説明

機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置

【課題】エネルギーロスを小さくし、メインモータの容量を不要に大きくしなくてすむ機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置を提供する。
【解決手段】クラッチ機構15とブレーキ機構20からなる湿式クラッチブレーキを備えた機械プレスにおいて、クラッチ機構15の摩擦部およびブレーキ機構20の摩擦部に冷却油を供給する冷却油路34と、冷却油路34に接続された冷却油供給源と、冷却油路34に介装された冷却油の流量を変更する流量制御部とを備えている。流量制御部は、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁54と、第1開閉弁54に並行に接続された絞り55とからなる。冷却油供給源は、タンク51と油圧ポンプ52とポンプ駆動用のモータ53とからなる。冷却油路34にはクーラー56が介装されている。冷却油の流量を絞るとプレス停止時のフライホイール回転によるドラッグトルクは低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置に関する。機械プレスでは、外部動力源であるメインモータの動力をクランク軸を介してスライドに伝達・遮断するためのクラッチブレーキ装置が設けられている。クラッチブレーキ装置には、乾式と湿式があり、本発明は機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式クラッチブレーキに関する従来技術として、特許文献1の技術がある。特許文献1の従来技術は、機械プレスに湿式クラッチブレーキを用いたもので、クランク軸とフライホイール側の駆動軸との間にクラッチとブレーキを設けており、クラッチとブレーキは、その摩擦板部に油膜を形成させる構造のものである。それゆえ、湿式と称される。このような機械プレスでは、メインモータで回転されるフライホイールとクランク軸との間をクラッチで接続して、スライドの昇降を行わせ、かつブレーキで制動してスライドを上死点で停止させるようにしている。
この湿式クラッチブレーキは、油のせん断抵抗力を利用するので、摩擦面の摩耗がほとんどなく、高速にできる等の利点がある。
【0003】
ところで、機械プレスでは、起動と停止を繰り返して鍛造品を生産する。つまり、クラッチを接続してクランク軸を回してスライドを下降させ、下死点で素材を成形した後、上昇し上死点で停止させる。
このプレス動作の1サイクルの間に、クランク軸の回転数がクラッチ接続時の停止状態(0rpm)から定格回転(30〜60rpm)まで上昇するため、クラッチ面に滑りによる熱が発生する。
また、回転しているクランク軸をプレス上死点で停止させるときは、ブレーキをかけるので、スライドを含めた従動部系の運動エネルギーが熱に変換され、やはり発熱する。
【0004】
このように発熱量が多いことから、湿式クラッチブレーキには冷却油を供給して、冷却することが必要となる。
この場合の冷却油の油量は、プレス運転中に発生する熱をクラッチやブレーキの摩擦板から奪って焼付等のトラブルが発生しないような大流量に設定されている。
【0005】
図9は上記従来技術におけるプレス動作の説明図である。(A)図はメインモータの回転数の変化を示しており、いったん回転を立ち上げると、定格回転数での回転を続け、最後に回転を停止させている。このようにメインモータは1日の作業の始めに起動すると、数時間は停止することがない。そして、(B)図に示すように、メインモータが継続して回転している間に、プレス作業が行われるが、プレスはこの間に、実際に作業する運転中の時間があったり作業中止をする停止中の時間がある。符号Dはプレスが運転中のスライドの上下動作を示しており、符号Sは停止中を示している。(C)図は上記した冷却油の流量変化を示すものであるが、図示するように、メインモータの起動前から大流量の冷却油を流し始め、メインモータが停止した後に冷却油の供給を止めるようにしており、この間の流量はずっと一定であった。
【0006】
このような機械プレスにおいて、メインモータが起動しフライホイールが回転しているが、スライドが上死点で停止している間、つまり図7(B)の停止中Sの間は、クラッチブレーキ内の回転側の摩擦板と静止側の摩擦板との間で冷却油のせん断抵抗が大きくなっている。これをドラッグトルクという。このドラッグトルクに関して、特許文献1の従来技術は、全く問題点として認識していなかった。
【0007】
上記のドラッグトルクは、気温の低いときなどは冷却油の温度も低いので、ドラッグトルクはさらに高くなる。その絶対値は冷却油量によって変動するが、冷却温度が10℃低いと、ドラッグトルクは倍増することもある。したがって、気温の低いときはフライホイールをフル回転させるまでの時間が長くなったり、エネルギーロスも増大する。
