説明

樹脂組成物及び自己強化材料

【課題】本発明は、ひび割れや亀裂が生じなくても劣化し易い部分を予め自己強化でき、且つ種々の高分子樹脂を用いることが可能な自己強化材料、及びこれを与える樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、自己強化材料を与える樹脂組成物であって、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含むことを特徴とする樹脂組成物である。また、本発明は、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含むことを特徴とする自己強化材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び自己強化材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料のほとんどは石油から製造されているが、地球資源の有効活用、温室効果ガスの排出量削減などの環境配慮の観点から、高分子材料のリサイクルや長寿命化に対する要求が高まっている。
高分子材料は、電気絶縁性、寸法安定性、加工性、低比重、柔軟性などの特性に優れていることから、様々な製品の筐体部材などで広く使用されている。しかしながら、高分子材料は、一般的に、光、熱、他の部材との接触や応力負荷などの環境にさらされるうちに徐々に劣化し、本来有する特性を失っていく。このような高分子材料の劣化現象を防止して長寿命化を達成するため、安定剤などの添加剤を配合して耐久性を向上させることに主眼をおいて様々な研究がなされてきた。この方法は、言い換えると、外部からの刺激を高分子自体に作用させずに、添加剤によって散逸させることで高分子材料の劣化進行を防ぐという受動的手法である。
【0003】
しかしながら、上記のような方法では、外部からの刺激は添加剤に集中するため、添加剤の効果がなくなると高分子材料の劣化が進行してしまう。このような高分子材料の劣化は、配合する添加剤の量を多くすれば抑制されると考えられるが、添加剤の量が多いと高分子材料の本来有する特性が低下してしまう。
したがって、高分子材料の劣化現象を防止して長寿命化を達成する技術として、添加剤を配合するという受動的手法ではなく、新規な発想による高分子材料の劣化防止手法の開発が望まれている。
【0004】
各種材料の劣化防止手法としては、各種材料に自己強化(修復)機能を与える方法が提案さている。
例えば、特許文献1では、ポリフェニレンエーテルに銅アミン系触媒を配合した自己強化材料が提案されている。この自己強化材料は、銅アミン系触媒が空気中の酸素と熱により活性化し、ポリフェニレンエーテル同士を架橋して高分子量化することにより、材料の劣化現象を防止するものである。
【0005】
また、特許文献2では、モルタルやコンクリートなどの水和硬化物に未水和のセメントクリンカーを配合した自己強化材料が提案されている。この自己強化材料は、ひび割れ部分に雨水などの水を浸透させることによって、そのひび割れ部分に存在している未水和のセメントクリンカーと水とを反応させてセメントゲルを生じさせ、そのセメントゲルでひび割れ部分を塞ぐことにより、材料の劣化現象を防止するものである。
さらに、非特許文献1では、エポキシ樹脂中にジシクロペンタジエン(DCPD)を内包した尿素系カプセルをエポキシ樹脂中に配合した自己強化材料が提案されている。この自己強化材料は、外的作用によってエポキシ樹脂に亀裂が生じると、DCPDが亀裂中に染み出し、エポキシ樹脂を架橋することで、材料の劣化現象を防止するものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1の自己強化材料は、自己強化の対象がポリフェニレンエーテルに限定されており、使用可能な材料が制約されるという問題がある。
また、特許文献2及び非特許文献1の自己強化材料は、強化過程を経るために、材料中にひび割れや亀裂を一旦生じさせる必要があり、ひび割れや亀裂が生じた脆弱な状態の時にさらに強い力が加わると、ひび割れや亀裂が修復不可能な程度に進行してしまうという問題がある。
【0007】
一方、応力発光物質及びこれを用いた応用技術が知られている(例えば、特許文献3参照)が、これを自己強化材料に用いることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−81304号公報
【特許文献2】特開平9−86983号公報
【特許文献3】特開2005−115203号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ビー・ジェイ・ブライジック(B.J.Blaiszik)、外2名著、「自己修復性材料用ナノカプセル(Nanocapsules for self-healing materials)」、コンポジッツ・サイエンス・アンド・テクノロジー(COMPOSITES SCIENCE AND TECHNOLOGY)、エルゼビア(ELSEVIER)、2008年、第68巻、p.978−986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、ひび割れや亀裂が生じなくても劣化し易い部分を予め自己強化でき、且つ種々の高分子樹脂を用いることが可能な自己強化材料、及びこれを与える樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、応力発光物質を光架橋剤と共に樹脂組成物に配合することで、種々の高分子樹脂が使用可能になると共に、この樹脂組成物から得られる材料(硬化物)において、外部からの刺激が加えられた際に、応力発光物質の発光によって光架橋剤が活性化し、高分子樹脂が架橋反応を起こして三次元架橋構造を形成し、良好な自己強化機能が発現することを見出した。
すなわち、本発明は、自己強化材料を与える樹脂組成物であって、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含むことを特徴とする樹脂組成物である。
