説明

樹脂組成物及び成形体

【課題】成形体としたときに、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、(A)ポリ乳酸と、(B)表面をエポキシ処理したガラス繊維と、(C)リン酸塩と、(D)前記ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物と、を含む樹脂組成物である。リン酸塩の融点が、200℃以上であり、組成物を150℃以上190℃以下の温度条件で混練し、ガラス繊維の周囲にリン酸塩が存在することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気製品や電子・電気機器の部品には、ポリスチレン、ポリスチレン−ABS樹脂共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール等の高分子材料が、耐熱性、機械強度、特に、電子・電気機器の部品の場合には、環境変動に対する機械強度の維持性に優れることから用いられてきた。
【0003】
近年では、環境問題の観点から、上述の高分子材料に代えて、植物由来の材料であり、CO排出量が少なく、枯渇資源である石油の使用量が少なく、環境負荷が少ないポリ乳酸系樹脂材料を用いる検討がなされている。
ポリ乳酸を含む樹脂の耐衝撃性を向上することを目的として、ポリ乳酸と特定の熱可塑性樹脂とグラフト共重合体とからなる樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、ポリ乳酸を主成分として含む樹脂と、充填剤としてのガラス繊維と、添加剤としてリン酸系難燃剤との混合物から構成され、前記樹脂としては前記主成分たるポリ乳酸以外にポリブチレンテレフタレートのみを含有する樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−320409公報
【特許文献1】特許3971289号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポリ乳酸、ガラス繊維、及びリン酸塩を単独又は併用した系に比べ、成形体にしたとき、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
少なくとも、(A)ポリ乳酸と、(B)表面をエポキシ処理したガラス繊維と、(C)リン酸塩と、(D)前記ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物と、を含む樹脂組成物。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記リン酸塩の融点が、200℃以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【0008】
請求項3に係る発明は、
少なくとも、(A)前記ポリ乳酸と、(B)前記ガラス繊維と、(C)前記リン酸塩と、(D)前記多官能化合物と、を150℃以上190℃以下の温度条件で混練して得られる請求項2に記載の樹脂組成物。
【0009】
請求項4に係る発明は、
(B)前記ガラス繊維の周囲に(C)前記リン酸塩が存在する請求項1に記載の樹脂組成物。
【0010】
請求項5に係る発明は、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形して得られた成形体。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、ポリ乳酸、ガラス繊維、及びリン酸塩を単独又は併用した系に比べ、成形体にしたとき、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項2に係る発明によれば、リン酸塩の融点が200℃未満である場合に比べ、成形体にしたとき、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項3に係る発明によれば、混練する温度条件が本構成を満たさない場合に比べ、成形体にしたとき、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項4に係る発明によれば、ガラス繊維の周囲にリン酸塩が存在しない系に比べ、成形体にしたとき、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れる樹脂組成物が提供される。
請求項5に係る発明は、本構成を有さない場合に比べ、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れる成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1で作製した試験片のSEM写真(200倍)を示す図である。
【図3】比較例1で作製した試験片のSEM写真(200倍)を示す図である。
【図4】実施例1で作製した試験片のSEM写真(5000倍)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0014】
≪樹脂組成物≫
本実施形態に係る樹脂組成物は、少なくとも、(A)ポリ乳酸と、(B)表面をエポキシ処理したガラス繊維と、(C)リン酸塩と、(D)ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物と、を含有する。
【0015】
ここで、ポリ乳酸は、植物由来の材料であり、環境負荷CO排出量が少なく、枯渇資源である石油の使用量が少なく、環境負荷が少ない材料として知られているが、耐熱性、難燃性、耐衝撃性が低いことが知られている。そして、ポリ乳酸にガラス繊維を加えることで耐熱性が向上すること、ポリ乳酸にリン酸塩を加えることで難燃性が向上すること、もそれぞれ知られている。
【0016】