このドラッグトルクが大きいことは、エネルギーロスが大きいことを意味するので、プレス駆動用のメインモータの容量も本来必要とされる以上に大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−305400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、エネルギーロスを小さくし、メインモータの容量を不要に大きくしなくてすむ機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置は、外部駆動源にクランク軸を接続・切断するクラッチ機構と、該クランク軸を制動・解放するブレーキ機構を備え、前記クラッチ機構と前記クラッチ機構が摩擦板部に油膜形成させる湿式クラッチブレーキを備えた機械プレスにおいて、前記クラッチ機構の摩擦板部および前記ブレーキ機構の摩擦板部に冷却油を供給する冷却油路と、該冷却油路に接続された冷却油供給源と、前記冷却油路に介装された冷却油の流量を変更する流量制御部とを備えていることを特徴とする。
第2発明の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置は、第1発明において、前記冷却油供給源は冷却油の吐出量を変更できる吐出量可変型であり、前記流量制御部が、前記冷却油源の冷却油吐出量を調整するコントローラからなることを特徴とする。
第3発明の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置は、第1発明において、前記冷却油供給源は、冷却油の吐出量が一定の吐出量固定型であり、前記流量制御部が、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁と、該第1開閉弁に並列に接続された絞りからなることを特徴とする。
第4発明の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置は、第1発明において、前記冷却油供給源は、冷却油の吐出量を変更できる吐出量可変型であり、
前記流量制御部が、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁と、該第1開閉弁に並列に接続された絞りからなることを特徴とする。
第5発明の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置は、第1発明において、前記冷却油供給源は、冷却油の吐出量が一定の吐出量固定型であり、前記流量制御部が、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁からなることを特徴とする。
第6発明の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置は、第1,2,3,4または第5発明において、前記冷却油路にクーラーが介装されており、該クーラーには冷却水給排路が接続され、該冷却水給排路には、冷却水の供給と遮断を切替える第2開閉弁が介装されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、プレスの通常運転中は流量制御部によって、冷却油量を冷却に必要な油量に設定して効果的に冷却を行わせ、プレスの停止中は冷却油量を必要最小限にすることで、ドラッグトルクを低減できる。このため、エネルギーロスは小さくなり外部駆動源の容量を必要以上に大きくしなくてよくなる。
第2発明によれば、コントローラによって冷却油供給源の冷却油吐出量を増減できるので、プレス運転中は冷却油供給量を多くして冷却効果を高くし、プレス停止中は冷却油供給量を減少させたり供給停止することで、プレス運転停止中のドラッグトルクを低減できる。
第3発明によれば、第1開閉弁を開位置にすることで冷却油の供給量を大流量にし、第1開閉弁を閉位置として絞りを通すことで冷却油の供給量を小流量に制限できる。このため、プレス運転中は冷却油供給量を多くして冷却効果を高くし、プレスの運転停止中には冷却油を小流量にすることで、ドラッグトルクを低減でき、かつ必要最小限の冷却を行うことができる。
第4発明によれば、第1開閉弁の開閉位置の選択と冷却油供給源の吐出量の加減により冷却油供給量を大小に調整できる。そして、プレス運転中は冷却量を多くして冷却効果を高くし、プレスの運転停止時には冷却油を小流量にすることで、ドラッグトルクを低減し、かつ必要最小限の冷却を行わせることができる。
第5発明によれば、第1開閉弁を開位置にして冷却油を供給すると、高い冷却効果を発揮でき、第1開閉弁を閉位置にして、冷却油量の供給を止めると、供給済みの冷却油が閉じ込められ、それ以上に流量が増えないので、プレス運転停止中のドラッグトルクが大きくなることはない。
