説明

機械における原点位置調整方法および原点位置調整機能を有する機械

【課題】作業時間を短くしつつ、原点位置をさらに容易に設定する。
【解決手段】位置検出器を備えたサーボモータによって駆動される可動部(10)の機械原点位置調整機能を有する機械は、位置検出器により検出された値をカウントするレファレンスカウンタ(16)と、可動部を所定の方向に移動させて機械原点位置に位置決めしたときのレファレンスカウンタの容量を記憶した記憶部(17)と、可動部を位置決めしたときのレファレンスカウンタの値を読み取るレファレンスカウンタ読取部(18)と、レファレンスカウンタのカウンタ容量を読み取るカウンタ容量読取部(19)と、レファレンスカウンタの値とレファレンスカウンタ容量とに基づいて機械原点位置の調整量を算出する調整量算出部(20)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータにより駆動される可動部を有する機械、例えば工作機械、放電加工機、射出成形機、ロボットまたは産業機械において機械原点を有効にするための原点位置調整方法およびそのような原点位置調整機能を有する機械に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータ(以下、単に「モータ」と称する場合がある)により駆動される可動部を有する機械、例えば工作機械、放電加工機、射出成形機、ロボットまたは産業機械においては、治具などを利用してワークを所定の位置に固定する場合がある。
【0003】
図4はワークおよびその周辺機器の頂面図である。図4に示されるように、平板状であるワークWがワーク置台1に載置される。このワークWは二つの治具2a、2bによってXY方向に移動しないように固定されている。また、ワーク置台1は、サーボモータにより駆動される可動部を有する機械に取付けられているものとする。
【0004】
図4から分かるように、所定形状の加工開始穴がワークWの所定位置に形成されている。この加工開始穴はワーク原点OWとも呼ばれている。ワーク原点OWを基準として、ワークWの加工寸法が図面などで指定される。このような場合には、作業を簡略化する目的で、ワーク原点OWと機械原点OMとの間の位置情報(位置差)を予めワーク座標系として登録している。
【0005】
図4のワーク置台1内に設定されている機械原点OMは、機械のサーボモータ(図示しない)と制御装置(図示しない)とが接続されてかつ電源が保持されている場合には保持される。しかしながら、機械の組立開始時や移設時、保持用電源、例えば乾電池が消耗した場合には、機械原点OMの位置情報が存在しないか、あるいは消失することがある。
【0006】
そのような場合には機械原点OMの設定を行う必要がある。機械原点OMの具体的な設定方法は、例えば特許文献1に記載されている。なお、機械原点OMは任意の位置ではなく、機械の可動部、例えば軸(図示しない)と固定部、例えばワーク置台1との間の相対位置に応じて定まる。また、作業者の熟練度に関わらずに機械原点OMをより正確に設定できるようにするために、パルスコーダの一回転信号を利用して機械原点OMを設定する。通常、パルスコーダの一回転信号に応じた位置が正しい機械原点OMの位置にはならないので、機械原点OMの位置を調整する必要がある。
【0007】
図5(a)から図5(c)は従来技術における機械原点OMの位置の調整作用を説明するための図である。これら図面において、横軸は機械位置を示すと共に、縦軸はリファレンスカウンタのデータRCDを示すものとする。リファレンスカウンタは可逆カウンタとして動作するものであって、横軸における位置に関するパルスが一定量だけ入力される毎にグリッド信号を出力する。
【0008】
例えば、リファレンスカウンタのカウンタ容量CCDが500000、横軸における位置の1パルスの重みが0.01μmに設定されている場合には、グリッドデータは分配パルス500000パルス毎、すなわち移動量5mmごとに作成される。
【0009】
そして、リファレンスカウンタのデータRCDが、モータに取付けられたパルスコーダの一回転に対応する所定の値に到達すると、リファレンスカウンタは一回転信号(図5(a)から図5(c)においては白色四角で示される)を出力する。これら図面においては、調整前のリファレンスカウンタの値が破線で表されている。これら破線における複数の頂点はパルスコーダの一回転信号を示している。以下、図5(a)から図5(c)を参照して、従来技術における機械原点OMの位置の調整量を設定する具体的な手法を説明する。
【0010】
