説明

樹脂粒子分散液の製造方法

【課題】環境性能に優れ、高湿度下の帯電安定性、すなわち、画質安定性に優れた電子写真用トナーを得ることができる樹脂粒子分散液の製造方法、該製造方法によって得られる樹脂粒子分散液、及び電子写真用トナーを提供する。
【解決手段】水系媒体中で、酸価1〜10mgKOH/gのポリエステルAと、酸価が10〜40mgKOH/gのポリエステルBとを含有する結着樹脂を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及び非イオン性界面活性剤存在下で、塩基性化合物で中和する工程を有する樹脂粒子分散液の製造方法であって、前記結着樹脂がポリエステルAを30〜90重量%含有し、かつポリエステルBの酸価がポリエステルAの酸価より9〜30mgKOH/g高い、樹脂粒子分散液の製造方法及び電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法などに用いられる樹脂粒子分散液の製造方法、該製造方法により得られる樹脂粒子分散液及び該樹脂粒子分散液を用いた電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真システムの発展に伴い、電子写真用トナーの分野においては、高画質化の観点から、小粒径で球形化が可能なケミカルトナーが使用されている。粒径制御の観点からは、酸価の異なるポリエステルを有機溶剤存在下で乳化させて得られるトナーが開示されている(例えば、特許文献1、2)。
さらに、粒度分布を均一にする観点から、有機溶剤存在下で、酸価の異なるポリエステルを乳化させて得られるトナーが開示されている(特許文献3)。
また、近年の環境意識の高まりから、環境にやさしい、つまり有機溶剤を使用しないケミカルトナーが注目され、水系でポリエステルを乳化して得られるケミカルトナーが提案されている(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特開2008−33057号公報
【特許文献2】特開平11−7156号公報
【特許文献3】特開2006−178054号公報
【特許文献4】特開2007−188004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水系媒体でポリエステルを乳化する場合、酸価の低いポリエステルでは乳化が困難であり、実際は高酸価のポリエステルを使用するか、あるいは溶剤系で乳化する以外に方法がなかった。しかしながら、前者の方法ではカルボキシル基の存在量が多いため高湿度下の帯電特性が十分でなく画質安定性に劣り、一方、後者の方法では有機溶剤を使用するため環境への悪影響が懸念される。
【0005】
本発明は、環境性能に優れ、画像濃度やカブリ等の画質安定性に優れた電子写真用トナーを得ることができる樹脂粒子分散液の製造方法、及び該樹脂粒子分散液から得られる電子写真用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)水系媒体中で、酸価1〜10mgKOH/gのポリエステルAと、酸価が10〜40mgKOH/gのポリエステルBとを含有する結着樹脂を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及び非イオン性界面活性剤存在下で、塩基性化合物で中和する工程を有する樹脂粒子分散液の製造方法であって、前記結着樹脂がポリエステルAを30〜90重量%含有し、かつポリエステルBの酸価がポリエステルAの酸価より9〜30mgKOH/g高い、樹脂粒子分散液の製造方法、及び
(2)上記(1)記載の樹脂粒子分散液中の樹脂粒子を凝集及び合一して得られる電子写真用トナー、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は環境性能に優れ、かつ本発明の製造方法により得られる樹脂粒子分散液を用いることにより、高湿度下の画質安定性に優れた電子写真用トナーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[樹脂粒子分散液の製造方法]
以下、本発明の樹脂粒子分散液の製造方法について説明する。
(結着樹脂)
本発明における結着樹脂は、酸価1〜10mgKOH/gのポリエステルAと、酸価が10〜40mgKOH/gのポリエステルBとを含有するものであり、かつ該ポリエステルAを30〜90重量%含有し、かつポリエステルBの酸価がポリエステルAの酸価より9〜30mgKOH/g高いものである。
上記ポリエステルA及びポリエステルBは結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルのいずれであってもよいが、トナーの帯電性や更にはその帯電量の環境安定性の観点から、そのいずれも非晶質ポリエステルであることが好ましい。トナーの帯電性が向上することで、トナーの画質特性も向上する。
本発明において、「非晶質ポリエステル」とは、軟化点と吸熱の最大ピーク温度の比(軟化点/吸熱の最大ピーク温度)で定義される結晶性指数が好ましくは1.3より大きく4以下、より好ましくは1.5〜3であるものをいう。結晶性指数が1.3以下のものは結晶化度が高く非晶質ポリエステルではなく、一般に結晶性ポリエステルと呼ばれるものである。軟化点と吸熱の最大ピーク温度の比は、原料モノマーの種類とその比率、分子量、製造条件(例えば、冷却速度)等により調整される。吸熱の最高ピーク温度は、示差走査熱量計を用いて測定することができ、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度をいう。
【0009】
ポリエステルの原料モノマーとしては、公知の2価以上のアルコール成分と、2価以上のカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル等の公知のカルボン酸成分が用いられる。
具体的には、アルコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコール成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
この中でも、トナーの帯電性、すなわち画質特性の観点から、ポリオキシプロピレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド(平均付加モル数1〜16)付加物等が好ましい。
【0011】
カルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸;ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。この中でもトナー帯電性の観点から、芳香族多価カルボン酸及びその酸無水物が好ましい。
【0012】
