説明

樹脂材のレーザー溶着方法

【課題】 樹脂材のレーザー溶着方法における溶着不良率を低減すること。
【解決手段】 頂点が光透過性樹脂材製蓋22に接する突条23を光吸収性の側壁20の上端面21A、21Bに形成する。突条23の高さを0.03〜0.08mmに制限する。これにより、クラックを減らして溶着不良率を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材のレーザー溶着方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光を光透過性樹脂材を通じて光吸収性樹脂材に照射してそれらの接合部を溶着する樹脂材のレーザー溶着方法が実用化されている。
【0003】
ばりやボイドの発生防止などの接合性の向上のために、光透過性樹脂材の溶着面に突条を設け、光透過性樹脂材のレーザー光照射領域の外にて、光透過性樹脂材を光吸収性樹脂材に押さえつけつつレーザー光をこの突条に照射する樹脂材のレーザー溶着方法が本出願人の出願になる下記の特許文献1に提案されている。また、この突条の縦断面を三角形にした樹脂材のレーザー溶着方法(以下、三角突条型レーザー溶着方法と称する)が同じく本出願人の出願になる下記の特許文献2に提案されている。この特許文献2の溶着方法を図2に模式図示する。101は光吸収性樹脂材、102は光透過性樹脂材、103は三角形断面の突条(以下、三角突条とも言う)である。
【0004】
光吸収性樹脂材製容器の開口縁をなす側壁の上端面に光透過性樹脂材製蓋の周縁部を溶着するためにこの三角突条型レーザー溶着方法を適用した従来例を図3に基づいて説明する。なお、図3では、理解を容易とするために断面ハッチングは省略している。
【0005】
20は光吸収性樹脂材製容器の側壁、21は側壁20の上端面、22は光透過性樹脂材製蓋である。23は上端面21に設けられた三角形断面の突条(三角突条)、24は容器の側壁20の外周面25に沿いつつ上端面21から立設されるリブである。押さえ治具26により、レーザー光照射領域の外側にて光透過性樹脂材製蓋22を下方へ押さえつつレーザー光27を照射すると、突条23の溶融とともに、光透過性樹脂材製蓋22は押さえ治具26により付勢されて側壁20の上端面21に向けて降下する。主として光透過性樹脂材製蓋22のこの移動により、突条23の溶融により生じた樹脂融液が側壁20の上端面21の微小凹凸をつぶしつつ突条23の両側へ移動する。この時、側壁20の上端面21に隣接して存在する発生ガスや残留空気は、突条23から遠ざかる向きに移動する樹脂融液により押されて突条23の両側へ排除され、その結果として、光透過性樹脂材製蓋22の下面が側壁20の上端面21に良好に溶着される。なお、図3では、突条23の底辺隣接点からリブ24に至る側壁20の上端面21はリブ24に向けて徐々に登り勾配となっているが、上端面21を平坦としてもよい。
【0006】
本出願人の従来の製造においては、三角形断面の突条23の高さhは、0.3〜1.0mm、突条23の底辺幅bは1.5〜2.5mmとしていた。しかしながら、上記した従来の三角突条型レーザー溶着方法では、光透過性樹脂材製蓋22の板厚が薄い場合において、光透過性樹脂材製蓋22にマイクロクラックが発生したりするという可能性があることが判明した。この問題については後述するものとする。
【特許文献1】特開2004−358697
【特許文献2】特開2005−288934
【発明の開示】
【0007】
(発明の目的)
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、光透過性樹脂材を光吸収性樹脂材の突条に押しつけつつ溶着させる樹脂材のレーザー溶着方法の歩留まりを向上することをその目的としている。
【0008】
(発明の要約)
上記問題を解決する第1発明の樹脂材のレーザー溶着方法は、光吸収性樹脂材の溶着予定面から突出する三角形断面の突条の頂点に光透過性樹脂材の溶着予定面を押圧しつつ前記光透過性樹脂材を通じて走査レーザー光を前記突条に照射して少なくとも前記突条を溶融させることにより前記両溶着予定面を溶着させる樹脂材のレーザー溶着方法において、前記走査レーザー光照射前の前記押圧により、前記光吸収性樹脂材の前記突条の頂点と、前記頂点から所定距離離れた前記光吸収性樹脂材の溶着予定面の所定領域との少なくとも2点に前記光透過性樹脂材の溶着予定面を接触させ、前記突条の高さは、前記走査レーザー光照射前の前記押圧による前記光透過性樹脂材の変形が走査レーザー光照射時の前記光透過性樹脂材の引っ張り強度限界内となる値に設定されることを特徴としている。