第6発明によれば、第2開閉弁を閉位置にするとクーラーへの冷却水が止まるので、プレス運転停止中等における冷却油の過冷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態における湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置の油圧回路図である。
【図2】第1実施形態の冷却油量制御装置において冷却油量の供給を制限した状態の油圧回路図である。
【図3】本発明の第2実施形態における湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置の油圧回路図である。
【図4】第2実施形態の冷却油量制御装置において冷却油量の供給を制限した状態の油圧回路図である。
【図5】本発明の冷却油量制御装置における冷却油供給量の説明図である。
【図6】本発明が適用される機械プレスの湿式のクラッチブレーキまわりの断面図である。
【図7】スライド停止時におけるフライホイール系駆動部の回転動作説明図である。
【図8】湿式のクラッチブレーキにおけるドラッグトルクの説明図である。
【図9】従来技術におけるドラッグトルクの問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明が適用される機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの一例を図6に基づき説明する。
符号Aは機械プレスのクランク軸、Bは駆動軸であり、この駆動軸Bと前記クランク軸Aとは遊星歯車減速機Cを介して連結されている。Dはプレスフレームに取付けられた固定部材である。
【0014】
前記固定部材Dの外周には、フライホイールFが、ベアリング41を介して回転可能に取付けられている。また、フライホイールFにはベルト車Eが同軸に固定されており、外部駆動源であるメインモータで回転されるようになっている。そして、このベルト車Eと駆動軸Bとの間には、両者を接続・切断し制動・解放する湿式クラッチブレーキ10が設けられている。
【0015】
前記湿式クラッチブレーキ10は、クラッチ機構15、ブレーキ機構20、クラッチシリンダ25からなる。
このクラッチシリンダ25には、駆動軸B内に形成した油路28aと、駆動軸Bの先端に取付けたロータリジョイント29を経て作動油が供給されるようになっている。また、このロータリジョイント29は、外部の油圧源に油路32で接続されている。
【0016】
前記クラッチ機構15は、ベルト車E側に連結されたクラッチハウジング16と駆動軸Bにキー等で固定されたクラッチボス17とを有しており、クラッチハウジング16にスプライン結合した摩擦板18とクラッチボス17にスプライン結合した摩擦板18が交互に重ね合わされている。
前記ブレーキ機構20は、プレスの固定部材Dに連結されたブレーキハウジング21と駆動軸Bにキー等で固定されたブレーキボス22とを有しており、ブレーキハウジング21にスプライン結合した摩擦板23とブレーキボス22にスプライン結合した摩擦板23が交互に重ね合わされている。
【0017】
前記摩擦板18と前記摩擦板23には、駆動軸B内に形成した油路28bと前記ロータリジョイント29を経て冷却油が供給されるようになっている。また、ロータリジョイント29には外部の冷却油供給源に接続された冷却油路34を経て冷却油が供給されるようになっている。
【0018】
クラッチシリンダ25は、ピストン26と油室27とで構成されている。
ピストン26は前記駆動軸Bの軸方向において、前記クラッチ機構15と、前記ブレーキ機構20との間に設けられている。このピストン26とブレーキボス22側との間には、液密に密閉された油室27が形成されており、この油室27は、前記油路28aを介して作動油が供給されるようになっている。
一方、前記ピストン26とクラッチボス17との間には、ブレーキバネ24が配設されている。このブレーキバネ24はピストン26を常時ブレーキ機構20側に押し付け、ブレーキを効かせるものである。
【0019】
上記湿式クラッチブレーキ10のクラッチ動作とブレーキ動作は、つぎのとおりである。
クラッチシリンダ25の油室27に油が供給されていない状態では、ピストン26はブレーキバネ24によって図中左方に向かって付勢される。このとき、ブレーキ機構20の摩擦板23は互いに密着してブレーキが効き、クラッチ機構15の摩擦板18は互いに離間してクラッチが切れた状態となる。すると、駆動軸Bもクランク軸Aも回転を停止する。この状態を、フルブレーキという。なお、フルブレーキには至らないが、ある程度ブレーキが効く状態を、半ブレーキという。
【0020】