ポリエステルは、例えば、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じ公知のエステル化触媒を用いて、180〜250℃の温度で縮重合することにより製造することができる。
本発明に用いられるポリエステルは、その酸価が、1〜10mgKOH/gであるポリエステルAと10〜40mgKOH/gであるポリエステルBを混合してなるものが好ましい。酸価の低いポリエステルAが結着樹脂中に存在することで、トナーの帯電性が良好となり、そのため、画像特性が高湿環境下でも良好となる。また、酸価の低いポリエステルAを含む結着樹脂の分散液を安定して得るために、酸価の高いポリエステルBを更に含有する。
ポリエステルAの酸価は、トナーの帯電性、すなわち画質特性が良好である点から、1〜9mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは2〜8mgKOH/gである。また、ポリエステルBの酸価は、ポリエステルAの帯電性への効果を阻害せず、且つ、樹脂粒子分散液の安定性が良好である点から、11〜35mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは12〜30mgKOH/gである。
【0013】
ポリエステルAとポリエステルBの酸価は、その差が9〜30mgKOH/gであり、好ましくは12〜25mgKOH/gである。その差が小さく9mgKOH/g未満であると、小粒径の樹脂粒子(乳化粒子)を得ることができない。また、その差が30mgKOH/gより大きいと、ポリエステルAとポリエステルBの樹脂組成やその性質が大きく異なってしまい、また例え適切な酸価を有するポリエステルを用いたとしても樹脂粒子が得られないため、好ましくない。
【0014】
結着樹脂中、ポリエステルAは30〜90重量%含有され、好ましくは30〜80重量%含有され、より好ましくは50〜80重量%含有される。上記含有量が30重量%以上であれば、トナーの帯電性が良好であり、また90重量%以下であれば微細な樹脂粒子を得ることができいずれも好ましい。
また、ポリエステルAとポリエステルBの含有量比(ポリエステルA/ポリエステルB)は、帯電性、すなわち画質特性と乳化性を両立させる観点から、重量比で10/90〜70/30が好ましく、より好ましくは30/70〜70/30であり、更に好ましくは50/50〜70/30である。
【0015】
結着樹脂は、ポリエステルAおよびポリエステルB以外の樹脂を含有しても良い。具体的には、以下のようなポリマーを挙げることができる。すなわち、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(メタクリル酸メチル−ブタジエン)、ポリ(メタクリル酸エチル−ブタジエン)、ポリ(メタクリル酸プロピル−ブタジエン)、ポリ(メタクリル酸ブチル−ブタジエン)、ポリ(アクリル酸メチル−ブタジエン)、ポリ(アクリル酸エチル−ブタジエン)、ポリ(アクリル酸プロピル−ブタジエン)、ポリ(アクリル酸ブチル−ブタジエン)、ポリ(スチレン−イソプレン)、ポリ(メチルスチレン−イソプレン)、ポリ(メタクリル酸メチル−イソプレン)、ポリ(メタクリル酸エチル−イソプレン)、ポリ(メタクリル酸プロピル−イソプレン)、ポリ(メタクリル酸ブチル−イソプレン)、ポリ(アクリル酸メチル−イソプレン)、ポリ(アクリル酸エチル−イソプレン)、ポリ(アクリル酸プロピル−イソプレン)、ポリ(アクリル酸ブチル−イソプレン)、ポリ(スチレン−アクリル酸ブチル)、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(スチレン−イソプレン)、ポリ(スチレン−メタクリル酸ブチル)、ポリ(スチレン−アクリル酸ブチル−アクリル酸)、ポリ(スチレン−ブタジエン−アクリル酸)、ポリ(スチレン−イソプレン−アクリル酸)、ポリ(スチレン−メタクリル酸ブチル−アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸ブチル−アクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル−アクリル酸)、ポリ(スチレン−アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(アクリロニトリル−アクリル酸ブチル−アクリル酸)などのビニル共重合樹脂、ポリエステル−スチレン−アクリルのハイブリッド樹脂などの縮重合系樹脂、その他にも、ポリエポキシ、ポリウレタン、ポリエーテルが挙げられる。
【0016】
また、ポリエステルAおよびポリエステルBを含有する結着樹脂の酸価は、樹脂粒子を安定にし、かつ小粒径のトナーをシャープな粒度分布とし、画像特性に優れたものとするために、5〜35mgKOH/gであることが好ましく、8〜30mgKOH/gが更に好ましい。なお、結着樹脂としての酸価、軟化点、ガラス転移点、及び分子量等の物性は、個々のポリエステルの測定方法と同様にして測定される。
ポリエステルは、トナーの保存性の観点から、その軟化点は80〜165℃が好ましく、より好ましくは95〜160℃であり、ガラス転移点は50〜85℃が好ましく、より好ましくは50〜75℃である。なお、軟化点や酸価は縮重合の温度、反応時間等の反応条件原料モノマー組成等を調節することにより所望のものを得ることができる。
また、ポリエステルの数平均分子量は、1,000〜100,000が好ましく、1,000〜50,000がより好ましく、1,000〜20,000が更に好ましい。
【0017】
ポリエステルの場合と同様の観点から、結着樹脂の軟化点は80〜165℃が好ましく、ガラス転移点は50〜85℃が好ましい。結着樹脂の数平均分子量は、上記ポリエステルと同様の値であることが好ましい。尚、結着樹脂が複数の樹脂を含有する場合には、前記結着樹脂の平均分子量、軟化点、ガラス転移点及び酸価は、いずれも各結着樹脂の混合物としての値を意味する。
【0018】
(界面活性剤)
本発明の製造方法は、上記結着樹脂を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及び非イオン性界面活性剤存在下で中和する工程を有する。すなわち、本発明においては、ポリエステルを含有する結着樹脂を中和させるに際して、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩と非イオン性界面活性剤を、結着樹脂100重量部に対して、合計で好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、更に好ましくは0.1〜3重量部存在させることが好ましい。従来、ポリエステルを含有する樹脂を乳化するためには、ポリエステルの酸価がある程度高くないと乳化できなかったが、本発明では特定の酸価を有する2種類のポリエステルを、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及び非イオン性界面活性剤存在下で中和することにより、高酸価のポリエステルが低酸価のポリエステルを取り込むことにより同時に中和され、低酸価のポリエステルを乳化することが可能となると推定される。
