説明

機能性オリーブ油、その製造方法およびその用途

【課題】 原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有する機能性オリーブ油およびその用途の提供。
【解決手段】 オリーブ果実から採油して脱臭処理を行うまで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない製造方法で得られたオリーブ独特の風味を持たないのに有効成分を多く含むタイプの、好ましくは原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有する、機能性オリーブ油。(a) オリーブ果実から採油し、(b) 得られた油から臭気成分を蒸留手段によって除去する、工程を含み、前記(a)工程から(b)工程まで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない、ことを特徴とする機能性オリーブ油の製造方法。上記の機能性オリーブ油を有効成分とする生体内抗酸化性組成物、好ましくは調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、皮膚外用剤、医薬品および飼料からなる群から選ばれる形態のもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性オリーブ油、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
オリーブは古くから栽培されてきた植物で、地中海沿岸が代表的な栽培地域であり、わが国では香川県で県花・県木として重要な観光資源(小豆島)となっている。用途としては、特にオリーブ油として重宝されており、欧州はもちろん、日本や米国を初めとする世界各国で用いられている。オリーブ油は様々な効果を有することが知られており、古来から経験的に薬用あるいは化粧用としても用いられてきた。また、オリーブの実はそのまま食用にも用いられ、場合によっては、保存食として塩蔵されたりしている。このことから、オリーブは、安定的に入手可能で、また人体にとって安全性の高い植物材料であるといえる。
【0003】
近年、オリーブ油に関しては、比較的酸化されにくい植物油であることが知られており、その中に含まれる微量成分のポリフェノール類が注目され、その生理的作用等について多くの研究がなされている(例えば、非特許文献1)。オリーブ油とは、オリーブの果実を圧搾して得られるオリーブ油(圧搾オリーブ油)や、それを精製加工したり、他のオリーブ油をブレンドなどして得られた油の総称であって、オリーブ独特の風味を持ち、主に、サラダやパスタ料理などでの仕上げ用に使われている油である。これらオリーブ油は、健康に対する良好なイメージが消費者の間に定着していることもあって、わが国における需要も着実な伸びを見せている。ところで、前述の圧搾オリーブ油は、一般に、その酸化安定性や加熱安定性は市場に出回っている植物油と大差なく、また、発煙点が低いためフライ調理に不向きであり、さらに、フライ用油脂としては他の油脂よりも価格面で割高であるなどの理由から、その用途は、実質的に、パスタなどの調味料としての用途に限定されているのが実情である。
【0004】
生物は、酸素を利用することによって生存に必要なエネルギーを効率的に得ている。しかしながら、このようなエネルギー代謝のうち酸素が水に変換される過程で、中間体として活性酸素種が生じる。一般にこの活性酸素種としては、マクロファージの刺激などによって放出されるスーパーオキシド、放射線の被爆などによって生成されるヒドロキシラジカルなどが知られている。これらの活性酸素種は過度の放射線や紫外線の照射、化学物質やタバコの摂取等の外的誘因と虚血再還流、炎症、ストレス、老化等の内的要因が原因となって生成される。このようにして生体内で過剰に生成された活性酸素種は、一般に化学的反応性が高く、生体内で隣接する脂質や核酸、蛋白質等の成分と容易に反応し、さまざまな疾病に繋がる酸化的障害をもたらす。活性酸素種の一種であるスーパーオキシドは、さまざまな疾病と深い関わりがあることが明らかにされており、例えば動脈中のLDLは、スーパーオキシドによって酸化されて泡沫細胞を形成し、動脈硬化の原因を発生する。また放射線の照射によりもたらされるヒドロキシラジカルの産生は、発癌などの深刻な障害を生体に与える。
【0005】
このような活性酸素種の生体に対する毒性が明らかになるにつれ、これらを効率的に消去する活性を有する活性酸素種消去物質等の抗酸化剤は、生体内または食品や医薬品、農薬等に含まれる成分の酸化的劣化の防御剤として有用であり、食品産業、特に水産加工品、健康食品、栄養食品のほか、医薬品・農薬分野や化粧品分野において実利的な利用が期待されているものである。
【0006】