逆に、クラッチシリンダ25の油室27に作動油を供給すると、ピストン26は油室27内の油圧によって図中右方に向かって付勢される。つまり、ブレーキバネ24を圧縮しつつ、ブレーキ機構20の摩擦板23は互いに離間してブレーキが解放され、クラッチ機構15の摩擦板18は互いに密着してクラッチが接続した状態となる。
すると、駆動軸Bはベルト車Eからの動力を受けて回転し、その回転が遊星歯車減速機Cを介してクランク軸Aに伝えられるので、クランク軸Aが起動回転する。この状態を、フルクラッチという。なお、フルクラッチには至らないが、ある程度クラッチが接続している状態を半クラッチという。
【0021】
以上のように、湿式クラッチブレーキ10は、クラッチシリンダ25の油室27への作動油の給排ならびに供給圧力を制御することにより、クランク軸Aに対する接続・切断とクランク軸Aの制動、解放を制御することができる。また、クラッチの半接続(つまり、半クラッチ)もブレーキの半制動(つまり、半ブレーキ)も制御することができ、さらに、半クラッチおよび半ブレーキの程度も連続的に変えることができる。
【0022】
つぎに、上記湿式クラッチブレーキ10を制御するための油圧制御装置を説明する。
図1に示すクラッチ機構15、ブレーキ機構20、クラッチシリンダ25は、図6で解説したものである。
このクラッチシリンダ25の油室27には、油圧源31から作動油が既述の油路32を介して供給されるようになっている。33はタンクである。
V1は電磁駆動型サーボ制御弁(以下、サーボ制御弁という)であって、前記油路32に介装されている。
【0023】
前記サーボ制御弁V1は、4ポート3位置の方向制御弁であって、スプリングセンタ付勢電磁駆動型の高速リニアサーボ弁である。
このサーボ制御弁V1は、給排時の作動油圧力を制御する圧力制御サーボ弁であり、現在圧力と目標圧力との圧力差(圧力偏差)の大小に比例して弁開度が大小に変わるものである。したがって、制御用指令信号の電圧偏差が大きいと弁開度が大きくなってクラッチシリンダ25への作動油供給量が多く、あるいは、電圧偏差がマイナス側に大きいと排出量が多くなるので、クラッチシリンダ25の伸縮動作が速くなる。反対に制御用指令信号の電圧偏差が小さいと弁開度が小さくなってクラッチシリンダ25への作動油供給量が少なく、あるいは電圧偏差がマイナス側に小さいと排出量が小さくなるので、クラッチシリンダ25への伸縮動作が遅くなる。もちろん、大きい電圧偏差と小さい電圧偏差の間で連続的に変えると、その電圧偏差に比例した弁開度となるので、クラッチシリンダ25の伸縮動作を早くも遅くも変えることができる。
なお、圧力が電流に変換される場合は、制御用指令信号は電流となり、電流偏差の大小で開閉制御するサーボ制御弁を用いてもよい。
【0024】
図示の状態のサーボ制御弁V1は、供給位置Iであるので、油圧源31がクラッチシリンダ25の油室27に連通され、油室27に作動油が供給され、ピストン26が右方向へ動き、ブレーキバネ24の圧縮力に抗してクラッチを接続し、ブレーキを解除している。
サーボ制御弁V1が排出位置IIへ切換えると、タンク33にクラッチシリンダ25の油室27が連通して、油室27から作動油が排出され、ブレーキバネ24の圧縮力によってピストン26が左方向へ動き、ブレーキを作動させ、クラッチを切断する。
サーボ制御弁V1が中立位置IIIとなると、全てのポートがブロックされ、クラッチシリンダ25内の油室27から作動油が排出されず、油室27は一定圧に保たれる。
上記の供給位置Iへの切換え、また、排出位置IIへの切換えにより、クラッチ機構15の接続切断およびブレーキ機構20の制動解除を制御でき、このクラッチブレーキの動作によって、クランク軸Aを回転停止させ、スライドSを昇降停止させることができる。
【0025】
図7はクランク軸およびスライドを停止させ、メインモータが回転している状態を示している。この状態では、メインモータの動力が伝わっているベルト車Eが回転し、このベルト車Eと共にフライホイールFやクラッチハウジング16が回転している。この回転している部材をアミカケ表示で示している。
【0026】
この状態では、図8に示すように、クラッチ機構15内でドラッグトルクDtが発生している。すなわち、クラッチハウジング16のスプライン16gには摩擦板18aの歯18gが噛み合っており、クラッチボス17のスプライン17gには摩擦板18bの歯18gが噛み合っている。そして、クラッチハウジング16側の摩擦板18aが回転し、クラッチボス17側の摩擦板18bが静止している状態で、各摩擦板18a,18bの間には冷却油OLが入っている。このため冷却油OLにせん断抵抗が発生し、ドラッグトルクDtが発生する。
【0027】
