説明

機能層付き部材、表示媒体及び表示媒体の製造方法

【課題】第1機能層上に設ける第2機能層の厚みムラが抑制される機能層付き部材を提供する。
【解決手段】機能層付き部材10は、支持体16と、支持体上に第1領域12A及び該第1領域の外周に沿った溝14を介して該第1領域から分離して配置されている第2領域12Bを有し、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層12と、第1機能層上の少なくとも第1領域上に形成されている第2機能層とを有する。また、機能層付き部材40は、支持体16と、支持体上に配置されてなり、支持体とぬれ張力が異なる第1機能層42と、第1機能層の外周に沿って配置され、該第1機能層よりもぬれ張力が高い高ぬれ張力層44と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能層付き部材、表示媒体及び表示媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機エレクトロルミネッセンス素子等を用いた可撓性を有する表示媒体が種々開発されている。このような表示媒体は、例えば、樹脂フィルム上にITO(酸化インジウムスズ)などの透明電極のパターンを形成した一対の可撓性基板を用い、各電極が形成されている面をそれぞれ内側に向け、その対向する電極間に表示要素を挟んで構成される。例えば、光書き込み型の電子ペーパーでは、それぞれ光透過性を有する樹脂フィルムに透明電極が形成され、対向する電極間に有機光導電材料からなる光導電層と、遮光層と、液晶表示材料からなる液晶層とが積層された表示要素を挟み込むように構成されている。
【0003】
光書き込み型の電子ペーパーのように画像を任意に表示する表示媒体を製造する場合、フィルム基板上に電極パターンを形成した後、液晶層、有機光電変換層、遮光層等の各種機能層を形成するための塗液を付与する工程がある。
例えば、特許文献1には、対向配置された基板間に、電極、表示層(液晶層、遮光層、光導電層等)、防湿層などが配置された光書き込み型の電子ペーパーが開示されている。
特許文献2には、塗膜の塗布領域を規定する目的で、基板上に形成した第1の膜上にぬれ性の低いマスクパターンを形成した後、前記マスクパターンの間にぬれ性の高い材料を塗布して膜パターンを形成する膜パターン付き基板の形成方法が開示されている。
特許文献3には、塗膜の塗布領域を規定する目的で、基板上にバンクをあらかじめ形成し、バンクに区画された領域に膜パターンとなる塗液を配置し、該塗液を硬化処理することで膜パターンを形成する方法が開示されている。
特許文献4には、塗膜の塗布領域を規定する目的で、基板をフッ素ガスを含む真空プラズマ処理等により撥液処理した後、撥液処理された面に液状材料に親液性を有する親液層をパターン形成し、下地層上に液状材料を塗布して乾燥させる薄膜の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−15427号公報
【特許文献2】特開2005−334864号公報
【特許文献3】特開2006−319016号公報
【特許文献4】特開2009−9833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、第1機能層上に塗液を付与して第2機能層を形成するときに、単に機能する領域がパターニングされた第1機能層を有する機能層付き部材に比べ、第2機能層の厚みムラが抑制される機能層付き部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、以下の本発明が提供される。
請求項1の発明は、支持体と、前記支持体上に第1領域及び該第1領域の外周に沿った溝を介して該第1領域から分離して配置されている第2領域を有し、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層と、前記第1機能層上の少なくとも前記第1領域上に形成されている第2機能層と、を有する機能層付き部材である。
請求項2の発明は、支持体と、前記支持体上に配置されてなり、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層と、前記第1機能層の外周に沿って配置され、該第1機能層よりもぬれ張力が高い高ぬれ張力層と、前記第1機能層上に形成されている第2機能層と、を有する機能層付き部材である。
請求項3の発明は、前記支持体が、基材と、該基材上に配置された下地層とを有し、該下地層上に前記第1機能層が形成されている請求項1又は請求項2に記載の機能層付き部材である。
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の機能層付き部材を含む表示媒体である。
