説明

樹脂被覆メタリック顔料、それを含有する水性塗料、それが塗布された塗装物、およびその製造方法

【課題】本発明は、塗膜の耐薬品性を維持したまま、水性塗料に配合して得られた場合には塗膜の耐水(湿)性を実用上十分な水準に向上させた樹脂被覆メタリック顔料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料であって、該被覆層の最外層は2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物をその構成単位として含む重合体である樹脂からなり、該最外層の表面部は1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理されている樹脂被覆メタリック顔料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆メタリック顔料、それを含有する水性塗料、それが塗布された塗装物、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、塗膜の耐薬品性を維持したまま、水性塗料による塗膜にした場合には優れた耐水(湿)性を示す被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料、それを含有する水性塗料、それが塗布された塗装物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題についての関心が高まり、有機溶剤を使用しない低公害型の水性塗料が注目を集めている。また、水性塗料の目覚ましい技術的進歩により、従来、溶剤型塗料でしか達し得なかった高級な仕上がり外観が、水性塗料でも実現可能な状況になってきた。しかし、多くのメタリック顔料(金属顔料ともいう)においては、水性塗料に配合して得られた塗膜は、特に耐薬品性と耐水(湿)性が低下し、未だ実用可能な水性塗料の例は少ない。
【0003】
塗膜の耐薬品性とは、塗膜を酸、アルカリ、塩などの薬品の水溶液に浸しても色調等の諸特性が変化しにくい性質を指す。メタリック顔料を含む塗膜においては、この耐薬品性は主としてメタリック顔料の性能に依存する。このため、メタリック顔料を用いた塗料による塗膜の耐薬品性を改善するために、特許文献1には、トリメチロールプロパントリアクリレートおよび/またはトリメチロールプロパントリメタクリレートと少量のアクリル酸および/またはメタクリル酸との共重合体で被覆された金属顔料が提案されている。特許文献2には、ラジカル重合性不飽和カルボン酸および/またはラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノまたはジエステルおよびラジカル重合性二重結合を3個以上有する単量体から生成した高度に三次元化した樹脂によって強固に密着して表面被覆され、かつ耐アルカリ性の評価となるΔEが1.0以下で、しかも耐熱安定性試験で実質的に凝集しないことを特徴とする樹脂被覆金属顔料が提案されている。特許文献3には、少なくとも1個の重合性二重結合を有するオリゴマーおよびモノマーよりなる群から選ばれた少なくとも2種を反応させて得られる共重合体によって均一に被覆され、表面が微視的に平滑なアルミニウムフレークが提案されている。特許文献4には、原料アルミニウム顔料の表面が、重合性二重結合を有するモノマー、重合性二重結合1個とベンゼン環1個とを有するモノマー、および(メタ)アクリル酸を重合して得られた共重合体により被覆された樹脂被覆アルミニウム顔料が提案されている。特許文献5には、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸エステルを金属顔料と接触させることによりリン酸エステルを吸着させた後、重合性二重結合を有するモノマーの重合により樹脂被覆層を形成した金属顔料が提案されている。
【0004】
また、塗膜の耐水(湿)性とは、常温より比較的高い温度(約40〜50℃)での水中、または相対湿度98%以上の湿潤状態に塗膜を保持しても、その塗膜の色調等の変質が防止されるという防食性能を維持する性質を指す。メタリック顔料を含む塗膜においては、この耐水(湿)性も主としてメタリック顔料の性能に依存する。このため、メタリック顔料を用いた水性塗料による塗膜の耐水(湿)性を改善するために、特許文献6には、シロキサン結合を有する化合物の加水分解縮合物で被覆されているアルミニウム顔料が提案されている。特許文献7には、シロキサン結合を有する化合物の加水分解縮合物、および、ラジカル重合性不飽和カルボン酸、および/または、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸またはホスホン酸モノまたはジエステルから選ばれた少なくとも一種と、ラジカル重合性二重結合を2個以上有する単量体からなる樹脂とで被覆されたアルミニウム顔料が提案されている。
【0005】
これらの技術によれば、有機溶剤系塗料の用途においては市場の要求がある程度満足されるものの、水性塗料の用途においては塗膜性能が十分でないという問題がある。これは両塗料間において樹脂と溶媒が根本的に異なることに起因するものと考えられ、いずれにせよ水性塗料においてより高度な塗膜性能が要求される。
【0006】
なお、特許文献8には、アルミニウム粒子を基体粒子とし、該アルミニウム粒子の表面を被覆する単層または複層の被覆層を形成したメタリック顔料であって、該被覆層の最外層が、塩基性基および少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーを重合反応させて得られるポリマーを含む、メタリック顔料が提案され、さらに該被覆層の外側に表面改質剤層を形成したメタリック顔料も提案されている。
【0007】
この特許文献8では、該被覆層はメタリック顔料にさらに耐食性を付与する目的で形成されるので(特許文献8の段落0042)、その被覆層の最表面層となる該表面改質剤層もその文言とおり層を成して形成されていると解される。
【0008】
このような特許文献8において、該表面改質剤層の直下に位置する最外層が塩基性基および少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーを重合反応させて得られるポリマーを含むのは、該最外層表面に該表面改質剤層のリン酸基に対する吸着サイトとなる塩基性点を形成させるためであり、これにより酸・塩基相互作用に起因する該表面改質剤層と該最外層との強固な吸着が可能となる(同段落)。しかし、このような構成は当該メタリック顔料を粉体塗料に用いた場合に耐食性を良好に維持することが可能であるという利点が奏されるが、このメタリック顔料を水性塗料に配合した場合には耐薬品性は同様に良好となるが、耐水(湿)性は実用上十分な水準には至っていなかった。したがって、耐薬品性を維持したまま耐水(湿)性をさらに向上させることが求められていた。
【0009】
一般に耐水(湿)性を付与するための表面処理では耐薬品性が改善されない傾向があり、また耐薬品性を付与する表面処理では耐水(湿)性が改善されない傾向があるため、耐薬品性と耐水(湿)性を実用上十分な水準で両立させた顔料を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開昭62−081460号公報
【特許文献2】特開昭62−253668号公報
【特許文献3】特開昭64−040566号公報
【特許文献4】特開2005−146111号公報
【特許文献5】特開2007−119671号公報
【特許文献6】特開2004−131542号公報
【特許文献7】特開2007−204692号公報
