説明

樹脂部品の製造方法及び樹脂部品同士の固定構造

【課題】光透明樹脂で形成された部品と光吸収樹脂で構成された部品の部品同士の固定部が見栄えを損なうことなく観視者に違和感を与えないような固定構造及びそのような部品の製造方法を提供することにある。
【解決手段】光吸収部材10の、切欠部を有しない第1立壁部12と切欠部18を有する第2立壁部13により形成された溝部16に光透明部材1の脚部3を挿入して嵌合部45を形成し、嵌合部45の光透明部材1側から、第2立壁部13の切欠部18に露出した光透明部材1の脚部3に向かって一回目のレーザ照射を行い第1立壁部12と脚部3との仮融着接合固定を行い、切欠部18に露出した脚部3の一回面のレーザ照射とは異なる位置に二回目のレーザ照射を行って本溶融接合固定とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類の樹脂部品同士を互いに固定する固定構造及びその固定方法に関するものであり、詳しくは、光透明樹脂で形成された部品と光吸収樹脂で形成された部品の部品同士の固定構造及びその固定方法に関するものであり、例えば、車両用灯具におけるレンズ(光透明樹脂)とリフレクタ(光吸収樹脂)との固定、或いは、レンズ(光透明樹脂)とハウジング(光吸収樹脂)との固定等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
そこで、具体的に車両用灯具の従来の、光透明樹脂からなるレンズ(インナーレンズ或いはアウターレンズ)と光吸収樹脂からなるハウジング(ランプハウジング)との固定構造を見てみると、アウターレンズとランプハウジングとで灯室を形成し、該灯室内にストップランプ、バックアップランプ及びターンシグナルランプの各領域を区画してテールランプを構成したものがある。
【0003】
そのうち、ストップランプの区画領域は図13のように、回路基板80に複数のLED81を実装してなるLED構体82がランプハウジング83に取り付けられ、アウターレンズ84とLED構体82との間に位置するインナーレンズ85が該インナーレンズ85の背面側に突出した脚部86の先端部に設けられたランスフック87を介してランプハウジング83に支持固定された構造となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−49232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記灯具を車両(例えば、エンジンルーム内)に設置した状態において、灯具のストップランプ領域を前方から観視すると、アウターレンズ84を通して見るインナーレンズ85の脚部86の部分に、ランスフック87が位置するエンジンルーム内の暗部が脚部86を通して映し出され、見栄えを損なうものとなって観視者に違和感を与えることになる。
【0006】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、光透明樹脂で形成された部品(例えば、車両用灯具におけるレンズ)と光吸収樹脂で形成された部品(例えば、車両用灯具におけるハウジング)の部品同士の固定部が見栄えを損なうことなく観視者に違和感を与えないような固定構造及びそのような部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、複数の樹脂部品同士を溶融接合して新たな樹脂部品を製造する製造方法であって、レーザ光に対して吸収性を有する光吸収樹脂で形成され、切欠部を有しない所定の長さの第1立壁部と、所定の深さで形成された切欠部を有する所定の長さの第2立壁部が互いに対峙して並設されて断面略矩形の溝部が形成されてなる光吸収部材を準備する工程と、レーザ光に対して透過性を有する光透明樹脂で形成され、断面略矩形の脚部が形成されてなる光透明部材を準備する工程と、前記光吸収部材の溝部に前記光透明部材の脚部を挿入して嵌合部を形成する工程と、前記嵌合部の前記光透明部材側から、前記第2立壁部の切欠部に露出した前記光透明部材の脚部に向かって一回目のレーザ照射を行い、前記脚部を透過したレーザ光が前記第1立壁部に照射されてその光吸収による発熱領域に位置する前記第1立壁部と前記脚部とによる溶融接合が行われる仮溶融接合の工程と、前記仮溶融接合の後、前記嵌合部の前記光透明部材側から、前記第2立壁部の切欠部に露出した前記光透明部材の脚部の前記一回目のレーザ照射とは異なる位置に向かって二回目のレーザ照射を行い、前記脚部を透過したレーザ光が前記第1立壁部に照射されてその光吸収による発熱領域に位置する前記第1立壁部と前記脚部とによる溶融接合が行われる本溶融接合の工程と、を有することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記嵌合部において、光吸収部材の溝部と前記光透明部材の脚部との隙間は0.1mm以下であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2において、前記レーザ照射におけるレーザ光のスポット径は、前記一回目のレーザ照射よりも前記二回目のレーザ照射の方が大きく、且つ前記レーザ照射における出力は、前記一回目のレーザ照射よりも前記二回目のレーザ照射の方が大きいことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載された発明は、レーザ光に対して吸収性を有する光吸収樹脂で形成され、切欠部を有しない所定の長さの第1立壁部と、所定の深さで形成された切欠部を有する所定の長さの第2立壁部が互いに対峙して並設されて断面略矩形の溝部が形成されてなる光吸収部材と、レーザ光に対して透過性を有する光透明樹脂で形成され、断面略矩形の脚部が形成されてなる光透明部材とが、前記光吸収部材の溝部に前記光透明部材の脚部を挿入して嵌合部を形成し、前記脚部の前記第2立壁部の切欠部に露出した露出部と該露出部に対向する前記第1立壁部とが2箇所の溶融接合部によって固定されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項5に記載された発明は、請求項4において、前記嵌合部において、光吸収部材の溝部と前記光透明部材の脚部との隙間は0.1mm以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項6に記載された発明は、請求項4又は請求項5において、前記2箇所の溶融接合部は、該溶融接合部の領域の面積が互いに異なることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、光吸収部材の、切欠部を有しない第1立壁部と切欠部を有する第2立壁部により形成された溝部に光透明部材の脚部を挿入して嵌合部を形成し、嵌合部の光透明部材側から、第2立壁部の切欠部に露出した光透明部材の脚部に向かって一回目のレーザ照射を行い第1立壁部と脚部との仮融着接合固定を行い、同様に、第2立壁部の切欠部に露出した光透明部材の脚部の、一回面のレーザ照射とは異なる位置に向かって二回目のレーザ照射を行って本溶融接合固定とした。
【0014】
その結果、光透明部材を通して見た見え方が、嵌合部の全面に亘って光吸収部材が視認され、光吸収部材の背後にある物は嵌合部を通して見えることはなく、嵌合部が観視者に違和感を与えるような特別な見え方をすることはない。
【0015】
また、レーザ照射による溶融接合時に、接合部に対する圧力印加の必要がなく、圧力印加に係わる装置が不要であるためその分製造コストの低減を図ることができる。それと同時に圧力印加の工数が不要となり、生産性の向上により更なる製造コストの低減を図ることができる。
【0016】
更に、各切欠部に対して2箇所の溶融接合部を有するため、光吸収部材と光透明部材とに対して頼性の高い溶融接合強度を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係わる光透明部材の説明図である。
【図2】同じく、本発明に係わる光吸収部材の説明図である。
【図3】光透明部材と光吸収部材の嵌合状態の説明図である。