請求項5の発明は、支持体と、該支持体上に第1領域及び該第1領域の外周に沿った溝を介して該第1領域から分離して配置されている第2領域を有し、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層を有する機能層付き部材の前記第1機能層上に、表面張力が、前記第1機能層のぬれ張力と前記支持体の前記第1機能層が形成されている側の面のぬれ張力との間にある塗液を付与する工程と、前記第1機能層上に付与した塗液を硬化させて第2機能層を形成する工程と、を有する表示媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、前記第2領域を設けずに単に第1領域のみからなる第1機能層を有する場合に比べ、第2機能層の厚みムラが抑制される機能層付き部材が提供される。
請求項2に係る発明によれば、前記高ぬれ張力層を設けない場合に比べ、第2機能層の厚みムラが抑制される機能層付き部材が提供される。
請求項3に係る発明によれば、支持体が第1機能層の密着強度の向上等を目的とした下地層を予め有している場合、下地層による効果とともに、単に第1機能層を有する機能層付き部材に比べ、第2機能層の厚みムラの抑制が両立される機能層付き部材が提供される。
請求項4に係る発明によれば、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の機能層付き部材を含まない表示媒体に比べ、表示ムラが抑制される表示媒体が提供される。
請求項5に係る発明によれば、単に第1領域のみからなる第1機能層上に塗液を付与して第2機能層を形成する表示媒体の製造方法に比べ、表示ムラが抑制される表示媒体を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る機能層付き部材を示す概略平面図である。
【図2】図1に示す機能層付き部材のA−A線断面を示す概略断面図である。
【図3】第1実施形態に係る機能層付き部材を含む表示媒体の一例を示す概略断面図である。
【図4】第2実施形態に係る機能層付き部材を示す概略平面図である。
【図5】図4に示す機能層付き部材のB−B線断面の一部を示す概略図である。
【図6】従来の電極パターンの一例を示す概略平面図である。
【図7】図6に示す電極パターンを有する基板に塗液を付与した場合の塗液の流動を概略的に示す図である。
【図8】図6に示す電極パターンを有する基板に塗液を付与した場合の塗液の厚みムラを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、フィルムやガラス等の基材の上に機能層を形成するための塗液を重ね塗りする技術について鋭意検討を行い、以下のような知見を得た。
フィルム基板にはITO等の透明導電膜の部分と、有機膜が形成されている部分又はフィルム基板そのものの面が表面に出ている部分が存在する場合もある。塗液を付与する際に、有機溶剤のように表面張力が低くぬれやすい塗液の場合は、被塗装面の性状が場所によって異なっていても、塗液は全体に均一に拡がり易い。
しかし、一方で水系塗料のように表面張力は高いが粘性が低い塗液は、被塗装面のぬれ張力の差が大きい場合にはぬれ張力(表面張力)の高いところでは塗液が拡がるが、ぬれ張力(表面張力)の低いところでは塗液をはじく(まとまる)ことが発生する。
【0010】
例えば、フィルム基板上に基材であるPET(ポリエチレンテレフタレート)面とPET面上にパターニングされたITO層とが存在する場合、ITO層を覆うように液晶水溶液等の塗液を付与すると、ぬれ性の違いから塗液が流動する。特にITO層の表面と有機層との界面では、ぬれ性の急激な違いから塗液が界面から急峻に離散・集合することが起こる。このような現象は、液晶用の塗液のように粘性が高く、熱乾燥状態においてもぬれ性の状態がほとんど変わらないときに特に顕著に発生する。この場合、図7及び図8に示すように液晶用の塗液56はITO層52と下地との界面で厚みムラが生じ、特に画像表示領域となるITO層の内側で厚みが大きくなり易い。
【0011】
塗液を付与して機能層を形成するとき、被塗装面にぬれ性の異なる領域があるときには、塗液がぬれ性の良いほうに流れる傾向がある。このため、被塗装面のぬれ性はできるだけ均一に近いことが望ましい。ぬれ性を均一にする方法としては、例えば、真空、紫外線、Oなどのプラズマによる表面処理により被塗装表面のぬれ性を改善させる方法や、塗装する面に塗液とぬれの相性の良い下地層を塗布しておく方法がある。
ところが、上記のようなぬれ性を改善する方法では、表面処理による工数が増大したり、下地層の塗工に関してはフィルム基板との密着性を考慮したり、下地層の上に重ねる他の膜の溶出に対する対策や塗りの均一性に慎重を期する必要がある。
【0012】
