説明

樹脂溶着方法及び樹脂溶着装置

【課題】樹脂溶着体の溶着強度の低下を抑制する。
【解決手段】レーザ光を吸収し且つレーザ光が照射されることで発光する吸収材2を樹脂板M1,M2の間に介在させる。吸収材2の発光強度が所定範囲内となるように吸収材2にレーザ光を照射する。そして、このレーザ光の吸収で吸収材2にて発生した熱により、樹脂板M1,M2を溶着して樹脂溶着体Pを製造する。ここで、樹脂板M1,M2の引張強さが吸収材2の発光強度の増加に随伴するように増加され、発光強度が所定範囲内となるときには十分な引張強さが確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法及び樹脂溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂溶着方法として、レーザ光を吸収する吸収材を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に介在させ、吸収材にレーザ光を照射することにより吸収材にて熱を発生させ、この発生した熱で第1の樹脂部材及び第2の樹脂部材を溶着するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−81771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のような樹脂溶着方法では、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に吸収材を均一に介在させるのが困難であることから、溶着された領域の溶着強度にむらが生じるおそれがある。よって、溶着された領域に溶着強度の低い部分が存在し、製造した樹脂溶着体の溶着強度が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、樹脂溶着体の溶着強度の低下を抑制することができる樹脂溶着方法及び樹脂溶着装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、レーザ光を吸収する吸収材のうち特定の吸収材には、レーザ光が照射されることで発光するという特徴があることを見出した。さらに、この特定の吸収材を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に介在させて吸収材にレーザ光を照射する場合、第1の樹脂部材及び第2の樹脂部材の溶着強度が吸収材の発光強度の増加に随伴するように増加し、発光強度が所定範囲内となるときには十分な溶着強度を確保できることを見出した。これらの知見に基づき、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着して樹脂溶着体を製造する際に、特定の吸収材を用いて溶着強度のかかる随伴性を利用できれば、樹脂溶着体の溶着強度の低下を抑制できるということを着想し、本発明に想到するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る樹脂溶着方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、レーザ光を吸収し且つレーザ光が照射されることで発光する吸収材を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に介在させ、吸収材の発光強度が所定範囲内となるように吸収材にレーザ光を照射し、レーザ光の吸収で吸収材にて発生した熱により、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着することを特徴とする。
【0007】
この樹脂溶着方法では、レーザ光を吸収し且つレーザ光が照射されることで発光する吸収材を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に介在させ、この吸収材の発光強度が所定範囲となるように吸収材にレーザ光を照射する。これにより、樹脂溶着体の溶着強度の低下を抑制することができる。これは、上述したように、吸収材の発光強度が所定範囲となるときには、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との溶着強度が十分なものとなるためである。
【0008】
ここで、本発明者らは鋭意検討をさらに重ね、次の知見をさらに見出した。すなわち、吸収材にレーザ光が照射される際、照射されたレーザ光の波長よりも短い波長の光が吸収材にて特に発生され、この光の光強度が所定範囲内となるときに十分な溶着強度を確保できることを見出した。そこで、発光強度は、照射されたレーザ光の波長よりも短い波長の光の光強度であることが好ましい。
【0009】
また、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着装置であって、レーザ光を吸収し且つレーザ光が照射されることで発光する吸収材を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に介在させた状態で、吸収材にレーザ光を照射するためのレーザ光照射手段と、吸収材の発光強度を測定するための発光強度測定手段と、を備え、発光強度測定手段は、レーザ光照射手段の発振波長よりも短い波長の光の光強度を測定し、レーザ光照射手段は、発光強度測定手段で測定された発光強度が所定範囲内となるように、レーザ光を照射することを特徴とする。
