説明

樹脂補強用ポリエステル繊維

【課題】マトリックス樹脂中に良好に均一分散し、耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂成形体が得られる樹脂補強用ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】樹脂補強に用いる樹脂補強用ポリエステル繊維であって、該樹脂補強用ポリエステル繊維が以下の(A)、(B)及び(C)を同時に満足することを特徴とする樹脂補強用ポリエステル繊維とする。
(A)25℃における引張強度が6〜10cN/dtex
(B)210℃乾熱収縮率が1〜12%
(C)210℃×60sec熱処理後において、引張強度が5〜10cN/dtex、かつ、タフネスが30〜50
[ここで、タフネス=引張強度(cN/dtex)×√伸度(%)である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス樹脂中に良好に均一分散し、耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂成形体が得られる樹脂補強用ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂などの熱可塑性樹脂を短繊維で強化した繊維強化熱可塑性樹脂は、優れた引張強度や剛性などの機械力学特性を有するため各種工業部品に好適に使用されている。従来、樹脂補強用繊維としては、安価で寸法安定性や耐熱性に優れたガラス繊維が多く用いられており、現在も多くの工業製品でガラス繊維強化樹脂が使用されている。しかし、近年の地球環境上の廃棄物問題、さらには将来的な石油資源の枯渇問題に対し、課題として資源の有効活用化・省エネルギー化が取り上げられており、ガラス繊維強化樹脂は樹脂中にガラスを含有していることによるリサイクル性および軽量化の面で問題を有しているのが現状である。このような背景から、繊維強化樹脂は強度などの機械特性や耐衝撃性の他に、リサイクル性などの環境面も満足することが要求されている。
【0003】
また、繊維強化熱可塑性樹脂は、通常、樹脂と強化繊維を溶融混練することによって製造されるため、製造時に繊維が短くなり、アイゾット衝撃強度や落錘衝撃強度などの衝撃強度に劣るという欠点を有している。さらには、樹脂中の繊維の分散・配向により、成形品の形状によっては強度の異方性、寸法安定性、外観品位などに問題があり、その用途は限定されているのが現状である。
【0004】
このような繊維強化熱可塑性樹脂の繊維分散性および耐衝撃性を向上させたものとして、例えば特許文献1(特開昭60−86139号公報)のように、5〜50mmのガラス長繊維をポリオレフィン樹脂に5〜60重量%溶融混練した繊維強化樹脂組成物が提案されている。しかし、ガラス繊維強化樹脂成形体は、ガラス繊維をマトリクス樹脂と溶融混練する際に繊維が折れて短くなる。このため、充分な補強効果を得るためには相当量のガラス繊維をブレンドする必要があり、軽量化のニーズに対応できないばかりでなく、その繊維強化樹脂成形体を例えばサーマルリサイクルする場合には高温炉での燃焼時にガラスが溶融して炉を痛め、コストおよび操業性の面からリサイクル性に難点を有する。また、特許文献2(特開平10−176085号公報)、特許文献3(特開2001−81336号公報)や特許文献4(特開2005−2202号公報)のように、繊維分散性および機械特性を向上させた樹脂強化樹脂組成物が提案されているが、いずれもガラス繊維補強に関するものであり、いずれも前述と同様の課題があった。
【0005】
一方、機械特性、汎用性およびリサイクル性に優れたポリエステル繊維を補強用繊維に用いることによって、樹脂補強、リサイクル性および軽量化を満足する繊維強化樹脂は類を見ない。また、本発明者らがポリエステル繊維による樹脂補強を試みた結果、マトリクス樹脂中へのポリエステル繊維の分散性が低く、強度や耐衝撃性など充分な補強効果が得られないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−86139号公報
【特許文献2】特開平10−176085号公報
【特許文献3】特開2001−81336号公報
【特許文献4】特開2005−2202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題を解決し、マトリックス樹脂中に良好に均一分散し耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂成形体が得られる樹脂補強用ポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、樹脂補強に用いる樹脂補強用ポリエステル繊維であって、該樹脂補強用ポリエステル繊維が、以下の(A)、(B)及び(C)を同時に満足することを特徴とする樹脂補強用ポリエステル繊維が提供される。
(A)25℃における引張強度が6〜10cN/dtex
(B)210℃乾熱収縮率が1〜12%