近年、抗酸化剤に限らず、化学合成品からなる食品添加物の安全性の問題に対する消費者の意識も高まっており、これまでさまざまな抗酸化剤が、主に天然物由来の原料から抽出され、その応用が検討されている。天然物由来で抗酸化効果を有する原料としては、例えば、ゴマ種子中の水溶性の抗酸化成分として、ゴマ脱脂粕等から得られる水溶性抽出物が抗酸化活性を有することが知られている(特許文献1等)。また、この脱脂粕抽出物にはリグナン配糖体類が含まれることがよく知られており、そのリグナン配糖体類が強力なヒドロキシラジカル消去活性を有することが知られている(特許文献2等)。このような中、天然物由来で抗酸化効果を有する原料をその形態をできるだけ生かして、天然物由来の有効成分を安定に供給することは、これまで工業的に実用化された例は少ない。
【特許文献1】特公昭61−26342号公報
【特許文献2】特開平8−208685号公報
【非特許文献1】New Food Industry、Vol.34、No.4、28−52、1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有効成分の一つであるポリフェノールを、原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有する機能性オリーブ油、その製造方法およびその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(3)の機能性オリーブ油を要旨とする。
(1)オリーブ果実から採油して脱臭処理を行うまで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない製造方法で得られたオリーブ独特の風味を持たないのに有効成分を多く含むタイプの機能性オリーブ油。
(2)脱臭処理が真空水蒸気蒸留により行われる上記の(1)記載の機能性オリーブ油。
(3)有効成分の一つであるポリフェノールを、原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有する上記の(1)または(2)記載の機能性オリーブ油。
【0009】
本発明は、以下の(4)〜(6)の機能性オリーブ油の製造方法を要旨とする。
(4)機能性オリーブ油の製造方法であって、以下の工程、すなわち;
(a) オリーブ果実から採油し、(b) 得られた油から臭気成分を蒸留手段によって除去する、工程を含み、前記(a)工程から(b)工程まで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない、ことを特徴とする機能性オリーブ油の製造方法。
(5)前記 (b)工程が真空水蒸気蒸留により行われることを特徴とする上記の(4)記載の機能性オリーブ油の製造方法。
(6)機能性オリーブ油が、有効成分の一つであるポリフェノールを、原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有することを特徴とする上記の(4)または(5)記載の機能性オリーブ油の製造方法。
【0010】
本発明は、以下の(7)〜(9)の生体内抗酸化性組成物を要旨とする。
(7)上記の(1)、(2)または(3)記載の機能性オリーブ油を有効成分とする生体内抗酸化性組成物。
(8)機能性オリーブ油を配合した組成物である上記(7)記載の生体内抗酸化性組成物。
(9)上記組成物が、機能性オリーブ油を有効成分として配合した調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品および飼料からなる群から選ばれる形態のものである上記の(7)または(9)記載の生体内抗酸化性組成物。
【発明の効果】
【0011】
オリーブオイルは、実から搾っただけのバージンオイル、そのバージンオイルから色と香りを除去したりリファインドオイル、バージンオイルとリファインドオイルをブレンドしたピュアオイルの三種類に分類される。昨今のオリーブオイルブームは、実から搾っただけのバージンオイルが注目をされているが、オリーブ特有の香りは嗜好性が強く、香り・色を除去したりリファインドオイルの需要が多いのが現状である。ただ、リファインドオイルの場合、その加工(図4参照)を行うことで、有用成分のほとんどが除去されてしまうことが欠点だった。そこで、本発明により、香りはないのに有用成分を多く含む世界的にみても類似商品が見受けらない新しいタイプのオリーブ油が実現された。本発明のオリーブ油は、有効成分の一つであるポリフェノールを、原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有し、それは脱酸、脱色および脱臭処理工程を経て製造された既存製品のおおよそ60倍以上含有しており、ポリフェノール類が有するその生理的作用等を有効に利用することができる。オリーブ油であるため、通常の油脂類と同様に調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品および飼料からなる群から選ばれる形態で広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の機能性オリーブ油が有効成分として含有するポリフェノールについて説明する。
