説明

樹脂被覆部材の表面処理方法

【課題】 金属基体上に、熱可塑性樹脂層と熱硬化性樹脂層とを含む複数の樹脂層が積層されてなる樹脂被覆部材において、これら樹脂層を効率良くかつ低コストで剥離することができ、しかも、基体を傷めることがない樹脂被覆部材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 金属基体上に、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層と、少なくとも1層の熱硬化性樹脂層とが順次積層されてなる樹脂被覆部材の表面処理方法であって、熱硬化性樹脂層をブラスト処理により剥離した後、熱可塑性樹脂層を、高温水蒸気による熱分解と、加水分解とにより除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂被覆部材の表面処理方法(以下、単に「表面処理方法」とも称する)に関し、詳しくは、金属基体上に複数の異なる樹脂層を備える樹脂被覆部材に関して、製造工程で発生する不良品の再生や、市場回収品のリサイクルに際し好適に適用可能な樹脂被覆部材の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファックス等に用いられる感光ドラム等、金属基体上に複数の異なる樹脂層が形成されてなる構造を有する各種部材に関して、製造工程で発生する不良品や市場回収品はほとんどが産業廃棄物として処理されてきたが、近年の環境保護の観点から、リサイクルすることが望まれている。これらの部材のリサイクルを行うに際しては、従来、溶剤に浸漬するか、または、ブラスト処理を行うことにより樹脂層を剥離する手法が一般的に用いられている。
【0003】
感光ドラム表面の樹脂層を溶剤により剥離する技術に関しては、例えば、特許文献1に、金属製基体表面に熱硬化性樹脂層が設けられている電子写真部材を、この熱硬化性樹脂のガラス転移温度以上の温度に過熱した極性溶媒等の液体に浸漬し、金属製基体表面から熱硬化性樹脂層を剥離する塗工膜剥離方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−131451号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来一般的に用いられてきた溶剤を用いた方法に関しては、近年のVOC規制(Volatile Organic Compounds:有機化合物排出規制)の問題から、人体に有害な有機溶剤、特には塩化メチル系等の溶剤の使用が制限されるようになってきており、剥離力の強い有機溶剤は自然環境に対する負荷も大きいことから、今後、使用できなくなることが予想される。一方、環境への負荷を低減した溶剤は、その剥離力についても低下してしまうため、実用性に乏しく、この場合、剥離残りの部分については人の手に頼った処理を行うことが必要となっており、人体に対する負荷も低減できなかった。
【0005】
また、ブラスト処理については、特に感光ドラム等の寸法精度が非常に厳しく管理された用途では、基材を傷つけるおそれのある金属系の投射材は使用できないため、下地をあまり傷めずに表層部の樹脂層のみを剥離することが可能な樹脂系の投射材を使用することが有効である。しかしながら、樹脂層を完全に剥離するまでブラスト処理を行えば、必ず基材表面まで投射が行われることになるため、基材の表層部についても摩耗・損傷を受けることは避けられなかった。
【0006】
上述のように、樹脂被覆部材における樹脂層の剥離に関しては未だ十分な技術が存在せず、従来のような問題を生ずることなく樹脂被覆部材の表面処理を行うことのできる技術が求められていた。中でも、感光ドラム等のように、金属基体上に、異なる複数の樹脂層として熱可塑性樹脂層と熱硬化性樹脂層とが積層されてなる樹脂被覆部材の場合には、これら特性の異なる各樹脂層の剥離を適切に行うことは困難であり、基体にダメージを与えることなく、これら各層を効率良くかつ低コストで剥離できる技術を実現することが求められていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、金属基体上に、熱可塑性樹脂層と熱硬化性樹脂層とを含む複数の樹脂層が積層されてなる樹脂被覆部材において、これら樹脂層を効率良くかつ低コストで剥離することができ、しかも、基体を傷めることがない樹脂被覆部材の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、従来のように全樹脂層をブラスト処理により剥離するのではなく、表層側の熱硬化性樹脂層のみをブラスト処理により剥離し、残る熱可塑性樹脂層については熱分解および加水分解により除去する方法を用いることで、低コストでかつ効率の良い樹脂被覆部材の表面処理が可能となり、また、金属基体を傷めることもないことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の樹脂被覆部材の表面処理方法は、金属基体上に、