説明

樹脂部材の接合方法

【課題】レーザー光を用いた樹脂部材の接合において、破断を抑制すると共に、所望の接合形状を安定的に得られる、樹脂部材の接合方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が重なるように複数の樹脂部材を配置する工程と、回転可能な円筒状または球状のガラス製の加圧部材50で樹脂部材の重ね合わせ部を加圧しながら加圧部材50を走査させると共に、加圧部材50を介して重ね合わせ部にレーザー光Lを照射する工程とを備え、レーザー光を照射する工程では、加圧部材50と重ね合わせ部との間に、加圧部材50の加圧面よりも広い加圧面を有する相間部材40を配置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材の接合方法に関し、より特定的には、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、プラズマディスプレイ、電界放出ディスプレイなどの画像表示装置等に使用される偏光フィルム等の原反フィルムのレーザー光による接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置などの画像表示装置において、偏光フィルムなどを含む光学フィルムが利用されている。
このような偏光フィルムの製造方法としては、帯状のポリビニルアルコール(PVA)系原反フィルムを先端側から送り出しつつ所定の移動経路に通し、該移動経路中で延伸することにより偏光フィルムとする方法が採用されている。
例えば、帯状のポリビニルアルコール系原反フィルムがロール状に巻回されてなる原反ロールから原反フィルムを送り出しつつ、複数のローラで移動経路を規制することにより、染色浴等の各種浴槽内に原反フィルムを通して染色し、更に、染色されたフィルムを移動経路中で延伸することにより偏光フィルムとする方法が採用されている。
【0003】
ところで、このような偏光フィルムの製造方法においては、ローラ等で規制された移動経路中に原反フィルム毎にその先端側を手作業で通していくことは、非常に煩雑でありかつ時間を浪費するものであることから、先行する原反フィルムの終端側に次の原反フィルムの先端側を接合し、順次連続して偏光フィルムとすることがなされている。
このときの接合手段としては、従来、粘着テープや接着剤などの接着接合手段、リベットや糸などによる縫合接合手段、ヒートシーラーなどによる加熱溶融接合手段(例えば特許文献1、2)などが採用されている。
【0004】
しかしながら、上記接合においては、それぞれ下記のような問題を有している。
・粘着テープや接着剤などによる接着接合における問題点
膨潤、染色といった薬液へ浸漬させる工程において、粘着剤や接着剤が薬液へ溶け出すことで、薬液を汚染し、製品への異物付着の要因となりうることに加え、粘着剤や接着剤が流動化することで接合強度が低下し、延伸工程において所望の延伸倍率へ達する前に原反破断が生じる場合がある。
・リベットや糸などによる縫合接合における問題点
接合部分から皺が発生することによって、偏光フィルムの延伸ムラの原因となる。加えて接合強度が低いために、接着接合手段と同様に、所望の延伸倍率へ達する前に原反破断が生じる場合がある。
・ヒートシーラーなどによる加熱溶融接合における問題点
ヒートシーラーでは狭い領域のみを加熱することが難しいため、広域の加熱及び周囲への熱伝達によって接合部及びその周辺部の結晶性が上がることで局所的に硬くなる。このため、偏光フィルムの特性を向上するために延伸負荷を大きくすると、原反破断が生じる場合がある。
【0005】
そこで、上記接合の他に、特許文献3に開示されているように、2枚の樹脂部材の接合される領域を、加工用ヘッドの出口側に回転可能に備えられた球体または円形輪により圧接するのと同時に、球体または円形輪を介してレーザー光を照射することにより、2枚の樹脂部材を接合する接合方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−171897号公報
【特許文献2】特開2010−8509号公報
【特許文献3】特許第3929958号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、偏光フィルムを製造する場合のように原反フィルムの幅が大きい樹脂フィルムを樹脂部材として用いた場合に、上記特許文献3の方法で接合すると、図7に示すように、加工用ヘッド150の球体または円形輪は重ね合わせ部を部分的に加圧するため、複数の樹脂部材100を所定の位置で固定することが困難となり、所望の接合形状を安定的に得ることが困難である。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、レーザー光を用いた樹脂部材の接合において、破断を抑制すると共に、所望の接合形状を安定的に得られる、樹脂部材の接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂部材の接合方法は、少なくとも一部が重なるように複数の樹脂部材を配置する工程と、回転可能な円筒状または球状のガラス製の加圧部材で樹脂部材の重ね合わせ部を加圧しながら該加圧部材を走査させると共に、該加圧部材を介して該重ね合わせ部にレーザー光を照射する工程とを備え、レーザー光を照射する工程では、該加圧部材と該重ね合わせ部との間に、該加圧部材の加圧面よりも広い加圧面を有する相間部材を配置することを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂部材の接合方法によれば、樹脂部材の重ね合わせ部と加圧部材との間に、加圧面が広い相間部材を配置しているので、相間部材により重ね合わせ部を所定の位置で固定することができる。このため、樹脂部材の重ね合わせ部を加圧部材が走査しながらレーザー光を照射しても、加圧部材の局所的な加圧が緩和されるため、樹脂部材の重ね合わせ部が所定位置からずれることを抑制できるので、所望の接合形状を安定的に得ることができる。
また、樹脂部材の重ね合わせ部が所定の位置からずれることを抑制して、加圧部材を介してレーザー光を照射できるので、重ね合わせ部において十分な接合状態を有する接合部を形成することができる。このため、接合した樹脂部材を延伸した場合であっても、接合部での破断を抑制することができる。
以上より、本発明は、レーザー光を用いた樹脂部材の接合において、破断を抑制すると共に、所望の接合形状を安定的に得られる、樹脂部材の接合方法を提供することができる。
【0011】
上記樹脂部材の接合方法において好ましくは、レーザー光を照射する工程では、単層または複数層のラバーまたは樹脂で構成された相間部材を用いることを特徴とする。
【0012】
これにより、加圧部材の加圧及び回転によって樹脂部材の重ね合わせ部がたわむことや所定位置からずれることを抑制できる。
【0013】
上記樹脂部材の接合方法において好ましくは、樹脂部材を配置する工程では、3μm以上500μm以下の厚みを有する樹脂部材を用いることを特徴とする。
【0014】