オリーブオイルより分離される成分について、そのほとんどがポリヒドロキシ誘導体であることから「ポリフェノール」という用語が用いられるようになった。“Olive Oil-Chemistry and Technology”の著者D. Boskouは「ポリフェノールという用語は便宜的に用いられているが、その全てがポリヒドロキシ誘導体ではないし、この画分は複雑な化合物の混合で、その化学性も完全には解明されてはいない。しかも、オリーブオイル中の天然フェノール類の測定も公式な方法が設定されていないので、各研究者が発表している総ポリフェノール含量や個々の物質の割合については、その結果を比較検討することは困難である」と述べている。
本発明において、ポリフェノール含量の評価は、Folin-Denis法を採用した。
【0013】
オリーブオイル中のポリフェノール含量は、品種、栽培環境(地域、高度、土壌、気象など)、栽培方法(特に病害虫の発生の有無、潅水、施肥、収穫時期と方法)、収穫後の果実の処理、採油方法とオイルの貯蔵法などによってかなりの変異がある〔油脂Vol. 53, No.2(2000)抜粋(本発明の図6)参照〕。図6によると、縦軸のポリフェノール含量の単位がmg/lとなっているが、1/10でおおよそmg/100gになる。品種によりポリフェノール含量が異なることを示す資料である。
上記参考文献のとおりオリーブは農産物であることから、機能性オリーブオイルを製造する場合の原料オイルについても、ポリフェノール含量に違いがある。これは、加工方法は同じでも、原料によりポリフェノール含量が異なる場合があることが、最近のテスト運転からも確認された。一方、既存製品のポリフェノール含量は、その加工によりほとんど除去されてしまうため、ゼロに近い状態であり、言い換えれば、一定の値をとるものといえる。
【0014】
本発明の機能性オリーブ油では、加工の有効性の評価に、既存製品(脱酸→脱色→脱臭をおこなったもの)のポリフェノール含量を基準に“脱酸、脱色および脱臭処理工程を経て製造された既存製品の60倍以上”と評価することができるが、この評価方法であると、加工方法だけでなく、上記理由により、原料由来の要素が影響してしまう。現在、原料オイルの品質基準でポリフェノール含量の基準を40mg/100mg以上と定めているが、今後の自然環境(天候や気候の変化等)により、この基準が適合できなくなる可能性も十分考えられる。
【0015】
そこで、本発明においては、加工方法の有効性を評価することができる、「原料オイルに対するポリフェノールの残存率」で評価を行う方法を採用する。
評価方法は、以下の通りである。
脱酸、脱色および脱臭処理工程を経て製造された通常の精製処理では、その処理を行った際、オリーブポリフェノールの原油に対する残存率は、測定結果0.4mg/100gに対し原油が41.9mg/100gなので、

0.4÷41.9×100 ≒ 1 %

これに対し、今回テストを行った機能性オイルは26.2mg/100gなので残存率は

26.2÷41.9×100 ≒ 62.5%

以上より、通常の製法ではほとんど除去されてしまう有用成分ポリフェノールが、本発明の製法を用いた場合、臭気成分を除去しながらも、60%以上の割合で残存させることが可能となる。
この評価方法により、ポリフェノール含量が異なる原料を使用しても、加工方法に対する定量的な評価が行える。
【0016】
本発明の原料として用いるオリーブ植物(Olea europae L.)は、国産、欧州産などの産地、食用あるいは搾油用を問わず使用できる。本発明の機能性オリーブ油は、天然植物であるオリーブ植物の果実から得ることができる。オリーブ果実からオリーブ油を得る方法は、実をすりつぶして圧搾する圧搾法と、遠心分離機により油分を分離する遠心法の二種類がある。近年は、遠心分離法が主流である。本発明において、圧搾法・遠心法を含めた意味で「採油」を用いている。
【0017】
本発明の機能性オリーブ油は、原料(原油)として、以下の品質特性を有したバージンオリーブオイルを用いる。JASの品質基準を参考にするが、下記(6)酸価については、通常のJAS規格では2.0以下であるが、機能性オリーブ油の品質特性を満たすためには、1.0以下が必要である。下記分析項目(3)〜(11)は、基準油脂分析法に従う。分析項目(12)については、Folin-Denis法により没食子酸(ニンニク酸)として換算。
(1)一般状態 オリーブ特有の香味を有し、
おおむね清澄であること。
(2)色 特有の色であること。
(3)水分及び夾雑物 0.30%以下であること。
(4)比重(25℃/25℃) 0.907〜0.913であること。
(5)屈折率(25℃) 1.466〜1.469であること。
(6)酸価 1.0以下であること。
