説明

樹脂積層体及びその製造方法

【課題】耐摩耗性、耐候性及び生産効率に優れる樹脂積層体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂基材10、透明硬化膜20及び無機硬質物層30をこの順に積層してなる樹脂積層体1であって、前記透明硬化膜20が、紫外線吸収基を含有する平均粒径が1〜200nmの有機微粒子22を、Si−O結合を有するマトリックス24中に分散した膜である樹脂積層体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂積層体及びその製造方法に関する。より詳しくは、耐摩耗性、耐候性及び生産効率に優れる樹脂積層体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性プラスチック、特にポリカーボネート樹脂は、透明性に優れており、軽量で耐衝撃性にも優れていることから、ガラスに代わる構造材料として広く使用されている。しかしながら、耐擦傷性、耐候性等の特性に劣ることから、その用途は限定されており、ポリカーボネート樹脂基材の表面特性を改良することが切望されている。
【0003】
表面特性の改良方法としては、樹脂基材を表面処理剤で被覆する方法が挙げられる。例えば、スプレー法、ディッピング法、フローコーティング法等のようなウェット法により、多官能アクリル系光硬化性樹脂、メラミン系熱硬化性樹脂又はオルガノポリシロキサン系熱硬化性樹脂からなる硬化層を樹脂基材の表面に形成し、表面特性を改良する。
【0004】
ウェット法で製造した樹脂積層体としては、樹脂基材をポリオルガノシロキサンで被覆した樹脂積層体が、耐擦傷性及び耐薬品性に優れることから有用である。しかし、この樹脂積層体は、被覆層及び樹脂基材(特にポリカーボネート樹脂)の密着性に問題がある。特に、この樹脂積層体を屋外で長期間にわたって用いた場合に、被覆層が剥がれ落ちるという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するため、一般的に樹脂基材及び被覆層間に紫外線吸収剤を含むプライマー層(アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系等)が新たに設けられる。しかし、プライマー層を新たに設けることにより、樹脂積層体の積層構造がさらに複雑化し、生産効率が低下する問題があった。
【0006】
上記ウェット法以外の表面特性改良の方法としてはドライ法が挙げられ、例えば、真空にした容器の中で薄膜物質を気化させ、基板上に堆積させて薄膜を形成する真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の物理気相成長法(PVD)、及び薄膜構成原子を含む化合物ガスを原料とし、化学反応を利用して樹脂基材表面に酸化ケイ素等の無機硬質物の被膜を析出させる熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等の化学気相成長法(CVD)が開示されている(特許文献1)。
【0007】
ドライ法で製造した樹脂積層体としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等で樹脂基材を被覆した樹脂積層体が、耐擦傷性に優れることから有用である。しかし、この樹脂積層体も被覆層及び樹脂基材の密着性に問題があり、被覆層の剥離、クラック等が生じる問題があった。
【0008】
具体的には、特許文献2にはポリカーボネート樹脂基材の表面上に、オルガノシリコン物質からなる界面層及びプラズマCVD法によって形成した二酸化ケイ素等からなる耐摩耗性表面層を有する樹脂積層体が開示されている。
上記オルガノシリコン物質としては、シラノールが部分縮合した化合物の溶液中にコロイド状シリカの分散物及び特定構造の紫外線吸収剤を含んでなる硬化可能なオルガノポリシロキサンが開示されている。
しかし、上記紫外線吸収剤は低分子であり、特許文献2に開示されている樹脂積層体は耐候性に劣る樹脂積層体であった。
【0009】
特許文献3には、紫外線吸収能を有する高分子ナノ粒子がSi−Oマトリックス中に高分散した膜内部構造を有する被覆層及び樹脂基材からなる樹脂積層体が開示されている。
この樹脂積層体は、耐摩耗性、及び樹脂基材及び被覆層の密着性に優れるが、この樹脂積層体をワイパー付車両ウインドウの様な激しい摩擦を伴う部品に使用する場合に、耐擦傷性、耐摩耗性等について改良の余地があった。
【特許文献1】特開昭58−29835号公報
【特許文献2】特開昭64−4343号公報
【特許文献3】WO2006/022347号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐摩耗性、耐候性及び生産効率に優れる樹脂積層体、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の樹脂積層体等が提供される。
1.樹脂基材、透明硬化膜及び無機硬質物層をこの順に積層してなる樹脂積層体であって、
前記透明硬化膜が、紫外線吸収基を含有する平均粒径が1〜200nmの有機微粒子を、Si−O結合を有するマトリックス中に分散した膜である樹脂積層体。
2.前記Si−O結合を有するマトリックス中に、さらに、平均粒径が1〜200nmの無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカが分散している1に記載の樹脂積層体。
3.前記透明硬化膜のヘイズ値が10%以下である1又は2に記載の樹脂積層体。
4.前記透明硬化膜の可視光線透過率が80%以上である1〜3のいずれかに記載の樹脂積層体。
5.前記透明硬化膜における、前記有機微粒子の体積分率が、0.5〜70体積%である1〜4のいずれかに記載の樹脂積層体。
6.前記透明硬化膜に含まれる無機成分由来の酸化物換算重量が、前記透明硬化膜の全重量の30〜80重量%である1〜5のいずれかに記載の樹脂積層体。
7.前記無機硬質物層が化学気相成長法により成膜してなる1〜6のいずれかに記載の樹脂積層体。
8.前記無機硬質物層が物理気相成長法により成膜してなる1〜6のいずれかに記載の樹脂積層体。
9.樹脂基材上に、下記成分(1)〜(7)を含むコーティング組成物を塗布して硬化させて透明硬化膜を形成し、
前記透明硬化膜の上に、無機硬質物層を形成する、1〜8のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。
(1)オルガノアルコキシシラン化合物又はポリオルガノアルコキシシラン化合物
(2)アミノシラン化合物
(3)エポキシシラン化合物
(4)高分子紫外線吸収剤
(5)硬化触媒
(6)ブロック化イソシアネートシラン化合物
(7)溶剤
10.前記コーティング組成物が、さらに成分(8)無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカを含む9に記載の樹脂積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐摩耗性、耐候性及び生産効率に優れる樹脂積層体、及びその製造方法を提供することができる。
特に本発明の樹脂積層体は、透明硬化膜及び無機硬質物層の密着性に優れることから、密着性を担保するためのプライマー層を設ける必要がなく、生産効率に優れる。
また、本発明の樹脂積層体の無機硬質物層は高度の耐摩耗性を有し、無色透明であり、耐候性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の樹脂積層体は、樹脂基材、透明硬化膜及び無機硬質物層をこの順に積層してなる。透明硬化膜は、紫外線吸収基を含有する平均粒径が1〜200nmの有機微粒子を、Si−O結合を有するマトリックス中に分散した膜である。
【0014】
図1は、本発明の樹脂積層体の一実施形態を示す概略断面図である。
樹脂積層体1は、樹脂基材10の上に透明硬化膜20及び無機硬質物層30を積層している。透明硬化膜20は、有機微粒子22がマトリックス24中に分散している。
【0015】
本発明の樹脂積層体は、様々な樹脂基材を用いることができるが、特に、ポリカーボネート樹脂が好適に使用できる。
ポリカーボネート樹脂基材は、特に限定されないが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が用いられ、その重合体骨格に脂肪酸ジオールに由来する構造単位が含まれていても、エステル結合を持つ構造単位が含まれていてもよい。分子量については特に限定されないが、押出成形性や機械的強度の観点から、粘度平均分子量で10,000〜50,000のものが好ましく、13,000〜40,000のものがより好ましい。基材の厚みについては、特に制限はないが、好ましくは0.1〜20mm程度の範囲である。ポリカーボネート樹脂基材は透明な基材が好ましい。
【0016】
本発明の透明硬化膜は、紫外線吸収基を含有する、平均粒径が1〜200nmの有機微粒子を、Si−O結合を有するマトリックス中に分散した膜である。