【特許文献8】国際公開第2006/064652号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような現状に鑑み鋭意検討を重ねたところ、メタリック顔料の諸特性を向上させるためにはその表面に被覆層を形成することが好ましいが、その被覆層の表面部に重合性二重結合が残存していると耐薬品性と耐水(湿)性を両立させる上で不都合となることが判明した。そして、さらに検討を重ねたところ、このような重合性二重結合は、被覆層の最表面を樹脂の連続層で形成した場合に、顕著に残存する傾向にあることも明らかとなった。
【0011】
本発明は、このような知見に基づきなされたものであって、塗膜の耐薬品性を維持したまま、水性塗料に配合して得られた塗膜の耐水(湿)性を実用上十分な水準に向上させた樹脂被覆メタリック顔料、それを含有する水性塗料、それが塗布された塗装物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料であって、該被覆層の最外層は2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物をその構成単位として含む重合体である樹脂からなり、該最外層の表面部は1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理されている樹脂被覆メタリック顔料に関する。
【0013】
ここで、上記表面改質剤は、不飽和カルボン酸のエステルであることが好ましい。また、上記基材粒子100質量部に対して上記表面改質剤を0.1〜10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0014】
また、上記基材粒子は、アルミニウム粒子であることが好ましく、アルミニウム粒子の表面に無機顔料または有機顔料を付着させた着色アルミニウム粒子であることが好ましい。また、上記基材粒子は、アルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を1層以上有する干渉色アルミニウム粒子であることが好ましい。
【0015】
また、上記樹脂被覆メタリック顔料は、水性塗料に用いられるものが好ましく、この点本発明はこの樹脂被覆メタリック顔料を含有してなる水性塗料にも関する。さらに本発明は、上記水性塗料が塗布された塗装物に関する。
【0016】
また、本発明は、基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料の製造方法であって、上記基材粒子の表面に、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を重合反応させることにより、該被覆層の最外層を形成する工程と、該最外層の表面部を1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理する工程と、を含む樹脂被覆メタリック顔料の製造方法に関する。
【0017】
ここで、上記表面改質剤により処理する工程は、該最外層の表面部に残存する重合性二重結合と該表面改質剤に含まれる重合性二重結合とを反応させることにより、該表面改質剤を該最外層の表面部に結合させるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、本発明の構成を有する樹脂被覆メタリック顔料を用いた塗膜の耐薬品性を維持したまま、水性塗料に用いた場合には、得られた塗膜の耐水(湿)性を実用上十分な水準に向上させることが可能となる。本発明は、このような構成の樹脂被覆メタリック顔料、それを含有する水性塗料、それが塗布された塗装物、およびその製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<樹脂被覆メタリック顔料>
本発明の樹脂被覆メタリック顔料は、基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した構成を有する。以下、各構成について説明する。
【0020】
<基材粒子>
本発明の樹脂被覆メタリック顔料の基材粒子としては、この種のメタリック顔料の基材粒子となるものであれば従来公知の基材粒子をいずれも用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、このような基材粒子として金属粒子または無機化合物粒子を使用することができる。金属粒子としては、アルミニウム、亜鉛、銅、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属粒子およびそれらの合金粒子が挙げられる。これらの金属粒子の中でもアルミニウム粒子は金属光沢に優れ、安価な上に比重が小さいため扱いやすく、特に好適である。一方、無機化合物粒子としては、ガラス、マイカ、アルミナまたはチタニアなどのセラミックス粒子が挙げられる。
【0021】
本発明における基材粒子の形状は、特に限定されず、たとえば、粒状、板状、塊状、フレーク状(鱗片状)、などの種々の形状を採用し得るが、塗膜に優れた輝度感を与えるためには、フレーク状であることが好ましい。また基材粒子の平均粒径は、通常1〜100μm程度が好ましく、より好ましくは3〜60μmである。基材粒子の平均粒径が1μm未満の場合には、製造工程での取り扱いが難しく、しかも凝集しやすくなる傾向があり、また該平均粒径が100μmを超えると、塗料として使用したときに塗膜表面が荒れて、好ましい意匠を実現できない場合がある。
【0022】
また、このような基材粒子の形状がフレーク状である場合、その平均厚みは、特に限定されるものではないが、0.005μm以上であることが好ましく、特に0.02μm以上であることがより好ましい。また、該平均厚みは、5μm以下であることが好ましく、特に3μm以下であることがより好ましい。基材粒子の平均厚みが0.005μm未満の場合には、製造工程での取り扱いが難しく、しかも凝集しやすくなる傾向があり、また該平均厚みが5μmを超えると、塗膜の粒子感(凹凸)が目だったり、隠蔽力が不足して、好ましい意匠を実現できない場合がある。
【0023】
上記のような基材粒子の平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布より体積平均を算出して求められる。また平均厚みについては、基材粒子の隠蔽力と密度とにより算出することができる。
【0024】
また、本発明においては、基材粒子として上記のようにその形状がフレーク状の金属粒子を用いることができるが、このようなフレーク状の金属粒子は、たとえば、原料となる金属粉末をボールミル等により磨砕することにより得ることができる。このようにして得られたフレーク状の金属粒子を基材粒子として用いる場合、金属粒子の表面には、磨砕時に添加する磨砕助剤が吸着していてもよい。磨砕助剤としては、たとえばオレイン酸やステアリン酸などの脂肪酸の他、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などが挙げられる。これらは金属粒子表面の不必要な酸化を抑制し、光沢を改善する効果を有する。磨砕助剤の吸着量は、金属粒子100質量部に対し2質量部未満であることが好ましい。2質量部未満である場合、表面光沢の低下が少ない上、被覆層が付着しやすい点で有利である。
【0025】
また、金属粒子としてアルミニウム粒子を用いる場合、該アルミニウム粒子は、その表面に無機顔料または有機顔料を付着させた着色アルミニウム粒子とすることができ、さらには、アルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を1層以上有する干渉色アルミニウム粒子とすることもできる。このような着色アルミニウム粒子または干渉色アルミニウム粒子を基材粒子として用いることで、独特の意匠性を有する塗膜を形成することが可能になる。
【0026】
