説明

樹脂構造体の製造方法

【課題】 光制御フィルムに使用可能な樹脂構造体を生産性よく製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の樹脂構造体の製造方法は、走行する支持体26上に、少なくとも1種類以上の多官能モノマー又は多官能オリゴマーと重合開始剤を溶解させた塗布液を塗布装置32により塗布し、紫外線を紫外線照射装置34により塗布液に照射し、重合により柱状に硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂構造体の製造方法に関し、光の拡散、回折等の光学特性を有する樹脂構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サブミクロンオーダーからミクロンオーダーの異方性のある樹脂構造体を基板上に形成して電子材料や光学材料等に使用する試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の重合性炭素−炭素二重結合を有する樹脂組成物を、線光源の紫外線で膜状に硬化させることで、層状の構造を形成して光制御フィルムとして用いる方法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、平行な紫外線を、モノマーもしくはオリゴマーに照射することで柱状構造を備えた成形体を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、ポリマー、オリゴマー、モノマーから選択される光重合性化合物に点状光源から紫外線等を照射することで釣鐘状の曲面を膜内に形成し、異方性を向上させることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、予め基板に溝を形成し、基板に光架橋性単量混合物に設け、溝形成面と反対面から光を照射して、導波路を形成する方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、マスクパターンを介して紫外線露光することで、マスクのパターンに対応した構造体を形成する方法が記載されている。
【0008】
特許文献6には、柱状の構造を形成する方法としてブロック共重合体からなるミクロ相分離構造を利用する方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭63−309902号公報
【特許文献2】特開2005−242340号公報
【特許文献3】特開2005−265915号公報
【特許文献4】特表平11−500544号公報
【特許文献5】特開2005−219144号公報
【特許文献6】特開2003−94825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法で製造されるフィルムは、特定の角度からの光に対する異方性は有しているものの、様々な角度から入射される光に対する異方性は不足するという問題がある。
【0010】
また、特許文献2の方法では、平行光を入射する前に成型体中にモノマーもしくはオリゴマーを注入しておく必要性があるため、生産性が低いという問題がある。同様に、特許文献3の方法では、モノマーもしくはオリゴマーを基板上に塗布した後、ガラス板を貼り合せた上で、硬化する必要があり、また、スペーサー等で膜厚を一定にした条件での貼り合せが必要であるため、生産性が悪いという問題がある。
【0011】
特許文献4の方法では、基板に構造を形成する工程が新たに必要であるため、生産性が悪いという問題がある。
【0012】
特許文献5の方法では、マスクにミクロンオーダー以上の精度が要求される。また、柱状構造を連続的に製造できないという問題がある。
【0013】
特許文献6の方法では、サブミクロンオーダー以上の構造を形成することができず、一般の光学用途には使用することができないという問題がある。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、光制御フィルムに使用可能な樹脂構造体を生産性よく製造するのに好適な樹脂構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明の樹脂構造体の製造方法は、走行する支持体上に、少なくとも1種類以上の多官能モノマー又は多官能オリゴマーと、重合開始剤を溶解させた塗布液を塗布する工程と、前記塗布液に、平行な活性エネルギー線を照射し、重合反応により柱状に硬化する工程を含んでいることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、少なくとも1つ以上のモノマーまたはオリゴマーと、重合開始剤を溶解させた塗布液を走行する支持体に塗布した後、平行な活性エネルギー線による重合を行うことで、柱状の構造を形成している。したがって、樹脂構造体を生産性よく製造することができる。また、モノマー又オリゴマーとして、は多官能モノマー又多官能オリゴマーを使用することで、重合反応により容易に柱状に硬化させることができる。
【0017】
また、塗布液を塗布方式で支持体に供給しているので、スペーサー等を用いることなく、塗布膜の厚さを一定にすることができる。
【0018】
本発明において、多官能モノマー又は多官能オリゴマーとは、分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有するものを意味する。
【0019】
本発明の樹脂構造体の製造方法は、前記発明において、前記塗布液に、平行な活性エネルギー線を照射し、重合により柱状に硬化する工程が、酸素濃度21%以下、さらに好ましくは100ppm以下の雰囲気下において行なわれることが好ましい。
【0020】
酸素濃度を上述の範囲としたので、活性エネルギー線が酸素のラジカル化に使用されずに、重合反応に利用される。これにより、活性エネルギー線の使用効率が向上し、生産性が向上する。
