説明

樹脂組成物およびその用途

【課題】 カーボンナノファイバーの分散性に優れ、樹脂物性を損なわないカーボンナノファイバー含有樹脂組成物とその成形品を提供する。
【手段】 DBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有することを特徴とし、好ましくは、圧密体の体積抵抗値1.0Ωcm以下、直径5〜100nmおよびアスペクト比10以上、BET比表面積400m2/g以下のカーボンナノファイバーを含有し、その含有量が熱可塑性樹脂100重量部に対して該ファイバーの表面積換算値として2000m2以下である導電性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバーを含有する樹脂組成物、およびその成形品に関する。より詳しくは、カーボンナノファイバーの分散性に優れたカーボンナノファイバー含有樹脂組成物とその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に導電性フィラーを含有させた導電性樹脂組成物が知られている。この導電性フィラーとして、従来、カーボンブラックなどの炭素粉末や炭素繊維、これらを混合したものなどが使用されている(特許文献1、2)。また、最近、炭素粉末や炭素繊維に代えてカーボンナノチューブを用いたものや、炭素繊維と共にカーボンナノチューブを配合した導電性樹脂組成物が知られている(特許文献3、4)。
【0003】
一般に、炭素質の材料は無処理のものは樹脂に対して馴染み難く、樹脂中の分散性が低いので、導電性フィラーとして用いるカーボンブラックなどの炭素粉末は、表面処理を施したり、表面構造を変質させて樹脂に対する親和性を高めたものが用いられている。具体的には、例えば、特許文献1には、平均繊維長120〜350μmの炭素繊維と共に、ジブチルフタレート吸油量(DBP給油量:以下単に吸油量と云う場合がある)が200ml/100g以上のカーボンブラックをポリアセタール樹脂に配合した導電性樹脂組成物が記載されている。また、特許文献2には、炭素粒子を炭素繊維表面に付着させた導電フィラーを含有する樹脂組成物が記載されており、具体例として、平均繊維長60±20μmの炭素繊維表面にDBP給油量150ml/100g以上のカーボンブラック等が付着したものが開示されている。
【0004】
一方、炭素繊維およびカーボンナノチューブについてはDBP給油量を指標とした検討はなされておらず、例えば、特許文献1では炭素繊維については特に制限されず炭素質ないし黒鉛質等であれば良いとしており、特許文献2では炭素繊維の繊維長と繊維径、および炭素粉末のDBP給油量について限定しているが、炭素繊維のDBP給油量については検討されていない。特許文献3、4においても、カーボンナノチューブの形状、構造、配合量等について検討されているが、DBP給油量を指標とした樹脂中の分散性については考慮されていない。
【特許文献1】特許第3177606号公報
【特許文献2】特開2004−225003号公報
【特許文献3】特開2004−182842号公報
【特許文献4】特開2002−97375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンナノチューブを樹脂に含有させた樹脂組成物においては、樹脂中のカーボンナノチューブの分散性が組成物の物性に大きな影響を与える。例えば、従来のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、カーボンナノチューブの含有量が多くなると樹脂の物性を損ない、樹脂組成物の伸長性が大幅に低下して紡糸不能になる。さらに、導電性が不均一になり、温度湿度に対する比抵抗の変化も大きい。また、混練性や成形性が低い。
【0006】
本発明は、従来のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物における上記問題を解決したものであり、カーボンナノファイバーの分散性に優れ、高導電性を有し、かつ導電性が均一であり、温湿度変化に対して安定した比抵抗値を示し、なおかつ十分な樹脂強度と伸長性などの樹脂物性を損なわず、混練性および成形性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の樹脂組成物およびその用途が提供される。
(1)DBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(2)DBP吸油量150ml/100g以上であって圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下であるカーボンナノファイバーを含有する上記(1)の導電性樹脂組成物。
(3)DBP吸油量150ml/100g以上であって、直径5〜100nmおよびアスペクト比10以上、BET比表面積400m2/g以下であるカーボンナノファイバーを含有する上記(1)または(2)の樹脂組成物。
(4)熱可塑性樹脂100重量部に対するカーボンナノファイバーの含有量が、該ファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)として2000m2以下である上記(1)〜(3)の何れかに記載する樹脂組成物。
(5)DBP吸油量が150ml/100g以上であって圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下のカーボンナノファイバーと共に、体積抵抗値100Ωcm以下の導電性粉末を含有する上記(1〜(4)の何れかに記載する導電性樹脂
(6)上記(1)〜(5)の何れかに記載する樹脂組成物によって形成された導電性シート、導電性糸、導電性コーテング材、導電性塗膜、導電性成形品などの導電性材料、または機械的強度を高めた高強度樹脂材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボンナノファイバーを含有する樹脂組成物は、カーボンナノファイバーのDBP吸油量が150ml/100g以上であるので、樹脂に対するカーボンナノファイバーの濡れ性が良く、従って、カーボンナノファイバーが樹脂中で良く分散するので、樹脂本来の物性を損なわずに優れた伸長性などを維持する。従って、比較的多量にカーボンナノファイバーを樹脂に配合しても紡糸することができる。また、非常に薄く、かつ引張強度などの機械的強度に優れた樹脂シートを得ることができる。