図7に戻って説明すると、上記した冷却油OLは、外部の冷却油路34および駆動軸B内の油路28bを介してクラッチ機構15の各摩擦板18の間、ブレーキ機構20の各摩擦板23との間に供給されているが、さらに、フライホイールFを支持するベアリング41の潤滑用としても供給されている。すなわち、前記摩擦板部18,23の外周に油溜り37が形成されており、ベアリング41の支持部材(プレスフレームの固定部材D)とフライホイールFの間には油溜り42が形成されている。そして、油溜り37の一端は固定部材Dに形成された排油路38につながり、他端はベルト車Eとの間の隙間を通じて油溜り42につながり、さらに排油路43につながっている。
【0028】
前記クラッチ機構15とブレーキ機構20の各摩擦板部18,23に供給された冷却油は、これを冷却した後、いったん油溜り37に貯えられて排油路38を通じて、外部の帰還油路39へ返される。
また、油溜り37から油溜り42に入ってきた冷却油は、ベアリング41を潤滑したあと、排油路43を介して、外部の帰還油路39へ返されるようになっている。
【0029】
上記のように、図6および図7に示すプレスでは、クラッチブレーキ10用の冷却油をフライホイールFのベアリング41用の潤滑にも流用しているが、ベアリング41用の潤滑は別の潤滑システムを用い、クラッチブレーキ10の冷却は専用システムとしたものも本発明に含まれる。
【0030】
つぎに、本発明の冷却油制御装置の各実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図1および図2に基づき、第1実施形態の冷却油制御装置を説明する。
図1に示すクラッチ機構15、ブレーキ機構20、油溜り37、排油路38,43は図6および図7で説明したものである。既述のごとく、冷却油路34から供給された冷却油は駆動軸内の油路28bを通って、クラッチ機構15とブレーキ機構20の各摩擦板を冷却し、さらにフライホイールFのベアリングを潤滑したあと、排油路38,43を介して、外部の帰還油路39へ排出されるようになっている。
【0031】
供給用の冷却油路34と排出用の帰還油路39は共にタンク51に接続されている。
冷却油路34には、冷却油供給用の油圧ポンプ52が介装され、油圧ポンプ52にはモータ53が接続されている。この油圧ポンプ52とモータ53によって、特許請求の範囲にいう冷却油供給源が構成されている。
本実施形態のモータ53には回転数可変型のインバータモータなどを用い、インバータ制御回路を組込んだコントローラで制御することによって回転数が任意に変えられるようにしたものが用いられる。この構成により、油圧ポンプ52は吐出量可変型となる。
【0032】
前記コントローラ50は、コンピュータ等で構成されており、プレスの運転停止の別や、冷却油温あるいは外気温に基づいてモータ53の回転数を変える機能を有している。つまり、コントローラ50は特許請求の範囲にいう流量制御部である。
このコントローラ50からの指令に基づき、プレスの運転中はモータ53の回転数を高くし、プレスの停止中はモータ53の回転数は低くされている。このように、モータ53の回転数が高いときの油圧ポンプ52の吐出量は、クラッチブレーキ10の冷却に必要な油量に設定され、モータ53の回転数が低いときの油圧ポンプ52の吐出量は、ドラッグトルクを充分低くでき、かつフライホイールFを支持するベアリング41の潤滑ができる油量に設定されている。
【0033】
前記冷却油路34における油圧ポンプ52と第1開閉弁54の間には、クーラー56が介装されている。このクーラー56には、ポンプ57で冷却水が供給されるようになっている。冷却水の帰還路には第2開閉弁58が介装されて、冷却水の循環と停止を選択できるようにしている。この第2開閉弁58は、常時は開位置Iにしておいて、クーラー56で冷却油を冷却して用いるが、プレス停止中には閉位置IIとして冷えすぎないようにすることができる。
【0034】
つぎに、第1実施形態の冷却油路制御装置の使用方法を説明する。
図1はプレス運転中を示している。つまり、サーボ制御弁V1が開位置Iにあって、クラッチが効きブレーキが解放されて、クランク軸Aの回転とスライドSの上下動が繰返されている状態である。実際のプレス動作では、サーボ制御弁V1がI位置とII位置の間で繰り返し切り換えられ、スライドの下降上昇と上死点停止が繰返されるが、この繰返し動作が継続している状態を、本明細書ではプレス運転中といい、ある程度の長い時間停止したままでいる状態をプレス停止中という言葉で説明する。
【0035】
図1に示すようなプレス運転中では、油圧ポンプ52が冷却油を吐出し、冷却油はクーラー56で冷却され、プレス内のクラッチ機構15とブレーキ機構20の摩擦板部に供給される。そして、各摩擦板18,23(図7参照)を冷却し、ベアリング41(図7参照)を潤滑したあと帰還油路39を通ってタンク51に返されてくる。
【0036】
