説明

樹脂金属接合物及びその製造方法

【課題】接着性を向上させた、銅部品とPPS又はPBT樹脂との樹脂金属接合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、銅部品とPPS又はPBT樹脂との接着性を向上させた樹脂金属接合物及びその製造方法であり、樹脂金属接合体は、前記銅部品表面上に、酸化銅が面積比で次の範囲;10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%で存在し、5〜100nmの凹凸形状が形成されている銅部品接合面により、前記樹脂部品と接合されてなる樹脂金属接合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅部品と、ポリフェニレンサルファイド(以下、適宜「PPS」と略す)又はポリブチレンテレフタレート(以下、適宜「PBT」と略す)樹脂部品とを接合してなる樹脂金属接合物及びその製造方法に関し、特に一定の割合で酸化銅(I)と酸化銅(II)とを含む銅接合面により接合されてなる、銅部品とPPS又はPBT部品との樹脂金属接合物及びその製造方法に関する。
【0002】
近年、例えば家電製品、携帯電話、自動車部品、パソコンや電子部品等の種々の分野において、軽量化が要求されている。かかる軽量化が要求される部材等については、使用されている金属部材から樹脂部材への代替が行われている。
しかし、金属特有の高い導電性や熱伝導性の特性が要求される部分に対しては金属部材を樹脂部材に置換することが困難である。従って、前記特性が要求される部分については金属部材を、前記特性が要求されない部分については軽量化を図るために樹脂部材を適用する、金属部材と樹脂部材との接合体が研究されている。
【0003】
銅部品と樹脂部品との接合体を製造する従来の方法としては、接着剤を用いて銅部品と樹脂部品とを接合する方法や、銅部品を金型内に設置して直接溶融樹脂を注入するインサート成形又はアウトサート成形により銅部品と樹脂とを接合する方法等が用いられている。
かかる従来の方法により製造された樹脂金属接合物は、高温高湿環境下での放置や熱がかかると、銅部品と樹脂部品との接着性が大きく低下するという欠点を有している。
【0004】
一方、特公平5−51671号公報(特許文献1)には、樹脂部材と金属部材とを接着させた樹脂金属接合物を得る技術として、トリアジンチオールの被膜を金属部材表面上に電着により形成する、金属表面の電気化学的表面処理法とその複合体が開示されている。
【0005】
また、特開2001−200374号公報(特許文献2)には、金属表面に被膜として形成されたトリアジントリチオール金属塩にマイナスに帯電可能な反応化合物を反応若しくは吸着させて、金属表面に被膜として形成されたトリアジントリチオール金属塩の反応性を保持する金属表面の反応性保持方法が開示されている。
【0006】
しかし、これらの樹脂金属接合物は、銅部品と樹脂部品とを接合するには接合界面の強度が十分ではなく、使用環境下においては、接着性が劣下し剥離が生じ、シール性を保持することができない、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特公平5−51671号公報
【特許文献2】 特開2001−200374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、接着性を向上させた、銅部品とPPS又はPBT樹脂との樹脂金属接合物及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、銅部品と熱可塑性樹脂部品との間の、銅接合面側に、特定の割合で酸化銅(I)及び酸化銅(II)を存在させることで、または、銅接合面側に前記特定の割合の酸化銅(I)及び酸化銅(II)に加えて更にトリアジンチオール誘導体を存在させることにより、接着性が優れた、樹脂金属接合物となることを見出したものである。また、銅部品を酸化剤溶液と接触させて、特定の割合の酸化銅((I)及び(II))を表面に存在させて、又は、前記銅部品を酸化剤溶液と接触させる前に、銅部品を、トリアジンジチオール誘導体を含有した溶液を用いて湿式法により銅表面にトリアジンジチオール誘導体を存在させて次いで前記酸化剤溶液と接触させて特定の酸化銅(I)及び酸化銅(II)を存在させて、前記PPSまたはPBTを、該銅部品の前記接合面側で接合することにより、接着性が優れる、銅部品とPPSまたはPBTとの樹脂金属接合物である複合体を製造できることを見出したものである。
【0010】
本発明の樹脂金属接合物は、銅部品と、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂部品とを接合してなる樹脂金属接合物であって、前記銅部品表面上に、酸化銅が面積比で次の範囲;10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%で存在し、5〜100nmの凹凸形状が形成されている銅部品接合面により、該銅部品と前記樹脂部品とが接合されてなることを特徴とする、樹脂金属接合物である。