(1)はじめに、図5(a)に示されるように機械の軸を機械原点OMの位置まで移動させる(図5(a)の白色円を参照されたい)。このときのリファレンスカウンタのデータRCDは任意である。また、機械原点OMと仮の機械原点との間の座標値も任意の値になる。ここでは、図5(a)に示される例においては、仮原点位置と機械原点OMとの間に−2.0000mmの座標値が存在している。なお、機械の組立開始時には部品が組立てられていないものの、組立工程の便宜上、仮の原点位置を設定する必要がある。従って、図5(a)においては、仮の原点位置での原点設定状態になっている。
【0011】
(2)次いで、図5(a)に示される位置関係において機械原点OMを無効(原点を失わせる)にし、その後、再び有効にする。
(3)制御装置の電源を再起動し、制御装置の内部的な処理により機械座標値をプリセットする。これにより軸の現在位置の座標値は0.0000mmとなる。
(4)この位置において再び原点を無効(原点を失わせる)にする。
【0012】
(5)原点復帰モードにおいて軸を移動させ、モータの一回転位置で軸を停止させる。図5(b)に示されるように、軸の現在位置(白色円)と一つの一回転信号(白色四角)とが一致している。このときの軸の現在位置の座標値は1.0000mmである。
(6)表示されている座標値に基づいて、原点位置OMのための調整量を計算し、NC用ROMに設定する。ここでは、軸の現在位置の座標値が1.0000mm(=1000μm)であるので、1000/0.01(μm)=100000に符号を反転して原点位置の調整量として設定する。
(7)再び原点を無効にする。
【0013】
(8)軸を反対方向に一回転を超えない範囲で戻し、原点復帰モードで軸を動かし、モータの一回転位置で原点を設定する。調整量を前述したように設定しているため、図5(c)において実線で示されるように、軸の現在位置の座標値は0.0000となる。このようにして、最終的には(1)で設定した位置が正しい原点位置になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭62−95604号公報
【特許文献2】特許第2811087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような作業は、操作者により目視で行われ煩雑である。また、軸によっては、位置合わせのために治具が必要となり、設定に要する時間も長くなる。従って、この原点位置の調整は機械の組立時に一度だけ行うのが望まれる。また、作業者の熟練度によっても作業時間はかなり変化する。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、作業時間を短くしつつ、原点位置をさらに容易に設定することのできる、機械における原点位置調整方法および原点位置調整機能を有する機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、位置検出器を備えたサーボモータによって駆動される可動部を有する機械の機械原点位置の調整方法であって、前記可動部を所定の方向に移動させて機械原点位置に位置決めし、前記位置検出器により検出された値をカウントするレファレンスカウンタの前記可動部を位置決めしたときの値を読取り、前記レファレンスカウンタのカウンタ容量を読取り、前記位置決めしたときのレファレンスカウンタの値とレファレンスカウンタ容量とに基づいて前記機械原点位置の調整量を算出する、機械の原点調整方法が提供される。
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記機械は工作機械、放電加工機、射出成形機、産業機械またはロボットである。
3番目の発明によれば、位置検出器を備えたサーボモータによって駆動される可動部の機械原点位置調整機能を有する機械において、前記位置検出器により検出された値をカウントするレファレンスカウンタと、前記可動部を所定の方向に移動させて機械原点位置に位置決めしたときのレファレンスカウンタの容量を記憶した記憶部と、前記可動部を位置決めしたときの前記レファレンスカウンタの値を読み取るレファレンスカウンタ読取部と、前記レファレンスカウンタのカウンタ容量を読み取るカウンタ容量読取部と、レファレンスカウンタの値とレファレンスカウンタ容量とに基づいて前記機械原点位置の調整量を算出する調整量算出部と、を含む機械が提供される。
4番目の発明によれば、3番目の発明において、前記機械は工作機械、放電加工機、射出成形機、産業機械またはロボットである。
【発明の効果】
【0018】
1番目および3番目の発明においては、リファレンスカウンタデータに基づいて原点位置調整量を設定しているので、機械位置の設定に要する作業時間を短くし、原点位置をさらに容易に設定できる。
2番目および4番目の発明においては、多くの種類の機械について本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に基づく機械の機能ブロック図である。