【0010】
この樹脂溶着装置では、レーザ光照射手段によりレーザ光が吸収材に照射されると共に、発光強度測定手段により吸収材の発光強度が測定される。そして、レーザ光が吸収材にて吸収されることで発生した熱により、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とが溶着される。ここで、発光強度測定手段が、レーザ光照射手段の発振波長よりも短い波長の光の光強度を測定し、レーザ光照射手段が、発光強度測定手段で測定された発光強度が所定範囲内となるようにレーザ光を照射する。これにより、樹脂溶着体の溶着強度の低下を抑制することができる。これは、上述したように、吸収材にレーザ光が照射される場合、照射されたレーザ光の波長よりも短い波長の光が吸収材にて特に発生され、その発光強度が所定範囲内となるときには、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との溶着強度が十分なものとなるためである。
【0011】
このとき、発光強度測定手段は、レーザ光照射手段の発振波長よりも短い波長の光を透過させる光学フィルタを有することが好ましい。この場合、照射されたレーザ光の反射光が発光強度測定手段で測定されるのを抑制することができる。よって、発光強度測定手段により、レーザ光照射手段の発振波長よりも短い波長の光の光強度を好適に測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂溶着体の溶着強度の低下を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係る樹脂溶着装置を示す概略構成図である。図1に示すように、樹脂溶着装置1は、樹脂板(第1の樹脂部材)M1と樹脂板(第2の樹脂部材)M2とを溶着して樹脂溶着体Pを製造する装置である。ここでの樹脂溶着装置1は、樹脂板M1の側面21と樹脂板M2の主面22とを当接させ、この当接面を溶着予定ラインRに沿って溶着し、断面T字型の樹脂溶着体Pを製造する(詳しくは後述)。
【0015】
樹脂板M1,M2は、例えば、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート及びアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体等の透明樹脂(光透過性樹脂)からなる厚さ2mmの部材である。樹脂溶着体Pは、その用途として、例えば、食品や化粧品等の包装容器、医療用容器、ショーケース及び水槽が挙げられる。溶着予定ラインRは、樹脂板M1,M2の長手方向に沿うように設定され、その長さが例えば150mmとなっている。なお、「透明(透過性)」とは、可視光線に対して透明であって、樹脂を介してその先が透けて見えることを意味し、半透明を含むものである。この「透明」については、以下の説明において同様である。
【0016】
これらの樹脂板M1,M2間には、吸収材2が塗布されて介在されている。吸収材2は、レーザ光を吸収(特に赤外線を吸収)し且つレーザ光が照射されることで発光する色素を含むものである。吸収材2としては、例えば、ナフタロシアニン系の吸収材やフタロシアニン系の吸収材等が挙げられる。吸収材2の色素の質量濃度は、好ましいとして、0.25%〜1.00%とされている。
【0017】
樹脂溶着装置1は、レーザ光源3、光検出器4、押さえ板5及び制御部6を備えている。レーザ光源3は、樹脂板M1,M2間に介在された吸収材2にレーザ光を照射するためのものである。このレーザ光源3には、例えば半導体レーザダイオードが用いられる。ここでは、レーザ光源3として、発振波長が808nmの半導体レーザダイオードを用いている。また、レーザ光源3は、光ファイバ8を介して同軸ヘッド7に光学的に接続されている。
【0018】
光検出器4は、吸収材2の発光強度を検出(測定)するためのものである。具体的には、この光検出器4は、吸収材2にて発生されレーザ光源3の発振波長よりも短い波長の光の光強度である発光強度を測定する。ここでは、光検出器4として、赤外から赤色までの波長(600nm〜980nm)を計測できるホトマルチチャンネルアナライザを用いている。また、光検出器4は、光ファイバ9を介して同軸ヘッド7に光学的に接続されている。なお、光検出器4には、例えば、リニアイメージセンサ付分光器、ホトダイオード及び光電子増倍管(PMT)等を用いてもよい。
【0019】
同軸ヘッド7は、その内部に配置されたダイクロックミラー10及び光学フィルタ11を有している。ダイクロックミラー10は、レーザ光源3から出射されたレーザ光を反射させると共に、吸収材2の発光による光(以下、「発光光」という)を光検出器4に向けて透過させる。つまり、ダイクロックミラー10により、レーザ光源3の光軸L1と光検出器4の光軸L2とが同軸とされている。
【0020】
光学フィルタ11は、光検出器4により検出される発光光の光軸L2上に設けられており、808nmよりも短い波長の光を透過させる。この光学フィルタ11としては、例えば反射型、透過型及びこれらの複合型のものが用いられる。
【0021】