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層と、少なくとも1層の熱硬化性樹脂層とが順次積層されてなる樹脂被覆部材の表面処理方法であって、前記熱硬化性樹脂層をブラスト処理により剥離した後、前記熱可塑性樹脂層を、高温水蒸気による熱分解と、加水分解とにより除去することを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記ブラスト処理における投射材として、熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂投射材を好適に用いることができ、特には、粒径50〜1000μmの範囲の熱硬化性樹脂成形物の粉砕物であって、各粒子が実質的に鋭利な稜線を持つ不定形な多面体であり、かつ、分級段階ごとに粒度がほぼ均質化された粉砕物を用いることが好ましい。また、前記ブラスト処理においては、エア式ブラスト装置を好適に用いることができる。本発明は、前記樹脂被覆部材としての感光ドラム等に好適に適用可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面処理方法によれば、上記構成としたことにより、樹脂被覆部材において、金属基体上に積層された複数の樹脂層を効率良くかつ低コストで剥離することができ、しかも、基体を傷めることがない。本発明の表面処理方法は、プリンタ等の部品としての感光ドラム等に関する、工程内不良品の再生や市場回収品のリサイクルに好適に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態につき詳細に説明する。
本発明は、金属基体上に、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層と、少なくとも1層の熱硬化性樹脂層とが順次積層されてなる樹脂被覆部材の表面処理方法であり、このうち表層側の熱硬化性樹脂層をブラスト処理により剥離した後、残った熱可塑性樹脂層を、高温水蒸気による熱分解と、加水分解とにより除去する点に特徴を有する。ブラスト処理と、熱分解および加水分解を用いた処理とを組み合わせたことで、熱硬化性樹脂層と熱可塑性樹脂層とをいずれも良好に剥離・除去することが可能となり、かつ、従来のブラスト処理のみによる剥離の場合のように金属基体を傷めることもない。
【0013】
本発明におけるブラスト処理は、表層側の熱硬化性樹脂層を剥離することができるものであれば、その処理条件等については特に制限されるものではないが、例えば、以下のように行うことができる。
【0014】
ブラスト処理に用いる投射材は、特に制限されるものではないが、金属基体の傷つきを防止する観点から、熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂投射材を好適に用いることができる。かかる熱硬化性樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、メラミン樹脂(メラミン−フォルムアルデヒド樹脂)、ユリア樹脂(尿素−フォルムアルデヒド樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、グアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができ、その他、これら樹脂に匹敵する硬度を有する樹脂も使用することが可能である。これら熱硬化性樹脂を用いた投射材は、吹き付け後、回収し、30〜40回程度繰り返し循環させて使用することができる。
【0015】
本発明に使用可能な樹脂投射材としては、具体的には例えば、粒径50〜1000μmの範囲の熱硬化性樹脂成形物の粉砕物であって、各粒子が実質的に鋭利な稜線を持つ不定形な多面体であり、かつ、分級段階ごとに粒度がほぼ均質化された粉砕物を好適に用いることができる。このような粉砕物は、国際公開第00/45994号パンフレットに記載の方法により得ることができる。
【0016】
また、ブラスト装置としては、エア式ブラスト装置を用いることが好ましく、これにより金属基体を傷つけずに、表層側の熱硬化性樹脂層を確実に除去することが可能となる。中でも、直噴射式のエア式ブラスト装置が好適であるが、その他、遠心式、バレル式なども使用可能であり、特に制限されるものではなく、用途や使用環境に応じて適宜選定して用いることができる。
【0017】
さらに、投射材の吹き付けに用いるノズルについても、特に制限されるものではなく、通常ブラスト処理に用いるものを適宜選択して使用することが可能であるが、例えば、口径φ4〜6mm程度の小径のものを用いることが好ましい。また、投射材の噴射圧は0.3〜0.5MPa程度とすることができる。
【0018】