本発明者らは、粘度が低く、流動性のある塗液を、ぬれ性が異なる被塗装面に付与する場合でも、ぬれ性を改善するための表面処理やぬれ性改善層を設けずとも、パターニングを工夫することによってぬれ性の差に起因する塗液の流動が抑制され、厚みムラが抑制される機能層付き部材を見出した。
以下、実施形態について具体的に説明する。なお、実質的に同一の機能を有する部材については同じ符号を用い、説明を適宜省略する。
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る機能層付き部材は、支持体と、支持体上に第1領域及び該第1領域の外周に沿った溝を介して該第1領域から分離して配置されている第2領域を有し、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層と、第1機能層上の少なくとも第1領域上に形成されている第2機能層と、を有する。
図1及び図2は、第1実施形態の機能層付き部材の一例を概略的に示している。本実施形態に係る機能層付き部材10は、支持体となる樹脂フィルム基板16上に、第1機能層として電極層12が設けられた電極層付きフィルム基板10である。
電極層12は、電子ペーパーとしたときに電極として機能する表示領域(第1領域)12Aと、表示領域12Aの外周に沿って設けられた溝14を介して表示領域12Aから分離された非表示領域(第2領域)12Bとを有している。なお、本実施形態において「表示領域」とは、画像の表示に供する領域を意味し、「非表示領域」とは表示要素の有無にかかわらず、画像の表示に供しない領域を意味する。
【0014】
−支持体−
支持体16としては、例えば樹脂フィルム基材(フィルム基板)が用いられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムから構成されたものが用いられる。
【0015】
また、支持体の基材となるフィルム基板16には、下地層として、ガス透過防止層(ガスバリア層)を設けてもよい。ガスバリア層は、水分や酸素の透過を抑制し、液晶層等の安定性を高める役割を有する。
ガスバリア層として、例えば酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、あるいはCVD等の化学蒸着法等が適宜用いられる。例えば真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiOとAlの混合物、あるいはSiOとAlの混合物等が用いられる。加熱には、抵抗加熱、誘導加熱、電子線加熱等が採用される。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用してもよい。ガスバリア層の厚さは、例えば1nm以上500nm以下である。
また、適宜、遮光層、密着力を向上させるためのアンカー層、絶縁層等、種々の下地層を設けてもよい。
これらの下地層を設けておくことで、下地層による効果と、第2機能層の厚みムラの抑制効果が両立されることとなる。
なお、可撓性を必要としない表示媒体を製造する場合は支持体としてガラス基板を用いてもよい。
【0016】
フィルム基板16の厚みは特に限定されないが、その上に形成される機能層等を支持及び保護する強度、さらに、表示媒体の可撓性、軽量性等の観点から、フィルム基板16の厚みは、例えば0.01mm以上0.5mm以下の範囲内とする。
【0017】
−電極層−
フィルム基板16上に形成される電極層12は、電子ペーパーとしたときに電極として機能する表示領域(第1領域)12Aと、表示領域12Aの外周に沿って設けられた溝14を介して表示領域12Aから分離された非表示領域(第2領域)12Bとを有する。
電極層12を構成する材料としては、光透過性の観点から、例えばITOを用いる。ITO以外にも、Auなどの金属薄膜、SnO、ZnOなどの酸化物、ポリピロールなどの導電性高分子の薄膜など、透光性の電気導電体を用いてもよい。
【0018】
表示領域12Aと非表示領域12Bを隔てる溝14は、表示領域12Aのパターンに応じて電極層12の領域(表示領域12A及び非表示領域12B)の違いを規定する部分に設けられている。
このような溝14を形成する方法は特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィ法とエッチングによって形成すればよい。電極層12は、例えばスパッタリングによってフィルム基板16の片面全体に形成される。フィルム基板16の材質、電極材料などに応じて、印刷、CVD、蒸着などにより電極層12を形成してもよい。
電極層12の厚さは、例えば、30nm以上600nm以下の範囲内である。
【0019】
フィルム基板16の片面全面にITO層12を形成した後、溝14を形成すべき領域を除いてフォトリソグラフィ法によってITO層12上にレジストパターンを形成する。
