説明

樹脂粒子およびその用途

【課題】極めて高い復元率を有し、優れた触感(滑らかさ、ソフトフィール、弾力性)、塗布時の伸び、均一塗布性、粒子の脱落性、水系媒体中での分散性および再分散性に非常に優れた樹脂粒子を提供する。
【解決手段】基材が、一般式(I):CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)m−CO−C(CH3)=CH2(式中、mは5〜20の整数である)の架橋性単量体(I)10〜30重量%と一般式(II):CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)n−CO−C(CH3)=CH2(式中、nは1〜4の整数である)の架橋性単量体(II)5〜20重量%と(メタ)アクリル酸エステル85〜50重量%とを少なくとも含む混合物から形成される重合体であり、かつ30%〜40%の復元率を示すことを特徴とする樹脂粒子により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子及びその用途に関する。更に詳しくは、本発明は、極めて高い復元率を有し、優れた触感(滑らかさ、ソフトフィール、弾力性)、塗布時の伸び、均一塗布性、粒子の脱落性、水系媒体中での分散性および再分散性に非常に優れた樹脂粒子ならびにその用途に関する。本発明の樹脂粒子は、塗膜軟質化剤、塗料用艶消し剤、塗料組成物等に好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品には、艶消し塗装仕上げが施されている場合が見られる。このような艶消し塗装仕上げは、塗料中にシリカやタルクに代表される光沢調整用顔料を加えた艶消し剤を使用して行なわれていた。
しかしながら、上記艶消し剤により得られる塗膜は、硬質な感触を有し、また外部から衝撃が加わったときに傷が付きやすいという問題がある。
したがって、高い耐傷付き性、軟らかな風合い(ソフトフィール性)、なめらかな風合いおよび高い弾力性を有する塗膜が求められている。
【0003】
塗膜に独特な模様や軟らかな風合いを付与し、耐傷付き性を向上させる方法として、塗料中にスリップ剤、例えば、アクリル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、ナイロン樹脂粒子、シリコン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子等を加える方法が一般に知られている。
特開2000−186017号公報(特許文献1)には、無機粉体が表面に付着してなる平均粒子径0.5〜30μm、圧縮強度0.05〜0.6kg/mm2である非多孔性の真球状架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が、化粧品等の外用剤や塗料の触感を改良できることが記載されている。
その実施例に挙げられた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートから形成されている。
【0004】
特開2002−265620号公報(特許文献2)には、分散性に優れ、かつソフト感、伸び、滑らかさ等の良好な感触を外用剤に付与できる樹脂として、10%変形時の圧縮強度が0.01〜0.6kgf/mm2である架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100重量部に、有機溶剤含有水溶液5〜100重量部を含有させてなることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子湿潤物及び該湿潤物を配合してなる外用剤が記載されている。
その実施例に挙げられている素材は、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートとテトラエチレングリコールジメタクリレートである。
【0005】
更に、特開2004−099700号公報(特許文献3)には、多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を含む塗料組成物が記載され、この粒子が、荷重を加えて粒子径を10%変形させたとき、0.05〜0.6kgf/mm2の圧縮強度を有することが記載されている。
特許文献3の実施例には、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートが挙げられている。
また、特開平5−156171号公報(特許文献4)には、合成樹脂に、微粒状重合体を分散させた樹脂組成物が記載されている。この公報では、樹脂組成物が、耐衝撃性、耐溶剤性を改良でき、光拡散性を付与でき、かつ微粒状重合体に由来の乳化剤による弊害を抑制できると記載されている。
さらに、特開2008−239785号公報(特許文献5)には、ビニル基を分子の両末端に有する特定の架橋性単量体と(メタ)アクリル酸エステルとを含む混合物を重合させることにより得られる、優れた復元率(15%〜30%)を有し、耐傷付き性に優れた柔らかな触感を有する塗膜を形成できる樹脂粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−186017号公報