厚みが3μm以上であれば機械的強度の低下を抑制でき、500μm以下であれば光学特性の低下を抑制でき、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
【0015】
上記樹脂部材の接合方法において好ましくは、照射する工程では、800nm以上11000nm以下の波長の赤外線レーザーを照射することを特徴とする。
【0016】
上記樹脂部材の接合方法において好ましくは、樹脂部材を配置する工程では、樹脂部材としてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いることを特徴とする。
【0017】
本発明の樹脂部材の接合方法は、接合部での破断を抑制できるので、樹脂部材としてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いると、大きな延伸が要望される偏光フィルムを含む光学フィルムに好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂部材の重ね合わせ部と、加圧部材との間に、相間部材を配置するので、レーザー光を用いた樹脂部材の接合において、所望の接合形状を安定的に得られる、樹脂部材の接合方法を提供するこことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の偏光フィルムの製造方法に用いる装置を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態において原反フィルムを接合して偏光フィルムの製造装置に供給する様子を概略的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態における原反フィルムを接合するための接合装置を概略的に示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態において少なくとも一部が重なるように複数の樹脂部材を配置した状態を概略的に示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態において少なくとも一部が重なるように複数の樹脂部材を配置した状態を概略的に示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態において原反フィルムを接合した状態を概略的に示す平面図である。
【図7】特許文献1の接合方法で重ね合わせ部の幅が大きい樹脂フィルムを接合する状態を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の樹脂部材の接合方法に係る一実施の形態について、偏光フィルムの製造方法に適用する事例を挙げて説明する。
具体的には、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム同士を接合し、これらのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを連続して延伸装置に供給することで偏光フィルムを製造する場合を例示しつつ説明する。
【0021】
まず、本実施の形態の偏光フィルムの製造方法を実施するための好ましい延伸装置について図面を参照しつつ説明する。
上記延伸装置は、図1及び図2に示すように、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下「原反フィルム」、あるいは、単に「フィルム」ともいう)がロール状に巻回された原反ロールから原反フィルム1を送り出すための原反フィルム供給部3と、送り出された原反フィルム1を所定の薬液に浸漬するための複数の浸漬浴4と、該浸漬浴4内に原反フィルム1を通すように、原反フィルム1の移動経路を規制する複数のローラ9と、該移動経路中において原反フィルム1を延伸する延伸部と、複数の浸漬浴4に浸漬され且つ延伸されたフィルムを偏光フィルムとしてロール状に巻き取るための偏光フィルム巻取部10とを備えている。
【0022】
図1及び図2に示すように、複数の浸漬浴4として、フィルムの流れ方向上流側から順に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させる膨潤液の貯留された膨潤浴4a、膨潤されたフィルムを染色する染色液の貯留された染色浴4b、フィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋剤液の貯留された架橋浴4c、浴内でフィルムを延伸するための延伸浴4d、及び、該延伸浴4dに通されたフィルムを洗浄する洗浄液が貯留された洗浄浴4fという5種類の浸漬浴4を延伸装置は備えている。
【0023】
また、上記の延伸装置は、フィルム1の移動経路における洗浄浴4fの下流側で且つ巻取部10の上流側に、フィルム1に付着した洗浄液を乾燥させる乾燥装置11、具体的には乾燥オーブンを備えている。
【0024】
更に、上記の延伸装置においては、乾燥装置11で乾燥されたフィルムの両面側に、ロール状に巻回された表面保護フィルム(例えば、トリアセチルセルロースフィルムやシクロオレフィンポリマーフィルム)等の積層用フィルム12が配置されている。乾燥後のフィルムの両面に積層用フィルム12を積層させるためのラミネート装置を延伸装置は備えている。
【0025】
延伸部としては、所謂ロール延伸手段が採用されている。即ち、移動経路中において、フィルム1を間で狭持し且つ流れ方向下流側に送り出すように構成された対をなすニップローラ9aが複数組配置され、且つ流れ方向下流側の組の周速度が上流側よりも高速とされてなる構成が採用されている。
【0026】
更に、上記の延伸装置は、図2に示すように、原反フィルム1の末端部1aが規制された移動経路に通される前に、具体的には、浸漬浴4に通される前に、原反フィルム1の末端部1aと該原反フィルム1に次いで移動経路内に通す新たなる原反フィルム1の先端部1bとをレーザー溶着にて連結するための接合装置(図3参照)を備えている。
なお、図2においては、レーザー照射によって接合された部分を黒塗り30で示している。
【0027】
次に、図3を参照して、本実施の形態の接合装置について説明する。なお、図3は、接合される新旧の原反フィルムの重ね合わせ部をその一方の側面から見たときの接合装置の側面を示す。
この図3に示すように、本実施の形態の接合装置は、フィルムの末端部1aと先端部1bとの重ね合わせ部上に配置される相間部材40と、この相間部材40上に配置される加圧部材50と、加圧部材50上方に配置されるレーザー照射部60とを有している。本実施の形態の接合装置は、先行する原反フィルム1の末端部1aと、これに連結する新たな原反フィルム1の先端部1bとを、上下に重ね合わせ、この重ね合わせ部を、相間部材40を介して加圧部材50で加圧しつつ、レーザー照射部60からレーザー光Lを照射することにより、末端部1aと先端部1bとの界面部を加熱溶融させて溶着させ得るように構成されている。
【0028】
相間部材40は、シート状に形成されており、一方の面が加圧面であり、この加圧面は加圧部材50の加圧面よりも広い。