【0019】
本発明においては、アニオン性界面活性剤として、乳化性および樹脂粒子の安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を添加する。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、下記式(1)で表わされるものが好ましい。
1−O−(CH2CH2O)pSO31 (1)
式中、R1はアルキル基を示し、凝集粒子への吸着性およびトナーへの残留性の観点から、好ましくは炭素数10〜20、より好ましくは炭素数12〜18のアルキル基が挙げられる。pは1〜50の平均付加モル数を示し、粒径制御の観点から、好ましくは1〜30、より好ましくは2〜20の数である。M1は1価のカチオンを示し、粒径制御の観点から、好ましくはナトリウム、カリウム、アンモニウムであり、より好ましくはナトリウム、アンモニウム、更に好ましくはナトリウムである。なお、式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩は、本発明の効果を損しない範囲で、プロピレン基を有していても良い。
【0020】
本発明においては、酸価の低いポリエステルからなる微細な樹脂粒子を作製する観点から、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩に、非イオン性界面活性剤を併用する。この非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類あるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリチレングリコ−ルモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。この中でも、乳化性および樹脂粒子の安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく用いられる。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩と非イオン性界面活性剤との使用比率については特に制限はないが、乳化性および樹脂粒子の安定性の観点からは、重量比で20:80〜80:20であることが好ましく、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0021】
(中和工程)
本発明の製造方法は、水系媒体中で、前記結着樹脂を上記界面活性剤存在下、塩基性化合物で中和する工程を有する。
水系媒体
水系媒体は、水を主成分とするものであり、環境保全の観点から、水の含有量は、水性媒体中80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、100重量%がさらに好ましい。本発明では、実質的に有機溶媒を用いることなく水のみを用いても結着樹脂を分散させることができる。水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等の水に溶解する有機溶媒が挙げられる。これらのなかでは、トナーへの混入を防止する観点から、樹脂を溶解しない有機溶媒である、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶媒が好ましい。
【0022】
塩基性化合物
塩基性化合物は、無機塩基性化合物及び有機塩基性化合物のいずれであってもよい。無機塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ金属、それらの炭酸塩や酢酸塩などの弱酸の塩あるいは部分中和塩、及びアンモニアなどが挙げられる。有機塩基性化合物としては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン類、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類、コハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩等が挙げられる。これらの塩基性化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記塩基性化合物は塩基性水系媒体にして使用することができ、該塩基性水系媒体中の塩基性化合物の含有量は、用いる塩基性化合物の種類により左右されるが、結着樹脂の加水分解を抑制する観点から、通常1〜30重量%、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜10重量%である。塩基性水系媒体に使用する水系媒体としては、前記水系媒体と同様のものを使用することができる。
前記塩基性水系媒体の使用量は、均一な樹脂乳化液を効果的に調製し得る点から、結着樹脂100重量部に対して、5〜100重量部が好ましく、10〜90重量部がより好ましく、20〜80重量部がさらに好ましい。
【0024】
中和は、好ましくは結着樹脂の軟化点以下、より好ましくは結着樹脂の軟化点以下かつ結着樹脂のガラス転移点以上の温度で一定時間攪拌して行う。結着樹脂を均一に中和する観点から、該攪拌時間は好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上である。
中和を前記範囲の温度で行うことにより、中和が十分に行われ、次工程の乳化処理で大きな乳化粒子の生成が抑制され、また、加熱に特別な装置を必要としない。この点で、中和温度は、結着樹脂のガラス転移点より10℃高い温度以上(以下、「ガラス転移点+10℃以上」のように記す)の温度であることが好ましく、また軟化点−5℃以下の温度であることが好ましい。
さらに、加水分解抑制の観点から、中和は、常圧近傍で行うことがより好ましく、具体的には、80〜300kPaが好ましく、100〜200kPaがより好ましい。
【0025】
この中和工程における中和の度合いは、次工程で樹脂粒子を作製するのに必要な親水性を樹脂に付与できる程度でよく、必ずしも100%中和する必要はない。例えば、極性基を多く有する親水性の高い樹脂を用いる場合は、中和度は低くてもよく、逆に親水性の低い樹脂を用いる場合は、中和度は高くするほうが好ましい。本発明においては、上記中和度は、50%以上であることが好ましく、60〜100%であることがより好ましく、70〜100%であることが更に好ましい。中和度は、一般に中和前後の酸基のモル数の比(中和後の酸基のモル数/中和前の酸基のモル数)で表わすことができる。
【0026】
具体的には、樹脂分散液を、攪拌しながら該樹脂の軟化点以下、好ましくはガラス転移点以上の温度、例えばガラス転移点が60〜65℃程度で軟化点が110〜120℃程度のカルボキシル基をもつポリエステルを用いた場合には、90〜100℃程度の温度に昇温し、所定の中和度に達するまで、その温度で適当な時間保持することにより中和を行うことができる。