(C)210℃×60sec熱処理後において、引張強度が5〜10cN/dtex、かつ、タフネスが30〜50
[ここで、タフネス=引張強度(cN/dtex)×√伸度(%)である。]
【0009】
上記樹脂補強用ポリエステル繊維は、繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートで構成されるポリエステルからなることが好ましい。
また、上記樹脂補強用ポリエステル繊維に、熱硬化性樹脂が、該樹脂補強用ポリエステル繊維重量に対して0.01〜5.0重量%付着していることを特徴とする樹脂補強用ポリエステル繊維が提供され、該熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂またはウレタン系樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂補強用ポリエステル繊維は、繊維強化樹脂ペレット製造時あるいは繊維強化樹脂成形体製造時における補強繊維の寸法安定性に優れ、樹脂成形体の補強繊維として高い強度、タフネスを発現し、耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることができる。また、本発明の樹脂補強用ポリエステル繊維を用いることで、樹脂成形体の軽量化やリサイクル性、耐久性向上などの環境面の効果も期待できるものであり、大きな実用効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における樹脂補強用ポリエステル繊維は、25℃における引張強度が6〜10cN/dtexである。引張強度が6cN/dtex未満では、補強繊維としての強度が低いため、本発明の目的を充分満足する樹脂補強効果が得られない。一方、引張強度が10cN/dtexを超える場合、ポリエステル繊維に毛羽等の欠点が多く、繊維強化樹脂ペレット製造時に糸切れや単糸絡まりの発生するだけでなく、繊維強化樹脂成形体での繊維の絡まり・凝集などを引き起すため、加工性の低下、樹脂成形体の補強効果あるいは外観品位の低下を引き起す。25℃の引張強度としては、6.5〜9.5cN/dtexが好ましく、7.0〜9.0cN/dtexがより好ましい。
【0012】
また、本発明における樹脂補強用ポリエステル繊維の210℃乾熱収縮率は1〜12%である。ここで、210℃乾熱収縮率とは210℃での無荷重下で60sec熱処理した前後の繊維長手方向の寸法変化率を示したものである。本発明者らは、繊維強化樹脂成形体の成形時に樹脂補強用ポリエステル繊維が適度な収縮を発現することで、得られる繊維強化樹脂成形体の物性が向上することを見出した。210℃乾熱収縮率が1%未満では、樹脂補強用ポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーは繊維軸に平行な配向が非常に低い状態(無配向)であり、樹脂補強効果を発揮するのに充分な引張強度が得られない。一方、210℃乾熱収縮率が12%を超える場合、繊維強化樹脂成形体の成形時に補強用ポリエステル繊維の寸法変化が大きく、マトリクス樹脂中の補強繊維の配向、分散が低下するために優れた樹脂補強効果が得られない。210℃乾熱収縮率は2〜11%であることが好ましく、3〜10%であることがさらに好ましい。
【0013】
さらに、本発明における樹脂補強用ポリエステル繊維の210℃×60sec熱処理後の引張強度は5〜10cN/dtex、かつタフネスは30〜50である。ここでタフネスは、タフネス=強度×√伸度で求められる値である。本発明者らが鋭意検討したところ、繊維強化樹脂成形体の成形時に樹脂補強用ポリエステル繊維が受ける熱履歴が大きく影響しており、さらに検討を進めた結果、210℃×60sec熱処理後のポリエステル繊維の強度、タフネスが、繊維強化樹脂成形体の耐衝撃性の向上に大きく寄与することを見出した。すなわち、繊維強化樹脂成形体の成形時に樹脂補強用ポリエステル繊維が熱履歴を受けて熱セットあるいは緩和されるため、熱処理後のポリエステル繊維の物性が補強効果を大きく左右することを見出したものである。よって、本発明において、樹脂補強用ポリエステル繊維の210℃×60sec熱処理後の引張強度が、6cN/dtex未満では、補強繊維の強度が低いため、本発明の目的を充分満足する樹脂補強効果が得られない。一方、25℃での引張強度が10cN/dtex以下であるので無荷重下熱処理後の引張強度が10cN/dtexを超えることはない。210℃×60sec熱処理後の引張強度としては、5.5〜9.5cN/dtexが好ましく、6.0〜9.0cN/dtexがより好ましい。
【0014】
本発明に用いる樹脂補強用ポリエステル繊維は、繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートで構成されるポリエステルからなることが望ましく、該ポリエステル繊維は分子量、繊度、フィラメント数、断面形状、糸質物性、微細構造、添加剤含有の有無、末端カルポキシル基濃度などのポリマー性状は何等限定されるものではない。