【特許文献2】特開2002−265620号公報
【特許文献3】特開2004−099700号公報
【特許文献4】特開平5−156171号公報
【特許文献5】特開2008−239785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術でも十分ではなく、塗膜中で使用し得る、更に改善された特性(特に、高い復元率)を有する樹脂粒子の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意努力を重ねた結果、30%〜40%の復元率を有する樹脂粒子により上記の課題を解決できることを見出して本発明を完成した。
かくして、本発明によれば、
基材が、
一般式(I):
CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)m−CO−C(CH3)=CH2
(式中、mは5〜20の整数である)
の架橋性単量体(I)10〜30重量%と
一般式(II):
CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)n−CO−C(CH3)=CH2
(式中、nは1〜4の整数である)
の架橋性単量体(II)5〜20重量%と(メタ)アクリル酸エステル85〜50重量%
とを少なくとも含む混合物から形成される重合体であり、かつ30%〜40%の復元率を示すことを特徴とする樹脂粒子が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗膜形成用の塗料組成物に含ませた場合、さらに柔軟で艶消し効果が大きい塗膜を形成しうる樹脂粒子を提供できる。本発明の樹脂粒子は、樹脂粒子自身が軟質であるため、この樹脂粒子を塗料組成物に含ませることによって、得られた塗膜に軟らかな触感、なめらかな触感、ざらつきがない触感を与えることができる。本発明の樹脂粒子は、溶剤中での分散性、再分散性に非常に優れている。
また、本発明の樹脂粒子を塗料艶消し剤等に使用した場合、優れた耐傷付き性の塗膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1と比較例1の、塗膜の傷付け試験後の塗膜の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂粒子は、懸濁安定化剤の存在下で、
一般式(I):
CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)m−CO−C(CH3)=CH2
(式中、mは5〜20の整数である)
の架橋性単量体(I)10〜30重量%と
一般式(II):
CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)n−CO−C(CH3)=CH2
(式中、nは1〜4の整数である)
の架橋性単量体(II)5〜20重量%と(メタ)アクリル酸エステル85〜50重量%
とを少なくとも含む混合物を水系懸濁重合させることにより得られる。なお、(メタ)アクリルとは、メタクリル又はアクリルを意味する。
【0012】
上記の一般式(I)で示される架橋性単量体としては、例えば、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも軟質な樹脂粒子を得るためには、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(m=9)とテトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(m=14)との間の、mが9〜14の値を有する架橋性単量体が特に好ましい。
【0013】
なお、本発明において軟質とは、以下で記載される圧縮強度が0.05〜0.6kgf/mm2の範囲を意味する。
一般式(I)の架橋性単量体は、一般式(I)の架橋性単量体と一般式(II)の架橋
性単量体と(メタ)アクリル酸エステルとの合計量に対して、10〜30重量%の割合で使用される。
10重量%未満では、柔らかさや復元性が低下し、30重量%を超えると、樹脂が硬くなってしまうためである。
【0014】
一般式(II)で示される架橋性単量体としては、例えばエチレングリコールジ(メタ
)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
中でも軟質な樹脂粒子を得るためには、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
一般式(I)、(II)以外の架橋性単量体を使用してもよい。
一般式(I)、(II)以外の架橋性単量体としては、1,3−ブチレングリコールジ(
メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン及びこれらの誘導体である芳香族ジビニル系単量体が挙げられる。
【0015】
一般式(II)の架橋性単量体は、一般式(I)の架橋性単量体と一般式(II)の架
橋性単量体と(メタ)アクリル酸エステルとの合計量に対して、5〜20重量%の割合で使用される。