相間部材40は、加圧部材50の加圧及び回転による原反フィルム1における重ね合わせ部のたわみ、ずれなどを抑制するために、原反フィルム1において接合される接合部を含む重ね合わせ部の略全体を覆うように配置される。原反フィルム1における重ね合わせ部以外の領域の少なくとも一部を覆うように配置されてもよい。
【0029】
相間部材40の厚みは、50μm以上10mm未満が好ましく、1mm以上5mm未満がさらに好ましい。50μm以上であると、ハンドリングが容易になり、1mm以上であると、ハンドリングがより容易になる。10mm未満の場合は、吸収や散乱によってレーザー光Lが重ね合わせ部に到達する効率が下がることを抑制でき、5mm未満の場合、レーザー光Lが重ね合わせ部に到達する効率が下がることをより抑制できる。
【0030】
相間部材40は、特に限定されないが、用いるレーザー光Lの波長に対して30%以上の光透過率を有することが好ましく、50%以上の光透過率を有することが更に好ましい。
【0031】
相間部材40を構成する材料は、例えば光透過性の良好なラバーやクッション性のある樹脂材料等であることが好ましい。このような材料として、例えば、シリコンラバー、ウレタンラバーなどのゴム系材料やポリエチレンなどの樹脂材料を用いることが出来る。
相間部材40は単層であってもよく、複数層であってもよい。相間部材40が複数層である場合、上記材料の層に加えて、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ノルボルネン樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、トリアセチルセルロースなどを積層して用いることが出来る。
【0032】
加圧部材50は、用いるレーザー光Lに対して高い透明性を示すガラスで構成されている。加圧部材50は、原反フィルム1の重ね合わせ部を走査可能である。
【0033】
加圧部材50は、回転可能な円筒状または球状であり、相間部材40上を加圧しながら回転することにより走査可能である。
円筒及び球の直径としては、2mm以上30mm以下が好ましく、5mm以上20mm以下が更に好ましい。2mm以上の場合、接合される樹脂部材に照射されるレーザービームのサイズが小さくなることを抑制できるので、レーザー照射位置と接合したい位置の位置合わせが容易になる。5mm以上の場合、レーザー照射位置と接合位置との位置合わせがより容易になる。30mm以下の場合、ガラス中でのレーザー光吸収が起こることを抑制でき、損失によるエネルギー利用効率の低下や蓄熱によるガラス破損の危険を低減できる。20mm以下の場合、レーザー光吸収をより抑制できると共に、ガラス破損の危険性をより低減できる。
【0034】
加圧部材50を構成する材料はガラス製であれば特に限定されないが、例えば、石英、無アルカリガラス、テンパックス、パイレックス、バイコール、D263、OA10、AF45などを用いることができる。
【0035】
加圧部材50は、好ましくは3msec以上600msec以下、より好ましくは5msec以上500msec以下の加圧時間での加圧が可能となるように構成される。
【0036】
加圧部材50は、好ましくは0.5kgf/cm2以上200kgf/cm2以下、より好ましくは30kgf/cm2以上150kgf/cm2以下の加圧強度が可能となるように構成されている。
【0037】
レーザー光Lの利用効率を高めるために、加圧部材50は、用いるレーザー光Lの波長に対して高い透明性を有することが好ましく、50%の光透過率を有することが好ましく、70%以上の光透過率を有することが更に好ましい。
【0038】
レーザー照射部60は、新旧原反フィルム1の重ね合わせ部に沿って、加圧部材50を介してレーザー光Lを照射する。加圧部材50は走査可能であり、レーザー照射部60のレーザー光源も加圧部材50と同時に走査可能である。このような構成として、レーザー照射部60は、例えば、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを新旧原反フィルム1の重ね合わせ部に沿って走査させるための機構を有する。
【0039】
本実施の形態では、レーザー照射部60から照射されるレーザー光Lは、新旧原反フィルム1を重ね合せた重ね合わせ部の中間(界面)に一方もしくは両方へ塗布などの手段によって配置された光吸収剤によって吸収され、発熱させる役目を担うものであって、用いる光吸収剤の吸収感度が高ければ、レーザーの種類は特に限定されない。照射するレーザー光Lは、可視光域もしくは赤外線域を有する半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO2レーザーなどのガスレーザーなどが好ましく、安価で且つ面内均一なレーザービームが容易に得られる半導体レーザーやファイバーレーザーがより好ましい。また、原反フィルム1の分解を避け、溶融を促す目的で、瞬間的に高いエネルギーを投入するパルスレーザーよりも連続波のCWレーザーのほうが好ましい。
【0040】
レーザー照射部60から照射するレーザー光Lの出力(パワー)、ビームサイズ、形状、照射回数、走査速度などは、接合する対象となる原反フィルム1及び光吸収剤の光吸収率といった光学特性や融点、ガラス転移点Tgといった熱特性などの違いに対して適宜選択される。レーザー照射部による強度な接合を得るために、レーザー照射部60は、好ましくは200W/cm2以上10000W/cm2以下、より好ましくは300W/cm2以上5000W/cm2以下、特に好ましくは1000W/cm2以上3000W/cm2以下のパワー密度を有するレーザー光Lを照射可能なように構成されている。
【0041】
また、レーザー照射部60は、照射レーザーパワー密度を満たすパワーにて、新旧原反フィルム重ね合わせ幅の1/10以上5倍以下の照射ビーム面積(照射幅またはスポット径)を有するように構成されていることが好ましい。照射幅が重ね合わせ幅の1/10以上の場合、重ね合せ部中の接合部が大きいので、接合後に搬送する際にばたつくことを抑制し、良好な搬送性の阻害を抑制できる。照射幅が5倍以下の幅でレーザー光Lを照射すると、接合及び延伸特性に及ぼす影響が小さく、かつエネルギー利用効率が良好である。この観点から、照射幅は、重ね合わせ幅の1/5以上3倍以下であることがより好ましい。
【0042】
また、レーザー照射部60は、好ましくは5J/cm2以上400J/cm2以下、さらに好ましくは10J/cm2以上300J/cm2以下、特に好ましくは30J/cm2以上150J/cm2以下の積算照射量を照射可能なように構成されている。
レーザー光Lのビーム形状は、円形であってもよいし、高いパワー密度を得る為に線状であってもよい。なお、円筒状のガラス製加圧部材50を用いる場合は、レーザービームは線状となる。
【0043】
また、本実施の形態における接合装置は、接合する原反フィルム1を載置するステージ(図示せず)をさらに有していてもよい。このようなステージは、例えば、金属、ガラス、樹脂、ゴム、セラミックなどでその上面部が形成されているものを採用することが出来る。
【0044】
なお、ここでは詳述しないが、上記のような接合装置には、一般的なレーザー溶着装置ならびにその周辺機器において利用されている種々の機構を採用することができる。
