に示す状態にて、上型UMと下型DMとにより構成される成形型内に図示しない供給経路により高温かつ所定量の構成材3Mが充填されて、構成材3Mはインサート部品2を下側の露出面を除いて外包するとともに、外形を成形型の内周面に沿う形態に形成された後、冷却され硬化されて、構成材3Mは樹脂3を構成する。
【0018】
図1(c)に示すように、下型DMから上型UMを取り外して、押しピンP3を樹脂3から抜出して、硬化された後の樹脂3とインサート部品2を含む樹脂成形部品1は、取出可能な状態で下型DMに保持される。このとき樹脂成形部品1のインサート部品2の上側の表面には押しピンP3の当接力が作用しないので、図1(b)の状態でインサート部品2内に蓄積された弾性エネルギーは解放されて、押圧部3aは上側の樹脂3に対して図1(c)中上下一対の破線で示す範囲において押圧力を作用させる。
【0019】
なお、インサート部品2自体はスリットSの寸法Bを寸法Aにするべく復帰しようとするが、硬化した樹脂3によりその復帰動作は制限され、インサート部品2の押圧部2aと硬化した樹脂3との間に存在する隙間δの二倍に相当する寸法のみ図1(c)中上下方向に拡開する方向に動き、スリットSの寸法は見かけ上寸法Bのまま保持される。隙間δは寸法Bよりも十分小さく、例えば数μmから数十μm程度である。
【0020】
以上説明した樹脂成形部品1の製造方法は、インサート部品2を成形型内に載置する載置ステップと、成形型内に樹脂3を充填する充填ステップと、押圧部2aに押圧力を蓄積する蓄積ステップと、樹脂3の硬化時に押圧力を解放する解放ステップを含むものである。なお、図1(a)〜(c)における説明においては硬化前の樹脂3を、説明の厳密さを期して構成材3Mとしている。また、硬化時とは厳密には冷却完了時を指す。
【0021】
すなわち本実施例1の樹脂成形部品1及びその製造方法によれば、樹脂3の成型時の冷却に伴う硬化により、樹脂3が収縮して樹脂3のインサート部品2に対向する面と、インサート部品2の表面との間に上述した隙間δが発生していても、インサート部品2は上型UMを下型DMにセットした時点で押しピンP3の当接力により弾性エネルギーつまり押圧力が蓄積されている。
【0022】
つまり、上型UMを下型DMから取り外して開いた場合にはこの当接力が作用しなくなり、押圧部2aの押圧力が解放されてインサート部品2の上側の表面及び下側の表面は樹脂3のインサート部品2に対向する面に押し付けられることとなるため、隙間δは埋められてインサート部品2と樹脂3との密着性が確保される。
【0023】
すなわち、図1(c)の上下一対の破線の領域に示した押圧力が作用する領域3aにおいては、隙間δをなくすことができるので、樹脂3とインサート部品2との密着性を確保して、図3に示すように、図1に示した樹脂成形部品1を上下逆として下側の露出面を上としてワイヤーボンド4(テープボンドでもよい)を例えば振動接合により接合する場合に、インサート部品2と樹脂3との相対位置関係のずれに起因してインサート部品2の揺れを誘発することを防止することができる。つまり、ワイヤーボンド4の接合性を確保することができる。
【0024】
以上述べた実施例1においては、インサート部品2を二枚の母材を重ねて一端を接合することにより構成し、押圧力の蓄積は上型UMの押しピンP3の当接力によるものとしたが、インサート部品の形態はこれに限られるものではなく樹脂3を構成する構成材3Mの温度変化を利用する他の形態とすることもできる。以下それについての実施例2について述べる。
【実施例2】
【0025】
本実施例2の樹脂成形部品11は、インサート部品12を実施例1に示したインサート部品2とは異なり、形状記憶合金を用いるものとしている。つまり、形状記憶合金の性質を利用して、例えば常温の低温状態では図4(a)に示すようにスリットSを寸法Aとし、構成材3Mの充填時の高温状態では図4(b)に示すようにスリットSを寸法Aより小さい寸法Bとなるように、インサート部品12の形状を初期設定する。インサート部品12は実施例1のインサート部品2と同様に穴12b、12cと押圧部12aを有している。
