説明

樹脂組成物およびその用途

【課題】耐水性、耐湿性、耐候性に優れた樹脂組成物、および、かかる樹脂組成物を用いた、耐水性、耐質性、耐候性に優れ、印刷時のインクにじみが少なく、光沢性に優れたインクジェット記録用媒体、および耐水接着性に優れた接着剤を提供すること。
【解決手段】側鎖に1,2−ジオール成分を含有するポリビニルアルコール系樹脂(A)およびジルコニウム化合物(B)を含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖に1,2−ジオール成分を含有するポリビニルアルコール系樹脂(A)とジルコニウム化合物(B)を含有する樹脂組成物およびその用途に関し、更に詳しくは、耐水性、耐湿性、耐候性に優れた樹脂組成物、および該樹脂組成物を用い、上述の特性に加えて、印刷時のにじみが少なく、光沢性に優れたインクジェット記録用媒体や、耐水接着性に優れた接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する)は、その優れた水溶性、界面特性、皮膜特性(造膜性、強度、耐油性等)、等を利用して、分散剤、乳化剤、懸濁剤、繊維加工剤、紙加工剤、バインダー、接着剤、フィルム等に広く用いられている。さらに、各種用途に求められる機能に応じて、様々な官能基を導入した変性PVAが開発されている。特に耐水性の改善はPVA系樹脂にとって最大の課題であり、これまでも数多くの検討がなされている。
【0003】
かかる課題の有力な解決策のひとつとして、変性PVAに導入された官能基を架橋剤によって架橋させる方法が挙げられ、各種変性PVA系樹脂と架橋剤との組み合せからなる樹脂組成物、およびその用途として、かかる耐水性が改善された樹脂組成物をインク受容層あるいは光沢層に用いたインクジェット記録用媒体が提案されている。
【0004】
例えば、本出願人も、アセト酢酸エステル基含有PVAおよび炭酸ジルコニウムアンモニウムを含有し、かつpHが4.0(20℃)未満に調整された水溶液から得られた薄膜状物(例えば、特許文献1参照。)や、アセト酢酸エステル基含有PVAと特定構造のチタン化合物を含有する樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物をインク受理層および/または保護層に含有するインクジェット記録用媒体(例えば、特許文献2参照。)、アセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂、多価ヒドラジド化合物、無機酸、および無機質粉体を含有する樹脂組成物を支持基材上に塗工してなるインクジェット記録用媒体(例えば、特許文献3参照。)、側鎖にアルデヒド基を有するPVA系樹脂と活性水素含有官能基を有する水溶性樹脂を含有する樹脂組成物およびかかる樹脂組成物を支持基材中または支持機材表面に有するインクジェット記録用媒体(例えば、特許文献4参照。)、などを提案している。
【0005】
【特許文献1】特開2003−220762号公報
【特許文献2】特開2003−221482号公報
【特許文献3】特開2004−230609号公報
【特許文献4】特開2004−143309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の樹脂組成物およびかかる樹脂組成物を用いたインクジェット記録用媒体は、アセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂のアセト酢酸エステル基同士、あるいは系に存在するカルボニル化合物とアセト酢酸エステル基が反応してヒドロキシカルボニル化合物が生成、さらに脱水反応がおこり、カルボニル基と二重結合による共役系が形成されやすく、これが経時および高湿度下での着色の原因となる場合があり、耐候性および耐湿性の点で課題が残るものであった。
また、特許文献1および3に記載の樹脂組成物は、その水溶液のpHを4未満に調整、あるいは無機酸の併用が必要であり、特許文献2に記載の樹脂組成物も、より好ましい実施態様として、その水溶液のpHを6以下に調整することで耐水性が向上するとの記載があり、いずれも作業工程が煩雑になったり、製造装置の耐酸性に配慮する必要があるという課題があった。
【0007】
また、特許文献3に記載の樹脂組成物をシリカ等の無機微粒子のバインダーとして用い、これをインク受容層としたインクジェット記録用媒体は、表面強度に優れるのものであるが、近年、画像の精細性を向上させるためにインクの吐出量が増加する傾向にあり、その場合、印刷時のインクにじみの点でさらなる改良の余地があるものであった。
また、特許文献4に記載の樹脂組成物およびインクジェット記録用媒体は、耐水性に優れ、耐変色性についても特許文献1〜3に記載のアセト酢酸エステル基含有PVAと比較して改善されているが、高湿度下のようなより過酷な条件下では変色する場合があり、さらなる改良の余地があるものであった。
【0008】
すなわち、耐水性に優れ、高湿度下あるいは長期間放置による変色がない、耐湿性および耐候性に優れたPVA系樹脂組成物、さらに、印刷時のにじみが少なく、光沢性に優れたインクジェット記録用媒体や、耐水接着性にすぐれた接着剤に好適なPVA系樹脂組成物が望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、側鎖に1,2−ジオール成分を含有するPVA系樹脂(A)およびジルコニウム化合物(B)を含有してなることを特徴とする樹脂組成物が、上記目的に合致することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、側鎖に1,2−ジオール成分を有するPVA系樹脂を用い、これに架橋剤としてジルコニウム化合物を組み合わせたことを最大の特徴とするものであり、かかる側鎖の1,2−ジオール部分とジルコニウムのキレート形成による架橋構造形成によって、本発明特有の効果である耐水性や耐湿性、耐水接着性などが得られたものである。
なお、かかる側鎖に1,2−ジオール成分を含有するPVA系樹脂(A)は、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を含有するPVA系樹脂であることが好ましい。
【化1】


[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す]
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、耐水性に優れ、高湿度下および長期間放置による変色がなく、さらに、支持基材上にかかる樹脂組成物を含有する層を有するインクジェット記録用紙は、印刷時のにじみが少なく、また、かかる樹脂組成物を含有する接着剤は耐水接着性に優れることから、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明で用いられるPVA系樹脂は、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂であり、一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
【化2】

【0013】
なお、かかるPVA系樹脂の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量は、0.3〜20モル%程度であることが好ましく、残る部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ケン化度相当量のビニルアルコール構造単位とそれ以外の酢酸ビニル構造単位からなる。
【0014】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR1〜R3、及びR4〜R6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基で置換されていてもよく、その有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0015】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは代表的には単結合であるが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、あるいは−CH2OCH2−が好ましい。