また、本発明は、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含むことを特徴とする自己強化材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ひび割れや亀裂が生じなくても劣化し易い部分を予め自己強化でき、且つ種々の高分子樹脂を用いることが可能な自己強化材料、及びこれを与える樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自己強化材料及びその自己強化過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
本発明の樹脂組成物は、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含む。この樹脂組成物は、自己強化材料を与えることができる。ここで、本明細書において「自己強化材料」とは、外部からの刺激が材料に加えられた際に、劣化や損傷が起こり易い部分を材料自身が予め強化し得る材料のことを意味する。また、「外部からの刺激」とは、圧力、摩擦、光、温度などの環境変化の要因となるものを意味する。
【0015】
本発明に用いられる高分子樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。高分子樹脂の例としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ウレタンゴム、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニルクロライド、ポリ塩化ビニリデン、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリジメチルシロキサン、天然ゴム、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂などのラジカル架橋性ポリマーが挙げられる。ここで、「ラジカル架橋性ポリマー」とは、ラジカル架橋性の官能基(例えば、不飽和基など)を有しており、ラジカルの存在によってポリマーの架橋反応が優先的に生じ、ポリマーの二次分解(β開裂)が少ないポリマーを意味する。ラジカル架橋性ポリマーは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
その他の高分子樹脂の例としては、ポリイソブチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリメタアクリレート、ポリメタクリロニトリル、ポリビニリデンクロライド、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリ四フッ化エチレン、セルロースなどのラジカル崩壊性ポリマーが挙げられる。ここで、「ラジカル崩壊性ポリマー」とは、ラジカルの存在によってポリマーの二次分解(β開裂)が優先的に生じ、ポリマーの架橋反応が少ないポリマーを意味する。このラジカル崩壊性ポリマーは、その多くが二次分解によって分子量のより小さな二つのポリマーに分かれるため、本発明に用いる高分子樹脂としては適さないとも思われるが、ラジカル架橋性ポリマーや三次元架橋助剤と併用すれば使用可能である。
三次元架橋助剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。三次元架橋助剤の例としては、エチレン、スチレン、アクリル酸エステルなどのモノマー及びこれらのポリマーが挙げられる。また、市販の架橋助剤を用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられる光架橋剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。光架橋剤の例としては、光ラジカル発生剤(光ラジカル重合開始剤ともいう)や光酸発生剤などが挙げられる。これらの中でも光架橋剤は、光ラジカル発生剤が好ましい。光架橋剤は、使用する応力発光物質の発光波長に応じて適宜選択すればよい。例えば、可視光を発光する応力発光物質を用いる場合には、可視光により活性化する光架橋剤を選択すればよく、また、紫外光を発光する応力発光物質を用いる場合には、紫外光により活性化する光架橋剤を選択すればよい。ここで、「活性化」とは、例えば、光架橋剤が光ラジカル発生剤の場合には光ラジカル発生剤からラジカルが発生することを意味し、光架橋剤が光酸発生剤の場合には光酸発生剤から酸が発生することを意味する。
【0018】
可視光により活性化する光架橋剤の例としては、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製のIRGACURE784などが挙げられる。また、紫外光により活性化する光架橋剤の例としては、アセトフェノン系材料、α−アミノアセトフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド系材料、O−アシルオキシム系材料、チタノセン系材料などが挙げられる。具体的には、2−フェニル−2−(p−トルエンスルフォニルオキシ)アセトフェノンなどを用いることができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明の樹脂組成物における光架橋剤の配合量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、高分子樹脂100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下である。光架橋剤の配合量が0.01質量部未満であると、樹脂組成物から得られる材料(硬化物)に外部からの刺激が加えられた際に架橋反応が十分に生じないことがある。一方、光架橋剤の配合量が20質量部を超えると、多くの光架橋剤が無駄になったり、樹脂組成物から得られる材料(硬化物)の特性が、高分子樹脂の本来有する特性から大きく変化してしまうことがある。例えば、樹脂組成物から得られる材料の硬度が、高分子樹脂の硬度に比べて大きく低下してしまい、自己強化前の初期特性が十分でないことがある。
【0020】
本発明に用いられる応力発光物質は、外部からの刺激により発光する物質、すなわち、外部からの刺激による外部エネルギーを光に変換して発光する物質のことを意味し、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