【0026】
このように初期設定されたインサート部品12を高温状態として、低温状態となればスリットSが寸法Bから寸法Aに戻る見込みの押圧力を蓄積する。つづいて、図5(a)に示すように下型DMの位置決めピンP1、P2に穴12b、12cを嵌めて、インサート部品12を下型DMに載置する。なお、図5中においては実施例1と共通する構成要素には同一の符号を付し、下記においては相違点を主として説明する。
【0027】
図5(a)に示すように上型UMは実施例1の押しピンP3よりも短い支えピンP31を有しており、図5(b)に示すように、下型DMにインサート部品12を載置しかつ上型UMにて蓋をして成形型を形成した状態では、支えピンP31はインサート部品12の上側の表面に対してクリアランスεを有しており当接しない。
【0028】
図5(b)に示す状態にて、上型UMと下型DMとにより構成される成形型内に図示しない供給経路により高温かつ所定量の構成材3Mが充填されて、構成材3Mはインサート部品12を下側の露出面を除いて外包するとともに、外形を成形型の内周面に沿う形態に形成された後、冷却され硬化されて、構成材3Mは樹脂3を構成する。
【0029】
図5(c)に示すように、下型DMから上型UMを取り外して、支えピンP31を樹脂3から抜出して、硬化された後の樹脂3とインサート部品12を含む樹脂成形部品11は、取出可能な状態で下型DMに保持される。このとき樹脂成形部品11のインサート部品12は既に冷却されており低温状態となっており、スリットSは図4(a)で示す寸法Aにするべく復帰しようとする。
【0030】
ところが、実施例1と同様に硬化した樹脂3によりその復帰動作は制限され、インサート部品12の押圧部12aと硬化した樹脂3との間に存在する隙間δの二倍に相当する寸法のみ図5(c)中上下方向に拡開する方向に動き、スリットSの寸法は見かけ上寸法Bのまま保持される。隙間δは実施例1と同様に寸法Bよりも十分小さく、例えば数μmから数十μm程度である。
【0031】
以上説明した樹脂成形部品11の製造方法は、押圧部12aに押圧力を蓄積する蓄積ステップと、インサート部品12を成形型内に載置する載置ステップと、成形型内に樹脂3を充填する充填ステップと、樹脂3の硬化時に押圧力を解放する解放ステップを含むものである。
【0032】
すなわち本実施例2の樹脂成形部品11及びその製造方法によれば、樹脂3の成型時の冷却に伴う硬化により、樹脂3が収縮して樹脂3のインサート部品12に対向する面と、インサート部品12の表面との間に上述した隙間δが発生していても、インサート部品12は上型UMを下型DMにセットした時点で、自身の形状記憶合金の性質に基づいて見込みの押圧力が蓄積されている。
【0033】
つまり、上型UMを下型DMから取り外して開く時点では構成材3Mは冷却が完了されて樹脂3となっており低温状態となっているため、高温状態においてスリットSを寸法Bに保持する保持力が解除され、押圧力が解放されてインサート部品12の上側及び下側の表面は樹脂3のインサート部品12に対向する面に押し付けられることとなるため、隙間δは埋められてインサート部品12と樹脂3との密着性が確保される。
【0034】
すなわち、図5(c)の上下一対の破線の領域に示した押圧力が作用する領域3aにおいては、隙間δをなくすことができるので、樹脂3とインサート部品12との密着性を確保して、樹脂成形部品11を上下逆として下側の露出面を上として図示しないワイヤーボンドを振動接合により接合する場合に、インサート部品12と樹脂3との隙間δに起因するインサート部品12の揺れを誘発することを防止することができ、ワイヤーボンドの接合性を確保することができる。
【0035】
なお、本実施例2においては支えピンP31はインサート部品12の上側の表面には当接しないが、クリアランスεを有して近接しており、構成材3Mの充填時におけるインサート部品12の移動を規制する機能を有している。
【0036】