紫外線吸収基を含有する有機微粒子(例えば、後述する高分子紫外線吸収剤)を膜中に微小な粒子として分散させることで、耐紫外線性に優れ、透明性の高い硬化膜が得られる。有機微粒子の平均粒径は、100nm以下であることがより好ましい。
尚、粒子成分の同定は、HAADF(高角度管状暗視野:High−angle annular dark−field)による元素分析で実施できる。
また、高分子紫外線吸収剤の平均粒径は、TEM(透過電子顕微鏡)で樹脂基板上の熱硬化膜の断面観察を行い、画像処理ソフトにより求めた平均値を意味する。
【0017】
可視光線透過率とは、試験片を通った全光量/可視光線入射光量を百分率で示したものである。本発明の樹脂積層体の透明硬化膜の好適な可視光線透過率は80〜100%である。ヘイズとは、透明材料の内部又は表面の不明瞭なくもり様の外観の度合いのことであり、散乱光線透過率/可視光線透過率を百分率で示したものである。本発明の樹脂積層体の透明硬化膜の好適なヘイズは10〜0.3%である。
【0018】
この透明硬化膜は、例えば、下記成分(1)〜(7)を含むコーティング組成物を使用することにより作製できる。
(1)オルガノアルコキシシラン化合物又はポリオルガノアルコキシシラン化合物
(2)アミノシラン化合物
(3)エポキシシラン化合物
(4)高分子紫外線吸収剤
(5)硬化触媒
(6)ブロック化イソシアネートシラン化合物
(7)溶剤
【0019】
(1)オルガノアルコキシシラン化合物又はポリオルガノアルコキシシラン化合物
オルガノアルコキシシラン化合物(1)は、アミノ基、エポキシ基、及びイソシアネート基を含まないオルガノアルコキシシラン化合物である。好ましくは2官能アルコキシシラン、3官能アルコキシシランである。さらに、これらの化合物がシロキサン結合(Si−O結合)で結合された部分縮合物(即ち、ポリオルガノアルコキシシラン化合物)も使用可能である。尚、これらの化合物は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
3官能アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシシラン、メチル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、エチル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、ヘキシルトリブトキシシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリプロポキシシラン、デシルトリブトキシシラン、置換基にフッ素原子を導入したトリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフッ素化アルキル(トリアルコキシ)シラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また2種類のアルコキシ基を有するメチルジメトキシ(エトキシ)シラン、エチルジエトキシ(メトキシ)シラン等も挙げられる。
2官能アルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビス(2−メトキシエトキシ)ジメチルシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0020】
好適なオルガノアルコキシシラン化合物(1)を、以下の式(1)で表すことができる。
(RSi(OR4−m (1)
(式中、Rは同じでも異なってもよく炭素数1〜10のアルキル基;フッ素化アルキル基;ビニル基;フェニル基;又はメタクリロキシ基で置換された炭素数1〜3のアルキル基である。Rは炭素数1〜4のアルキル基、もしくはエーテル基を有するアルキル基である。mは1又は2のいずれかの整数である。)
【0021】
ポリオリガノアルコキシシラン化合物(1)は、好ましくは分子量200〜6000のアルコキシシラン化合物である。
好適なポリオルガノアルコキシシラン化合物(1)を、以下の式(1’)で表すことができる。
(RSin−1(OR2n+2−m (1’)
(式中、Rは同じでも異なってもよく炭素数1〜10のアルキル基;フッ素化アルキル基;ビニル基;フェニル基;又はメタクリロキシ基で置換された炭素数1〜3のアルキル基である。Rは炭素数1〜4のアルキル基、もしくはエーテル基を有するアルキル基である。mはn〜2nで表されるいずれかの整数である。nは2〜15のいずれかの整数である。)
尚、ポリオルガノアルコキシシラン化合物(1)は、複数のnが異なる化合物からなる混合物もよい。
ポリオルガノアルコキシシラン化合物としては、例えば3官能アルコキシシランであるメチルトリメトキシシランやフェニルトリメトキシシランが部分縮合してできたポリメチルメトキシシロキサン(例えば、下記MTMS−Aが相当。メチルメトキシシロキサンと表記する場合もある)やポリフェニルメトキシシロキサン、2官能アルコキシシランであるジエチルジエトキシシランが部分縮合してできたポリジエチルエトキシシロキサン等が挙げられる。
ポリオリガノアルコキシシラン化合物(1)の具体例としては、多摩化学工業株式会社製の「MTMS−A」、コルコート株式会社製の「SS−101」、東レ・ダウコーニング株式会社製の「AZ−6101」「SR2402」「AY42−163」等が挙げられる。
【0022】
(2)アミノシラン化合物
アミノシラン化合物(アミノ基含有シラン化合物)(2)は、アミノ基を含むがエポキシ基とイソシアネート基は含まないアルコキシシラン化合物である。具体例としては、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N―(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
好適なアミノシラン化合物(2)を、以下の式(2)で表すことができる。
(R11Si(OR4−n (2)
(式中、R11は同じでも異なってもよく炭素数1〜4のアルキル基;ビニル基;フェニル基;又はメタクリロキシ基、アミノ基(−NH基)、アミノアルキル基(−(CH−NH)、アルキルアミノ基(−NHR基)からなる群から選ばれる1以上の基で置換された炭素数1〜3のアルキル基であり、R11の少なくとも1つは、アミノ基、アミノアルキル基、アルキルアミノ基のいずれかで置換された炭素数1〜3のアルキル基である。上記アミノアルキル基におけるxは、1〜3の整数であり、上記アルキルアミノ基におけるRは炭素数1〜3のアルキル基である。Rは炭素数1〜4のアルキル基である。nは1又は2の整数である。)
【0024】
(3)エポキシシラン化合物
エポキシシラン化合物(エポキシ基含有シラン化合物)(3)は、エポキシ基を含むがアミノ基とイソシアネート基は含まないアルコキシシラン化合物である。具体例としては、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
好適なエポキシシラン化合物(3)を、以下の式(3)で表すことができる。
(R21Si(OR4−n (3)
(式中、R21は同じでも異なってもよく炭素数1〜4のアルキル基;ビニル基;フェニル基;又はメタクリロキシ基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基からなる群から選ばれる1以上の基で置換された炭素数1〜3のアルキル基であり、R21の少なくとも1つは、グリシドキシ基又は3,4−エポキシシクロヘキシル基で置換された炭素数1〜3のアルキル基である。Rは炭素数1〜4のアルキル基である。nは1又は2の整数である。)
【0026】
(4)高分子紫外線吸収剤
高分子紫外線吸収剤(4)は、紫外線吸収剤の機能を有する骨格を分子内に有する高分子化合物である。例えば、紫外線吸収剤として作用する骨格(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系)を側鎖に有するアクリル系モノマーと他のエチレン系不飽和化合物(アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの誘導体、スチレン、酢酸ビニル等)と共重合させたものが例示される。従来の紫外線吸収剤が一般に分子量200〜700の低分子であるのに対し、高分子紫外線吸収剤粒子の重量平均分子量は通常1万を超える。プラスチックとの相溶性や耐熱性等、従来からある低分子型紫外線吸収剤の欠点が改良され、長期にわたって耐候性能を付与できるものである。使用形態は粉末状、又は酢酸エチル等の有機溶剤に分散させた分散系や、水中に分散したエマルジョン系等が挙げられる、
【0027】