5重量%未満では、復元性が向上せず、20重量%を超えると、復元性が低下し、樹脂が硬くなるためである。
【0016】
上記その他の架橋性単量体の使用割合が多くなると樹脂粒子が硬くなるので、樹脂粒子を使用して得られる塗膜の柔らかさが損なわれるので好ましくない。そのため、その他の架橋性単量体は、一般式(I)、(II)の架橋性単量体とその他の架橋性単量体の合計
量に対して、15重量%以下の割合で使用されることが好ましい。また、その他の架橋性単量体の使用割合が少なくなると、溶剤系の塗料組成物を調整する際耐溶剤性が劣ってしまうことがある。そのため、その他の架橋性単量体は、一般式(I)、(II)の架橋性
単量体とその他の架橋性単量体の合計量に対して、1重量%以上の割合で使用されることが好ましい。より好ましいその他の架橋性単量体の使用割合は、4〜12重量%の範囲である。
【0017】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、公知の(メタ)アクリル酸エステルをいずれも使用できる。公知の(メタ)アクリル酸エステルの内、重合度によっても異なるが、単独の重合体のガラス転移温度が20℃以下となる(メタ)アクリル酸エステル系単量体を使用することが好ましい。上記単量体を使用することにより樹脂粒子自身が軟質となり、樹脂粒子に極めて高い復元力、弾力性などを付与することができ、塗膜等の耐傷付き性を向上することができ、より軟らかな触感を与える樹脂粒子を提供し得る。
【0018】
重合体のガラス転移温度が20℃以下となる(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えばアクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。
上記の(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、それぞれ単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
ガラス転移温度が20℃以下となる単量体と共に、ガラス転移温度が20℃以上となる(メタ)アクリル酸エステル系単量体を使用してもよい。このような単量体としては、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシル等が挙げられる。
【0020】
これらの単量体の中でも、樹脂粒子の機械的強度の向上、例えば、塗料組成物を調合する際の混練シェアによる樹脂粒子の破壊を十分に防ぐためには、炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸エステルが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルの使用割合は、一般式(I)、(II)の架橋性単量体と
(メタ)アクリル酸エステルの合計量に対して、50〜85重量%であり、より好ましくは55〜80重量%である。50重量%より少ないと、樹脂が硬くなり塗膜の柔らかさが損なわれ、85重量%を超えると、耐傷付き性が低下し、耐溶剤性が不足する。
なお、得られる樹脂粒子の性能が低下しない範囲内であれば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体を(メタ)アクリル酸エステル系単量体と併用してもよい。
【0021】
上記の共重合可能な他の単量体としては、例えばスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル基を有するものが挙げられる。これらの単量体は単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
懸濁重合には、必要に応じて、重合開始剤が使用される。
重合開始剤としては、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等の油溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0022】
これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
重合開始剤の使用割合は、一般式(I)、(II)の架橋性単量体と(メタ)アクリル
酸エステルの合計量100重量部に対して、0.1〜1重量部程度で十分ある。
また、懸濁重合には、分散剤及び/又は界面活性剤等を用いてもよい。
そのような分散剤としては例えばリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機塩、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0023】
また、界面活性剤としては、例えばオレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤、ラウリルジメチルアミンオキサイドのような両性界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