以上述べた実施例2においては、インサート部品12を形状記憶合金にて実施例1と同様の形態にて構成したが、この形態はスリットSを有する形態には限られず、凹状空間を有して押圧力の作用する方向を左右方向とする他の形態とすることもできる。以下それについての実施例3について述べる。
【実施例3】
【0037】
本実施例3の樹脂成形部品21は、インサート部品22の構成が実施例2に示したものとは異なり、形状記憶合金を用いかつ凹状空間を有するものとしている。つまり、形状記憶合金の性質を利用して、例えば高温状態では図6(a)に示すように凹状空間の左右方向の間隔を寸法Cとし、低温状態では図6(b)に示すように凹状空間を寸法Cより小さい寸法Dとなるように、インサート部品22の凹状空間をなす左右一対の耳部の形状を初期設定する。インサート部品22は実施例1のインサート部品2と同様に穴22b、22cを有しており、凹状空間をなす耳部が押圧部をなしている。
【0038】
このように初期設定されたインサート部品22を高温状態として、低温状態となれば凹状空間が寸法Cから寸法Dに戻る見込みの押圧力を蓄積する。つづいて、図7(a)に示すように下型DMの位置決めピンP1、P2に穴22b、22cを嵌めて、インサート部品22を下型DMに載置する。なお、図7中においても実施例1、実施例2と共通する構成要素には同一の符号を付し、下記においては相違点を主として説明する。
【0039】
図7(a)に示すように上型UMは実施例2と同様に実施例1の押しピンP3よりも短い支えピンP31を有しており、図7(b)に示すように、下型DMにインサート部品22を載置しかつ上型UMにて蓋をして成形型を形成した状態では、支えピンP31はインサート部品22の上側の耳部以外の表面に対してクリアランスεを有しており当接しない。
【0040】
図7(b)に示す状態にて、上型UMと下型DMとにより構成される成形型内に図示しない供給経路により高温かつ所定量の構成材3Mが充填されて、構成材3Mはインサート部品22を下側の露出面を除いて外包するとともに、外形を成形型の内周面に沿う形態に形成された後、冷却され硬化されて、構成材3Mは樹脂3を構成する。
【0041】
図7(c)に示すように、下型DMから上型UMを取り外して、支えピンP31を樹脂3から抜出して、硬化された後の樹脂3とインサート部品22を含む樹脂成形部品21は、取出可能な状態で下型DMに保持される。このとき樹脂成形部品21のインサート部品22は既に冷却されており低温状態となっており、凹状空間の左右方向の寸法は図6(b)で示す寸法Dにするべく復帰しようとする。
【0042】
ところが、実施例2と同様に硬化した樹脂3によりその復帰動作は制限され、インサート部品22の押圧部をなす左右一対の耳部と硬化した樹脂3との間に存在する隙間δの二倍に相当する寸法のみ図7(c)中左右方向に縮小する方向に動き、凹状空間の左右方向の寸法は見かけ上寸法Cのまま保持される。隙間δは実施例2と同様に寸法Cよりも十分小さく、例えば数μmから数十μm程度である。
【0043】
以上説明した樹脂成形部品21の製造方法は、押圧部に押圧力を蓄積する蓄積ステップと、インサート部品22を成形型内に載置する載置ステップと、成形型内に樹脂3を充填する充填ステップと、樹脂3の硬化時に押圧力を解放する解放ステップを実施例2と同様に含むものである。
【0044】
すなわち本実施例3の樹脂成形部品21及びその製造方法によれば、樹脂3の成型時の冷却に伴う硬化により、樹脂3が収縮して樹脂3のインサート部品22に対向する面と、インサート部品22の表面との間に上述した隙間δが発生していても、インサート部品22は上型UMを下型DMにセットした時点で、自身の形状記憶合金の性質に基づいて押圧力が蓄積されている。
【0045】
つまり、上型UMを下型DMから取り外して開く時点では、構成材3Mは冷却された後で低温状態となっており、高温状態において図6(a)に示す寸法Cを保持する保持力は解除されているため、押圧力が解放されてインサート部品22の耳部の左右方向の内側の表面は樹脂3のインサート部品22に対向する面に押し付けられることとなるため、隙間δは埋められてインサート部品22と樹脂3との密着性が確保される。