上記問題を解決する第2発明の樹脂材のレーザー溶着方法は、光吸収性樹脂材の溶着予定面から突出する三角形断面の突条の頂点に光透過性樹脂材の溶着予定面を押圧しつつ前記光透過性樹脂材を通じて走査レーザー光を前記突条に照射して少なくとも前記突条を溶融させることにより前記両溶着予定面を溶着させる樹脂材のレーザー溶着方法において、前記走査レーザー光照射前の前記押圧により前記光透過性樹脂材を前記光透過性樹脂材の溶着予定面に向けて曲げることにより、前記光吸収性樹脂材の溶着予定面の前記突条の頂点近傍領域のうち前記光透過性樹脂材の先端側の領域を前記光吸収性樹脂材の溶着予定面に面接触させ、前記突条の高さは、前記走査レーザー光照射前の前記押圧による前記光透過性樹脂材の変形が走査レーザー光照射時の前記光透過性樹脂材の引っ張り強度限界内となる値に設定されることを特徴としている。
【0009】
このようにすれば、既述した本出願人の従来の三角突条型レーザー溶着方法では生じる可能性があった光透過性樹脂材のマイクロクラック発生を確実に防止でき、製造歩留まりを向上できることがわかった。
本発明の突条断面形状による上記効果の発生理由についての本発明者の分析を以下に記載する。
【0010】
まず、既述した従来の樹脂材のレーザー溶着方法においる三角突条(高さhが0.3〜1.0mm、底辺幅bが1.5〜2.5mm)の場合に生じる問題点について図3を参照して以下に説明する。
【0011】
三角突条型レーザー溶着方法では、溶着前後において光透過性樹脂材製蓋22はほぼ突条23の高さ分だけ短時間に降下する必要がある。光透過性樹脂材製蓋22のこの降下は押さえ治具26の押圧力に依存するため、押さえ治具26は相当の大きさの押圧力で光透過性樹脂材製蓋22を下方に押圧する必要がある。
【0012】
押さえ治具26による押圧により、突条23の先端を支点として光透過性樹脂材製蓋22には下向きの曲げモーメントFmが作用し、これにより光透過性樹脂材製蓋22は図3に破線でしめすように曲がる。この曲げモーメントFmにより、突条23の直上に位置する光透過性樹脂材製蓋22の上面部分Pに最も大きな引っ張り力が掛かる。
【0013】
その後、この突条23にレーザー光が照射されると突条23は急速に溶融状態となるが、同時に光透過性樹脂材製蓋22の温度も上昇し、それとともに引っ張り強度限界も低下する。溶融した突条23の側方への流れには時間が掛かるため、レーザー光照射前又はその直後のP点における引っ張り応力が引っ張り強度限界を超え、その結果として、P点に光透過性樹脂材製蓋22に微小なクラックが発生する。このクラックは、光透過性樹脂材製蓋22の厚さが薄い場合に特に問題となる。
【0014】
つまり、図3に示す従来例では、三角突条を用いて溶融面隣接気体を三角突条から離れる向きに排出してボイド発生を抑止できるものの、三角突条への光透過性樹脂材製蓋22の押圧により光透過性樹脂材製蓋22のクラック発生の可能性が増大するという新たな問題が生じることがわかった。
【0015】
この問題に対して、第1発明では、走査レーザー光照射前の光透過性樹脂材の押圧により、光吸収性樹脂材の前記突条の頂点と、前記頂点から所定距離離れた前記光吸収性樹脂材の溶着予定面の所定領域との少なくとも2点に光透過性樹脂材の溶着予定面を接触させる。このようにすれば、光透過性樹脂材は、走査レーザー光照射時において光透過性樹脂材は互いに所定距離離れた少なくとも2点にて光吸収性樹脂材に支持されるため、押圧力により光透過性樹脂材に生じた曲げ応力により三角形断面形状の突条(三角突条)の頂点の近傍にてマイクロクラックが生じることがないことがわかった。
【0016】
また、第2発明では、走査レーザー光照射前に光透過性樹脂材を光透過性樹脂材の溶着予定面に向けて光透過性樹脂材を曲げることにより、光吸収性樹脂材の溶着予定面の突条の頂点近傍領域のうち光透過性樹脂材の先端側の領域を光吸収性樹脂材の溶着予定面に面接触させる。このようにすれば、光透過性樹脂材は、走査レーザー光照射時において光透過性樹脂材は三角突条の頂点近傍において従来よりも広い面積にて光吸収性樹脂材の溶着予定面に担持されるため、押圧力により光透過性樹脂材に生じた曲げ応力により三角形断面形状の突条(三角突条)の頂点の近傍にてマイクロクラックが生じることがないことがわかった。