【0016】
本発明で用いられるPVA系樹脂の製造法は、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法が好適に用いられる。
【化3】


[式中、R1、R2、及びR3、はそれぞれ独立して水素または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)を示す]
【0017】
また、(i)以外の製造法として、
(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、
【化4】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法を用いてもよい。
【化5】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0018】
なお、本発明で用いられるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
以下、かかる(i)、(ii)、及び(iii)の方法について説明する。
【0019】
[(i)の方法]
(i)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(2)で示される化合物とを共重合したのちケン化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
かかる上記一般式(2)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9は、アルキル基、好ましくはメチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基またはオクチル基であり、かかるアルキル基は共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲で、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい)である。
【0020】
式(2)で示される化合物としては、具体的にXが単結合である3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH2OCH2−あるいは−OCH2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、などが挙げられる。
【0021】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取り扱いにおいて優れるという点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素、Xが単結合、R7、R8がR9−CO−でありR9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、そのなかでも特にR9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。なお、酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1―ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701、であり、これは後述のビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0022】
なお、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、工業生産用ではイーストマンケミカル社、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。また、1,4―ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することも出来る。
【0023】
かかるビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物とを共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用されるが、一般式(2)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位がポリビニルエステル系ポリマーの分子鎖中に均一に分布させられる点から滴下重合が好ましく、特には前述の酢酸ビニルとの反応性比を用いたHANNA法に基づく重合方法が好ましい。
【0024】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜3(重量比)程度の範囲から選択される。
【0025】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、コモノマーの種類や触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して0.01〜0.7モル%が好ましく、特には0.02〜0.5モル%が好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃〜沸点程度で行われ、より具体的には、35〜150℃、好ましくは40〜75℃の範囲で行われる。
【0026】
得られた共重合体は次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては上記で得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0027】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び式(4)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位の合計量1モルに対して0.1〜30ミリモル、好ましくは2〜17ミリモルの割合が適当である。
また、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10〜60℃が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0028】
[(ii)の方法]
(ii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(3)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱炭酸して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(3)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられる。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素で、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0029】
ビニルエステル系モノマーと一般式(3)で示される化合物とを共重合及びケン化するに当たっては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱炭酸については、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することで1,2−ジオール構造に変換される。
また、一定圧力下(常圧〜1×107Pa)で且つ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、かかる場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
【0030】
