説明

樹脂積層体及びそれを用いた延伸フィルム

【課題】優れた耐熱性及びガスバリア性を有し、しかも延伸後においても十分な層間接着強度を有する樹脂積層体を提供すること。
【解決手段】ポリグリコール酸系樹脂からなる第一の樹脂層と、前記ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる第二の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが以下の条件を満たす接着樹脂層: ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合を水添してなる水添ブロック共重合体が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性された変性水添ブロック共重合体(a)及び粘着付与剤(b)を含有し、(a)及び(b)の合計100質量部に対し、メルトフローレートが0.05〜50g/10分で且つ密度が0.850〜0.950g/cmであるエチレン系重合体(c)を10〜1000質量部含有してなる接着性樹脂組成物からなる接着樹脂層;を介して積層されていることを特徴とする樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種シート、フィルム、容器、射出成形品等の成形材料として有用な樹脂積層体及びそれを用いた延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸(PGA、ポリグリコリドを含む)は、耐熱性、ガスバリア性、機械的強度等に優れているため、各種シート、フィルム、容器、射出成形品といった成形材料として新たな用途展開が図られている。しかしながら、ポリグリコール酸は、結晶性であり、また熱安定性も必ずしも十分とはいえないため、特にその溶融加工や、延伸成形に際して問題があった。
【0003】
また、ポリグリコール酸はそのエステル結合に起因して親水性に富むために、水分と接触する表層をポリグリコール酸で構成すると成形体の強度が低下する傾向を示す。そのため、場合によってはより疎水性の熱可塑性樹脂と積層することが好ましいが、この場合には、このような熱可塑性樹脂の熱的特性とポリグリコール酸の熱的特性との調和を図る必要があった。
【0004】
一方、従来より比較的異質な樹脂を積層して、溶融加工特性、延伸成形性を調和させるためには、両樹脂層間に接着樹脂層を挿入して、積層体ないし多層樹脂構造体を形成することが広く行なわれている。しかしながら、ポリグリコール酸は、従来から汎用されているポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド等の汎用樹脂に比べて、工業的使用の歴史も浅く、また、親水性及び結晶性も大であるために良好な接着樹脂が開発されていなかった。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば、特開2004−237543号公報(特許文献1)には、脂肪族ポリエステル樹脂層と、他の熱可塑性樹脂層とが、接着樹脂層を介して接合されてなり、該接着樹脂層がカルボキシル変性ポリオレフィンを主成分とする該カルボキシル変性ポリオレフィンとエポキシ化ポリオレフィンとの組成物からなる樹脂積層体が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような接着樹脂を用いた場合であっても、ポリグリコール酸層と接着樹脂層との間の接着強度は未だ必ずしも十分でなく、このような接着樹脂を用いた樹脂積層体は、延伸後における層間接着強度の点で未だ必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2004−237543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性及びガスバリア性を有し、しかも延伸後においても十分な層間接着強度を有する樹脂積層体、並びにそれを用いた延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸系樹脂からなる第一の樹脂層と、前記ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる第二の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが特定の接着性樹脂組成物からなる接着樹脂層を介して積層されている樹脂積層体が、優れた耐熱性及びガスバリア性を有し、しかも延伸後においても十分な層間接着強度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の樹脂積層体は、ポリグリコール酸系樹脂からなる第一の樹脂層と、前記ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる第二の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが以下の条件を満たす接着樹脂層:
ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合を水添してなる水添ブロック共重合体が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、且つ前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である変性水添ブロック共重合体(a)50〜99質量%及び粘着付与剤(b)1〜50質量%を含有し、前記変性水添ブロック共重合体(a)及び粘着付与剤(b)の合計100質量部に対し、メルトフローレートが0.05〜50g/10分で且つ密度が0.850〜0.950g/cmであるエチレン系重合体(c)を10〜1000質量部含有してなる接着性樹脂組成物からなる接着樹脂層;