【0011】
また他の樹脂金属接合物は、上記本発明の樹脂金属接合物において、該銅部品の該樹脂部品側の接合面に、更にトリアジンチオール誘導体が存在している、樹脂金属接合物である。
【0012】
本発明の樹脂金属接合物を製造する製造方法は、銅部品を酸化剤溶液と接触させることにより、該銅部品の該樹脂部品側の接合面上の酸化銅を面積比で次の範囲;10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%とし、前記特定の割合の酸化銅を存在させ5〜100nmの凹凸形状を形成させた銅部品に、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂をインサート成形することを備えることにより、前記銅部品と該ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂とを接合することを特徴とする、樹脂金属接合物の製造方法である。
【0013】
また他の樹脂金属接合物を製造する製造方法は、上記本発明の製造方法において銅部品を酸化剤溶液と接触させる前に、更に銅部品表面をトリアジン処理することを備える、樹脂金属接合物の製造方法である。好適には、前記他の樹脂金属接合物の製造方法において、前記トリアジン処理は、銅部品表面にトリアジンチオール誘導体を含む溶液を用いた湿式法によりトリアジンチオール誘導体の被膜を形成する、樹脂金属接合物の製造方法である。
【0014】
ここで、銅部品とは、純銅からなる銅部品のみならず、リン青銅、黄銅、無酸素銅、スズ入り銅、鉄入り銅、ベリリウム銅の銅合金からなる銅部品も含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂金属接合物は、銅部品と熱可塑性樹脂部品との接合を強固なものとすることができ、例えば、自動車等の部品に使用しても、その使用環境下で剥離したり破断することない、優れた接着性を有することができる。
【0016】
また、上記他の樹脂金属接合物は、上記効果に加えて、銅部品の接合面にトリアジンチオール誘導体を存在させることにより、銅部品と熱可塑性樹脂部品との接合をより強固なものとすることができる。
【0017】
また、本発明の樹脂金属接合物の製造方法は、上記本発明の樹脂金属接合物を、効率よく製造することができるものである。上記銅接合面に、酸化銅((I)及び(II))が上記特定の割合で存在することにより、銅部品と熱可塑性樹脂部品との間の接着性が良好となる。また、前記銅接合面に更にトリアジン誘導体を存在させることにより、接着性を高めることが可能となる。即ち、酸化銅とPPSまたはPBTとによるアンカー効果による接着性の向上に加え、銅−トリアジン−熱可塑性樹脂との間の反応によって、銅部品と熱可塑性樹脂との接着性を、より高くすることが可能となると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】樹脂金属接合物の一例を示す模式図
【図2】樹脂金属接合物の接合部の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を次の最良の形態例により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の樹脂金属接合物は、銅部品と、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂部品とを接合してなる樹脂金属接合物であって、前記銅部品表面上に、酸化銅が次の範囲;10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%で存在する銅部品接合面により、該銅部品と前記樹脂部品とが接合されてなる樹脂金属接合物である。
このように、銅部品とPPS又はPBT樹脂部品との間に特定の面積割合の酸化銅((I)及び(II))を介在させることで、従来は十分な接着性がなかった銅部品とPPSまたはPBT部品との接合界面において、該銅接合面中のCuOとPPS樹脂との主骨格との間でのS−CuOの酸塩基的な結合や、CuOとPBT樹脂との主骨格との間でのC=O−CuOの酸塩基的な結合、更には酸化銅接合面とPPS樹脂またはPBT樹脂表面間の凹凸によるアンカー結合が形成され、優れた接着性を有することができることとなる。
【0020】
また他の樹脂金属接合物は、上記本発明の樹脂金属接合物において、該銅部品の該樹脂部品側の接合面に更にトリアジンチオール誘導体が存在している、樹脂金属接合物である。
【0021】