【0045】
続いて、上述した接合装置及び延伸装置を利用して偏光フィルムを製造する方法について説明する。
本実施の形態の偏光フィルムの製造方法においては、帯状の原反フィルム1を膨潤浴4aに浸漬させて膨潤させる膨潤工程と、膨潤されたフィルムを染色浴4bに浸漬させて染色する染色工程と、染色されたフィルムを架橋浴4cに浸漬させてフィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋工程と、該架橋工程後のフィルムを延伸浴4d内で延伸する延伸工程と、該延伸工程後のフィルムを洗浄する洗浄工程と、該洗浄されたフィルムを乾燥装置11で乾燥させる乾燥工程と、該乾燥後のフィルムに表面保護フィルムを積層する積層工程とを実施する。
そして、本実施の形態の偏光フィルムの製造方法は、一つの原反ロールを原反フィルム供給部3にセットして、この原反フィルム供給部3から原反フィルムを連続的に送り出して、その移動経路において上記の工程を実施させて最終的に積層工程を終えた製品(偏光フィルム)を偏光フィルム巻取部10においてロール状に巻き取る巻取り工程を実施することによってなされる。
また、上述した接合装置を用いて、原反ロールの巻取り工程が終了する前に、新たな原反ロールから原反フィルムを繰り出して、この新たな原反フィルムの先端部1bを先行している原反ロールの末端部1aに接合する接合工程を別途実施することにより、引き続き、この新たなる原反ロールから原反フィルムを延伸装置に供給して偏光フィルムを連続的に製造する。
【0046】
上記工程に供する原反フィルムは特に限定されないが、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、偏光フィルムとして用いられるポリビニルアルコール系高分子樹脂材料であって、ポリビニルアルコールフィルム、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルム又はポリビニルアルコールの脱水処理フィルムなどを用いることができる。
通常、これらの原反フィルムは、上記に述べたようにロール状に巻回された原反ロールの状態で用いる。
【0047】
上記ポリビニルアルコール系原反フィルムの材料であるポリマーの重合度は、一般に500以上10000以下であり、1000以上6000以下の範囲であることが好ましく、1400以上4000以下の範囲にあることがより好ましい。
さらに、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルムの場合、そのケン化度は、例えば、水への溶解性の点から、75モル%以上が好ましく、より好ましくは98モル%以上であり、98.3モル%以上99.8モル%以下の範囲にあることがより好ましい。
【0048】
上記ポリビニルアルコール系原反フィルムの製法としては、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押し出し法等任意の方法で成膜されたものを適宜使用することが出来る。
原反フィルムの位相差値は、5nm以上10nm以下のものが好ましい。
また、面内均一な偏光フィルムを得る為に、ポリビニルアルコール系原反フィルム面内の位相差バラツキはできるだけ小さいほうが好ましく、原反フィルムとしてのポリビニルアルコール系フィルムの面内位相差バラツキは、測定波長1000nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
ポリビニルアルコール系原反フィルムは、接合される時の吸水(含水)状態としては、2質量%以上15質量%以下の吸水率を有することが好ましく、4質量%以上10質量%以下の吸水率を有することが更に好ましい。非連結原反フィルムが15質量%以下の吸水率を有すると、加熱溶融部が水分蒸発によって発泡することを抑制し、接合不良を低減できる。吸水率が10質量%以下の場合には、接合不良をより抑制できる。一方、吸水率が2質量%以上の場合には、接合されていない原反フィルムの加熱時の樹脂流動性が良好であり、接合効率の低下を抑制できる。吸水率が4質量%以上の場合には、接合効率の低下をより抑制できる。
【0050】
なお、上記の光吸収率については、日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計、型名「V−670」を用いて積分球モードによって対象波長域の透過率:T(%)と反射率:R(%)とを測定し、次式を計算して求めることができる。
光吸収率:A(%)=100−T−R
また、吸水率については、乾燥前後の質量を比較することによって求められ、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムであれば、83℃×1時間加熱して、その加熱減量を加熱前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの質量で除して求めることができる。
【0051】
次に、上記原反フィルムに上記延伸装置で延伸を加えて偏光フィルムに加工するための各工程について説明する。
【0052】
(膨潤工程)
本工程においては、例えば、原反フィルム供給部3から送出される原反フィルムをローラ9によって移動速度を一定に維持つつ、水で満たされた膨潤浴4aに案内して水中に原反フィルムを浸漬させる。
これにより原反フィルムが水洗され、原反フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるとともに、原反フィルムを水で膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止する効果が期待できる。
【0053】
膨潤浴4aの中の膨潤液には、水以外にグリセリンやヨウ化カリウムなどを適宜添加しておいてもよく、これらを添加する場合には、その濃度は、グリセリンであれば5質量%以下、ヨウ化カリウムでは10質量%以下とすることが好ましい。
膨潤液の温度は、20℃以上45℃以下とすることが好ましく、25℃以上40℃以下とすることが更に好ましい。
原反フィルムが膨潤液に浸漬される浸漬時間は、2秒以上180秒以下とすることが好ましく、10秒以上150秒以下とすることがより好ましく、30秒以上120秒以下とすることが特に好ましい。
また、この膨潤浴中でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長さ方向に延伸してもよく、そのときの延伸倍率は膨潤による伸展も含めて1.1倍以上3.5倍以下程度とすることが好ましい。
【0054】
(染色工程)
上記膨潤工程を経たフィルムには、膨潤工程と同様にローラ9によって染色浴4bに貯留されている染色液中に浸漬させて染色工程を実施する。
例えば、ヨウ素等の二色性物質を含む染色液に膨潤工程を経たポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することによって、二色性物質をフィルムに吸着させる方法を採用してこの染色工程を実施することができる。
【0055】
上記二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。