【0015】
なお、ポリエステルの分子量は、ポリエチレンテレフタレートの場合、その固有粘度(o−クロロフェノールを溶媒として温度35℃で測定)は、好ましくは0.60〜1.20dL/g、より好ましくは0.65〜1.10dL/g、さらに好ましくは0.70〜1.00dL/gである。
【0016】
一方、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)の場合、その分子量は、固有粘度(o一クロロフェノールとo−ジクロロペンゼンの混合溶媒(容量比6:4)に溶解して35℃で測定した値)が、好ましくは0.50〜1.00dL/g、より好ましくは0.55〜0.95dL/g、さらに好ましくは0.60〜0.90dL/gである。
【0017】
本発明においては、樹脂補強用ポリエステル繊維の単繊維繊度は、好ましくは1〜20dtex、好ましくは2〜15dtex程度である。
また、上記ポリエステル繊維の総繊度は、特に限定されないが、好ましくは150〜3,000dtex、より好ましくは250〜2,000dtexである。尚、これらの総繊度のポリエステル繊維を繊維強化樹脂ペレット製造前にあらかじめ複数本数合糸したり、繊維強化樹脂ペレット製造時にクリールスタンドより複数本数を合せて給糸したりすることによって、総繊度を増加調整しても何等差し支えない。
【0018】
さらに、上記ポリエステル繊維のフィラメント数は、特に限定されないが、好ましくは、10〜1、000フィラメント、より好ましくは50〜500フィラメントである。尚、前述の通り合糸することによってフィラメント数を増加調整しても何等差し支えない。
【0019】
本発明の樹脂補強用ポリエステル繊維には、エポキシ系樹脂またはウレタン系樹脂からなる熱硬化性樹脂が該ポリエステル繊維重量に対して0.01〜5.0重量%付着していることが好ましい。本発明では、ポリエステル繊維を熱安定的な熱硬化性樹脂でコーティングを施すことによって、繊維強化樹脂ペレット製造時におけるポリエステル繊維の集束性を維持し、かつ樹脂を補強繊維周囲に密に充填することができ、繊維強化樹脂成形時の溶融混練時に繊維が開繊して均一分散性を発現することができる。熱硬化性樹脂の付着量が0.01重量%未満では、本発明の効果を発揮するに充分な繊維の集束性が得られ難くなる傾向にあり、一方、付着量が5.0重量%を超えると、繊維が硬くなり過ぎるために加工性が低下し、また、成形時に開繊し難くなるため樹脂成形体の補強効果・外観品位が低下する傾向にある。本発明における熱硬化性樹脂のポリエステル繊維への付着量としては、該ポリエステル繊維重量に対して0.03〜3.5重量%が好ましく、0.05〜2.0重量%がより好ましい。このような本発明の樹脂補強用ポリエステル繊維により、該補強用繊維がマトリックス樹脂中に良好に均一分散し機械特性や耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂成形体が得られる。
【0020】
本発明で用いられるポリエステル繊維に使用する熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール(レゾール型)系樹脂、ユリア・メラミン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、これらの共重合体、変性体などがある。特に、取扱性、加工性や力学特性の観点から、エポキシ系樹脂あるいはウレタン系樹脂が好ましい。
【0021】
このうち、エポキシ系樹脂(エポキシ化合物を含む)の具体例としては、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルニーテルおよびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−プタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類などが挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルピトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類などが挙げられる。好ましくは、反応性の高いグリシジル基を有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。さらに好ましくは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、アルカンジオールジグリシジルエーテル類などが好ましい。
【0022】