【0017】
なお、上記両発明において、三角突条の高さは、走査レーザー光照射前の押圧による光透過性樹脂材の変形が走査レーザー光照射時の光透過性樹脂材の引っ張り強度限界内となる値に設定される。つまり、走査レーザー光の照射により光透過性樹脂材の温度は、光吸収性樹脂材のそれよりは遅いものの、急速に温度上昇し、その結果としてこの温度上昇は、光透過性樹脂材の引っ張り強度限界を低下させる。上記押圧力により光透過性樹脂材に生じている応力のうち、三角突条の近傍(特に三角突条に接触しない側の主面)では引っ張り応力が生じている。
【0018】
本発明では、上記面接触又は上記2点(多点)接触により、光透過性樹脂材の三角突条の近傍で生じる曲がりが小さく、その結果として上記曲げ応力が小さくされている。このため、レーザー光照射により生じた温度上昇により光透過性樹脂材の引っ張り強度限界が低下しても、光透過性樹脂材のこの部位が破断してマイクロクラックが発生することを良好に防止することができる。
好適態様において、光吸収性樹脂材の溶着予定面に設ける三角突条の高さhを0.03〜0.08mm、底辺幅bを1.0〜2.0mmとされる。このようにすれば、既述した本出願人の従来の突条断面形状を採用した場合に比べて格段に溶不良を低減することができることが実験により実証された。
【0019】
以下、この三角突条が優れている理由を説明する。本発明の三角突条は、出願人が今まで採用していた上記三角突条に比べて格段に小さい形状をもつ。
【0020】
突条(三角突条)が小さいということは、まず、光透過性樹脂材の溶着予定面と光吸収性樹脂材の溶着予定面との間の空間容積が小さく、ここに存在する空気量が少ないことを意味する。このため、これら二つの溶着予定面がレーザー光照射により溶着する際にこの部位から排出するべき空気量を減らせることができ、これらの空気排出不良によりボイドが生じるのを従来より格段に減らすことができる。なお、突条の高さは、光吸収性樹脂材の溶着予定面の表面粗さすなわちその凹凸よりも大きく設定されるべきである。
【0021】
更に、本発明によれば、突条の高さが小さいため押さえ治具による光透過性樹脂材の押圧による曲がりにより、光透過性樹脂材の先端が光吸収性樹脂材の溶着予定面に到達するのが容易となる。このことは、光透過性樹脂材は押さえ治具の押圧力を2端支持することができることを意味するため、従来に比べて突条の上方位置における光透過性樹脂材の引っ張り応力は大幅に軽減され、そのクラックは大幅に低減される。本発明によれば更にそのうえ、突条の高さが小さい分だけ斜面傾斜が緩やかであるため、曲がった光透過性樹脂材の溶着予定面は一層容易に突条の緩やかな斜面に到達することができる。このことは光吸収性樹脂材の引っ張り応力を更に分散させ、かつ、両溶着予定面間の隙間高さを減らしてこの部位の空気量を減らせることを意味する。
【0022】
なお、この場合、光透過性樹脂材の溶着予定面と光吸収性樹脂材の溶着予定面との間の空気は突条の長手方向と平行に未だレーザー光走査がなされていない側へ容易に逃げることができる。
【0023】
これに対して、従来の突条を用いる樹脂材のレーザー溶着方法は、既述したように突条の最適な高さに対する認識に未だ達しておらず、本発明の突条高さの採用による上記効果についてもまったく認識されていなかった。
【0024】
好適な態様において、所定幅W(図1参照)は1〜10mmに設定され、所定距離L(図1参照)は0.5〜5mmに設定され、所定幅Wは前記所定距離Lよりも0.4〜1.2mm大きく設定される。
【0025】
更に好適には、所定幅Wは1.5〜3mmに、所定距離Lは0.6〜2mmに設定され、所定幅Wは前記所定距離Lよりも0.5〜1.0mm大きく設定され、突条の高さhは0.04〜0.07mm、突条の底辺幅bは1.2〜1.8mmに設定され、光透過性樹脂材は、厚さが0.4〜1.0mmの平板からなる。このようにすれば、更に歩留まりを向上することができる。
【0026】
