説明

機能性膜

【課題】機能性粒子の機能を適切に発揮させることができる機能性膜を提供すること。
【解決手段】機能性膜は、疎水基又は親水基と疎水基の双方を有するオリゴマーやオリゴマー複合体と、機能性粒子を含有する。複数個のオリゴマーやオリゴマー複合体が会合してオリゴマー分子集合体を形成し、このオリゴマー分子集合体に機能性粒子が保持されている。機能性粒子は、オリゴマー分子集合体において、複数個のオリゴマーやオリゴマー複合体の疎水基が形成する空間に保持されている。
機能性粒子の粒径は1〜500nmである。機能性粒子が有する機能と異なる機能を有する他の機能性粒子を更に含有する。他の機能性粒子の粒径が500nmを超える。
機能性粒子が導電性顔料で、他の機能性粒子が弱導電性ないし非導電性顔料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性膜に係り、更に詳細には、各種機能を有する機能性粒子を特定のオリゴマーで保持した機能性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性粒子の一例である導電性顔料を含む機能性膜として、導電性プライマーを塗工して形成した下塗り塗膜が知られており、かかる下塗り塗膜は、例えば、樹脂素材に対して上塗り塗料を静電塗装する際に形成される。この場合、導電性プライマーは導電性の付与を目的として下塗り塗料として用いられる(特許文献1参照)。
例えば、自動車バンパー等の樹脂部品への静電塗装では、導電性プライマーを塗布した後、焼き付けを行わない、いわゆるウェットオンウェット方式でカラーベース、クリヤーが塗装される。
【特許文献1】特開2005−298729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかる従来の静電塗装においては、導電性プライマーが含まれるウェット状態の下塗り塗膜に残存する溶剤の種類や残存量が、この下塗り塗膜の導電性に影響を及ぼす。この際、溶剤の揮発は、塗装ブースやセッティング場所の温湿度によっても影響を受けるので、このような周囲条件も下塗り塗膜の導電性に影響を及ぼす。
【0004】
かかる溶剤の種類やウェット塗膜中の残存量による塗膜導電性への影響、特に不十分な塗膜導電性は、塗布膜厚にも波及し、得られる塗装の品質低下を招く可能性がある。これに対し、多量の導電性顔料を含有させて導電性を向上させることも考えられるが、導電性顔料は非常に高価であるため、コスト高となる。
【0005】
このように、導電性顔料を含む下塗り塗膜の導電性が不十分になり易いことをはじめとして、各種の機能性膜においては、当該機能性粒子が有する機能が必ずしも十分には発揮されていないことがあるという問題があった。また、これを改善すべく、多量の機能性粒子を用いると、コストが増大してしまうという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機能性粒子の機能を適切に発揮させることができる機能性膜、及びその前駆体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、所定のオリゴマーを用い、その分子集合体に所望の機能性粒子を保持させることにより、機能性粒子を局在化することが可能となり、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の機能性膜は、疎水基又は親水基と疎水基の双方を有するオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、機能性粒子を含有する機能性膜である。
複数個の上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が会合してオリゴマー分子集合体を形成し、このオリゴマー分子集合体に上記機能性粒子が保持されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の機能性膜の好適形態は、上記オリゴマー又はオリゴマー複合体が、次の(1)式〜(4)式のいずれかで表される構造を有することを特徴とする。なお、本発明においては、(1)式〜(4)式のいずれかで表されるオリゴマーやオリゴマー複合体は適宜混合して使用することが可能である。
【0010】
【化5】

【0011】
【化6】

【0012】
【化7】

【0013】
【化8】

【0014】
ここで、(1)〜(4)式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよく酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Lは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]−α、(CF)j−α又は(CFO)h−αを示し、この場合、αはXと同一でも異なっていてもよくCOY基(親水基)、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)、R基(アルキル基)、OH基又は水素原子、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す。
【0015】
また、本発明の機能性膜の他の好適形態は、上記機能性粒子の粒径が1〜500nmであり、この機能性粒子が有する機能と同一か又は異なる機能を有する他の機能性粒子を更に含有し、該他の機能性粒子の粒径が500nmを超えることを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の機能性膜の更に他の好適形態は、上部と下部を有し、その上部に上記機能性粒子と上記オリゴマー分子集合体が含まれ、該下部に上記他の機能性粒子が含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定のオリゴマーを用い、その分子集合体に所望の機能性粒子を保持させることとしたため、機能性粒子の機能を適切に発揮させることができる機能性膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の機能性膜につき詳細に説明する。なお、本明細書及び請求の範囲において、濃度、含有量及び配合量などのついての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0019】
上述の如く、本発明の機能性膜は、疎水基又は親水基と疎水基の双方を有するオリゴマー及びオリゴマー複合体の少なくとも一方と、機能性粒子を含有する。そして、この機能性膜においては、上記オリゴマーやオリゴマー複合体が複数個会合してオリゴマー分子集合体を形成しているが、上記機能性粒子はこのオリゴマー分子集合体に保持されている。
なお、機能性粒子は、上記オリゴマー分子集合体において、複数個の上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体の疎水基が形成する空間に保持されていることが好ましい。
【0020】
ここで、上述のオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体の具体例としては、次の(1)〜(4)式で表される構造を有するものを挙げることができる。
なお、(1)式のものは上記オリゴマーの基本的な構造を示しており、(2)〜(4)式のものはオリゴマー複合体を示しており、(2)式のものは3次元的なシリカネットワーク部位(3D−SN部位)を有するもので、機能性粒子を包接する機能が増強されており、また(3)式及び(4)式のものは、3D−SN部位にフルオロ基やシリル基が結合しているもので、表面への局在性が増強されている。
【0021】
【化9】