(7)けん化価 184〜196であること。
(8)よう素価 75〜94であること。
(9)不けん化物 1.5%以下であること。
(10)オレイン酸組成 70 %以上。
(11)過酸過物価 20meq/kg以下。
(12)ポリフェノール含量(没食子酸として) 40mg/100g以上。
【0018】
まず、原油たるバージンオリーブオイルを脱臭工程に適用する(第2図参照)。本発明に好適な脱臭方法として、減圧水蒸気蒸留法、すなわち、原油中に含まれているグリセリドより揮発性が大きな有臭物質を、減圧下、高温条件下で揮発性を高めて蒸留除去する方法がある。この方法によると、原油に連続的に反応容器内に水蒸気が吹き込まれ、そこから発生する水蒸気と共に遊離脂肪酸をはじめとする臭気成分(臭気物質)が除去される。この減圧水蒸気蒸留法の場合、良好な脱臭効果を得る観点から、反応容器内の圧力は、0.5〜6mmHg、好ましくは、2〜4mmHg、原油の油温を180〜280℃、好ましくは、230〜280℃、そして、反応時間を、30〜90分、好ましくは60〜90分間に設定する。原油に対して吹き込まれる水蒸気の量は、(真空度または吹き込み水蒸気量に比例する)油と水蒸気との接触効率に依存している。脱臭効率を上げるために必要な吹き込み蒸気量は、油の流量、油中揮発蒸留物の量および真空度に比例する反面、操作温度における揮発蒸留物の蒸気圧と脱臭装置の蒸留効率に逆比例する。このような油と水蒸気との接触効率を向上させる上で、上記真空度(圧力条件)にあっては、原油の重量に対して0.5〜6重量%、好ましくは1〜3重量%の水蒸気量とする。なお、この水蒸気吹き込みに代えて、主に成分分留の目的で使用されている、高真空下で原油を蒸留する分子蒸留法など、当該技術分野で用いられているその他の脱臭手段も利用できる。
【0019】
なお、この脱臭処理時に、最終製品である機能性オリーブ油の品質に嗜好性・多様性を付与すべく、風味安定剤、消泡剤、酸化防止剤、固結防止剤、脂肪結晶調整剤、色素、ビタミンなど、当該技術分野で通常利用されている加工助剤や添加物を適宜任意に使用できる。
【0020】
風味安定剤とは、油脂中に天然に含まれる抗酸化物質であるトコフェロールの抗酸化作用の補助、すなわち、金属の酸化促進物質と金属複塩を生成してその酸化促進作用を抑制し、その相互作用によって抗酸化性を高めるものであり、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸などが本発明において使用できる。
本発明にあっては、例えば、クエン酸の場合、原油の0〜50重量ppm、好ましくは10〜20重量ppmの量が用いられる。
【0021】
消泡剤とは、油の劣化に伴う泡立ちに対して消泡効果を呈するものであり、例えば、シリコン樹脂がこれに該当し、それによれば、油の熱重合を本質的に改善して油の酸価・粘度の上昇を抑え、油の消費量を低減ならしめる熱安定剤としての機能も果たす。
シリコン樹脂を用いる場合、原油の0〜6重量ppm、好ましくは2〜3重量ppmの量で使用される。
【0022】
酸化防止剤としては、食品衛生法で使用許可されている抗酸化物質が使用でき、例えば、グアヤク脂、ジエチルヒドロキシトリエン(BHT)、ノルジヒドログアヤレチック酸(NDGA)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル・クエン酸プロピル、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸−ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸−パルミチン酸エステルや、例えば、ローズマリー抽出物、茶抽出物、甘草抽出物などの天然物の抽出物などが使用できる。
また、他の酸化防止剤として、トコフェロールが使用でき、この場合、原油の0〜400重量ppm、好ましくは100〜200重量ppmの濃度で添加する。
【0023】
そして、上述した消臭工程を経て得られた本発明の機能性オリーブ油は、該機能性オリーブ油の全脂肪酸重量の少なくとも70重量%以上の量のオレイン酸および該機能性オリーブ油の重量の1〜3重量%の量の不ケン化物を含み、かつ190〜240℃の発煙点を有し、また、以下の分析値を有するものである。
【0024】
本発明の機能性オリーブ油は、一般に、以下の品質特性をJASの品質基準を参考に列挙すると以下のとおりである。下記分析項目(3)〜(11)は、基準油脂分析法に従う。分析項目(12)については、Folin-Denis法により没食子酸(ニンニク酸)として換算。
(1)一般状態 おおむね清澄で、
香味良好であること。
(2)色 特有の色であること。
(3)水分及び夾雑物 0.15%以下であること。
(4)比重(25℃/25℃) 0.907〜0.913であること。
(5)屈折率(25℃) 1.466〜1.469であること。
(6)酸価 0.60以下であること。