【0027】
(樹脂粒子分散液の製造)
本発明の製造方法は、上記中和工程を含み、前記水系媒体中でポリエステルを含有する結着樹脂を好ましくは乳化して樹脂粒子を得るものである。
樹脂粒子分散液の製造に際しては、上記結着樹脂に、必要に応じて着色剤、離型剤、荷電制御剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤などの添加剤を加え、これらの混合物を分散処理する。また、前記界面活性剤以外の公知の界面活性剤を、本発明の効果を阻害しない範囲において使用することもできる。
【0028】
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤がいずれも使用でき、適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の種々の顔料やアクリジン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、キサンテン系等の各種染料を1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましい。
【0029】
離型剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類;加熱により軟化点を有するシリコーン類;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックスなどが挙げられる。
離型剤の含有量は、添加効果及び帯電性への悪影響を考慮して、結着樹脂と着色剤との合計量100重量部に対して、通常1〜20重量部程度、好ましくは2〜15重量部である。
【0030】
荷電制御剤としては、例えば安息香酸の金属塩、サリチル酸の金属塩、アルキルサリチル酸の金属塩、カテコールの金属塩、含金属ビスアゾ染料、テトラフェニルボレート誘導体、第四級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂と着色剤との合計量100重量部に対して、通常10重量部以下、好ましくは0.01〜5重量部である。
【0031】
本発明においては、前記中和工程の後、ガラス転移点以上の温度で水系媒体を添加することによって、乳化させることにより、樹脂粒子分散液を製造することが好ましい。
上記水系媒体の添加速度は、乳化を効果的に実施し得る点から、樹脂100g当たり好ましくは0.1〜50g/min、より好ましくは0.5〜40g/min、さらに好ましくは1〜30g/minである。この添加速度は、一般にO/W型の乳化液を実質的に形成するまで維持すればよく、O/W型の乳化液を形成した後の水の添加速度に特に制限はない。
当該樹脂粒子分散液の製造に用いる水系媒体としては、前述の水系媒体と同じものを挙げることができ、好ましくは、脱イオン水又は蒸留水である。
水系媒体の量は、後の凝集処理で均一な凝集粒子を得る観点から、結着樹脂100重量部に対して100〜2,000重量部が好ましく、150〜1,500重量部がより好ましい。得られる乳化粒子液の安定性と取扱い性などの観点から、樹脂乳化液の固形分濃度は、好ましくは7〜50重量%、より好ましくは7〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%になるように水系媒体の量を選定する。なお、固形分には結着樹脂、界面活性剤などの不揮発性成分が含まれる。
【0032】
また、この際の温度は、微細な樹脂粒子分散液を調製する観点から、結着樹脂のガラス転移点以上かつ軟化点以下の範囲が好ましい。乳化を前記範囲の温度で行うことにより、乳化がスムーズに行われ、また加熱に特別の装置を必要としない。この点から、上記温度は、結着樹脂のガラス転移点+10℃以上であることが好ましく、また、軟化点−5℃以下であることが好ましい。
【0033】
水系媒体中で、結着樹脂を乳化して樹脂乳化液を得る他の方法としては、例えば、まず、目的とする樹脂粒子原料として重縮合性単量体を水系媒体中に例えば機械的シェアや超音波などにより乳化分散させる方法が挙げられる。この際、必要に応じて、重縮合触媒、界面活性剤などの添加剤も水溶性媒体に添加する。そして、この溶液に対して例えば加熱などを施すことで、重縮合を進行させる。例えば、結着樹脂がポリエステルである場合は、前述のポリエステルの重縮合性単量体、重縮合触媒が使用でき、界面活性剤としては前述のものが同様に使用できる。
通常、重縮合樹脂は重合時に脱水を伴うために原理的に水系媒体中では反応は進行しない。しかしながら、例えば、水系媒体中にミセルを形成せしめるような界面活性剤とともに重縮合性単量体を水系媒体中に乳化せしめた場合、単量体がミセル中のミクロな疎水場に置かれることによって、脱水作用が生じ、生成した水はミセル外の水系媒体中に排出せしめ重合を進行させることができる。このようにして、低エネルギーで、水系媒体に重縮合樹脂粒子が乳化した分散液が得られる。
【0034】
[樹脂粒子分散液]
本発明は、また、上記樹脂粒子分散液の製造方法により得られる樹脂粒子分散液に関し、その製造方法については、前述の通りである。
本発明の製造方法により得られた樹脂粒子分散液の固形分濃度は、乳化液の安定性及び後で実施される凝集工程での樹脂粒子分散液の取扱い性の観点から、7〜50重量%が好ましく、7〜45重量%がより好ましく、10〜40重量%がさらに好ましい。
【0035】
また、O/W型の乳化液を形成した後の樹脂粒子分散液における樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、トナーを作製する際の凝集工程での均一な凝集を行うために、好ましくは0.02〜2μm、より好ましくは0.05〜1μm、さらに好ましくは0.05〜0.6μmである。粒度分布は、同様の観点から、CV値(粒度分布の標準偏差/体積中位粒径(D50)×100)で60以下が好ましく、45以下がより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
樹脂粒子中の樹脂の重量平均分子量は、樹脂の耐加水分解性、トナーの耐久性及び定着性の観点から、5,000〜150,000であることが好ましく、10,000〜120,000であることがより好ましい。
【0036】
以下、本発明の樹脂粒子分散液を用いた電子写真用トナーについて説明する。
[電子写真用トナー]
以上のようにして得られた樹脂粒子分散液中の樹脂粒子を凝集させ(以下、凝集工程という)、さらに合一させる(以下、合一工程という)ことにより電子写真用トナーを得ることができる。
【0037】
凝集工程