【0046】
すなわち、図7(c)の破線の領域に示した押圧力が作用する左右一対の領域3aにおいては、隙間δをなくすことができるので、樹脂3とインサート部品32との密着性を確保し、かつ左右方向に挟持することができる。このため、樹脂成形部品21を上下逆として下側の露出面を上として図示しないワイヤーボンドを振動接合により接合する場合に、インサート部品22の揺れを誘発することを防止することができ、ワイヤーボンドの接合性を確保することができる。
【0047】
なお、本実施例3においても支えピンP31はインサート部品22の上側の表面には当接しないが、クリアランスεを有して近接しており、構成材3Mの充填時におけるインサート部品22の移動を規制する機能を有している。
【0048】
既に述べた実施例1においては、インサート部品2を二枚の母材を重ねて一端を接合することにより構成し、押圧力の蓄積と解放は上型UMの押しピンP3の当接力によるものとしたが、この蓄積と解放を別個の部品により行うこともできる。以下それについての実施例4について述べる。
【実施例4】
【0049】
図8に示すように、本実施例4における上述した別個の部品はクリップ5とし、クリップ5は実施例1で示したインサート部品2の押圧部2aを外側から挟持してスリットSを縮小する機能を有するとともに、熱でもろくなる熱可塑性を有する素材にて形成されるものとする。
【0050】
クリップ5の熱可塑性を利用して、例えば常温の低温状態では図8(a)に示すようにスリットSをクリップ5の保持力により縮小して寸法Bとして押圧力を蓄積し、構成材3Mの充填時の高温状態を経て所定時間後であって硬化時に相当する時間でクリップ5自体が破断されて図8(b)に示すようにスリットSを寸法Bより大きい寸法Aとなるように、インサート部品2を、クリップ5を用いて初期設定する。
【0051】
このように初期設定されたインサート部品2を図9(a)に示すように下型DMの位置決めピンP1、P2に穴2b、2cを嵌めて、インサート部品2を下型DMに載置する。なお、図9中においては実施例1と共通する構成要素には同一の符号を付し、下記においては相違点を主として説明する。
【0052】
図9(a)に示すように上型UMは実施例1の押しピンP3よりも短い支えピンP31を有しており、図9(b)に示すように、下型DMにインサート部品2を載置しかつ上型UMにて蓋をして成形型を形成した状態では、支えピンP31はインサート部品2の上側の表面に対してクリアランスεを有しており当接しない。
【0053】
図9(b)に示す状態にて、上型UMと下型DMとにより構成される成形型内に図示しない供給経路により高温かつ所定量の構成材3Mが充填されて、構成材3Mはインサート部品2を下側の露出面を除いて外包するとともに、外形を成形型の内周面に沿う形態にて形成された後、冷却され硬化されて、構成材3Mは樹脂3を構成する。
【0054】
図9(c)に示すように、下型DMから上型UMを取り外して、支えピンP31を樹脂3から抜出して、硬化された後の樹脂3とインサート部品2を含む樹脂成形部品31は、取出可能な状態で下型DMに保持される。このとき樹脂成形部品31のインサート部品2は既に冷却されており低温状態となっており、かつ、クリップ5は自身の熱可塑性により既に破断しているため、スリットSは図8(b)で示す寸法Aにするべく復帰しようとする。
【0055】
ところが、実施例1と同様に硬化した樹脂3によりその復帰動作は制限され、インサート部品2の押圧部2aと硬化した樹脂3との間に存在する隙間δの二倍に相当する寸法のみ図9(c)中上下方向に拡開する方向に動き、スリットSの寸法は見かけ上寸法Bのまま保持される。隙間δは実施例1と同様に寸法Bよりも十分小さく、例えば数μmから数十μm程度である。
【0056】