【図4】光透明部材と光吸収部材の溶融接合方法の説明図である。
【図5】同じく、光透明部材と光吸収部材の溶融接合方法の説明図である。
【図6】光透明部材と光吸収部材の融着接合の接合強度の表である。
【図7】同じく、光透明部材と光吸収部材の融着接合の接合強度の表である。
【図8】同じく、光透明部材と光吸収部材の融着接合の接合強度の表である。
【図9】光透明部材と光吸収部材の融着接合部を光透明部材側から見た時の説明図である。
【図10】ハウジングとインナーレンズとの嵌合部の部分断面説明図である。
【図11】ハウジングとインナーレンズとの嵌合部の部分側面説明図である。
【図12】ハウジングとインナーレンズで構成された車両用灯具の上面説明図である。
【図13】従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図12を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0019】
図1〜図5は、レーザ光に対して透過性を有する光透明樹脂で形成された部品とレーザ光に対して吸収性を有する光吸収樹脂で形成された部品との部品同士の固定方法についての具体的な実施形態に係わる説明図である。
【0020】
光透明樹脂及び光吸収樹脂の夫々には種々の種類のものが考えられ、光透明樹脂で形成される部品及び光吸収樹脂で形成される部品の夫々の種類についても多岐に亘っている。
【0021】
そこで、本実施形態においては、部品の用途として車両用灯具を想定し、光透明樹脂としてPMMA(ポリメチルメタアクリレート)を、光吸収樹脂としてASA(アクリロニトリルスチレンアクリレート)を夫々選定すると共に、PMMA樹脂で形成される部品をインナーレンズに、ASA樹脂で形成される部品をハウジングに設定した。
【0022】
まず、PMMAからなり車両用灯具のインナーレンズとして設定された部品(以下、光透明部材と呼称する)1は、図1(光透明部材の説明図)に示すように、平板状の本体部2と該本体部2の一方の面から立ち上がって所定の方向に延設された脚部3を備えている。
【0023】
脚部3は、延設方向に垂直な断面の形状が本体部2側を下底とする略台形状を呈しており、本体部2からの高さ(H)を10mmとし、上端4の幅(W)を2.9mmとしている。
【0024】
一方、ASAからなり車両用灯具のハウジングとして設定された部品(以下、光吸収部材と呼称する)10は、図2(光吸収部材の説明図)に示すように、平板状の本体部11と該本体部11の一方の面から立ち上がって所定の方向に延長された、互いに対峙して並設された一対の第1立壁部12と第2立壁部13を備えている。
【0025】
そのうち第1立壁部12は、本体部11からの高さ(H)を10mmとし、第2立壁部13と対峙する側の面(以下、第1内側面と呼称する)14を、本体部11側から先端方向に向かって第2立壁部13と反対方向に開く傾斜面としている。
【0026】
一方、第2立壁部13は、本体部11からの高さ(H)を2mmとし、第1立壁部12と対峙する側の面(以下、第2内側面と呼称する)15を、本体部11側から先端方向に向かって第1立壁部12と反対方向に開く傾斜面としており、第1立壁部12に対峙する部分を所定の深さに切り欠いた切欠部18を有している。
いる。
【0027】
したがって、第1立壁部12の第1内側面14と第2立壁部13の第2内側面15によって、立壁部の一部が削除された部分(切欠部18)を有する形状の溝部16が形成されており、底面17の幅(W)は3.0mmとされている。この時、溝部16の第1内側面14と第2内側面15のなす角(θ)は、脚部3の対向する外側面5同士のなす角(θ)とほぼ同一の角度に設定されている。
【0028】
そして、図3(光透明部材と光吸収部材の嵌合状態の説明図)に示すように、光透明部材1の脚部3を光吸収部材10の溝部16に挿入する。このとき、溝部16の幅(W)と該溝部16に挿入する脚部3の幅(W)とは0.1mmの寸法差(W−W)を有しており、この寸法差に基づく適度な隙間によって脚部3を溝部16内に円滑に且つガタツキなく確実に挿入することができる。