また、ウレタン系樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールを主原料として重付加反応で合成させたものである。上記ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネートなどに代表される芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのような脂肪族イソシアネートおよび脂環族イソシアネートなど、どのようなイソシアネート化合物であってもよい。また、上記ポリオールとしては、通常、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエステル系ポリオールなどが用いられる。さらに、イソシアネート成分の末端を適当なブロック剤を用いてプレポリマーとしておき、後で熱をかけて重合させてウレタン系樹脂にすることも可能である。
【0023】
本発明の樹脂補強用ポリエステル繊維は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、前記固有粘度を有するポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸口金より紡出し、冷却固化した未延伸糸に、紡糸油剤を付与しローラーで引取った後に、90〜120℃の第1ローラーと第2ローラーとの間で2.5〜4.5倍に第1段延伸し、さらに、第2ローラーと230〜260℃の第3ローラーとの間で合計延伸倍率が4.0〜5.7倍になるように第2段延伸し、引き続き第3ローラーと第4ローラーとの間で4〜12%の弛緩を与え、2,000〜4,000m/分の速度でチーズ状パッケージ等に巻き取り、これを40〜60℃で60〜180時間の加温処理を施すことによって製造することができる。また、前記固有粘度を有するポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)チップを用い、紡糸口金より紡出し、冷却固化した未延伸糸に、紡糸油剤を付与しローラーで引取った後に、120〜160℃の第1ローラーと第2ローラーとの間で4.0〜6.0倍に第1段延伸し、さらに、第2ローラーと230〜260℃の第3ローラーとの間で合計延伸倍率が4.5〜6.5倍になるように第2段延伸し、2,000〜4,000m/分の速度でチーズ状パッケージ等に巻き取り、これを40〜60℃で60〜180時間の加温処理を施すことによって製造することができる。
【0024】
また、樹脂補強用ポリエステル繊維に熱硬化性樹脂を付与する方法としては、ポリエステル繊維を製造する工程においてチーズ状に巻き取る前に上記熱硬化性樹脂を付与する方法、および/またはポリエステル繊維を一旦巻取った後に該熱硬化性樹脂を該ポリエステル繊維に含浸付与し熱処理する方法が挙げられる。本発明による効果を損なわない範囲であれば、いずれの方法を採用しても構わない。
【0025】
本発明にかかる樹脂補強用ポリエステル繊維により補強する樹脂組成物としては特に限定されるものではないが、該樹脂補強用ポリエステル繊維成形は、温度などを勘案するとポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂に好適に用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0027】
(1)繊維の繊度、フィラメント数、強伸度、210℃乾熱収縮率
JIS−L−1013に準拠した。尚、210℃乾熱収縮率の熱処理時間は60secとした。
【0028】
(2)210℃、60sec熱処理後の繊維の強伸度
糸長50cmの繊維を、210℃の恒温槽中に無荷重状態で60sec間入れて熱処理を施し、次いで取り出した繊維をJIS−L−1013に準拠して引張強伸度を測定した。また、タフネスを以下の式で算出した。
タフネス=強度(cN/dtex)×√伸度(%)
【0029】
(3)補強繊維の均一分散性(外観評価)
成形品の平板の表面を目視にて観察した。開繊していない繊維の束が見られないような極めて均一な分散である場合は○、ごく一部に開繊していない繊維束がみられるものは△、開繊していない又は交絡した繊維束が多数みられるような不均一な分散ある場合は×として3段階で評価した。△以上を合格とした。
【0030】
(4)樹脂成形体の引張破断強度、引張破断伸度
成形により得られた厚み3.2mm×幅12.7mmのTYPE−Iのバーについて、ASTM−D−638−02に準拠して試験速度50mm/minで測定を行なった。
【0031】
(5)アイゾット衝撃強度
成形により得られた厚み6.4mm×幅12.7mm×長さ127mmのバーを半分の63.5mmの長さに切削したものについて、ASTM−D−256−00に準拠して下記条件で測定を行なった。
ノッチ加工の回転数:400rpm
ノッチ加工の送り速度:120mm/min
ハンマー容量:60kgf・cm
測定温度:23℃、−40℃
【0032】
樹脂補強用ポリエステル繊維の製造
[実施例1]