以上説明した樹脂成形部品31の製造方法は、押圧部2aに押圧力を蓄積する蓄積ステップと、インサート部品2を成形型内に載置する載置ステップと、成形型内に樹脂3を充填する充填ステップと、樹脂3の硬化時に押圧力を解放する解放ステップを含むものである。
【0057】
すなわち本実施例4の樹脂成形部品31及びその製造方法によっても、樹脂3の成型時の冷却に伴う硬化により、樹脂3が収縮して樹脂3のインサート部品2に対向する面と、インサート部品2の表面との間に上述した隙間δが発生していても、インサート部品2は自身の弾性に基づいて押圧力が蓄積されている。
【0058】
つまり、上型UMを下型DMから取り外して開く時点ではクリップ5が熱可塑性に基づいて破断されていて保持力が作用しなくなり、押圧力が解放されてインサート部品2の上側及び下側の表面は樹脂3のインサート部品2に対向する面に押し付けられることとなるため、隙間δは埋められてインサート部品2と樹脂3との密着性が確保される。
【0059】
すなわち、図9(c)の破線の領域に示した押圧力が作用する上下一対の領域3aにおいては、隙間δをなくすことができるので、樹脂3とインサート部品2との密着性を確保して、樹脂成形部品31の露出面を上として図示しないワイヤーボンドを振動接合により接合する場合に、インサート部品2の揺れを誘発することを防止することができ、ワイヤーボンドの接合性を確保することができる。
【0060】
既に述べた実施例2においては、インサート部品12を形状記憶合金にて実施例1と同様の形態にて構成し押圧力をスリットS側に発生する形態を示したが、押圧力の発生形態はこの形態には限られず、上側に一箇所下側に二箇所とすることもできる。以下それについての実施例5について述べる。
【実施例5】
【0061】
本実施例5の樹脂成形部品41は、インサート部品42の構成が実施例2に示したものとは異なり、表裏異種金属つまりバイメタルを用いかつ平板形状を有するものとしている。つまり、バイメタルの性質を利用して、例えば高温状態では図10(a)に示すように平板形状のままとし、低温状態では図10(b)に示すように下に凹をなす扇形状となるように、インサート部品42を初期設定する。インサート部品42は実施例2のインサート部品2と同様に穴42b、42cを有している。
【0062】
このように初期設定されたインサート部品42を低温状態のまま図11(a)に示すように下型DMの位置決めピンP1、P2に穴42b、42cを嵌めて、インサート部品42を下型DMに載置する。なお、図11中においても実施例2と共通する構成要素には同一の符号を付し、下記においては相違点を主として説明する。
【0063】
図11(a)に示すように上型UMは実施例2と同様に実施例1の押しピンP3よりも短い支えピンP31を有しており、図11(b)に示すように、下型DMにインサート部品42を載置しかつ上型UMにて蓋をして成形型を形成した状態では、支えピンP31はインサート部品42の上側の表面に対してクリアランスεを有しており当接しない。
【0064】
図11(b)に示す状態にて、上型UMと下型DMとにより構成される成形型内に図示しない供給経路により高温かつ所定量の構成材3Mが充填されて、構成材3Mの高温によりインサート部品42は高温状態とされ図10(a)に示した平板状に変化し、構成材3Mはインサート部品42を下側の露出面を除いて外包するとともに、外形を成形型の内周面に沿う形態にて冷却され硬化されて、構成材3Mは樹脂3を構成する。
【0065】
図11(c)に示すように、下型DMから上型UMを取り外して、支えピンP31を樹脂3から抜出して、硬化された後の樹脂3とインサート部品42を含む樹脂成形部品41は、取出可能な状態で下型DMに保持される。このとき樹脂成形部品41のインサート部品42は既に冷却されており低温状態となっており、インサート部品42の外形は図10(b)に示す扇形状に変化して復帰しようとする。
【0066】