応力発光物質の例としては、多面体構造(例えば、スピネル構造、コランダム構造など)の母体結晶中に、希土類イオンや遷移金属イオンなどを発光中心の中心イオンとして添加した物質などが挙げられる。このような応力発光物質は、様々な文献に開示されており(例えば、特許文献3参照)、これらに開示の応力発光物質を使用することができる。
【0021】
公知の応力発光物質の中でも、例えば、SrAl:Euや0.97SrAl:0.03Euなどのユーロピウム添加アルミン酸ストロンチウム、0.99ZnCuS・0.01MnS、0.9ZnTe・0.1MnTe、0.9ZnCuS・0.1MnS、0.9ZnTe・0.1CdSe、0.9CdS・0.1MnS、0.9CuSe・0.1MnTe、0.9ZnS・0.1MnS、0.1ZnCuS・0.9MnS、0.9ZnSe・0.1CdTe、0.8ZnO・0.2MnCuSなどは可視光を発光する応力発光物質である。これらの中でも、ユーロピウム添加アルミン酸ストロンチウムは市販されており、例えば、大光炉材株式会社製のTAIKO−ML−1などを用いることができる。また、Dyをさらに添加したユーロピウム添加アルミン酸ストロンチウムも市販されており、根本特殊化学株式会社製のLumiNova(登録商標)G-300、GLL-300、BG-300、BGL-300、V-300などを用いることができる。
【0022】
また、例えば、Na0.95Tb0.05La(PO)、Na0.95Ce0.05La(PO)、Na0.95Tl0.05La(PO)、Na0.95Dy0.05La(PO)、Na0.90Ce0.10La(PO)、Na0.99Ce0.01La(PO)、Na0.90Ce0.10La(PO)、Na0.85Ce0.15La(PO)、Na0.80Ce0.20La(PO)、Na0.90Tl0.10La(PO)、Na0.99Tl0.01La(PO)、Na0.95Tl0.05La(PO)、Na0.85Tl0.15La(PO)、Na0.80Tl0.20La(PO)などは紫外光を発光する応力発光物質である。
【0023】
本発明の樹脂組成物における応力発光物質の配合量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、高分子樹脂100質量部に対して0.05質量部以上30質量部以下である。光架橋剤の配合量が0.05質量部未満であると、樹脂組成物から得られる材料(硬化物)に外部からの刺激が加えられた際に十分な発光輝度が得られず、架橋反応が十分に生じないことがある。一方、光架橋剤の配合量が30質量部を超えると、多くの応力発光物質が無駄になったり、樹脂組成物から得られる材料(硬化物)の強度が著しく低下することがある。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、使用する高分子樹脂の種類によっては、樹脂組成物を硬化させるために硬化剤をさらに含むことができる。
本発明に用いられる硬化剤としては、特に限定されず、使用する高分子樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、高分子樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合には、硬化剤として、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及び無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物;ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物;無水フタル酸、及び無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物;ジシアンジアミド、及びアジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド;並びにトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン及びその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、及び2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を用いることができる。これらの硬化剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物における硬化剤の配合量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、高分子樹脂100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下である。硬化剤の配合量が0.01質量部未満であると、樹脂組成物が十分に硬化しないことがある。一方、硬化剤の配合量が20質量部を超えると、多くの硬化剤が無駄になったり、樹脂組成物から得られる材料(硬化物)の強度が著しく低下することがある。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、外部の光を遮ることを目的として、光遮蔽剤をさらに含むことができる。外部からの光は、樹脂組成物から得られる材料(硬化物)において、光架橋剤を活性化し、外部からの刺激が加えられていない部分についても架橋反応を生じさせてしまうことがあるが、光遮蔽剤はこの作用の抑制に有効である。
本発明に用いられる光遮蔽剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。光遮蔽剤の例としては、無機充填剤、有機顔料、無機顔料などが挙げられる。その中でも、光遮蔽効果に優れるカーボンブラックが好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物における光遮蔽剤の配合量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、高分子樹脂100質量部に対して0.5質量部以上30質量部以下である。光遮蔽剤の配合量が0.5質量部未満であると、所望の光遮蔽効果が得られないことがある。一方、光遮蔽剤の配合量が30質量部を超えると、本発明の樹脂組成物及びこれから得られる材料の特性を阻害してしまうことがある。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、高分子樹脂の解重合を抑制することを目的として、光安定剤をさらに含むことができる。樹脂組成物から得られる材料(硬化物)では、光架橋剤により生じるラジカルや酸などが、材料を強化するための高分子樹脂の架橋反応を生じさせるだけでなく、高分子樹脂の解重合を生じさせる場合もあり、安定なラジカルや酸が生じたときには、材料の強化を意図しない部分に高分子樹脂の解重合が生じることがあるが、光安定剤はこの作用の抑制に有効である。