凝集工程においては、凝集を効果的に行うために凝集剤を添加する。本発明においては、凝集剤として、有機系では、4級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等、無機系では、無機金属塩、無機アンモニウム塩、2価以上の金属錯体等が用いられる。無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等の金属塩、及びポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム等の無機金属塩重合体が挙げられる。無機アンモニウム塩としては、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0038】
上記凝集剤のうち、高精度のトナーの粒径制御及びシャープな粒度分布を達成する観点から、1価の塩を用いることが好ましい。ここで1価の塩とは、該塩を構成する金属イオン又は陽イオンの価数が1であることを意味する。1価の塩としては、4級塩のカチオン性界面活性剤等の有機系凝集剤、無機金属塩、アンモニウム塩等の無機系凝集剤が用いられるが、本発明においては、分子量350以下の水溶性含窒素化合物が好ましく用いられる。
【0039】
分子量350以下の水溶性含窒素化合物としては、例えば、ハロゲン化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、サリチル酸アンモニウム等のアンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウムハライド等の4級アンモニウム塩等が挙げられるが、生産性の点から、硫酸アンモニウム(10重量%水溶液の25℃でのpH値、以下pH値という:5.4)、塩化アンモニウム(pH値:4.6)、臭化テトラエチルアンモニウム(pH値:5.6)、臭化テトラブチルアンモニウム(pH値:5.8)が好ましく挙げられる。
【0040】
凝集剤の使用量は、トナーの帯電性、特に高温高湿環境の帯電特性、すなわち画質安定性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、40重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましい。また、凝集性の観点から、結着樹脂100重量部に対して1重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、5重量部以上が更に好ましい。以上の点を考慮して、1価の塩の使用量は、結着樹脂100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、3〜40重量部がより好ましく、5〜30重量部が更に好ましい。
【0041】
前記凝集剤の添加は、系内のpHを調整した後で、結着樹脂のガラス転移点+20℃以下の温度、好ましくはガラス転移点+10℃以下、より好ましくはガラス転移点+5℃未満の温度で行う。上記温度で行うことにより、粒度分布が狭く、均一な凝集を行うことができる。また、上記添加は、結着樹脂の軟化点−100℃以上で行うことが好ましく、軟化点−90℃以上で行うことがより好ましい。その際の系内のpHは、混合液の分散安定性と樹脂粒子の凝集性とを両立させる観点から、2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、3〜7がさらに好ましい。
【0042】
同様の観点から、凝集工程における系内の温度は、結着樹脂の軟化点−50℃以上、軟化点−10℃以下が好ましく、軟化点−30℃以上、軟化点−10℃以下がより好ましい。
凝集剤は水系媒体溶液にして添加することができる。凝集剤は一時に添加しても良いし、断続的あるいは連続的に添加してもよい。さらに、1価の塩の添加時及び添加終了後には十分な攪拌をすることが好ましい。
【0043】
このようにして、樹脂粒子分散液中の樹脂粒子を凝集させることにより、凝集粒子を調製する。
この凝集粒子は、小粒径化の観点から、その体積中位粒径(D50)が1〜10μm、より好ましくは2〜9μm、更に好ましくは2〜5μmの範囲にあることが好ましい。また粒度分布の変動係数(CV値)が30以下であることが好ましく、より好ましくは28以下、さらに好ましくは25以下である。
【0044】
本発明においては、樹脂粒子を凝集させた後に、界面活性剤を添加することが好ましく、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することがさらに好ましい。
アルキルエーテル硫酸塩としては、前記式(1)で表わされるものと同様のものが好ましく用いられる。
【0045】
また、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、特に制限はないが、凝集粒子への吸着性およびトナーへの残留性の観点から、式(2)で表わされるものが好ましい。
2−Ph−SO32 (2)
式中、R2は直鎖のアルキル基を示し、式(1)のR1のうち直鎖のものと同じである。Phはフェニル基、M2は1価のカチオンである。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、硫酸ナトリウム塩が好適に用いられる。
上記界面活性剤の添加量は、凝集停止性およびトナーへの残留性の観点から、凝集粒子を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜8重量部である。
【0046】
本発明においては、離型剤等の流出を防止する、あるいはカラートナーにおいて、各色間の帯電量を同レベルにする等の観点から、凝集時に、本発明の樹脂粒子分散液に含有される樹脂粒子(以下、「本発明の樹脂粒子」ということがある)に、他の樹脂微粒子を一時に又は複数回分割して添加することができる。また逆に本発明の樹脂粒子を他の樹脂微粒子に対して一時に又は複数回に分割して添加して凝集させることもできる。
本発明の樹脂粒子に添加される他の樹脂微粒子としては特に制限はなく、例えば本発明の樹脂粒子と同様にして調製したものを用いることができる。
【0047】
本発明においては、他の樹脂微粒子は、本発明の樹脂粒子と同じものであってもよく、異なるものであってもよいが、トナーの低温定着性や保存性の観点から、好ましくは本発明の樹脂粒子とは異なる樹脂粒子を後から一時に又は複数回に分割して添加を行う。
この工程においては、上記他の樹脂微粒子を、本発明の樹脂粒子分散液に前述のように凝集剤を添加して得られた凝集粒子と混合させてもよい。
本発明においては、上記他の樹脂微粒子の添加時期は、特に制限はないが、生産性の観点から凝集剤の添加終了後、後述の合一工程までの間であることが好ましい。
【0048】
この工程においては、本発明の樹脂粒子を、上記他の樹脂微粒子に凝集剤を添加して得られた凝集粒子と混合させてもよい。
本発明の樹脂粒子と他の樹脂微粒子の配合比(本発明の樹脂粒子/他の樹脂微粒子)は、トナーの低温定着性と耐熱保存性を両立の観点から、重量比で0.1〜2.0であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5であり、更に好ましくは0.3〜1.0である。