【0029】
その後、光透明部材1の脚部3を光吸収部材10の溝部16に挿入した状態を保持しながら、図4(光透明部材と光吸収部材の溶融接合の説明図)に示すように、光透明部材1の斜め上方から、該第2立壁部13の一部が削除された部分(切欠部18)に露出した光透明部材1の脚部3に向かって仮固定のための一回目のレーザ照射を行う。
【0030】
このとき、レーザは、波長が1060〜1070nmのレーザ光を発生するファイバーレーザを用い、レーザ光のスポット径をφ1mmとした。
【0031】
そこで、光透明部材1の斜め上方から、切欠部18に露出した光透明部材1の脚部3に向かって一回目のレーザ照射を行うと、レーザ光は透明な脚部3を透過して該脚部3の背後に位置する光吸収部材10の第1立壁部12の第1内側面14に到達する。
【0032】
すると、第1立壁部12の第1内側面14近傍の、レーザ光が照射された部分は該レーザ光を吸収して発熱し溶融する。この溶融部(第1溶融部)21は、熱膨張による体積増加によってその体積増加分が第1内側面14から光透明部材1の脚部3側に膨出し、第1内側面14に対峙する光透明部材1の脚部3の外側面(対峙面)5bに到達する。
【0033】
脚部3の対峙面5bに到達した第1溶融部21は、その後も熱膨張が続く。そのため、第1溶融部21の熱膨張力によって第1立壁部12の第1内側面14と脚部3の対峙面5bとの距離が拡大しながら、脚部3の対峙面5b近傍の、第1溶融部21が接触した部分に該第1溶融部21の熱が伝達されてその部分が熱で溶融し、この溶融部(第2溶融部)22と第1溶融部21との間で融着接合部(第1融着接合部)23が形成される。
【0034】
第1立壁部12の第1内側面14と脚部3の対峙面5bとの拡大距離は、光透明部材1の線膨張率、光吸収部材10の線膨張率、レーザ光のスポット径、及びレーザ光の出力等により決まる。そのうち、線膨張率及びレーザ光のスポット径は部材の溶融時の体積増加量に関係し、線膨張率が大きいほど、またスポット径が大きいほど溶融部の体積増加量が大きくなって第1立壁部12の第1内側面14と脚部3の対峙面5bとの拡大距離が大きくなる。
【0035】
また、レーザ光の出力は部材の溶融量に関係し、出力が大きいほど部材の溶融量が増大して溶融部の体積増加量が大きくなり、第1立壁部12の第1内側面14と脚部3の対峙面5bとの拡大距離が大きくなる。
【0036】
このような一回目のレーザ照射による光透明部材1の脚部3と光吸収部材10の第1立壁部12との溶融接合は、溶融した両者を互いに固定した状態で行ったものではない。そのため、レーザ照射による溶融接合時に、溶融部の熱膨張力が両者間の距離拡大エネルギーとして作用するため接合に係わる力としては作用が弱くなり、両者間の接合力は両者を固定した状態で溶融接合した場合に比較して弱いものとなる。
【0037】
但し、上記一回目の溶融接合は、以下に説明する二回目の本溶融接合のための仮溶融接合の機能を果たすものであり、そのためには十分の接合力を有するものである。
【0038】
そこで、次に図5(光透明部材と光吸収部材の溶融接合の説明図)に示すように、本溶融接合のための二回目のレーザ照射を行う。二回目のレーザ照射は、一回目のレーザ照射と同様に、光透明部材1の斜め上方から、該第2立壁部13の一部が削除された部分(切欠部18)に露出した光透明部材1の脚部3に向かって行う。
【0039】
但し、二回目のレーザ照射の位置は、一回目のレーザ照射位置とは異なる位置に行う。
【0040】
この場合、レーザは、一回目のレーザ照射に用いたと同様に波長が1060〜1070nmのレーザ光を発生するファイバーレーザを使用し、レーザ光のスポット径を一回目のレーザ照射のときよりも大きいφ3mmとした。
【0041】
そこで、光透明部材1の斜め上方から切欠部18に露出した光透明部材1の脚部3の、一回目のレーザ照射位置とは異なる位置に向かって二回目のレーザ照射を行うと、レーザ光は透明な脚部3を透過して該脚部3の背後に位置する光吸収部材10の第1立壁部12の第1内側面14の、一回目のレーザ照射位置とは異なる位置に到達する。