【0029】
本発明に用いられる光安定剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。光安定剤の例としては、連鎖開始阻害作用を持つ紫外線吸収剤、ラジカル捕捉作用を有するヒンダードアミン系安定剤、双方の作用を有するベンゾエート系安定剤が挙げられる。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収して運動エネルギーや熱エネルギーに変換する作用を有し、その例としてはベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の化合物が挙げられる。また、ヒンダードアミン系安定剤は、紫外線により生成したラジカルを捕捉して無効化する作用を有する。
【0030】
本発明の樹脂組成物における光安定剤の配合量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、高分子樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下である。光安定剤の配合量が0.01質量部未満であると、所望の解重合抑制効果が得られないことがある。一方、光安定剤の配合量が5質量部を超えると、本発明の樹脂組成物及びこれから得られる材料の特性を阻害してしまうことがある。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の公知の添加剤をさらに含むことができる。添加剤の例としては、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、結晶核剤、発泡剤、抗菌・防カビ剤、充填剤、強化剤、導電性フィラー、帯電防止剤などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物における添加剤の配合量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、一般的に行われる方法、例えば、混合装置を用いて混合することによって調製することができる。
このようにして調製される本発明の樹脂組成物は、ひび割れや亀裂が生じなくても劣化し易い部分を予め自己強化でき、且つ種々の高分子樹脂を用いることが可能な自己強化材料を与えることができる。
【0033】
実施の形態2.
本発明の自己強化材料は、上記の樹脂組成物を硬化させることによって得られるものであり、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含む。
以下、図面を参照して本発明の自己強化材料について説明する。
図1は、本発明の自己強化材料及びその自己強化過程を説明するための模式図である。図1(A)は、初期(すなわち、外部からの刺激が加わっていない時)の自己強化材料の図である。図1(A)において、自己強化材料は、高分子樹脂1と、応力発光物質2と、架橋剤3とを含む。ここで、高分子樹脂1は、2種以上の高分子樹脂を用いた場合には、それらの混合物又はそれらの共重合体であることができる。
【0034】
また、この自己強化材料の表面には、光遮蔽剤と同様の効果を与えるために、光遮蔽性塗装などによって表面処理を行ってもよい。この場合、樹脂組成物に光遮蔽剤を配合する必要がないため、樹脂組成物の材料特性に影響を与えない。本発明に用いられる光遮光性塗料としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。光遮光性塗料の例としては、カーボンブラック含有塗料などが挙げられるが、一般的な顔料を含有したアクリル系塗料や水性塗料でも、塗布する膜厚を調整することで所望の効果を発現させることができる。光遮光性塗料の塗布量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されることはなく、一般的に0.1μm以上1000μm以下の厚みで塗布すればよい。
【0035】
次に、図1(B)は、外部からの刺激が加わった際の自己強化材料の図である。図1(B)において、局所的(破線で示した部分)に外部からの刺激が加わると、当該部分に存在する応力発光物質2が発光する。そして、この光を受ける範囲に存在する光架橋剤3が光エネルギーによって活性化される。なお、図B中、矢印は、応力発光物質2から光架橋剤3への光の進行方向を示している。
次に、図1(C)は、自己強化後の自己強化材料の図である。図1(C)において、活性化した光架橋剤3は、周囲の高分子樹脂1同士を架橋させ、三次元架橋構造を形成する。例えば、光架橋剤3として光ラジカル開始剤を用いた場合には、光ラジカル開始剤から発生するフリーラジカルが、周囲の高分子樹脂中の不飽和基に付加して新たなラジカルとなり、このラジカルが高分子樹脂中の別の不飽和基に付加して架橋が行われる。或いは、高分子樹脂骨格中で水素引抜き反応が起こることにより生成したポリマーラジカル同士が結合することで架橋が行われる。
【0036】
したがって、本発明の自己強化材料は、局所的に外部からの刺激が加わった場合に、その特定の部分において架橋反応を生じさせて三次元架橋構造を形成し、予め自己強化を行うことが可能である。特に、外部からの刺激が加わった特定の部分のみを自己強化するため、材料の柔軟性を損なうこともない。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