[(iii)の方法]
(iii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱ケタール化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(4)で示される化合物において、R1〜R3、R4〜R6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R10、R11はそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、該アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。かかるアルキル基は共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6が水素で、R10、R11がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適である。
【0031】
ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合及びケン化するに当たっては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱ケタール化については、ケン化反応がアルカリ触媒を用いて行われる場合は、ケン化後、更に酸触媒を用いて水系溶媒(水、水/アセトン、水/メタノール等の低級アルコール混合溶媒等)中で脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。その場合の酸触媒としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等が挙げられる。
また、ケン化反応が酸触媒を用いて行われる場合は、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。
【0032】
また、本発明に用いるPVA系樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲において各種不飽和モノマーを共重合したものを用いることができる。かかる不飽和モノマーの導入量としては、一概にはいえないが、導入量が多すぎると水溶性が損なわれたり、ガスバリアー性が低下することがあるため、好ましくない。
かかる不飽和モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、アセトアセチル基含有モノマー等が挙げられる。
【0033】
更に、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等も挙げられる。
又、重合温度を100℃以上にすることにより、PVA主鎖中に1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度導入したものを使用することが可能である。
【0034】
かくして得られるPVA系樹脂(A)のケン化度は、70〜99.9モル%(さらには75〜99.5モル%、特には80〜99.0モル%)であることが必要で、かかるケン化度が70モル%未満では水溶性が乏しくなり、99.9モル%を超えるものは製造が困難となるため好ましくない。尚、本発明でのケン化度は3,4−ジアシロキシ−1−ブテン由来の様な変性基部分と、酢酸ビニル等のビニルエステルの総計(モル)に対する水酸基のモル数と定義する。
【0035】
本発明のPVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は150〜4000(さらには300〜2800、特には500〜2500)のものが好ましく、かかる平均重合度が150未満では耐水性が不充分となったり、後述するインクジェット記録用媒体用途において、無機微粒子とともに支持基材上に塗工層を形成した際に、バインダー力が不充分となったり、また、接着剤用途においては、耐水接着性が不充分となる場合があり、4000を超えるものは、1,2−ジオール成分を多く導入することが困難になる場合があったり、水溶液とした場合の粘度が高くなりすぎたりして、取り扱いが困難になる場合があるため、好ましくない。
【0036】
本発明のPVA系樹脂の側鎖に存在する1,2−ジオール成分の含有量は、0.5〜20モル%(さらには1.0〜15モル%、特には1.5〜10モル%)のものが好ましく、かかる含有量が0.5モル%未満では耐水性が不十分となったり、後述するインクジェット記録用媒体用途において、ジルコニウム化合物(B)や無機微粒子とともに支持基材上に塗工層を形成した際に、耐水性やバインダー力が不充分となったり、また、接着剤用途においては、耐水接着性が不充分となる場合があり、20モル%を超えるものは、PVA系樹脂の製造時に重合度が低くなったり、結晶性が低下することで耐水性が低くなりすぎるため、好ましくない。
【0037】
なお、PVA系樹脂に1,2−ジオール成分を導入する手段としては、本発明のような共重合によって側鎖に導入する方法と、前述のように重合を高温で行い、頭−頭結合の割合を増やすことで主鎖に導入する方法が挙げられるが、主鎖の1,2−ジオール成分では本発明の効果は得られず、またその導入量に限界があり、3モル%以上の導入は事実上不可能である。一方、本発明の側鎖に1,2−ジオール成分を有するPVA系樹脂は、1,2−ジオール成分の含有量を上述の範囲内で任意に制御することが可能である。
【0038】
また、本発明で使用されるPVA系樹脂は、異なる他のPVA系樹脂との混合物であってもよく、かかる他のPVA系樹脂としては、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、他の共重合成分が異なるものなどを挙げることができる。
【0039】
次に、本発明で用いられるジルコニウム化合物(B)について説明する。
かかるジルコニウム化合物(B)としては、無機酸や有機酸の単塩および複塩、有機金属化合物、金属錯体、酸化化合物(ジルコニル化合物)などのいずれであってもよく、具体例としては、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ジルコニウム酸、ジルコニウム酸塩、塩化ジルコニル(第一希元素化学社製「ジルコゾールZC」)、塩基性塩化ジルコニル(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールZC−2」)、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル(第一希元素化学社製「ジルコゾールZN」)、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールAC−7」)、炭酸ジルコニウムカリウム(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールZK−10」)、酢酸ジルコニル、ステアリン酸ジルコニル、オクチル酸ジルコニル、クエン酸ジルコニル、乳酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニル、リン酸ジルコニル、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(松本製薬工業社製「オルガチックスZC−150」)、ジルコニウムモノアセチルアセトネート(松本製薬工業社製「オルガチックスZC−540」)、ジルコニウムビスアセチルアセトネート(松本製薬工業社製「オルガチックスZC−550」)、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート(松本製薬工業社製「オルガチックスZC−560」)、ジルコニウムアセテート(松本製薬工業社製「オルガチックスZC−115」)、などが挙げられる。
