説明

樹脂注型品およびその製造方法

【課題】埋め金を埋め込み接地層を設けた樹脂注型品であって、接地層端のバリに影響を受けない樹脂注型品を得る。
【解決手段】主回路の中心導体1aと、中心導体1aの周りに注型により形成された絶縁層2と、絶縁層2の外周に導電性塗料を塗布して設けた接地層4と、接地層4と接触するとともに、絶縁層4内に埋め込まれ、かつ他の電気機器の接地部材を締め付け固定するためのネジ部9aを設けた埋め金9とを備え、埋め金9のネジ部9aを設けた面を絶縁層2の面よりも突出させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型により形成した絶縁層の外周に接地層を設けた樹脂注型品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の樹脂注型品には、エポキシ樹脂で注型された略T字状のT形ブッシングが挙げられ、円錐状に形成された界面接続部で絶縁母線との接続が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5に示すように、T形ブッシングは、筒状の第1の中心導体1aとこの第1の中心導体1aの略中央部から垂直に伸びた棒状の第2の中心導体1bとからなる主回路の中心導体1と、中心導体1の周りにエポキシ樹脂のような絶縁材料を注型して形成した略T字状の絶縁層2とから構成されている。
【0004】
T字状の頭部の絶縁層2の中央両端部には、凹状で円錐状の界面接続部3が設けられ、その外周表面に導電性塗料を塗布して形成した接地層4が設けられている。界面接続部3には、凸状で円錐状の弾性絶縁体5とこれを収納する筒状の保護カバー6と第1の中心導体1aの内周面に接触する端部導体7とで構成される端末処理された絶縁母線8が接続される。接続においては、絶縁層2内に埋め込んだ複数の埋め金9のネジ部9aに保護カバー6の鍔部6aをボルト10で締め付け固定する。これにより、弾性絶縁体5が界面接続部3に密着され、良好な絶縁性が維持される。
【0005】
接地層4の形成においては、図6に示すように、界面接続部3や埋め金9を円板状のマスキング板11で覆い、絶縁層2表面を清掃、脱脂後、導電性塗料をスプレーにより満遍なく塗装する。このようにスプレー塗装をすると、マスキング板11の外周側面に沿っても導電性塗料が付着する。この状態で乾燥させ、マスキング板11を取外すと、マスキング板11との境界部の接地層4端には高さが不連続な断面三角形状に突出した突起部4aが形成される。
【0006】
突起部4aが形成されていると、保護カバー6の固定時に、鍔部6aが当接し、保護カバー6をネジ部9aに強固に締め付け固定することができ難くなる。このため、図7に示すように、マスキング板11を取外した後には、突起部4aをバリとみなして、ヤスリなどで除去している。ここで、図中における接地層4の厚さや突起部4aの形状などは、誇張して大きく示している。
【特許文献1】特開2007−174817号公報 (第4ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来の樹脂注型品においては、接地層4端に形成された突起部4aを取り除かなければならなかった。しかしながら、突起部4aは様々な形状で不連続に分布しているので、マスキング板11との境界面の全周を入念に観察しながら取り除かなければならず、多大の時間を要し、作業が困難なものであった。
【0008】
なお、突起部4aが残存していると、絶縁層2と保護カバー6の鍔部6aとの間に不安定なギャップができたり、無理に締め付けることにより埋め金9に偏荷重が加わったりし、保護カバー6を確実に締め付け固定することができない。また、偏芯すると弾性絶縁体5を軸方向と平行に押し付けることが困難となり、界面接続部3の全域に所定の面圧を加えることが困難となり、絶縁特性を低下させることになる。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、接地層端に形成される突起部に影響を受けない樹脂注型品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂注型品は、主回路の中心導体と、前記中心導体の周りに注型により形成された絶縁層と、前記絶縁層の外周に導電性塗料を塗布して設けた接地層と、前記接地層と接触するとともに、前記絶縁層内に埋め込まれ、かつ他の電気機器の接地部材を締め付け固定するためのネジ部を設けた埋め金とを備え、前記埋め金のネジ部を設けた面を前記絶縁層の面よりも突出させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁層内に埋め込まれた埋め金のネジ部を設けた面を絶縁層の面よりも突出させているので、接地層端に形成される突起部の影響を受けることなく、他の電気機器の接地部材を埋め金に当接させることができ、確実に締め付け固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0013】