【0042】
すると、第1立壁部12の第1内側面14近傍の、レーザ光が照射された部分は該レーザ光を吸収して発熱し溶融する。この溶融部(第3溶融部)24は、熱膨張による体積増加によってその体積増加分が第1内側面14から光透明部材1の脚部3側に膨出し、第1内側面14に対峙する光透明部材1の脚部3の外側面(対峙面)5bに到達する。
【0043】
脚部3の対峙面5bに到達した第1溶融部21はその後も熱膨張が続くが、1回目のレーザ照射とは異なり、光吸収部材10の第1立壁部12と光透明部材1の脚部3とは既に一回目のレーザ照射によって仮溶融接合されている。
【0044】
そのため、第3溶融部24の熱膨張力はそのまま光透明部材1の脚部3に伝わり、その膨張力を受けながら脚部3の対峙面5b近傍の、第3溶融部24が接触した部分に該第3溶融部24の熱が伝達されてその部分が熱で溶融し、この溶融部(第4溶融部)25と第3溶融部24との間で融着接合部(第2融着接合部)26が形成される。
【0045】
その結果、第3溶融部24の熱が効率的に脚部3の対峙面5b近傍に伝達され、その伝達熱による溶融部(第4溶融部)25と第3溶融部24とによる融着接合部(第2融着接合部)26は強固な接合部を形成する。
【0046】
また、二回目のレーザ照射は一回目のレーザ照射やよりもレーザ光のスポット径が大きくなっている。そのため、レーザ照射で溶融形成される光吸収部材10の第1立壁部12の溶融部の体積は、一回目のレーザ照射で溶融形成される第1溶融部21よりも二回目のレーザ照射で溶融形成される第3溶融部24の方が大きい。
【0047】
それに伴って、第1溶融部21の伝達熱を受けて溶融形成される光透明部材1の脚部3の第2溶融部22よりも第3溶融部24の伝達熱を受けて溶融形成される光透明部材1の脚部3の第4溶融部25の方が大きい。
【0048】
そのため、一回目のレーザ照射において、光吸収部材10の第1立壁部12に溶融形成される第1溶融部21と、第1溶融部21の伝達熱により光透明部材1の脚部3に溶融形成される第2溶融部22とによって形成される第1融着接合部23の体積よりも、二回目のレーザ照射において、光吸収部材10の第1立壁部12に溶融形成される第3溶融部24と、第3溶融部24の伝達熱により光透明部材1の脚部3に溶融形成される第4溶融部25とによって形成される第2融着接合部26の体積の方が大きい。
【0049】
したがって、一回目のレーザ照射で形成される第1融着接合部23よりも大きい体積となる第2融着接合部26を形成する二回目のレーザ照射の方が、上記溶融部の熱膨張力が溶融接合の形成に効率的に寄与することになり、より強固は溶融接合固定を確保することができる。
【0050】
以上説明したように、光吸収部材と光透明部材をレーザ照射により融着接合するに際し、一回目のレーザ照射で両者の仮溶融接合を施し、二回目のレーザ照射で本融着接合することで強固な融着接合部を形成するようにした。
【0051】
その結果、レーザ照射による溶融接合にあたって、光吸収部材と光透明部材との接合部に対する圧力印加の必要がなく、圧力印加に係わる治具或いは装置が不要であるためその分製造コストの低減を図ることができる。それと同時に圧力印加の工数が不要となり、生産性の向上により更なる製造コストの低減を図ることができる。
【0052】
そこで、上記実施形態における融着接合の接合強度について検証した結果を、図6〜図8の表を参照して説明する。
【0053】
図6の表は、レーザの照射を一回のみとしたときの、溶融接合部の接合状態を示す表である。レーザの照射条件は、上述の二回目の照射条件を採用した。具体的には、レーザ光のスポット径をφ3mmとし、レーザ光によって受ける熱量(レーザ入熱量)を1.0(J/mm)〜2.0(J/mm)の間で5段階(サンプルNo.1〜5)に変えた。
【0054】
