説明

樹脂組成物、樹脂付き銅箔及びそれを用いた積層体

【課題】高周波領域での誘電損失が小さく、しかもデバイスを小さくするための大きな誘電率を有し且つ誘電率の温度変化の小さい積層体を与える樹脂組成物及び樹脂付き銅箔、ならびにその樹脂付き銅箔を積層してなる積層体を提供する。
【解決手段】シクロオレフィンポリマー、架橋剤、及び高誘電フィラーを含む樹脂組成物であって、前記高誘電フィラーは、組成が一般式:(Li)x(Nd)1-x TiOで表される酸化物を含有し、前記xは0.1〜0.9であることを特徴とする樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の材料として用いられる、シクロオレフィンポリマーを含む樹脂組成物、樹脂付き銅箔、積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会を迎え、情報伝送は、高速化、高周波化の傾向にある。一方、移動無線、衛星放送等のニューメディアの分野では機器の小型化が進められており、誘電体共振器等のマイクロ波用回路素子に対しても小型化が求められている。一般的にマイクロ波用回路素子の大きさは、使用されるプリント配線板の誘電率が大きいほど小型化する傾向にある。情報伝送の高速化等の要求と機器の小型化の要求とを満足させるために、適正なプリント配線板の材料を選択することが重要な課題となっている。
【0003】
シクロオレフィンポリマーは、高周波領域における電気特性が優れているため、通信機器用途の高周波用プリント配線板の材料として注目されている。
例えば、ノルボルネン系モノマー、メタセシス開環重合触媒、ジ―t−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物を含む重合性組成物をガラスクロスに含浸させた後に重合してプリプレグを製造し、次いで得られたプリプレグを積層し、両側から銅箔で挟み、加圧加熱硬化して積層板を得る技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ノルボルネン系モノマー、ルテニウム系重合触媒、ジ―t−ブチルペルオキシドなどの過酸化物及び多量のチタン酸バリウム等の充填剤を含む重合性組成物をガラスクロスに含浸させ重合してプリプレグを製造し、次いで得られたプリプレグを3枚積層し、両側から銅箔で挟み、加圧加熱硬化して積層板を得る技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】国際公開2004/003052号パンフレット
【特許文献2】国際公開2005/012427号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1によって開示された技術によって得られる積層体の1GHzにおける誘電率は3.5、誘電正接は0.0022である。このように誘電率が小さいため、高周波のセラミックスデバイス周辺で用いるにはデバイスを大きくする必要がある。さらに、誘電率の温度変化がセラミックスデバイスよりも大きい等の問題もあった。
一方、特許文献2によって開示された技術においては、ここで得られる積層体の1GHzにおける誘電率は10〜27であり、誘電損失も優れているが、高周波のセラミックスデバイス周辺で用いる場合には、誘電率の温度変化がセラミックスデバイスよりも大きいという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決し、高周波領域での誘電損失が小さく、しかもデバイスを小さくするための大きな誘電率を有し且つ誘電率の温度変化の小さい積層体を与える樹脂組成物及び樹脂付き銅箔、ならびにその樹脂付き銅箔を積層してなる積層体を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、シクロオレフィンポリマー、架橋剤を含む樹脂組成物に一般式(Li)x(Nd)1-x TiO3で表される高誘電フィラーを配合して銅箔表面に塗布することにより、誘電損失が小さく、誘電率が充分に大きく且つ誘電率の温度変化の小さい積層体及び樹脂付き銅箔が容易に得られることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。かくして本発明によれば、シクロオレフィンポリマー、架橋剤、及び高誘電フィラーを含む樹脂組成物であって、前記高誘電フィラーは、組成が(Li)x(Nd)1-x TiOで表される酸化物を含有し、前記xは0.1〜0.9であることを特徴とする樹脂組成物が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、樹脂組成物を銅箔上に塗布することにより樹脂付き銅箔が提供される。また、本発明によれば、樹脂付き銅箔を、樹脂付き銅箔同士で、または他材料と積層した後に硬化してなる積層体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高周波領域での誘電損失が小さく、しかもデバイスを小さくするための大きな誘電率を有し且つ誘電率の温度変化の小さい積層体を与える樹脂付き銅箔を提供できる。また、本発明の積層体は、高周波領域での誘電損失が小さく、しかもデバイスを小さくするための大きな誘電率を有し且つ誘電率の温度変化の小さいため、通信機器用途等のマイクロ波またはミリ波等の高周波回路基板に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。説明は、実施形態の各構成を述べた後、この実施形態に係る実施例について説明する。なお、本発明は、特許請求の範囲の記載された趣旨を逸脱しないで適宜構成することができ、以下に記載する実施形態もしくは実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0011】
(高誘電フィラー)
本実施形態の樹脂組成物は、シクロオレフィンポリマー、架橋剤を含む樹脂組成物に前記高誘電フィラーとして一般式:(Li)x(Nd)1-x TiOで表される酸化物を分散させることによって得られる。
本実施形態に使用される高誘電フィラーの一般式(Li)x(Nd)1-x TiOで表されるXの値は、通常0.1〜0.9、好ましくは0.3〜0.7、より好ましくは0.4〜0.6の範囲である。
これらの高誘電フィラーの配合量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、通常50〜500重量部、好ましくは150〜450重量部、より好ましくは250〜400重量部の範囲であり、この範囲にあるときに積層体の誘電損失、誘電率、誘電率の温度変化が高度にバランスされ好適である。