先ず、本発明の実施例1に係る樹脂注型品を図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大半断面図、図2は、本発明の実施例1に係る樹脂注型品のマスキング状態を説明する要部拡大半断面図である。なお、各図において、従来と同様の構成部分については、同一符号を付した。また、樹脂注型品を従来と同様のT形ブッシングを用いて説明する。
【0014】
図1に示すように、中心導体1aの周りには、エポキシ樹脂を注型して形成された絶縁層2が設けられている。絶縁層2には、中央部に凹状で円錐状の界面接続部3が設けられ、その外周表面に接地層4が設けられている。また、界面接続部3を囲むように、円柱状の複数の埋め金9が埋め込まれている。
【0015】
ここで、埋め金9は、軸方向と直交しネジ部9aが設けられた面を絶縁層2の面よりも突出させている。そして、埋め金9の軸方向と平行する側面には、接地層4端が接触して同電位となるとともに、断面三角形状の突起部4aが形成されている。
【0016】
次に、接地層4の形成方法を図2を参照して説明する。図2に示すように、埋め金9の軸方向と直交する面および界面接続部3を覆うような円板状のマスキング板11をボルト12で埋め金9に仮止めしておき、絶縁層2の表面を清掃、脱脂する。そして、マスキング板11の仮止めの状態を保って、銀やカーボンなどの導電性塗料をスプレーで塗装する。これを加熱硬化させ、マスキング板11を取外せば、接地層4を形成することができる。
【0017】
この場合、接地層4の厚さは数100μmであり、また突起部4aの高さも数100μmとなる。このため、埋め金9の面を絶縁層2の面から突出させる高さは、これらを加算した数100μmとする。ここで、接地層4の厚さと突起部4aの高さとを加算したものを、単に接地層4の厚さと称する。これは、突起部4aの高さが不連続であり、接地層4の厚さよりも小さいものが多いためである。
【0018】
これにより、界面接続部3に接続される従来で説明した絶縁母線の保護カバーのような他の電気機器の接地部材は、接地層4端に形成される突起部4aの影響を受けることなく、埋め金9に強固に締め付け固定することができる。
【0019】
上記実施例1の樹脂注型品によれば、埋め金9のネジ部9aが設けられた面を絶縁層2の面よりも、接地層4の厚さ以上に突出させているので、接地層4端に形成される突起部4aが埋め金9の面よりも突出することがなく、他の電気機器の接地部材を埋め金9に当接させることができ、確実に締め付け固定することができる。
【0020】
上記実施例1では、埋め金9の側面の半周に突起部4aが形成される構成を説明したが、接地層4の中央部に埋め金9が埋め込まれ、埋め金9の全周に突起部4aが形成されるようなものにおいても、絶縁層2の面よりも埋め金9の面を接地層4の厚さ以上に突出させることで、他の電気機器の接地部材を埋め金9に強固に固定することができる。
【実施例2】
【0021】
次に、本発明の実施例2に係る樹脂注型品を図3、図4を参照して説明する。図3は、本発明の実施例2に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大半断面図、図4は、本発明の実施例2に係る樹脂注型品のマスキング状態を説明する要部拡大半断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、絶縁層をサンドブラスト処理することである。各図において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0022】
図3に示すように、絶縁層2の外周表面は、サンドブラスト処理を施して表面を凸凹状としている。即ち、微小な凸凹部2aを設けている。この場合、埋め金9の側面が露出するまでサンドブラスト処理を行って絶縁層2を後退させ、その表面に接地層4を設けている。
