説明

樹脂被覆鋼材の製造方法

【課題】クロムを含む化成処理層を用いずに、樹脂被覆層の陰極剥離を防止でき、長期的な密着耐久性に優れる樹脂被覆鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材11の表面に、下記A群から選ばれた少なくとも1種の酸と下記B群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する水溶液を塗布、水洗、乾燥させて化成処理層12を形成後、エポキシプライマー層13、ポリオレフィン接着剤層14およびポリオレフィン防食層15を順次積層することを特徴とする樹脂被覆鋼材10の製造方法;A群:ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、リン酸、縮合リン酸、シュウ酸、B群:V系化合物、Mo系化合物、W系化合物、Y系化合物、Zr系化合物、Bi系化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中、河川中および海洋中あるいは海浜地域のような腐食環境の極めて厳しい条件下で用いられる重防食の樹脂被覆鋼材、特に、クロメート処理を行わなくても長期的な密着耐久性に優れる樹脂被覆鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中、河川中および海洋中あるいは海浜地域のような腐食環境の極めて厳しい条件下で用いられる鋼管、鋼矢板、鋼管矢板などの鋼構造部材には、数十年以上の長期にわたる防食性を付与するために、ウレタンエラストマーやポリエチレン樹脂等からなる接着剤層と樹脂防食層を積層した重防食の樹脂被覆鋼材が用いられている。最上層にある樹脂防食層は外部からの腐食因子を遮断し、機械的衝撃を緩和する機能を担い、その下の接着剤層は鋼材との密着強度を確保する機能を担っている。また、通常は、腐食反応を抑制してこうした樹脂被覆層と鋼材との長期的な密着耐久性を確保するため、鋼材には樹脂被覆層の形成前にクロメート処理層のような化成処理層が形成される。特に、このクロメート処理層は、次のような電気防食が併用される場合に効果的である。すなわち、海洋環境において鋼管杭や鋼矢板を防食する際には、コスト削減の観点より、飛沫帯からさく望平均干潮面より海中部に1m入った領域のみを樹脂被覆で防食し、その他の海中部は電気防食を用いて防食するのが一般的である。このときクロメート処理層が形成されてないと、樹脂被覆層と鋼材の界面に到達した酸素が防食電流によって積極的に還元され、アルカリが発生するため樹脂被覆層が剥離しやすくなる、いわゆる陰極剥離現象が起こり、密着耐久性が大きく低下する。一方、クロメート処理層が形成されていれば、こうした陰極剥離は抑制され、樹脂被覆層と鋼材との長期的な密着耐久性が確保される。
【0003】
しかし、近年、6価クロムの環境に及ぼす影響が懸念されており、現行では上記のような鋼構造部材の分野において法的規制がないものの、近い将来、クロメート処理が事実上禁止されことが予想される。そこで、クロメート処理層を用いずに、樹脂被覆鋼材の陰極剥離を防止する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、Al、Ga、In、Tlの水酸化物あるいはオキシ水酸化物からなる群から1つ以上選ばれた組成物を含み、その金属元素の付着量が0.01〜10g/m2である化成処理層を鋼材面に塗布した樹脂被覆鋼材が開示されている。また、特許文献2には、重リン酸マグネシウムに水分散シリカの微粒子を質量比で0.3〜4.0の割合で添加した水溶液を、重リン酸マグネシウムの付着量が0.5〜5g/m2となるように鋼材面に塗布した防食被覆鋼材が開示されている。
【特許文献1】特開2006-283160号公報
【特許文献2】特開2006-249459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂被覆鋼材では、化成処理層がない場合に比べれば改善効果があるものの、その効果は従来のクロメート処理層には及ばず、長期的な密着耐久性は十分ではない。また、特許文献2に記載の防食被覆鋼材では、重リン酸マグネシウムは水に比較的容易に溶解するリン酸塩であり、その乾燥過程においてもクロメート処理の場合と違って高分子化が起こらないため、実使用条件のように電位が印加される場合には、陰極剥離の抑制効果はほとんど認められない。
【0005】
本発明は、クロメート処理層のようなクロムを含む化成処理層を用いずに、樹脂被覆層の陰極剥離を防止でき、長期的な密着耐久性に優れる樹脂被覆鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、鋼材の表面に、下記A群から選ばれた少なくとも1種の酸と下記B群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する水溶液を塗布、水洗、乾燥させて化成処理層を形成後、エポキシプライマー層、ポリオレフィン接着剤層およびポリオレフィン防食層を順次積層することを特徴とする樹脂被覆鋼材の製造方法により達成される。
A群:ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、リン酸、縮合リン酸、シュウ酸