ところが、実施例2と同様に硬化した樹脂3によりその復帰動作は制限され、インサート部品42の押圧部をなす上側の面の中央部と下側の面の左右両端部と硬化した樹脂3との間に存在する隙間δのみ図11(c)中上下方向に撓み、インサート部品42は図10(a)に示す平板状に見かけ上保持される。隙間δは実施例2と同様に例えば数μmから数十μm程度である。
【0067】
以上説明した樹脂成形部品41の製造方法は、押圧部に押圧力を蓄積する蓄積ステップと、インサート部品42を成形型内に載置する載置ステップと、成形型内に樹脂3を充填する充填ステップと、樹脂3の硬化時に押圧力を解放する解放ステップを実施例2と同様に含むものである。なお、本実施例4においては蓄積ステップが構成材3Mの充填時となる。
【0068】
すなわち本実施例4の樹脂成形部品41及びその製造方法によれば、樹脂3の成型時の冷却に伴う硬化により、樹脂3が収縮して樹脂3のインサート部品42に対向する面と、インサート部品42の表面との間に上述した隙間δが発生していても、インサート部品42は上型UMを下型DMにセットした時点で、自身のバイメタルの性質に基づいて押圧力が蓄積されている。
【0069】
つまり、上型UMを下型DMから取り外して開いた場合にはこの押圧力を抑制する高温状態が解除されており、押圧力が解放されてインサート部品42の上側の中央部と下側の左右両端部は樹脂3のインサート部品42に対向する面に押し付けられることとなるため、隙間δは埋められてインサート部品42と樹脂3との密着性が確保される。
【0070】
すなわち、図11(c)の破線の領域に示した押圧力が作用する上の一箇所下の左右二箇所の領域3aにおいては、隙間δをなくすことができるので、樹脂3とインサート部品42との密着性を確保することができる。このため、樹脂成形部品21を上下逆として下側の露出面を上として図示しないワイヤーボンドを振動接合により接合する場合に、インサート部品42の揺れを誘発することを防止することができ、ワイヤーボンドの接合性を確保することができる。
【0071】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、樹脂成形部品及びその製造方法に関するものであり、樹脂成形部品を構成するインサート部品と樹脂との境界面において樹脂を構成する構成材が硬化した時以降において、インサート部品の表面と樹脂の表面との間に隙間が発生することをより適切に防止することができるものである。これによりワイヤーボンディングの接合、特には振動接合時の安定性を高めることができる。
【0073】
本発明においては主にインサート部品の構成に基づいて隙間の発生を防止するための押圧力を確保し、インサート部品の表面に溝を設ける又は凹凸を設ける等の必要がなく、製造コストの増大を招くがない。このため、種々の半導体関連の装置に適用して有益なものである。もちろん、乗用車、トラック、バス等の様々な車両のインバータ等に適用される半導体モジュールに適用しても有益なものである。
【符号の説明】
【0074】
1 樹脂成形部品
2 インサート部品
2a 押圧部
3 樹脂
3a 密着部
4 ワイヤーボンド
5 クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート部品と当該インサート部品を外包する樹脂を有する樹脂成形部品であって、前記インサート部品は前記樹脂の前記インサート部品に対向する面の少なくとも一部を押圧する押圧部を含むことを特徴とする樹脂成形部品。
【請求項2】
前記インサート部品を成形型内に載置する載置ステップと、前記成形型内に前記樹脂を充填する充填ステップと、前記押圧部に押圧力を蓄積する蓄積ステップと、前記樹脂の硬化時に前記押圧力を解放する解放ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−78892(P2013−78892A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220173(P2011−220173)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】