具体的なブラスト処理方法としては、例えば、樹脂被覆部材が円筒状の感光ドラムである場合には、感光ドラムを回転させながら、吹き付けノズルを一定速度で感光ドラムの長手方向に送る方法を用いることができ、これにより感光ドラムの表面全体をブラスト処理することができる。この際、樹脂被覆部材と吹き付けノズルとの距離、吹き付け角度、噴射流量、噴射圧、噴射時間等を適宜調整することで、表面の熱硬化性樹脂層のみを良好に剥離・除去することができる。例えば、厚み25〜30μmの熱硬化性樹脂層が形成された長さ300mm程度の感光ドラムの場合、感光ドラムを30〜100rpmで回転させ、投射材としてMG−05((株)ブリヂストン製 メラミン系樹脂投射材、粒径:約300〜500μm)を用いて、噴射圧0.3〜0.5MPaにて、口径φ4〜6mmの吹き付けノズルを1〜20mm/secのスピードで平行移動させながらブラスト処理を行うことで、処理時間約60〜120秒で剥離を完了することができる。
【0019】
本発明においては、前述したように、ブラスト処理により熱硬化性樹脂層を剥離した後、残った熱可塑性樹脂層を、350〜450℃程度の高温水蒸気による熱分解と加水分解とにより除去する。熱可塑性樹脂層は、これら熱分解および加水分解によりモノマー化され、最終的にはガス化されて除去されるため、これにより、ブラスト処理の場合のように表面粗さを変化させることもなく、金属基材上の樹脂層を完全に剥離・除去して、金属基材を初期状態に再生することができる。この熱可塑性樹脂層の除去工程は、例えば、一般的な加水分解装置を用いて行うことができる。この場合、熱可塑性樹脂の除去時間としては、約2〜8時間程度必要となる。
【0020】
本発明を適用することのできる樹脂被覆部材としては、特に制限されるものではないが、例えば、感光ドラムを挙げることができ、この場合の金属基体としては、例えば、アルミニウムである。また、本発明の適用可能な熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂についても特に制限はなく、いかなるものであってもよい。本発明は、前述したように、これら樹脂被覆部材の製造工程における不良品の再生や、市場回収品のリサイクルに好適に適用可能である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
アルミニウム基体上に、厚み25μmの熱可塑性樹脂層と、厚み25μmのフェノール樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂層とが順次積層されてなる長さ約300mmの感光ドラムをサンプルとして用いた。
【0022】
この感光ドラムを200rpmで回転させ、投射材としてMG−05((株)ブリヂストン製 樹脂投射材、粒径:約300〜500μm)を用いて、噴射圧0.5MPaにて、口径φ6mmの吹き付けノズルで約2分間ブラスト処理を行うことで、熱硬化性樹脂層を剥離することができた。次いで、加水分解装置(ムーブエンジニアリング(MOVEngineering)社製のポリマー除去装置HYPOX)を用いて、約3時間処理を行うことで、熱可塑性樹脂層を除去した。
【0023】
結果として得られたアルミニウム基体の表面粗さRaは約0.2μmで、未使用のアルミニウム基体の表面粗さと同等であり、本発明の表面処理により、アルミニウム基体表面を傷めることなく、樹脂層のみを剥離・除去できることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体上に、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層と、少なくとも1層の熱硬化性樹脂層とが順次積層されてなる樹脂被覆部材の表面処理方法であって、前記熱硬化性樹脂層をブラスト処理により剥離した後、前記熱可塑性樹脂層を、高温水蒸気による熱分解と、加水分解とにより除去することを特徴とする樹脂被覆部材の表面処理方法。
【請求項2】
前記ブラスト処理における投射材として、熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂投射材を用いる請求項1記載の樹脂被覆部材の表面処理方法。
【請求項3】
前記ブラスト処理における樹脂投射材として、粒径50〜1000μmの範囲の熱硬化性樹脂成形物の粉砕物であって、各粒子が実質的に鋭利な稜線を持つ不定形な多面体であり、かつ、分級段階ごとに粒度がほぼ均質化された粉砕物を用いる請求項2記載の樹脂被覆部材の表面処理方法。
【請求項4】
前記ブラスト処理においてエア式ブラスト装置を用いる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の樹脂被覆部材の表面処理方法。
【請求項5】
前記樹脂被覆部材が感光ドラムである請求項1〜4のうちいずれか一項記載の樹脂被覆部材の表面処理方法。

【公開番号】特開2006−334734(P2006−334734A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163167(P2005−163167)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】