これらのジルコニウム化合物の中でも、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、酢酸ジルコニル、塩基性塩化ジルコニル、酸塩化ジルコニル、硝酸ジルコニルなどが好ましく、特に、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩基性塩化ジルコニルが本願発明の目的を顕著に発揮できる点で好適に用いられる。
【0040】
本発明は、上述の側鎖に1,2−ジオール成分を含有するPVA系樹脂(A)とジルコニウム化合物(B)を含有してなるPVA系樹脂組成物であり、該PVA系樹脂(A)およびジルコニウム化合物(B)の配合割合(A/B)(重量比)は特に限定されないが、100/0.5〜100/50、さらには100/1〜100/30、特には100/2〜100/20であることが好ましい。かかる含有割合(A/B)が上記範囲外では耐水性が不充分となったり、後述するインクジェット記録用媒体用途において、無機微粒子とともに支持基材上に塗工層を形成した際に、バインダー力が不充分となったり、また、接着剤用途においては、耐水接着性が不充分となる場合があるため好ましくない。
【0041】
また、PVA系樹脂(A)中の1,2−ジオール成分に対するジルコニウム化合物(B)中のジルコニウム原子の割合は、0.1〜500モル%、さらには1〜300モル%。特には5〜150モル%であることが好ましい。かかる配合割合が上記範囲外であると、インクジェット記録用媒体においては耐水性が不足したり、接着剤用途においては耐水接着性が不足する場合があるため好ましくない。
【0042】
なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲において、界面活性剤、消泡剤、離型剤、浸透剤、防腐剤、防虫剤、防錆剤、増粘剤、染料、顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤等の公知の添加剤や、本発明で用いられる樹脂以外の樹脂を添加することも可能である。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、従来公知のPVA系樹脂組成物の各種用途に適用可能であり、例えば、各種被膜を形成させるための塗工液、繊維、フィルム、シート、パイプ、分離膜ハイドロゲルなどの各種成形品、インクジェット記録用媒体を含む各種印刷紙用の紙加工剤、繊維用糊剤、接着剤、エマルジョン用添加剤、エマルジョン重合用乳化安定剤、懸濁重合用分散剤、顔料分散剤、各種バインダー、感光性樹脂、セメントやモルタルなどの添加剤など種々の用途に有効に用いることができる。特に、支持基材上に該樹脂組成物を塗工して得られたインクジェット記録用媒体は、耐水性に優れ、高湿度下や長期保管による変色がなく、印刷時のインクにじみが少ない点で極めて有用であり、また、かかる樹脂組成物を含有する接着剤は、耐水性接着性に優れる点で極めて有用である。以下、かかる用途について説明する。
【0044】
本発明のインクジェット記録用媒体は、上述の樹脂組成物を支持基材上に有してなるもので、より具体的には上述のPVA系樹脂(A)とジルコニウム化合物(B)を含有する水性塗工液を基材表面に塗工し、乾燥により水分を除去して支持基材上に本発明の樹脂組成物の反応物を含有する塗工層を形成させることにより製造される。
【0045】
なお、塗工層中にさらに無機微粒子(C)を含有させることで、インク吸収量が大きく、吸収速度が早い空隙型インクジェット記録溶媒体が得られ、近年のインクジェット記録用媒体に求められる印刷速度の向上や高精細画像の形成という目的に対して好適である。また、この場合、樹脂組成物には無機微粒子(C)に対するバインダー力が求められるようになり、本発明の樹脂組成物はかかる目的に対しても充分な効果を発揮するものである。
【0046】
かかる無機微粒子(C)としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、非晶質シリカ、気相法シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、ゼオライト、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、などが好ましく用いられ、これらを単独、または2種類以上組み合せて用いることができる。特に、塗工層が光沢層であり、高度の光沢性が必要とされる場合には、コロイダルシリカ、気相法シリカ、アルミナゾルのような無機超微粒子が好適に用いられ、インク受容層のように光沢性よりもインク吸収性が重要である場合には、非晶質シリカが好適に用いられる。
【0047】
かかる無機微粒子(C)が光沢層に好適な無機超微粒子である場合の好ましい平均粒子径は、3〜200nm(さらには3〜100nm、特には10〜50nm)であり、かかる平均粒子径が3nm未満の場合は、光沢層中の無機微粒子による空隙が小さくなりすぎて、印刷時のインクの透過性を阻害し、結果としてインクにじみや画像斑などの原因となる場合があり、逆に200nmを超えると光沢層表面の平滑性が損なわれ、光沢性が低下する場合があるため好ましくない。
【0048】
また、塗工層がインク受容層の場合、かかる無機微粒子(C)の好ましい平均粒子径は、0.1〜50μm(さらには0.3〜30μm、特には0.5〜20μm)であり、かかる平均粒子径が0.1μm未満の場合は、インク受容層中の空隙が小さくなり、インクの吸収性が低下し、にじみや画像斑の原因となる場合があり、逆に50μmを超えるとインク受容層表面の平滑性が低下し、マットタイプの場合には表面のざらつきにより質感が低下し、その上に光沢層を設ける場合にも、光沢層の厚みを厚くしないと光沢性が得られなくなり、結果としてインク吸収性が低下するため、好ましくない。
【0049】
本発明のインクジェット記録用媒体の塗工層中における、PVA系樹脂(A)と無機微粒子(C)の含有割合(A/C)(重量比)は、塗工層が光沢層の場合には100/1000〜100/10(さらには100/400〜100/25、特には100/200〜100/100)であることが好ましい。かかる含有割合(A/C)が100/10を超えると、光沢層中の空隙が減少し、インクの透過性が悪くなり、インクにじみや画像斑の原因になったりする場合があり、逆に100/1000を下回ると、表面の平滑性が損なわれ、光沢の低下を招いたり、光沢層がひび割れたりする場合があるため好ましくない。
【0050】
また、塗工層がインク受容層の場合、PVA系樹脂(A)と無機微粒子(C)の含有割合(A/C)は、100/2000〜100/100(さらには100/1000〜100/200、特には100/1000〜100/300)であることが好ましい。かかる含有割合(A/C)が100/100を超えると空隙の減少によりインクの吸収能が低下して、インクにじみの原因となる場合があり、逆に100/2000を下回ると、無機粒子の脱落や、かかる層の上に光沢層を塗布する際、湿潤状態での表面強度の低下による層はがれが起こる場合があるため、好ましくない。
【0051】
本発明のインクジェット記録用媒体は上記のようなPVA系樹脂(A)とジルコニウム化合物(B)の反応性生物、さらにその目的に応じて無機微粒子(C)を含有するもので、具体的にその製造方法について説明する。
本発明のインクジェット記録用媒体は、その塗工層が光沢層、インク受容層のいずれの場合に対しても適用できる。かかる記録用媒体のインク受容層は、支持基材上にPVA系樹脂(A)、ジルコニウム化合物(B)〔さらには無機微粒子(C)〕を含有する塗工液を塗工して製造され、光沢層は予め塗工されたインク受容層の上に、かかる塗工液を塗工して製造される。
【0052】
該支持基材としては 特に制限されるものではないが、例えば、紙(マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙、剥離紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、グラシン紙など)、樹脂コート紙、合成紙、不織布、布、金属箔、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン、PET、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)等の熱可塑性樹脂からなるフィルムやシートが使用できる。