【0009】
さらに、本発明の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーが樹脂中で良く分散するので、カーボンナノファイバーの配合量が少なくても、均一な導電性を有し、かつ導電性の高い樹脂組成物を得ることができる。具体的には、例えば、DBP吸油量150ml/100g以上であって圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下のカーボンナノファイバーを樹脂組成物中0.1〜10wt%程度配合することによって、体積抵抗値1.0×10-1〜1.0×1010Ω・cmの導電性樹脂組成物を得ることができる。この導電性は、例えば、上記カーボンナノファイバーと共に、体積抵抗値100Ωcm以下の導電性粉末を含有することによって更に高めることができると共に抵抗値のばらつきを抑制する効果がある。なお、本発明において体積抵抗値は温度25℃、湿度40%、印加電圧100Vにおける値である。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部に対するカーボンナノファイバーの含有量は、該ファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)として2000m2以下が適当であり、例えば、直径5〜100nmおよびアスペクト比10以上、BET比表面積400m2/g以下であるカーボンナノファイバーを用いる場合、上記表面積換算値の含有量を樹脂に配合することによって、優れた導電性と機械的強度を有する導電性樹脂組成物を得ることができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物は導電性シート、導電性糸、導電性コーテング材、導電性塗膜、導電性成形品などの導電性材料、または機械的強度を高めた高強度樹脂材料などに幅広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーを含有する樹脂組成物であって、カーボンナノファイバーのDBP吸油量が150ml/100g以上であることを特徴とするものである。本発明のカーボンナノファイバーとは、例えば直径が数十ナノメータ以下、長さが数百ミクロンメータ以下であるナノサイズの極微細炭素繊維であり、内部が中空構造のカーボンナノチューブに限らず、内部が充填された構造のものを含み、炭素層が単層構造あるいは多層構造の何れの場合も含み、炭素層が螺旋構造に限らず、また炭素層が繊維の軸長方向に伸びた構造に限らず、炭素層が径方向に伸びた構造のものも含む。
【0013】
DBP吸油量は一般にカーボンブラック(炭素粉末)などのストラクチャーを示す指標として用いられており、粉体がDBPを最大限に吸収すると半塑性状態になるので、この吸油量によって粉体の樹脂に対する濡れ性を把握することができる。DBP吸油量が大きいほど樹脂に対する分散性が高い。DBP吸油量はASTMD2424の規格に従って測定することができる。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、DBP吸油量が150ml/100g以上、好ましくはDBP吸油量300ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有するものである。従来のカーボンナノファイバーのDBP吸油量は概ね50ml/100g以下であり、従って、樹脂に配合したときに分散性が劣り、引張強度などの樹脂物性が損なわれる。一方、DBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーは樹脂に対する濡れ性が良く、樹脂に配合したときに凝集せずに良く分散するので、樹脂が本来的に有している物性(高い引張強度や伸長性など)を損なわずに維持することができる。
【0015】
具体的には、比較例に示すように、例えば、従来のDBP吸油量が概ね50ml/100gのカーボンナノファイバーをPET樹脂に3wt%程度配合すると、樹脂組成物の伸長性が低下し、紡糸不能になるが、実施例に示すように、DBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有した本発明の樹脂組成物では、カーボンナノファイバーを6wt%配合しても紡糸することができ、高い伸長性を維持することができる。
【0016】
本発明の樹脂組成物において用いるDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーは、例えば、気相成長法によってカーボンナノファイバーを製造する方法において、一酸化炭素または二酸化炭素と水素の混合ガスを原料として用い、触媒の組合せを調整して反応条件を整えることによって製造することができる。従来のようにハイドロカーボンを原料として用いる方法では、本発明のようなDBP吸油量の高いカーボンナノファイバーを製造するのは難しい。
【0017】
本発明において用いるカーボンナノファイバーは、具体的には、例えば、ファイバーの成長核としてFe、Ni、Co、Mn、Cuの酸化物から選ばれた1種または2種以上と、Mg、Ca、Al、Siの酸化物の1種または2種以上からなる触媒粒子を用い、触媒の組合せを調整し、一定温度範囲で一酸化炭素と水素の混合ガスまたは二酸化炭素と水素の混合ガスを触媒粒子に一定時間供給する方法によって製造することができる。さらに好ましくは、反応後に連続して反応温度と同一温度下で水素ガスで10分間以上処理すると良い。この方法によって、グラフェンシートの微小単位の集合体(非晶質多結晶構造体)からなり、親油性を有し、従ってDBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを得ることができる。