好適な態様において、光透過性樹脂材との接触面積当たりの押さえ治具の押圧力は、10〜50N/平方mmに設定され、光透過性樹脂材は、PBT、PPS、PA、PC、ABS、PMMA、PP、POM、PPAを素材としており、光吸収性樹脂材はPBT、PPS、PA、PC、ABS、PMMA、PP、PPAを素材としている。これにより、歩留まりを向上することができる。
【0027】
好適な態様において、光透過性樹脂材の押圧は、突条の頂点から光透過性樹脂材の先端側に所定距離Pだけ離れた位置から光透過性樹脂材の先端までの光透過性樹脂材を、押さえ治具により光吸収性樹脂材の溶着予定面に向けて付勢する。これにより、光透過性樹脂材に必要な押圧力を容易に与えることができる。
【0028】
好適な態様において、走査レーザー光照射前の前記押圧により、光透過性樹脂材の溶着予定面の先端を光吸収性樹脂材の溶着予定面に当接させる。これにより、光吸収性樹脂材の溶着予定面のうち、三角突条の頂点と光透過性樹脂材の先端との間の領域を形状自由度を向上することができる。
【0029】
好適な態様において、突条の頂点は、押さえ治具の先端側に偏って形成されている。このようにすれば、光透過性樹脂材に掛かる曲げモーメントを大幅に低減することができる。
【0030】
好適な態様において、突条の頂点と押さえ治具の先端との間の距離は光透過性樹脂材の厚さの0.2〜2倍に設定されている。このようにすれば、光透過性樹脂材に掛かる曲げモーメントにより光透過性樹脂材に生じる引っ張り応力よりも光透過性樹脂材の引っ張り強度を大きくすることが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の樹脂材のレーザー溶着方法を開口容器への蓋の溶着に適用した実施形態を図1説明する。図1はこの実施形態を示す断面図である。簡単のために、図1には図3と同一符号を用いる。
【0032】
20は上端開口の光吸収性樹脂材製容器の開口を囲む側壁(本発明で言う光吸収性樹脂材)であり、21A、21Bは側壁20の上端面である。22は光透過性樹脂材製蓋(本発明で言う光透過性樹脂材)である。23は上端面21A、21Bに構成されて側壁20から上方へ突出する突条(三角突条)である。
【0033】
この実施形態では、側壁20の上端面21A、21Bは三角形断面をもつ突条23の2面を構成している。つまり、この実施形態では、突条23は実質的に上端面21A、21Bにより構成されている。なお、側壁20の上端面の幅一杯に突条23の底辺幅bを設定せず、側壁20の上端面の一部を平坦としてもよいことはもちろんである。したがって、側壁20の幅方向における縦断面は、図1に示すように三角形断面となっている。
【0034】
24は側壁20の外周面25に沿いつつ突条23の外周端から立設されるリブである。リブ24は、光透過性樹脂材製蓋22の外周側面に接している。26は光透過性樹脂材製蓋22の周縁部を押さえる押さえ治具、28は側壁20の内周面である。なお、光吸収性樹脂材製容器の側壁20は円筒形状でも角形形状でもよい。29は光透過性樹脂材製蓋22の溶着予定面であり、側壁20の上端面21A、21Bすなわち突条23の表面は側壁20の溶着予定面をなす。
【0035】
この実施形態のレーザー光溶着工程を以下に説明する。図1は、突条23が溶融する前の状態を示している。
【0036】
押さえ治具26により、レーザー光照射領域Xよりも外側に位置する光透過性樹脂材製蓋22を下方へ押圧する。この押圧により光透過性樹脂材の内部の引っ張り強度、特に突条23の直上部位における突条23の頂点に接しない側の光吸収性樹脂材の主面近傍における引っ張り強度は、その後のレーザー光照射による温度上昇時の引っ張り強度限界(破断強度値)内に設定される。
【0037】
また、突条23の高さhは0.03〜0.08mm、底辺幅bは1.0〜2.0mmとされる。この実施形態では、突条23の高さがその底面幅に対して小さいため、光吸収性樹脂材の溶着予定面21Bの傾斜が緩く、そのため、光透過性樹脂材製蓋22の下面(溶着予定面)29は従来に比べて格段に広い接触面積にて光吸収性樹脂材の溶着予定面21Bに接触することができる。
【0038】
次に、レーザー光27を突条23に照射すると、突条23が溶融して、光透過性樹脂材製蓋22は押さえ治具26の押圧力により側壁20の上端面21A、21Bに向けて降下する。
【0039】