押さえ板5は、樹脂板M2のレーザ光が照射される側の主面23に当接するように配置されており、樹脂板M2を押圧することで樹脂板M1,M2を互いに密着させる。この押さえ板5において溶着予定ラインRに対応する領域には、レーザ光及び発光光が通過するための貫通孔5aが設けられている。
【0022】
制御部6は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部6は、レーザ光源3を制御して、照射されるレーザ光の照射及び照射条件(レーザ出力等)を制御する。また、制御部6は、光検出器4に接続されており、光検出器4により検出された発光強度をメモリーする。
【0023】
なお、以上において、レーザ光源3がレーザ光照射手段に相当し、光検出器4及び光学フィルタが発光強度検出手段を構成する。
【0024】
次に、説明した樹脂溶着装置1を用い、樹脂板M1,M2を互いに溶着して樹脂溶着体Pを製造する方法について説明する。
【0025】
まず、樹脂板M1の側面21と樹脂板M2の主面22とを、吸収材2を介在させて当接する。続いて、押さえ板5を樹脂板M2の主面23に載置し、樹脂板M1,M2を互いに密着させる。続いて、レーザ光源3によりレーザ光を吸収材2に集光するように照射しつつ、そのレーザ光を10mm/秒の速度で矢印A方向に走査する。これにより、吸収材2にてレーザ光が吸収されて発熱される。そして、この熱により、樹脂板M1,M2が溶着されて樹脂溶着体Pが製造されることとなる。
【0026】
ここで、本実施形態では、上述したように、吸収材2がレーザ光の照射で発光することから、レーザ光の照射と同時(レーザ光の照射中)に、吸収材2におけるレーザ光照射位置での発光光を光検出器4にて検出し、吸収材2の発光強度を検出する。これと共に、この発光強度を制御部6にメモリーする。
【0027】
図2は、図1の樹脂溶着装置の光検出器により検出した光強度の一例を示す線図である。図中の点線は樹脂板M1,M2間に吸収材2が介在されていない場合の発光強度を示し、実線は樹脂板M1,M2間に吸収材2が介在された場合の発光強度を示す。図2に示すように、レーザ光源3の発振波長(808nm)よりも小さい波長域において、実線の発光強度が破線の発光強度よりも大きくなっている。つまり、吸収材2では、レーザ光が照射されることにより、レーザ光源3の発振波長よりも小さい波長の光が発生されることがわかる。また、吸収材2では、近赤から可視の波長域にて特に発光していることがわかる。
【0028】
図3は、図1の樹脂溶着装置において吸着材の発光強度と樹脂溶着体の引張強さとの関係の一例を示す線図である。図中において、各点は実測結果を示し、0.25%、0.50%及び1.00%は吸着材2の色素の質量濃度を示し、675nm及び804nmは発光光の波長を示す。図3に示すように、樹脂板M1,M2の引張強さが吸収材2の発光強度の増加に随伴するように増加し、発光強度が所定範囲内となるときには十分な引張強さが確保される。特に、レーザ光の発振波長より小さい675nmの発光光の発光強度を基準にした場合、樹脂溶着体Pの引張強さは、質量濃度によらず、発光強度が1500a.u.(Arbitrary Units)から1800a.u.の光強度において200kgf/cm以上となることが見出される。
【0029】
従って、制御部6にメモリーした発光強度が所定範囲内となるときには、溶着された領域に十分な溶着強度が確保されていると判定し、樹脂溶着体Pの製造を正常に終了する。一方、制御部6にメモリーした発光強度が所定範囲外となるときには、溶着された領域の溶着強度が低いと判定し、この樹脂溶着体Pを不良と判定する。すなわち、吸収材2の発光強度が所定範囲内となるように、吸収材2にレーザ光が照射されることになる。
【0030】
以上、本実施形態によれば、レーザ光を吸収し且つレーザ光が照射されることで発光する吸収材2を樹脂板M1,M2の間に介在させ、この吸収材2の発光強度が所定範囲内となるように吸収材2にレーザ光を照射する。これにより、上述したように、吸収材2の発光強度が所定範囲内となるときには樹脂板M1,M2の溶着強度が十分なものとなることから、樹脂溶着体Pの溶着強度の低下を抑制することができる。
【0031】
ここで、上述したように、レーザ光が吸収材2に照射された際には、照射されたレーザ光の波長よりも短い波長の光が吸収材にて特に発生され、この波長の光強度が所定範囲内となるときに十分な溶着強度が確保される。よって、本実施形態では、上述したように、レーザ光の波長よりも短い波長の光の光強度を発光強度として測定することから、発光強度を精度よく測定することができると共に、樹脂溶着体Pの溶着強度の低下を確実に抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態の樹脂溶着装置1は、上述したように、レーザ光源3の発振波長よりも短い波長の光を透過させる光学フィルタ11を備えているため、レーザ光源3により照射されたレーザ光の反射光が光検出器4で測定されるのを抑制することができ、光検出器4にてS/N比の高い発光強度を測定することができる。つまり、光検出器4により、レーザ光源3の発振波長よりも短い波長の光の光強度を好適に測定することができる。
【0033】