ここで、着色アルミニウム粒子の形成に用いられる無機顔料または有機顔料は、特に限定されるものではないが、たとえば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、パールマイカ、透明パールマイカ、着色マイカ、干渉マイカ、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料、などが挙げられる。このような無機顔料または有機顔料は、たとえば、当該顔料を分散剤で被覆した後、非極性溶媒中でアルミニウム粒子と攪拌混合することにより、アルミニウム粒子の表面に付着させることができる。
【0027】
一方、干渉色アルミニウム粒子において、アルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を1層以上形成する方法としては、特に限定するものではないが、たとえば、ゾルゲル法、溶液析出法、無電解めっき法、化学蒸着法または物理蒸着法などが使用できる。そして、その際に用いられる化学物質としては、特に限定されるものではないが、たとえば、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、アルミニウム、珪素などの金属またはその合金からなる金属質(金属層となる)またはそれらの酸化物(無機化合物層となる)などが挙げられる。無機化合物層または金属層の層数は特に限定されず、一層のみであってもよいし、複数の層であってもよい。なお、このような無機化合物層または金属層の厚みは、5〜200nmとすることが好ましく、10〜150nmとすることがより好ましい。
【0028】
さらに、使用用途によっては、前述した着色アルミニウム粒子においてはアルミニウム粒子の表面に無機顔料または有機顔料を付着させる前に、あるいは、干渉色アルミニウム粒子においてはアルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を形成させる前に、前処理としてアルミニウム粒子の表面に、各種の機能性を付与する無機質層または有機質層を予め設けてもよい。
【0029】
<被覆層>
本発明の樹脂被覆メタリック顔料は、基材粒子の表面に単層または複層(2層以上)の被覆層が形成されている。単層の被覆層が形成される場合は、後述する最外層のみが被覆層となる。一方、複層の被覆層が形成される場合は、当該最外層が含まれる限り最外層以外の層は特に限定されず、いずれの層が含まれていても差し支えない。
【0030】
このような最外層以外の層としては、たとえば、金属質層(干渉色アルミニウム粒子における金属層と同様のもの)、金属の酸化物層(結晶質または非晶質)、金属の水酸化物層、金属の水和物層、樹脂層などが挙げられる。
【0031】
被覆層の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜150nmとすることが好ましく、10〜100nmとすることがより好ましい。
【0032】
<最外層>
本発明の樹脂被覆メタリック顔料を構成する被覆層の最外層は、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物をその構成単位として含む重合体である樹脂からなるものである。すなわち、該最外層を構成する樹脂は、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を重合させて得られるものである。なお、かかる重合は、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物のみを重合させてもよいし、当該1種以上の化合物と他の1または2以上の化合物とを重合させたものであってもよい。すなわち、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物をその構成単位として含む重合体とは、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物のみを重合させて得られる重合体のみを意味するものではなく、当該1種以上の化合物と他の1または2以上の化合物とを重合させて得られる重合体をも意味するものである。
【0033】
この最外層が形成されることにより、本発明の樹脂被覆メタリック顔料に良好な耐薬品性が付与される。これは、この最外層を構成する樹脂が2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を重合させて得られるものであることから、その重合性二重結合の架橋作用により耐薬品性が向上するためである。
【0034】
ここで、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーとしては、たとえば、不飽和カルボン酸エステル(具体的には、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−へキサンジオールジアクリレート、1,9−ナノンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−へキサンジオールジメタクリレート、1,9−ナノンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレートなど)が好ましく例示される。さらに、非環式不飽和化合物(たとえばジビニルベンゼン)等も好適に用いることができる。
【0035】
また、2個以上の重合性二重結合を有するオリゴマーとしては、たとえば、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、アクリル変性ポリエステル、アクリル変性ポリエーテル、アクリル変性ウレタン、アクリル変性エポキシ、アクリル変性スピラン(いずれも重合度2〜20程度)等を例示することができる。中でもアクリル変性ポリエステル、重合度3〜10のエポキシ化1,2−ポリブタジエンが好ましい。このようなオリゴマーの使用は、重合反応が徐々に進行し、反応効率が非常に高くなるという点で好ましい。
【0036】
一方、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物(便宜的に「第1化合物」とも記す)以外の化合物であって、当該第1化合物と重合することにより最外層を形成し得る1または2以上の化合物(このような化合物を便宜的に「第2化合物」と記す)としては、たとえば、環式不飽和化合物(例えばシクロヘキセン)や非環式不飽和化合物(例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、シクロヘキセンビニルモノオキシド、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルまたはジアリルベンゼン)などを挙げることができる。
【0037】
2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物が使用される量(すなわち最外層を構成する樹脂を形成するために重合させられる量)は、基材粒子の種類と特性によって異なるが、一般に基材粒子100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましいがこの限りではない。その使用量が1質量部未満では耐薬品性が低下する場合があり、40質量部を超えると隠蔽性や表面光沢が低下する場合がある。
【0038】
このような最外層の厚みは、基材粒子の種類と特性によって異なるが、5〜150nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。その厚みが5nm未満では耐薬品性が低下する場合があり、150nmを超えると隠蔽性や表面光沢が低下する場合がある。
【0039】
<最外層の表面部>
本発明は、上記最外層の表面部が1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理されていることを特徴とする。これにより、本発明の樹脂被覆メタリック顔料に優れた耐水(湿)性能が付与され、以って上述の通りの最外層自体が有する耐薬品性の向上作用と相俟って、耐薬品性と耐水(湿)性とを高度に両立させることが可能となったものである。したがって、本発明の樹脂被覆メタリック顔料を用いた塗膜の耐薬品性を維持したままで、水性塗料に用いた場合、得られる塗膜の耐水(湿)性を実用上十分な水準に向上させることが可能となった。