このように、銅部品とPPS又はPBT樹脂部品との間に、上記した特定の面積割合の酸化銅のみならず、トリアジンチオール誘導体を介在させることで、銅部品とPPSまたはPBT部品との接合界面において、該銅部品のCuと、該トリアジンチオール誘導体によるCu−Sの化学結合が形成されて良好な結合状態を有することとなるとともに、該接合面中のCuOとPPS樹脂との主骨格との間でのS−CuOの酸塩基的な結合や、トリアジンチオール誘導体とPPS樹脂の末端官能基との間でのC−Nの共有結合、また、CuOとPBT樹脂との主骨格との間でのC=O−CuOの酸塩基的な結合、更にはトリアジンチオール誘導体とPPS樹脂またはPBT樹脂表面間の凹凸によるアンカー結合が形成され、優れた接着性を有することができることとなる。
【0022】
本発明の樹脂金属接合物に使用できる銅部品は、純銅からなる銅部品のみならず、リン青銅、黄銅、無酸素銅、スズ入り銅、鉄入り銅、ベリリウム銅の銅合金からなる銅部品も適用することができるものであり、また、該銅部品と接合される樹脂は、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0023】
本発明の樹脂金属接合物は、PPSまたはPBS樹脂部品と接合する銅部品表面上に、酸化銅が次の範囲;10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%、好ましくは10%≦CuO/(CuO+CuO)≦50%で存在する銅部品接合面により、前記PPSまたはPBT樹脂部品と接合されてなる。具体的には、PPS又はPBT樹脂部品と接合する銅部品表面中に存在するCuOが、ピーク強度から求めた面積比で、10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%となる。これは、CuOは、上記銅接合面中で、上記PPS又はPBT樹脂との接着性に寄与する反応点となっており、上記銅接合面と上記PPS又はPBT樹脂との間のS−CuO結合数が増大し、接着性をより向上させることができるからである。CuO/(CuO+CuO)の面積比が10%より小さいと、S−CuO結合数が少ないため接着性が悪く、またCuO/(CuO+CuO)の面積比が75%を超えると過酸化物との反応により生成したCuOの割合が小さいことや、また凹凸形状が十分に形成されないと考えられ、好ましくない。
【0024】
かかるピーク強度から求めた面積比率は、PPSまたはPBT樹脂部品と接合する、銅部品表面をXPS(X線光電子分光法:X−ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて測定することにより求めた値である。具体的には、銅部品表面をXPS(ULVACPHI社製5600ci)を用いて、Cu2pのナロースキャンスペクトルを分析したものである。
(測定条件)
励起X線:mono−A1、X線入射角度:70°、測定面積:φ800μm、
補正条件:ClsのC−C又はC−Hを285.0eVに補正。
(解析)
Cu2p3/2ピークをCu(I)、Cu(II)にピーク分離した。ピーク面積を用いて、Cu(I)/{Cu(I)+Cu(II)}よりCuO比率を算出した。
【0025】
また、他の樹脂金属接合物においては、銅部品の接合面に、上記特定の面積比を有する酸化銅(I)及び酸化銅(II)に加えて、トリアジンチオール誘導体を存在させる。
【0026】
【化1】

【0027】
ただし、上記一般式(1)において、Rは−SM、−OR、−SR、−NHR、−N(R、Rはアルキル基、アルケニル基、フェニル基、フェニルアルキル基、アルキルフェニル基、又はシクロアルキル基、MはH、Na、Li、K、1/2Ba、1/2Ca、脂肪族一級、二級及び三級アミン類、4級アンモニウム塩である。なお、上記一般式中の二つのMは、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
また、上記一般式(1)で表されるトリアジンチオール誘導体としては、具体的には、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(TT)、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・モノナトリウム(TTN)、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・トリエタノールアミン(F・TEA)、6−アニリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(AF)、6−アニリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(AFN)、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(DB)、