高分子紫外線吸収剤の具体例としては、一方社油脂工業(株)製のコーティング用高分子紫外線吸収剤ULS−700、ULS−1700、ULS−383MA、ULS−1383MA、ULS−383MG、ULS−385MG、ULS−1383MG、ULS−1385MG、ULS−635MH、ULS−933LP、ULS−935LH、ULS−1935LH、HC−935UE、XL−504、XL−524、XL−547、XL−729、XL−730等、及び株式会社ニッコー化学研究所製の高分子紫外線吸収樹脂塗料NCI−905−20EM及びNCI−905−20EMA(スチレンモノマーとベンゾトリアゾール系モノマーの共重合体でできた高分子紫外線吸収剤)が挙げられる。好ましくは、分散媒体が水、メタノール、エタノール、プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどの低級アルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類(一般式:ROCHCHOH、エチレングリコールのモノアルキルエーテルの総称)であるものが挙げられる。このような分散媒体を用いることにより、高分子紫外線吸収剤の分散性が向上し、沈降を防ぐことができる。さらに好ましくは分散媒体が水のものである。分散媒体が水の場合、Si−O結合を有するマトリックスの形成の際に必要な、シラン化合物の加水分解、縮合反応にも使用できるので好都合である。
【0028】
(5)硬化触媒
硬化触媒(5)は、シラン化合物(1)〜(3)及び(6)の加水分解及び縮合(硬化)させる触媒であり、その例として、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、グルタミン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。
また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、n−ヘキシルアミン、ジメチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、酢酸エタノールアミン、ギ酸ジメチルアニリン、安息香酸テトラエチルアンモニウム塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ベンゾイルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウムアセテート、オクチル酸スズ等の有機金属塩、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、SnCl、TiCl、ZnCl等のルイス酸等が挙げられる。
【0029】
これら硬化触媒(5)のうち、高分子紫外線吸収剤(4)の配合量を増量しても高分散化でき、得られる膜の透明性を向上できることから、有機酸が好ましく使用できる。特に有機カルボン酸、なかでも酢酸が好ましく使用できる。
尚、硬化触媒は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
(6)ブロック化イソシアネートシラン化合物
ブロック化イソシアネートシラン化合物(6)とは、イソシアネート基をオキシム等のブロック剤で保護して不活性としておき、加熱により脱ブロック化してイソシアネート基が活性化(再生)されるイソシアネートシラン化合物である。
イソシアネートシラン化合物(イソシアネート基含有シラン化合物)は、イソシアネート基は含むがアミノ基とエポキシ基は含まないアルコキシシラン化合物である。具体例としては、γ―イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ―イソシアネートプロピルトリエトキシシシラン、イソシアネートシラン化合物等が挙げられる。本発明においては、これらのイソシアネートシラン化合物のイソシアネート基がブロック化された化合物を使用する。ブロック化イソシアネートシラン化合物としては、好ましくは、ブロック化イソシアネートプロピルトリエトキシシランである。
【0031】
イソシアネート基のブロック化剤としては、アセトオキシム、2−ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルイソブチルケトオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクラム等のラクタム類、モノアルキルフェノール(クレゾール、ノニルフェノール等)等のアルキルフェノール類、3,5−キシレノール、ジ−t−ブチルフェノール等のジアルキルフェノール類、トリメチルフェノール等のトリアルキルフェノール類、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジエステル、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等のアセト酢酸エステル等の活性メチレン化合物類、メタノール、エタノール、n−ブタノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等の水酸基含有エーテル類、乳酸エチル、乳酸アミル等の水酸基含有エステル類、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類、アセトアニリド、アクリルアマイド、タイマー酸アマイド等の酸アミド類、イミダゾール、2−エチルイミダゾール等のイミダゾール類、3,5−ジメチルピラゾール等のピラゾール類、1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール類、コハク酸イミド、フタル酸イミド等の酸イミド類等を使用できる。またブロック化剤解離温度を制御する為、ジブチル錫ジラウレート等の触媒を併用してもよい。
【0032】
イソシアネートシラン化合物及びブロック化剤の配合モル比は、通常、0.9〜1.1:0.9〜1.1であり、好ましくは0.95〜1.05:0.95〜1.05である。
【0033】
(7)溶剤
本発明のコーティング組成物は、水及び/又は有機溶剤に混合された状態で使用する。本発明で用いる溶剤(7)は、上記各成分を均一に混合し分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水の他、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を挙げることができる。これら有機溶剤のうち、アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等を挙げることができる。
その他の溶媒の具体例としては、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、キシレン、ジクロロエタン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸エトキシエチル等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
各成分(1)〜(7)の配合量は、適宜設定できるが、例えば、以下の通りである。
(1)オルガノアルコキシシラン化合物又はポリオルガノアルコキシシラン化合物:好ましくは10〜80重量%(より好ましくは15〜75重量%)
(2)アミノシラン化合物:1〜60重量%(より好ましくは3〜40重量%)
(3)エポキシシラン化合物:1〜60重量%(より好ましくは5〜50重量%)
(4)高分子紫外線吸収剤:0.1〜50重量%(より好ましくは5〜50重量%)
(5)硬化触媒:0.1〜40重量%(より好ましくは0.1〜30重量%)
(6)イソシアネートシラン化合物:1〜60重量%(より好ましくは5〜60重量%)
(7)溶剤:成分(1)〜(6)の合計、又は成分(1)〜(6)及び後述する(8)の合計を100重量部としたとき、5〜1000重量部(より好ましくは20〜800重量部)
【0035】
オルガノアルコキシシラン化合物又はポリオルガノアルコキシシラン化合物(1)が
80重量%を超えて混合される場合は、密着性が低下する恐れがあり、10重量%未満の場合は、耐擦傷性や造膜性が低下(ひび割れ等)の恐れがある。
【0036】
アミノシラン化合物(2)が60重量%を超えて混合される場合は、造膜性が低下し(ひび割れ)、1重量%未満の場合は、密着性、耐擦傷性が著しく低下する恐れがある。さらに配合量下限については、3重量%以上使用することが、耐擦傷性発現に好ましい。
【0037】
エポキシシラン化合物(3)が60重量%を超えて混合される場合は、膜の透明性、密着性、耐擦傷性、コーティング液安定性が低下し、1重量%未満の場合は、造膜性が低下する(ひび割れ)恐れがある。さらに配合量下限については、5重量%以上使用することが、造膜性発現に好ましい。
【0038】
高分子紫外線吸収剤(4)が50重量%を超えて混合される場合は、耐擦傷性が著しく低下し、0.1重量%未満の場合は、十分な耐候性を示さない恐れがある。
【0039】
硬化触媒(5)が40重量%を超えて混合される場合は、コーティング液の安定性が低下する恐れがあり、0.1重量%未満の場合は、硬化不良の原因となる恐れがある。
【0040】