これに対し、本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸と、(B)表面をエポキシ処理したガラス繊維と、(C)リン酸塩と、に加え、(D)ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物と配合することで、ポリ乳酸、ガラス繊維、及びリン酸塩を単独又は併用した系に比べ、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れた成形体が得られる。このポリ乳酸を主原料とする樹脂組成物において、耐熱性及び難燃性を向上させながら、耐衝撃性も高い特性が実現される理由は定かではないが、ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物が、ポリ乳酸の末端基と反応するばかりでなく、ガラス繊維及びリン酸塩とも作用し、ガラス繊維及びリン酸塩の分散状態を向上させているためと考えられる。
【0017】
特に、本実施形態に係る樹脂組成物では、ガラス繊維及びリン酸塩とも作用し、ガラス繊維及びリン酸塩の分散状態を向上させていることから、当該ガラス繊維の周囲にリン酸塩が存在し易く(図2参照)、このような構造を持つことで、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れた成形体が得られ易くなるものと考えられる。
【0018】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0019】
<(A)ポリ乳酸>
ポリ乳酸は、植物由来であり、環境負荷の低減、具体的にはCOの排出量削減、石油使用量の削減効果がある。
ポリ乳酸としては、乳酸の縮合体であれば、特に限定されるものではなく、L乳酸であっても、D乳酸であっても、それらが共重合やブレンドにより交じり合ったものでもよい。
ポリ乳酸は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ユニチカ(株)製のテラマックTE4000、三井化学(株)製のレイシアH100等が挙げられる。
ポリ乳酸は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリ乳酸の分子量も特に限定されるものではないが、重量平均分子量で30000以上200000以下が好ましく、50,000以上150,000以下がより好ましい。重量平均分子量が30000未満であると低温機械強度が低下する傾向にあり、200000を越えると柔軟性が低下する傾向にある。
【0021】
ポリ乳酸の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)には特に限定はないが、環境負荷を低減する観点からは、樹脂組成物の全量に対し、30質量%以上90質量%以下
であることが好ましく、40質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。
【0022】
<(B)ガラス繊維>
ガラス繊維は、表面にエポキシ系処理剤により表面処理が施されてなるものである。ここで、ガラス繊維は、表面処理が施されていない、又はエポキシ系処理剤以外の処理剤(例えば、シリコン系処理剤、アクリル系処理剤等)で表面処理が施されてたものを適用すると、多官能化合物と作用せず、ガラス繊維の分散状態が低下し、耐熱性が不足するばかりか、難燃性も悪化してしまう。
【0023】
ガラス繊維を表面処理するエポキシ系処理剤としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ処理剤、フェノール型エポキシ処理剤、シロキサン変性型エポキシ処理剤等が挙げられる。
このエポキシ系処理剤による処理量は、例えば、0.01%以上5%以下が好ましく、0.1%以上3%以下がより好ましい。
【0024】
ガラス繊維の径は、6μm以上15μm以下が好ましく、8μm以上10μm以下がより好ましい。ガラス繊維の径が6μm未満だと耐熱性が不足する傾向があり、15μmを越えると多官能化合物と作用し難くなりも分散性が悪化することがあり、難燃性が低下する傾向がある。
【0025】
ガラス繊維の繊維長は、1mm以上4mm以下であることが好ましく、2mm以上3mm以下がより好ましい。ガラス繊維の繊維長が1mm未満だと耐熱性が低下する傾向があり、4mmを越えると分散性が低下し易くなり、難燃性が低下する傾向がある。
【0026】
ガラス繊維の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)には特に限定はないが、樹脂組成物の全量に対し、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、4質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
【0027】
<(C)リン酸塩>
リン酸塩としては、特に制限はなく、有機リン酸塩、無機リン酸塩のいずれも挙げられる。
有機リン酸塩としては、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸グアジニン等が挙げられる。
無機リン酸塩としては、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸マンガン等が挙げられる。
これらの中でも、有機リン酸塩、特にポリリン酸アンモニウムが好ましい。このリン酸塩は、多官能化合物による分散向上効果が大きいことから好ましい。
リン酸塩は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0028】
リン酸塩は、融点が200℃以上が好ましく、210℃以上300以下がより好ましく、220℃以上280℃以下がさらに好ましい。リン酸塩の融点が200℃未満だと、混練時にリン酸塩がポリ乳酸中に溶け込んでしまうことがあるため、多官能化合物と作用され難くなり分散性が低下してしまう傾向がある。このため、リン酸塩は、融点が200℃以上とすると、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れた成形体が得られ易くなる。