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(DBN)、6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(DA)、6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(DAN)、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・ジ(テトラブチルアンモニウム塩)(F2A)、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・テトラブチルアンモニウム塩(DBA)、6−ジチオオクチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(DO)、6−ジチオオクチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(DON)、6−ジラウリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(DL)、6−ジラウリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(DLN)、6−ステアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(ST)、6−ステアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノカリウム(STK)、6−オレイルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(DL)、及び6−オレイルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノカリウム(OLK)等のトリアジンチオール誘導体塩等が例示できる。
【0029】
銅部品表面上にトリアジンチオール誘導体を存在させることにより、上記特定の銅酸化物の存在のみにより銅金属部品とPPSまたはPBTとを接合させる樹脂金属接合体よりも、より強固な接着性と耐久性を得ることができる。
トリアジンチオール誘導体を存在させることで、トリアジンチオール誘導体とPPSまたはPBT樹脂との末端官能基との間で共有結合が形成され、更には、トリアジンチオール誘導体とPPSまたはPBT樹脂との表面間の凹凸によるアンカー結合も形成され、極めて良好な接着性及び優れた耐久性を得ることができることとなる。
【0030】
また、銅部品表面上のトリアジンチオール誘導体には、トリアジンチオール誘導体とCuOやCuOとのトリアジンチオール銅塩の他、トリアジンチオール誘導体の重合体や、トリアジンチオール誘導体の劣化構造であるSO等も含まれる。
【0031】
また、本発明の樹脂金属接合物は、上記PPS又はPBT樹脂側の表面の形状が、好ましくは凹凸形状、より好ましくは5〜100nmの凹凸形状であることが望ましい。このことにより、上記銅接合面と上記PPS又はPBT樹脂との間にアンカー構造により結合を形成することができ、上記銅部品接合面と上記PPS又はPBT樹脂との結合をより高めることができるからである。特に、かかる上記範囲の凹凸形状を有することにより、十分なアンカー構造により結合を呈することができるとともに、接合面に割れを発生することもなく、十分なシール性能を保持することができる。
【0032】
次に樹脂金属接合物の製造方法について、最良形態例を説明する。
本発明の樹脂金属接合物の製造方法は、銅部品を酸化剤溶液と接触させることにより、該銅部品の該樹脂部品側の接合面上の酸化銅を次の範囲;10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%とし、前記特定の割合の酸化銅を存在させた銅部品に、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂をインサート成形することを備えることにより、前記銅部品と該ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂とを接合する、樹脂金属接合物の製造方法である。
【0033】
すなわち、本発明の樹脂金属接合物の製造方法は、銅部品上に、PPSまたはPBT樹脂と化学結合及びアンカー結合する、特定の面積割合の酸化銅((I)及び(II))を存在させ、該割合の酸化銅が存在する銅部品をインサート部材として、溶融したPPSまたはPBTとインサート成形する際に、高温高圧下で、銅部品接合面上の酸化銅とPPSまたはPBT樹脂の主骨格との酸塩基的結合を生成させるとともに、インサート成形を行って、銅部品とPPSまたはPBTとを一体化することにより、樹脂金属接合物を製造することができる方法である。
【0034】
好適な一例を説明する。