すると、表にあるように、引張り試験において引張り強度が33〜59(kgf/cm)の範囲となり、全てのサンプルが溶融接合部の互いの溶融部の界面で界面剥離を生じた(判定が×印)。このことより、一回のレーザ照射では十分な接合強度が得られないことが明らかになった。なお、判定の×印は引張り試験において、接合強度が低いために界面剥離を生じたことを示す。
【0055】
図7の表は、上記結果を踏まえ、十分な接合強度を得るために二回のレーザ照射を施したときの、溶融接合部の接合状態を示す表である。一回目のレーザの照射条件は、レーザ光のスポット径をφ1mmとし、レーザ光によって受ける熱量(レーザ入熱量)を全て0.1(J/mm)とした。そして、その後の二回面のレーザの照射条件は、レーザ光のスポット径をφ3mmとし、レーザ光によって受ける熱量(レーザ入熱量)を0.7(J/mm)〜1.7(J/mm)の間で5段階(サンプルNo.1〜5)に変えた。
【0056】
その結果、表にあるように、引張り試験において引張り強度が38〜63(kgf/cm)の範囲となり、二回目のレーザ照射においてレーザ入熱量を0.7(J/mm)としたときのサンプル(No.1)のみが溶融接合部の互いの溶融部の界面で界面剥離を生じ、十分な接合強度を得ることができなかった。それ以外のサンプル(No.2〜5)は、界面剥離ではなく部材そのものが破壊し(判定が○印)、十分に高い接合強度を有することが検証された。なお、判定の○印は引張り試験において、十分に接合強度が高いために材料破壊が生じたことを示す。
【0057】
図8の表は、光吸収部材10の第1立壁部12と第2立壁部13とで形成された溝部16と、該溝部16に挿入した光透明部材1の脚部3との間の隙間を、0.1mmと0.2mmとしたときの溶融接合部の接合状態を示す表である。この場合、一回目のレーザの照射条件は、レーザ光のスポット径をφ1mmとし、レーザ光によって受ける熱量(レーザ入熱量)を0.1(J/mm)とし、二回目のレーザの照射条件は、レーザ光のスポット径をφ3mmとし、レーザ光によって受ける熱量(レーザ入熱量)を1.3(J/mm)とした。
【0058】
つまり、溶融接合条件として、溝部16と該溝部16に挿入する脚部3との間の隙間のみを変えたものである。
【0059】
その結果、両者間の隙間が0.1mmの場合は、引張り試験における引張り強度が61(kgf/cm)となり、部材そのものが破壊して(判定が○印)、十分に高い接合強度を有することが分かった、それに対し、両者間の隙間を0.2mmとした場合は、引張り試験における引張り強度が35(kgf/cm)となり、溶融接合部の互いの溶融部の界面で界面剥離を生じた(判定が×印)。
【0060】
これにより、光吸収部材10の第1立壁部12と第2立壁部13とで形成された溝部16と、該溝部16に挿入した光透明部材1の脚部3との間の隙間を0.1mm以下に保持した状態で、光透明部材1の斜め上方から、該第2立壁部13の一部が削除された部分(切欠部18)に露出した光透明部材1の脚部3に向かって二回のレーザ照射を行うことによって十分な強度の溶融接合を実現できることがわかる。
【0061】
特に、スポット径をφ1mm、入熱量を1.00(J/mm)とする一回目のレーザ照射によって仮溶融接合を行い、その後、スポット径をφ3mm、入熱量を1.00(J/mm)以上とする二回目のレーザ照射によって本溶融接合を行うことにより、信頼性の高い溶融接合強度を実現することができる。
【0062】
そこで、この光吸収部材10と光透明部材1との嵌合部45を光透明部材1側から観視すると、図9(光透明部材と光吸収部材の融着接合部を光透明部材側から見た時の説明図)のように、その方向からは光透明部材1を通して光吸収部材10の第1立壁部12の上面12a、第2立壁部13の上面13a及び底面17が見える。つまり、光透明部材1を通して見た見え方が、嵌合部45の全面に亘って光吸収部材10が視認され、光吸収部材10の背後にある物は嵌合部45を通して見えることはなく、嵌合部45が観視者に違和感を与えるような特別な見え方をすることはない。
【0063】