次いで、エッチング液(例えば、塩化第二鉄水溶液)を用いてITO層12のレジストパターンで覆われていない露出部分をエッチングによって除去する。このとき、表示領域12Aと非表示領域12Bの絶縁を確保するため少なくともITO層12の露出部分を除去して溝14を形成するが、フィルム基板16とITO層12との間に下地層が配置されている場合は下地層の一部が除去されても構わない。
エッチング後、レジストを剥離液(例えばNaOH水溶液)によって剥離する。
【0020】
溝14の幅は、表示領域12Aと非表示領域12Bを確実に分離し、フィルム基板16が曲げられた場合でも電極層12の表示領域12Aと非表示領域12Bとの接触を避ける観点から25μm以上であることが望ましい。一方、電極層12の上に塗液を付与して他の機能層を形成するときに塗液の流動を効果的に抑制する観点から溝14の幅は1mm以下であることが望ましい。
【0021】
本実施形態に係る電極層付きフィルム基板10を用いて表示媒体を製造する場合、電極層12の上に塗液を付与した後、硬化させて第2機能層を形成する。このとき、塗液の表面張力が、電極層12のぬれ張力と支持体の電極層12が形成されている側の面(フィルム基板16又は下地層)のぬれ張力との間にある場合に、ぬれ性の均一化が図られ、塗膜の厚さムラの低減が実現される。
さらに本実施形態に係る機能層付き部材は、乾燥工程でぬれ性の高いところと、低いところの差が広がる場合に有効である。例えば常温ではぬれ張力の差がなくても乾燥工程でぬれ張力が広がる場合がある。
【0022】
本発明者らの実験によれば、例えば、塗液の表面張力が40mN/m近辺の場合、ITO層上のぬれ張力が33mN/mで下地上が60mN/mである場合は、塗液の流動が発生する。
一方、塗液の表面張力が40mN/m近辺の場合、ITO層上のぬれ張力が60mN/mで下地上も60mN/mである場合は、ともにぬれ性がよく、流動が起こりにくいと考えられるが、50℃の乾燥工程でITO層のぬれ張力が43mN/mに下がり、下地上は73mN/mに上昇する場合には流動が起こる。
なお、本実施形態における表面張力は、表面張力試験器(デュヌイ氏)精密型によって測定される値であり、ぬれ張力は、和光純薬工業製ぬれ張力試験用混合液によって測定される値である。
【0023】
本実施形態に係る電極層付きフィルム基板10を用いて光書き込み型の電子ペーパーを製造する場合は、例えば図3に示すように、対向配置されたフィルム基板間に、第1電極層12、液晶層18、遮光層20、光導電層22、第2電極層24が順次積層された構成を有する電子ペーパー30とすればよい。
なお、表示領域12Aの電極パターンの形態及び駆動方式としては、例えば両電極12A,24共に各樹脂フィルム16,26上で共通の電極とし、特開2003−140184号公報と特開2000−111942号公報とに記載の駆動方式が用いられる。あるいは、一対の電極12A,24の一方を表示媒体に表示する画像の各画素に共通の電極とし、他方を各画素に個別の電極とするセグメント駆動方式、両電極12A,24を互いに直交する方向に各々帯状に形成して、互いに対峙する位置を1つの画素に対応する領域とする単純マトリクス駆動方式、一方の電極を各画素に共通の電極とし、他方を互いに直交する帯状の走査電極及び信号電極からなるものとして、これにTFT等の能動素子を設けるアクティブマトリックス駆動方式等であってもよい。
【0024】
−液晶層−
例えば、図3に示すように第1電極層12上に第2機能層として液晶層18を形成する場合は、少なくとも電極層12の表示領域12Aを覆うように液晶水溶液を付与する。液晶水溶液を付与する方法としては特に限定されず、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ワイヤーバー、リップコーター等ほか、ダイコーター、コンマコーター、ブレードコーター等の公知の塗布方法から適宜選択すればよい。
【0025】
液晶層18には、例えばカイラルネマチック液晶(コレステリック液晶)をゼラチンバインダー中に分散させたPDLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造が採用される。ただし、この構造に限ることなく、コレステリック液晶を隔壁を介し電極間距離を固定したセルに配置する方式やカプセル液晶化することにより実現してもよい。また、液晶もコレステリック液晶に限ることなく、スメクチックA液晶、ネマチック液晶、ディスコティック液晶などを利用してもよい。
また、カイラルネマチック液晶、表面安定化カイラルスメクチックC液晶、双安定ねじれネマチック液晶、微粒子分散液晶などのメモリー性液晶を用いることにより、光記録媒体や画像記録媒体として利用してもよい。
【0026】
液晶の光学的特性変化を補助する補助部材として、偏光板、位相差板、反射板などの受動光学部品と併用したり、液晶中に2色性色素を添加したりしてもよい。
【0027】