【0040】
ここで、本発明において最外層の表面部が表面改質剤で処理されるとは、最外層の表面部に残存する重合性二重結合(最外層となる樹脂を構成するモノマーまたはオリゴマーの未反応物に由来するもの)と表面改質剤に含まれる1個の重合性二重結合とが反応することにより、この表面改質剤を当該最外層の表面部に結合させるという処理操作を意味して用いられるが、この処理操作のメカニズムは本発明者の考察に基づくものである。すなわち、最外層を構成する樹脂は、前述の通り、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を重合反応させることにより生成する重合体からなるものであるが、この重合体は、重合反応終了後でも未反応の重合性二重結合が残存しているものと推測される。そして、この未反応の重合性二重結合は、反応性が高いことから種々の物質と反応しやすく、水性塗料中のワニス成分とも反応してしまうので、ワニス成分の硬化阻害を引き起こし本来の塗膜性能が発揮されず、耐水(湿)性が害される主要因になるものと考えられ、特に、その未反応の重合性二重結合が、最外層の表面部に残存する場合にこの傾向が顕著になるものと考えられる。そこで、この最外層の表面部に残存する未反応の重合性二重結合と表面改質剤に含まれる1個の重合性二重結合とを反応させることにより、その表面改質剤が最外層の表面部に結合すれば、結果的に最外層の表面部において反応性の高い重合性二重結合が消滅乃至減少することになる。これにより、化学的に安定な最外層表面(すなわち被覆層表面)が創出されるものと考察される。したがって、本発明の樹脂被覆メタリック顔料を水性塗料に用いた場合、水性塗料中のワニス成分の硬化阻害が発生せずに本来の塗膜性能が発揮され、塗膜の耐水(湿)性能が向上するものと考えられる。なお、最外層形成時に、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物と当該表面改質剤とを重合させたとしても、最外層表面部の未反応の重合性二重結合を消滅乃至減少させることはできない。最外層を一旦形成させた後に、その最外層の表面部を表面改質剤で処理することによってのみ上記効果が達成されることは、上記の考察から明らかである。この点、この最外層の表面部を数値で特定すること(たとえば最表面からの厚み等)は困難である。
【0041】
本発明において、上記表面改質剤の使用量(最外層の表面部を処理する量)は、基材粒子100質量部に対して0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.3〜5質量部とすることがより好ましい。該表面改質剤の使用量が0.1質量部未満の場合には、十分な耐水(湿)性が発現しない傾向がある。また、該表面改質剤の使用量が10質量部を超える場合、塗膜性能、たとえば、耐水(湿)性が十分に得られない場合がある。
【0042】
本発明の表面改質剤は、上記の通り、1個の重合性二重結合を有する化合物であるが、当該化合物としては、たとえば不飽和カルボン酸(たとえばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸など)、そのエステル(たとえば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート、n−ブトキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート)が好ましく例示される。中でも、上記不飽和カルボン酸のエステルを用いることが好ましい。不飽和カルボン酸のエステルは未反応の重合性二重結合をもつ重合体と容易に重合し、表面改質効果が得やすいためである。
【0043】
なお、前述の特許文献8における表面改質剤層は層を形成しているのに対して、本発明において使用する表面改質剤は、それに含まれる1個の重合性二重結合が最外層の表面に残存する重合性二重結合と反応するものであるから、当該表面改質剤は最外層の表面部に点在的に結合しており、決してそれ自体が層を形成するものではない。特許文献8のように表面改質剤層がその文言通り層として形成される場合、どのようにしても未反応の表面改質剤が残存するため結果的に反応性の高い重合性二重結合(未反応の表面改質剤に由来するもの)が表面改質剤層に残存することになる。
【0044】
なお、特許文献8における最外層のように、塩基性基および少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーを重合反応させて得られるポリマーを含む被覆層を形成した場合、当該ポリマー中には塩基性基および少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマー以外のモノマーおよび/またはオリゴマーも構成成分として含まれることになる。この場合には、特許文献8における最外層表面には未反応の重合性二重結合が残存しているので、その表面は化学的に安定ではない。よって、これを水性塗料に使用した場合に所望の効果(特に耐水(湿)性)を奏することはできない。さらに、特許文献8の最外層のように、塩基性基および少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーを重合反応させて得られるポリマーのみで被覆層を形成した場合には、層の形成に使用されなかった遊離のポリマー粒子の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固を引き起こす可能性がある。
【0045】
<製造方法>
本発明の樹脂被覆メタリック顔料の製造方法は、基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料の製造方法であって、上記基材粒子の表面に、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を重合反応させることにより、該被覆層の最外層を形成する工程と、該最外層の表面部を1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0046】
ここで、上記表面改質剤により処理する工程は、該最外層の表面部に残存する重合性二重結合と該表面改質剤に含まれる重合性二重結合とを反応させることにより、該表面改質剤を該最外層の表面部に結合させるものであることが好ましい。
【0047】
なお、本発明の製造方法は、上記被覆層が最外層以外の層を含む場合は、それらの最外層以外の層を形成する任意の工程を含むことができる。この場合、上記基材粒子の表面に最外層を形成するとは、当該最外層以外の層上に最外層が形成されることを意味する。
【0048】
<最外層を形成する工程>
上記被覆層の最外層を形成する工程(単に「最外層形成工程」とも記す)においては、たとえば、基材粒子を溶媒中に分散させた後、その分散液中に2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を加えて重合反応させることができる。これにより、基材粒子の表面に最外層を形成することができる。ここで、このように最外層を形成するには、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物(第1化合物)を添加するタイミングや添加回数は特に限定されず、1回で全量を添加してもよく、数回に分けて添加してもよい。なお、本発明の最外層形成工程においては、これらの第1化合物に加え、前述の第2化合物を加えることも可能である。
【0049】