固有粘度(35℃、o−フロロフェノール溶媒にて測定)1.01dL/gのポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸口金より紡出し、冷却固化した未延伸糸に、POE(10)ラウリルアミノエーテル8重量%を含有するポリエーテルエステル系成分を主成分とする紡糸油剤を、繊維に対してアミン化合物成分の付着量が0.02重量%となるように付与しローラーで引取った後に、110℃の第1ローラーと第2ローラーとの間で3.5倍に第1段延伸し、さらに、第2ローラーと250℃の第3ローラーとの間で合計延伸倍率が5.8倍になるように第2段延伸し、引き続き第3ローラーと第4ローラーとの間で4%の弛緩を与えるとともに、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−512」)40重量%水溶液をエポキシ成分付着量が繊維に対して0.1重量%となるようにローラー式油剤付与法で付与し、3,000m/分の速度でチーズ状パッケージに巻き取った。次いで55℃で120時間の加温処理を施して、1,670dtex/250f、固有粘度0.90dL/g、強度7.6cN/dtex、伸度12.3%、210℃乾熱収縮率11.6%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を得た。
【0033】
[実施例2]
合計延伸倍率を4.85倍、第3ローラーと第4ローラーとの間で9%の弛緩を与えた以外は実施例1と同様にして、固有粘度0.90dL/g、強度7.0cN/dtex、伸度25.9%、210℃乾熱収縮率6.5%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を得た。
【0034】
[実施例3]
第3ローラーと第4ローラー間の弛緩率を10%、合計延伸倍率を5.30倍とし、紡糸油剤にPOE(10)ラウリルアミノエーテルを含有せず、エポキシ成分を付与しなかった以外は実施例1と同様にして、固有粘度0.89dL/g、強度7.6cN/dtex、伸度21.5%、210℃乾熱収縮率5.0%のポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を得た。
【0035】
[実施例4]
固有粘度(o−クロロフェノールとo−ジクロロベンゼンの混合溶媒(容量比6:4)に溶解して35℃で測定)が0.76dL/gのポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)チップを用い、紡糸口金より紡出し、冷却固化した未延伸糸に、POE(10)ラウリルアミノエーテル8重量%を含有するポリエーテルエステル系成分を主成分とする紡糸油剤を、繊維に対してアミン化合物成分の付着量が0.02重量%となるように付与しローラーで取った後に、150℃の第1ローラーと第2ローラーとの間で5.0倍に第1段延伸し、さらに、第2ローラーと230℃の第3ローラーとの間で合計延伸倍率が5.8倍になるように第2段延伸し、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−512」)40重量%水溶液をエポキシ成分付着量が繊維に対して0.1重量%となるようにローラー式油剤付与法で付与し、3,000m/分の速度でチーズ状パッケージに巻き取った。次いで55℃で120時間の加湿処理を施して、1,670dtex/250f、固有粘度0.70dL/g、強度8.2cN/dtex、伸度11.5%、210℃乾熱収縮率8.5%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)繊維(PEN繊維)を得た。
【0036】
[実施例5]
紡糸油剤にPOE(10)ラウリルアミノエーテルを含有せず、エポキシ成分を付与しなかった以外は実施例5と同様にして、固有粘度0.70dL/g、強度8.2cN/dtex、伸度11.8%、210℃乾熱収縮率8.3%のポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)繊維(PEN繊維)を得た。
【0037】
[比較例1]
第3ローラー温度220℃、第3ローラーと第4ローラー間の弛緩率を3%、合計延伸倍率を5.85倍とした以外は実施例1と同様にして、固有粘度0.90dL/g、強度8.1cN/dtex、伸度13.0%、210℃乾熱収縮率19.2%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を得た。
【0038】
[比較例2]
巻取速度5,000m/分、一段延伸倍率1.4倍、合計延伸倍率2.2倍、第3ローラー温度を200℃とし、第3ローラーと第4ローラー間の弛緩率を0%とした以外は実施例1と同様にして、固有粘度0.91dL/g、強度7.6cN/dtex、伸度12.5%、210℃乾熱収縮率16.8%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を得た。
【0039】
[比較例3]
第3ローラー温度220℃、合計延伸倍率を3.8倍とした以外は実施例1と同様にして、固有粘度0.89dL/g、強度5.5cN/dtex、伸度39.0%、210℃乾熱収縮率11.9%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を得た。
【0040】
[比較例4]