(7)けん化価 184〜196であること。
(8)よう素価 75〜94であること。
(9)不けん化物 1.5%以下であること。
(10)オレイン酸組成 70 %以上。
(11)過酸過物価 5meq/kg以下。
(12)ポリフェノール含量(没食子酸として) 25mg/100g以上。
【0025】
そして、本発明の他の態様によれば、前出の機能性オリーブ油にバージンオリーブ油を配合してなるフライ用オリーブ油も提供される。このフライ用オリーブ油において、本発明の機能性オリーブ油に添加されるバージンオリーブ油としては、本発明の機能性オリーブ油が奏する性能を損ねることなく、最終的に得られるフライ用オリーブ油(混合油)に良好なオリーブ風味を付与する観点から、酸価が、6.6以下、好ましくは2.0以下であって、そして、フライ用オリーブ油の重量に対して多くとも30重量%、好ましくは10〜20重量%の量のバージンオリーブ油が使用される。
【0026】
このようにして製造された本発明の機能性オリーブ油やフライ用オリーブ油によると、改善された加熱安定性、酸化安定性および保存安定性を兼ね備え、かつ優れたフライ油適性を発現し、さらに、本発明の機能性オリーブ油やフライ用オリーブ油によってフライ調理された食品は、従来の植物油によっては得られない優れた機能と食味を発現する。
【0027】
本発明の機能性オリーブ油は、有効成分の一つであるポリフェノールを、脱酸、脱色および脱臭処理工程を経て製造された既存製品のおおよそ60倍含有する(図4参照)。
【0028】
既存の精製オリーブ油の精製条件は以下のとおりである(図3参照)。
<脱酸工程>
原料となるバージンオリーブ油を60℃±2℃にヒートアップする。
次に原料のバージンオリーブ油の酸価に対し、次の計算式により算出した苛性ソーダ量を、1.8%濃度に希釈して原料に添加する。
脱酸に要する苛性ソーダ量=バージンオリーブ量(kg)÷1,000×原料酸価×0.8×1.1
1.8%濃度の苛性ソーダを添加した後、1.8%濃度苛性ソーダ液の2倍の量の70℃温水を添加し水洗を行う。
20時間以上静置する。
<脱色条件>
静置後、タンク下より苛性ソーダ添加で生じたせっけん分と水分を抜き出し、次に、真空条件下(100mmHg前後)で高温に加熱したジャケットパンに油を接触させて脱水を行い、活性白土を2.0重量%添加する。
活性白土を添加した後、真空条件下(100mmHg前後)で20〜40分攪拌してからろ過処理を行い、油中から色素成分が吸着した活性白土を除去する。
<脱臭条件>
真空を0.5〜6mmHg、好ましくは、2〜4mmHg、原油の油温を180〜280℃、好ましくは、220〜240℃、そして、反応時間を、30〜90分、好ましくは40〜60分間に設定する。原油に対して吹き込まれる水蒸気の量は、(真空度または吹き込み水蒸気量に比例する)油と水蒸気との接触効率に依存している。脱臭効率を上げるために必要な吹き込み蒸気量は、油の流量、油中揮発蒸留物の量および真空度に比例する反面、操作温度における揮発蒸留物の蒸気圧と脱臭装置の蒸留効率に逆比例する。このような油と水蒸気との接触効率を向上させる上で、上記真空度(圧力条件)にあっては、原油の重量に対して0.5〜6重量%、好ましくは1〜3重量%の水蒸気量とする。
【0029】
本発明の機能性オリーブ油の有効成分の一つであるポリフェノールは抗酸化効果をもつことが周知である。特開2001−181632号公報によると、オリーブ抽出物が活性酸素除去機能、スーパーオキシド消去活性、ヒドロキシラジカル消去活性等をもつことが実験で証明されている。それゆえ、本発明の機能性オリーブ油もこれらの機能、活性をもつことが期待できる。
オリーブ抽出物が持つ抗酸化効果は以下のとおりのものである。
活性酸素除去機能とは、生体内において、活性酸素種の生成を抑制、捕捉、消去、不均化、分解等する機能を示す。ここで、活性酸素種とは、主にスーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、パーヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素等を示し、さらには、脂質、蛋白質、炭水化物、核酸等の過酸化物およびこれらから派生するフリーラジカルをも含むものとする。
また、スーパーオキシド消去活性とは、酸素分子の1電子還元により生成するスーパーオキシドを不均化、無効にする活性である。スーパーオキシドは、例えば生体内においては、白血球やミトコンドリア等で生成され、酸素を利用した生命活動においてその生成を免れることは出来ないものである。また、スーパーオキシドは、その反応性は比較的低く、鉄や一酸化窒素などの限られたものとしか反応しないが、過酸化水素の生成源になるなど他の活性酸素種の生成につながり、生体成分に酸化傷害を引き起こす作用を有するため、生成後すぐに消去されるべき重要な活性酸素種である。