また、本実施形態では、上述したように、レーザ光源3の光軸L1と光検出器4の光軸L2とが同軸とされている。よって、これらの光軸L1,L2を容易に調整することができる。また、振動による光軸L1,L2のずれの影響を低減でき、光検出器4にて精度よく発光光を検出することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、上述したように、発光強度が所定範囲内となるときに樹脂溶着体Pの製造を正常に終了する一方、発光強度が所定範囲外となるときに樹脂溶着体Pを不良と判定することにより、吸収材2の発光強度が所定範囲内となるように吸収材2にレーザ光を照射したが、これに限定されるものではない。
【0035】
例えば、レーザ光の照射中において、測定された発光強度が所定範囲内となるときには、そのままレーザ光源3からのレーザ光の照射を続行する一方、測定された発光強度が所定範囲外となるときには、制御部6によりレーザ光源3からのレーザ光の照射を停止してもよい。また、レーザ光の照射中において、測定された発光強度に基づいて、制御部6によりレーザ光源3をフィードバック制御してもよい。具体的には、測定された発光強度が所定範囲よりも小さい場合、レーザ光源3を制御してレーザ出力を大きくしたり、測定された発光強度が所定範囲よりも大きい場合、レーザ光源3を制御してレーザ出力を小さくしたり等してもよい。
【0036】
ところで、一般的に、本実施形態のように透明な樹脂板M1,M2同士を溶着する場合、透明な外観を保つためには、吸収材2の色素の質量濃度を高くすることが困難とされている。これは、色素がレーザ光の波長の光を吸収するだけでなく、可視光域の波長の光も吸収するためである。よって、色素の質量濃度のわずかな変化で、溶着品質(溶着強度及びその安定性)に大きなばらつきが発生してしまい、また、レーザ光に比較的高いレーザ出力が必要とされる。
【0037】
そこで、従来、透明な樹脂板M1,M2同士を溶着する樹脂溶着方法として、樹脂板M1,M2の間の隙間を計測するもの等が知られている。しかし、隙間計測では、溶着強度を類推するには十分なデータを得ることが困難である。
【0038】
これに対し、本実施形態では、上述したように、可視〜赤外域における吸収材2の発光強度を測定することで、樹脂板M1,M2の接合強度の推定が可能であり、ひいては、吸収材2の色素濃度のむらをも推定することができる。つまり、透明な樹脂板M1,M2を溶着する場合であっても、これらの間の溶着品質を好適にモニタでき樹脂溶着体Pを製造することができる。さらに、透明な樹脂板M1,M2同士を透明のまま溶着することができることから、樹脂溶着体Pの美感を損なわない。よって、本実施形態は、透明な第1及び第2の樹脂部材間における溶着の分野において画期的なものといえる。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態に係る樹脂溶着装置について説明する。ここでは、上記実施形態と同様な説明は省略し、異なる点のみ説明する。
【0040】
図4は、本発明の第2実施形態に係る樹脂溶着装置を示す概略構成図である。図4に示すように、本実施形態の樹脂溶着装置50が、上記の樹脂溶着装置1(図1参照)と異なる点は、同軸ヘッド7に代えて、レーザ光照射ヘッド51及び光検出ヘッド52を備える点である。
【0041】
レーザ光照射ヘッド51は、その内部に配設されたレーザ光源3を有している。光検出ヘッド52は、光検出器4に光ファイバにより光学的に接続されており、内部に配設され光検出器4の光軸L2上に設けられた光学フィルタ11を有している。つまり、樹脂溶着装置50では、レーザ光源3の光軸L1と光検出器4の光軸L2とが異軸とされている。
【0042】
この本実施形態においても、上記効果と同様な効果、すなわち、樹脂溶着体Pの溶着強度の低下を抑制するという効果を奏する。また、上述したように、レーザ光源3の光軸L1と光検出器4の光軸L2とが異軸とされていることから、樹脂溶着装置50の構成を簡易にして部品点数を少なくすることができると共に、レーザ光の反射光が光検出器4により検出されるのを抑制することができる。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、上記実施形態では、レーザ光源3の発振波長を808nmとしたが、発振波長は種々の波長としてもよい。図5は他の例に係る樹脂溶着装置の光検出器により測定した発光強度の一例を示す線図である。図中の光強度は、発振波長が940mmのレーザ光源からレーザ光を照射した際に、光検出器4により測定した発光強度を示している。また、図中において、点線は樹脂板M1,M2間に吸収材2が介在されていない場合の発光強度を示し、実線は樹脂板M1,M2間に吸収材2が介在された場合の発光強度を示す。この図5に示すように、発光光の波長が約860nm以下の波長のときに、実線の発光強度が破線の発光強度よりも大きくなっている。
【0045】
従って、発振波長が940nmのレーザ光源を用いる場合でも、レーザ光が照射されることで吸収材2が発光することがわかる。つまり、吸収材2の発光強度を測定できるレー発振波長は、808nmに限られない。なお、この吸収材2の色素では、図6に示すように、発光光の波長がレーザ光を吸収するピーク(ここでは、840nm)近傍となるときに、発光強度のピークが観察されている。
【0046】
また、上記実施形態では、同軸ヘッド7又は光検出ヘッド52の内部において光検出器4の光軸L2上に光学フィルタ11を設けたが、光検出器の光軸上であれば、光ファイバの端面や光検出器の内部に光学フィルタを設けてもよい。また、上記実施形態では、透明な樹脂板M1,M2を溶着したが、不透明な樹脂部材同士を溶着する場合もある。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を説明する。