【0012】
(シクロオレフィンポリマー)
本実施形態に使用されるシクロオレフィンポリマーとは、シクロオレフィンモノマーを重合することで得られる重合体である。
【0013】
(シクロオレフィンモノマー)
本実施形態に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマーおよび単環シクロオレフィンなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーとしては、格別な限定はないが、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、及びこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)、並びにエポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基などの極性基を有する誘導体などが挙げられる。
単環シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
重合に用いられる触媒としては、シクロオレフィンモノマーを重合できるものであれば格別な限定はないが、通常はメタセシス重合触媒が用いられる。メタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合できるものであり、通常遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。
【0015】
本実施形態においては、重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウムカルベン錯体を用いると、得られる積層体の外観と機械強度を高度にバランスでき好適である。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリンやイミダゾリジン構造が好ましく、かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0016】
好ましいルテニウムカルベン錯体の例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ環構造を有する化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0017】
これらの重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0018】
重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0019】
シクロオレフィンモノマーの重合は、連鎖移動剤の存在下で行うことが好ましい。連鎖移動剤としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。その具体例としては、例えば、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ジビニルベンゼン、スチルベンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸1−メチル−3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどが挙げられる。
【0020】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その添加量は、シクロオレフィンモノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。連鎖移動剤の添加量がこの範囲であるときに、重合反応率が高く、しかも硬化可能な樹脂組成物を効率よく得ることができる。
シクロオレフィンモノマーを重合する方法は特に限定されず、溶液重合および塊状重合のいずれでもよい。溶液重合に用いられる溶媒としては、上記重合触媒を溶解または懸濁できる溶媒として例示したものをいずれも用いることができる。
【0021】
(架橋剤)
本実施形態で使用される架橋剤としては、シクロオレフィンポリマーを硬化できるものであれば格別な制限はないが、通常、通常ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0022】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α′−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナートt−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド類およびペルオキシケタール類;などが挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
【0023】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4′−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4′−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
本実施形態に使用される架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分半減期温度は、硬化の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0024】
(樹脂組成物)
本実施形態に使用される樹脂組成物は、上記シクロオレフィンポリマー、架橋剤および高誘電フィラーを必須成分として、必要に応じて、エラストマー材料、老化防止剤、その他の充填剤、その他の添加剤を配合することができる。
本実施形態に使用される樹脂組成物は、エラストマー材料を加えることにより機械強度を低下させることなく格段に耐衝撃強度を向上させることができ好適である。エラストマー材料としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらのエラストマー材料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部の範囲である。
【0025】
本実施形態に使用される樹脂組成物は、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を添加することにより、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。