また、ヒドロキシラジカル消去活性とは、種々の要因により生成したヒドロキシラジカルを捕捉、安定化させる活性である。ヒドロキシラジカルは、例えば酸素を利用した生命活動においては、その生成を免れることは出来ず、種々の活性酸素種の中でも非常に反応性に富む化学種であり、あらゆる生体成分を酸化損傷させ得る最も毒性の高い活性酸素種である。このヒドロキシラジカルの生成経路の一つとしては、生体内に存在する鉄イオンが過酸化水素やスーパーオキシドに関与するフェントン反応等が挙げられるが、生体内にはヒドロキシラジカルに対する有効な除去機構が存在しないため、ヒドロキシラジカル消去活性を有する物質の摂取は必要不可欠である。
そして、生体への適用は飲食物、医薬品、肥料、飼料や皮膚外用剤に使用することで、様々な2次的な効果を得ることができる。例えば、抗酸化効果、各種疾病予防効果や抗老化効果等の優れた生体内抗酸化効果を得ることができる。
抗酸化効果とは、生体内における脂質、蛋白質、炭水化物、核酸等の様々な成分が酸化され、本来の成分とは異なる成分に変換または分解されてしまうことを抑制あるいは防止する効果である。したがってこの効果は、生体内に含まれる成分の酸化的劣化の防御の点で有用であり、健康食品、栄養食品のほか、医薬品・農薬分野や化粧品分野において実利的な利用が期待されるものである。具体的には飲食物、医薬品、飼料や皮膚外用剤として適用し、各種疾病防止効果や抗老化効果等の生体内抗酸化効果等を得ることができる。
生体内抗酸化効果とは、生体内においてその生成を免れることができない活性酸素種を除去することで、生命活動において重要な生体成分を保護する効果を示す。一般に、生体内で発生した活性酸素種は、脂質、蛋白質、糖質、核酸等の生命活動において重要な生体成分、特には不飽和脂肪酸を含有する脂質類を強力に酸化し、本来の成分とは異なる成分に変換または分解してしまう。さらに、この様な現象が体内に蓄積することが様々な疾病や老化現象の原因となることが知られているが、これに対して生体内抗酸化効果を有するものの適用が、これら疾病や老化の予防や改善につながることも明らかになってきている。
【0030】
したがって、本発明の機能性オリーブ油は、既存製品のおおよそ60倍含有するポリフェノール類の生理的作用等に基づく生体内抗酸化効果により、生体成分を保護するものであり、ひいては、活性酸素種等が引き起こす様々な疾病や老化現象を予防および改善できるような、各種疾病予防効果および/または抗老化効果を有するものである。
機能性オリーブ油は、摂取することで生体内抗酸化効果を享受できるものであり、効果的に生体成分を保護することで健康な体を保つことあるいは肌を美しいものにすること等に大きく寄与するものである。
なお、生体内抗酸化効果は、例えば、動物試験によって検討することができる。その試験とはすなわち、ラットを用いて、既存製品のおおよそ60倍ポリフェノール類を含有する機能性オリーブ油を含有する飼料を与えた場合と、既存製品を含有する飼料を与えた場合とで、生体内抗酸化力に如何なる差が生じるかを検討するものである。この結果は人間に対しても同様の傾向を示す。生体内抗酸化力とは、具体的には例えば、ラットの肝臓そのものの抗酸化力を測定すればよい。この試験において、本発明の機能性オリーブ油を含有する飼料を与えた場合は、既存製品を含有する飼料を与えた場合に比べて、有意に生体内抗酸化力が向上していることが分かる。すなわち、本発明の機能性オリーブ油は、明らかに生体内抗酸化効果を有することが分かる。また同様にして、該機能性オリーブ油の投与量を増減した場合には、投与量依存的に生体内抗酸化力が変動する。すなわちこれは、該機能性オリーブ油の投与量と生体内抗酸化効果がほぼ比例関係にあることを示しており、該機能性オリーブ油の生体内抗酸化効果はその投与量に依存的であるといえる。このことは、本発明の機能性オリーブ油を各種用途に展開した場合に、その使用量に応じた生体内抗酸化効果を得られるということなので、その使用の目的、手段等に応じて適宜使用量を決められるというメリットがあり、大変好ましい。
【0031】
また、本発明の機能性オリーブ油の生体内抗酸化効果は、人に摂取させた試験によって評価することができる。例えば、機能性オリーブ油をそのまま、または、該機能性オリーブ油が配合されたカプセル等、その他様々な剤形に調製された本発明の機能性オリーブ油を人が経口摂取した場合と、既存製品を配合したものを経口摂取した場合との比較において、いかなる差が生じるかを評価するものである。この場合の生体内抗酸化力とは、具体的には例えば、試験期間中、一定期間毎(例えば10日毎)に被験者の血液を採取し、遠心分離等により血清を調製し、その血清中の過酸化脂質(PCOOH)量を測定すればよい。この試験において、本発明の機能性オリーブ油を人が経口摂取した場合は、試験開始から経日的に過酸化脂質量が減少し、30日後には過酸化脂質生成量を大幅に抑制する。一方、既存製品を配合したものを経口摂取した場合には、このような過酸化脂質生成を抑制する効果は低いことから、本発明の機能性オリーブ油を摂取した場合には、有意に生体内抗酸化力が向上していることが分かる。すなわち、本発明の機能性オリーブ油は、人体に対しても明らかに生体内抗酸化効果を有することが分かる。更には、本発明の機能性オリーブ油、特に生体内抗酸化性組成物として使用される場合において、各種疾病防止効果および/または抗老化効果を発揮する。