【0018】
本発明において用いるカーボンナノファイバーは、圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下であるものが好ましい。これ以上圧密体の体積抵抗値が大きいものであると、樹脂に分散した状態で充分な導電性が得られない。また、本発明において用いるカーボンナノファイバーは、直径5〜100nmおよびアスペクト比10以上であるものが好ましい。直径5〜100nmであってアスペクト比が10以上であるものは、ナノサイズの極微細な繊維であるので樹脂中に均一に分散しやすく、かつ互いに接触しやすいので、均一な導電性を得るのに都合が良い。
【0019】
また、本発明において用いるカーボンナノファイバーはBET比表面積400m2/gであるものが好ましい。BET比表面積がこれより大きいと樹脂との接触面積が過大になり、樹脂の物性が損なわれ、樹脂自体が本来有する強度や混練時ないし成形時の粘度が高くなり、流動性が失われるので好ましくない。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部に対するカーボンナノファイバーの含有量は、該ファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)として2000m2以下が適当である。本発明の樹脂組成物は、DBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有するので、カーボンナノファイバーの分散性が良く、上記表面積換算値の含有量を樹脂に配合することによって、優れた導電性と機械的強度を有する導電性樹脂組成物を得ることができる。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、DBP吸油量が150ml/100g以上であって圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下のカーボンナノファイバーと共に導電性粉末を含有させることによって更に導電性を高めることができる。導電性粉末は体積抵抗値100Ωcm以下のものが好ましい。
【0022】
本発明の樹脂組成物において用いる樹脂としては、PET、PC、PP、PE、ABS、ナイロンなどの樹脂が適当である。上記樹脂にDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを配合することによって、優れた導電性ないし機械的特性を有する樹脂組成物を得ることができる。具体的には、本発明の樹脂組成物によって導電性シート、導電性糸、導電性コーテング材、導電性塗膜、導電性成形品などの導電性に優れた導電性材料を得ることができ、また機械的強度を高めた高強度樹脂材料を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を実施例によって具体的に示す。
〔実施例1〜6〕
表1に示す物性を有するカーボンナノファイバーを用い、表1に示す配合量に従って樹脂に配合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を溶融紡糸法によって紡糸した。この糸の太さ、単糸太さ、体積抵抗値、表面状態、強度、伸長度を表1に示した。
〔比較例1、2〕
カーボンナノファイバーを配合しない例を基準例として示した。また、カーボンナノファイバーに代えて炭素粉末(カーボンブラック:三菱化学社製品)を用いた例を比較例1、DBP吸油量が50ml/100gのカーボンナノファイバーを用いたものを比較例2として示した。
【0024】
表1に示すように、本発明の実施例1〜6の導電糸は、体積抵抗が小さく、優れた導電性を有している。また、表面状態が良好であり、強度および伸長度が樹脂本来の値に比べて大きく異ならず、樹脂特性を損なうことがない。一方、比較例1は紡糸可能であるが、体積抵抗値が大きく、導電性に劣り、また比較例2は紡糸不能であった。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
DBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
DBP吸油量150ml/100g以上であって圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下であるカーボンナノファイバーを含有する請求項1の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
DBP吸油量150ml/100g以上であって、直径5〜100nmおよびアスペクト比10以上、BET比表面積400m2/g以下であるカーボンナノファイバーを含有する請求項1または2の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂100重量部に対するカーボンナノファイバーの含有量が、該ファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)として2000m2以下である請求項1〜3の何れかに記載する樹脂組成物。
【請求項5】
DBP吸油量が150ml/100g以上であって圧密体の体積抵抗値が1.0Ωcm以下のカーボンナノファイバーと共に、体積抵抗値100Ωcm以下の導電性粉末を含有する請求項1〜4の何れかに記載する導電性樹脂
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載する樹脂組成物によって形成された導電性シート、導電性糸、導電性コーテング材、導電性塗膜、導電性成形品などの導電性材料、または機械的強度を高めた高強度樹脂材料。


【公開番号】特開2006−152131(P2006−152131A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345422(P2004−345422)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】