ブロック化イソシアネートシラン化合物(6)が60重量%を超えて混合される場合は、造膜性が低下し、1重量%未満の場合は、コーティング液安定性が低下する恐れがある。さらに、配合量下限については、5重量%以上使用することが、耐久性(耐湿性)発現に好ましい。より好ましくは、10重量%以上である。
上記ブロック化イソシアネートシラン化合物(6)の配合量は、イソシアネートシラン化合物及びブロック化剤の合計量である。
【0041】
溶剤(7)の配合量は、成分(1)〜(6)の合計を100重量部としたとき、好ましくは5〜1000重量部、より好ましくは20〜800重量部、特に好ましくは50〜600重量部の範囲で使用される。
【0042】
また、本発明のコーティング組成物は、この他、硬化被膜のレベリング剤、潤滑剤を添加することができ、それらの添加剤として、例えばポリオキシアルキレンとポリジメチルシロキサンの共重合体、ポリオキシアルキレンとフルオロカーボンとの共重合体等を用いることができる。
この他、必要に応じて、光安定化剤、耐候性付与剤、着色剤又は帯電防止剤も添加可能である。
【0043】
上記のコーティング組成物は、成分(1)〜(7)を混合して調製する。
好ましくは、少なくとも成分(1)及び成分(6)を含む第一の混合液を作製し、最後に成分(2)を混合する。
このように、分離して調製すると、コーティング組成物の液保存安定性(ゲル化しない等)が向上したりするため、好ましい。
例えば、成分(1)、(3)、(4)、(5)及び(7)を混合した後、成分(6)を加え、最後に成分(2)を混合する。
成分(7)は、コーティング組成物を調製後、さらに加えることによりコーティング組成物を希釈することができる。
【0044】
本発明で使用するコーティング組成物は、常法により硬化することで透明硬化膜とすることができる。具体的には、透明硬化膜を形成する対象である樹脂成形品(射出成形品、フィルム又はシート等)の基材上に、コーティング組成物をスプレー、浸漬、カーテンフロー、バーコーター又は、ロールコーティング等の公知の方法により塗布し、塗膜を形成する。塗膜の厚みとしては、透明硬化膜の厚みが、好ましくは1〜50μm、より好ましくは、2〜20μmになるように調整する。
その後、適当な硬化条件、通常80〜190℃、好ましくは、100〜140℃にて、10分〜24時間、好ましくは、30分〜3時間加熱硬化することにより、硬化膜が得られる。
【0045】
本発明のコーティング組成物から得られる透明硬化膜は、膜中に有機微粒子((4)成分)が分散している。本発明の透明硬化膜は、好ましくは可視光線透過率80%以上、より好ましくは85%以上である。また、好ましくはヘイズ値が10%以下、より好ましくは、5%以下である。このような硬化膜は、耐紫外線性に優れ、かつ透明性の高い硬化膜となる。上記可視光線透過率及びヘイズは、5μmの透明硬化膜についての値を意味する。
尚、有機微粒子((4)成分)が分散する、Si−O結合を有するマトリックスは、(1)、(2)、(3)及び(6)成分に由来する。
【0046】
本発明の樹脂積層体における透明硬化膜においては、透明硬化膜に含まれる無機成分由来の酸化物の換算重量が、硬化膜の全重量の30〜80重量%であることが好ましい。この範囲とすることにより、造膜性(ひび割れ無し)良好で耐擦傷性に優れた透明硬化膜が得られる。
尚、無機成分由来の酸化物の割合は、テフロン(登録商標)シャーレ上でコーティング液を熱硬化し得たサンプルを熱重量測定(窒素下、20℃/分昇温、室温〜800℃)し、その800℃での残渣量の値から求める。
【0047】
また、透明硬化膜に占める高分子紫外線吸収剤の体積分率が、0.5〜70体積%であることが好ましく、特に1〜50体積%であることが好ましい。これにより高透明で、紫外線吸収能に優れた硬化膜となる。
尚、高分子紫外線吸収剤の体積分率は、TEM(透過電子顕微鏡)で樹脂基板上の透明硬化膜の断面観察を行い、画像処理ソフトを使用して面積%を求め、その値を「観察サンプルの厚み÷平均粒径」値で割って求めた値を意味する。
【0048】
本発明の透明硬化膜は、好ましくは、マトリックス中に、さらに、平均粒径が1〜200nmの無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカが分散している。このような透明硬化膜を得るためには、上記の成分(1)〜(7)を含むコーティング組成物に、無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカ(8)を加えればよい。無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカの平均粒径は、好ましくは、1〜100nmである。
【0049】
無機系紫外線吸収性粒子(8)として、半導体を例示できる。半導体は、バンドギャップ以上のエネルギーがもつ光、即ち紫外線を吸収し、伝導帯に電子が、価電子帯に正孔が生じる。エネルギー放出過程は、これらの再結合により熱等のエネルギーに変換されると考えられている。酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、三酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム等が、一般的に知られた無機系紫外線吸収性粒子である。例えば、酸化チタンのバンドギャップエネルギーはルチル型で3eV、アナターゼ型で3.2eVであり、各々約410nm、390nmの波長の光エネルギーに相当する。これよりも短波長の光、即ち紫外線を吸収することができる。より長波長の紫外線がカットできることから、ルチル型が使用されることが多い。逆にこれよりも長波長の光、即ち可視光は本質的には吸収しない。
【0050】
市販品としては、用途、製法によって使い分けることが可能であるが、酸化チタンとしては、石原産業株式会社製「中性チタニアゾルTSK−5」等、酸化セリウムは、多木化学製の酸化セリウム系紫外線吸収剤「ニードラール」、水分散タイプのアニオン型エマルションのニードラールP−10、水分散タイプのカチオン型エマルションのニードラールU−15や、粉末タイプ等、酸化亜鉛としては、住友大阪セメント社製「ZS−303」、石原産業株式会社製「超微粒子酸化亜鉛FZO」等が挙げられる。無機系紫外線吸収性粒子は、その電子の働きにより紫外線エネルギーを微弱なエネルギーに変換して放出する。この時、無機系紫外線吸収性粒子自体は物質変化を起こさないので、長期間、その効果を持続する。
【0051】
コロイダルシリカ(8)とは、コロイドシリカ、コロイド珪酸ともいう。水中では、水和によって表面にSi−OH基を有する酸化ケイ素のコロイド懸濁液をいう。珪酸ナトリウムの水溶液に塩酸を加えると生成する。最近は、新しい調製法が次々に開発され、非水溶液中に分散したものや、気相法で作った微粉末状のものがあり、粒子径も数nmから数μmのものまで多彩である。本発明で使用するのは、平均粒径が1〜200nmのものである。粒子の組成も不定で、シロキサン結合(―Si−O―、−Si―O−Si−)を形成して、高分子化しているものもある。粒子表面は多孔性で、水中では一般的に負に帯電している。
【0052】
市販品としては、扶桑化学工業株式会社製「超高純度コロイダルシリカ」クォートロンPLシリーズ(品名:PL−1、PL−3、PL−7)、同社製「高純度オルガノゾル」や、日産化学工業株式会社製「水性シリカゾル(品名:スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスO、スノーテックスO−40、スノーテックスC、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックス20L、スノーテックスOL)等」や「オルガノシリカゾル(品名:メタノールシリカゾル、MA−ST−MS,IPA−ST、IPA−ST−MS、IPA−ST−L、IPA−ST−ZL,IPA−ST−UP、EG−ST、NPC−ST−30、MEK−ST、MEK−ST−MS、MIBK−ST、XBA−ST、PMA−ST、DMAC−ST)等」が挙げられる。
【0053】
高分子紫外線吸収剤粒子だけでも耐紫外線性に優れるが、さらに耐久性を求められた場合、硬化膜中の高分子紫外線吸収剤粒子含量をさらに増やす方法がある。しかし、耐擦傷性の低下が著しくなることが予想される。また、無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカのみで硬化膜を製造することは可能だが、硬化膜の可とう性が低下し、熱硬化時のクラック発生防止が困難になることから、硬化膜の厚みを増加させるのが困難になってくる。結果、十分な紫外線吸収能力が発揮できない。有機系紫外線吸収剤と、無機系紫外線吸収剤及び/又はコロイダルシリカを共に使用することにより、他の特性を劣化させることなく優れた紫外線吸収性が得られる。
【0054】
成分(8)の、コーティング組成物に対する配合量は以下の通りである。
