説明

樹脂部材の製造方法及び該製造方法で製造した樹脂部材。

【課題】 従来の断熱材、或いは樹脂部材は、カーボン繊維をフェルト状の物、又は織布にフェノール樹脂を含浸した物をニードルパンチ等で押圧し、乾燥させたシートを円筒状に巻き重ねて焼成したもので、カーボン繊維が縦横に絡まっている断熱材、或いは樹脂部材で強度や剛性も低く、外部への放熱を遮熱断熱する性能に課題があった。
【解決手段】 遠心分離機を備えた容器に開口部を設けた抄造枠を載置し、補強繊維と充填材と接合材を水中で分散混合し、定着剤で各材料を定着させた混合物を容器の抄造枠内に入れ、遠心分離機を回転させ混合物内の水分を20%〜70%開口部から外に放出し、残った円形又は略円形状の層状混合物を縦に切断し、乾燥炉等に入れ残存水分を1%〜7%位にし、圧縮成形機で平面、又は曲面状の強度や剛性も高く、断熱効果もある樹脂部材を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン繊維やガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維、ビニロン繊維等の補強繊維と、カーボン粉末やガラス粉末、その他の無機粉末等の充填材と、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等の接合材を水に分散して混合し、定着剤を加えて各材料を定着させた後、該混合物を遠心分離機を備えている容器に載置した円筒形又は略円筒形状の抄造枠に入れ、遠心分離機を回転させて、混合物を抄造枠に押し付け、円筒形又は略円筒形状の層状混合物を形成し、該層状混合物を縦に切断してシート状に広げて、含まれている水分を乾燥炉等で乾燥後、圧縮成形設備を用いて加熱・加圧して、平面状、或いは曲面状の成形品を製造する製造方法と該製造方法で製造した樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、この種の成形品は、カーボン繊維等の補強繊維及びカーボン粉末等の充填材と、接合材となるフェノール樹脂等をロール及びミキサー等で分散・混合し、粒状、或いはペレット状にした成形材料、或いは、補強繊維をフェルト状のもの、又は織布に溶剤を溶かしたフェノール樹脂を含浸し乾燥した物を圧縮成形機や射出成形機を用いて成形した物が広く知られている。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3029534号公報。
【特許文献2】国際公開番号W02008/023777。
【発明の開示】

【発明が解決しょうとする課題】
【0004】
従来、自動車の軽量化を測る手段として、全部品の樹脂化が進められている中で、金属製品との比較で、樹脂部材の強度や剛性のレベルが低いことが課題となっている。本発明は、金属製品並みか、或いは、それ以上の強度や剛性を有し、軽量で断熱性にも優れている樹脂部材を製造する製造方法及び該製造方法で製造した樹脂部材を提供することである。
特許文献1の特許では、炭素繊維(カーボン繊維)の均一な分散が難しく、均一なフェルトを作るのに難があり、且つ、炭素繊維(カーボン繊維)が360度いろいろな方向に絡み合っており、強度や剛性の点で難点があった。
又、特許文献2の炭素繊維含有積層成型体の製法は、炭素繊維紡績糸を作る工程から始まり、基材調整工程、織物形成工程、接着工程、焼成工程と多くの時間とコストが掛かり、特に円筒形の成形体では、炭素繊維の配向が円周方向でなく、これも強度や剛性の点で難点があった。
本発明が解決しょうとする課題は、カーボン繊維等の補強繊維の配向をコントロールすることで強度や剛性に優れ、且つ、軽量の平面、或いは曲面状の樹脂部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために下記手順にて、製造コストが安く、強度や剛性に優れ、且つ、軽量で断熱性の高い平面、或いは曲面状の樹脂部材を製造する製造方法と該製造方法で製造した平面、或いは曲面状の樹脂部材を提供する。
1.遠心分離機を備えた容器に、水のみを通す小さい貫通穴(以下「水抜き用開口部」という)を多数設けている円筒形、又は略円筒状形に形成された枠板(以下「抄造枠」という)を載置する。
2.該抄造枠に抄造枠の上部の開口部を覆う蓋を取り付ける。
3.カーボン繊維やガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維、ビニロン繊維等の補強繊維と、カーボン粉末やガラス粉末、その他の無機粉末等の充填材と、接合材となるフェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、或いは、メラミン樹脂等を水と分散・混合し、定着剤を加えて各材料を定着させた混合物を抄造枠の内側に入れる。