【0021】
また、酸素濃度を低くすることにより、ラジカル化された酸素により重合が阻害されるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、光制御フィルムに使用可能な樹脂構造体を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0024】
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0025】
図1は、本発明に係る樹脂構造体の構造を示す概略構成図である。図1に示すように、樹脂構造体10は、その内部に複数の柱状構造12を備えている。柱状構造12は他の部分と屈折率が異なる。柱状構造12は、その軸線が、活性エネルギー線、照射方向にほぼ一致するように厚さ方向に延びる形状を有しており、さらに規則的に配列されている。図1の柱状構造12は、大きさが2〜8μmの円柱状の形状を有している。
【0026】
図1に示す樹脂構造体10は、他の部分と屈折率の異なる柱状構造12を備えている。それにより、光の拡散、回折、偏光等の光学特性を有する光制御フィルムとして使用することができる。柱状構造12の屈折率は、1.40〜1.70であることが好ましく、1.45〜1.60であることがさらに好ましい。
【0027】
また、他の部分との屈折率差は、0.01〜0.20であることが好ましく、0.10〜0.20であることがさらに好ましい。
【0028】
ミクロンオーダーの柱状構造は光の回折格子として働き、直線光の輝度分布を変化させる。また、屈折率の異なる界面での反射により、同様に輝度分布の変化や、光の拡散効果がある。
【0029】
本発明の樹脂構造体を製造するために、少なくとも1種類以上の多官能モノマー又は多官能オリゴマーと重合開始剤を溶解させた塗布液が使用される。
【0030】
複数の官能基(炭素−炭素二重結合)を有する多官能モノマーとして、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、変性ビスフェノールAジアクリレート、1.6-ヘキサンジオールジアクリレート、1.9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等を使用することができる。また、これらの混合物を使用することができる。
【0031】
特に、3以上の官能基を有する多官能モノマーとして、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート等を使用することができる。官能基が多いほど重合反応が起こりやすく、柱状構造を形成するのに適している。
【0032】
本発明の塗布液に溶解される重合開始剤は、紫外線等の活線エネルギー線を照射して重合を行う通常の光重合で使用されるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、2-クロロチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等を使用することができる。
【0033】
多官能モノマー又は多官能オリゴマーと、重合開始剤との比は、100:0.01〜100:5であることが、成型体の透明性を維持する理由で好ましい。
【0034】
次に、本発明に係る樹脂構造体の製造方法について図2を参照に説明する。図2は、本発明の製造方法を実施するための製造ライン20の一例を示す全体構成図である。
【0035】
長尺状の支持体26(既に何らかの機能層が形成されているものを含む)が、フィルムロール22から送出機24により送り出される。支持体26の走行速度は、例えば、0.1〜1.5m/秒とすることができる。
【0036】
支持体26として、透過率80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。支持体26のヘイズは、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。支持体26の屈折率は、1.4〜1.6であることが好ましい。また、プラスチックフィルムを用いることが好ましい。プラスチックフィルムの材料の例には、セルロースエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート、及びポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0037】
支持体26はガイドローラ28によってガイドされて除塵機30に送りこまれる。除塵機30は、支持体26の表面に付着した塵を取り除くことができる。除塵機30の下流には、塗布手段であるエクストルージョン方式の塗布ヘッドを有する塗布装置32が設けられている。少なくとも1種類以上の多官能モノマー又は多官能オリゴマーと重合開始剤を溶解させた塗布液が、塗布装置32によってバックアップローラに巻き掛けられた支持体26上に塗布される。塗布液の厚みは、例えば、500μm以下とすることができる。
【0038】
塗布方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ローラコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法等を用いることができる。
【0039】
塗布装置32の下流には、支持体26上に塗布された塗布液に活性エネルギー線(例えば、紫外線)を照射するために、紫外線照射装置34が設けられている。紫外線照射装置34から紫外線を照射することによって、塗布液に重合反応が起こる。重合反応により硬化、架橋が進行し、所望の柱状構造が形成される。
【0040】
本実施の形態において、紫外線照射装置34の下方に、支持体26の出入り口を有し、支持体26を囲む照射ゾーン36が設けられている。照射ゾーン36は、照射される活性エネルギー線を透過できる材質で形成される。