【0053】
また、かかる塗工液は、上記PVA系樹脂(A)、ジルコニウム化合物(B)〔さらには無機微粒子(C)〕を水を主体とする媒体中に溶解および分散させてなるものであり、これらの成分を媒体中に溶解および分散させる方法は特に限定されないが、通常はPVA系樹脂(A)とジルコニウム化合物(B)を含有する水溶液を調製すればよく、無機微粒子(C)を含有する場合にはかかる水溶液に無機微粒子(C)を分散させる方法や、PVA系樹脂(A)の水溶液に無機微粒子(C)を分散させ、その後、ジルコニウム化合物(B)を添加、混合する方法が用いられ、かかる分散に際しては、高速ホモジナイザーなどの公知の混合装置・方法を使用することができる。
【0054】
支持基材上にインク受容層を設ける方法、およびインク受容層の上に光沢層を設ける方法としては、バーコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、カーテンコーター法などの公知の塗工方法が用いられる。
かかる塗工液中の総固形分は、特に限定されないが、塗工液全体の5〜60重量%(さらには10〜50重量%、特には10〜30重量%)であることが好ましく、かかる総固形分が5重量%未満では乾燥負荷が大きくなると共に、塗工層の厚みの均一性が低下する場合があり、逆に60重量%を超えると、塗工液が高粘度となり、高速での塗工が困難となり、作業性が低下することがあるため好ましくない。
塗工液の塗布量は、インク受容層の場合には、乾燥後の厚みが3〜100μm、(さらには5〜80μm、特には10〜50μm)になるようにするのが好ましく、光沢層の場合には、乾燥後の厚みが1〜20μm、(さらには1〜10μm、特には1〜5μm)になるようにするのが好ましい。
【0055】
かかる塗工液には、他の水溶性または水分散性樹脂を併用することも可能である。併用が可能な水溶性あるいは水分散性樹脂としては、デンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン、などのデンプン誘導体、ゼラチン、カゼイン、などの天然系たんぱく質類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、CMC、などのセルロース誘導体、未変性PVA、カチオン変性PVA、カルボン酸変性PVA、スルホン酸変性PVA、エチレン含量が15モル%以下の低エチレン変性PVA、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物、アセトアセチル変性、ジアセトンアクリルアミド変性などのPVA誘導体、アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸、などの天然高分子多糖類ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩、などの水溶性樹脂、SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル樹脂系エマルジョン、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
また、かかる塗工液にはアニオン性インクの定着剤としてカチオン性樹脂を併用することも可能である。かかるカチオン性樹脂としては、ポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン、などのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム塩を有するアクリル重合体、ポリビニルアミン共重合体、ポリビニルアミジン共重合体、ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重合体、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
塗工後は乾燥すればよく、乾燥条件としては特に制限されないが、通常90〜120℃で1〜30分程度乾燥させればよい。
また、乾燥前の湿潤状態で、あるいは一旦乾燥させた後に再湿潤液で処理し、キャストドラムに圧接して乾燥させることで、表面光沢性・平滑性を付与する方法も、好ましく用いられる。
【0058】
なお、かかる無機微粒子(C)を含有しない、水溶性樹脂自体が膨潤することでインクを吸収する、いわゆる膨潤型のインクジェット記録用媒体の場合においても、かかるPVA系樹脂(A)とジルコニウム化合物(B)を含有する樹脂組成物を用いることで、耐水性、耐湿・耐候性に優れ、インクにじみの少ないインクジェット記録用媒体が得られる。
【0059】
かくして得られた本発明のインクジェット記録用媒体は、塗工層中でPVA系樹脂(A)側鎖の1,2−ジオール部分がジルコニウム化合物(B)と反応し、架橋構造を形成しているため、優れた耐水性、耐湿性が得られ、印刷時のにじみが少ないという特性を有するものである。
【0060】
次に、本発明の接着剤について説明する。
本発明のPVA系樹脂組成物を接着剤に適用するにあたっては、該PVA系樹脂組成物を水溶液にした一般の接着剤の他、再湿接着剤、ホットメルト接着剤、感圧接着剤、2液型接着剤等の各種接着剤に用いることができる。
一般の水溶液状の接着剤用途としては、該PVA系樹脂組成物〔(A)+(B)〕の含有量が1〜30重量%程度で、充填剤、消泡剤(或いは発泡剤)、着色剤等の添加物が配合されて接着剤用途に供される。
【0061】
再湿接着剤として用いる場合には、該PVA系樹脂組成物を水溶液とした後、ガムテープや切手等の基材に塗工して乾燥させるのである。この際、必要に応じてメタノールやエタノール等のアルコール、エチレングリコール,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール,グリセリン等のグリコール類などを添加してもよい。塗工は、グラビアコーター,リバースロールコーター,エアナイフコーター,スプレー等の公知の方法により行うことができる。また、ホットメルトコートすることにより、再湿接着剤層を形成させることも可能である。このときは、上記のPVA系樹脂組成物を100〜250℃程度にて該樹脂を溶融し、そこへ必用に応じて可塑剤(エチレングリコール,プロピレングリコール等の多価アルコールやこれらの高級脂肪酸エステルなど)等の添加剤などを加えて、粘度500〜10000mPa・sとしてロールコーター、ドクターコーター、スプレー等の公知の方法により基材にコーティングすることができる。ホットメルト接着剤についても上記と同様に必用に応じて可塑剤等の添加剤などを加えて公知の方法により基材に塗工して、製本、包装、木工、繊維等の接着に供することができる。
【0062】
感圧接着剤としては、該PVA系樹脂組成物に上記の如き可塑剤や粘着付与剤等を加えて公知の方法により基材に塗工して、ラベルやテープ等の接着に供することができる。
2液型接着剤としては、該PVA系樹脂(A)を含有する水性液からなる主剤(液)と、該ジルコニウム化合物(B)を含有する水性液からなる硬化剤(液)からなるもので、該主剤は、該PVA系樹脂(A)の水溶液あるいは該PVA系樹脂(A)を含有するエマルジョンで、該PVA系樹脂(A)の含有量は2〜50重量%が好ましい。
【0063】
さらには、必要に応じて他のPVA系樹脂(たとえば、低エチレン変性PVA、アセトアセチル化PVA、ジアセトンアクリルアミド変性PVA、部分鹸化PVA、カルボン酸変性PVA、シラノール変性PVA、末端SH変性PVA、カチオン変性PVA、主鎖に1,2ジオールを導入したPVA、アルキレンオキサイド変性PVA、アミン変性PVA 等)や澱粉、ゼラチン等の水溶性高分子、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂、多価金属や多価イソシアネート化合物(たとえば、MDI、TDI等)、アミノ樹脂、グリオキザール等の架橋剤、可塑剤、高沸点溶剤等の造膜助剤、炭酸カルシウムやクレー等の体質顔料、酸化チタン等の有色顔料、防腐剤、防虫剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤などが添加されて上記の主剤となる。また、硬化剤も必要に応じて、上記の化合物以外にアミン類,アルコール類,酸類等の硬化促進剤、レシチンやラノリン等の防錆剤、防腐剤、増粘剤などが添加される。2液型接着剤の使用に当たっては上記の主剤(液)及び硬化剤(液)をそれぞれ被着体に塗布し、次いで塗布面同士を密着させた状態で乾燥させればよい。