【0026】
フェノール系老化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)]、6−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
【0027】
アミン系老化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−3,5−ジ−tブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸−ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などが挙げられる。
【0028】
リン系老化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)などが挙げられる。
【0029】
イオウ系老化防止剤は、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどを挙げられる。
【0030】
これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0031】
本実施形態に使用される樹脂組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、シクロオレフィンポリマー、架橋剤、高誘電フィラー及びその他の成分を機械的に混合する方法、シクロオレフィンポリマーを溶媒に溶解した溶液中に架橋剤、高誘電フィラー及びその他の成分を添加、攪拌することによって調製する方法、シクロオレフィンモノマーに架橋剤、高誘電フィラーおよびその他の成分を配合してなる重合性組成物を重合させる方法などがある。
【0032】
本実施形態に使用される重合性組成物は、上記シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を必須成分として、必要に応じて、連鎖移動剤、重合反応遅延剤、エラストマー材料、老化防止剤、酸化物フィラー、その他の充填剤及びその他の添加剤を配合することができる。
【0033】
(樹脂付き銅箔)
本実施形態の樹脂付き銅箔は、前記樹脂組成物を銅箔表面に塗布して得られるものである。銅箔の厚さは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜50μm、好ましくは3〜30μmの範囲である。
樹脂組成物の銅箔表面への塗布は、例えば、樹脂組成物の所定量を溶媒に溶解または分散してなる分散液を、銅箔表面に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧させた後、塗布されたものを所定温度に加熱して樹脂組成物を乾燥させることにより、シート状又はフィルム状の樹脂付き銅箔が得られる。また、上記の重合性組成物を銅箔表面に塗布し、次いで塊状重合する方法も挙げられる。
【0034】
上記いずれの方法においても、塗布は、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により行うことができる。樹脂組成物を乾燥させるための加熱温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であり、また、架橋剤としてラジカル発生剤を用いる場合は、通常、前記ラジカル発生剤の1分半減期温度以下、好ましくは1分半減期温度より10℃以上低い温度、より好ましくは1分半減期温度より20℃低い温度である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。乾燥時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。重合性組成物を重合させるための加熱温度および時間は、上記乾燥の温度および時間と同様である。
【0035】
本実施形態の樹脂付き銅箔の厚さは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。この範囲であるときに、積層時の賦形性、また硬化して得られる積層体の機械強度や靭性の特性が充分に発揮され好適である。
【0036】
(積層体)
本実施形態の積層体は、上記樹脂付き銅箔を、同じ樹脂付き銅箔同士または他材料と積層して、必要に応じて賦形した後に、硬化することで製造することができる。
積層してもよい他材料としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば、熱可塑性樹脂材料、金属材料などが挙げられ、特に金属材料が好適に用いられる。金属材料としては、回路基板で一般に用いられるものを格別な制限なく用いることができ、通常金属箔、好ましくは銅箔が用いられる。金属材料の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜50μm、好ましくは3〜30μm、より好ましくは5〜20μm、最も好ましくは5〜15μmの範囲である。
【0037】
積層及び硬化させる方法は、常法に従えよく、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、架橋剤による架橋の起こる温度であり、通常架橋剤の1分半減期温度以上、好ましくは1分半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分半減期温度より10℃以上高い温度である。通常は、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。プレス圧力としては、通常0.1〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。また、熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0038】
かくして得られる本実施形態の積層体は、高周波領域での伝送ロスが少なく、デバイスを小さくすることができ、誘電特性も安定しているので、高周波基板材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本実施形態に係る実施例について、従来技術である比較例と比較しつつ説明する。比較は、誘電正接、誘電率、誘電率の温度変化の3つの特性について実施しており、下記の方法に従い測定、評価した。ここで、Aは要求を満足するものであり、Bは要求に届かないものとしている。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