【0029】
リン酸塩は、リン(P)の含有量が15質量%以上40質量%以下であることが好ましく、20質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。リン酸塩のリン含有量が15質量%未満であると難燃性が低下しやすくなる傾向にあり、40質量%を越えると脂肪族ポリエステルが熱分解しやすくなる傾向にある。
【0030】
リン酸塩の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)には特に限定はないが、樹脂組成物の全量に対し、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、7質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
【0031】
<(D)多官能化合物>
多官能化合物は、ポリ乳酸の末端基(例えば、カルボキシル基、水酸基等)と反応する官能基を2つ以上持つ化合物である。
ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物としては、例えば、カルボジイミド化合物、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、ヒドロキシカルボン酸化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。
カルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ジカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、芳香族ジカルボジイミド等が挙げられる。
ジカルボン酸化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールA等が挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸化合物としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、6−ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ、ノボラック型エポキシ等が挙げられる。
これらの中でも、多官能化合物としては、2官能化合物(2つの官能基を持つ多官能化合物)、特に、2官能のカルボジイミド化合物が好ましい。この多官能化合物は、ガラス繊維及びリン酸塩の分散性向上効果が高く好ましい。
多官能化合物は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0032】
多官能化合物の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)には特に限定はないが、樹脂組成物の全量に対し、0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
<その他成分>
本実施形態に係る樹脂組成物は、シロキサン構造を持つ化合物(シロキサン系化合物)を含有してもよい。シロキサン構造を持つ化合物を添加すると、難燃性を向上させる傾向となるため好ましい。
シロキサン構造を持つ化合物は、シロキサン構造(Si−0)を分子構造中に有する化合物であれば、特に制限はないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0034】
シロキサン構造を持つ化合物の含有量には、特に限定はないが、耐熱性、難燃性の観点からは、樹脂組成物の全量に対し、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係る樹脂組成物は、その他充填剤を含有してもよい・
その他充填剤としては、例えば、クレイ、タルク、マイカ、モンモリナイト等が挙げられる。また、その他充填剤としては、メラミン含有粒子、フォスフェート粒子、酸化チタン等も挙げられる。
その他充填剤は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0036】
充填剤の粒子径は、数平均粒子径で0.01μm以上5μm以下が好ましく、0.05μm以上2μm以下がより好ましい。0.01μm未満であると充填効果が不十分になる場合があり、5μmを超えると分散が悪くなる場合があり、いずれも耐熱性向上効果が低下する傾向にある。
【0037】
その他充填剤としては、合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。また、天然のものを用いてもよい。
クレイの市販品としては、ナノコア社製のナノクレイMX等が挙げられる。
タルクの市販品としては、日本タルク社製のマイクロエースP8等が挙げられる。
マイカの市販品としては、日本マイカ製作所製のマイカパウダー、山口雲母工業SJ−005、SYA21−RS、等が挙げられる。
モンモリナイトの市販品としては、クニミネ工業社のクニピアF等が挙げられる。
なお、例えば、その他充填剤は、ポリ乳酸の市販品に予め配合されているものを適用してもよい。
【0038】
その他充填剤の含有量には、特に限定はないが、耐熱性、難燃性の観点からは、樹脂組成物の全量に対し、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、その他難燃剤を含有してもよい。
その他難燃剤としては、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機水酸化物系難燃剤等が挙げられる。
その他難燃剤は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0040】
その他難燃剤としては、合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