【0032】
本機能性オリーブ油の原料であるオリーブは、安定的に入手することができる植物原料である。天然由来であり、食品・食用として広く用いられているオリーブを原料として得られるオリーブ油であることから、人体にとって安全性の高い油であるといえる。
【0033】
本発明によれば、活性酸素除去機能を有する機能性オリーブ油を含有する抗酸化性組成物を得ることができる。通常のオリーブ油の製造工程から化学処理工程を行わないで、オリーブ果実から採油して脱臭処理を行うまで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない製造方法で得られる。化学処理工程を行わないで製造できることから、コスト面からみても、資源の有効活用という面からみても好ましい。
本発明の機能性オリーブ油は上記のとおり通常のオリーブ油と同様に使用できるのみならず、その機能性を生かして健康飲食品、患者用栄養飲食品を謳った食品、同様に、家畜、家禽、魚などの飼育動物のための飼料の開発が可能となった。本発明の機能性オリーブ油をその機能性を生かして用いる場合は、その含量は、特に制限されないが、目的とする機能の度合い、使用態様、使用量等により適宜調整することができ、例えば0.01〜100質量%である。本機能性オリーブ油は、人体やその他飲食物、医薬品、飼料や皮膚外用剤に使用することができる。また、経口等により内服することも、皮膚等に塗布することもできる。常法にしたがって経口、非経口の製品に配合することができ、調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、皮膚外用剤、医薬品および飼料等の様々な分野で利用することができる。例えば、飲食物に配合した場合には、生体内抗酸化効果および酸化防止効果を有する飲食物を提供することができる。生活習慣病予防等の効果からは、健康食品、栄養食品等として用いられることも期待できる。その他、家畜、魚類の飼料、餌料に利用することができる。人体やその他飲食物、医薬品、肥料、飼料や皮膚外用剤に使用することにより、抗酸化効果、各種疾病予防効果や抗老化効果等の優れた生体内抗酸化効果を得ることができる。さらに、オリーブ植物から容易に得ることができ、コスト面からみても、資源の有効活用という面からみても好ましい。
【0034】
本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されることはない。
【実施例1】
【0035】
機能性オリーブ油の製造
バージンオリーブ油を原油として用い脱臭した(図1参照)。 このバージンオリーブ油の水分及び夾雑物、比重、屈折率、酸価、けん化価、よう素価、不けん化物、オレイン酸組成、過酸過物価の各項目について、基準油脂分析試験法(I)[日本油化学会制定、1996年版、社団法人日本油化学会]に従って計測。ポリフェノール含量についてはFolin-Denis法により計測を行った。 その結果は、以下の通りである。
【0036】
(1)水分及び夾雑物0.08%、比重0.9120、屈折率1.4674、酸価0.35、けん化価190.5、ヨウ素価80.9、不けん化物1.00%、オレイン酸組成73.9%、過酸過物価9.3meq/kg、ポリフェノール含量41.9mg/100g:この原油を、真空水蒸気蒸留の反応容器(反応容器内の圧力:3Torr)に、50分間、水蒸気を吹き込んだ。
【0037】
このようにして得られた本実施例での機能性オリーブ油の水分及び夾雑物、比重、屈折率、酸価、けん化価、よう素価、不けん化物、オレイン酸組成、過酸過物価の各項目について、基準油脂分析試験法(I)[日本油化学会制定、1996年版、社団法人日本油化学会]に従って計測。ポリフェノール含量についてはFolin-Denis法により計測を行った結果は、以下の通りである。
【0038】
(2) 水分及び夾雑物0.04%、比重0.9118、屈折率1.4674、酸価0.12、けん化価190.5、ヨウ素価81.7、不けん化物0.80%、オレイン酸組成73.9%、過酸過物価0.6meq/kg、ポリフェノール含量23.9mg/100g。
【実施例2】
【0039】
機能性オリーブ油の製造における脱臭処理の条件による残存ポリフェノール量の違いを調べた。
脱臭処理の条件を1)200℃、30分、2)210℃、50分、3)220℃、50分にして、実施例1と同じ実験をした。対比実験として脱酸、脱色および脱臭処理工程を経る通常の精製処理と同じ実験をした。
加工後の原料オイルに対するポリフェノールの残存率で評価した結果を図5に示す。