4.遠心分離機を回転させる。
5.混合物を遠心力で抄造枠に押し付け、混合物内の水のみを抄造枠の水抜き用開口部から外に絞り出して、混合物内の水分の約20〜70%を放出し、補強繊維の一本一本を円周方向に配向して、円筒形又は略円筒形状の層状混合物を形成する。
6.上記層状混合物を縦に切断してシート状に広げる。
7.シート状の混合物(切断シート)を乾燥炉に入れて、乾燥炉内で含水分量が1〜7%位になるまで乾燥する。
8.乾燥した切断シートは、圧縮成形機にセットした金型で、熱と圧を加え、フェノール樹脂の硬化反応で成形品とする。
9.切断シートは、金型で成形する際、単独、或いは、切断シートの繊維配向を考慮した複数枚を組み合わせて成形することもできる。
以上が強度や剛性に優れ、且つ、軽量で断熱性の高い樹脂部材を製造する方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂部材を製造する方法により製造した樹脂部材は、充填材と接合材を定着した補強繊維を含む混合物が遠心分離機の回転による遠心力で、円筒形あるいは略円筒形状の抄造枠に押し付けられ、この混合物に含まれる水のみを水抜き用開口部から外に絞り出され、補強繊維が厚み方向でなく、円周方向に配向される。遠心分離機の回転で約20〜70%の水が外部に放出されるので、加熱による水分除去よりもコストが掛からない。従来のカーボン繊維を使用した樹脂部材や断熱材の製造方法では、カーボン繊維が360度縦、横、斜めといろいろな方向に絡み合っており、引っ張り強さや剛性の面で弱かった。本発明の製造方法によって製造されたシート状の樹脂部材は、樹脂部材を構成しているカーボン繊維等の補強繊維が、樹脂部材の水平方向に直線状に絡み合って配向されており、抗張力も高く、剛性も非常に高い。しかも、樹脂部材であるので金属製品に比べて軽量であり、更に断熱性にも優れており、自動車用としても金属製品や従来の樹脂製品に代わりうる部材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第一の実施の形態は、図1で見るように、遠心分離機2を備えた容器1に、円筒形あるいは略円筒形状の水抜き用開口部6を設けた抄造枠4を載置し、抄造枠4の上面開口部に抄造枠を覆う蓋5を取り付け、抄造枠4内に、カーボン繊維やガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維、或いは、ビニロン繊維等の補強繊維と、カーボン粉末やガラス粉末、或いは、その他の無機粉末等の充填材と、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、或いは、メラミン樹脂等の接合材を水中で分散混合し、定着剤を加えて各材料を定着させた混合物(図示せず)を入れ、遠心分離機2を回転させて該混合物を抄造枠4に押し付け、混合物内の水のみを抄造枠の水抜き開口部6から外部へ絞り出し、混合物内に含まれた水分の約20%〜70%を除去し、残った円筒形、或いは、略円筒形状の層状混合物7を取り出し、該層状混合物7を縦に切断してシート状の成形物と成し、該成形物を乾燥炉等に入れて残存水分を除去して含水分量1%〜7%の乾燥物と成し、該乾燥したシート状成形物を圧縮成形設備等を用いて加熱・加圧して、平面、或いは、曲面状の樹脂部材を製造する。
以上が強度や剛性も高く、軽量で断熱性に優れた樹脂部材の製造方法である。
抄造枠を覆う蓋5は遠心分離機2が回転したとき、混合物が上部から放出されるのを防ぐためのものである。
遠心分離機の回転数と混合物の水溶融濃度および補強繊維と充填材の配合比により、生成される樹脂部材の密度を制御することができる。
遠心分離機による遠心力の調整(回転数の調整)によって補強繊維の配向をコントロールすることができ、これによって金属と同等以上の強度・剛性を有する樹脂成形品を作ることができる。
遠心分離機の回転数としては1分間に300回転から2000回転の回転数で、高速度回転ほど樹脂部材の密度を高くすることができる。
抄造枠4に開けられた水抜き用開口部は混合物に含まれる水のみを外部に絞り出して放出するためのもので、混合物を構成するカーボン繊維等の補強繊維とカーボン粉末等の充填材は水抜き用開口部から外部に放出されない。抄造枠4には水のみが通り抜けることができる小さい穴(水抜き用開口部6)が多数開けられている。遠心分離機2を回転させると、その遠心力で水を含んだ混合物を抄造枠4に押し付け、混合物内の水のみを水抜き用開口部6から外に絞り出して、約20%〜70%の水分を放出し、残りの水を含んだ混合物が抄造枠4に層を成して、層状混合物7として形成される。このとき、補強繊維の一本一本が円周方向に配向され、内側から外側への厚み方向には全く配向されない。