B群:V系化合物、Mo系化合物、W系化合物、Y系化合物、Zr系化合物、Bi系化合物
本発明の樹脂被覆鋼材の製造方法では、水溶液に、さらに過酸化水素水を含有させることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、クロメート処理層のようなクロムを含む化成処理層を用いずに、樹脂被覆層の陰極剥離を防止でき、長期的な密着耐久性に優れる樹脂被覆鋼材を製造できるようになった。本発明の製造方法により製造された樹脂被覆鋼材は、環境にやさしく、地中、河川中および海洋中あるいは海浜地域のような腐食環境の極めて厳しい条件下で用いられる鋼構造部材に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1に、本発明の製造方法により製造された樹脂被覆鋼材の断面構造を模式的に示す。本発明の製造方法では、素地鋼材11の表面に、化成処理層12を形成後、その上にエポキシプライマー層13、ポリオレフィン接着剤層14およびポリオレフィン防食層15を順次形成するが、化成処理層12を、クロムを含有しない本発明固有の組成の水溶液を塗布し、水洗、乾燥することにより形成させて、長期的な密着耐久性に優れる樹脂被覆鋼材10の製造を可能にしたことに特徴がある。以下に、その詳細を説明する。
【0009】
1)化成処理層
クロムを含まず、樹脂被覆層の陰極剥離を防止できる化成処理層としては、下記A群から選ばれた少なくとも1種の酸と下記B群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する水溶液を塗布、水洗、乾燥させて形成させた化成処理層とする必要がある。
A群:ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、リン酸、縮合リン酸、シュウ酸
B群:V系化合物、Mo系化合物、W系化合物、Y系化合物、Zr系化合物、Bi系化合物
このとき、V系、Mo系、W系、Y系、Zr系、Bi系化合物としては、酸化物、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩等が好ましい。
【0010】
上記水溶液塗布後の乾燥させる手段としては、例えば、熱風による加熱、バーナーによる加熱、インダクションヒーターによる加熱等が挙げられる。
【0011】
さらなる密着耐久性の向上を目的として、上記化成処理の水溶液に過酸化水素水を添加することが好ましい。このとき、添加量としては1〜100質量%が好適である。これは、添加量が1質量%未満だと、密着耐久性向上の効果が顕著ではなく、100質量%を超えると化成処理液の化学的安定性が損なわれる場合があるためである。
【0012】
2)エポキシプライマー層
エポキシプライマー層は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、あるいはこれらの混合物と脂肪族系ポリアミン、芳香族系ポリアミン、ジシアンジアミドあるいはイミダゾール系化合物との反応硬化物からなることが好ましい。
【0013】
エポキシプライマー層の層厚は5〜100μmが好ましい。鋼材面が十分に被覆されないため密着強度が低下し、100μmを超えた場合には、コスト増に見合う防食性の向上が得られないからである。
【0014】
エポキシプライマー層には、密着耐久性の向上を目的として、防錆顔料を添加することが好ましい。防錆顔料としては、リン酸亜鉛、トリポリリン酸2水素アルミニウム、カルシウムイオン交換シリカ等が好ましく、エポキシプライマー層を構成する樹脂に対して10〜100質量%添加するのが好ましい。これは、防錆顔料の添加量が10質量%未満の場合には、樹脂被覆鋼材の密着耐久性向上への寄与が少なく、100質量%を超える場合には、エポキシプライマー層がポーラスになり密着強度が低下する場合があるからである。
【0015】
エポキシプライマー層の形成方法は、特に限定しないが、スプレー塗布が挙げられる。
【0016】
3)ポリオレフィン接着剤層
ポリオレフィン接着剤層には、無水マレイン酸変性のポリオレフィンを用いることは好ましい。ポリオレフィン接着剤層の層厚は50〜800μmが好ましい。これは、50μm未満の場合には、鋼材面が十分に被覆されないため密着強度が低下し、800μmを超えた場合には、コスト増に見合う効果が得られないからである。
【0017】
4)ポリオレフィン防食層
ポリオレフィン防食層には、直鎖低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンあるいはエチレン-プロピレン共重合体等を用いることが好ましく、その層厚は1〜6mmが好ましい。これは、1mm未満では防食性が低下するだけでなく、耐衝撃性が低下する傾向があり、6mmを超えた場合には、コスト増に見合う防食性の向上が得られないからである。
【0018】
また、ポリオレフィン防食層の紫外線劣化を防止するため、紫外線吸収剤、カーボンブラック、ルチル型酸化チタンやヒンダードアミン系光安定剤HALS(Hindered Amine Light Stabilizer)等を配合することが好ましい。
【0019】