通常の製法ではほとんど除去されてしまう有用成分ポリフェノールが、脱臭処理の条件を1)200℃、30分とした場合、65.5%以上の割合で残存させることができた。
実施例1ではポリフェノール含量が59倍であり、本実施例の1)では65.5%と、60倍以上含有する製法を確認することができた。さらに、α−トコフェロール(ビタミンE)についてもその含有量を測定(液体クロマトグラフ分析法による)したところ、もともと含有量が少ない(原油で0. 41mg/100g)のでそれほど大きな差異は見られないが、ポリフェノールの含有量が増えるほど、ビタミンEの量が増える傾向にあることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
オリーブオイルは、実から搾っただけのバージンオイル、そのバージンオイルから色と香りを除去したりリファインドオイル、バージンオイルとリファインドオイルをブレンドしたピュアオイルの三種類に分類される。昨今のオリーブオイルブームは、実から搾っただけのバージンオイルが注目をされているが、日本人にとって、オリーブ特有の香りはまだまだなじみがうすく、香り・色を除去したリファインドオイルの需要が多いのが現状である。ただ、リファインドオイルの場合、その加工を行うことで、有用成分のほとんどが除去されてしまうことが欠点だった。そこで、本発明は、香りはないのに有用成分を多く含むタイプの機能性オリーブオイルを提供することができ、その機能性とオリーブ特有の香りがない、またはオリーブ特有の香りのあるオイルとブレンドして、新しい分野に需要を拡大する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の機能性オリーブ油の製造方法における脱臭工程を説明する図面である。
【図2】本発明の機能性オリーブ油の製造方法を説明する図面である。
【図3】植物油の既存の処理方法を説明する図面である。
【図4】既存のオリーブ精製油と本品(機能性油)の品質の違いを説明する図面である。
【図5】処理条件による残存ポリフェノール量の違いを示す図面である。
【図6】油脂Vol.53, No.2(2000)より抜粋した品種別のオイルのポリフェノール含量を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ果実から採油して脱臭処理を行うまで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない製造方法で得られたオリーブ独特の風味を持たないのに有効成分を多く含むタイプの機能性オリーブ油。
【請求項2】
脱臭処理が真空水蒸気蒸留により行われる請求項1記載の機能性オリーブ油。
【請求項3】
有効成分の一つであるポリフェノールを、原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有する請求項1または2記載の機能性オリーブ油。
【請求項4】
機能性オリーブ油の製造方法であって、以下の工程、すなわち;
(a) オリーブ果実から採油し、(b) 得られた油から臭気成分を蒸留手段によって除去する、工程を含み、前記(a)工程から(b)工程まで、すべて物理的な操作のみで化学処理は一切行わない、ことを特徴とする機能性オリーブ油の製造方法。
【請求項5】
前記 (b)工程が真空水蒸気蒸留により行われることを特徴とする請求項4記載の機能性オリーブ油の製造方法。
【請求項6】
機能性オリーブ油が、有効成分の一つであるポリフェノールを、原料オイルに対するポリフェノールの残存率60%以上で含有することを特徴とする請求項4または5記載の機能性オリーブ油の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2または3記載の機能性オリーブ油を有効成分とする生体内抗酸化性組成物。
【請求項8】
機能性オリーブ油を配合した組成物である請求項7記載の生体内抗酸化性組成物。
【請求項9】
上記組成物が、機能性オリーブ油を有効成分として配合した調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、皮膚外用剤、医薬品および飼料からなる群から選ばれる形態のものである請求項7または8記載の生体内抗酸化性組成物。














【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−56181(P2007−56181A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245347(P2005−245347)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(501207973)東洋オリーブ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】