また、光吸収部材10と光透明部材1との嵌合部45を光透明部材1側から観視したときに視認される光吸収部材10の部分、例えば、光吸収部材10の第1立壁部12の上面12a、第2立壁部13の上面13a及び底面17は、アルミ蒸着膜等の光反射処理が施されており、メタリックな質感を醸し出すように図られている。
【0064】
なお、レーザ照射による溶融接合時に、接合部に対する圧力印加の必要がなく、圧力印加に係わる装置が不要であるためその分製造コストの低減を図ることができる。それと同時に圧力印加の工数が不要となり、生産性の向上により更なる製造コストの低減を図ることができる。
【0065】
図10〜図12(図10はハウジングとインナーレンズとの嵌合部の部分断面図、図11はハウジングとインナーレンズとの嵌合部の部分側面図、図12はハウジングとインナーレンズとで構成された車両用灯具の上面図)は、上述のレーザ溶着を用いた樹脂部品の固定方法(仮)の応用例の説明図である。この応用例は、上記光吸収部材の構成に基づいてハウジング30を形成し、同様に上記光透明部材の構成に基づいてインナーレンズ40を形成し、ハウジング30とインナーレンズ40とにより車両用灯具50を構成するものである。
【0066】
図10及び図11より、ハウジング30は、環状の開口端部31の従来のハウジングに設けられた固定用フックに対応する位置に、所定の幅及び深さを有する溝部32が設けられている。溝部32は第1立壁部33と第2立壁部34によって囲まれており、第2立壁部34は環状の内側に位置して所定の幅及び深さの切欠部35を有している。
【0067】
一方、インナーレンズ40は、環状の開口端部41に従来のレンズと同様に該開口端部41に沿って前記ハウジング30の溝部32に挿入する脚部42が設けられている。
【0068】
そして、ハウジング30の溝部32にインナーレンズ40の脚部42が挿入され、第2立壁部34の各切欠部35における脚部42が露出した領域に、第1立壁部33と脚部42とによる2箇所の溶融接合部(第1溶融接合部51と第2溶融接合部52)が形成されている。
【0069】
第1溶融接合部51は、上述の一回目のレーザ照射の条件の基に形成された仮溶融接合部であり、第2溶融接合部52は上述の二回目のレーザ照射の条件の基に形成された本溶融接合部である。これにより、ハウジング30とインナーレンズ40とを高い強度で確実に接合することができ、機械的に信頼性の高い車両用灯具を実現することができる。
【0070】
また、レーザ照射による溶融接合にあたって、光吸収部材と光透明部材との接合部に対する圧力印加の必要がなく、圧力印加に係わる治具或いは装置が不要であるためその分製造コストの低減を図ることができる。それと同時に圧力印加の工数が不要となり、生産性の向上により更なる製造コストの低減を図ることができる。
【0071】
なお、第1溶融接合部51と第2溶融接合部52からなる2箇所の溶融接合部を環状方向に対して設ける位置は、図12にあるように、ハウジング30及びインナーレンズ40の略中心位置を中心とする略点対称の位置であることが好ましい。これにより、車両用灯具50を構成するハウジング30とインナーレンズ40に対してバランスの取れた位置に配置されることになる。
【0072】
また、光吸収部材の構成に基づくハウジング30と、光透明部材に基づくインナーレンズ40とにより構成された車両用灯具50を、インナーレンズ40とハウジング30との溶融接合部となる嵌合部45をインナーレンズ40側から観視したときに、図9を参照して説明したように、車両用灯具50の背後にある、例えばエンジンルーム内の暗部が嵌合部45を通して見えることはなく、嵌合部45が観視者に違和感を与えるような特別な見え方をすることはない。その結果、車両用灯具50として見栄えを損なうことがない、商品性の高いものを実現することができる。
【符号の説明】
【0073】
1… 光透明部材
2… 本体部
3… 脚部
4… 上端
5… 外側面
5b… 外側面(対峙面)
10… 光吸収部材
11… 本体部
12… 第1立壁部
12a… 上面
13… 第2立壁部
13a… 上面
14… 第1内側面
15… 第2内側面
16… 溝部
17… 底面