【図2】本発明に基づく機械の原点位置調整方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】(a)本発明に基づく機械原点OMの位置の調整作用を説明するための第一の図である。(b)本発明に基づく機械原点OMの位置の調整作用を説明するための第二の図である。
【図4】ワークおよびその周辺機器の頂面図である。
【図5】(a)従来技術における機械原点OMの位置の調整作用を説明するための第一の図である。(b)従来技術における機械原点OMの位置の調整作用を説明するための第二の図である。(c)従来技術における機械原点OMの位置の調整作用を説明するための第三の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づく機械の機能ブロック図である。図1に示されるように、サーボモータMは機械、例えば工作機械、放電加工機、射出成形機、ロボットまたは産業機械の機構可動部10を駆動するのに使用される。つまり、サーボモータMの軸の回転量に応じて機構可動部10の移動量が定まる。
【0021】
図1において、CNC11からサーボモータMの軸の移動指令値が出力される。サーボモータMにはパルスコーダ15が取付けられていて、サーボモータMの軸の位置を所定の制御周期毎に検出する。パルスコーダ15により検出された位置検出値は、減算器12において移動指令値から減算されて、誤差レジスタ13に入力される。そして、誤差レジスタ13から出力されるエラー量に応じて電圧信号が指令される。その電圧信号はサーボアンプ14によって増幅され、サーボモータMに入力される。
【0022】
図1に示されるように、パルスコーダ15により検出された位置検出値はリファレンスカウンタ16にも入力される。リファレンスカウンタ16のカウンタ容量データCCDは、CNC11の記憶部17に記憶される。リファレンスカウンタ16は、パルスコーダ15により検出された位置検出値をカウントして、リファレンスカウンタデータRCDを更新する。そして、リファレンスカウンタデータRCDが所定量に到達すると、グリッド信号を出力する。
【0023】
ここで、グリッドとは、パルスコーダ15(位置検出器)の一回転毎に出力される一回転信号を基準にパラメータ設定される値を初期値とするカウンタにて作られる電子的格子点である。例えば、リファレンスカウンタ16のカウンタ容量データCCDを500000とし、1パルスの重みを0.01μmとする。このとき、分配パルス500000パルス毎、すなわち移動量5mmごとに、グリッド信号が出力されることになる。さらに、リファレンスカウンタの値がパルスコーダの一回転に対応する所定の値に到達すると、リファレンスカウンタは一回転信号を出力する。
【0024】
また、図1に示されるように、リファレンスカウンタ16のリファレンスカウンタデータRCDはカウンタ読取部18に読取られて算出部20に入力される。同様に、記憶部17に記憶されたカウンタ容量データCCDはカウンタ容量読取部19に読取られて算出部20に入力される。算出部20はリファレンスカウンタデータRCDおよびカウンタ容量データCCDに基づいて、機械原点位置の調整量を後述するように算出する。
【0025】
図2は本発明に基づく機械の原点位置調整方法を説明するためのフローチャートである。また、図3(a)および図3(b)は、本発明に基づく機械原点OMの位置の調整作用を説明するための図である。これら図面において、横軸は機械位置を示すと共に、縦軸はリファレンスカウンタのデータRCDを示すものとする。また、これら図面においては、一回転信号は白色四角で示される。
【0026】
ここで、機構可動部10を含む機械は、ワークWおよびワーク置台1を別途備えている。図4を参照して説明したように、平板状であるワークWがワーク置台1に載置される。このワークWは二つの治具2a、2bによってXY方向に移動しないように固定されている。また、ワーク置台1は、サーボモータにより駆動される可動部を有する機械に取付けられているものとする。
【0027】
図4から分かるように、所定形状の加工開始穴がワークWの所定位置に形成されている。この加工開始穴はワーク原点OWとも呼ばれている。ワーク原点OWを基準として、ワークWの加工寸法が図面などで指定される。このような場合には、作業を簡略化する目的で、ワーク原点OWと機械原点OMとの間の位置情報(位置差)を予めワーク座標系として登録している。以下、図1から図3(b)を参照しつつ、本発明に基づく機械の原点位置調整方法について説明する。
【0028】
はじめに、ステップS1において操作者が機械の軸を手動で機械原点位置OMまで移動する。次いで、カウンタ読取部18を通じてリファレンスカウンタ16のリファレンスカウンタデータRCDを読取ると共に、カウンタ容量読取部19を通じて記憶部17からカウンタ容量データCCDを読取る(ステップS2、ステップS3)。図3(a)においては、リファレンスカウンタデータRCDが400000であり、カウンタ容量データCCDが500000である。