重合反応に用いる(基材粒子を分散させる)上記溶媒の好ましい具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、トリクロルベンゼン、パークロルエチレン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−プロピルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、テトラハイドロフラン、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類などを例示できる。
【0050】
また、最外層形成工程においては、重合開始剤を用いることが好ましく、特に、一般にラジカル発生剤として知られているラジカル開始剤を用いることができる。重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、などのパーオキサイド類、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)のようなアゾ化合物などが挙げられる。
【0051】
ここで、重合反応させるための重合開始剤の配合量は、第1化合物100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、特に1質量部以上であることがより好ましい。また、この配合量は、30質量部以下であることが好ましく、特に20質量部以下であることがより好ましい。重合開始剤の配合量が0.5質量部以上である場合、重合反応を確実に進行させ、予定する量の最外層を容易に形成することができる点で好ましい。また配合量が30質量部以下である場合、重合の急激な進行を防止し、生成する重合体を確実に基材粒子へ吸着させることができ、遊離の重合体粒子の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固を防止できる点で好ましい。
【0052】
そして、当該最外層形成工程において、重合反応の温度は使用する重合開始剤の種類によって規定される。重合開始剤の半減期は温度によって一義的に決まり、重合開始剤の半減期が5分以上になるような温度が好ましく、特に15分以上になる温度がより好ましい。
【0053】
またこの温度は、重合開始剤の半減期が20時間以下になるような温度が好ましく、特に10時間以下になるような温度がより好ましい。たとえばAIBNを重合開始剤として用いる場合、70〜90℃がより好ましい温度範囲となる。重合開始剤の半減期が20時間以下になるような温度で重合反応が行なわれる場合、重合反応がなかなか進まないという問題が生じ難い点で好ましく、重合開始剤の半減期が5分以上になるような温度で重合反応が行なわれる場合、重合反応の急激な進行が防止され、生成する重合体が基材粒子に確実に吸着し、遊離の重合体粒子の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固が防止される点で好ましい。
【0054】
なお、このような最外層形成工程においては、重合収率を高めるため、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で重合反応を行なうのが有利である。
【0055】
<表面改質剤により処理する工程>
上記の最外層形成工程により基材粒子の表面に最外層を形成した後、1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により、この最外層の表面部を処理する工程(単に「表面改質剤処理工程」とも記す)を実行することにより本発明の樹脂被覆メタリック顔料は製造される。この表面改質剤処理工程は、該最外層の表面部に残存する重合性二重結合と該表面改質剤に含まれる重合性二重結合とを反応させることにより、該表面改質剤を該最外層の表面部に結合させるものであることが好ましい。
【0056】
このような表面改質剤処理工程は、たとえば、上記最外層形成工程後、最外層を形成した基材粒子を溶媒に分散させて、1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤を加え、適宜ラジカル開始剤などを用いて反応させることにより、該表面改質剤を該最外層の表面部に結合させることができる。
【0057】
なお、この表面改質剤処理工程は、このような方法のみに限られず、最外層形成工程後であればどのような方法で行なってもよい。たとえば、最外層形成工程で使用した溶媒を用いて最外層が形成された基材粒子を洗浄することにより未反応の最外層形成用のモノマーまたはオリゴマーを取り除いた後に表面改質剤処理工程を行なってもよい。この場合は、上記基材粒子を洗浄後に乾燥工程を経ることなく洗浄に使用した溶媒でスラリー化して表面改質剤処理工程を行なってもよいし、上記基材粒子を洗浄後に該基材粒子を乾燥工程を経て粉末化した後に溶媒を用いてこれを再度分散させて表面改質剤処理工程を行なってもよい。
【0058】
また、最外層形成工程により最外層を形成した基材粒子を重合反応で使用した溶媒を用いて洗浄することなく、そのような最外層形成工程を経た基材粒子が分散した溶媒中に引き続き表面改質剤を加えることにより表面改質剤処理工程を行なってもよい。基材粒子表面に形成された最外層に表面改質剤を緊密に結合させる点、および工程の簡素化や経済性を考慮すると、最外層形成工程により最外層を形成した基材粒子を重合反応で使用した溶媒を用いて改めて洗浄することなく、続けて表面改質剤を加えることにより表面改質剤処理工程を行なうことが特に好ましい。このため、表面改質剤処理工程で用いる溶媒は特に限定されないが、好ましくは最外層形成工程で用いた溶媒と同様の溶媒が用いられる。また、表面改質剤処理工程は、最外層形成工程において使用する最外層形成用のモノマーまたはオリゴマーの全てが重合反応していることが好ましいが、工業的生産の場合には当該モノマーまたはオリゴマーの全てを重合反応させることは長い反応時間を要する。したがって、最外層形成工程において添加した当該モノマーまたはオリゴマーの80質量%以上が重合反応していれば、未反応の当該モノマーまたはオリゴマーが残存していても最外層形成工程を経た基材粒子が分散した溶媒中に引き続き表面改質剤を加えることにより表面改質剤処理工程を行なってもかまわない。
【0059】
最外層の表面部に残存する重合性二重結合と表面改質剤に含まれる重合性二重結合とを効率よく確実に反応させるためには、重合開始剤を使用することが好ましい。使用する重合開始剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは最外層形成工程で重合反応に用いられる重合開始剤と同様の重合開始剤が用いられる。
【0060】
ここで、表面改質剤を反応させるための重合開始剤の配合量は、表面改質剤100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、特に1質量部以上であることがより好ましい。また、この配合量は、30質量部以下であることが好ましく、特に20質量部以下であることがより好ましい。重合開始剤の配合量が1質量部以上である場合、反応を確実に進行させ、最外層表面に残存する重合性二重結合のほとんどが表面改質剤(に含まれる重合性二重結合)と容易に結合する点で好ましい。また配合量が30質量部以下である場合、反応の急激な進行を防止し、表面改質剤同士の結合を防ぐことができるので表面改質剤を確実に最外層の表面に残存する重合性二重結合と結合させることができ、さらには表面改質剤同士が結合して生成した重合体の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固を防止できる点で好ましい。
【0061】
そして、上記の表面改質剤処理工程において、反応の温度は最外層形成工程と同様に使用する重合開始剤の種類によって規定される。重合開始剤の半減期は温度によって一義的に決まり、重合開始剤の半減期が5分以上になるような温度が好ましく、特に15分以上になる温度がより好ましい。