まず、必要に応じて、銅部品の前処理を行う。具体的には、有機物等の異物が付着している場合には除去し、また必要に応じて、脱脂、表面活性化、水洗等により、銅部品の表面を洗浄する工程を設けてもよい。脱脂は、銅部品を、有機溶剤に浸漬する方法や、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に浸漬する方法が例示され、また活性化は、硫酸や塩酸、フッ素系などの薬品を使用し、銅表面の酸化被膜を除去するものである。銅部品の酸化物等は表面の導電性を著しく低下させない限り問題ではなく、活性化処理等も同様である。
【0035】
必要に応じて、前処理を施した銅部品を酸化剤溶液と接触させる。
当該酸化剤液接触工程により、銅表面の酸化銅(I)と酸化銅(II)とを上記方法で測定した面積比が、10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%となるようにする。好ましくは10%≦CuO/(CuO+CuO)≦50%である。
このような面積比で酸化銅を存在させることにより、上記したように、酸化銅(I)がPPSやPBTとの主骨格との間での酸塩基的な結合が形成されて、接合が強固になる。
また、かかる酸化剤溶液との接触により、銅表面に凹凸形状、5〜100nmの凹凸形状が形成されて、銅接合面と上記PPS又はPBT樹脂との間にアンカー構造による結合を形成することができ、上記PPS又はPBT樹脂との結合を、更に高めることができる。
【0036】
また、上記酸化剤液接触工程で用いる酸化剤は、酸化剤の特性を有するものであれば特に限定されないが、例えば過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、ヒドロペルオキシド(メチルヒドロペルオキシド、エチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド等)等が挙げられ、接触させる手段としては、浸漬法又は過酸化物を含む溶液等を噴霧する方法等が挙げられる。上記酸化剤液中の酸化剤の濃度は特に限定されないが、例えば本発明の樹脂金属接合物の製造例においては、過酸化物溶液の濃度は10〜50wt%であることが、上記特定の面積範囲の銅酸化物を存在させる調整が容易にでき、前記銅接合面と上記PPS又はPBT樹脂との結合を十分とすることができるからである。
また他の樹脂金属接合物の製造例における、トリアジンチオール誘導体を存在させた銅表面を過酸化物溶液と接触させる場合には、10wt%以下、好ましくは5wt%以下、より好ましくは3wt%以下、0.5wt%以上であることが望ましく、この範囲であると銅酸化物(I)を上記特定の面積比とする調整が容易にでき、前記銅接合面と上記PPS又はPBT樹脂との結合を十分とすることができるからである。
かかる酸化剤接触工程中、銅部品を構成する銅または銅合金の種類や、酸化剤の種類、浸漬温度、浸漬時間によって条件の最適値は変化する。
【0037】
次いで、前記接合表面を有する銅部品をインサート部品として、高温高圧の中で溶融したPPSまたはPBTをインサート成形する工程により、銅部品にPPSまたはPBTを接合させて、樹脂金属接合物を製造することができる。当該インサート成形では、該銅部品も高温に晒されるため、上記したように、PPSまたはPBT樹脂の主骨格との間で酸塩基的な結合が、また銅接合面の凹凸形状により熱可塑性樹脂との間にアンカー構造による結合が形成され、銅部品とPPSまたはPBTとの接合を高めることができる。
また成形圧力や射出速度の条件は、使用する成形機、成形樹脂の種類および成形する形状によって適宜設定することができる。
【0038】
また他の樹脂金属接合物の製造方法の例としては、前記本発明の樹脂金属接合物の製造方法における、酸化剤溶液との接触工程の前に、銅部品表面に、トリアジンチオール誘導体を含む溶液を用いた湿式法によりトリアジンチオール誘導体の被膜を形成する、樹脂金属接合物の製造方法である。すなわち、上記したように、必要に応じて銅部品の表面の前処理を行い、銅部品を酸化剤溶液と接触させる工程の前に、銅部品表面にトリアジンチオール誘導体を存在させるものである。
【0039】
上記トリアジンチオール誘導体の被膜成膜工程は、銅部品の表面に、トリアジンチオール誘導体を含む溶液を用いた湿式法によりトリアジンチオール誘導体の被膜を成膜するものである。ここで、湿式法とは、浸漬法または電解重合法のいずれかを意味するものである。湿式法においては、上記式(1)で表されるトリアジンチオール誘導体の溶液が利用され、トリアジンチオール誘導体中の−SHの特徴が利用されて、Cuと接着性良好な被膜を形成することができる。
【0040】