を介して積層されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の樹脂積層体においては、前記エチレン系重合体(c)が、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、且つ前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である変性エチレン系重合体(d)を10〜80質量%含有するものであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の樹脂積層体においては、前記ポリグリコール酸系樹脂が、下記一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
で表されるグリコール酸単位を繰り返し単位として60質量%以上有するホモポリマー又はコポリマーであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の樹脂積層体においては、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び芳香族ポリエステル系樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明の延伸フィルムは、前記樹脂積層体を少なくとも一軸方向に延伸してなるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた耐熱性及びガスバリア性を有し、しかも延伸後においても十分な層間接着強度を有する樹脂積層体、並びにそれを用いた延伸フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
本発明の樹脂積層体は、ポリグリコール酸系樹脂からなる第一の樹脂層と、前記ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる第二の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが以下の条件を満たす接着樹脂層:
ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合を水添してなる水添ブロック共重合体が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、且つ前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である変性水添ブロック共重合体(a)50〜99質量%及び粘着付与剤(b)1〜50質量%を含有し、前記変性水添ブロック共重合体(a)及び粘着付与剤(b)の合計100質量部に対し、メルトフローレートが0.05〜50g/10分で且つ密度が0.850〜0.950g/cmであるエチレン系重合体(c)を10〜1000質量部含有してなる接着性樹脂組成物からなる接着樹脂層;
を介して積層されていることを特徴とするものである。
【0019】
(第一の樹脂層)
本発明にかかる第一の樹脂層は、ポリグリコール酸系樹脂からなる樹脂層である。そして、このようなポリグリコール酸系樹脂は、グリコール酸系モノマーのホモポリマー又はコポリマー、或いは前記グリコール酸系モノマーを主成分とするコポリマーを含む樹脂のことをいう。また、このようなグリコール酸系モノマーとしては、例えば、グリコール酸、グリコール酸アルキルエステル、グリコリド等のグリコール酸誘導体が挙げられる。
【0020】
また、本発明においては、このようなポリグリコール酸系樹脂が、下記一般式(1):
【0021】
【化2】

【0022】
で表されるグリコール酸単位を繰り返し単位として60質量%以上有するホモポリマー又はコポリマーであることが好ましい。このようなポリグリコール酸系樹脂における前記グリコール酸単位が前記下限未満であると、ポリグリコール酸が本来有している結晶性が損われ、得られる樹脂積層体のガスバリア性や耐熱性が低下する傾向にある。
【0023】
前記グリコール酸系モノマーのホモポリマーを合成する方法としては、グリコール酸を脱水重縮合させる方法、グリコール酸アルキルエステルを脱アルコール重縮合させる方法、グリコリドを開環重合させる方法等を挙げることができる。これらの中でも、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120〜250℃の温度に加熱して、開環重合させる方法によってポリグリコール酸(即ち、ポリグリコリド)を合成する方法が好ましい。なお、このような開環重合は、塊状重合法又は溶液重合法によることが好ましい。
【0024】
一方、前記グリコール酸系モノマーを主成分とするコポリマーは、グリコール酸、グリコール酸アルキルエステル、グリコリドからなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸系モノマーとその他の共重合成分(コモノマー)とを共重合させることにより合成することができる。このようなコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等の環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそれらのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール;こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそれらのアルキルエステルを挙げることができる。これらのコモノマーは、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0025】
また、これらの中でも、共重合させやすく、かつ物性に優れた共重合体が得られやすいという観点で、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート等の環状化合物;乳酸等のヒドロキシカルボン酸が好ましい。なお、これらのコモノマーは、全仕込みモノマー量の通常45質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で使用する。これらのコモノマーの割合が大きくなると、生成する重合体の結晶性が損なわれやすくなり、得られる樹脂積層体の耐熱性、ガスバリア性、機械的強度等が低下する傾向にある。
【0026】
このようなポリグリコール酸系樹脂は、温度270℃、剪断速度120sec−1の条件下において測定した溶融粘度が300〜10,000Pa・sであることが好ましく、400〜8,000Pa・sであることがより好ましく、500〜5,000Pa・sであることが特に好ましい。