一段延伸倍率3.8倍、合計延伸倍率3.9倍とした以外は実施例5と同様にして、固有粘度0.70dL/g、強度5.8cN/dtex、伸度22.5%、210℃乾熱収縮率7.1%、エポキシ樹脂付着量0.1重量%のポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)繊維(PEN繊維)を得た。
【0041】
繊維強化樹脂成形体の製造
[実施例1〜5、比較例1〜4]
得られた樹脂補強用ポリエステル繊維とポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製 ノバテックPP SA06A)とをクロスヘッドダイを有する単軸押出機を用いて引抜き成形を行い、繊維強化ポリプロピレン樹脂ペレットを製造した。繊維含有量は30重量%、ペレット長は10mmとなるように調整した。次いで、得られた繊維強化ポリプロピレン樹脂ペレットを射出成形機に供し、シリンダー温度210℃、金型温度70℃、背圧10kg/cm、およびスクリュー回転数50rpmにて、厚み6.4mm×幅12.7mm×長さ127mmのバー、厚み3.2mm×幅12.7mmのTYPE−Iのバーをそれぞれ成形した。実施例1〜5及び比較例1〜4について、ポリエステル繊維および繊維強化樹脂成形体の評価結果について表1にまとめて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜3の樹脂補強用ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた繊維強化樹脂成形体は、強度、伸度、耐衝撃性が著しく向上し、優れた補強効果を発揮していることを示している。また、実施例4、5の樹脂補強用ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)繊維を用いた繊維強化樹脂成形体も、優れた強度、伸度、耐衝撃性を示し、優れた補強効果を発揮していることを示している。このうち、実施例3及び5は、繊維にエポシキ付与を行っておらず、繊維強化樹脂成形体に一部繊維の絡まりが見られ外観品位が若干劣るものの、樹脂成形体の強度や耐衝撃性などの機械特性は充分な補強効果を得ることができた。一方、比較例1及び2は、210℃乾熱収縮率と210℃×60sec熱処理後のタフネスが低く、得られた繊維強化樹脂成形体の耐衝撃性が実施例対比で低く、また、比較例3及び4は繊維強化樹脂成形体の強度が実施例対比で低く、比較例1〜4は、いずれも補強繊維の均一分散性は得られたものの、ポリエステル繊維による樹脂補強効果が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂補強用ポリエステル繊維は、繊維強化樹脂ペレット製造時あるいは繊維強化樹脂成形体製造時に補強繊維の寸法安定性に優れ、繊維強化樹脂成形体の補強繊維として高い強度、タフネスを発現し、耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることができ、樹脂成形体の軽量化やリサイクル性、耐久性向上などの環境面の効果も期待できるものであり、オレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂の補強用繊維として大きな実用効果を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂補強に用いる樹脂補強用ポリエステル繊維であって、該樹脂補強用ポリエステル繊維が以下の(A)、(B)及び(C)を同時に満足することを特徴とする樹脂補強用ポリエステル繊維。
(A)25℃における引張強度が6〜10cN/dtex
(B)210℃乾熱収縮率が1〜12%
(C)210℃×60sec熱処理後において、引張強度が5〜10cN/dtex、かつ、タフネスが30〜50
[ここで、タフネス=引張強度(cN/dtex)×√伸度(%)である。]
【請求項2】
樹脂補強用ポリエステル繊維が、繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレートで構成されるポリエステルからなる請求項1記載の樹脂補強用ポリエステル繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂補強用ポリエステル繊維に、熱硬化性樹脂が、該樹脂補強用ポリエステル繊維重量に対して0.01〜5.0重量%付着していることを特徴とする樹脂補強用ポリエステル繊維。
【請求項4】
熱硬化性樹脂が、エポキシ系樹脂またはウレタン系樹脂である請求項3に記載の樹脂補強用ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2012−17535(P2012−17535A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154988(P2010−154988)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】