浸漬法は、上記銅部品、即ち銅及び銅合金部品をトリアジンチオール誘導体を含む水溶液または有機溶液、あるいはそれらの混合液に、例えば10〜300秒間、好ましくは10〜90秒間浸漬して、被膜を形成させる方法である。この場合のトリアジンチオール誘導体の溶液の濃度は、0.0005〜1.0重量%、好ましくは0.0005〜0.2重量%であるが、銅部品を構成する銅または銅合金の種類や、浸漬温度、浸漬時間によって最適値は変化する。
【0041】
有機媒体はメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、トルエン、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ベンゼン、酢酸エチルエステル等が利用可能である。
【0042】
また、浸漬温度は溶液濃度や金属の種類によって異なり、特に使用される溶剤によって決定されるため特定できないが、水では一般に1℃〜99℃まで可能であり、望ましくは30℃〜80℃の範囲である。浸漬処理法は形状の複雑な金属製品に均一に被膜を生成させることができるがそのままでは重合度が低い被膜であり強度的に弱いので、浸漬後、次のインサート成形における、例えば100℃以上の加熱により重合度が高いポリマー被膜に変化させることが可能である。かかる浸漬処理法は、本発明のCu製品の表面処理に特に有効である。
【0043】
電解重合法は、電解質及びトリアジンチオール誘導体を含む水溶液または有機溶液、あるいはそれらの混合液に、処理金属である銅部品を陽極として、一方白金又はステンレス板を陰極として、サイクリック法、定電流法、定電位法、パルス定電位法及びパルス定電流法等の電解法によって銅部品表面にトリアジンチオールポリマーの被膜を形成させる方法である。
【0044】
上記電解質としては、溶剤に溶解し、通電性を発揮しかつ安定性を有すれば特に限定されず、一般にNaOH、NaCO、NaSO、KSO、NaSO、KSO、NaNO、KNO、NaNO、NaClO、CHCOONa、Na、NaHPO、(NaPO、NaMoO、NaSiO、NaHPO等を好適に用いることができる。これらの濃度は一般に、0.001〜1モル、望ましくは0.01〜0.5モルの範囲であることが被膜の成長速度の点から好ましい。
【0045】
前記溶剤は電解質とトリアジンチオール誘導体とを同時に溶解するものが望ましく、その組み合わせは特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、メチルピロリドン、アクリロニトリル、エチレンカーボナイト、イソプロピルアルコール、アセトン、トルエン、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ベンゼン、酢酸エチルエステルなどを用いることができる。
【0046】
トリアジンチオール誘導体の濃度は、0.0005〜1.0重量%、好ましくは0.005〜0.2重量%である。電解液の温度は溶剤の凝固点や沸点と関係するので一義的に特定できないが、例えば、水溶液では1℃〜99℃、好ましくは30℃〜80℃である。
【0047】
対極(陰極)材料は電解溶液と反応したり導電性の著しく低いものでない限り任意のものが使用できるが、一般にステンレス、白金、カーボン等の不活性導電体が用いられる。
【0048】
例えば、サイクリック法は、電位幅を水や溶剤の分解しない範囲内で行ない、かかる範囲は溶剤や電解質の種類等の影響を受けるので一義的に限定できないが、定電位法は−0.5〜2VvsCES、好ましくは自然電位から酸化電位の範囲である。自然電位より低いと全く重合せず、酸化電位を超えると水や溶剤の電解が起こる危険性がある。
【0049】
定電流法においては電流密度は0.005〜50mA/cm、好ましくは0.05〜5mA/cmが適当である。0.005mA/cmより少ないと、被膜成長に時間がかかりすぎる。また50mA/cmより大きいと被膜に亀裂が生じたり、Cu金属の溶出が見られ好ましくはなく、パルス法における電解電位及び電解電流密度は上記の通りであるが、時間幅は0.01〜10分間、好ましくは0.1〜2分間であり、適宜決定することができる。0.01分間より短くてもまた10分間より長くてもパルス法の効果が十分に発揮されなくなる場合があるので留意する。
【0050】
銅部品の前処理は有機物等の異物が付着している場合は除去しなければならないが、酸化物等は表面の導電性を著しく低下させない限り問題ではなく活性化処理等も同様である。
【0051】
このようにして、上記銅表面に、トリアジンチオール誘導体の被膜を形成することができ、銅部品と該トリアジンチオール誘導体の被膜との間にCu−S結合が形成されて、強固な接着を実現する。銅部品表面上のトリアジンチオール誘導体には、トリアジンチオール誘導体とCuOやCuOとのトリアジンチオール銅塩の他、トリアジンチオール誘導体の重合体や、トリアジンチオール誘導体の劣化構造であるSO等も含まれる。
【0052】