得られた凝集粒子は、これを合一させる工程(合一工程)に供される。
【0049】
合一工程
合一工程は、凝集工程で得られた凝集粒子を合一させる工程である。
本発明においては、前記凝集工程で得られた凝集粒子を加熱して合一させる。合一工程においては、系内の温度は凝集工程の系内の温度と同じかそれ以上であることが好ましいが,目的とするトナーの粒径、粒度分布、形状制御、及び粒子の融着性の観点から、結着樹脂のガラス転移点以上が好ましく、軟化点+20℃以下がより好ましく、ガラス転移点+5℃以上で軟化点+15℃以下がより好ましく、ガラス転移点+10℃以上で軟化点+10℃以下が更に好ましい。また、攪拌速度は凝集粒子が沈降しない速度であることが好ましい。
【0050】
本発明において、合一工程は、例えば昇温を連続的に行うことにより、あるいは凝集かつ合一が可能な温度まで昇温後、その温度で攪拌を続けることにより、凝集工程と同時に行うこともできる。
高画質化の観点から、合一粒子の体積中位粒径(D50)は2〜10μmであることが好ましく、2〜8μmであることがより好ましく、2〜7μmであることがより好ましく、3〜8μmであることが更に好ましい。
【0051】
得られた合一粒子は、ろ過などの固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程を経て、トナー粒子となる。ここで、トナーとして十分な帯電特性及び信頼性を確保する目的から、洗浄工程においてトナー表面の金属イオンを除去するため酸で洗浄を行うことが好ましい。また、添加した非イオン性界面活性剤も洗浄により完全に除去することが好ましく、非イオン性界面活性剤の曇点以下での水系溶液での洗浄が好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
【0052】
また、乾燥工程では、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等、任意の方法を採用することができる。トナー粒子の乾燥後の水分含量は、トナーの帯電性の観点から、好ましくは1.5重量%以下、さらには1.0重量%以下に調整することが好ましい。
【0053】
電子写真用トナー
本発明の電子写真用トナーは、本発明の樹脂粒子分散液の製造方法により得られる樹脂粒子分散液から得られるものであり、上述のようにして得られた合一粒子(トナー粒子)を含むものである。
また、高画質化と生産性の観点から、トナー粒子の体積中位粒径(D50)は1〜10μmが好ましく、2〜8μmがより好ましく、3〜7μmがさらに好ましい。粒度分布は、同様の観点から、CV値は25以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がさらに好ましい。
【0054】
また、トナーの軟化点は、低温定着性の観点から、60〜140℃であることが好ましく、より好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは60〜120℃である。また、ガラス転移点は、耐久性の観点から、30〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。
【0055】
本発明のトナーは、トナー粒子をトナーとして、あるいは、トナー粒子に外添剤として流動化剤等の助剤をトナー粒子表面に添加処理したものをトナーとして使用することができる。外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、カーボンブラック等の無機微粒子やポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂等のポリマー微粒子等、公知の微粒子が使用できる。
外添剤の配合量は、外添剤による処理前のトナー粒子100重量部に対して、1〜5重量部が好ましく、1.5〜3.5重量部がより好ましい。ただし、外添剤として疎水性シリカを用いる場合は、外添剤による処理前のトナー粒子100重量部に対して、疎水性シリカを1〜3重量部用いることが好ましい。
【0056】
本発明により得られる電子写真用トナーは、一成分系現像剤として、又はキャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。
【実施例】
【0057】
各性状値は以下の方法により測定、評価した。
[樹脂の酸価]
JIS K0070に従って測定する。但し、測定溶媒は、エタノールとエーテルの混合溶媒を、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に代えて行った。
[樹脂及びトナーの軟化点及びガラス転移点]
(1)軟化点
フローテスター(島津製作所、「CFT−500D」)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのブランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0058】
(2)ガラス転移点
示差走査熱量計(Parkin Elmer社製 「Pyris 6 DSC)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料を昇温速度10℃/分で測定する。軟化点より20℃以上低い温度でピークが観測される場合にはそのピークの温度を、また軟化点より20℃以上低い温度でピークが観測されずに段差が観測されるときは該段差部分の曲線の最大傾斜を示す接線と該段差の高温側のベースラインの延長線との交点の温度を、ガラス転移点として読み取る。
【0059】
[乳化粒子の粒径及び粒度分布]
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機(堀場製作所製、LA−920)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度を適正範囲になる温度で体積中位粒径(D50)を測定する。また、CV値は下記の式に従って算出した。
CV値=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100
【0060】
[トナーの粒径]
・測定機:コールターマルチサイザーIII(ベックマンコールター社製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:マルチサイザーIIIバージョン3.51(ベックマンコールター社製)
・電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
・分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)を5重量%濃度となるように前記電解液に溶解させて分散液を得る。