【0023】
このような接地層4の形成方法を図4を参照して説明する。図4に示すように、埋め金9のネジ部9aに円板状のマスキング板11をボルト12で仮止めし、絶縁層2外周にサンドブラスト処理を施す。サンドを吹き付ける速度と時間を調整し、埋め金9の側面が露出するまで行う。その後、残存したサンドを、エヤーを吹き付けるなどして取り除き、導電性塗料を塗布する。これを加熱硬化させ、マスキング板11を取外す。
【0024】
これにより、露出した埋め金9の側面には、接地層4端が接触するとともに、突起部4aも形成される。しかしながら、露出する埋め金9の側面の長さを接地層4の厚さ以上としているので、突起部4aが埋め金9の面よりも高く形成されることがなく、他の電気機器の接地部材を強固に固定することができる。
【0025】
上記実施例2の樹脂注型品によれば、実施例1による効果のほかに、サンドブラスト処理を施して接地層4を設けているので、絶縁層2と接地層4との接着をより強固にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大半断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る樹脂注型品のマスキング状態を説明する要部拡大半断面図。
【図3】本発明の実施例2に係る樹脂注型品の構成を示す要部拡大半断面図。
【図4】本発明の実施例2に係る樹脂注型品のマスキング状態を説明する要部拡大半断面図。
【図5】T形ブッシングの構成を示す断面図。
【図6】従来のT形ブッシングのマスキング状態を説明する要部拡大半断面図。
【図7】従来のT形ブッシングの接地層端のバリ取りを説明する要部拡大半断面図。
【符号の説明】
【0027】
1、1a、1b 中心導体
2 絶縁層
2a 凸凹部
3 界面接続部
4 接地層
4a 突起部
5 弾性絶縁体
6 保護カバー
6a 鍔部
7 端部導体
8 絶縁母線
9 埋め金
9a ネジ部
10、12 ボルト
11 マスキング板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路の中心導体と、
前記中心導体の周りに注型により形成された絶縁層と、
前記絶縁層の外周に導電性塗料を塗布して設けた接地層と、
前記接地層と接触するとともに、前記絶縁層内に埋め込まれ、かつ他の電気機器の接地部材を締め付け固定するためのネジ部を設けた埋め金とを備え、
前記埋め金のネジ部を設けた面を前記絶縁層の面よりも突出させたことを特徴とする樹脂注型品。
【請求項2】
前記絶縁層の外周にサンドブラスト処理を施し、前記埋め金のネジ部を設けた面を前記絶縁層の面から突出させたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂注型品。
【請求項3】
前記埋め金の突出高さを前記接地層の厚さ以上にしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂注型品。
【請求項4】
中心導体の周りに注型により絶縁層を形成し、前記絶縁層の外周に接地層を設けるとともに、前記絶縁層内に前記接地層と接触する埋め金を埋め込んだ樹脂注型品の製造方法であって、
前記埋め金のネジ部が設けられた面を前記絶縁層の面よりも突出させ、
突出した前記埋め金にマスキング板を仮止めし、
この状態を保って前記絶縁層の外周に導電性塗料を塗布して前記接地層を設けることを特徴とする樹脂注型品の製造方法。
【請求項5】
中心導体の周りに注型により絶縁層を形成し、前記絶縁層の外周に接地層を設けるとともに、前記絶縁層内に前記接地層と接触する埋め金を埋め込んだ樹脂注型品の製造方法であって、
前記埋め金にマスキング板を仮止めし、
この状態を保って前記絶縁層の外周にサンドブラスト処理を施し、前記埋め金のネジ部が設けられた面を前記絶縁層の面から突出させ、
前記絶縁層に導電性塗料を塗布して前記接地層を設けることを特徴とする樹脂注型品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−40387(P2010−40387A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203295(P2008−203295)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】