次いで、該他の製造方法は、銅部品とPPS又はPBT樹脂との双方と化学反応を呈するトリアジンチオール誘導体を、銅部品表面に成膜させた後、該トリアジンチオールの誘導体の被膜が形成された銅部品を、上記酸化剤接触工程に課して、銅部品の接合面に、上記特定の面積比を有する酸化物((I)と(II))とを存在させる。これにより銅部品とPPSまたはPBT部品との接合界面において、該銅部品のCuと、該トリアジンチオール誘導体によるCu−Sの化学結合が形成されて良好な結合状態を有することとなるとともに、該接合面中のCuOとPPS樹脂との主骨格との間でのS−CuOの酸塩基的な結合や、トリアジンチオール誘導体とPPS樹脂の末端官能基との間でのC−Nの共有結合、また、CuOとPBT樹脂との主骨格との間でのC=O−CuOの酸塩基的な結合、更にはトリアジンチオール誘導体とPPS樹脂またはPBT樹脂表面間の凹凸によるアンカー結合が形成され、より優れた接着性を有することができることとなる。
【0053】
次いで、前記銅部品をインサート部品として、高温高圧の中で溶解したPPS又はPBT樹脂をインサート形成するインサート成形工程により、銅部品にPPS又はPBT樹脂を接合させて、樹脂金属接合物を製造することができる。
【0054】
また、必要に応じて、上記インサート成形工程の後に、100℃以上でかつ、PPS又はPBT樹脂の融点以下で、約0.5〜5時間のアニール処理工程を設けることも可能である。このようなアニール処理を行うことで、接着性をより向上させることができるとともに、生産性も向上させることができる。
【0055】
このようにして得られた本発明の樹脂金属接合物は、精密荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社製、1840N)で測定して20MPa以上の引張強度を有することができ、これは破断時の破断部の樹脂残りが面積の50%以上であることを意味するものである。
【実施例】
【0056】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例により説明する。
但し、実施例及び比較例には、以下の銅の試験片、薬品及び樹脂を用いて実施した。
(銅の試験板) 使用した銅の試験板の規格及び寸法を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(樹脂) 使用した樹脂の商品名等は以下の通りである。
PPS(ポリフェニレンサルファイド):商品名 サスティールBGX−130(東ソー株式会社製)
PPS(ポリフェニレンサルファイド):商品名 601−044(東ソー株式会社製)
PBT(ポリブチレンテレフタレート):商品名 ジェラネックス7407(ポリプラスチックス株式会社製)
【0059】
(薬品) 使用した薬品の商品名等を使用する工程とともに表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
(実施例1〜3・参考例1〜14)
図1に示す樹脂金属接合物1を製造した。まず、上記表1の純銅試験板2またはリン青銅試験板2の表面を、表2に示す薬品を用いて、前処理を行った。具体的には、まず純銅試験板2またはリン青銅試験板2の表面を、上記「SK−144」(濃度50g/L)を用いて60℃で5分間、浸漬脱脂し、次いで、上記薬品「精製硫酸」(濃度100ml/L)を用いて25℃で1分間、浸漬表面活性化処理を行って、前処理を実施した。
【0062】
次いで、上記前処理後の各純銅試験板2またはリン青銅試験板2を、表3に示すように、表面処理2を実施、または表面処理1を実施した後次いで表面処理2を実施した。
【0063】
具体的には、表面処理1は、前処理を行った各試験板を、表2のTTN、OLKまたはAFN溶液に浸漬して、該各試験板2の表面上に、各トリアジンチオール誘導体の被膜4を形成した(トリアジンチオール誘導体被膜形成工程;表面処理1)。
【0064】
表面処理2は、過酸化水素、過酸化ナトリウムまたはパーブチル(t−ブチルヒドロペルオキシド)水溶液に、各前処理が終了した純銅試験板、または上記表面処理1を実施した純銅試験板もしくはリン青銅試験板を、表3に示す表面処理2の条件下、浸漬して、各試験板の表面の過酸化物液接触工程を実施した(表面処理2)。
次いで、得られた各純銅試験板またはリン青銅試験板の表面をイオン交換水で80℃で1分間洗浄し、その後表面を乾燥させた。
【0065】
次いで得られた各純銅試験板またはリン青銅試験板の表面に、上記PPS樹脂またはPBT樹脂3を、射出成形機(製品名;TH20E 日精樹脂工業株式会社製)を用いて金型成型温度140℃で射出成形して(インサート成形工程)、純銅試験板上またはリン青銅試験板上にPPS樹脂またはPBT樹脂3を接合し、樹脂金属接合物1を形成した(図1、図2)。
【0066】
(比較例1) 上記被膜形成工程及び過酸化物液接触工程を実施しない以外は、上記実施例1に準じて、樹脂金属接合物を形成した。