【0041】
照射ゾーン36内は、紫外線を照射する際に、酸素濃度21%以下さらに好ましくは100ppm以下の雰囲気下になるよう調整されている。酸素濃度を上述の範囲としたので、活性エネルギー線が酸素のラジカル化に使用されずに、重合に利用される。これにより、活性エネルギー線の使用効率が向上し、生産性が向上する。また、ラジカル化された酸素により重合が阻害されるのを防止することができる。
【0042】
酸素濃度を上述の範囲に調整する方法として、照射ゾーン36内に窒素ガスをパージする方法等が採用される。
【0043】
照射ゾーン36の下流には、柱状構造が形成された支持体26を巻き取るための巻き取り機38が設けられている。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、製造条件等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0045】
以下に示す塗布液を調整し、厚さ80μmのトリアセチルセルロース(フジタック、富士フィルム(株)製)上に250μmの厚さで塗布した。塗布後に超高圧水銀灯を使用した平行光紫外線照射装置を用いて紫外線照射を行った。
【0046】
〔実施例1〕
光重合性モノマーとして、ペンタエリスリトールトリアクリレート100質量部に、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モリフォリノフェニル)−ブタノン−1を1質量部溶解させ、塗布液として光重合性組成物を得た。得られた光重合性組成物を酸素濃度90ppmの環境下で紫外線照射を行い、塗布膜を形成した。このようにして得られたフィルムを所定サイズに切り取り、柱状構造の有無、及び表面のべたつきを評価した。
【0047】
柱状構造について、表面は光学顕微鏡により観察し、全面に構造が確認された場合を○、80%以上の領域で構造が確認された場合を△、構造がほとんど、もしくは全く確認されなかった場合を×とした。また、内部は同じく光学顕微鏡で断面を観察し、膜厚の80%以上に構造が成長していた場合を○、50%以上80%未満の場合を△、50%未満、または構造が観察されなかった場合を×とした。
【0048】
また、表面のべたつきについて、サンプルの表面を乾いた布でふき取ることで評価し、サンプル表面から離脱がない場合を◎、表面から1μm以内の最表面のみ離脱した場合を○、表面から10μm以内の量が離脱した場合を△、支持体が露出するほどサンプル表面から離脱した場合を×とした。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1において、光重合性モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを用いたこと以外は実施例1と同様にして塗布膜を形成した。
【0050】
〔実施例3〕
実施例1において、酸素濃度21%で紫外線照射したこと以外は実施例1と同様にして塗布膜を形成した。
【0051】
〔実施例4〕
実施例1において、酸素濃度150ppmで紫外線照射したこと以外は実施例1と同様にして塗布膜を形成した。
【0052】
〔実施例5〕
実施例1において、光重合性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレートを用いたこと以外は実施例1と同様にして塗布膜を形成した。
【0053】
〔比較例1〕
実施例1において、光重合性モノマーとしてメタクリル酸メチルを用いたこと以外は実施例1と同様にして塗布膜を形成した。
【0054】
表1は、本発明の実施例1〜5と比較例1について、炭素−炭素二重結合数、酸素濃度、柱状構造の有無、及び表面のべたつきについて、その評価をまとめて一覧表にしたものである。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、炭素−炭素二重結合数を複数有する光重合性モノマーを塗布液として使用した場合、柱状構造及び表面のべたつきに関して、△以上の評価を得ることができた。特に、酸素濃度が100ppm以下である場合、内部の柱状構造に関し、○以上の結果が得られた。
【0057】
一方、比較例1の炭素−炭素二重結合数が1である場合、酸素濃度が90ppmであっても、柱状構造が形成されないことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】樹脂構造体の構造の一例を示す概略図
【図2】本実施の形態における樹脂構造体の製造方法の一例を示す概略図
【符号の説明】
【0059】
10…樹脂構造体、12…柱状構造、20製造ライン、22…フィルムロール、24…送出機、26…支持体、28…ガイドローラ、30…除塵機、32…塗布装置、34…紫外線照射装置、36…照射ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する支持体上に、少なくとも1種類以上の多官能モノマー又は多官能オリゴマーと、重合開始剤を溶解させた塗布液を塗布する工程と、
前記塗布液に、平行な活性エネルギー線を照射し、重合反応により柱状に硬化する工程を含んでいることを特徴とする樹脂構造体の製造方法。
【請求項2】
前記塗布液に、平行な活性エネルギー線を照射し、重合により柱状に硬化する工程が、酸素濃度21%以下の雰囲気下において行なわれる請求項1の樹脂構造体の製造方法。
【請求項3】
前記酸素濃度が100ppm以下である請求項2記載の樹脂構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−58436(P2010−58436A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228287(P2008−228287)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】