説明

樹脂組成物および樹脂成形体

【課題】 耐衝撃性に優れた乳酸系樹脂をベースとする樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 乳酸系樹脂100質量部に対して、植物油脂を1〜20質量部と、少なくとも植物油脂を架橋する架橋剤を0.01〜5質量部配合している。前記植物樹脂としてはひまし油を用いている。成形される樹脂成形体は、アイゾット衝撃強度を5kJ/m以上の耐衝撃性に優れた樹脂成形品としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物原料樹脂をベース成分とし、ゴムような粘弾性を備え、耐衝撃性に優れた樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックはあらゆる産業分野および日用品分野に浸透しており、全世界の年間生産量は約1億トンにも達している。その大半は使用後に廃棄されており、これが地球環境を乱す原因の一つとして認識されてきている。そのため、枯渇性資源の有効活用が近年重要視され、再生可能資源の利用が重要な課題となっている。
現在、その解決策として最も注目されているのが、植物原料プラスチックの利用である。植物原料プラスチックは、非枯渇資源を利用し、プラスチック製造時における枯渇性資源の節約を図ることができるだけでなく、優れたリサイクル性を備えている。
【0003】
植物原料プラスチックの中でも、特に、乳酸系樹脂は澱粉の発酵により得られる乳酸を原料とし、化学工学的に量産可能であり、かつ、透明性、剛性、耐熱性等が優れていることから、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートの代替材料として、フィルム包装材や射出成形分野において注目されている。
しかしながら、乳酸系樹脂は剛性が高いものの、比較的耐衝撃性に弱く脆い材料であり、単独で耐衝撃性が必要とされる分野に使用することは非常に困難である。そこで、ポリ乳酸系樹脂に動植物油を配合することにより、耐衝撃性を向上させる手法が特開平11−116785号公報(特許文献1)等で提案されている。
【0004】
前記特許文献1ではポリ乳酸系樹脂に配合する動植物油として、エポキシ化大豆油が挙げらえているが、単にポリ乳酸系樹脂に配合する動植物油に配合するだけでは、ポリ乳酸系樹脂の軟質化を生じるだけであり、所要の弾性、特に高温時における弾性を付与できず、十分な耐衝撃性の向上効果を得ることは難しい。
【特許文献1】特開平11−116785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、乳酸系樹脂に対して、植物油脂を配合するだけでなく、少なくとも植物油脂を架橋する架橋剤を配合することにより、植物油脂同士を架橋して、ゴムのような粘弾性を付与して、耐衝撃性を高めることを課題としている。
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、第1に、乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、植物油脂(B)を1〜20質量部と、少なくとも植物油脂を架橋する架橋剤(C)0.01〜5質量部とを配合してなる樹脂組成物を提供している。
【0007】
乳酸系樹脂に単に植物油脂を配合しただけで架橋剤が共存しなければ、植物油脂は可塑剤として機能することになり、樹脂組成物の成形体は軟質化して、ガラス転移温度(Tg)が低下する。一方、乳酸系樹脂に植物油脂と架橋剤を配合すると、植物油脂同士および植物油脂と乳酸系樹脂を架橋でき、該植物油脂が高分子量化してゴムのような粘弾性を有するものとなり、樹脂組成物からなる成形体の耐衝撃性を向上させることができる。かつ、該樹脂組成物の成形体は軟質化せず、Tgの低下もほとんど起こらない。
【0008】
本発明では、様々な植物油脂を用いることができるが、なかでも植物油脂(B)として、ひまし油を使用することが好ましい。ひまし油は、安定性、分散性、低温特性、電気特性、色味に優れていることに加えて、乳酸系樹脂に近い屈折率を有する。そのため、透明性をほとんど損なうことなく、乳酸系樹脂の成形体に耐衝撃性を付与することができる。
なお、植物油脂(B)の屈折率が、乳酸系樹脂の屈折率に近く、該乳酸系樹脂の屈折率に対して±5%の範囲のものであると、透明性を維持できる。よって、透明性を必要とする樹脂成形体を設ける場合には、前記植物油脂はひまし油に限定されず、前記範囲の屈折率を有する植物油脂(B)と該植物油脂を互いに架橋する架橋剤を配合してもよい。
【0009】
本発明では、架橋剤(C)として様々な化合物を用いることができるが、好ましい架橋剤としてイソシアネート化合物とカルボジイミド化合物を挙げることができる。
【0010】
イソシアネート化合物は、反応性に優れているため、少量の添加で、植物油脂を効率的に架橋することができる。また、イソシアネート化合物は、乳酸系樹脂と植物油脂との架橋も効率的に進行させる。