【0064】
かくして得られた本発明の接着剤は、被着体上でPVA系樹脂(A)の1,2−ジオール成分とジルコニウム化合物(B)とが反応し、架橋構造を形成することにより、優れた耐水接着性が得られるものである。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、かかる実施例の記載のみに限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0066】
製造例1:PVA系樹脂(A1)
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール
75g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン180g(6モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が78%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して6ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂(A1)を得た。
得られたPVA系樹脂(A1)のケン化度は、残存酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、98.5モル%であり、平均重合度は、JIS K 6726に準して分析を行ったところ、1260であった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は1H−NMRで測定して算出したところ5.9モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【0067】
製造例2:PVA系樹脂(A2)
製造例1において、ケン化の途中でサンプルを抜き取ることによりPVA系樹脂(A2)(部分鹸化物:ケン化度89.2モル%)を得た。
【0068】
製造例3:PVA系樹脂(A3)
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール150g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン360g(12モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が91%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して6ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂(A3)を得た。
得られたPVA系樹脂(A3)のケン化度は、99.6モル%であり、平均重合度は、JIS K 6726に準して分析を行ったところ、720であった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は1H−NMRで測定して算出したところ11.6モル%であった。
【0069】
製造例4:PVA系樹脂(A4)
製造例1において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの配合量を45g(1.5モル%)として得られた共重合体のメタノール溶液を濃度35%に調整して、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液の添加量を、共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合にした以外は、製造例1と同様に重合およびケン化を行い、ケン化度94.0モル%、平均重合度2300、1,2−ジオール構造単位の含有量1.5モル%のPVA系樹脂(A4)を得た。
【0070】
製造例5:PVA系樹脂(A5)
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール
75g、ビニルエチレンカーボネート179g(9モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が74%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して4ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂(A6)を得た。
得られたPVA系樹脂(A6)のケン化度は、73.2モル%であり、平均重合度は、 890であった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は8.9モル%であった。
【0071】
製造例6:PVA系樹脂(A6)
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール
150g、グリセリンモノアリルエーテル138g(6モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が83%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度55%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して6ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂(A5)を得た。
得られたPVA系樹脂(A5)のケン化度は、98.2モル%であり、平均重合度は、 450であった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は5.8モル%であった。
【0072】
製造例7:PVA系樹脂(A7)
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール
150g、2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン17.8g(0.8モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.1モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が92%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して6ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。かかるケン化物を3Nの塩酸(水/メタノール=1/1の混合溶媒)中に分散させ、60℃で脱ケタール化を行い、生成したPVA系樹脂(A7)を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物を得た。
得られたPVA系樹脂(A7)のケン化度は、97.6モル%であり、平均重合度は、 1210であった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は0.8モル%であった。
【0073】
実施例1
PVA系樹脂(A1)100部に炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールAC−7」)8部を含む固形分濃度10%のPVA系樹脂組成物水溶液を調製し、かかる水溶液をPETフィルム上に流して、23℃、50%RHの条件下で48時間放置後、70℃で5分間加熱処理を行って、厚み100μmの樹脂組成物フィルムを作製した。かかるフィルムを用いて、以下の項目を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