【0027】
また、このようなポリグリコール酸系樹脂の融点(Tm)は、200℃以上であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。例えば、ポリグリコール酸の融点は約220℃であり、ガラス転移温度は約38℃で、結晶化温度は約91℃である。ただし、これらのポリグリコール酸系樹脂の融点は、ポリグリコール酸系樹脂の分子量や用いたコモノマーの種類等によって変動する。
【0028】
なお、本発明においては、ポリグリコール酸系樹脂を単独で使用することができるが、本発明の目的を阻害しない範囲内において、ポリグリコール酸系樹脂に、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤等を配合した樹脂組成物を使用することができる。また、ポリグリコール酸系樹脂には、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料等の各種添加剤を含有させることができる。
【0029】
(第二の樹脂層)
本発明にかかる第二の樹脂層は、前記ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる樹脂層である。そして、このような熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0030】
このようなポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチルブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1等のα−オレフィンのホモポリマー又はコポリマー、或いは、これらα−オレフィンを主成分とするコポリマーを含む樹脂のことをいう。このようなポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、アイソタクチックポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂が挙げられる。
【0031】
このようなポリアミド系樹脂は、主鎖中にアミド結合を有するホモポリマー又はコポリマーを含む樹脂のことをいう。このようなポリアミド系樹脂としては、ナイロン6,11,12,66,610,612等の脂肪族アミドのホモポリマー;ナイロンMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ナイロン6I(ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T(ポリヘキサメチレンテレフタラミド)等の芳香族アミドのホモポリマー;ナイロン6−66,6−12,6−69,6−610,66−610等の脂肪族アミドのコポリマー;ナイロン6−6I,ナイロン66−610−MXD6,ナイロン6−12−MXD6,ナイロン6I−6T等の芳香族アミドのコポリマーが挙げられる。
【0032】
このような芳香族ポリエステル系樹脂は、少なくとも一方が芳香族である飽和二塩基酸とジオール成分との縮合により得られるコポリマーを含む樹脂のことをいう。また、飽和二塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、グルタル酸、コハク酸、シュウ酸を挙げられる。さらに、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。
【0033】
以上説明したような熱可塑性樹脂は、樹脂積層体の用途に応じて適宜選択して使用することができる。また、本発明の樹脂積層体は、このような熱可塑性樹脂からなる第二の樹脂層を複数備えていてもよい。
【0034】
(接着樹脂層)
本発明にかかる接着性樹脂層は、変性水添ブロック共重合体(a)、粘着付与剤(b)、及びエチレン系重合体(c)を含有してなる接着性樹脂組成物からなる樹脂層である。
【0035】
本発明にかかる変性水添ブロック共重合体(a)は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合を水添してなる水添ブロック共重合体が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたものである。ビニル芳香族化合物は、ビニル基を有する芳香族化合物のことをいう。このようなビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンが挙げられる。また、共役ジエン化合物は、2個の共役する炭素−炭素二重結合を有する化合物のことをいう。このような共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが挙げられる。さらに、このような変性水添ブロック共重合体(a)における水添率は、一般的には50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。水添率が前記下限未満では、熱安定性が低下する傾向にある。
【0036】
また、このような変性水添ブロック共重合体(a)においては、前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である必要がある。含量が0.01質量%未満では、接着性が不十分となり、他方、20質量%を超えると、変性時に一部架橋する等、ブツ、ゲルを生じやすくなり、製品の外観が悪化する。さらに、前記不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、又はその誘導体(例えば、無水物、アミド、エステル)が挙げられる。なお、これらの中でも、特にマレイン酸又はその無水物を用いることが好ましい。
【0037】
また、このような変性水添ブロック共重合体(a)は、前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%であれば、変性していない水添ブロック共重合体で希釈して使用することができる。
【0038】