カルボジイミド化合物は、反応性に優れているだけでなく、乳酸系樹脂に耐加水分解性を付与することができる。これにより、植物油脂とカルボジイミド化合物とを添加した乳酸系樹脂は、高い耐久性が必要とされる用途にも用いることが可能となる。
【0011】
本発明は、第2に、樹脂組成物からなる樹脂成形体を提供しており、該樹脂成形体は、植物油脂と該植物油脂同士を架橋する架橋剤を配合して粘弾性を持たせているため、JISK−7110に準拠して測定されるアイゾット衝撃強度を5kJ/m以上、より好ましくは8kJ/m以上として、耐衝撃性に優れたものとすることができる。
また、本発明の樹脂組成物は、耐熱性を有するため、射出成形が可能で、所要形状とした射出成形体を製造することができる
成形体の形態は特に限定されないが、例えばフィルム、シート、平面的あるいは立体的形状を有するプレート等が含まれる。優れた耐衝撃性に優れているため家電製品、自動車内装部品または建材等のあらゆる分野で耐熱性が必要とされる用途に用いることができる。
【0012】
本発明の樹脂組成物を前記射出成形に限らず、押出成形等によっても成形しているフィルム、シートまたはプレートを提供している。平均厚さを50〜1000μm程度としたフィルム、シートまたはプレートも優れた耐熱性を有するため、OA機器の絶縁部材等の耐衝撃が必要とされる用途に使用することができる。
なお、フィルムはJIS K 6900における定義では「長さおよび幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるもの」とされている。また、シートは「薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう」とされている。このようにフィルムとシートの区別は明確でないため、本発明ではフィルムとは厚さ200μm未満、シートとは厚さ200μm以上500μm未満のものとして区別し、厚さ500mμm以上1000μm以下の二次元状あるいは三次元状のものはプレートと称する。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、乳酸系樹脂に対して、植物油脂と架橋剤とを配合することにより、植物油脂が架橋され、さらには植物油脂と乳酸系樹脂とが架橋される。植物油脂は、架橋によって高分子量化することにより、ゴム成分として作用するようになる。その結果、本発明の樹脂組成物は、軟質化を伴わずに所要の粘弾性を有するものとなり、耐衝撃性に優れた成形体を設けることができる。
また、本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂を含むことからリサイクル性に備え、かつ、使用後に廃棄しても自然環境に悪影響を及ぼさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の樹脂組成物は、乳酸系樹脂(A)、植物油脂(B)および架橋剤(C)を含み、その配合は、乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、植物油脂(B)が1〜20質量部、架橋剤(C)が0.01〜5質量部である。
以下に前記(A)、(B)、(C)の各成分について詳述する。
【0015】
(乳酸系樹脂)
本発明に用いる乳酸系樹脂(A)は、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸およびD−乳酸である共重合体のポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体を含む。
【0016】
乳酸系樹脂のDL構成(D−乳酸構造とL−乳酸構造とのモル比)は、L−乳酸:D−乳酸=100:0〜90:10、もしくは、L−乳酸:D−乳酸=0:100〜10:90であることが好ましい。かかる範囲外では、乳酸系樹脂の結晶性が低くなり、これを成形した部品は耐熱性が得られにくく、用途が制限されることがある。より好ましくは、L−乳酸:D−乳酸=99.5:0.5〜94:6、もしくは、L−乳酸:D−乳酸=0.5:99.5〜6:94である。
【0017】
異なるDL構成を有する複数の乳酸系樹脂を混合して用いることもできる。その場合、複数の乳酸系樹脂がそれぞれ上記範囲のDL構成を有するか、もしくは全体の平均が上記範囲のDL構成を有することが好ましい。例えばL−乳酸またはD−乳酸のホモポリマーと、L−乳酸とD−乳酸との共重合体とを混合すると、ブリードが発生しにくく、耐熱性のバランスを制御することができる。
【0018】
本発明で好適に用いられる乳酸系樹脂の代表的なものとして、三井化学(株)製「レイシア(商品名)」シリーズ、カーギル・ダウ社製「Nature
Works(商品名)」シリーズ等が挙げられる。
【0019】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知の方法を、いずれも採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物を、直接脱水縮重合して任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
【0020】