高分子樹脂である高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製ノバテックHB420R)25g、光ラジカル発生剤(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製IRGACURE784)1g、応力発光物質(大光炉材株式会社製TAIKO−ML−1)4gを混合し、これを170℃で30分間、溶融混練することによって樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を5mm×10mm×50mmのサイズに押出成形し、自己強化材料の試験サンプルを得た。
なお、試験サンプルは、700nm以下の波長を遮光したグローブボックス内で作製し、外光の影響を防止するためにアルミ箔で包み、遮光保存した。
【0038】
得られた試験サンプルについて、疲労試験機を用い、最大荷重10MPa、振動20Hzで60分間、応力印加試験(疲労試験)を行なった。
応力印加後の試験サンプルについて、引張試験機を用い、10mm/分の速度で荷重をかけて引張強度を測定したところ、36MPaであった。
比較のために、応力印加前(疲労試験前)の試験サンプルについても引張強度を上記と同様にして測定したところ、25MPaであった。
なお、上記の疲労試験及び引張試験は、外光の影響を防止するために、遮光カーテンで遮光した室内で実施した。
この結果からわかるように、実施例1の自己強化材料は、外部からの刺激により強度が向上する。
【0039】
(実施例2)
高分子樹脂であるエポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製CY230)22g、光ラジカル発生剤(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製IRGACURE784)0.968g、応力発光物質(大光炉材株式会社製TAIKO−ML−1)3.872g、硬化剤(アランジットHY−951)2.2gを混合することによって樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物に脱泡処理を十分に施した後、5mm×10mm×50mmのサイズに成形し、30℃で12時間加温することにより硬化させ、自己強化材料の試験サンプルを得た。
なお、この実施例においても、試験サンプルは、700nm以下の波長を遮光したグローブボックス内で作製し、外光の影響を防止するためにアルミ箔で包み、遮光保存した。
【0040】
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様にして疲労試験及び引張試験を行った。
その結果、疲労試験前の試験サンプルでは引張強度が86MPaであったのに対し、疲労試験後の試験サンプルでは引張強度が92MPaであった。
この結果からわかるように、実施例2の自己強化材料は、外部からの刺激により強度が向上する。
【0041】
(実施例3)
高分子樹脂であるエポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製CY230)22g、光ラジカル発生剤(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製IRGACURE784)0.968g、応力発光物質(根本特殊化学株式会社製GLL−300FFS(PS−2))3.872g、硬化剤(アランジットHY−951)2.2gを混合することによって樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物に脱泡処理を十分に施した後、5mm×10mm×50mmのサイズに成形し、30℃で12時間加温することにより硬化させ、自己強化材料の試験サンプルを得た。
なお、この実施例においても、試験サンプルは、700nm以下の波長を遮光したグローブボックス内で作製し、外光の影響を防止するためにアルミ箔で包み、遮光保存した。
【0042】
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様にして疲労試験及び引張試験を行った。
その結果、疲労試験前の試験サンプルでは引張強度が87MPaであったのに対し、疲労試験後の試験サンプルでは引張強度が90MPaであった。
この結果からわかるように、実施例3の自己強化材料は、外部からの刺激により強度が向上する。
【0043】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、ひび割れや亀裂が生じなくても劣化し易い部分を予め自己強化でき、且つ種々の高分子樹脂を用いることが可能な自己強化材料、及びこれを与える樹脂組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 高分子樹脂、2 応力発光物質、3 光架橋剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己強化材料を与える樹脂組成物であって、高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記光架橋剤は、光ラジカル発生剤であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記応力発光物質は、ユーロピウム添加アルミン酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
高分子樹脂と、光架橋剤と、応力発光物質とを含むことを特徴とする自己強化材料。
【請求項5】
外部からの刺激で前記応力発光物質が発光することによって前記光架橋剤が活性化し、前記高分子樹脂が架橋されることを特徴とする請求項4に記載の自己強化材料。
【請求項6】
前記光架橋剤は、光ラジカル発生剤であることを特徴とする請求項4又は5に記載の自己強化材料。
【請求項7】
前記応力発光物質は、ユーロピウム添加アルミン酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の自己強化材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−94053(P2011−94053A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250240(P2009−250240)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】