【0048】
(発光観測試験)
図7に示す品名の色素をそれぞれ用意し、これらの色素のそれぞれにレーザ光を照射し、発光の有無を色素毎に観測した。照射するレーザ光の波長は808nmとし、発光の有無は、可視光に近い700nm〜800nmの波長の光が観測されるか否かで評価した。その結果、e−BIND以外の品名の色素において発光を観測することができた。
【0049】
(レーザ出力に対する引張強さの評価試験)
まず、ナフタロシアニン系の色素を有機溶媒メチルエチルケトンへ溶解し、色素の質量濃度(以下、「色素質量濃度」という)が0.25%、0.50%、1.00%の吸着材を作成した。次に、ポリカーボネートからなる第1及び第2の樹脂部材を複数用意し、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材との間に吸着材を介在させたもの(以下、「樹脂体」という)を色素質量濃度毎に3種作成した。
【0050】
そして、これらの樹脂体の吸着材に、レーザ出力を変化させながら発振波長808nmのレーザ光を照射し、樹脂溶着体を製造した。そして、これらの樹脂溶着体に対して引張試験をそれぞれ実施し、レーザ出力に対する引張強さを色素質量濃度毎に評価した。レーザ光は、光学系を用いてφ2.4mmに集光させ、また、走査するレーザ光の速さは、速度10mm/秒とした。この評価結果を図8に示す。
【0051】
図8は色素質量濃度毎のレーザ出力と引張強さとの関係を示す線図である。図8に示すように、かかる評価の結果、色素質量濃度が少なければ、溶着に必要なレーザ出力が高くなることが観察された。また、引張強さは、色素質量濃度に大きく依存することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る樹脂溶着装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の樹脂溶着装置の光検出器により検出した光強度の一例を示す線図である。
【図3】図1の樹脂溶着装置において吸着材の発光強度と樹脂溶着体の引張強さとの関係の一例を示す線図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る樹脂溶着装置を示す概略構成図である。
【図5】他の例に係る樹脂溶着装置の光検出器により検出した発光強度の一例を示す線図である。
【図6】発振波長が940nmのレーザ光源を用いた場合における発光光の波長と発光強度との関係の一例を示す図である。
【図7】発光観測試験に用いた色素を示す図表である。
【図8】レーザ出力に対する引張強さの評価試験の結果を示す線図である。
【符号の説明】
【0053】
1,50…樹脂溶着装置、2…吸収材、3…レーザ光源(レーザ光照射手段)、4…光検出器(発光強度測定手段)、11…光学フィルタ(発光強度測定手段)、M1…樹脂板(第1の樹脂部材)、M2…樹脂板(第2の樹脂部材)、P…樹脂溶着体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、
レーザ光を吸収し且つ前記レーザ光が照射されることで発光する吸収材を前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材との間に介在させ、
前記吸収材の発光強度が所定範囲内となるように前記吸収材に前記レーザ光を照射し、
前記レーザ光の吸収で前記吸収材にて発生した熱により、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを溶着することを特徴とする樹脂溶着方法。
【請求項2】
前記発光強度は、照射された前記レーザ光の波長よりも短い波長の光の光強度であることを特徴とする請求項1記載の樹脂溶着方法。
【請求項3】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着装置であって、
レーザ光を吸収し且つ前記レーザ光が照射されることで発光する吸収材を前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材との間に介在させた状態で、前記吸収材に前記レーザ光を照射するためのレーザ光照射手段と、
前記吸収材の発光強度を測定するための発光強度測定手段と、を備え、
前記発光強度測定手段は、前記レーザ光照射手段の発振波長よりも短い波長の光の光強度を測定し、
前記レーザ光照射手段は、前記発光強度測定手段で測定された前記発光強度が所定範囲内となるように、前記レーザ光を照射することを特徴とする樹脂溶着装置。
【請求項4】
前記発光強度測定手段は、前記レーザ光照射手段の発振波長よりも短い波長の光を透過させる光学フィルタを有することを特徴とする請求項3記載の樹脂溶着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−12284(P2009−12284A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176409(P2007−176409)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】