【0062】
またこの温度は、重合開始剤の半減期が20時間以下になるような温度が好ましく、特に10時間以下になるような温度がより好ましい。たとえばAIBNを重合開始剤として用いる場合、70〜90℃がより好ましい温度範囲となる。重合開始剤の半減期が20時間以下になるような温度で反応が行なわれる場合、反応がなかなか進まないという問題が生じ難い点で好ましく、重合開始剤の半減期が5分以上になるような温度で反応が行なわれる場合、反応の急激な進行を防止し、表面改質剤同士の結合を防ぐことができるので表面改質剤を確実に最外層の表面に残存する重合性二重結合と結合させることができ、さらには表面改質剤同士が結合して生成した重合体の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固を防止できる点で好ましい。
【0063】
なお、表面改質剤処理工程においては、反応効率を高めるため、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で重合反応を行なうのが有利である。表面改質剤処理工程終了後は、反応に使用した溶媒にて得られた本発明の樹脂被覆メタリック顔料を洗浄し、未反応のモノマーまたはオリゴマーならびに表面改質剤を取り除く。また、用途に応じて所定の溶媒で溶剤置換を行なってもよい。なお、このような表面改質剤処理工程は、1種または2種以上の表面改質剤を用いて行なうことができる。
【0064】
<用途>
本発明の樹脂被覆メタリック顔料は、好ましくは水性塗料に用いられる。この点、本発明は、この樹脂被覆メタリック顔料を含有してなる水性塗料にも関し、さらに上記水性塗料が塗布された塗装物にも関する。
【0065】
このように本発明の樹脂被覆メタリック顔料は、公知、慣用の水性塗料に配合して使用することができる。水性塗料としては、本発明の樹脂被覆メタリック顔料とバインダー(ワニス)とを含有する水性塗料が好ましく例示できる。これらの塗料は、1液性ばかりではなく、2液以上を混合して用いるものであっても良く、反応を伴うものであっても良い。本発明の樹脂被覆メタリック顔料を含有する水性塗料は、目的の色相に合わせて、他の顔料、染料を含むことができる。ただし、他の顔料は本発明の樹脂被覆メタリック顔料によるメタリック感を損なわない範囲で使用することが望ましい。バインダーとしては、一般的に使用されるバインダーであれば特に限定はないが、エマルジョンバインダーが好ましく例示できる。エマルジョンバインダーとしては天然あるいは合成の各種のポリマー、オリゴマー、プレポリマー等を使用することが可能である。これらの塗料においては、必要に応じて各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、たとえば、界面活性剤、安定剤、防錆剤、可塑剤、顔料湿潤剤、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、防かび剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0066】
なお、本発明の水性塗料を塗布する被塗装物は、このような水性塗料を塗布することができるものである限り、特に限定されることはない。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例および比較例に用いたモノマーおよびオリゴマーを表1に示す。
【0068】
<水性塗料の調製>
アクリルディスパージョン(Neuplex社製Setaqua6802)を31.48g、ポリウレタンディスパージョンA(住化バイエルウレタン社製バイヒドロールXP2621)を18.89g、ポリウレタンディスパージョンB(住化バイエルウレタン社製バイヒドロールPT241)を4.61g、メラミン化合物(三井サイテック社製Cymel327)を2.1g、ブチルグリコールを2.79g、界面活性剤(ビッグケミー・ジャパン社製Byk-347)を0.31g、増粘剤(ニチゴー・モビニール社製ビスカレックスHV30)を0.56g、イオン交換水を13.96g、および10%ジメチルエタノールアミン水溶液を3.04g、30分以上攪拌混合したものを組成物Iとする。
【0069】
また、不揮発分が1.12gに相当するメタリック顔料(以下の実施例では本発明の樹脂被覆メタリック顔料)をプラスチック容器に採取し、ブチルグリコール2.43gを添加し、ガラス棒にて均一に分散させる。さらに、分散剤(ビッグケミー・ジャパン社製Disperbyk190)2g、潤湿剤(ビッグケミー・ジャパン社製Byk-011)0.08g、顔料湿潤分散剤(楠本化成社製AQ320)0.12gを添加し10分以上攪拌混合させたものを組成物IIとする。
【0070】
そして、上記組成物Iと上記組成物IIとを10分以上攪拌混合した後、その混合物のpHが8以上となるように10%ジメチルエタノールアミン水溶液を加え、さらに10分以上攪拌混合する。その後、粘度が基準値(Ford cup No.4にてFlow Time 25秒)になるように適量のイオン交換水を加え、10分以上攪拌混合したものを水性塗料とした。
【0071】
さらに、ポリアクリレート(住化バイエルウレタン社製デスモフェンA870BA)51.15g、添加剤A(Borchers社製 Baysilone Paint Additive OL17の10%キシレン溶液)0.53g、添加剤B(Monsanto社製 Modaflowの1%キシレン溶液)0.53g、添加剤C(Ciba Spezialitatenchemie Lampertheim社製 Tinuvin292の10%キシレン溶液)5.3g、添加剤D(Ciba Spezialitatenchemie Lampertheim社製 Tinuvin1130の10%キシレン溶液)10.7g、希釈溶剤A(1−メトキシプロピルアセテート:ソルベントナフサ=1:1)10.17g、希釈溶剤B(ブチルグリコールアセテート)2.13gを30分以上攪拌混合する。その後イソシアヌレート(住化バイエルウレタン社製スミジュールN3300)とブチルアセテート:ソルベントナフサ=1:1混合溶剤とを、9:1で希釈したものを19.49g加え30分以上混合攪拌を行なったものをクリヤーコートとした。
【0072】
<塗板の作製方法>
上記のようにして調製した水性塗料を金属板にスプレー塗装した。得られたスプレー塗板を5分以上常温でセッティングした後、該スプレー塗板を80℃にて3分間乾燥した。その後スプレー塗板を10分以上常温でセッティングした後、該スプレー塗板にさらにクリヤーコートをスプレーにて塗布した。クリヤーコートを塗布後10分以上常温にてセッティングした後、130℃にて30分間焼き付けを行なうことによりスプレー塗装された塗板を得た。この塗板における塗膜の厚みは、水性塗料膜が14〜18μm、クリヤーコート膜が35〜40μmになるように上記スプレー塗装を行なう際に塗装条件を調整した。
【0073】
<測色>
上記で得られた塗板の色調を特定するために、変角測色計(X−Rite社製「X−Rite MA−68II」)を用いて観測角θが45度(塗膜法線方向にて受光)における、塗板に形成された塗膜の、L*45、a*45、b*45の値を測定した。また、以下に述べる各種試験(性能テスト)の前後における塗膜の色差ΔE*45は、試験前後に測定されたそれぞれのL*45、a*45、b*45値より算出した。
【0074】
<耐薬品性試験>
得られたメタリック顔料(以下の実施例では本発明の樹脂被覆メタリック顔料)4.88質量部と、ワニス(アクリディックA−165、大日本インキ化学工業(株)製)35.0質量部と、シンナー62.5質量部とを混ぜて、プラスチック板にスプレー塗装した。得られたスプレー塗板を10分間常温でセッティングした後、該スプレー塗板を50℃にて20分間加熱して塗膜を硬化させた。得られた塗板(予め上記の方法と同様の方法により測色を実施した)を、それぞれ0.1N水酸化ナトリウム水溶液と0.1N硫酸水溶液とに55℃で4時間浸漬した。その後、塗板を水洗、乾燥し、次いで上記の方法で測色することにより、浸漬前後での塗膜の色差を求めた。評価としては、「優」:ΔE*45が3未満、「可」:ΔE*45が3以上〜7未満、「不可」:ΔE*45が7以上とした。