有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック等が使用できる。
これらの二色性物質は、一種類のみ使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0056】
上記有機染料を用いる場合は、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点から、二種類以上を組み合わせることが好ましい。
具体例としては、コンゴーレッドとスプラブルーG、スプラオレンジGLとダイレクトスカイブルーとの組合せ、又は、ダイレクトスカイブルーとファーストブラックとの組合せなどが挙げられる。
上記染色浴の染色液としては、上記二色性物質を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、水を一般的に使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに添加して用いても良い。
この染色液における二色性物質の濃度としては、0.010質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましく、0.020質量%以上7質量%以下の範囲とすることがより好ましく、0.025質量%以上5質量%以下とすることが特に好ましい。
【0057】
また、二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を添加することが好ましい。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。
これらヨウ化物の添加割合は、上記染色浴において、0.010質量%以上10質量%以下とすることが好ましく、0.10質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
これらのなかでも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:5〜1:100の範囲とすることが好ましく、1:6〜1:80の範囲とすることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲とすることが特に好ましい。
【0058】
上記染色浴へのフィルムの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、0.5分以上20分以下の範囲とすることが好ましく、1分以上10分以下の範囲が更に好ましい。また、染色浴の温度は、5℃以上42℃以下の範囲とすることが好ましく、10℃以上35℃以下の範囲とすることがより好ましい。
また、この染色浴中でフィルムを長さ方向に延伸しても良く、このときの累積した総延伸倍率は、1.1倍以上4.0倍以下程度とすることが好ましい。
なお、染色工程としては、前述のような染色浴に浸漬する方法以外に、例えば、二色性物質を含む水溶液を上記ポリマーフィルムに塗布または噴霧する方法を採用しても良い。
また、本発明においては、染色工程を行わずに、用いる原反フィルムとして、予め二色性物質が混ぜられたポリマー原料で成膜されたフィルムを採用しても良い。
【0059】
(架橋工程)
次いで、架橋剤液を貯留する架橋浴4cにフィルムを導入し、架橋剤液中にフィルムを浸漬して架橋工程を実施する。
架橋剤としては、従来公知の物質を使用でき、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどを使用できる。これらの架橋剤は一種類のみを用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。二種類以上の架橋剤を併用する場合には、例えばホウ酸とホウ砂の組合せが好ましく、また、その添加割合(モル比)は、4:6〜9:1の範囲とすることが好ましく、5.5:4.5〜7:3の範囲とすることがより好ましく、6:4とすることが最も好ましい。
上記架橋浴の架橋剤液としては、架橋剤を溶媒に溶解したものを使用できる。
溶媒としては、例えば水を使用できるが、さらに水と相溶性のある有機溶媒を併用しても良い。上記架橋剤液における架橋剤の濃度は、特に限定されるものではないが、1質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましく、2質量%以上6質量%以下とすることがより好ましい。
【0060】
上記架橋浴中の架橋剤液には、偏光フィルムに面内均一な特性を付与させるべくヨウ化物を添加しても良い。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられ、これらを添加する場合におけるヨウ化物の含有量は0.05質量%以上15質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下とすることがより好ましい。
架橋剤とヨウ化物との組合せとしては、ホウ酸とヨウ化カリウムとの組合せが好ましく、ホウ酸とヨウ化カリウムとの割合(質量比)は、1:0.1〜1:3.5の範囲とすることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲とすることがさらに好ましい。
【0061】
上記架橋浴における架橋剤液の温度は、通常、20℃以上70℃以下の範囲とすることが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの浸漬時間は、通常、1秒以上15分以下の範囲内のいずれかの時間とすることができ、5秒以上10分以下とすることが好ましい。
当該架橋工程においては、架橋浴中でフィルムを長さ方向に延伸してもよく、このときの累積した総延伸倍率は、1.1倍以上5.0倍以下程度とすることが好ましい。
なお、架橋工程としては、染色工程と同様に、架橋剤液中に浸漬させる処理方法に代えて、架橋剤含有溶液を塗布または噴霧する方法によって実施しても良い。
【0062】
(延伸工程)
延伸工程は、染色、架橋されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、例えば、累積した総延伸倍率が2倍以上8倍以下程度となるようにその長さ方向に延伸する工程である。延伸工程として、例えば湿式延伸法を採用でき、この湿式延伸法では、延伸浴に貯留された溶液中にフィルムを浸漬した状態でその長さ方向に張力を加えて延伸を実施する。
延伸浴に貯留する溶液としては、特に限定されるわけではないが、例えば、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素または亜鉛の化合物の添加された溶液を用いることが出来る。
この溶液の溶媒としては、水、エタノールあるいは各種有機溶媒を適宜用いることが出来る。なかでも、ホウ酸及び/またはヨウ化カリウムをそれぞれ2質量%以上18質量%以下程度添加した溶液を用いることが好ましい。このホウ酸とヨウ化カリウムとを同時に用いる場合には、その含有割合(質量比)は、1:0.1〜1:4程度、より好ましくは、1:0.5〜1:3程度の割合で用いることが好ましい。