(1)誘電正接:インピダンスアナライザーを用いて1GHzにおける誘電損失(tanδ)を測定し、下記基準で判断した。
A:0.005未満
B:0.005以上
(2)誘電率:インピダンスアナライザーを用いて1GHzにおける誘電率(ε)を測定し、下記基準で判断した。
A:8以上
B:未満
(3)誘電率の温度変化:−20〜100℃の間における誘電率の変化を測定し、下記基準で判断した。
A:200ppm未満
B:200ppm以上
【0040】
(実施例1)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン100部に、連鎖移動剤としてメタクリル酸ウンデセニル(東京化成社製)0.34部、助触媒および安定剤としてジイソプロピルエーテル0.06部、トリイソブチルアルミニウム0.04部、及びイソブチルアルコール0.015部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、シクロオレフィンモノマーとしてジシクロペンタジエン(DCP)100部、ならびにメタセシス触媒として六塩化タングステンの1.0%トルエン溶液15部を、反応器の温度を55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加し、重合を行った。
【0041】
得られた溶液に、酸化防止剤として2,6−ジ−t−タブチルヒドロキシトルエン0.056部、有機過酸化物の架橋剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(化薬アクゾ社製、製品名カヤブチルD)1.14部を加え、溶解させ、高誘電フィラーとしてLi0.5Nd0.5TiO3を400部投入して攪拌機で攪拌してワニスを得た。
ついで、得られた樹脂組成物を銅箔(TypeGTS、厚み35μm、シランカップリング剤表面処理品、古河サーキットフォイル社製)のマット面に塗布させ、これを120℃で5分間で乾燥を行い、厚さ0.20mmの樹脂付き銅箔を得た。
次に、作製した樹脂付き銅箔の樹脂側の面に上記と同じ銅箔を重ね、200℃で10分間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体を得た。得られた積層体の誘電正接、誘電率、誘電率温度変化は、表1に示すように要求を全て満足するものであった。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2)
重合方法として塊状重合を用いる以外は実施例1と同様に行って積層体を得た。各特性は、表1に示すように要求を全て満足するものであった。調製方法を以下に示す。
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、ジシクロペンタジエン(DCP)100部、連鎖移動剤としてアリルメタクリレート0.74部、架橋剤として−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)を1.2部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1.0部、高誘電フィラーとしてLi0.5Nd0.5TiO3を400部を加えて混合したモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mlの割合で加えて撹拌して重合性組成物を調製した。
【0044】
ついで、得られた重合性組成物を銅箔のマット面に塗布させ、これを145℃で1分間で重合反応を行い、厚さ0.20mmの樹脂付き銅箔を得た。
(実施例3)
高誘電フィラーとしてLi0.4Nd0.6TiO3を用いる以外は実施例1と同様に行って積層体を得た。各特性は、表1に示すように要求を全て満足するものであった。
(実施例4)
高誘電フィラーの充填量を450部とする用いる以外は実施例1と同様に行って積層体を得た。各特性は、表1に示すように要求を全て満足するものであった。
(比較例1)
高誘電フィラーとしてチタン酸カルシウム250部を用いる以外は実施例1と同様に行って積層体を得た。各特性は、表1に示すように「誘電率温度変化」の要求基準を満足せず、誘電率の温度変化が実施例と比べて大きいものとなった。
(比較例2)
高誘電フィラーとしてチタン酸バリウム500部を用いる以外は比較例1と同様に行って積層体を得た。各特性は、表1に示すように「誘電正接」および「誘電率温度変化」の要求基準を満足せず、エネルギの損失および誘電率の温度変化が実施例と比べて大きいものとなった。
(比較例3)
高誘電フィラーとしてチタン酸バリウム250部を用いる以外は比較例1と同様に行って積層体を得た。各特性は、表1に示すように評価した3つの特性すべてに対して要求基準を満足せず、実施例と比べて、エネルギの損失および誘電率の温度変化は大きく、誘電率は低いものとなった。
【0045】
以上、実施例を挙げて、本発明に係る実施形態について説明したが、明細書に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンポリマー、架橋剤、及び高誘電フィラーを含む樹脂組成物であって、
前記高誘電フィラーは、組成が一般式:(Li)x(Nd)1-x TiOで表される酸化物を含有し、
前記xは0.1〜0.9であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記高誘電フィラーの含有量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、50〜500重量部であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
表面に樹脂が塗布された銅箔であって、
前記樹脂は、請求項1または請求項2に記載された樹脂組成物であることを特徴とする樹脂付き銅箔。
【請求項4】
複数の薄板状の材料を積層し、硬化させて形成する積層体であって、
前記薄板状の材料は、少なくとも請求項3に記載された前記樹脂付き銅箔を含むことを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2009−275092(P2009−275092A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126697(P2008−126697)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】