液晶材料としては、シアノビフェニル系、フェニルシクロヘキシル系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゾエート系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサン系、スチルベン系、トラン系など公知の液晶組成物が利用される。液晶材料には2色性色素などの色素、微粒子などの添加剤を加えてもよく、高分子マトリクス中に分散したものや、高分子ゲル化したものや、マイクロカプセル化したものでもよい。また、液晶は高分子、中分子、低分子のいずれでもよく、またこれらの混合物でもよい。
【0028】
電極層12上に液晶水溶液を付与した後、加熱乾燥して硬化させる。このとき電極層として表示領域の電極パターンのみが形成されている場合は、電極層12と支持体(樹脂フィルム又は下地層)とのぬれ性の差に起因して電極パターンの外周に沿って液晶水溶液の流動が生じ、加熱乾燥後に形成された液晶層は、電極パターンの周縁部付近で厚みムラが生じ易い。
【0029】
一方、本実施形態に係る電極層付きフィルム基板10は、フィルム基板16上で電極層12とぬれ性の異なる領域が細い溝部分14だけであり、溝14を挟んでぬれ性が同等の電極層12が配置されているため、この上に液晶層18となる液晶水溶液を塗布しても、塗液が逃げる(流動する)領域が極めて小さく、塗膜の疎な部分が少なくなる。すなわち、ぬれ性の差に起因する液晶水溶液の流動が抑制され、加熱乾燥後に形成された液晶層18は、表示領域12Aの周縁部付近でも厚みムラが抑制されるため、電子ペーパーとしたときに、表示領域12Aの周縁部における表示ムラも抑制される。
なお、液晶層18の厚さは、例えば1μm以上50μm以下の範囲とする。
【0030】
また、本実施形態に係る電極層付きフィルム基板10は、ぬれ性の差の小さくするための表面処理や下地層の塗工が不要であるという利点もある。
【0031】
−遮光層−
遮光層20は、非表示側からの透過光を遮光する目的で必要に応じて設けられ、外部光源等からなる読出光等の光や有機光導電体層を透過した露光光の波長の少なくとも一部を吸収し、電気抵抗が高い材料が用いられる。遮光層に必要な光学濃度は、光導電層22の感度と読出光の強度に依存するため一概に限定されないが、少なくとも遮光すべき波長範囲において、望ましくは1以上、より望ましくは2以上である。
また、遮光層20の電気抵抗は、遮光層20内の電流によって解像度の低下を引き起こさないように、少なくとも体積抵抗率で10Ω・cm以上とすることが望ましい。さらに、液晶層18に加わる分圧の変化分を大きくするためには、遮光層20の静電容量が大きい程よいので、誘電率が大きく厚さが薄い方が望ましい。
遮光層20の厚さは、例えば0.5μm以上3.0μm以下の範囲とする。
【0032】
遮光層20の素材は、黒色の素材であれば特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。
1)カーボンブラック、アニリンブラックなどの有機顔料、CuO、MnO、Cr、Fe−Cr系顔料、Cu−Fe−Mn系顔料などの無機顔料などの黒色顔料を、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの樹脂バインダ中に分散した黒色塗料
2)黒色染料で染色された樹脂
3)カーボンブラックなど黒色素材の蒸着膜
遮光層20を水系塗料で形成する場合、そのバインダとしては水溶性樹脂、水/有機溶剤可溶樹脂、水系のエマルジョン・ディスパージョン・ラテックスなどが利用される。
【0033】
−光導電層−
光導電層22としては、(a)無機半導体材料として、アモルファス・シリコンや、ZnSe、CdSなどの化合物半導体からなる層、(b)有機半導体材料として、アントラセン、ポリビニルカルバゾールなどからなる層、(c)光照射によって電荷を発生する電荷発生材料及び電界によって電荷移動を生ずる電荷輸送材料の混合物や積層体からなるいわゆる有機光導電体層などが挙げられる。
【0034】
電荷発生材料としては、例えば、ペリレン系、フタロシアニン系、ビスアゾ系、ジチオピトケロピロール系、スクワリリウム系、アズレニウム系、チアピリリウム・ポリカーボネート系化合物などが挙げられる。また、電荷輸送材料としては、例えば、トリニトロフルオレン系、ポリビニルカルバゾール系、オキサジアゾール系、ピラリゾン系、ヒドラゾン系、スチルベン系、トリフェニルアミン系、トリフェニルメタン系、ジアミン系化合物や、LiClOを添加したポリビニルアルコ−ルやポリエチレンオキシドのようなイオン導電性材料などが、また電荷発生材と電荷輸送材との複合体として、積層体、混合物、マイクロカプセルなどが利用される。
光導電層22の厚さは、例えば1μm以上100μm以下の範囲とし、露光光照射時と露光光非照射時の抵抗比は大きい方が望ましい。