これらの分散剤及び界面活性剤は、それぞれ単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。中でも、分散安定性の点から、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性リン酸塩の分散剤と、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤とを組み合わせて用いるのが好ましい。
分散剤の使用割合は一般式(I)、(II)の架橋性単量体と(メタ)アクリル酸エス
テルの合計量100重量部に対して0.5〜10重量部程度であり、界面活性剤の使用割合は、水性媒体100重量部に対して0.01〜0.2重量%程度である。
【0025】
重合反応は、油相(例えば単量体、重合開始剤、非重合性有機溶媒等)と水相(例えば水性媒体、分散剤、界面活性剤等)とを混合した後、攪拌しながら昇温することにより開始できる。水相は、油相100重量部に対して100〜1000重量部用いることが好ましい。水性媒体としては、水、水と水溶性有機溶媒(例えば、低級アルコール)との混合物が挙げられる。
【0026】
重合温度は40〜90℃程度が好ましい。反応系を重合温度に保持しながら重合させる時間は、通常、1〜10時間程度である。樹脂粒子の平均粒子径は、油相と水相との混合割合や分散剤、界面活性剤の使用量及び攪拌条件、分散条件を調整することにより適宜制御できる。
【0027】
油相を水相中に微細な液滴で分散させる方法として、プロペラ翼等の攪拌力による方法、ホモジナイザー、回転羽根と器壁あるいは回転羽根同士のギャップにかかる高シェアーを利用した乳化分散機を使用する方法、超音波分散機、高圧噴射型分散機を用いる方法等が挙げられる。例えばホモジナイザーの場合、回転数が大きく、分散時間が長いと得られる液滴径が小さくなる傾向が見られる。
重合反応終了後、所望により分散剤を酸等で分解除去し、濾過、水洗浄、脱水、乾燥、粉砕、分級を行うことによって目的とする樹脂粒子が得られる。
【0028】
本発明に使用する樹脂粒子の平均粒子径は、3〜100μmが好ましく、より好ましくは5〜60μmの範囲である。この範囲内の平均粒子径を有する樹脂粒子は、艶消し及び仕上がり外観をより向上できるので好ましい。
平均粒子径が3μm未満の場合には、艶消し塗膜において形成される凹凸が小さくなるために、実質的な艶消し効果を得られない場合があるので好ましくない。
また、粒子の平均粒子径が100μmを越える場合には、艶消し塗膜を形成した場合の外観がざらざらと荒れた状態になることがあるため、仕上がり外観が悪くなる場合があるので好ましくない。
得られた樹脂粒子は、水性媒体から公知の方法により単離してもよい。
【0029】
なお、単離した樹脂粒子の合着を防止するために、得られた樹脂粒子の表面に無機粉体を付着させたり、樹脂粒子と適量の無機粉体を混合して用いてもよい。無機粉体としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化亜鉛等が挙げられる。
無機粉体は、樹脂粒子の平均粒子径の1/10000〜1/100の平均粒子径を有していることが好ましく、1/3000〜1/900の平均粒子径を有していることがより好ましい。具体的な、無機粉体の平均粒子径は、好ましくは1〜100nm、より好ましくは2〜50nm、最も好ましくは10〜15nmである。
【0030】
更に、無機粉体は、無機粉体と樹脂粒子の合計に対して、0.1〜5重量%使用されることが好ましく、1.0〜3.0重量%使用されることがより好ましい。
本発明の樹脂粒子は、30〜40%の復元率を有する。復元率が30%未満の場合は、樹脂粒子を含む塗膜の耐傷付き性が低下する恐れがあるので好ましくなく、40%より大きい場合は、樹脂粒子の粒子形状が保持できなくなるので好ましくない。より好ましい復元率は、31〜35%である。なお、復元率とは、島津製作所社製の微小圧縮試験機HCTM200で測定して得られる値である。
【0031】
また、樹脂粒子は、0.05〜0.6kgf/mm2の範囲の圧縮強度を有していることが好ましく、0.1〜0.4kgf/mm2の範囲の圧縮強度を有していることがより好ましい。圧縮強度が0.05kgf/mm2を下回ると、例えば塗料用艶消し剤を作製する際の混練シェアで樹脂粒子が崩壊する恐れがあるので好ましくない。逆に、圧縮強度が0.6kgf/mm2を越えると樹脂粒子を含む塗膜の触感が硬く感じられることがあるので好ましくない。なお、圧縮強度とは、島津製作所社製の微小圧縮試験機HCTM200で測定して得られる値である。
【0032】
本発明の樹脂粒子は、圧縮強度及び復元率が、ともに特定の範囲を満たすものであることが好ましい。具体的には、圧縮強度が0.05〜0.6kgf/mm2の範囲であり、かつ復元率が30〜40%の範囲であることが好ましく、圧縮強度が0.1〜0.4kgf/mm2の範囲であり、かつ復元率が31〜35%の範囲であることがより好ましい。
【0033】
本発明の樹脂粒子は、前記の特定の圧縮強度、復元率を有する軟質の樹脂粒子であるので塗膜軟質化剤又は塗料用艶消し剤として好適に用いることができる。