【0029】
次いで、ステップS4において算出部20はリファレンスカウンタデータRCDがカウンタ容量データCCDの半分よりも小さいか否かを判定する。その理由は、一回転信号を中心として調整量を設定するのが望まれるので、リファレンスカウンタデータRCDがカウンタ容量データCCDの半分を超えた場合には算出方法を異ならせるのが有利なためである。そして、カウンタ容量データCCDの半分とリファレンスカウンタデータRCDとを比較するのは、次のリファレンスカウンタデータRCDに基づいて判断したほうが、調整量を迅速に算出できる場合があるためである。
【0030】
そして、リファレンスカウンタデータRCDがカウンタ容量データCCDの半分よりも小さい場合には原点位置調整量をリファレンスカウンタデータRCDに設定する(ステップS5)。これに対し、リファレンスカウンタデータRCDがカウンタ容量データCCDの半分よりも小さくない場合には、リファレンスカウンタデータRCDからカウンタ容量データCCDを減算した偏差を原点位置調整量として設定する(ステップS6)。図3(a)に示される例では、算出部20は原点位置調整量として、400000−500000=−100000(=RCD−CCD)を設定している。
【0031】
次いで、ステップS7において、設定された原点位置調整量をNC用ROMデータ(図示しない)に書込む。そして、一回転を越えない範囲で軸を反対方向に戻し、原点復帰モードで軸を動かし、モータの一回転位置で原点を設定する。これにより、図3(b)において実線で示されるように、現在位置(白色円)と一つの一回転信号(白色四角)とが一致するようになる。前述した原点位置調整量を設定しているので、原点を設定したときのリファレンスカウンタ16の値はゼロになる。
【0032】
前述した従来技術においては機械位置(横軸)に基づいて原点位置調整量を設定している。これに対し、本発明においては、リファレンスカウンタデータRCD(縦軸)に基づいて原点位置調整量を設定している。従って、機械位置の設定に要する作業時間を短くし、原点位置OMをさらに容易に設定することが可能となる。また、このような原点位置OM作業は作業者の熟練度に関わらずに行えるのが分かるであろう。
【符号の説明】
【0033】
1 ワーク置台
2a、2b 治具
10 機構可動部
11 CNC
12 減算器
13 誤差レジスタ
14 サーボアンプ
15 パルスコーダ(位置検出器)
16 リファレンスカウンタ
17 記憶部
18 カウンタ読取部
19 カウンタ容量読取部
20 算出部
CCD カウンタ容量データ
OM 機械原点
RCD リファレンスカウンタデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置検出器を備えたサーボモータによって駆動される可動部を有する機械の機械原点位置の調整方法であって、
前記可動部を所定の方向に移動させて機械原点位置に位置決めし、
前記位置検出器により検出された値をカウントするレファレンスカウンタの前記可動部を位置決めしたときの値を読取り、
前記レファレンスカウンタのカウンタ容量を読取り、
前記位置決めしたときのレファレンスカウンタの値とレファレンスカウンタ容量とに基づいて前記機械原点位置の調整量を算出する、機械の原点調整方法。
【請求項2】
前記機械は工作機械、放電加工機、射出成形機、産業機械またはロボットであることを特徴とする請求項1記載の機械の原点調整方法。
【請求項3】
位置検出器を備えたサーボモータによって駆動される可動部の機械原点位置調整機能を有する機械において、
前記位置検出器により検出された値をカウントするレファレンスカウンタと、
前記可動部を所定の方向に移動させて機械原点位置に位置決めしたときのレファレンスカウンタの容量を記憶した記憶部と、
前記可動部を位置決めしたときの前記レファレンスカウンタの値を読み取るレファレンスカウンタ読取部と、
前記レファレンスカウンタのカウンタ容量を読み取るカウンタ容量読取部と、
レファレンスカウンタの値とレファレンスカウンタ容量とに基づいて前記機械原点位置の調整量を算出する調整量算出部と、を含む機械。
【請求項4】
前記機械は工作機械、放電加工機、射出成形機、産業機械またはロボットであることを特徴とする請求項3記載の機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84102(P2013−84102A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223216(P2011−223216)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】