また、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用して開環重合させることで、乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがある。開環重合法では、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0021】
さらに、耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、乳酸系樹脂の本質的な性質を損なわない範囲、すなわち、乳酸系樹脂成分を90wt%以上含有する範囲で、少量の共重合成分を用いてもよい。
このような共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオール等が挙げられる。また、乳酸以外の他のヒドロキシカルボン酸(好ましくはα−ヒドロキシカルボン酸)、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸等を共重合成分として用いてもよい。これらの共重合成分は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
乳酸系樹脂の共重合成分として用いられる他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸や、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0023】
乳酸系樹脂の共重合成分として用いられる脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
乳酸系樹脂の共重合成分として用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0024】
さらに、乳酸系樹脂の分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤を用いてもよい。鎖延長剤としては、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用できる。
【0025】
乳酸系樹脂の重量平均分子量の好ましい範囲は、5万〜40万であり、より好ましくは10万〜25万である。重量平均分子量が5万未満では、乳酸系樹脂の実用物性がほとんど発現されず、40万を超えると、乳酸系樹脂の溶融粘度が高くなりすぎて、その成形加工性が低下する。
【0026】
(植物油脂)
本発明に用いる植物油脂(B)には、乾性油、半乾性油、不乾性油およびその他の植物脂が含まれる。なお、以下の植物油脂は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
乾性油の具体例としては、アカムリット油、麻実油、あまに油、イサノ油、うるし核油、えごま油、オイチシカ油、かや油、くるみ油、けし油、ざくろ種子油、サフラワー油、しなぎり油、大豆油、タバコ種子油、トウハゼ核油、日本きり油、ゴム種子油、月見草種子油、ひまわり種子油、ぶどう種子油、ほうせんか種子油、みつば種子油、ルンバナット油等が挙げられる。
【0028】
半乾性油の具体例としては、あんず核油、オレンジ種子油、かぼちゃ種子油、からし菜種子油、ごま油、小麦胚芽油、西洋すもも油、大根種油、コーン油、トマト種子油、なたね油、にんじん種子油、ぬか油、ペカン油、扁桃油、綿実油、らい麦油、レモン油等が挙げられる。
【0029】
不乾性油の具体例としては、あさがお油、らいきょう油、オリーブ油、オリーブ核油、カシュー実油、カポック油、キャベツ種子油、コーヒー豆油、さざんか油、茶油、つばき油、東柏油、麦角油、ひまし油、落花生油等が挙げられる。
【0030】
その他の植物脂の具体例としては、イリベ脂、ウクフバ脂、うるしろう、カカオ脂、ガルシニア脂、クス実脂、クスム脂、月桂樹実油、コーフン核油、シア脂、大風子油、ツカン油、ツカン核油、トウハゼ脂、ニクヅク脂、ババス核脂、パーム油、パーム核油、ヒドノカルプス油、ブラジルパーム核油、ボルネオ脂、ムルムル脂、木ロウ、やし油等が挙げられる。
【0031】
上記の中でも特に、ひまし油が本発明において最も好適である。ひまし油は、安定性、分散性、低温特性、電気特性、色味に優れている。また、ひまし油の屈折率は乳酸系樹脂の屈折率に近いため、ひまし油を配合することにより乳酸系樹脂の透明性をほとんど損なうことなく、その耐衝撃性を向上させることができる。
【0032】
ポリ乳酸の屈折率は1.455であり、ひまし油の屈折率は1.477である。したがって、ひまし油の他に、屈折率が配当する乳酸系樹脂の屈折率の±5%程度である植物油脂を用いる場合にも、ひまし油を用いる場合と同等程度に透明性をほとんど損なうことなく、乳酸系樹脂に耐衝撃性を付与する効果を期待できる。
【0033】
また、上記植物油脂は、水素添加、ケン化分解、酸化重合、自己縮合等の処理を施した植物油脂誘導体として用いることもできる。
【0034】