(比較例2) 銅接合面上の酸化銅の面積比率のCuO/(CuO+CuO)の値が75%を超えている樹脂金属接合体の例である。
(比較例3) 銅接合面上の酸化銅の面積比率のCuO/(CuO+CuO)の値が10%より小さい樹脂金属接合体の例である。
【0067】
(試験例) 上記各実施例1〜3、参考例1〜14、比較例1〜3で得られた各樹脂金属接合物(図1、図2)を以下の試験に供した。
(接着性の強さ) 接着性の強さは、得られた各樹脂金属接合物の引張強度で表す。
具体的には、各樹脂金属接合物の銅部品と、PPS又はPBT樹脂とを、精密荷重測定器(製品番号 1840N:アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて両端を掴んで引剥がし、その際の、破断時の引張強度を測定した。引張強度が20MPa以上の場合は、十分な接着性を有しているものである。得られた結果を、それぞれ表3に示す。
【0068】
<CuOのピーク強度面積比率>
表面処理2を実施した後の、得られた銅部品表面上のCuO及びCuOのピーク強度の面積比率を、XPS(X線光電子分光法:X−ray Photoelectron Spectroscopy)により測定し、その結果を表3に示す。具体的には、各樹脂金属接合物中、PPSまたはPBT樹脂部品と接合されていない、銅部品上の表面をXPS(ULVACPHI社製 5600ci)を用いて、Cu2pのナロースキャンスペクトルを分析した。
【0069】
(測定条件)
励起X線:mono−A1、
X線入射角度:70°、
測定面積:φ800μm、
補正条件:ClsのC−C又はC−Hを285.0eVに補正。
(解析)
Cu2p3/2ピークをCu(I)、Cu(II)にピーク分離した。
ピーク面積を用いて、Cu(I)/{Cu(I)+Cu(II)}よりCuO比率を算出した。
得られた結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3より、本発明の樹脂金属接合物は、酸化銅(I)を特定の面積割合で接合表面上に含むため、引き抜き試験において示されたように、良好な引張強度、20MPa以上の値を有し、強固な接合が実現できることが明らかである。また、更に、トリアジンチオール誘導体も存在することでも、強固な接合が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の樹脂金属接合物は、樹脂と金属とが接合する部材であれば任意の用途に適用することができるが、特に自動車部品に好適に使用することができるものである。
【符号の説明】
【0073】
1 樹脂金属接合物
2 銅部品
3 樹脂部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅部品と、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂部品とを接合してなる樹脂金属接合物であって、
前記銅部品表面上に、酸化銅が次の範囲;
10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%
で存在し、5〜100nmの凹凸形状が形成されている銅部品接合面により、該銅部品と前記樹脂部品とが接合されてなることを特徴とする、樹脂金属接合物。
【請求項2】
樹脂金属接合物を製造するにあたり、
銅部品を酸化剤溶液と接触させることにより、該銅部品の該樹脂部品側の接合面上の酸化銅を次の範囲;
10%≦CuO/(CuO+CuO)≦75%
とし、
前記特定の割合の酸化銅を存在させ、5〜100nmの凹凸形状を形成させた銅部品に、ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂をインサート成形すること
を備えることにより、前記銅部品と該ポリフェニレンサルファイド又はポリブチレンテレフタレート樹脂とを接合することを特徴とする、樹脂金属接合物の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の樹脂金属接合物の製造方法において、酸化剤溶液の濃度は10〜50質量%であることを特徴とする、樹脂金属接合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79330(P2011−79330A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278593(P2010−278593)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【分割の表示】特願2009−546257(P2009−546257)の分割
【原出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(591117206)株式会社東亜電化 (6)
【Fターム(参考)】