成分(8)が無機系紫外線吸収性粒子のみの場合、好ましい配合量は0.1〜50重量%(より好ましくは0.1〜30重量%)である。
成分(8)がコロイダルシリカのみの場合、好ましい配合量は0.1〜80重量%(より好ましくは0.1〜50重量%)である。
成分(8)が無機系紫外線吸収性粒子及びコロイダルシリカの場合、好ましい配合量は、無機系紫外線吸収性粒子が0.1〜50重量%(より好ましくは0.1〜30重量%),コロイダルシリカが0.1〜80重量%(より好ましくは0.1〜50重量%)である。
尚、上記の(8)の配合量は(1)〜(6)及び(8)の合計量に対する重量%である。
【0055】
無機系紫外線吸収性粒子(8)が50重量%を超えて混合される場合は、造膜性が低下する恐れがあり、0.1重量%未満の場合は、十分な耐候性を示さない恐れがある。
【0056】
コロイダルシリカ(8)が80重量%を超えて混合される場合は、造膜性が低下したり、均一分散が困難になる恐れがあり、0.1重量%未満の場合は、十分な耐擦傷性付与効果が得られない恐れがある。
【0057】
上記のコーティング組成物は、成分(1)〜(8)を混合して調製する。
好ましくは、少なくとも成分(1)及び成分(6)を含む第一の混合液を作製し、引き続き成分(2)を混合し、最後に成分(8)を混合する。さらに好ましくは、少なくとも成分(1)、(3)、(4)、(5)を含む第一の混合液を作製し、次に成分(6)を混合して第二の混合液、さらに引き続き成分(2)を混合し第三の混合液を作製する。最後に成分(8)を混合しコーティング組成物とする。
このように、各成分を分離して調製すると、コーティング組成物の液保存安定性(ゲル化しない等)が向上するため、好ましい。特に、成分(4)や成分(8)の添加量増により液中の水の量が増加した際に、この効果がより発揮される。
例えば、成分(1),(3),(4),(5)及び(7)を混合した後、成分(6)を加える。次に、成分(2)を混合し、最後に成分(8)を混合する。
成分(7)は、コーティング組成物を調製後、さらに加えることによりコーティング組成物を希釈することができる。
【0058】
本発明のコーティング組成物のような混合材料の液保存安定性は、液pHに影響し易いことが知られている(例えば、「ゾルーゲル法のナノテクノロジーへの応用/監修:作花済夫」シーエムシー出版)。本発明のコーティング組成物の製造においては、成分(5)として酸性成分が、成分(2)、(5)として塩基性成分が混合される為、混合順序によって液pHが変化する。
液pH値、例えば、校正用pH標準液で補正したポータブルpHメーター(ハンナ社製:商品名 チェッカー1)で評価した液pH値としては、上記の第一の混合液及び第二の混合液はpH≦6、第三の混合液及び最終の混合液はpH≦7とすることが好ましい。特に、第三の混合液、即ち成分(2)混合時に液pHが8を越えると、液安定性が低下する恐れがある。コーティング組成物の製造開始時から製造終了時まで、液は酸性状態に保つことが好ましい。即ち、このような条件が維持されるような手順で、コーティング組成物を製造することが好ましい。
【0059】
また、上記の第一の混合液、第二の混合液、及び第三の混合液は、各成分の混合後、加熱処理することが好ましい。温度は30℃〜130℃、より好ましくは、50℃〜90℃であり、加熱処理時間は、30分〜24時間、より好ましくは、1時間〜8時間である。混合、加熱手段については、均一に混合、加熱できる手段であれば特に制限はない。このように加熱することで、液内の成分(1)、(2)、(3)、(6)の縮合反応が進み、耐煮沸性やその他耐久性が向上する。成分(1)、(2)、(3)、(6)の反応は、溶液Si−NMRで解析可能であり、それにより適した構造に設計できる。30℃未満や1時間未満では反応が極端に遅い場合が多く、また130℃以上や24時間以上の場合には、成分(1)、(2)、(3)、(6)の反応が進みすぎ、液がゲル化したり高粘性化し、塗布できなくなる恐れがある。
【0060】
また成分(8)を混合した後の最終液(コーティング組成物)も、加熱処理することが好ましい。室温での混合の場合、攪拌効率の影響を受けやすく、これに起因して成分(8)の分散度が低い場合は、硬化膜の透明性(全光線透過率低下、ヘイズ上昇)が低下する恐れがある。温度は30℃〜130℃、より好ましくは、50℃〜90℃であり、時間は、5分〜10時間、より好ましくは、15分〜6時間である。混合、加熱手段については、均一に混合、加熱できる手段であれば特に制限はない。30℃未満や5分未満では加熱処理の効果が乏しい場合が多く、また130℃以上や10時間以上だと、液がゲル化したり高粘性化し、塗布できなくなる恐れがある。
後記する実施例では、1週間静置後製造した硬化膜の評価結果を記載しているが、硬化膜製造までの液静置期間に特に制限はない。
【0061】
尚、このコーティング組成物も、上述した方法により硬化することで透明硬化膜とすることができる。
【0062】
本発明の透明硬化膜には、必要に応じて、レベリング剤、ヒンダードアミン系光安定化剤、黄鉛、モリブデートオレンジ、紺青、カドミウム系顔料、チタン白、複合酸化物顔料、透明酸化鉄、カーボンブラック、環式高級顔料、溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、染付顔料、顔料中間体等の顔料、顔料分散剤、防食剤、防錆剤、帯電防止剤、赤外線吸収剤等を添加できる。
【0063】
本発明の樹脂積層体は、無機硬質物層を有する。
無機硬質物層は、付与させたい機能に応じて選択でき、特に制約はない。例えば、無機硬質物層に耐摩擦性を付与させたい場合、無機硬質物層は、好ましくはSiO(1.8≦x≦2)膜、SiN(1.2≦y≦4/3)膜又はアモルファス状炭素膜が適している。
【0064】
上記SiO(1.8≦x≦2)膜、SiN(1.2≦y≦4/3)膜は、例えば後述する化学的気相成長法又は物理的気相成長法により成膜するため、化学量論的に反応は完結しない。従って、無機硬質物層には、酸素原子や窒素原子が導入されなかった欠損部ができ、SiO膜及びSiN膜において、x及びyは、幅を持つことになる。
尚、酸素と窒素を同時に投入すれば作製可能な、酸化ケイ素及び窒化ケイ素が混在した複合化物も適している。
また、無機硬質物層の硬質性は、実施例で示すようなテーバー摩耗試験機を用いた評価でヘイズの上昇が10%未満程度であれば足りる。あるいは、マイクロビッカーズ硬度で500Hv程度以上であればよい。
【0065】
無機硬質物層の厚さは、例えば1μm以上が好ましく、より好ましくは1〜8μmである。また後述する無機硬質物層の製造方法において、無機硬質物層は、好ましくは直接、透明硬化膜上に積層する。
【0066】
本発明の樹脂積層体の無機硬質物層は、好ましくは化学気相成長法(CVD法)又は物理気相成長法(PVD法)により成膜する。CVD法の具体例としては、プラズマCVD法、光CVD法等が挙げられ、PVD法の具体例としては、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。
上述のような真空下で行う薄膜形成技術を用いて成膜した無機硬質物層は、通常、無機成分には密着するが、有機成分には密着しにくい性質を有する。本発明の樹脂積層体の場合、透明硬化膜が、有機微粒子がSi−Oマトリックス中に閉じ込められた無機・有機ハイブリッド構造を有することから、無機硬質物層及び透明硬化膜の密着性は良好である。
【0067】
無機硬質物層をCVD法により積層する具体例として、プラズマCVD法を用いて透明硬化膜上にSiO(1.8≦x≦2)膜を成膜する場合を説明する。
プラズマCVD法とは、原料ガスをエネルギー密度の高いプラズマ状態中に導入して分解させ、基材へ化学反応によって目的の材料を被覆させる方法である。本発明においては、プラズマCVD装置内に樹脂基材及び透明硬化膜からなる積層体を配置し、装置内を真空にした後、SiO(1.8≦x≦2)膜の原料ガスをプラズマCVD装置にアルゴンガスを添加しながら導入し、それぞれのガス流量が安定化したところで、電力を印加してプラズマを発生させ、透明硬化膜上にSiO(1.8≦x≦2)膜を成膜する。
【0068】
無機硬質物層がSiO(1.8≦x≦2)膜である場合、SiO(1.8≦x≦2)膜を形成する原料は、例えばシリコン原料ガス及び酸素原料ガスである。
SiO(1.8≦x≦2)膜を形成するシリコン原料ガスは、好ましくはシランガス又は有機シリコン化合物ガスが用いられる。
【0069】
好適に用いられるシランガスとしては、SiHガス、Siガス、Siガス等が挙げられる。
【0070】
有機シリコン化合物は、好ましくはケイ素に炭素を含む基が結合しているものから任意に選択される。好適に用いられる有機シリコン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシラン等が挙げられる。
これらの有機シリコン化合物は、その一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0071】