上記延伸浴における溶液の温度としては、例えば、40℃以上67℃以下の範囲とすることが好ましく、50℃以上62℃以下とすることがより好ましい。
【0063】
(洗浄工程)
洗浄工程は、例えば、水などの洗浄液の貯留された洗浄浴にフィルムを通すことにより、これより前の処理で付着したホウ酸等の不要残存物を洗い流す工程である。
上記水には、ヨウ化物を添加することが好ましく、例えば、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムを添加することが好ましい。
洗浄浴の水にヨウ化カリウムを添加する場合、その濃度は通常0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは3質量%以上8質量%以下とされる。
さらに、洗浄液の温度は、10℃以上60℃以下とすることが好ましく、15℃以上40℃以下とすることがより好ましい。
【0064】
また、洗浄処理の回数、すなわち、洗浄液に浸漬した後、洗浄液から引き上げる繰り返し回数は、特に限定されることなく複数としてもよく、複数の洗浄浴に添加物の種類や濃度の異なる水を貯留しておき、これらにフィルムを通すことにより洗浄工程を実施してもよい。
【0065】
なお、フィルムを各工程における浸漬浴から引き上げる際には、液ダレの発生を防止するために、従来公知であるピンチロール等の液切れロールを用いたり、エアナイフによって液を削ぎ落としたりするなどの方法により、余分な水分を取り除いても良い。
【0066】
(乾燥工程)
洗浄工程において洗浄を行ったフィルムは、乾燥装置11に導入し、自然乾燥、風乾燥、加熱乾燥など、適宜最適な方法で乾燥させて当該乾燥工程を実施することができる。
このうち、加熱乾燥による乾燥工程を実施する場合であれば、加熱乾燥の条件は、加熱温度を20℃以上80℃以下程度、乾燥時間を1分以上10分以下程度とすることが好ましい。
さらには、乾燥温度は上記方法に関わらずフィルムの劣化を防ぐ目的としてできるだけ低温にすることが好ましい。乾燥温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下が特に好ましい。
【0067】
(積層工程)及び(巻取り工程)
本実施の形態においては、以上のような工程を経たフィルムを巻取りローラにて巻き取る巻取り工程を実施することによりロール状に巻回された偏光フィルムを得ることができる。
なお、本実施の形態においては、乾燥工程にて乾燥させた偏光フィルムの表面片側もしくは両側に適宜表面保護用フィルムなどを積層させる積層工程を実施してから巻取り工程を実施するようにしてもよい。
【0068】
このように製造される偏光フィルムの最終的な総延伸倍率は、原反フィルムに対して、5.25倍以上8.0倍以下の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることが好ましく、6.0倍以上7.0倍以下の範囲にの内のいずれかの延伸倍率であることがより好ましい。
上記のような延伸倍率が好ましいのは、最終的な総延伸倍率が5.25倍以上であると、高い偏光特性を有する偏光フィルムを得ることができ、8.0倍以下であると、フィルムに破断を生じることを抑制できるためである。
【0069】
(接合工程)
原反ロールの全長にわたって上記のような工程を実施させることにより、偏光フィルムを効率よく連続して製造することが出来るが、本実施の形態においては、この原反ロールの全てが延伸装置に供給されてしまう前に、さらに次の原反ロールからポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を繰り出して、この新たな原反フィルムの先端部1bを延伸装置で各工程が実施されている原反ロールの末端部1aに接合する接合工程を実施する。
【0070】
接合工程では、まず、図4及び図5に示すように、例えば、先行するフィルムの末端部1aと、新たなるフィルムの先端部1bとの少なくとも一部(重ね合わせ部)が重なるように配置する。このときの重ね合わせ部の幅x1は、0.1mm以上50.0mm未満が好ましく、0.5mm以上30.0mm未満が更に好ましい。幅x1が0.1mm以上であると、繰り返し精度よく広い幅を有する原反フィルムを重ね合せて配置することが容易である。幅x1が0.5mm以上であると、原反フィルムを重ね合わせて配置することがより容易である。一方、幅x1が50.0mm未満であると、後述するレーザー溶着により接合されない未接合部を小さくでき、搬送中にフィルムのばたつきを抑制できる。幅x1が30.0mm未満であると、搬送中のフィルムのばたつきをより抑制できる。
原反フィルムの幅、すなわち重ね合わせ部の長さx2は、特に限定されないが、50mm以上であってもよく、2000mmを超えていてもよい。重ね合わせ部においてこの長さx2を、後述する加圧部材50が回転により走査する。
【0071】
この工程では、3μm以上500μm以下の厚みを有する原反フィルムを配置することが好ましい。厚みが3μm以上であれば機械的強度の低下を抑制でき、500μm以下であれば光学特性の低下を抑制でき、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
【0072】
また、この工程では、光吸収剤を介して原反フィルムが重なるように配置することが好ましい。具体的には、末端部1aと先端部1bとの接合部におけるレーザー光Lの光吸収性を高め、より効率よく溶着を実施させ得るように、末端部1aと先端部1bとの間(末端部1a及び先端部1bの表面の少なくともいずれか一方)に光吸収剤を配置する。つまり、原反フィルムはレーザー光Lを透過する材料であり、配置した光吸収剤でレーザー光Lを吸収する。
【0073】
配置する光吸収剤は、使用するレーザー光を吸収して熱を発生させる目的として、例えば、カーボンブラック、顔料、染料などを用いることが出来る。これらの吸収剤は有機溶媒などで希釈され、原反フィルム重ね合せ部の一方へ予め適した塗布手段によって塗布されていることが好ましい。吸収剤は、例えば、フタロシアニン系吸収剤、ナフタロシアニン系吸収剤、ポリメチン系吸収剤、ジフェニルメタン系吸収剤、トリフェニルメタン系吸収剤、キノン系吸収剤、アゾ系吸収剤、ジインモニウム塩、水などを用いることが出来る。800nm以上1200nm以下の波長を有するレーザー光を用いた場合の吸収剤としては、例えば、米国Gentex社製のClearweld(登録商標)を用いることが出来る。
塗布手段としては、例えば、ディスペンサー、インクジェットプリンター、スクリーン印刷、2流体式、1流体式、超音波式スプレー、スタンパー、コーターなどの一般的な手法を用いることが出来る。
【0074】
次に、回転可能な円筒状または球状のガラス製の加圧部材50で重ね合わせ部を加圧しながら加圧部材50を走査させると共に、加圧部材50を介して重ね合わせ部にレーザー光Lを照射する。この工程では、加圧部材50と重ね合わせ部との間に、加圧部材50の加圧面よりも広い加圧面を有する相間部材40を配置する。
