説明

樹脂組成物およびそれを用いた成形物品

【課題】耐熱性を有し、アルデヒド類などの揮発性有機化合物の発生を低減することができ、そのため室内空気汚染や健康への影響を少なくすることができるポリプロピレン含有成形物品およびその製造に用いる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレンを30重量%以上含有する基材樹脂100重量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.5〜10重量部と、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール0.5〜10重量部とを配合した樹脂組成物およびそれを用いた成形物品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を有し、揮発性有機化合物の発生を低減した成形物品およびその製造に用いられる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス症候群に端を発し、建材、内装材、家具などから発生する化学物質による室内空気の汚染と、これらの化学物質による健康への影響が指摘されている。住宅の場合、建材、内装材、家具などに使用された接着剤、塗料などが上記化学物質発生の原因であり、上記化学物質を低減した材料や使用しない材料が積極的に利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
室内空気の汚染や健康への影響が指摘されている化学物質の中には、汎用プラスチックを成形する場合や、その成形品を適当な温度(例えば40℃〜80℃雰囲気)に放置した場合に発生するものがある。接着剤、塗料を使用しない製品で、家電製品用部材や自動車部品用部材に使用されている汎用プラスチックであるポリプロピレンについては、それを成形加工するときに、約200℃〜315℃に加熱溶融される。ポリプロピレンでは、上記加熱溶融時に熱分解反応と空気酸化反応が起こり、熱分解物として、厚生労働省の「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」において、室内濃度指針値が確定しているアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドが発生する。また、成形加工温度を上昇させることで製品の生産性を向上させる場合や、製品に高機能な特性を付与するためにバージンのポリプロピレンに難燃剤等の種々の添加剤を配合した材料を製造し、それを成形加工する場合のように、複数の工程を経た製品については、製品からのアルデヒド類の発生量が増加する傾向がみられる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−177067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、耐熱性を有し、アルデヒド類などの揮発性有機化合物の発生を低減することができ、そのため室内空気汚染や健康への影響を少なくすることができるポリプロピレン含有成形物品およびその製造に用いる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、ポリプロピレンを30重量%以上含有する基材樹脂100重量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.5〜10重量部と、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール0.5〜10重量部とを配合したことを特徴とする樹脂組成物およびそれを用いた成形物品を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、ポリプロピレンを30重量%以上含有する基材樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および特定のビタミンE系酸化防止剤である3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オールを特定量配合したことにより、耐熱性を有し、揮発性有機化合物の発生を低減したポリプロピレン含有成形物品の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につきさらに詳細に説明する。本発明において、基材樹脂に用いる合成樹脂類としては、例えば、ポリエチレン、エチレン・αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、アイオノマー、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーや、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムが挙げられる。上記ポリプロピレンとしては、ポリプロピレン単独重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体の他、特開平6−25367号公報に示されるような多段重合法によって得られる軟質ポリプロピレンなどが挙げられる。また、本発明においては、基材樹脂の合成樹脂類として、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されたハロゲンを含有しない上記合成樹脂類を用いることもできる。
【0009】
本発明では、前述の合成樹脂類や、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されたハロゲンを含有しない合成樹脂類を基材樹脂の構成成分として使用するが、基材樹脂中におけるポリプロピレンの含有量は30重量%以上、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%である。基材樹脂中におけるポリプロピレンの含有量が30重量%未満の場合は、樹脂組成物を成形加工する場合に大きく温度を向上させる必要がなく、熱分解反応と空気酸化反応が起こりにくいことから、アルデヒド類の発生量が抑制される傾向にある。これに対し、ポリプロピレンの含有量が30重量%以上の場合、特に含有量が多い場合は、樹脂組成物の機械特性や耐熱性が良好となる反面、樹脂組成物を成形加工するとき、約200℃〜315℃に加熱溶融させる必要があり、アルデヒド類の発生量が増加する傾向にある。
【0010】
本発明で用いるヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)[商品名イルガノックス1010]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート[商品名イルガノックス1076]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5,−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン[商品名イルガノックス1330]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート[商品名イルガノックス3114]、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン[商品名イルガノックスMD1024]などが挙げられる。
【0011】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、樹脂組成物の長期熱安定性に効果があるため、その添加の有無、添加量は、製品の寿命に大きく影響する。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は、基材樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部、好ましくは1〜8重量部、さらに好ましくは2〜6重量部である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が0.5重量部より少ないと、製品の長期熱安定性、耐熱性向上の効果がみられず、10重量部を超えると、長期熱安定性、耐熱性向上の効果が飽和するだけでなく、製品の表面に析出して、商品価値を低下させるなどの問題が発生することがある。
【0012】