SiO(1.8≦x≦2)膜のシリコン原料ガスがシランガスの場合、好適に用いられる酸素原料ガスとしてはNOガスが挙げられる。
また、SiO(1.8≦x≦2)膜のシリコン原料ガスが有機シリコン化合物ガスの場合、好適に用いられる酸素原料ガスとしてはNOガス、Oガス及びOガスが挙げられる。
【0072】
上記シリコン原料ガス及び酸素原料ガスの流量は、例えば1〜500cm/分であり、好ましくは1〜300cm/分である。また、アルゴンガスの流量は、例えば20〜400cm/分であり、好ましくは100〜300cm/分である。
【0073】
用いるプラズマCVD装置は、一般的に使用されている装置であれば特に限定されず、例えば平行平板電極型、容量結合型、誘導結合型等を使用できる。プラズマCVD装置内の圧力は、例えば1.0×10−2〜1.0Torrが好ましく、約2×10−2Torrが特に好ましい。
【0074】
電力印加に用いる電源の周波数はオーディオ波〜マイクロ波領域まで幅広く使用することができる。
【0075】
上記プラズマCVD法を用いて透明硬化膜上にSiO(1.8≦x≦2)膜を成膜する場合において、シリコン原料ガスとして有機シリコン化合物を用いる場合であって有機シリコン化合物が常温で液体又は固体である場合には、有機シリコン化合物の入った容器全体を加熱し、気化させて用いる。
【0076】
上記の場合において、有機シリコン化合物ガス及び酸素原料ガスの流量を例えば1〜10cm/分に制御し、例えば20〜400cm/分に流量を制御したアルゴンガスと一緒にプラズマCVD装置に導入する(直接気化導入方式)。
【0077】
また、上記の直接気化導入方式の他に有機シリコン化合物が液体の場合は、アルゴンガスをキャリアーガスとして用い、有機シリコン化合物の入った温度制御可能な容器に、アルゴンガスを例えば20〜400cm/分の流量で導入し、有機シリコン化合物をバブリングさせて、有機シリコン化合物蒸気及びアルゴンガスを一緒にプラズマCVD装置に導入してもよい(キャリアーガスによるバブリング導入方式)。
【0078】
上記無機硬質物層の製造方法において、無機硬質物層がSiN(1.2≦y≦4/3)膜である場合、SiN(1.2≦y≦4/3)膜を形成する原料ガスは、例えばシリコン原料ガス及び窒素原料ガスである。
好適に用いられるシリコン原料ガスとしては、SiHガス、Siガス、Siガス等のシランガスが挙げられる。
また、好適に用いられる窒素原料ガスとしては、Nガス及びNHガスが挙げられる。
【0079】
上記無機硬質物層の製造方法において、無機硬質物層がアモルファス状炭素膜である場合、アモルファス状炭素膜を形成する原料ガスとしては、炭化水素ガスが好適に用いられる。
尚、炭化水素ガスの濃度が高い場合、Hガスを同時に導入して希釈してもよい。
【0080】
上述のCVD法による無機硬質物層の製造方法において、無機硬質物層の原料として原料ガスを用いているが、これに限定されない。例えば、後述する無機硬質物層の蒸着原料を気化させて用いてもよい。
【0081】
無機硬質物層をPVD法により積層する具体例として、イオンプレーティング法を用いて無機硬質物層を積層する場合を説明する。
【0082】
イオンプレーティング法とは、真空蒸着装置内に反応性ガス等を導入し、種々の方法により装置内にガスプラズマを発生させ、生成した蒸着粒子(原子・分子)の一部をイオン化して加速し、真空中に置かれた基材に、蒸着粒子及びそのイオンを照射して、基材上に蒸着材料の薄膜を成膜する方法である。即ち、イオンプレーティング法とは、真空蒸着技術及びプラズマ技術の複合技術である。
上記イオンプレーティング法は、例えば特開昭58−29835号公報に開示されている。
【0083】
本発明においては、樹脂基材及び透明硬化膜の積層体、及び無機硬質物層の蒸着原料を真空蒸着装置内の所定の位置にそれぞれ配置し、プラズマを発生させるため、装置内にアルゴン、キセノン等の不活性ガス、及び必要に応じてO、N、アセチレン、空気等の反応性ガスを装置内に導入し、蒸着原料の近傍で高周波電圧を印加し、蒸着原料をプラズマ化して、透明硬化膜上に無機硬質物層を積層する。
【0084】
無機硬質物層の蒸着原料としては、無機硬質物層がSiO(1.8≦x≦2)膜である場合は、酸化珪素等が挙げられ、無機硬質物層がSiN(1.2≦y≦4/3)膜である場合は、窒化珪素等が挙げられ、また、無機硬質物層がアモルファス状炭素膜である場合は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等が挙げられる。
無機硬質物層の蒸着原料は、無機硬質物層として形成させたい原料そのものを使用すればよい。
【0085】
尚、イオンプレーティング法における無機硬質物層の蒸着原料は、固体に限定されない。例えば、蒸着原料が蒸発させにくい原料である場合、上述の無機硬質物層の原料ガス(シリコン原料ガス及び酸素原料ガス)を真空蒸着装置内に導入し、リアクティブ蒸着を行って無機硬質物層を積層してもよい。
【0086】
真空蒸着装置内の圧力は、例えば1.0×10−5〜1.0×10−3Torrである。
【0087】
高周波電圧を印加する装置は、高周波放電を行うことができる装置であれば特に限定されない。上記高周波電圧は、例えば0.5kV〜8.0kVである。
【0088】
上記イオンプレーティング法において、透明硬化膜の表層への蒸着が高周波放電中に行われるようにするため、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザービーム加熱等の加熱手段を用いて、必要に応じて蒸着原料を蒸発させてもよい。
【0089】
PVD法による無機硬質物層の積層方法はイオンプレーティング法に限定されない。上述したように、真空蒸着法、スパッタリング法等を用いて無機硬質物層を積層できる。
【0090】
真空蒸着法とは、真空中で原料を熱的に蒸発させて、この蒸発粒子を基材表面まで輸送し、基材表面に蒸発粒子を再配列させて薄膜を形成する方法である。真空蒸着法において、真空度は、通常10−4Torr以下である。
【0091】
スパッタリング法とは、不活性ガスをプラズマにし、得られた正イオンを原料に衝突させ、原料表面の元素原子を叩き出して、これを近くに置いた基材に付着及び/又は堆積させて薄膜を形成する方法である。
【実施例】
【0092】
下記実施例及び比較例で得られたコーティング組成物及び積層体の評価方法は以下の通りである。
(1)液安定性(コーティング組成物)
調製したコーティング組成物を常温で14日間密栓保存して、ゲル化の有無を目視により判定した。ゲル化していないものについては、株式会社エー・アンド・デイ音叉型振動式粘度計SV−10にて粘度測定を行い、初期からの変化率が3倍以内のものを良好とした。
○:ゲル化なし、×:ゲル化あり
【0093】
(2)膜外観(透明硬化膜)
目視にて硬化被膜の外観(異物やまだら模様の有無、透明性)、ひび割れの有無、着色を確認した。
【0094】
(3)可視光線透過率及びヘイズ
直読ヘイズコンピュータ(スガ試験機(株)製、HGM−2DP)にて、透明硬化膜とポリカーボネート基板との積層体の状態で測定した。
【0095】
(4)透明硬化膜中の無機成分由来の酸化物換算重量
無機成分由来の酸化物換算重量は、テフロン(登録商標)シャーレ上で、コーティング液を熱硬化して得られたサンプルを、熱重量測定(窒素下、20℃/分昇温、室温〜800℃)し、サンプルの800℃での残渣量から求めた。
【0096】
(5)透明硬化膜中の有機微粒子の体積分率
有機微粒子の体積分率は、TEM(透過電子顕微鏡)で樹脂基材上の透明硬化膜の断面観察を行い、その1.5μm中に存在する粒子の面積を、米国NIH製フリーソフトを使用して面積%を求め、その値を、「観察サンプルの厚み÷有機微粒子の平均粒径」値で割って求めた値である。
【0097】
(6)耐摩耗性(無機硬質物層)
樹脂基材層、透明硬化膜及び無機硬質物層からなる樹脂積層体について、摩耗輪CS−10F及びテーバー摩耗試験機(ロータリーアブレージョンテスター)(株式会社東洋精機製、No.430)を用いて、荷重500gで500回転テーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗試験前のヘイズとテーバー摩耗試験後のヘイズの差(ΔH)が5未満のものを◎、5以上〜10未満を○、10以上〜15未満を△、15以上のものを×とした(ヘイズ=Td/Tt×100、Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)。
尚、実施例及び比較例で使用したポリカーボネート樹脂基板のヘイズの差は、ΔH=30であった。
【0098】
(7)密着性
樹脂基材層、透明硬化膜及び無機硬質物層からなる樹脂積層体について、JIS K5400に準拠し、サンプルをカミソリの刃で2mm間隔に縦横11本ずつ切れ目を入れて100個の碁盤目をつくり、市販のセロハンテープ(「CT−24(幅24mm)」、ニチバン(株)製)を指の腹でよく密着させた後、90°の角度で手前方向に急激に剥し、皮膜が剥離しないで残存したます目数(X)をX/100で表示した。