植物油脂の配合量については、乳酸系樹脂100質量部に対して、植物油脂を1〜20質量部、好ましくは5〜15質量部とする。かかる範囲で植物油脂を配合することにより、植物油脂のブリードアウトを生じることなく、乳酸系樹脂の耐衝撃性を改良することができる。植物油脂の配合量が、乳酸系樹脂100質量部あたり1質量部未満では、乳酸系樹脂の耐衝撃性を改良する効果がほとんど得られず、20質量部を超えると、植物油脂のブリードアウトを防ぐことが困難になる。
【0035】
(架橋剤)
本発明では、架橋剤(C)として様々な化合物を用いることができるが、植物油脂同士を効率的に架橋できると共に乳酸系樹脂と植物油脂とを架橋できるものが好適に用いられる。例えば、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ基を含有するエポキシ化合物、金属化合物、アジリジニル化合物等が挙げられる。架橋剤は、植物油脂の高分子量化に寄与するだけでなく、好適な粘弾性を達成し、かつ植物油脂のブリードアウトを防ぐ等の観点から、前記のように、植物油脂と乳酸系樹脂との架橋にも寄与するものであることが望ましい。
【0036】
上記の中でも特に、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物を用いることが好ましい。イソシアネート化合物は、少量の添加で植物油脂を効率的に架橋するだけでなく、乳酸系樹脂と植物油脂との架橋も効率的に進行させる。
また、カルボジイミド化合物は、効率的な架橋だけでなく、乳酸系樹脂に耐加水分解性を付与することができる。以下にイソシアネート化合物とカルボジイミド化合物の具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0037】
イソシアネート化合物の具体例としては、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
カルボジイミド化合物の具体例としては、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等が挙げられる。
【0039】
架橋剤の配合量は、乳酸系樹脂100質量部に対して、架橋剤を0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜4質量部、より好ましくは0.1〜3質量部である。
前記0.01〜5質量部の範囲で架橋剤を配合することにより、乳酸系樹脂のゲル化を生じることなく、植物油脂の架橋や、乳酸系樹脂と植物油脂との架橋を行うことができる。架橋剤の配合量が、乳酸系樹脂100質量部あたり0.01質量部未満では、植物油脂を十分に架橋することができず、樹脂成形体の耐衝撃性を向上させる効果も得られない。一方、架橋剤の配合量が、乳酸系樹脂100質量部あたり5質量部を超えると、粘度が上昇するため成形性が劣る。
【0040】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、染料、造核剤、可塑剤、無機充填剤などの添加剤を配合することができる。これら添加剤の配合量は、所望される性能に応じて適宜に選択される。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、様々な成形法により、フィルム、シートもしくはプレート等に加工して用いることができる。フィルムやシートは平坦材であるが、プレートには平坦材と3次元構造を有する立体構造材が含まれる。以下、成形方法の一例について説明する。
【0042】
まず、乳酸系樹脂(A)、植物油脂(B)、架橋剤(C)、さらに必要に応じて配合する他の添加剤を混合する。押出成形もしくは射出成形を行う場合、混合は押出成形機もしくは射出成形機に付設された原料投入口に全ての原料を投入して行う。そして原料を成形機内で混練し、あるいは押出口の直前で混合した後、射出成形金型もしくは押出成形金型に直接押し出し、該金型で所定形状に成形する。あるいは、予めドライブレンドした原料を、二軸押出機を用いてストランド形状に押し出してペレットを作成し、該ペレットを射出成形金型、押出成形金型等の金型内に押し出して、所定形状に成形する。いずれの方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためには後者を選択することが好ましい。
【0043】
具体的には、乳酸系樹脂(A)、植物油脂(B)、架橋剤(C)および他の添加剤を十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押し出してペレットを作成する。その際、乳酸系樹脂はL−乳酸構造とD−乳酸構造のモル比(DL構成)によって融点が変化すること、原料の配合割合によって樹脂組成物の粘度が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。実際には160〜230℃の温度範囲が通常選択される。
【0044】
上記方法で作成したペレットを十分に乾燥して水分を除去した後、以下の方法で射出成形あるいは押出成形して、シートもしくはプレートの成形を行う。さらに、シートを延伸することにより、フィルムが成形される。3次元構造を有する立体構造材は、射出成形で直接作成するか、あるいは所定厚みで押出成形されたシートもしくは平面状プレートをプレス法やTダイキャスト法で所要の立体形状に成形加工して作成する。