<耐水性>
上記で得られたフィルムを80℃の熱水に1時間浸漬して、フィルムの溶出率(%)を測定した。なお、溶出率(%)の算出にあたっては、熱水浸漬前のフィルムの乾燥重量(X1)および熱水浸漬後のフィルムの乾燥重量(X2)(いずれもg)を求め、下式にて溶出率(%)を算出し、以下の基準で評価した。
溶出率(%)=[(X1―X2)/X1]×100
○・・・溶出率が30%未満
×・・・溶出率が30%以上
【0075】
<耐湿性>
上記で得られたフィルムを、40℃、90%RHの恒温恒湿機中に放置した後、色差計(日本電色工業社製「SZ−Σ90」)を用い、透過法にてYI(イエローインデックス)値を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・YI値が2未満
△・・・YI値が2以上、6未満
×・・・YI値が6以上
【0076】
<耐候性>
上記で得られたフィルムを、耐候性試験機(スガ試験機社製「デューサイクル・サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター」)を用い、連続試験(晴れモード)、23℃、50%RHにて150時間放置した後、色差計(日本電色工業社製「SZ−Σ90」)を用い、透過法にてYI(イエローインデックス)値を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・YI値が2未満
△・・・YI値が2以上、6未満
×・・・YI値が6以上
【0077】
実施例2〜7
実施例1において、PVA系樹脂(A1)に替えて、製造例2〜7によるPVA系樹脂(A2〜A7)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物フィルムを得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例8
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)の配合量を1部とした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物フィルムを得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
実施例9
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)に替えて塩基性塩化ジルコニル(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールZC−2」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物フィルムを得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
実施例10
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)に替えて炭酸ジルコニウムカリウム(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールZK−10」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物フィルムを得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
比較例1
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)を用いなかった以外は実施例1と同様にしてフィルムを得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
比較例2
実施例1において、PVA系樹脂(A1)に替えて、ケン化度98.4モル%、平均重合度1300の未変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物フィルムを得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
〔表1〕樹脂組成物の特性

【0084】
実施例11
PVA系樹脂(A1)4.3部を水200部に溶解させたものに、非晶質シリカ(C)〔トクヤマ社製「ファインシールX−45」、平均粒子径4.5μm〕28.7部を分散させながら徐々に加え、これにインク定着剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド〔日東紡社製「PAS−H−5L」、28%水溶液〕15.3部、および、ジルコニウム化合物(B)として塩基性塩化ジルコニル〔第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールZC−2」〕2.9部を加え、ホモジナイザー〔特殊機化工業社製「T.K.ROBOMICS」〕にて5000rpmで10分間撹拌し、固形分15%の塗工液を作製した。
かかる塗工液を、坪量64g/m2の上質紙にクリアランス75μmのアプリケーターで固形分換算で13g/m2となるように塗工し、その後、熱風乾燥機中105℃で10分間乾燥して、インク受容層を形成させてインクジェット記録用媒体(インク受容層)を得た。
得られたインクジェット記録用媒体(インク受容層)を用い、以下の項目について評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
<耐湿性>
上記で得られたフィルムを、40℃、90%RHの恒温恒湿機中に放置した後、色差計(日本電色工業社製「SZ−Σ90」)を用い、反射法にてYI(イエローインデックス)値を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・YI値が2未満
△・・・YI値が2以上、6未満
×・・・YI値が6以上
【0086】
<耐候性>
上記で得られたフィルムを、耐候性試験機(スガ試験機社製「デューサイクル・サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター」)を用い、連続試験(晴れモード)、23℃、50%RHにて150時間放置した後、色差計(日本電色工業社製「SZ−Σ90」)を用い、反射法にてYI(イエローインデックス)値を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・YI値が2未満
△・・・YI値が2以上、6未満
×・・・YI値が6以上
【0087】
<インクにじみ>
インクジェット記録用媒体にエプソン社製インクジェットプリンター「PM−950C」を用い、印字設定を「PM写真用紙・きれい」にして、黄色ベタ印字(2回)したその上に赤色ベタ印字(2回)し、さらにその上に青色でおよそ500μm巾の直線を印字し、重ね印字部分の直線巾(Y1)および白紙部分の直線巾(Y2)(いずれもμm)を測定し、下式にてにじみ量(μm)を算出し、以下の基準で評価した。
にじみ量(μm)=(Y1―Y2)/2
○・・・にじみ量が50μm未満
△・・・にじみ量が50μm以上、100μm未満
×・・・にじみ量が100μm以上
【0088】
実施例12〜17
実施例11において、PVA系樹脂(A1)に替えて、製造例2〜7によるPVA系樹脂(A2〜A7)を用いた以外は実施例11と同様にしてインクジェット記録用媒体(インク受容層)を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0089】
比較例3
実施例11において、塩基性塩化ジルコニル(B)を用いなかった以外は実施例11と同様にしてインクジェット記録用媒体(インク受容層)を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0090】
比較例4