【0099】
(8)耐煮沸性
樹脂基材層、透明硬化膜及び無機硬質物層からなる樹脂積層体について、ステンレス製ビーカー中の煮沸水に、1時間浸漬し、外観及び密着性を評価した。
【0100】
(9)耐候性
樹脂基材層、透明硬化膜及び無機硬質物層からなる樹脂積層体について、キセノンウェザー試験(アトラス社Ci165、出力6.5kW、ブラックパネル温度63℃、湿度50%)を実施した。試験前後の密着性の変化で、耐候性を評価した。
【0101】
(10)耐熱性
樹脂基材層、透明硬化膜及び無機硬質物層からなる樹脂積層体について、耐熱試験機(TABAI製、PS−222)にて、80℃、720時間の条件で実施した。試験前後での密着性の変化で、耐熱性を評価した。
【0102】
(11)硬化膜中の有機微粒子の平均粒径
TEM(透過型電子顕微鏡)で透明硬化膜の断面観察を行ない、その1μm角中に存在する粒子を10個選び、米国NIH(National Institute of Health)製フリーソフト:NIH Image 1.63を使用して平均粒径を求めた。尚、実施例1〜5における平均粒径は40〜60nmで、分散構造を形成していた。また、赤外分光光度計を用いて、透明硬化膜表面を全反射測定法(ATR法)にて測定した。その結果、実施例1〜5について、1000〜1200cm−1にSi−O伸縮振動に起因するピークが観測されたことから、Si−O結合を有するマトリックスが形成されていることを確認した。
【0103】
(12)硬化膜中の無機系紫外線吸収性粒子及びコロイダルシリカの平均粒径(透明硬化膜)
有機微粒子と同様の方法で測定した。共にTEM写真で黒点となる。尚、実施例2における無機系紫外線吸収性粒子の平均粒径は5〜10nm、コロイダルシリカの平均粒径は20〜25nmで、分散構造を形成していた。
【0104】
(13)透明硬化膜及び無機硬質層の厚さ
反射分光膜厚計(大塚電子株式会社製、FE−3000)を用いて測定した。
【0105】
実施例1
(1)コーティング組成物の製造
容積50gのサンプル管に、ULS―1385MG(一方社油脂工業製:高分子紫外線吸収剤、紫外線吸収骨格種:ベンゾトリアゾール系、水分散、固形分濃度30重量%)(成分(4)):5.2g、1−メトキシ−2−プロパノール(成分(7)溶剤):10g、イオン交換水(成分(7)溶剤):1.0gを仕込み、700ppmで撹拌しながら、酢酸(成分(5)硬化触媒):1.0g、メチルトリメトキシシラン(成分(1)):4.0g、ジメトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン(成分(3)):1.9g、20%p−トルエンスルホン酸メタノール液(成分(5)硬化触媒:pトルエンスルホン酸/成分(7)溶媒:メタノール):0.1gの順に、それぞれ1分間かけて滴下した。引き続き、室温で10分撹拌後、1日静置し、これをA液とした。
【0106】
容積20gのサンプル管に、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(成分(6)):2.1g、2−ブタノオキシム(成分(6)):0.7gを仕込み、500ppmで、10分間撹拌後、1日静置し、これをB液とした。
イソシアネート基がブロック化されたことについては、13C−NMRでイソシアネート基のピークが消失することにより確認した。
【0107】
冷却管を取り付けた200ml三口フラスコに、A液と攪拌子を入れ、窒素気流下、600rpmで、80℃3時間加熱した。引き続き、B液を加え、同条件にて、80℃で4時間加熱した。さらに、これに3−アミノプロピルトリメトキシシラン(成分(2)):0.8gを、2分間かけて滴下した後、80℃で6時間、600rpmにて加熱した。
引き続き、1週間静置し、コーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物について、液安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0108】
(2)透明硬化膜の製造
上記で得られたコーティング組成物を、厚み3mmのポリカーボネート樹脂の表面に、透明硬化膜の膜厚が10μmになるように、バーコーターにて塗布し、窒素気流下のオーブンにて、130℃2時間硬化させ、透明硬化膜及び樹脂基材からなる積層体を得た。得られた積層体について、その物性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0109】
(3)樹脂積層体の製造
得られた積層体をプラズマCVD装置内に設置し、装置内の真空度が2.0×10−5Torrになるまで排気して、樹脂基材の温度を100℃まで上げ、5分間保持し、樹脂基材の脱ガスを行った。その後室温に戻した後、装置内の真空度が2×10−6Torrになるまで排気を行った。
【0110】
真空度が2×10−6Torrにした後、装置内にSiHガス、NOガス及びArガスを導入し、ガスの流量がSiHガス流量1cm/分、NOガス流量200cm/分、Arガス流量300cm/分、真空度2×10−2Torr程度で安定したところで、電力を印加してプラズマを発生させ、透明硬化膜上に膜厚が5μmのSiO(1.8≦x≦2)(無機硬質物層)を成膜し、樹脂積層体を得た。得られた樹脂積層体について、その物性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0111】
実施例2
(1)コーティング組成物の製造
容積50gのサンプル管に、ULS―1385MG(一方社油脂工業製:高分子紫外線吸収剤、紫外線吸収骨格種:ベンゾトリアゾール系、水分散、固形分濃度30重量%)(成分(4)):8.4g、1−メトキシ−2−プロパノール(成分(7)):10g、イオン交換水(成分(7)):1.0gを仕込み、700ppmで撹拌しながら、酢酸(成分(5)):1.0g、メチルトリメトキシシラン(成分(1)):4.0g、ジメチル−3−グリシドキシプロピルメチルシラン(成分(3)):1.9g、20%p−トルエンスルホン酸メタノール液(成分(5)+成分(7)):0.1gの順に、それぞれ1分間かけて滴下した。引き続き、室温で10分撹拌後、1日静置し、これをA液とした。
【0112】
容積20gのサンプル管に、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(成分(6)):2.2g、2−ブタノオキシム(成分(6)):0.7gを仕込み、500ppmで、10分間撹拌後、1日静置し、これをB液とした。
イソシアネート基がブロック化されたことについては、13C−NMRでイソシアネート基のピークが消失することにより確認した。
【0113】
冷却管を取り付けた200ml三口フラスコに、A液と攪拌子を入れ、窒素気流下、600rpmで、80℃3時間加熱した。引き続き、B液を加え、同条件にて、80℃で4時間加熱した。さらに、これに3−アミノプロピルトリメトキシシラン(成分(2)):0.8gを、2分間かけて滴下した後、80℃で6時間、600rpmにて加熱した。
引き続き、暗所25℃にて、1日静置した後、650rpmで攪拌しながら、スノーテックスO−40(成分(8):日産化学工業(株)製、水分散、コロイダルシリカ濃度40重量%、粒子径20〜30nm(メーカー公表値))7.2gを2分間かけて滴下、引き続きニードラールU−15(成分(8):多木化学(株)製、水分散、酸化セリウム濃度15重量%、粒子径8nm以下(メーカー公表値))4.8gを滴下した。室温で30分撹拌後、さらに80℃で60分加熱した。
引き続き、1週間静置し、コーティング組成物を得た。
【0114】
(2)透明硬化膜の製造
硬化被膜の膜厚を7μmとしたほかは、実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0115】
(3)樹脂積層体の製造
無機硬質物層の厚さを4μmとしたほかは、実施例1(3)と同様にして樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0116】
実施例3
(1)コーティング組成物の製造
実施例1(1)と同様にしてコーティング組成物を製造した。
【0117】
(2)透明硬化膜の製造
実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0118】
(3)樹脂積層体の製造
真空度を2×10−6TorrにしたプラズマCVD装置内にCHガス、Hガス及びArガスを、ガス流量がCHガス流量1cm/分、Hガス流量150cm/分、Arガス流量300cm/分で導入し、真空度2×10−2Torr程度で安定したところで、電力を印加してプラズマを発生させ、膜厚が7μmのアモルファス状炭素膜を成膜したほかは実施例1(3)と同様にして樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0119】
実施例4
(1)コーティング組成物の製造