図5は本発明による冷却油供給制御の要領を示している。(A)図はメインモータの回転数変化を示しており、(B)図はプレスの運転中(符号D)と停止中(符号S)を示しており、(C)図は冷却油の供給量変化を示している。
図1のプレス運転中では、図5に示すように、プレス運転中((B)図の符号D)に対応する間は冷却油量が大流量になっている((C)図の符号H参照)。
このように、大流量の冷却油で冷却と潤滑が行われるので、プレスは正常に運転を続けることができる。
【0037】
上記のように、冷却油を大流量で流しているときは、第2開閉弁58を開位置Iとして、クーラー56へ冷却水を供給しておくと、冷却油自体の温度を下げることができ、能率よくクラッチ機構15とブレーキ機構20の冷却を行うことができる。
【0038】
図2はプレス停止中を示している。このプレス停止中では、コントローラ50によって油圧ポンプ52からの冷却油を吐出量は小流量に変更されている。すなわち、プレス停止中((B)図のS)に対応する間では冷却油量が小流量になっている状態((C)図の符号L参照)である。
【0039】
この状態では図7に示すようにクラッチ機構15では、回転を続けているフライホイールFとベルト車Eにつながる摩擦板18と停止している駆動軸側の摩擦板18との間で、図8に示すドラッグトルクDtが発生している状態であるが、冷却油の供給量は少量となっているので、ドラッグトルクDtが生じても、わずかでしかない。また、摩擦板の冷却を終えた冷却油の一部はフライホイールFを支持するベアリング41の潤滑のため流れ出て行く。
【0040】
上記のように、冷却油を小量しか供給してないときは、第2開閉弁58を閉位置IIとしておけば、クーラー56への冷却水の供給が止められるので、冷却油の過冷を防止することができる。この第2開閉弁58の開閉制御は、冷却油温を温度センサで検出し、自動的に開閉するようにしてもよい。
【0041】
上記のように油圧ポンプ52の吐出量を調整できるので、外気温の変動等に合わせて自動的に必要な冷却油量を確保し、また逆に制限できる。すなわち、既述のコントローラ50に冷却油温の検出値を入力し、冷却油温が低いときは粘度が高いため更に油圧ポンプ52の吐出量を絞ってドラッグトルクを低減し、冷却油温が高いときは油圧ポンプ52の吐出量を増やして、高い冷却能率を得るよう自動制御することができる。
【0042】
上記のように、第1実施形態の冷却油量制御装置では、図5に示すように、メインモータが回転中であったとしても、プレスの運転中と停止中に場合分けして、冷却油量を大小に変更するので、プレス停止中のドラッグトルクはさほど生じないのである。なお、フライホイールFを支持するベアリング41に独立した潤滑システムを用いる構成では、プレス停止中には冷却油の供給を停止してもよい。
このように、本実施形態では、プレス停止中のドラッグトルクが小さくなることから、無駄なエネルギーロスが生じないので、メインモータの容量を小さくして、設備をコンパクトにすることができる。また、フライホイールFをフル回転させるまでの時間も短くできる。
【0043】
(第2実施形態)
図3および図4に基づき、第2実施形態の冷却油量制御装置を説明する。
本実施形態において、第1実施形態と同一部材については、図1および図2と同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
本実施形態における冷却油供給源は吐出量固定型である。すなわち、モータ53は回転数固定型であり、油圧ポンプ52は吐出量固定型である。回転数を可変に制御するためのコントローラ50は不要である。
【0045】
前記冷却油路34には、第1開閉弁54と絞り55が並列に介装されている。この第1開閉弁54と絞り55で特許請求の範囲にいう流量制御部が構成されている。
第1開閉弁54は、電磁駆動型であり、I位置が開、II位置が閉の2位置型方向制御弁である。
絞り55は可変絞り型の絞りであり、冷却油の流量を絞って通過させるようになっている。また、絞り量を手動で調整して、流量を多少増減することが可能となっている。
【0046】
第1開閉弁54が開位置Iのときは、冷却油の大部分の流量が第1開閉弁54を通ってクラッチ機構15とブレーキ機構20の各摩擦板部に供給される。このときの流量は、油圧ポンプ52の吐出量の全量である大流量が流される。
第1開閉弁54が閉位置IIのときは、冷却油は絞り55のみを通るので流量が制限され、小流量のみが供給される。
【0047】
つぎに、第2実施形態の冷却油路制御装置の使用方法を説明する。
図3はプレス運転中を示している。つまり、サーボ制御弁V1がI位置とII位置との間で切換えられて、クランク軸Aの回転とスライドSの上下動が繰返されている状態である。
【0048】