本発明のシート状樹脂部材の製造方法の特徴は、遠心分離機を使用することと、水抜き用開口部を持つ抄造枠を使用することと、円筒形又は略円筒形状に製造された混合物を縦に切断しシート状に広げて、乾燥炉等で残存水分を除去し、圧縮成形機で、平面、或いは、曲面状のいろいろなシート状の成形物とすることと、広げられたシート状成形物の表裏、縦、横及び複数枚の組み合わせにより、要求される強度や剛性を有する成形品の製造に対する対応設計が可能になることである。
遠心分離機の回転によって、カーボン繊維等の補強繊維を含む混合物を抄造枠に押し付けて、補強繊維の一本一本を円周方向に配向し、厚み方向、即ち内側から外側に向かう方向に配向しないことで、シート状に成形したとき、補強繊維の一本一本が直線状に絡み合うので、強度や剛性が増し、且つ、遮熱断熱効果を高めている。
従来の方法では、カーボン繊維等の補強繊維の絡みが360度ばらばらに絡み合っているので引っ張りや剛性の面で弱かった。更に、混合物に含まれる水を除去するのに、混合物を加熱して除去していたので、加熱コストも高くついた。本発明の方法では、遠心分離機を回転させ、その遠心力で水を含んだ混合物を抄造枠に押し付け、抄造枠にあけられた多数の水抜き用開口部から混合物内の水の約20%〜70%が外部に絞り出され排出されるので、水分を除去するコストも安く、除去する時間も節約される。
又、シート状乾燥物を二枚重ね合わして成形するときは、円筒形、或いは、略円筒形状の層状混合物の状態の時に外周面であった方を外側にし、内周面の方を内側にして重ね合わして、圧縮成形機で加熱・加圧して平面、或いは、曲面状のシート部材を製造する。このようにすれば、外周面にあった補強繊維の方が内周面の補強繊維よりわずかに長いので、二つのシート状成形物を重ね合わしたとき、直線状に絡んでいる外側の補強繊維の方が、同じく直線状に絡んでいる内部の補強繊維よりわずかに長くなるので、引っ張りや曲げに対しても強く、剛性も高くなる。
実験で使用した補強繊維としてのカーボン繊維は5〜30μm、長さが1〜30mmのもので、充填材としてのカーボン粉末は5〜100μmくらいのもので、接合材としてのフェノール樹脂は5〜30μmの粉末を用いた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施例の断面図である。
【図2】本発明の第一の実施例の混合物が、遠心力によって抄造枠に押し付けられた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0009】
1.容器
2.遠心分離機
3.モーター
4.抄造枠
5.蓋
6.水抜き用開口部
7.層状混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離機を備えている容器内に、貫通穴(以下「水抜き用開口部」という)を設けた、円筒形又は略円筒形状に形成された枠板(以下「抄造枠」という)を載置し、該抄造枠に抄造枠の上部の開口部を覆う蓋を取り付け、抄造枠の内側に、カーボン繊維やガラス繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維、或いは、ビニロン繊維等の補強繊維と、カーボン粉末やガラス粉末、或いは、その他無機粉末等の充填材と、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、或いは、メラミン樹脂等の接合材を水に分散混合し、更に定着剤を加えて各材料を定着させた混合物を入れ、遠心分離機を回転させて混合物を抄造枠に押し付けて、混合物内に含まれる水分の約20%から70%を水抜き用開口部から外部に絞り出して、抄造枠内に適当な厚みの円筒形又は略円筒形状の層状混合物を形成し、該層状混合物を縦に切断してシート状に広げ、該シート状混合物を乾燥炉等で含水分量が1%〜7%位になるまで乾燥して残存水分を除去し、該シート状乾燥物を圧縮成形機、或いは、その他の成形機にセットした金型で、加熱加圧して、フェノール樹脂等の硬化反応で成形品とする樹脂部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された樹脂部材の製造方法で製造された樹脂部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−183812(P2012−183812A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64949(P2011−64949)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(598159908)株式会社ワメンテクノ (5)
【Fターム(参考)】