実施例11において、PVA系樹脂(A1)に替えて、ケン化度98.4モル%、平均重合度1300の未変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例11と同様にしてインクジェット記録用媒体(インク受容層)を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
〔表2〕インクジェット記録用媒体(インク受容層)の特性

【0092】
実施例18
PVA系樹脂(A1)15部を水85部に溶解させたものに、カチオン系コロイダルシリカ(有機化処理品)(B)(WRグレース社製「Ludox 4000C」、粒径100nm未満、固形分40%)30部、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールAC−7」)1部を加え、ホモジナイザー(特殊機化工業社製「T.K.ROBOMICS」)にて5000rpmで5分間攪拌し、固形分15%の塗工液を作製した。
かかる水分散液をPETフィルム上に50μmのアプリケーターにて塗工し、105℃の熱風乾燥機中で5分間乾燥させて厚み7.5μmの塗工層を形成してインクジェット記録用媒体(光沢層)を得た。
得られたインクジェット記録用媒体(光沢層)を用い、耐湿性および耐候性については実施例11と同様の方法にて評価を行い、光沢性については以下のとおり評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
<光沢性>
変角光度計(日本電色工業社製「VG−Σ80」)を使用し、インクジェット記録用媒体(光沢層)表面の法線に対して60度の光沢度を測定した。
【0094】
実施例19
実施例18において、カチオン系コロイダルシリカ(有機化処理品)(B)に替えてカチオン系コロイダルシリカ(Al処理品)(B)(WRグレース社製「Ludox 4000l」)を用いた以外は実施例18と同様にしてインクジェット記録用媒体(光沢層)を得て、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0095】
比較例5
実施例18において、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)を用いなかった以外は実施例18と同様にしてインクジェット記録用媒体(光沢層)を得て、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0096】
比較例6
実施例18において、PVA系樹脂(A1)に替えて、ケン化度98.4モル%、平均重合度1300の未変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例18と同様にしてインクジェット記録用媒体(光沢層)を得て、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0097】
〔表3〕インクジェット記録用媒体(光沢層)の特性

【0098】
実施例20
PVA系樹脂(A1)100部、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾールAC−7」)10部を含む固形分濃度10%のPVA系樹脂組成物水溶液を調製し、かかる水溶液を、白ラワン単板の片面に78g/m2の割合で塗布、別の白ラワン単板と張り合わせて10kgの荷重をかけ40℃で24時間、60℃で6時間の乾燥を行った後、沸騰水に5時間浸漬したが、手で力を加えても接着面が剥がれることはなく、良好な耐水性を示した。
【0099】
比較例7
実施例20において、炭酸ジルコニウムアンモニウム(B)を用いなかった以外は実施例20と同様にして白ラワン単板を接着し、同様に評価を行ったところ、沸騰水浸漬中に接着面が剥がれた。
【0100】
比較例8
実施例20において、PVA系樹脂(A1)に替えて、ケン化度98.4モル%、平均重合度1300の未変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例20と同様にして白ラワン単板を接着し、同様に評価を行ったところ、手で力を加えることによって接着面が剥がれた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の樹脂組成物は、耐水性、耐湿性、耐候性に優れ、さらにかかる樹脂組成物を用いたインクジェット記録用媒体は、上述の特性に加え、印刷時のインクにじみが少なく、光沢性に優れており、また、かかる樹脂組成物を用いた接着剤は体制接着性に優れることから、工業的に極めて有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に1,2−ジオール成分を含有するポリビニルアルコール系樹脂(A)およびジルコニウム化合物(B)を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【化1】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物との共重合体をケン化して得られたことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【化2】


[式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)を示す]
【請求項4】
一般式(2)で表される化合物が3,4−ジアシロキシ−1−ブテンであることを特徴とする請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
一般式(2)で表される化合物がグリセリンモノアリルエーテルであることを特徴とする請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ビニルエステル系モノマーと、一般式(3)で表される化合物との共重合体をケン化および脱炭酸して得られたことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【化3】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項7】
一般式(3)で表される化合物がビニルエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ビニルエステル系モノマーと一般式(4)で表される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタールして得られたことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【化4】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項9】
一般式(4)で表される化合物が2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランであることを特徴とする請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項10】
支持基材上に請求項1〜9いずれか記載の樹脂組成物の反応物を含有する塗工層を有することを特徴とするインクジェット記録用媒体。
【請求項11】
塗工層にさらに無機微粒子(C)を含有することを特徴とする請求項10記載のインクジェット記録用媒体。
【請求項12】
塗工層が光沢層であることを特徴とする請求項10または11記載のインクジェット記録用媒体。
【請求項13】
塗工層がインク受容層であることを特徴とする請求項10または11記載のインクジェット記録用媒体。
【請求項14】
請求項1〜9いずれか記載の樹脂組成物を含有することを特徴とする接着剤。



【公開番号】特開2006−299238(P2006−299238A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70947(P2006−70947)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】