ポリオレフィン接着剤層とポリオレフィン防食層の形成方法は、特に限定しないが、シートの熱圧着、粉黛塗装、ダイによる溶融被覆等が挙げられる。シートの熱圧着によって樹脂層を形成する場合には、予めポリオレフィン接着剤層とポリオレフィン防食層とを一体成型でシート状に加工してもよい。また、ダイによる溶融被覆の場合には、共押し出しによってポリオレフィン接着剤層とポリオレフィン防食層を同時に被覆してもよい。
【実施例】
【0020】
300Aの鋼管の表面を、スチールブラスト処理によりスケールを除去するとともに、十点平均粗さRzで40〜60μmになるように仕上げた後、表1、2に示す化成処理水溶液を塗布し、純水で水洗し、直ちにバーナーを用いて鋼材温度が80〜100℃なるようにして加熱して乾燥させ、化成処理層を形成させた。次に、この化成処理層上に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と脂環式ポリアミンからなるエポキシプライマー層を、乾燥後の層厚が30〜50μmになるよう塗布し、鋼材温度が150℃なるように誘導加熱炉を用いて加熱して形成させた。さらに、このエポキシプライマー層上に、無水マレイン酸変性ポリエチレンと直鎖低密度ポリエチレンを丸ダイを用いて溶融被覆してポリオレフィン接着剤層とポリオレフィン防食層を同時に形成し、樹脂被覆鋼材No.1〜34を作製した。このとき、無水マレイン酸変性ポリエチレンからなるポリオレフィン接着剤層の層厚は200〜400μm、直鎖低密度ポリエチレンからなるポリオレフィン防食層の層厚は2.5〜3mmであった。
【0021】
作製したそれぞれの樹脂被覆鋼材から100mm×100mmの7個の試験片を切り出し、そのうちの2個の試験片に対しては、樹脂被覆層に素地鋼材に達する10mm幅の平行な切込みを入れ、引張試験(引張速度:5mm/min)を行い、2個の試験片における樹脂被覆層の平均の初期密着強度(N/cm)を測定した。
【0022】
残りの5個の試験片に対しては、4端面を研磨した後、アルミリベットを用いて樹脂被覆されたリード線を1端面に取り付け、アルミリベット部をエポキシ系接着剤でシールした後、残りの3端面と裏面(樹脂被覆層がない素地鋼材面)とをシリコンシーラントでシールし、乾燥後、空気を吹き込んだ50℃の3質量%NaCl水溶液に180日間浸漬させた。このとき、リード線の他端をポテンシオスタットに接続し、白金電極を対極とし、?1.0V vs SCEの電位になるように電圧を印加した。そして、180日浸漬後、試験片の素地鋼材が露出された端面から樹脂被覆層を強制的に剥離させ、剥離界面において素地鋼材面が露出した距離をノギスで測定し、5個の試験片における平均の陰極剥離距離を求め、耐陰極剥離性を評価した。なお、この剥離により素地鋼材面が露出した領域は、樹脂被覆層の密着性が失われているため、実質的な防食性を期待できない部位であるが、この陰極剥離距離が10mm以下であれば良好な耐陰極剥離性を有すると判定した。また、同時に、試験片中央部において、初期密着強度と同様な方法で180日浸漬後の密着強度を測定した。
【0023】
結果を表1、2に示す。
【0024】
本発明の方法で作製された樹脂被覆鋼材No.1〜32では、50℃の3質量%NaCl水溶液に180日間浸漬後の陰極剥離距離は10mm以下と小さく、また、密着強度も7〜8N/cmで初期密着強度10N/cmからの低下が少なく、長期的な密着耐久性に優れていることがわかる。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の製造方法により製造された樹脂被覆鋼材の断面被覆構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 樹脂被覆鋼材
11 素地鋼材
12 化成処理層
13 エポキシプライマー層
14 ポリオレフィン接着剤層
15 ポリオレフィン防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面に、下記A群から選ばれた少なくとも1種の酸と下記B群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する水溶液を塗布、水洗、乾燥させて化成処理層を形成後、エポキシプライマー層、ポリオレフィン接着剤層、およびポリオレフィン防食層を順次積層することを特徴とする樹脂被覆鋼材の製造方法;
A群:ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、リン酸、縮合リン酸、シュウ酸
B群:V系化合物、Mo系化合物、W系化合物、Y系化合物、Zr系化合物、Bi系化合物。
【請求項2】
水溶液に、さらに過酸化水素水を含有させることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆鋼材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−209393(P2009−209393A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51579(P2008−51579)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】