【0035】
−第2電極層及び第2フィルム基板−
第2電極層24は、第2フィルム基板26の片面全体に形成されていてもよいし、表示領域に応じたパターンを有していてもよい。第2電極層24としては、例えば第1電極層12と同様にITO層を採用すればよい。
なお、光書き込み型の電子ペーパーは、いわゆる表書き込み方式と裏書き込み方式がある。表書き込み方式では、例えば、表示側から、透明基板/透明電極層/液晶層/接着層/光導電層/遮光層/電極層/基板の順で積層された構成となり、非表示側の第2電極層24及び第2フィルム基板26は必ずしも光透過性を有する必要はない。一方、裏書き込み方式では、例えば、表示側から、透明基板/第1電極層/液晶層/接着層/遮光層/光導電層/透明電極層/透明基板の順で積層された構成となり、第2電極層24及び第2フィルム基板26は光透過性を有するものを用いればよい。
【0036】
このような構成の光書き込み型の電子ペーパーであれば、光導電層22に画像情報に対応する露光光を照射するとともに、第1電極層12の表示領域12Aの電極パターンと第2電極層24に電圧を印加することで、メモリー性を有する液晶層18に画像パターンが記録される。この画像パターンは、外光を取り込んで反射させることで可視化される。
【0037】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る機能層付き部材は、支持体と、支持体上に配置されてなり、支持体とぬれ張力が異なる第1機能層と、第1機能層の外周に沿って配置され、該第1機能層よりもぬれ張力が高い高ぬれ張力層と、第1機能層上に形成されている第2機能層と、を有する。
図4は、第2実施形態の機能層付き部材の一例を概略的に示している。本実施形態に係る機能層付き部材40は、支持体となる樹脂フィルム基板16上に、第1機能層として表示領域に相当する電極層42が設けられている。さらに、電極層42の外周に沿って電極層42よりもぬれ張力が高い高ぬれ張力層44が設けられている。
【0038】
−電極層−
本実施形態では、支持体上に表示領域に相当するパターンを有する電極層42が形成される。例えば、フィルム基板16の片面全体にスパッタリング法によってITO層を形成した後、フォトリソグラフィ法によって表示領域に相当する部分にレジストパターンを形成し、エッチングを行う。これによりITO層のうちレジストパターンから露出する部分が除去され、フィルム基板16上に所望形状の電極パターン42が形成される。
【0039】
−高ぬれ張力層−
高ぬれ張力層44は電極層のパターンの外周に沿って配置されている。電極層42のパターンの外周に沿って電極層42よりもぬれ張力が高い高ぬれ張力層44が配置されていることで、電極層42上を覆うように第2機能層となる塗液(例えば液晶水溶液)46を付与したときに、図5に示すように塗液46が高ぬれ張力層44に沿ってスジ状にはじかれる。特に塗液を加熱乾燥する際に電極層42の周縁部付近では電極層42の有無によるぬれ性差によって塗液46の流動が発生し易いが、塗液46の流動が高ぬれ張力層44によって分離され、塗液46の移動が高ぬれ張力層44上の領域に限定されるため、塗液46が硬化して形成された第2機能層は、電極層42の周縁部付近でも厚みムラの発生が抑制されることになる。
【0040】
高ぬれ張力層44の材質は、電極層42よりも塗れ張力が高く、電極層42上に付与される塗液46をはじく機能を有する材料を選択する。
高ぬれ張力層44のぬれ張力は、第2機能層となる塗液の流動を効果的に抑制する観点から、40mN/m以上であることが望ましく、第1機能層のぬれ張力との差は20mN/m以上であることが望ましい。
例えば、ITO層の上に液晶水溶液を付与する場合は、高ぬれ張力層44の材質としては、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の撥水性樹脂、若しくは界面活性剤を添加してぬれ張力を高く調整した一般のポリマー樹脂が挙げられる。
【0041】
高ぬれ張力層44を形成する方法は特に限定されないが、例えば印刷によって形成される。特に電極層42との位置合わせが必要であることからスクリーン印刷による形成が望ましい。
高ぬれ張力層44の厚みは、電極層42の厚みにもよるが、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
【0042】
高ぬれ張力層44の幅が狭いほど移動する塗液量が抑制され、硬化後の機能層の厚さムラの発生が抑制される。塗液をはじくために必要な高ぬれ張力層44の幅は塗膜の厚さ等によって異なり、一概に規定できないが、パターンニング精度との兼ね合いもあり、10μm以上の幅とすることが望ましい。ただし、高ぬれ張力層44の幅が大き過ぎると塗液の移動量が増加し易くなる。表示ムラの許容範囲との兼ね合いになるが、高ぬれ張力層44の幅は5mm以下が望ましい。