【0045】
射出成形の方法は特に限定されないが、代表的には熱可塑性樹脂用の一般射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法が用いられる。上記方法の他にも、目的に応じて、インモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM(Shear Controlled Orientation in Injection Moulding)等を採用することができる。
【0046】
フィルムは押出成形で得られたシートをフィルム延伸法で少なくとも一方向に延伸させて形成している。フィルム延伸法であれば任意の方法が採用され、例えばロール延伸、テンター延伸法、チューブラー法、インフレーション法等を採用することができる。
【0047】
本発明の樹脂組成物の成形体は、耐衝撃性に優れることから、JISK−7110に準拠して測定されるアイゾット衝撃強度として、5kJ/m以上、さらには8kJ/m以上を達成することが可能である。このような高度な耐衝撃性は、従来の乳酸系樹脂をベースとする樹脂成形体では達成できないレベルである。
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて説明する。
各実施例および各比較例の樹脂組成物の成分および配合量は下記の表1、表2に示す。表1、表2中、成分量を示す数値の単位は質量部である。
【0049】
各実施例および各比較例では、以下の方法で耐衝撃性を評価した。
(耐衝撃性)
JISK−7110に準拠して2号A試験片(ノッチ付き、長さ64mm×幅12.7mm×厚み4mm)を作成し、(株)東洋精機製作所製のアイゾット衝撃試験機(型式:JISL−D)を用いて、23℃におけるアイゾット衝撃強度の測定を行った。アイゾット衝撃強度が5kJ/m以上を合格とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1、表2中に記載の各成分は以下の通りである。
乳酸系樹脂A:カーギル・ダウ社製「Nature
Works 4032D(商品名)」
(DL構成:L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4、重量平均分子量:20万)
植物油脂B−1:ナカライテスク(株)製のひまし油
植物油脂B−2:あまに油「ナカライテクス社製」
植物油脂B−3;綿実油 「ナカライテクス社製」
架橋剤C :ナカライテスク(株)製4,4'-ジフェニルメタンジイソシアナート
(MDI)
【0053】
(実施例1)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂B−1を1質量部、架橋剤Cを0.2質量部配合したものをドライブレンドし、三菱重工(株)製の40mmφ小型同方向二軸押出機に供給し、180℃で混練して、コンパウンドとし、これをペレット状に成形した。得られたペレットを東芝機械(株)製の射出成形機「IS50E(商品名)」(スクリュー径25mm)を用いて、長さ200mm×幅3mm×厚さ4mmの板材に射出成形した。主な成形条件は以下の通りである。
【0054】
1)温度条件:シリンダー温度(195℃)、金型温度(20℃)
2)射出条件:射出圧力(115MPa)、保持圧力(55MPa)
3)計量条件:スクリュー回転数(65rpm)、背圧(15MPa)
【0055】
次に、射出成形で得られた板材を、(株)大栄科学精器製作所製のベーキング試験装置「DKS−5S(商品名)」内に静置し、70℃で2時間熱処理を行った。その後、該熱処理後の板材を用いて、耐衝撃性の評価を行った。結果を前記表1に示す。
【0056】
(実施例2)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂B−1を20質量部、架橋剤Cを0.2質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂B−1を10質量部、架橋剤Cを0.01質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂B−1を10質量部、架橋剤Cを5質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例5)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂Bー2を10質量部、架橋剤Cを0.2質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例6)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂B−3を10質量部、架橋剤Cを1.0質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