リン系難燃剤の市販品としては、大八化学製のPX−200、PX−202、ブーテンハイム製のTERRAJU C80、クラリアント製のEXOLIT AP422、EXOLIT OP930、等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤の市販品としては、東レダウシリコーン製のDC4−7081等が挙げられる。
窒素系難燃剤の市販品としては、三和ケミカル製のアピノン901、下関三井化学製のピロリンサンメラミン、ADEKA製のFP2100、等が挙げられる。
無機水酸化物系難燃剤の市販品としては、堺化学工業製MGZ300、日本軽金属製B103ST、等が挙げられる。
【0041】
その他難燃剤の含有量には、特に限定はないが、難燃性と耐衝撃強度の観点から、樹脂組成物の全量に対し、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
また、本実施形態の樹脂組成物は、離型剤、耐候剤、耐光剤、着色剤等が含有してもよい。
【0043】
<樹脂組成物の製法>
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記(A)乃至(D)の成分と、必要に応じてその他成分とを、混練して作製される。
前記混練は、例えば、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)、簡易ニーダー(東洋精機製、ラボプラストミル)等の公知の混練装置を用いて行う。
ここで、混練の温度条件(シリンダ温度条件)としては、リン酸塩の融点未満であることが好ましく、具体的には、融点が200℃以上のリン酸塩を適用する場合、150℃以上190℃以下が好ましく、160℃以上180℃以下がより好ましい。これにより、混練時にリン酸塩がポリ乳酸中に溶け込んでしまうことが抑制され、耐熱性、難燃性、及び耐衝撃性が共に優れた成形体が得られ易くなる。
【0044】
≪成形体≫
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態の樹脂組成物を成形することにより得ることができる。例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形などの成形方法により成形して、本実施形態に係る成形体が得られる。本実施形態においては、成形体における成分(例えばガラス繊維やリン酸塩)の分散性の理由から、本実施形態の樹脂組成物を射出成形して得られたものであることが好ましい。
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行う。
この際、シリンダ温度としては、ポリ乳酸の分解抑制などの観点から、160℃以上240℃以下とすることが好ましく、170℃以上210℃以下とすることがより好ましい。
また、金型温度としては、生産性の観点から、30℃以上120℃以下とすることが好ましく、30℃以上60℃以下とすることがより好ましい。
【0045】
また、本実施形態の成形体中における、(A)ポリ乳酸の結晶化度は20%以上が好ましい。前記結晶化度が20%未満だと耐熱性が低下するにある。
ここで、結晶化度は、密度勾配管法により測定した値を指す。具体的には、結晶化度100%と0%の標準試験片を、2種類のアルコールの混合系で作った密度勾配管中に浮遊させる。これら2種類の標準試験片の浮遊位置から密度を決めることができ、密度と結晶化度の検量線を作成する。次に、この密度勾配管中に、結晶化度を測定したいサンプルの試験片(標準試験片と同体積のもの)を浮遊させ、浮遊位置から密度を求め、検量線から結晶化度を求めた値を指す。
【0046】
≪電子・電気機器の部品≫
前述の本実施形態の成形体は、機械的強度(耐衝撃性及び柔軟性)、耐熱性及び難燃性に優れたものになり得るため、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いることができる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。電子・電気機器の部品は、複雑な形状を有しているものが多く、また重量物であるので極めて高い耐衝撃強度及び面衝撃強度が要求されるが、本実施形態の樹脂成形体によれば、このような要求特性を十分満足させることができる。
【0047】
図1は、本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。本図は、本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0048】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0049】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0050】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0051】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0052】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、及び筐体152などの事務機器用部材は、耐熱性、耐衝撃性、及び難燃性の諸性能を備えることが要求される。
このため、本実施形態の樹脂組成物を用いて作製された成形体は、これらの電子・電気機器の部品として好適に用いられるものである。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0054】
〔実施例1乃至実施例17、比較例1乃至比較例10〕
<樹脂組成物の作製>
表1及び表2に示す材料を、特定の組成比で2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)にて、表3及び表4に示すシリンダ温度条件にて混練し、表1及び表2に記載の組成の樹脂組成物ペレットを得た。
【0055】