【0075】
<耐水性試験>
上記の「塗板の作製方法」により得られた塗板を40℃に保持された水槽に10日間浸漬した。その後、塗膜の光沢保持率、色差および密着性を評価した。なお、この耐水性試験は、本発明でいう耐水(湿)性を評価するものである。
【0076】
(1) 光沢保持率
塗膜の光沢は、光沢計(日本電色工業(株)製、Gloss Meter VG2000)を用いて20度光沢を測定した。浸漬前の塗板の20度光沢の測定値をG1、浸漬後の塗板の20度光沢の測定値をG2とし、光沢保持率Rを下式によって求めた。
【0077】
R(%)=(G2/G1)×100
評価としては、「優」:Rが90%以上、「可」:Rが80%以上〜90%未満、「不可」:Rが80%未満とした。
【0078】
(2) 色差
上記の「塗板の作製方法」により得られた塗板について、上記浸漬前後のΔE*45を上記の測色法で求めた。評価としては、「優」:ΔE*45が3未満、「可」:ΔE*45が3以上〜7未満、「不可」:ΔE*45が7以上とした。
【0079】
(3) 密着性
上記の「塗板の作製方法」により得られた塗板について、上記の浸漬後の塗板の塗膜上に幅2cm、長さ2cmにわたって2mm間隔で碁盤目状に切れ目を入れ、セロテープ(登録商標:ニチバン(株)製、CT−24)を塗膜に密着させ、45度の角度で引っ張り、該塗膜(メタリック顔料粒子)の上記碁盤目状部分の剥離度合いを目視で観察した。観察結果に応じて、「優」:剥離なし、「可」:やや剥離あり、「不可」:剥離あり、と評価した。
【0080】
<実施例1>
まず、基材粒子であるフレーク状のアルミニウム粒子のペースト(商品名5422NS、粒径:19μm、ペースト化剤:ミネラルスピリット、東洋アルミニウム(株)製)をミネラルスピリットで洗浄し、次いで濾過した。濾過後のペーストの不揮発成分(アルミニウム粒子)は74質量%(残部はミネラルスピリット)であった。
【0081】
3リットルのセパラブルフラスコにおいて、このペースト405.4g(不揮発成分は300g)にミネラルスピリット1500gを添加した後、攪拌することによりスラリーとした。該攪拌を継続しつつ、系内に窒素ガスをパージして窒素雰囲気下とした後、80℃まで昇温した。以下の操作は、特にことわりの無い限り本条件を維持したまま行なっている。
【0082】
次いで、アクリル酸(表1中の記号「A」)0.5g、ミネラルスピリットで50質量%に希釈したエポキシ化1,2−ポリブタジエン(表1中の記号「B」)3.0g、ジビニルベンゼン(表1中の記号「C」)1.5g、トリメチロールプロパントリアクリレート(表1中の記号「D」)9.8g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.6gを上記のスラリーに添加した。上記のモノマーおよびAIBN添加後3時間反応させた(最外層形成工程)。
【0083】
その後、続けて上記スラリーに、表面改質剤としてラウリルメタクリレート(表1中の記号「E」)3.0g(不揮発成分(アルミニウム粒子)100質量部に対して1質量部に相当)、AIBN0.5gを添加し、さらに5時間反応させた(表面改質剤処理工程)。冷却し反応を終了させた後、濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄し、本発明の樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態(固形分:70質量%)で得た。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、上記の方法で水性塗料を調製するとともに耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果を表2に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
なお、表1中「重合性二重結合の数」は、個々のモノマーまたは個々のオリゴマー当たりの重合性二重結合の数を示す。このように本発明において重合性二重結合の数は個々のモノマーまたは個々のオリゴマー当たりの個数をいうものとする。
【0086】
【表2】

【0087】
<実施例2〜6>
実施例2〜6は、表面改質剤として、それぞれグリシジルメタクリレート(表1中の記号「F」)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(表1中の記号「G」)、ジエチルアミノエチルアクリレート(表1中の記号「H」)、2−エチルヘキシルアクリレート(表1中の記号「I」)、ヒドロキシエチルアクリレート(表1中の記号「J」)を、各3.0g(不揮発成分100質量部に対して1質量部)を使用したことを除き、他は実施例1と同様な処理を施し、本発明の樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果をそれぞれ表2に示した。
【0088】
<実施例7〜10>
実施例7〜10は、表面改質剤であるラウリルメタクリレート(表1中の記号「E」)の添加量をそれぞれ0.15g、0.6g、15g、45g(不揮発成分(アルミニウム粒子)100質量部に対してそれぞれ0.05、0.2、5、15質量部)としたことを除き、他は実施例1と同様な処理を施し、本発明の樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果をそれぞれ表2に示した。
【0089】
<実施例11>
最外層形成工程を実施するスラリーを実施例1と同様にして調製した。
【0090】
そして、アクリル酸(表1中の記号「A」)0.5g、ジビニルベンゼン(表1中の記号「C」)3.0g、トリメチロールプロパントリアクリレート(表1中の記号「D」)9.8g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.6gを、上記で調製したスラリーに添加した。上記のモノマーおよびAIBN添加後3時間反応させた(最外層形成工程)。
【0091】
その後、続けて上記スラリーに表面改質剤としてラウリルメタクリレート(表1中の記号「E」)3.0g(不揮発成分(アルミニウム粒子)100質量部に対して1質量部)、AIBN0.5gを添加し、さらに5時間反応させた(表面改質剤処理工程)。冷却し反応を終了させた後、濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄し、本発明の樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果を表2に示した。
【0092】
<実施例12〜16>
実施例12〜16は、基材粒子として、それぞれフレーク状の着色アルミニウム粒子(東洋アルミニウム(株)製アルミニウムフレーク(商品名5422NS、粒径:19μm)を特開平9−124973号公報の実施例1に準じた方法で予め着色処理を行なったもの)、干渉色アルミニウム粒子(東洋アルミニウム(株)製アルミニウムフレーク(商品名5422NS、粒径:19μm)を国際公開第2007/094253号パンフレットの実施例1に準じた方法で予め干渉色の着色処理を行なったもの)、フレーク状のステンレス粒子(市販品、粒径:20μm、金属粒子に相当)、フレーク状のアルミナ粒子(市販品、粒径:6μm、無機化合物粒子に相当)、フレーク状のマイカ粒子(市販品、粒径:15μm、無機化合物粒子に相当)を使用したことを除き、他は実施例1と同様な処理を施し、本発明の樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果をそれぞれ表2に示した。