・分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を作製する。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0061】
[樹脂分散液の固形分濃度]
赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所:FD−230)を用いて、乳化液5gを乾燥温度150℃,測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)にて、ウェットベースの水分%を測定する。固形分濃度は下記の式に従って算出した。
固形分濃度(%)=100−M
M:ウェットベース水分(%)=[(W−W0)/W]×100
W:測定前の試料重量(初期試料重量)
W0:測定後の試料重量(絶対乾燥重量)
【0062】
製造例1(ポリエステルaの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン17,150g、ポリオキシエチレン(2.0)−2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン29,575g、テレフタル酸21,381g及びジブチル錫オキサイド15gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で攪拌し、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が110℃に達するまで反応させて、ポリエステルaを得た。ポリエステルaの軟化点は111℃、ガラス転移点は68℃、酸価は5.0mgKOH/gであった。得られたポリエステルa 1kgを開口径5.6mmの篩いでふるったところ、篩い上には何も残らなかった。
【0063】
製造例2(ポリエステルbの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン17,500g、ポリオキシエチレン(2.0)−2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン16,250g、テレフタル酸11,454g、ドデセニルコハク酸無水物1,608g、トリメリット酸無水物4,800g及びジブチル錫オキサイド15gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、220℃で攪拌し、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が120℃に達するまで反応させて、ポリエステルbを得た。ポリエステルbの軟化点は121℃、ガラス転移点は65℃、酸価は21mgKOH/gであった。得られたポリエステルb 1kgを開口径5.6mmの篩いでふるったところ、篩い上には何も残らなかった。
【0064】
製造例3(ポリエステルcの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン8,320g、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン80g、テレフタル酸1,592g及びジブチル錫オキサイド(エステル化触媒)32gを窒素雰囲気下、常圧(101.3kPa)下230℃で5時間反応させ、更に減圧(8.3kPa)下で反応させた。210℃に冷却し、フマル酸1,672g、ハイドロキノン8gを加え、5時間反応させた後に、更に減圧下で反応させて、ポリエステルcを得た。ポリエステルcの軟化点は110℃、ガラス転移点は66℃、酸価は24mgKOH/gであった。得られたポリエステルc 1kgを開口径5.6mmの篩いでふるったところ、篩の上には何も残らなかった。
【0065】
製造例4(ポリエステルdの製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン34,090g、フマル酸5,800g及びジブチル錫オキサイド(エステル化触媒)15gを窒素雰囲気下、常圧(101.3kPa)下230℃で攪拌し、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が100℃に達するまで反応させて、ポリエステルdを得た。ポリエステルdの軟化点は98℃、ガラス転移点は56℃、酸価は22mgKOH/gであった。得られたポリエステルd 1kgを開口径5.6mmの篩いでふるったところ、篩の上には何も残らなかった。
【0066】
実施例1
2リットル容のステンレス釜で、ポリエステルa 390.0g、ポリエステルb 210.0g、銅フタロシアニン顔料(ECB−301:大日精化工業社製)、及び、アニオン性界面活性剤「エマールE27C(花王社製)」ポリオキシエチレン(2mol)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(固形分:27重量%)22.2g、非イオン性界面活性剤「エマルゲン 430(花王社製)」ポリオキシエチレン(26mol)オレイルエーテル(HLB:16.2)6.0g、及び5重量%水酸化カリウム水溶液292.8gをカイ型の攪拌機で200r/minの攪拌下、95℃で分散させた。カイ型の攪拌機で200r/minの攪拌下で2時間保持した。続いて、カイ型の攪拌機で200r/minの攪拌下、脱イオン水を6g/minで滴下した。また、系の温度は95℃に保持した。冷却後、200メッシュ(目開き:105μm)の金網を通して、微粒化した樹脂乳化液1を得た。得られた樹脂乳化液1中の樹脂粒子の体積中位粒径は0.260μm、CV値は25、固形分濃度は31重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0067】
実施例2
実施例1において、ポリエステルbをポリエステルcに代えた以外は同様にして樹脂乳化液2を調製した。得られた樹脂乳化液2中の樹脂粒子の体積中位粒径は0.220μm、CV値は26、固形分濃度は31重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0068】
実施例3
実施例1において、ポリエステルbをポリエステルdに代え、ポリエステルaを300g、ポリエステルbを300g使用し、アニオン性界面活性剤「エマールE27C(花王社製)」ポリオキシエチレン(2mol)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムに代えて、「エマール20C(花王社製)」ポリオキシエチレン(3mol)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムに代えたこと以外は同様にして樹脂乳化液3を調製した。得られた樹脂乳化液3中の樹脂粒子の体積中位粒径は0.351μm、CV値は31、固形分濃度は30重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0069】