図3に示すようなプレス運転中では、油圧ポンプ52が冷却油を吐出し、冷却油はクーラー56で冷却され、第1開閉弁54を通って、プレス内のクラッチ機構15とブレーキ機構20の摩擦板部に供給される。そして、各摩擦板18,23(図7参照)を冷却し、ベアリング41(図7参照)を潤滑したあと帰還油路39を通ってタンク51に返されてくる。
【0049】
上記のように、冷却油を大流量で流しているときは、第2開閉弁58を開位置Iとして、クーラー56へ冷却水を供給しておくと、冷却油自体の温度を下げることができ、能率よくクラッチ機構15とブレーキ機構20の冷却を行うことができる。
【0050】
図4はプレス停止中を示している。このプレス停止中では、油圧ポンプ52は冷却油を吐出しているものの、第1開閉弁54は閉位置IIなので、絞り55のみを通過する小流量に絞られている。すなわち、プレス停止中に対応する間では冷却油量が小流量になっている状態である。
【0051】
上記のように、冷却油を小量しか供給してないときは、第2開閉弁58を閉位置IIとしておけば、クーラー56への冷却水の供給が止められるので、冷却油の過冷を防止することができる。この第2開閉弁58の開閉制御は、冷却油温を温度センサで検出し、自動的に開閉するようにしてもよい。
【0052】
上記のように、本実施形態の冷却油量制御装置では、図5に示すように、メインモータが回転中であったとしても、プレスの運転中と停止中に場合分けして、冷却油量を大小に変更するので、プレス停止中のドラッグトルクはさほど生じないのである。
このように、ドラッグトルクが小さいことから、無駄なエネルギーロスが生じないので、メインモータの容量を小さくして、設備をコンパクトにすることができる。また、フライホイールFをフル回転させるまでの時間も短くできる。
【0053】
また、第2実施形態において第1開閉弁54が閉位置IIにあるとき、絞り55の絞り量を手動で変えることで冷却油量を微妙に調整することもできる。
このため、外気温の変動等に合わせて必要な冷却油量を確保し、また逆に制限できる。たとえば、冷却油温の検出値に基づき、冷却油温が低いときは粘度が高いため更に流量を絞ってドラッグトルクを低くし、冷却油温が高いときは流量を増やして、高い冷却能率を得ることができる。したがって、夏と冬に合わせて、冷却油供給量を適量に調整することができる。
【0054】
(第3実施形態)
本実施形態は、冷却油供給源が吐出量可変型のモータ53および油圧ポンプ52を用いたものであり、流量制御部が、第1開閉弁54とこれに並列に接続した絞り55からなる。したがって、この実施形態では、絞り55と油圧ポンプ52の両方によって冷却油供給量を加減することができる。
【0055】
この実施形態では、プレス運転中は第1開閉弁54を開弁(I位置)し油圧ポンプ52の吐出量を多くすれば、充分な量の冷却油を供給できクラッチブレーキ10を充分に冷却することができる。
【0056】
逆に、プレス停止中は第1開閉弁54を開弁(I位置)したままで、油圧ポンプ52の吐出量を絞れば、冷却油量は少量になるので、ドラッグトルクが生じてもわずかでしか生じない。また、油圧ポンプ52の吐出量を変えないで、第1開閉弁54を閉弁(II位置)し絞り55に冷却油を通すことでも、冷却油量を少なくしてドラッグトルクを低減できる。
【0057】
図示の実施形態では、冷却油路34に絞り55を介装しているので、冷却油温が低いときは、絞り55を通過する流量がかなり減少する。このため、想定される一番低い温度で流量が得られるように、モータ53の回転数、換言すれば油圧ポンプ52の吐出量を設定しておくとよい。そうすることで、フライホイールFを支持するベアリング41の潤滑も行うことができる。
また、モータ53の回転数を変えることで、冷却油温の変化にかかわらず、プレス運転中の大流量であろうとプレス停止中の小流量であろうと、必要な油量を正確に確保することができる。
【0058】
(第4実施形態)
本実施形態は、冷却油供給源が回転数固定型のモータ53を用いた吐出量固定型の油圧ポンプ52からなり、流量制御部が第1開閉弁54のみで構成されている。つまり、絞り55は省略されている。
この実施形態では、第1開閉弁54を開弁しておくと、所定量の冷却油をクラッチブレーキ10に供給でき、プレス運転中の冷却が可能となる。また、第1開閉弁54を閉弁すると、冷却油の供給は不可能であるが、供給済みの冷却油が摩擦板18まわりに閉じ込められているので、それ以上流量が増えない状態で、摩擦板18が回転することになる。よって、プレス停止中のドラッグトルクが大きくなることはない。
【0059】
また、図4および図5に示すように冷却油がフライホイールFのベアリング41を潤滑する構造では、摩擦板18の周囲の冷却油はしだいに油溜り42を通じて流出するので、冷却油量が減少していくので、ドラッグトルクもしだいに減少する、また、フライホイールFのベアリング41の潤滑を冷却油で兼ねない構造では、第1開閉弁54を閉位置IIとすると摩擦板18の周囲には供給済みの冷却油が閉じこめられることになるが、流量増加はなく圧力も低いので、ドラッグトルクが大きくなることはない。