本発明で用いる3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オールは、これを樹脂組成物に添加することにより、アルデヒド類の発生量を低減させることが可能となる。3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オールの添加量は、基材樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部、好ましくは1〜8重量部、さらに好ましくは2〜6重量部である。3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オールの添加量が0.5重量部より少ないと、アルデヒド類の発生量の低減に効果がみられず、10重量部を超えると、液状であるため製品の表面にしみ出す問題が生じる。
【0013】
本発明の樹脂組成物には、易燃性であるポリプロピレンを30重量%以上含有する基材樹脂を難燃化するために、無機水和物を添加することができる。無機水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基あるいは結晶水を有するものが挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機水和物としては、2μm以下の粒子径を有しているもので、凝集が生じにくいものが好ましい。また、樹脂との相溶性が向上する点から、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤や脂肪酸などで表面処理したものがさらに好ましい。樹脂組成物中における無機水和物の添加量は、基材樹脂100重量部に対して、60〜150重量部であり、好ましくは75〜120重量部である。大部分の家電製品用部材や自動車部品用部材には、難燃性が要求され、かつ、近年は、塩素や臭素を含有するハロゲン系難燃剤の使用を規制する動向があることから、本発明の成形物品を上記部材に使用する場合、無機水和物を添加することが適当である。
【0014】
本発明の樹脂組成物には、一般的に使用されている各種の樹脂類、ゴム類や、難燃剤、難燃助剤、上記以外の酸化防止剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、分散剤、架橋助剤、架橋剤、顔料等の各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ適宜配合することができる。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練装置で溶融混練することにより製造することができる。また、本発明の成形物品は、上記樹脂組成物を押出成形装置、射出成形装置、プレス成形装置等によって成形することにより製造することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1〜3、比較例1〜4の樹脂組成物の配合と物性を表1および表2に示した。表1および表2に示す各成分としては、以下のものを使用した。
【0017】
[各成分]
(1)ポリプロピレン(プライムポリマー社製)
(2)スチレン系エラストマー(クレイトンポリマー社製)
(3)エチレン系共重合体(宇部丸善ポリエチレン社製)
(4)変性ポリエチレン(日本ポリエチレン社製)
(5)ヒンダードフェノール系酸化防止剤:ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
(6)ビタミンE系酸化防止剤:3,4−ジ−ヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
(7)水酸化マグネシウム(協和化学社製)
(8)ステアリン酸カルシウム
【0018】
実施例と比較例の樹脂組成物の製造方法、樹脂組成物の耐熱性評価方法、アルデヒド類発生量の測定方法を以下に記す。耐熱性の評価結果、アルデヒド類発生量の測定結果を表1、表2に示す。
【0019】
(実施例1、比較例1、2)
[樹脂組成物の製造方法]
180℃に設定したオープンロールを使用して、(1)ポリプロピレン、(8)ステアリン酸カルシウム、(5)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(6)ビタミンE系酸化防止剤を溶融混練することで、実施例1と比較例1、2の樹脂組成物を得た。
[アルデヒド類発生量の測定方法]
上記樹脂組成物を表面積約80cm(20cm×4cm×0.2cm)のシート状に成形したサンプルについて、下記方法でアルデヒド類の発生量を測定した。
(a)容量10Lのバッグにサンプルを入れて密封し、内部の気体を除去した後、窒素ガスを入れる。
(b)バッグを65℃の熱風式乾燥器に入れて2時間加熱する。
(c)加熱終了後、バッグ内のガスを採取カートリッジに採気し、液体クロマトグラフ分析法(HPLC法)により測定する。
[樹脂組成物の耐熱性評価方法]
樹脂組成物の耐熱性を評価するため、シートを150℃の恒温槽に投入し、24時間後に取り出した後の変色の有無を調査した。変色がみられなかったものを合格(○)、変色がみられたものを不合格(×)とした。
【0020】
(実施例2、3、比較例3、4)
[樹脂組成物の製造方法]
180℃に設定したニーダー(加圧混練機器)を使用して、(1)ポリプロピレン、(2)スチレン系エラストマー、(3)エチレン系共重合体、(4)変性ポリエチレン、(5)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(6)ビタミンE系酸化防止剤、(7)水酸化マグネシウム、(8)ステアリン酸カルシウムを溶融混練することで、実施例2、3と比較例3、4の樹脂組成物を得た。
[アルデヒド類発生量の測定方法]
汎用の電線製造押出機を使用して、導体径約1.0mmφの軟銅撚線上に厚み約0.2mmとなるように上記樹脂組成物を押出被覆することにより、絶縁電線を作製した。絶縁電線を長さ1mに切断し、この切断電線10本を1つのサンプルとして、前記(a)〜(c)の方法でアルデヒド類の発生量を測定した。
[樹脂組成物の耐熱性評価方法]
絶縁電線の耐熱性を評価するため、絶縁電線を150℃の恒温槽に投入し、24時間後に取り出した後、自己径(約1.4mmφ)加熱巻付試験をおこない、クラックが発生しなかったものを合格(○)、クラックが発生して導体が露出したものを不合格(×)とした。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1、表2の結果から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と特定のビタミンE系酸化防止剤とを併用した実施例1〜3の樹脂組成物と成形物品は、アルデヒド類の発生量が低減し、耐熱性を有するものであることがわかる。これに対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤のみを配合した比較例1の樹脂組成物は、耐熱性に優れる反面、アセトアルデヒドが多く発生しており、また、特定のビタミンE系酸化防止剤のみを配合した比較例2の樹脂組成物は、アセトアルデヒドの発生量が低下している反面、耐熱性に問題がある。樹脂成分や難燃剤を追加した場合においても、この傾向は変わらず、比較例3では、アセトアルデヒドの発生量が低下している反面、耐熱性に問題があり、比較例4では、耐熱性に優れる反面、アセトアルデヒドが発生する問題がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを30重量%以上含有する基材樹脂100重量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.5〜10重量部と、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール0.5〜10重量部とを配合したことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記基材樹脂100重量部に対して、無機水和物60〜150重量部を配合したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物により成形したことを特徴とする成形物品。
【請求項4】
導体に直接的または間接的に被覆層として成形したことを特徴とする請求項3に記載の成形物品。

【公開番号】特開2008−222817(P2008−222817A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61672(P2007−61672)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】