光透過性樹脂材製蓋22の降下により、突条23の溶融により生じた樹脂融液は上端面21A、21Bの微小凹凸をつぶしつつ突条23の頂点Poの両側へ分かれて流れる。
【0040】
この時、光透過性樹脂材製蓋22の溶着予定面29と側壁20の上端面21A、21B(溶着予定面)との間の空気は、他の部位に排出される。両溶着予定面の溶着は突条23の頂点Poから左右に連続的に進行するため、上端面21A側の空気は滞留することなく、側壁20の幅方向内側へ円滑に移動する。上端面21B側の空気は、側壁20の幅方向外側へ円滑に移動し、かつ、側壁20の長手方向レーザー未走査側へ逃げる。その結果として、光透過性樹脂材製蓋22の下面が側壁20の上端面21A、21Bに良好に溶着される。側壁20の長手方向一方側へのレーザー光の走査は、レーザー光の移動により、又は、ワーク側の二次元移動により行われる。
【0041】
この実施形態の特徴を以下に説明する。
【0042】
この実施形態では、突条23の先端(頂点Po)は、走査レーザー光27の照射前に光吸収性樹脂材の先端から所定幅Wだけ離れた位置に配置されている。押さえ治具26の先端は、突条23の先端(頂点Po)から光透過性樹脂材の外端側に所定距離Lだけ離れた位置に存在している。
【0043】
突条23の高さhは0.03〜0.08mm、上端面21Aの幅W21Aと上端面21Bの幅W21Bの合計である突条23の底辺幅bは1.0〜2.0mmとされている。この実施形態では、幅W21Aは幅W21Bの1〜3倍とされている。
【0044】
また、この実施形態では、図1に示すWは1〜10mm、Lは0.5〜5mmに設定されている。WはLよりも0.4〜1.2mm大きく設定される。更に好適には、Wは1.5〜3mm、Lは0.6〜2mmに設定され、WはLよりも0.5〜1.0mm大きく設定され、突条の高さhは0.04〜0.07mm、突条の底辺幅bは1.2〜1.8mmに設定され、光透過性樹脂材は、厚さt1が0.4〜1.0mmの平板からなる。なお、図 において、Pは突条23の頂点Poと押さえ治具26の先端との横方向の位置ずれ量であり、0.3〜0.8mmに設定されている。また、tはリブ24の横幅であり、約0.4〜0.6mmに設定されている。リブ24の高さは0.5〜1.0mmに設定されている。Xは上端面21A、21B上のレーザー光照射領域の横幅(走査直角方向幅)を示し、突条23の底辺幅bから幅Lを差し引いた値に略等しく設定されている。押さえ治具26のレーザー光走査方向の長さは全周とされ、押さえ治具26に掛ける押圧力は、約35MPaとされている。
【0045】
側壁20を含む光吸収性樹脂材製容器は、熱可塑性を有してレーザー光27を吸収する樹脂素材であればよく、例えば、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、アクリル(PMMA)等の樹脂材に、カーボンブラック、顔料等の所定の着色材を混入してレーザー光吸収率を調節したものが好適である。 光透過性樹脂材製蓋22は、熱可塑性を有してレーザー光27に対して所定の透過率を有するものであれば特に限定されないが、基本的に上記に例示した樹脂材の使用が好適である。また所定の透過率を確保できれば、着色材を混入してもよい。
【0046】
レーザー光27の光源として、好適な波長を有するものが適宜選択される。例えば、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラス−ネオジウムレーザー、ルビーレーザー、ヘリウム−ネオンレーザー、クリプトンレーザー、アルゴンレーザー、水素レーザー、窒素レーザー等を用いることができる。
【0047】
この実施形態の効果を以下に説明する。
【0048】
この実施形態によれば、突条23の高さとして従来認識されていなかった小さい値を採用したため、突条23の頂点Poの直上などにおいて、光透過性樹脂材製蓋22に微小なクラックが発生することを良好に防止することができる。その理由については既述した通りである。
【0049】
(その他の発明)
図1における三角形の突条23の頂点Poを突条23の底辺の幅方向中央よりも押さえ治具26側にシフトする構造は、突条23の頂点Poと押さえ治具26の先端Yとの間の距離Pを減少するため、光透過性樹脂材製蓋22に加えられる曲げモーメントを減らしてそれによるクラック発生防止に大きな効果があることは明白である。したがって、上記した寸法条件に限定されることなく、三角形の突条23の頂点Poを突条23の底辺の幅方向中央よりも押さえ治具26側にシフトする構造は、本発明の異なる独立形態と見なすことができる。