本発明にかかる粘着付与剤(b)は、常温では固体の非晶性樹脂であり、石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂又はそれらの水添物のことをいう。このような粘着付与剤(b)としては、例えば、トーホーハイレジン(東邦石油樹脂(株));ガムロジン、ウッドロジン、アルコンP及びM(荒川化学(株));アドマープ(出光石油化学工業(株));ピコペール、ピコライトS及びA(ピコ(株));YSレジン、クリアロン(ヤスハラケミカル(株))が挙げられる。
【0039】
本発明にかかるエチレン系重合体(c)は、エチレン単独重合体又はエチレン−α−オレフィン共重合体等の共重合体のことをいう。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。また、酢酸ビニル等のビニルエステル、不飽和カルボン酸又はそのエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等)を用いてもよい。このようなエチレン系重合体(c)としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−1−ブテン共重合体(EBM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が挙げられる。これらの中でも、特にLDPE、LLDPEを用いることが好ましい。
【0040】
また、このようなエチレン系重合体(c)は、メルトフローレートが0.05〜50g/10分であり、且つ密度が0.850〜0.950g/cmであるものである必要がある。メルトフローレートが0.05g/10分未満では、流動性が乏しいため成形が困難となり、他方、50g/10分を超えると、流動しすぎて成形が困難となる。また、密度が0.850g/cm未満では、フィルムの強度や耐熱接着性が不十分となり、他方、0.950g/cmを超えると、積層体の透明性が低いものとなる。
【0041】
さらに、このようなエチレン系重合体(c)は、接着性の観点から、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、且つ前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である変性エチレン系重合体(d)を10〜80質量%含有するものであることが好ましい。前記不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、又はその誘導体(例えば、無水物、アミド、エステル)が挙げられる。なお、これらの中でも、特にマレイン酸又はその無水物を用いることが好ましい。
【0042】
そして、本発明にかかる接着性樹脂組成物は、前記変性水添ブロック共重合体(a)50〜99質量%及び前記粘着付与剤(b)1〜50質量%を含有することが必要であり、好ましくは、接着性樹脂組成物中の粘着付与剤(b)が10〜50質量%、より好ましくは25〜50質量%である。前記粘着付与剤(b)の質量比率が1質量%未満では、接着性が乏しいものとなり、他方、50質量%を超えると、流動性が高くなりすぎ成形性が劣るものとなる。
【0043】
また、本発明にかかる接着性樹脂組成物は、前記変性水添ブロック共重合体(a)及び粘着付与剤(b)の合計100質量部に対し、前記エチレン系重合体(c)を10〜1000質量部含有することが必要である。前記エチレン系重合体(c)の含有量が10質量%未満では、成形性が劣り、他方、1000質量%を超えると、接着性が低下する。
【0044】
(樹脂積層体)
本発明の樹脂積層体は、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが前記接着樹脂層を介して積層されていることを特徴とするものである。このように、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが前記接着樹脂層を介して積層されていることにより、延伸後においても十分な層間接着強度を有する樹脂積層体を得ることが可能となる。また、本発明の樹脂積層体は、優れた耐熱性及びガスバリア性を有するポリグリコール酸系樹脂からなる第一の樹脂層を備えているために、優れた耐熱性及びガスバリア性を有するものとなる。
【0045】
さらに、本発明の樹脂積層体は、必要に応じて、前記第二の樹脂層を複数備えていてもよいが、その場合において、構成成分である熱可塑性樹脂が互いに異なる複数の第二の樹脂層が前記接着樹脂層を介して積層されていてもよい。ここで、本発明の樹脂積層体の積層態様の例を示す。ただし、これらはあくまでも例示であって、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
1)第一の樹脂層/接着樹脂層/第二の樹脂層、
2)第二の樹脂層/接着樹脂層/第一の樹脂層/接着樹脂層/第二の樹脂層、
3)第二の樹脂層/接着樹脂層/第二の樹脂層/接着樹脂層/第一の樹脂層/接着樹脂層/第二の樹脂層、
4)第二の樹脂層/第二の樹脂層/接着樹脂層/第一の樹脂層/接着樹脂層/第二の樹脂層。
【0046】
以上説明したような本発明の樹脂積層体を製造する方法としては、例えば、前述したポリグリコール酸系樹脂、ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂及び接着性樹脂組成物を、それぞれの押出機を通じて溶融押出し、平型或いは環状のダイを通して共押出する方法を挙げることができる。また、このような方法においては、必要に応じて、更に前記熱可塑性樹脂を、前記接着樹脂層を介して、或いは介さずに押出ラミネートすることもできる。
【0047】
(延伸フィルム)
本発明の延伸フィルムは、前述した樹脂積層体を少なくとも一軸方向に延伸してなるものであることを特徴とするものである。このような延伸フィルムは、延伸後においても十分な層間接着強度を有する前記樹脂積層体を延伸してなるものであるため、十分な層間接着強度を有するものとなる。
【0048】
このような延伸フィルムを製造する方法としては、前記樹脂積層体を、更に、テンター法、インフレーション法、ブロー成形法等の延伸方法によって、少なくとも一軸方向に延伸して薄肉化する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用した樹脂又は樹脂組成物を、その略号とともに表1〜3にまとめて示す。また、実施例及び比較例における深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造条件を表4にまとめて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