本発明の樹脂粒子は、塗料組成物に含有させることも可能である。塗料組成物は、必要に応じて、バインダー樹脂や溶剤が含まれる。バインダー樹脂としては、有機溶剤又は水に可溶な樹脂もしくは水中に分散できるエマルション型の水性樹脂を使用できる。
【0034】
そのようなバインダー樹脂としては、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらバインダー樹脂は、塗装される基材への塗料の密着性や使用される環境等によって適宜選択され得る。
【0035】
バインダー樹脂及び樹脂粒子の添加量は、形成される塗膜の膜厚、樹脂粒子の平均粒子径、塗装方法によっても異なる。バインダー樹脂の添加量は、バインダー樹脂(エマルジョン型の水性樹脂を使用する場合は固形分)と樹脂粒子との合計に対して5〜50重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、20〜40重量%が更に好ましい。
【0036】
樹脂粒子の含有量が5重量%未満では、艶消し効果が十分得られないことがあるので好ましくない。また、含有量が50重量%を越える場合には、塗料組成物の粘度が大きくなりすぎるため、樹脂粒子の分散不良が起こることがある。そのため得られる塗膜にマイクロクラックが発生したり、塗膜表面にザラツキが生じる等の外観不良が起こるため好ましくない。
【0037】
塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒、体質顔料、着色顔料、金属顔料、マイカ粉顔料、染料、有機溶剤等が含まれていてもよい。
塗料組成物を構成する溶剤としては、特に限定されないが、バインダー樹脂を溶解又は分散できる溶剤を使用することが好ましい。例えば、油系塗料であれば、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。水系塗料であれば、水、アルコール類等が使用できる。これら溶剤は、単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
塗料組成物中の溶剤含有量は、塗料組成物全量に対し、通常20〜60重量%程度である。
【0038】
塗料組成物を使用した塗膜の形成方法は、特に限定されず、公知の方法をいずれも使用できる。例えば、スプレー塗装法、ロール塗装法、ハケ塗り法等の方法が挙げられる。塗料組成物は、必要に応じて粘度を調整するために、希釈してもよい。希釈剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤;水;アルコール系溶剤等が挙げられる。これら希釈剤は、単独で使用してもよく、2種以上の混合して使用してもよい。
【実施例】
【0039】
以下この発明を、実施例を用いて説明するが、これによって本発明を限定するものではない。なお、以下の実施例における平均粒子径、圧縮強度の測定方法を下記する。
[平均粒子径]
本発明における樹脂粒子の平均粒子径とは重量平均粒子径であり、コールター社製のコールターマルチサイザーIIを用いて以下の実施例及び比較例で得られた各樹脂粒子の平均粒子径を測定する。
なお、測定に際して用いられるアパチュアーチューブは、平均粒子径が10μm未満の樹脂粒子に対しては細孔径50μmのアパチュアーチューブを、平均粒子径が10〜30μmの樹脂粒子に対しては細孔径100μmのアパチュアーチューブを、平均粒子径が30μmを超える樹脂粒子に対しては細孔径280μmのアパチュアーチューブをそれぞれ使用して以下の実施例及び比較例で得た平均粒子径を測定した。
【0040】
[圧縮強度]
樹脂粒子の圧縮強度は、島津製作所社製の微小圧縮試験機MCTM2000を用いて樹脂粒子1個に対し、一定の負荷速度で1gfの荷重をかけたときの樹脂粒子の変形量と荷重を測定し、粒子径が10%変形したときの荷重と圧縮前の粒子半径を次式:
圧縮強度(kgf/mm2)=2.8×荷重(kgf)/{π×(粒子半径(mm))2
に算入して得られる値である。
樹脂粒子の圧縮強度(S10強度)の測定条件
・試料調製;以下の実施例及び比較例で得られた各樹脂粒子をそれぞれエタノール中に分散させた後、試料台に塗布乾燥し、測定用試料を調製する。
・試験温度;常温
・試験用圧子;平面50(直径50μmの平面圧子)
・試験種類;圧縮試験(MODE1)
・試験荷重;1.00(gf)
・負荷速度;0.072500(gf/秒)
・変位フルスケール;10(μm)
【0041】
[復元率]
復元率は、樹脂粒子に荷重1gfをかけたときの粒子径から、荷重を0.2gfまで減少させたときの粒子径への変位による復元量と、荷重をかける前の粒子径とに基づいて、式:
復元率(%)=復元量(μm)÷粒子径(μm)×100
により算出される。
【0042】
[樹脂粒子の製造]
実施例1
以下に示す割合の組成物からなる油相及び水相を用いて樹脂粒子を製造した。
(油相)
アクリル酸ブチル 70重量部
テトラデカエチレングリコールジメタクリレート 20重量部
共栄社化学社製の「ライトエステル14EG」
(一般式(I)でm=14;数平均分子量780)
エチレングリコールジメタクリレート 10重量部
過酸化ベンゾイル 0.3重量部
(水相)
脱イオン水 400重量部