また、図1における突条23の高さhが小さいであれば、突条23の頂点Poが突条23の幅方向中央よりも押さえ治具26の反対側(図1の内側)にシフトしても、光透過性樹脂材製蓋22に加えられる曲げモーメントを小さくできるため、クラック発生防止を達成する事ができるため、これも本発明に含まれるとみなすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の樹脂材のレーザー溶着方法の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】出願人が採用していた従来の樹脂材のレーザー溶着方法を示す模式縦断面図である。
【図3】従来の樹脂材のレーザー溶着方法を示す模式縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
20 側壁
21 上端面
21A 上端面
21B 上端面
22 光透過性樹脂材製蓋
23 突条
24 リブ
25 外周面
26 押さえ治具
27 レーザー光(走査レーザー光)
29 溶着予定面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収性樹脂材の溶着予定面から突出する三角形断面の突条の頂点に光透過性樹脂材の溶着予定面を押圧しつつ前記光透過性樹脂材を通じて走査レーザー光を前記突条に照射して少なくとも前記突条を溶融させることにより前記両溶着予定面を溶着させる樹脂材のレーザー溶着方法において、
前記走査レーザー光照射前の前記押圧により、前記光吸収性樹脂材の前記突条の頂点と、前記頂点から所定距離離れた前記光吸収性樹脂材の溶着予定面の所定領域との少なくとも2点に前記光透過性樹脂材の溶着予定面を接触させ、
前記突条の高さは、前記走査レーザー光照射前の前記押圧による前記光透過性樹脂材の変形が走査レーザー光照射時の前記光透過性樹脂材の引っ張り強度限界内となる値に設定されることを特徴とする樹脂材のレーザー溶着方法。
【請求項2】
光吸収性樹脂材の溶着予定面から突出する三角形断面の突条の頂点に光透過性樹脂材の溶着予定面を押圧しつつ前記光透過性樹脂材を通じて走査レーザー光を前記突条に照射して少なくとも前記突条を溶融させることにより前記両溶着予定面を溶着させる樹脂材のレーザー溶着方法において、
前記走査レーザー光照射前の前記押圧により前記光透過性樹脂材を前記光透過性樹脂材の溶着予定面に向けて曲げることにより、前記光吸収性樹脂材の溶着予定面の前記突条の頂点近傍領域のうち前記光透過性樹脂材の先端側の領域を前記光吸収性樹脂材の溶着予定面に面接触させ、
前記突条の高さは、前記走査レーザー光照射前の前記押圧による前記光透過性樹脂材の変形が走査レーザー光照射時の前記光透過性樹脂材の引っ張り強度限界内となる値に設定されることを特徴とする樹脂材のレーザー溶着方法。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂材のレーザー溶着方法において、
前記光透過性樹脂材の押圧は、前記突条の頂点から前記光透過性樹脂材の先端側に所定距離Pだけ離れた位置から前記光透過性樹脂材の先端までの前記光透過性樹脂材を、押さえ治具により前記光吸収性樹脂材の溶着予定面に向けて付勢することによりなされる樹脂材のレーザー溶着方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の樹脂材のレーザー溶着方法において、
前記突条の高さhは、0.03〜0.08mm、前記突条の底辺幅bは、2.5〜3.5mmに設定される樹脂材のレーザー溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−113314(P2009−113314A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288251(P2007−288251)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】