【0060】
(他の実施形態)
前記第1実施形態において、冷却油路34に第1開閉弁54を介装してもよい。常時は第1開閉弁54を開位置に保持してプレスを運転し、冷却油量の制御は油圧ポンプ52で加減することは既述のとおりである。
このように改変した実施形態において、油圧ポンプ52の出側に分岐油路を接続して冷却油を他の機器の冷却や潤滑にも兼用する構成としたときは、他の機器の冷却潤滑を続けながら、クラッチブレーキ10の保守点検などを行うとき、第1開閉弁54を閉弁する実益がある。
【0061】
つぎに、更なる他の実施形態を説明する。
前記実施形態では、冷却油の小量供給時にフライホイールFのベアリング41を潤滑しているが、これは任意である。つまり、ベアリング41の潤滑油を別系統からとるのであれば、本発明の冷却油系統は湿式クラッチブレーキの摩擦板部18,23のみの冷却用とすればよい。
この場合の冷却油量は、大流量の場合も小流量の場合も、前記実施形態よりは少なくてすむが、その流量調整は、絞り55の絞り加減や油圧ポンプ52の回転数変更で容易に最適値に調整することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 湿式クラッチブレーキ
15 クラッチ機構
18 摩擦板
20 ブレーキ機構
23 摩擦板
24 ブレーキバネ
34 冷却油路
52 油圧ポンプ
53 モータ
54 第1開閉弁
55 絞り
56 クーラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部駆動源にクランク軸を接続・切断するクラッチ機構と、該クランク軸を制動・解放するブレーキ機構を備え、前記クラッチ機構と前記クラッチ機構が摩擦板部に油膜形成させる湿式クラッチブレーキを備えた機械プレスにおいて、
前記クラッチ機構の摩擦板部および前記ブレーキ機構の摩擦板部に冷却油を供給する冷却油路と、
該冷却油路に接続された冷却油供給源と、
前記冷却油路に介装された冷却油の流量を変更する流量制御部とを備えている
ことを特徴とする機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置。
【請求項2】
前記冷却油供給源は冷却油の吐出量を変更できる吐出量可変型であり、
前記流量制御部が、前記冷却油源の冷却油吐出量を調整するコントローラからなる
ことを特徴とする請求項1記載の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置。
【請求項3】
前記冷却油供給源は、冷却油の吐出量が一定の吐出量固定型であり、
前記流量制御部が、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁と、該第1開閉弁に並列に接続された絞りからなる
ことを特徴とする請求項1記載の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置。
【請求項4】
前記冷却油供給源は、冷却油の吐出量を変更できる吐出量可変型であり、
前記流量制御部が、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁と、該第1開閉弁に並列に接続された絞りからなる
ことを特徴とする請求項1記載の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置。
【請求項5】
前記冷却油供給源は、冷却油の吐出量が一定の吐出量固定型であり、
前記流量制御部が、冷却油の通過と遮断を切替える第1開閉弁からなる
ことを特徴とする請求項1記載の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置。
【請求項6】
前記冷却油路にクーラーが介装されており、
該クーラーには冷却水給排路が接続され、
該冷却水給排路には、冷却水の供給と遮断を切替える第2開閉弁が介装されている
ことを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の機械プレスにおける湿式クラッチブレーキの冷却油量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−38615(P2011−38615A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188631(P2009−188631)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】