ポリビニルアルコール(鹸化度85%) 8重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 0.04重量部
シリカ 3重量部
(日本アエロジル社製R974、平均粒子径12nm)
ホモミキサー(特殊機化工業社製、卓上型TKホモミキサー)を用い、回転数5000rpmで上記の油相を水相に分散させた。この分散液を、攪拌機、加熱装置及び温度計を備えた重合反応器に入れ、60℃で6時間攪拌を続けて懸濁重合を行った。
この懸濁液を減圧ろ過し、得られた反応生成物を水で洗浄し、シリカを添加し、乾燥、粉砕して、平均粒子径7.8μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は34%であった。
【0043】
実施例2
テトラデカエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=14)をノナエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=9)(共栄社化学社製の「ライトエステル9EG」;数平均分子量560)に変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒子径7.9μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は32%であった。
実施例3
アクリル酸ブチルをメタクリル酸ブチルに変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒子径8.0μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は31%であった。
【0044】
実施例4
アクリル酸ブチルをメタクリル酸ブチルに、テトラデカエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=14)をノナエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=9)に変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒子径7.9μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は31%であった。
実施例5
エチレングリコールジメタクリレート(一般式IIのn=1)をジエチレングリコール
ジメタクリレート(一般式IIのn=2)(共栄社化学社製の「ライトエステル2EG」
)に変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒子径8.1μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は34%であった。
【0045】
比較例1
以下に示す割合の組成物からなる油相及び水相を用いて樹脂粒子を製造した。
(油相)
アクリル酸ブチル 80重量部
テトラデカエチレングリコールジメタクリレート 20重量部
共栄社化学社製の「ライトエステル14EG」
(一般式(I)でm=14;数平均分子量780)
過酸化ベンゾイル 0.3重量部
(水相)
脱イオン水 400重量部
ポリビニルアルコール(鹸化度85%) 8重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 0.04重量部
シリカ 3重量部
(日本アエロジル社製R974、平均粒子径12nm)
ホモミキサー(特殊機化工業社製、卓上型TKホモミキサー)を用い、回転数5000rpmで上記の油相を水相に分散させた。この分散液を、攪拌機、加熱装置及び温度計を備えた重合反応器に入れ、60℃で6時間攪拌を続けて懸濁重合を行った。
この懸濁液を減圧ろ過し、得られた反応生成物を水で洗浄し、シリカを添加し、乾燥、粉砕して、平均粒子径7.8μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は26%であった。
【0046】
比較例2
テトラデカエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=14)をノナエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=9)(共栄社化学社製の「ライトエステル9EG」;数平均分子量560)に変えたこと以外は比較例1と同様にして平均粒子径7.9μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は20%であった。
比較例3
アクリル酸ブチルをメタクリル酸ブチルに変えたこと以外は比較例1と同様にして平均粒子径8.0μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は18%であった。
【0047】
比較例4