18… 切欠部
21… 溶融部(第1溶融部)
22… 溶融部(第2溶融部)
23… 融着接合部(第1融着接合部)
24… 溶融部(第3溶融部)
25… 溶融部(第4溶融部)
26… 融着接合部(第2融着接合部)
30… ハウジング
31… 開口端部
32… 溝部
33… 第1立壁部
34… 第2立壁部
35… 切欠部
40… インナーレンズ
41… 開口端部
42… 脚部
45… 嵌合部
50… 車両用灯具
51… 第1溶融接合部
52… 第2溶融接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂部品同士を溶融接合して新たな樹脂部品を製造する製造方法であって、
レーザ光に対して吸収性を有する光吸収樹脂で形成され、切欠部を有しない所定の長さの第1立壁部と、所定の深さで形成された切欠部を有する所定の長さの第2立壁部が互いに対峙して並設されて断面略矩形の溝部が形成されてなる光吸収部材を準備する工程と、
レーザ光に対して透過性を有する光透明樹脂で形成され、断面略矩形の脚部が形成されてなる光透明部材を準備する工程と、
前記光吸収部材の溝部に前記光透明部材の脚部を挿入して嵌合部を形成する工程と、
前記嵌合部の前記光透明部材側から、前記第2立壁部の切欠部に露出した前記光透明部材の脚部に向かって一回目のレーザ照射を行い、前記脚部を透過したレーザ光が前記第1立壁部に照射されてその光吸収による発熱領域に位置する前記第1立壁部と前記脚部とによる溶融接合が行われる仮溶融接合の工程と、
前記仮溶融接合の後、前記嵌合部の前記光透明部材側から、前記第2立壁部の切欠部に露出した前記光透明部材の脚部の前記一回目のレーザ照射とは異なる位置に向かって二回目のレーザ照射を行い、前記脚部を透過したレーザ光が前記第1立壁部に照射されてその光吸収による発熱領域に位置する前記第1立壁部と前記脚部とによる溶融接合が行われる本溶融接合の工程と、を有することを特徴とする樹脂部品の製造方法。
【請求項2】
前記嵌合部において、光吸収部材の溝部と前記光透明部材の脚部との隙間は0.1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ照射におけるレーザ光のスポット径は、前記一回目のレーザ照射よりも前記二回目のレーザ照射の方が大きく、且つ前記レーザ照射における出力は、前記一回目のレーザ照射よりも前記二回目のレーザ照射の方が大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項4】
レーザ光に対して吸収性を有する光吸収樹脂で形成され、切欠部を有しない所定の長さの第1立壁部と、所定の深さで形成された切欠部を有する所定の長さの第2立壁部が互いに対峙して並設されて断面略矩形の溝部が形成されてなる光吸収部材と、
レーザ光に対して透過性を有する光透明樹脂で形成され、断面略矩形の脚部が形成されてなる光透明部材とが、
前記光吸収部材の溝部に前記光透明部材の脚部を挿入して嵌合部を形成し、
前記脚部の前記第2立壁部の切欠部に露出した露出部と該露出部に対向する前記第1立壁部とが2箇所の溶融接合部によって固定されていることを特徴とする樹脂部品同士の固定構造。
【請求項5】
前記嵌合部において、光吸収部材の溝部と前記光透明部材の脚部との隙間は0.1mm以下であることを特徴とする請求項4に記載の樹脂部品同士の固定構造。
【請求項6】
前記2箇所の溶融接合部は、該溶融接合部の領域の面積が互いに異なることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の樹脂部品同士の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−26153(P2013−26153A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162435(P2011−162435)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】