この工程では、先行するフィルムの末端部1aと新たなるフィルムの先端部1bを重ね合わせた原反フィルム1に相間部材40による加圧を加えるので、重ね合わせ部に沿って加圧部材50が回転及び加圧しても、重ね合わせ部のたわみや位置ずれを抑制できる。この状態で、この重ね合わせ部に沿って加圧部材50を介してレーザー光Lを走査及び照射して、フィルム界面において互いの樹脂を相溶させて溶着部を形成させる。したがって、2000mmを超える広い幅(図4におけるx2)の原反フィルムを接合する場合であっても、図6に示すように、接合部2を安定して形成することができる。
【0075】
この工程では、重ね合わせ部のたわみや位置ずれを抑制できる観点から、単層または複数層のラバーまたは樹脂で構成された相間部材40を用いることが好ましい。
【0076】
また、この工程では、好ましくは加圧部材50による加圧時間を3msec以上600msec以下とし、より好ましくは5msec以上500msec以下、特に好ましくは20msec以上150msec以下とする。
加圧時間が3msec以上であると、加圧時間が短すぎないので、レーザー光Lの溶融による接合反応が終了する前に加圧部材50による加圧を開放することを抑制でき、十分な接合状態を得ることができる。加圧時間が5msec以上であると、溶融による接合反応が終了した後に加圧部材を開放するので、十分な接合状態を得ることができる。加圧時間が20msec以上であると、より十分な接合状態を得ることができる。
一方、加圧時間が600msec以下であると、加圧時間が長すぎないので、接合部及びその周辺部への熱伝達による高結晶化の誘発を抑制できるので、大きな(例えば5.25倍以上)延伸負荷を加えた場合に、接合部及びその周辺部に応力が集中することを抑制できる。加圧時間が500msec以下であると、接合部及びその周辺部への応力を緩和することができる。加圧時間が150msec以下であると、接合部及びその周辺部への応力を効果的に緩和することができる。
したがって、重ね合わせ部を加圧する時間を上記範囲内にすることにより、接合した原反フィルムを延伸した場合であっても、接合部の破断を抑制することができる。
【0077】
ここで、上記加圧時間は、ガラス製加圧部材50が静止加圧した状態における加圧面積及びガラス製加圧部材50の走査速度から算出される値である。例えば、円筒状のガラス製加圧部材50を原反フィルムに接触させた時の面積が1mm×4mmで、加圧部材50の走査(回転)速度が50mm/secとすると、(距離1mm)/(速度50mm/sec)が加圧時間となり、20msecと算出される。
【0078】
また、レーザー光Lを絞ることのできる集光レンズ等の絞り機構を有する加圧部材50を用いることが好ましい。このような加圧部材50を用いることにより、レーザー光Lを重ね合わせ部に確実性を高めて照射することができる。
【0079】
また、この工程では、照射するレーザー光Lとして、800nm以上11000nm以下の波長の赤外線レーザーを用いることが好ましい。このようなレーザー光を照射することで、接合強度を高めてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを接合することができる。なお、本実施の形態の接合方法においては、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを接合する方法を説明しているが、上記波長のレーザー光Lは、他の熱可塑性樹脂にも適用できる。
【0080】
この工程では、新旧原反フィルムの重ね合わせ部においては、各原反フィルムの先端部の十分な領域が接合されることにより両先端部が搬送中にばたつかないことが、フィルムの良好な搬送性を実現するうえで好ましい。かかる観点を考慮すると、新旧原反フィルムの重ね合わせ部における未接合部の幅が5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、0mmである(重ね合わせ部の全面が接合されている)ことが更に好ましい。
【0081】
以上の工程を実施することにより、本実施の形態における偏光フィルムを含む光学フィルムを製造することができる。
なお、製造する偏光フィルムの厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上40μm以下であることが好ましい。厚みが5μm以上であれば機械的強度の低下を抑制でき、40μm以下であれば光学特性の低下を抑制でき、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
【0082】
このように製造された光学フィルムは、接合部の接合強度を高めることができるので、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程、洗浄工程、乾燥工程、及び積層工程を実施した場合であっても、接合部での破断を抑制できる。このため、破断の問題を抑制しつつ高い倍率(例えば5.25倍以上)での延伸を実施させ得る。したがって、高い偏向機能を付与した偏向フィルムを製造できる。また、原反フィルム1の接合部を通過するときに延伸負荷を下げるなどの延伸条件の変更をすることなく連続通紙できるので、本実施の形態の接合方法は、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上、及び材料ロスの削減の効果を有する。
【0083】
したがって、本実施の形態により製造された偏光フィルムは、液晶セル基板に積層される偏光フィルムなどとして、液晶表示装置等に使用することができ、また液晶表示装置の他、エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイ及び電界放出ディスプレイなどの各種画像表示装置における偏光フィルムとして用いることが出来る。
【0084】
また、実用に際しては、両面又は片面に各種光学層を積層して光学フィルムとしたり、各種表面処理を施したりして、液晶表示装置等の画像表示装置に用いることもできる。
光学層としては、要求される光学特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、偏光フィルムの保護を目的とした透明保護層、視覚補償等を目的とした配向液晶層、他のフィルムを積層するための粘着層の他、偏光変換素子、反射板、半透過板、位相差板(1/2や1/4などの波長板(λ板)を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルムなどの画像表示装置等の形成に用いられるフィルムを用いることが出来る。
表面処理としては、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止や拡散ないしアンチグレアを目的とした表面処理を挙げることが出来る。
【0085】
なお、本実施の形態における偏光フィルムの製造方法は、以上の通りであるが、本発明は本実施の形態に限定されず、本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【0086】