アクリル酸ブチルをメタクリル酸ブチルに、テトラデカエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=14)をノナエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=9)に変えたこと以外は比較例1と同様にして平均粒子径7.9μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は16%であった。
比較例5
アクリル酸ブチルを70重量部から90重量部に、テトラデカエチレングリコールジメタクリレート(一般式Iのm=14)を20重量部から5重量部に、エチレングリコールジメタクリレートを10重量部から5重量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒子径7.8μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は10%であった。
比較例6
アクリル酸ブチルを70重量部から78重量部に、エチレングリコールジメタクリレートを10重量部から2重量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして平均粒子径8.0μmの樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子の復元率は27%であった。
【0048】
[塗膜の製造]
得られた塗料をクリアランス100μmのブレードをセットした塗工装置を用いてポリエステルフィルム上に塗布後乾燥することによって塗膜を得た。
得られた塗膜を用いて耐傷付き性を評価した。
耐傷付き性は、上記のようにして製造した塗膜の形成1週間後に、摩擦堅牢度試験機(大栄科学精器製作所社製:RT−200)を用いて、以下の条件で評価する。
・幅20mmくさび形摩擦子に帆布#11をかぶせる。
・荷重300gf
・摩擦回数100往復
スジがほとんど残らないものを○、やや白くスジが残るものを△、白くスジが残るものを×とした。
【0049】
塗膜の耐傷付き性評価を表1に示す。表1には、各塗料に用いた樹脂粒子の平均粒子径、復元率及び圧縮強度を併せて示す。
また、図1に実施例1と比較例1との間の、塗膜の傷付け試験後の塗膜の状態を示す。図1中、左側が実施例1、右側が比較例1である。
【0050】
【表1】

【0051】
上記の結果から、樹脂粒子の平均粒子径が殆んど同じであっても、前記一般式(I)の化合物において、mが14又は9であるテトラデカエチレングリコールジメタクリレート(比較例1及び3)又はノナエチレングリコールジメタクリレート(比較例2及び4)をそれぞれ用いて得られた樹脂粒子は、一般式(I)の化合物に、一般式(II)(実施例
1〜5)を加えて得られた樹脂粒子に比べ、いずれも復元率において低い値を示した。
【0052】
すなわち、一般式(I)の化合物において、エチレンオキシ基の重合度がより高い化合物にエチレンオキシ基の重合度が低い化合物を特定割合で加えた実施例1〜5で得られた樹脂粒子は、エチレンオキシ基の重合度がより高い化合物を用いた比較例1〜4で得られた樹脂より、より軟質な塗膜が得られた。
また、実施例1〜5で得られた樹脂粒子を用いた塗料により作製された塗膜は、耐傷付き性において、良好な評価を与えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材が、
一般式(I):
CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)m−CO−C(CH3)=CH2
(式中、mは5〜20の整数である)
の架橋性単量体(I)10〜30重量%と
一般式(II):
CH2=C(CH3)−COO−(CH2CH2O)n−CO−C(CH3)=CH2
(式中、nは1〜4の整数である)
の架橋性単量体(II)5〜20重量%と(メタ)アクリル酸エステル85〜50重量%
とを少なくとも含む混合物から形成される重合体であり、かつ30%〜40%の復元率を示すことを特徴とする樹脂粒子。
【請求項2】
前記一般式(I)におけるmが9〜14である請求項1に記載の樹脂粒子。
【請求項3】
前記一般式(II)におけるnが1である請求項1または2に記載の樹脂粒子。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、前記混合物を懸濁安定化剤の存在下で水系懸濁重合させて得られた粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の樹脂粒子を含む塗膜軟質化剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の樹脂粒子を含む塗料用艶消し剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の樹脂粒子を含む塗料組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215764(P2010−215764A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63051(P2009−63051)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】