【0043】
なお、高ぬれ張力層44は、電極層(電極パターン)42との間に間隙があってもよいが、間隙が大きいほど塗液が移動する領域も拡大するため、電極パターン42の外縁に沿って隙間無く形成されていることが望ましい。
【0044】
−第2機能層−
第2機能層として液晶層を形成する場合、例えば、少なくともパターニングされている電極層42を覆うように液晶水溶液を付与して加熱乾燥する。このとき、液晶水溶液の一部は電極層42の外周に配置されている高ぬれ張力層44上にも付与されることになるが、高ぬれ張力層44上の塗液ははじかれて電極層42の表面とフィルム基板16又は下地層の表面との間の流動は抑制されるため、加熱乾燥後に形成された液晶層は、表示領域の電極パターン42の周縁部付近でも厚みムラが抑制される。
【0045】
光書き込み型の電子ペーパーを製造する場合は、遮光層、光導電層、第2電極層については第1実施形態と同様である。そして、本実施形態に係る電極層付きフィルム基板40を用いて光書き込み型の電子ペーパーを製造すれば、液晶層の特に表示領域の周縁部における表示ムラが抑制される。
【0046】
以上の説明では、第1機能層として電極層を形成し、第2機能層として液晶層を形成する場合について主に説明したが、これらの機能層に限定されない。特に第1機能層とその下地層とのぬれ性の差が大きく、第1機能層の上に第2機能層を形成するための塗液の表面張力が第1機能層と下地層との間にある場合に、前記いずれかの実施形態を適用することで第2機能層の厚みムラが大幅に低減される。
【0047】
また、電極層付きフィルム基板を用いて光書き込み型の表示媒体(電子ペーパー)を製造する場合について主に説明したが、本発明はこれに限定されない。対向配置された基板間に、例えば、有機電界発光素子、マイクロカプセル等の表示要素を設けて表示を行う表示媒体に適用してもよい。
また、例えば、電極をストライプ状に加工して単純マトリクス型の表示素子としてもよい。あるいは表示と反対側の面の基板上に薄膜トランジスタ、薄膜ダイオードなどの能動素子を設けてアクティブマトリクス駆動型の表示媒体としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 電極層付きフィルム基板(機能層付き部材の一例)
12 電極層(第1電極層の一例)
12A 表示領域
12B 非表示領域
14 溝
16 フィルム基板(支持体の一例)
18 液晶層(第2機能層の一例)
20 遮光層
30 光書き込み型の電子ペーパー
22 光導電層
24 第2電極層
26 フィルム基板
40 電極層付きフィルム基板(機能層付き部材の一例)
42 電極層
44 高ぬれ張力層
46 塗液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に第1領域及び該第1領域の外周に沿った溝を介して該第1領域から分離して配置されている第2領域を有し、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層と、
前記第1機能層上の少なくとも前記第1領域上に形成されている第2機能層と、
を有する機能層付き部材。
【請求項2】
支持体と、
前記支持体上に配置されてなり、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層と、
前記第1機能層の外周に沿って配置され、該第1機能層よりもぬれ張力が高い高ぬれ張力層と、
前記第1機能層上に形成されている第2機能層と、
を有する機能層付き部材。
【請求項3】
前記支持体が、基材と、該基材上に配置された下地層とを有し、該下地層上に前記第1機能層が形成されている請求項1又は請求項2に記載の機能層付き部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の機能層付き部材を含む表示媒体。
【請求項5】
支持体と、該支持体上に第1領域及び該第1領域の外周に沿った溝を介して該第1領域から分離して配置されている第2領域を有し、前記支持体とぬれ張力が異なる第1機能層を有する機能層付き部材の前記第1機能層上に、表面張力が、前記第1機能層のぬれ張力と前記支持体の前記第1機能層が形成されている側の面のぬれ張力との間にある塗液を付与する工程と、
前記第1機能層上に付与した塗液を硬化させて第2機能層を形成する工程と、
を有する表示媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−69910(P2011−69910A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219472(P2009−219472)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】