実施例1(1)と同様にしてコーティング組成物を製造した。
【0120】
(2)透明硬化膜の製造
実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0121】
(3)樹脂積層体の製造
プラズマCVD装置内にSiHガス、NHガス及びArガスを、SiHガス流量1cm/分、NHガス流量200cm/分、Arガス流量400cm/分で導入し、真空度2×10−2Torr程度で安定したところで、電力を印加してプラズマを発生させ、膜厚が7μmのSiN(1.2≦y≦4/3)膜を成膜したほかは実施例1(3)と同様にして樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0122】
実施例5
(1)コーティング組成物の製造
実施例1(1)と同様にしてコーティング組成物を製造した。
【0123】
(2)透明硬化膜の製造
実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0124】
(3)樹脂積層体の製造
得られた積層体をイオンプレーティング装置内に設置し、蒸発源はSiOグレインとした。装置内の真空度が2.0×10−6Torrになるまで排気を行った。高周波電圧1.5kVを高周波コイルに印加し、アルゴンガス及びOガスを導入した。ガスの導入を止めた後、装置内の真空度を1.0×10−5Torrとし、1〜2分間SiOイオンプレーティングを行った。その後、装置内の真空を保ちながら20分間放置冷却し、透明硬化膜上に膜厚が1.5μmのSiO膜(1.8≦x≦2)(無機硬質物層)を成膜し、積層体を得た。
評価結果を表1に示す。
【0125】
比較例1
厚み3mmのポリカーボネート樹脂の表面に、アクリルポリマー(GE東芝シリコーン株式会社製、PH91)を、スプレー法で塗布し、1.5μmのプライマー層を形成し、積層体を得た。
得られた積層体について、実施例1(3)と同様にしてプライマー層上に無機硬質層を積層し樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0126】
比較例2
(1)コーティング組成物の製造
ULS−1385MGの代わりに2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン:0.75gを用いたほかは実施例1(1)と同様にしてコーティング組成物を製造した。
【0127】
(2)透明硬化膜の製造
実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0128】
(3)樹脂積層体の製造
実施例1(3)と同様にして樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0129】
比較例3
(1)コーティング組成物の製造
ULS−1385MGの代わりに2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール:0.75gを用いたほかは実施例1(1)と同様にしてコーティング組成物を製造した。
【0130】
(2)透明硬化膜の製造
実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0131】
(3)樹脂積層体の製造
実施例1(3)と同様にして樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0132】
比較例4
(1)コーティング組成物の製造
ULS−1385MGの代わりに2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール:0.75gを用いたほかは実施例1(1)と同様にしてコーティング組成物を製造した。
【0133】
(2)透明硬化膜の製造
実施例1(2)と同様にして透明硬化膜を製造した。
【0134】
(3)樹脂積層体の製造
実施例1(3)と同様にして樹脂積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1から分かるように、比較例2〜4は、実施例と類似のコーティング組成物を用いたにもかかわらず、密着性が十分ではなかった。これは、実施例のコーティング組成物が紫外線吸収剤(高分子紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収粒子及びコロイダルシリカ)を多量に含んでも、透明硬化膜表層がSi−Oマトリックスであり、無機硬質物層と強固なSi−O結合を形成できるからである。それに対し、比較例のコーティング組成物を用いた硬化膜は、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等の低分子有機化合物がSi−Oマトリックス中に分散せず、その表層に存在するため、十分な密着性が得られなかったと推測される。
また、比較例2〜4において、低分子有機化合物の紫外線吸収剤に起因する有機微粒子は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、メーターカバー等の自動車内部部品、二輪車や三輪車のウインドシールド、樹脂製自動車窓(各種車両窓)、樹脂性建材窓、建機用のルーフ、道路透光板(遮音板)、矯正用の他、サングラス、スポーツ用、安全メガネ等の眼鏡レンズ、光ディスク、ディスプレイ、携帯電話部品、街路灯等の照明部品、風防板、防護盾用の種々の樹脂製材料、特にポリカーボネート製材料への展開が可能であり、ガラス代替部材として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の樹脂積層体の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0139】
1 樹脂積層体
10 樹脂基材
20 透明硬化膜
22 有機微粒子
24 マトリックス
30 無機硬質物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材、透明硬化膜及び無機硬質物層をこの順に積層してなる樹脂積層体であって、
前記透明硬化膜が、紫外線吸収基を含有する平均粒径が1〜200nmの有機微粒子を、Si−O結合を有するマトリックス中に分散した膜である樹脂積層体。
【請求項2】
前記Si−O結合を有するマトリックス中に、さらに、平均粒径が1〜200nmの無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカが分散している請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記透明硬化膜のヘイズ値が10%以下である請求項1又は2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記透明硬化膜の可視光線透過率が80%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記透明硬化膜における、前記有機微粒子の体積分率が、0.5〜70体積%である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項6】
前記透明硬化膜に含まれる無機成分由来の酸化物換算重量が、前記透明硬化膜の全重量の30〜80重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項7】
前記無機硬質物層が化学気相成長法により成膜してなる請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項8】
前記無機硬質物層が物理気相成長法により成膜してなる請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項9】
樹脂基材上に、下記成分(1)〜(7)を含むコーティング組成物を塗布して硬化させて透明硬化膜を形成し、
前記透明硬化膜の上に、無機硬質物層を形成する、請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。
(1)オルガノアルコキシシラン化合物又はポリオルガノアルコキシシラン化合物
(2)アミノシラン化合物
(3)エポキシシラン化合物
(4)高分子紫外線吸収剤
(5)硬化触媒
(6)ブロック化イソシアネートシラン化合物
(7)溶剤
【請求項10】
前記コーティング組成物が、さらに成分(8)無機系紫外線吸収性粒子及び/又はコロイダルシリカを含む請求項9に記載の樹脂積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−194993(P2008−194993A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34402(P2007−34402)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】