比較例1
実施例1において、ポリエステルaとポリエステルbの混合をポリエステルa単独600.0gに代えた以外は同様にして樹脂乳化液を調製しようとしたが、乳化ができなかった。
【0070】
比較例2
実施例1において、アニオン性界面活性剤「エマールE27C(花王社製)」ポリオキシエチレン(2mol)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムに代えて、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えた以外は同様にして樹脂乳化液を調製しようとしたが、乳化ができなかった。
【0071】
比較例3
実施例1において、ポリエステルaとポリエステルbの混合をポリエステルc単独600.0gに代えた以外は同様にして樹脂乳化液4を調製した。得られた樹脂乳化液4中の樹脂粒子の体積中位粒径は0.186μm、CV値は28、固形分濃度は31重量%であった。
実施例1〜3及び比較例1〜3について、その詳細を表1にまとめて示す。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例4
樹脂乳化液1 400gを2リットル容の容器で室温下混合した。次に、カイ型の攪拌機で100r/minの攪拌下、この混合物に凝集剤として硫酸アンモニウム(分子量:132.14)6.30gを104gの脱イオン水に溶解して水溶液(pH:6.1、0.25mmol/L)にしたものを室温で15分かけて滴下した。その後、混合分散液を1℃/5minで昇熱し凝集粒子を形成させ、85℃になった時点で85℃に固定して1.5時間攪拌したのち加熱をとめた。
室温まで除冷し、吸引ろ過工程、洗浄工程及び乾燥工程を経て着色樹脂粒子粉末(トナー粒子)を得た。トナー粒子の体積中位粒径(D50)は4.9μmであった。
このトナー粒子100重量部に対して1.0重量部の疎水性シリカ(ワッカーケミー社製、「TS530」、1次個数平均粒子径:8nm)をヘンシェルミキサーを用いて外添し、シアントナーAとした。得られたトナーAでは、市販のフルカラープリンタにより良好な画像が得られた。なお、得られたトナーAの軟化点は107℃、ガラス転移点は61℃であった。
【0074】
実施例5、6及び比較例4
樹脂乳化液1を表2に示すように代えた以外は、実施例4と同様にして実施例5、6及び比較例4を行い、シアントナーB(実施例5)、シアントナーC(実施例6)及びシアントナーD(比較例4)をそれぞれ得た。
得られたトナーBの体積中位粒径(D50)は4.8μm、軟化点は106℃、ガラス転移点は60℃であり、トナーCの体積中位粒径(D50)は4.9μm、軟化点は107℃、ガラス転移点は62℃であり、トナーDの体積中位粒径(D50)は5.1μm、軟化点は104℃、ガラス転移点は60℃であった。
【0075】
上記得られた各トナーについて、20℃、50%RH(通常環境)及び20℃、85%RH(高湿環境)の各々の条件下で12時間保存した後に以下のように画像濃度試験及びカブリ試験を行い、画質安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0076】
[印字画像濃度試験]
上質紙(富士ゼロックス社製、J紙A4サイズ)に市販のプリンタ(OKI製、「ML5400」)を用いて画像を出力し、J紙を30枚敷いた上に該画像を置き、測色計(Gretag−Macbeth社製、「SpectroEye」)を用いて、光射条件が標準光源D50、観察視野2°、濃度基準DIN NB、及び絶対白基準とした際の反射画像濃度を測定した。
【0077】
[トナーカブリ試験]
無地の画像を上記プリンタを用いて上記J紙に印字し、A4の半分まで転写した時点でマシンを停止させ、転写前の感光体表面に透明なメンディングテープ(3M製:SCOTCHメンディングテープ810-3-18)を貼付け、感光体表面のカブリトナーを採取する。
未使用のJ紙上にリファレンスのメンディングテープと、カブリトナーを採取したメンディングテープを貼付し、それをJ紙30枚の上に置き、測色計(Gretag−Macbeth社製、「SpectroEye」) を用いて、光射条件が標準光源D50、観察視野2°にてリファレンスのメンディングテープの白色度を白色基準とし、CIE L*a*b*を測色する。その後、カブリトナーを採取したメンディングテープのCIE L*a*b*を測色し、リファレンスとの色差ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2を求め、その値を感光体カブリとする。ΔEは値が小さいほどカブリが少なく良好であることを示す。
【0078】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の樹脂粒子分散液の製造方法を用いたトナーは、高湿度下の帯電安定性すなわち、画質安定に優れていることから、電子写真用トナーとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体中で、酸価1〜10mgKOH/gのポリエステルAと、酸価が10〜40mgKOH/gのポリエステルBとを含有する結着樹脂を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及び非イオン性界面活性剤存在下で、塩基性化合物で中和する工程を有する樹脂粒子分散液の製造方法であって、前記結着樹脂がポリエステルAを30〜90重量%含有し、かつポリエステルBの酸価がポリエステルAの酸価より9〜30mgKOH/g高い、樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
ポリエステルAとポリエステルBとを含有する結着樹脂の酸価が5〜35mgKOH/gである、請求項1記載の樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
ポリエステルAとポリエステルBがいずれも非晶質ポリエステルである、請求項1又は2に記載の樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩のアルキル基の炭素数が10〜20であり、かつエチレンオキシドの平均付加モル数が1〜50である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂粒子分散液中の樹脂粒子を凝集及び合一して得られる電子写真用トナー。

【公開番号】特開2009−256419(P2009−256419A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104920(P2008−104920)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】