【0093】
<比較例1>
実施例1において、表面改質剤処理工程を実施しないことを除き、他は実施例1と同様な処理を施し、樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果を表2に示した。本比較例は、最外層形成工程のみを実施して樹脂被覆メタリック顔料を製造したものに該当する。
【0094】
<比較例2>
最外層形成工程を実施するスラリーを実施例1と同様にして調製した。
【0095】
そして、アクリル酸(表1中の記号「A」)0.5g、ミネラルスピリットで50質量%に希釈したエポキシ化1,2−ポリブタジエン(表1中の記号「B」)3.0g、ジビニルベンゼン(表1中の記号「C」)1.5g、トリメチロールプロパントリアクリレート(表1中の記号「D」)9.8g、ラウリルメタクリレート(表1中の記号「E」、ただし本比較例においては表面改質剤としてではなく、最外層を構成する一モノマーとして添加)3.0g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.6gを、上記で調製したスラリーに添加した。モノマーおよびAIBN添加後8時間反応させ、冷却し反応を終了させた後、濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄し、樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た(最外層形成工程)。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果を表2に示した。本比較例も、最外層形成工程のみを実施して樹脂被覆メタリック顔料を製造したものに該当する。
【0096】
<比較例3>
最外層形成工程を実施するスラリーを実施例1と同様にして調製した。
【0097】
そして、アクリル酸(表1中の記号「A」)0.5g、ジビニルベンゼン(表1中の記号「C」)3.0g、トリメチロールプロパントリアクリレート(表1中の記号「D」)9.8g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.6gを、上記で調製したスラリーに添加した。モノマーおよびAIBN添加後8時間反応させ、冷却し反応を終了させた後、濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄し、樹脂被覆メタリック顔料をペースト状態で得た(最外層形成工程)。得られた樹脂被覆メタリック顔料について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果を表2に示した。本比較例も、最外層形成工程のみを実施して樹脂被覆メタリック顔料を製造したものに該当する。
【0098】
<比較例4>
市販のフレーク状のアルミニウム粒子のペーストであるメタリック顔料ペースト(商品名5422NS、粒径:19μm、東洋アルミニウム(株)製)について、実施例1と同様にして耐薬品性試験および耐水性試験を実施し、その結果を表2に示した。本比較例は、最外層形成工程および表面改質剤処理工程を有しない基材粒子自体に該当する。
【0099】
表2に示す結果から、本発明の構成を有する各実施例の樹脂被覆メタリック顔料においては、最外層の表面部が表面改質剤で処理されていない各比較例の樹脂被覆メタリック顔料または樹脂被覆を伴わないメタリック顔料と比べて、耐薬品性および耐水性の両者について良好な結果が得られた。この結果は、表面改質剤の種類を換えたもの(実施例2〜6)、表面改質剤の添加量を換えたもの(実施例7〜10)、最外層のモノマーまたはオリゴマーの種類を換えたもの(実施例11)、および基材粒子の種類を換えたもの(実施例12〜16)のいずれにおいても示された。
【0100】
よって、本発明の樹脂被覆メタリック顔料によれば、耐薬品性と耐水性とを両立させた塗膜を得ることができることは明らかである。
【0101】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0102】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、それを含む塗膜の耐薬品性を維持したままで、それを水性塗料に配合した場合には得られた塗膜の耐水(湿)性を実用上十分な水準に向上させた樹脂被覆メタリック顔料、それを含有する水性塗料、それが塗布された塗装物、およびその製造方法の提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料であって、
前記被覆層の最外層は、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物をその構成単位として含む重合体である樹脂からなり、
前記最外層の表面部は、1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理されている樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項2】
前記表面改質剤は、不飽和カルボン酸のエステルである請求項1に記載の樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項3】
前記基材粒子100質量部に対して前記表面改質剤を0.1〜10質量部の割合で含む請求項1または2に記載の樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項4】
前記基材粒子は、アルミニウム粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項5】
前記基材粒子は、アルミニウム粒子の表面に無機顔料または有機顔料を付着させた着色アルミニウム粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項6】
前記基材粒子は、アルミニウム粒子の表面に干渉作用を示す無機化合物層または金属層を1層以上有する干渉色アルミニウム粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項7】
前記樹脂被覆メタリック顔料は、水性塗料に用いられるものである請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂被覆メタリック顔料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂被覆メタリック顔料を含有してなる水性塗料。
【請求項9】
請求項8に記載の水性塗料が塗布された塗装物。
【請求項10】
基材粒子の表面に単層または複層の被覆層を形成した樹脂被覆メタリック顔料の製造方法であって、
前記基材粒子の表面に、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーから選ばれた1種以上の化合物を重合反応させることにより、前記被覆層の最外層を形成する工程と、
前記最外層の表面部を、1個の重合性二重結合を有する化合物である表面改質剤により処理する工程と、を含む樹脂被覆メタリック顔料の製造方法。
【請求項11】
前記表面改質剤により処理する工程は、前記最外層の表面部に残存する重合性二重結合と前記表面改質剤に含まれる重合性二重結合とを反応させることにより、前記表面改質剤を前記最外層の表面部に結合させるものである請求項10に記載の樹脂被覆メタリック顔料の製造方法。

【公開番号】特開2010−70617(P2010−70617A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238204(P2008−238204)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】