また、本実施の形態においては、樹脂部材として、偏光フィルムの製造に用いられるポリビニルアルコール系樹脂フィルムについての事例を挙げているが、本発明の樹脂部材は ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに限定されず、偏光フィルム以外の用途として用いることもできる。樹脂部材は熱可塑性樹脂であることが好ましく、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリイミド、トリアセチルセルロール、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、エチレンビニルアセテートなどを用いることが出来る。これらの樹脂部材は、単層であっても、複数層であってもよく、少なくとも一層が熱可塑性樹脂で構成されていれば、特に限定されない。
【実施例】
【0087】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
(基本条件)
・原反フィルム:
ポリビニルアルコール樹脂フィルム((株)クラレ社製、厚み75μm、幅50mm、吸水率6%)
・重ね合せ幅:
1.5mm幅
・ガラス製加圧部材:
円筒状(直径10mm、ロール幅10mm)
・相間部材:
ウレタンラバー(厚み5mm、硬度90度)
・レーザー光:
半導体レーザー(波長940nm、パワー160W、ビーム形状4mm×0.6mm(ラインビーム)、パワー密度6608W/cm2、走査速度100mm/sec、積算照射量40J/cm2
・光吸収剤:
Clearweld LD120C(登録商標)(米国ジェンテックス社製、溶媒アセトン)
下側の原反フィルム終端部に、幅5mm、走査速度200mm/sec、0.4L/minで塗布
・加圧面積:
1.5mm幅×3mm(3mmが走査方向の長さ)
・加圧大きさ:
原反フィルム重ね合せ部へ加重150kgf/cm2で押し付け
・加圧時間:
3mm長を100mm/secの走査速度で加圧するので30msec
【0089】
(実施例1)
上記基本条件にて、新旧原反フィルムの接合を試みた結果、新旧原反フィルムは位置ズレすることなく、良好な接合を達成することが出来た。
さらに、得られた接合体を図1に示すような延伸装置において延伸倍率が、膨潤浴では2.6倍、染色浴では3.4倍、架橋浴では3.6倍、延伸浴及び洗浄浴では6.0倍となるように延伸しながら、偏光フィルムをバッチ製造したところ、接合部で破断することなく、製造可能であった。
【0090】
(実施例2)
相間部材をシリコンラバー(厚み5mm、硬度50度)に変更すること以外は、上記基本条件で新旧原反フィルムの接合を試みた結果、実施例1と同様に新旧原反フィルムは位置ズレすることなく、良好な接合を達成することが出来た。
さらに、得られた接合体を実施例1と同様の条件で偏光フィルムをバッチ製造したところ、接合部で破断することなく、製造可能であった。
【0091】
(実施例3)
相間部材をウレタンラバーとトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製、厚み80μm、非接合部材側に配置)との積層部材に変更すること以外は、上記基本条件で新旧原反フィルムの接合を試みた結果、実施例1と同様に新旧原反フィルムは位置ズレすることなく、良好な接合を達成することが出来た。
さらに、得られた接合体を、延伸浴及び洗浄浴で5.5倍延伸とすること以外は実施例1と同様の条件で偏光フィルムをバッチ製造したところ、接合部で破断することなく、製造可能であった。
【0092】
(実施例4)
原反フィルムをトリアセチルセルロース(富士フィルム社製、厚み80μm)に変更すること以外は上記基本条件で、新旧原反フィルムの接合を試みた結果、実施例1と同様に新旧原反フィルムは位置ズレすることなく、良好な接合を達成することが出来た。
【0093】
(実施例5)
原反フィルムをポリエチレンテレフタレート(厚み50μm)に変更すること以外は上記基本条件で、新旧原反フィルムの接合を試みた結果、実施例1と同様に新旧原反フィルムは位置ズレすることなく、良好な接合を達成することが出来た。
【0094】
(比較例1)
相間部材を省くこと以外は上記基本条件で新旧原反フィルムの接合を試みた結果、図7に示すように、ガラス製加圧部材の加圧・回転によって新旧原反フィルムが位置ズレを起こし、良好な接合を得ることが出来なかった。このため、比較例1では、延伸することができなかった。
【0095】
以上より、本実施例によれば、加圧部材と樹脂フィルムの重ね合わせ部との間に相間部材を配置して、加圧部材を介して重ね合わせ部にレーザー光を照射することで、破断を抑制すると共に、所望の接合形状を安定的に得られることが確認できた。
【0096】
以上のように本発明の実施の形態及び実施例について説明を行なったが、実施の形態及び実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1 フィルム、1a 末端部、1b 先端部、3 供給部、4 浸漬浴、4a 膨潤浴、4b 染色浴、4c 架橋浴、4d 延伸浴、4f 洗浄浴、9 ローラ、9a ニップローラ、10 巻取部、11 乾燥装置、12 積層用フィルム、40 相間部材、50 加圧部材、60 レーザー照射部、L レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が重なるように複数の樹脂部材を配置する工程と、
回転可能な円筒状または球状のガラス製の加圧部材で前記複数の樹脂部材の重ね合わせ部を加圧しながら前記加圧部材を走査させると共に、前記加圧部材を介して前記重ね合わせ部にレーザー光を照射する工程とを備え、
前記レーザー光を照射する工程では、前記加圧部材と前記重ね合わせ部との間に、前記加圧部材の加圧面よりも広い加圧面を有する相間部材を配置することを特徴とする、樹脂部材の接合方法。
【請求項2】
前記レーザー光を照射する工程では、単層または複数層のラバーまたは樹脂で構成された前記相間部材を用いることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂部材の接合方法。
【請求項3】
前記樹脂部材を配置する工程では、3μm以上500μm以下の厚みを有する前記樹脂部材を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の樹脂部材の接合方法。
【請求項4】
前記レーザー光を照射する工程では、800nm以上11000nm以下の波長の赤外線レーザーを照射することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂部材の接合方法。
【請求項5】
前記樹脂部材を配置する工程では、前記樹脂部材としてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31964(P2013−31964A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169383(P2011−169383)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】