<成形体の作製>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを80℃、8時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、表3及び表4に示すシリンダ温度及び金型温度で射出成形を行い、成形体として下記各測定・評価で用いる試験片を作製した。
【0056】
<測定・評価>
得られた試験片を用いて、下記各測定・評価を行った。表3及び表4に結果を示す。
【0057】
(シャルピー耐衝撃強度の測定)
ISO多目的ダンベル試験片(ISO527引張試験、ISO178曲げ試験に対応、試験部厚さ4mm、幅10mm)を加工して、ISO179に従い耐衝撃試験装置(東洋精機製、DG−5)にてシャルピー耐衝撃強度を測定した。
シャルピー耐衝撃強度は、数値が大きい程、耐衝撃性に優れていることを示す。
【0058】
(熱変形温度の測定)
上記ISO多目的ダンベル試験片を用い、ISO75に準拠して1.80MPa荷重時の熱変形温度(重荷たわみ温度)を測定した。
熱変形温度は、温度が高い程、耐熱性に優れていることを示す。
【0059】
(UL−Vテスト)
UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ1.6mm)を用い、UL−94の方法でUL−Vテストを実施した。
UL−Vテストの結果は、V−0が最も難燃性が高く、V−1がV−0に次いで難燃性が高く、V−2がV−1に次いで難燃性が高いことを示す。V−notは、V−2よりも難燃性に劣ることを示す。
【0060】
(剛球落下試験)
試験片として厚さ2mm、10×10cmの平板を用い、この平板に対して1300mの高さから直径50mm、重さ500gの鋼球を落下衝突させ、割れが発生するかどうかを調べた。
【0061】
(走査型電子顕微鏡観察)
ISO多目的ダンベル試験片から走査型電子顕微鏡観察用の試料片を作製し、これを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。但し、この走査型電子顕微鏡(SEM)は、実施例1及び比較例1で作製したものついてのみ行った。実施例1で作製した試験片のSEM写真(倍率200倍)を図2に示し、比較例1で作製した試験片のSEM写真(倍率200倍)を図3に示す。また、実施例1で作製した試験片のSEM写真(倍率5000倍)を図4に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
なお、上記表1及び表2中の各成分の詳細を以下に示す。
(ポリ乳酸)
・テラマックTE4000:ユニチカ社製
・テラマックTE7000:ユニチカ社製、ナノクレイ1%含有ポリ乳酸
(ポリブチレンサクシネート)
・ビオノーレ3000:昭和高分子社製
(リン酸化合物)
・EXOLITAP422:ポリリン酸アンモニウム(リン酸塩、融点220℃)、クラリアント社製
・EXOLITOP930:リン酸アルミニウム(リン酸塩、融点240℃)、クラリアント社製
・TPP:縮合リン酸エステル(融点130℃)、大八化学工業社製
・第一リン酸ナトリウム(リン酸塩、融点140℃)、燐化学工業社製
(ガラス繊維)
・FT592:エポキシ処理ガラス繊維(繊維径13.5mm/繊維長さ3mm)、オーウエンスコーニング社製
・CS3PE−941SS:エポキシ処理ガラス繊維(繊維径6.5mm/繊維長さ3mm)、日東紡社製
・CS3PE−941:シリコン処理ガラス繊維(繊維径5mm/繊維長さ3mm)、日東紡社製
(多価官能化合物)
・カルボジライトLA−1:2官能カルボジイミド化合物、日清紡社製
・エピコート802:2官能エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製
(シロキサン系化合物)
・メタブレンSX005:シリコーン−アクリル複合ゴム、三菱レイヨン社製
【0067】
上記表3乃至表4から、本実施例では、比較例に比べ、シャルピー耐衝撃強度、熱変形温度、UL−Vテスト、及び剛球落下試験が共に良好な結果が得られたことがわかる。
また、図2及び図3から、実施例1では、比較例1に比べ、難燃剤(ガラス繊維及びリン酸化合物(リン酸塩):図中、白いつぶ状のもの)が凝集し難く、細かく分散していることがわかる。
また、図4から、実施例1では、ガラス繊維の周囲にリン酸化合物(リン酸塩)が膜状に付着しており、ガラス繊維の周囲にリン酸化合物(リン酸塩)が存在してることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)ポリ乳酸と、(B)表面をエポキシ処理したガラス繊維と、(C)リン酸塩と、(D)前記ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物と、を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン酸塩の融点が、200℃以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
少なくとも、(A)前記ポリ乳酸と、(B)前記ガラス繊維と、(C)前記リン酸塩と、(D)前記多官能化合物と、を150℃以上190℃以下の温度条件で混練して得られる請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(B)前記ガラス繊維の周囲に(C)前記リン酸塩が存在する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形して得られた成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260999(P2010−260999A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114855(P2009−114855)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】