(実施例1)
先ず、積層態様が外側から内側へ順に且つかっこ内に示す厚み比で、NY−1(20)/MPG002(2)/PGA−1(5)/MPG002(2)/LLDPE(10)となるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ溶融押出しし、溶融された樹脂をサーキュラーダイスに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出し加工を行った。サーキュラーダイス出口から流出した溶融体を水浴中で5℃に冷却し、円筒パリソンを成形した。次に、得られた円筒パリソンを、遠赤外線ヒーターが円筒状に設置された加熱塔を通しつつ縦方向(MD)に2.7倍、横方向(TD)に3.7倍の延伸倍率でバブル延伸した。次いで、延伸されたパリソンを円筒状の熱処理筒中に導き、熱処理を行った後に巻き上げて延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの厚みは39μmであった。
【0055】
(実施例2〜4、比較例1〜5)
フィルムの製造条件をそれぞれ表2に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして、延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの厚みは、それぞれ39μm(実施例2〜4、比較例1〜4)、38.5μm(比較例5)であった。
【0056】
<延伸フィルムの層間接着強度の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた延伸フィルムをそれぞれ幅15mmの帯状試料に切り出し、T剥離による層間接着力の測定を行なって、延伸フィルムの層間接着強度を評価した。すなわち、先ず、帯状試料の端部をアルコールに浸漬し、接着樹脂層を溶解せしめることにより、帯状試料の端部において第一の樹脂層と第二の樹脂層とを分離させた。次に、分離された第一の樹脂層及び第二の樹脂層をそれぞれ引張試験機のチャックにセットして所定の条件でT剥離試験を行った。そして、第一の樹脂層と第二の樹脂層とを剥離する際にかかる荷重(層間接着力)を測定した。得られた結果を表5に示す。なお、引張試験機としては、オリエンテック社製「テンシロンRTM−100」を使用し、23℃/50%RH雰囲気中でチャック間距離30mm、試験速度200mm/分の条件で測定を行った。また、T剥離試験は、PGA/LLDPE間及びPGA/NY間に関してそれぞれ行った。
【0057】
【表5】

【0058】
表5に示した結果から明らかなように、本発明の延伸フィルム(実施例1〜4)は、PGA/LLDPE間及びPGA/NY間における層間接着力がいずれも100(gf/15mm幅)以上であり、層間接着強度が優れたものであった。したがって、本発明の樹脂積層体は、延伸後においても十分な層間接着強度を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、優れた耐熱性及びガスバリア性を有し、しかも延伸後においても十分な層間接着強度を有する樹脂積層体、並びにそれを用いた延伸フィルムを提供することが可能となる。
【0060】
したがって、本発明の樹脂積層体は、各種シート、フィルム、容器、射出成形品等の成形材料として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸系樹脂からなる第一の樹脂層と、前記ポリグリコール酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる第二の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とが以下の条件を満たす接着樹脂層:
ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合を水添してなる水添ブロック共重合体が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、且つ前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である変性水添ブロック共重合体(a)50〜99質量%及び粘着付与剤(b)1〜50質量%を含有し、前記変性水添ブロック共重合体(a)及び粘着付与剤(b)の合計100質量部に対し、メルトフローレートが0.05〜50g/10分で且つ密度が0.850〜0.950g/cmであるエチレン系重合体(c)を10〜1000質量部含有してなる接着性樹脂組成物からなる接着樹脂層;
を介して積層されていることを特徴とする樹脂積層体。
【請求項2】
前記エチレン系重合体(c)が、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、且つ前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量が0.01〜20質量%である変性エチレン系重合体(d)を10〜80質量%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記ポリグリコール酸系樹脂が、下記一般式(1):
【化1】

で表されるグリコール酸単位を繰り返し単位として60質量%以上有するホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び芳香族ポリエステル系樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の樹脂積層体を少なくとも一軸方向に延伸してなるものであることを特徴とする延伸フィルム。

【公開番号】特開2008−132687(P2008−132687A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321209(P2006−321209)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】