乳酸系樹脂のみを、実施例1と同様の方法で板材に射出成形し、その評価を実施例1と同様に行った。即ち、本比較例の樹脂組成物は、植物油脂も架橋剤も含まない。結果を前記表2に示す。
【0062】
(比較例2)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂B−1を10質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。すなわち本比較例の樹脂組成物は、架橋剤を含まない。結果を表2に示す。
【0063】
(比較例3)
乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、架橋剤Cを0.2質量部配合したものをドライブレンドしたこと以外、実施例1と同様の方法で、射出成形体である板材の作製と評価を行った。すなわち本比較例の樹脂組成物は、植物油脂を含まない。結果を表2に示す。
【0064】
表1から明らかなように、本発明の樹脂組成物からなる実施例1〜5の射出成形体は、アイゾット衝撃強度が5kJ/m以上であり、耐衝撃性に優れていることが確認できた。また、乳酸系樹脂Aの100質量部に対して、植物油脂が1〜20質量部の範囲内では、植物油脂の配合量が多いほど、耐衝撃性が向上する傾向が見られた。
【0065】
表2から明らかなように、植物油脂および架橋剤のいずれも含まない比較例1、ならびに植物油脂および架橋剤のうちいずれか一方を含まない比較例2〜3の射出成形体は、アイゾット衝撃強度がいずれも5kJ/m未満であり、耐衝撃性に劣るものであることが確認できた。比較例1〜3の射出成形体は、耐衝撃性が実用レベルに達しておらず、用途が非常に限定されるものであった。
【0066】
図1に、岩木製作所(株)製「VES−F3」の粘弾性測定装置を用い測定した実施例5(図中の3、3’)、比較例1(図中の1,1’)および比較例2(図中の2、2’)の板材の粘弾性測定結果のグラフを示す。
図1より、比較例2では、比較例1に対してガラス転移温度が大きく低温側にシフトしていることが理解できる。このようなガラス転移温度の低下が生じるのは、比較例2の板材に含まれる植物油脂が、可塑剤として作用しているためと考えられる。
一方、実施例5では、比較例1に対してガラス転移温度がほとんど低下していない。これは、実施例5に含まれる植物油脂が架橋剤により架橋され、可塑剤として機能することなくゴム成分として作用しているためである。実施例5のグラフの−60℃付近に、ゴムによる副分散が見られることも、植物油脂が架橋剤により架橋され、ゴム弾性を有するようになったことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の樹脂組成物からは、耐衝撃性に優れた成形体が得られるため、本発明は様々な成形品に適用することができ、例えばフィルム、シート、平板状プレートあるいは立体的プレートに適用することができる。本発明の樹脂組成物およびその成形品は、家電、OA機器、自動車部品等の各種産業用途および食品、医療、薬品、化粧品等の各種包装用フィルム、農業用フィルム、工業用保護フィルム、日常生活用品として広範に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例2、比較例1および比較例2の板材の粘弾性測定結果のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、植物油脂(B)を1〜20質量部と、少なくとも前記植物油脂を架橋する架橋剤(C)を0.01〜5質量部配合してなる樹脂組成物。
【請求項2】
前記植物油脂(B)が、ひまし油である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記植物油脂(B)の屈折率が、前記乳酸系樹脂の屈折率に近く、該乳酸系樹脂の屈折率に対して±5%の範囲のものである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記架橋剤(C)が、イソシアネート化合物あるいはカルボジイミド化合物である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物の成形体であって、JISK−7110に準拠して測定したアイゾット衝撃強度が、5kJ/m以上である成形体。
【請求項6】
平均厚さ200μm未満のフィルム、平均厚さ200μm以上500μm未満のシート、平均厚さ500μm以上の平板状プレートあるいは立体的プレートからなる請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
透明性を有する請求項5または請求項6に記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−77126(P2006−77126A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262749(P2004−262749)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】