【0022】
【化10】

【0023】
【化11】

【0024】
【化12】

【0025】
(1)〜(4)式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよく酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Lは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]−α、(CF)j−α又は(CFO)h−αを示し、この場合、αはXと同一でも異なっていてもよくCOY基(親水基)、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)、R基(アルキル基)、OH基又は水素原子、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す。
なお、修飾フルオロアルキル基には、主骨格をフルオロアルキル基とし、フッ素原子、炭素原子、水素原子以外の他の原子、代表的には、酸素原子のようなヘテロ原子を含む官能基が含まれる。
【0026】
また、親水基の具体例としては、修飾又は非修飾のカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、アミノ基(一級〜三級)、四級アンモニウム塩基、ヒドロキシルアルキル基、水酸基、アミド基、イソシアネート基、モルフォリン基、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アミノ基、及びジメチルアミノ基を挙げることができる。
【0027】
(1)式〜(4)式に示す構造を有するオリゴマーやオリゴマー複合体は、修飾又は非修飾フルオロアルキル基(R)の有する凝集力によって複数個の分子が会合してオリゴマー分子集合体を形成するが、このオリゴマー分子集合体は、ホスト分子として挙動し、機能性粒子をゲスト分子として包接する機能を有する。
図1は、オリゴマー分子集合体が機能性粒子を包接した様子を示す模式図である。この図に示す例では、4分子のオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が会合して1つのオリゴマー分子集合体を形成しており、機能性粒子は、オリゴマー分子集合体の中央、即ち疎水基(R)が形成する空間に包接されている。
【0028】
なお、図2は、(1)式に示すオリゴマーに起因するオリゴマー分子集合体が、機能性粒子の一例である導電カーボンを包接した状態を示す模式図であり、図3は、(2)〜(4)式に示すオリゴマー複合体に起因するオリゴマー分子集合体が導電カーボンを包接した状態を示す模式図である。
【0029】
上記のようなオリゴマーにおいて、Rは表面エネルギーが低いので、芳香族系やエステル系化合物などの溶媒と混合した場合、得られる混合物(液)の表面に局在化し易い。
【0030】
更に、(1)式〜(4)式で表したオリゴマーやオリゴマー複合体については、適当な官能基や骨格を選択することにより、サイズや分子量、オリゴマー分子集合体における包接空間のサイズなどを適宜に変更可能であり、包接される機能性粒子のサイズや添加量との調整を行えば、機能性粒子の存在比を制御でき、機能性粒子を高密度化(高濃度化)ないし低密度化(低濃度化)することも可能である。よって、各種用途に応じて、適当な強さの機能を発揮させ易くなる。
【0031】
本発明においては、上述のように、所定のオリゴマー分子集合体に起因する機能性粒子の局在化や存在比制御を行うことが可能なので、上記オリゴマーやオリゴマー複合体とは異なる溶媒や樹脂、特に硬化ないし固化する有機物などと併用すれば、積層構造体(積層膜)を形成することができる。
【0032】
また、本発明においては、(1)式〜(4)式に示す構造を有するオリゴマーやオリゴマー複合体は、その1種を単独で使用することができるが、複数種を任意に組み合わせて使用することも可能である。
よって、このような所定オリゴマー等の併用に応じて、サイズなどが異なる複数種の機能性粒子を用いることも可能であり、理論上は多機能を有する機能性膜を製造することも可能である。
【0033】
なお、(1)式〜(4)式に示す構造を有するオリゴマーやオリゴマー複合体においては、その鎖状オリゴマー部位、即ち親水基(X)と両末端の修飾又は非修飾フルオロアルキル基(R)を有する部位であって、典型的には、上記の(1)式で表される構造を有する部位、但し、(2)式〜(4)式で表される構造では図中の「B」を「X」と置換した構造を有する部位、の分子量が252〜100,000であることが好ましい。
この鎖状オリゴマー部位の分子量が252未満では、機能性粒子を十分に包接できないことがあり、100,000を超えると、塗膜用途において、樹脂への分散性が悪化して塗膜が凝集破壊することがある。
【0034】
次に、機能性粒子について説明する。
本発明に使用可能な機能性粒子としては、特に限定されるものではなく、各種の機能を有する粒子を挙げることができる。
例えば、発色や着色機能を有する各種顔料粒子、導電性を有する導電性粒子、着色機能と導電性を併有する導電性顔料、絶縁性を有する絶縁性粒子、触媒機能を有する触媒粒子、発光ないし蛍光性を有する発光粒子、磁性を有する磁性粒子、薬効を有する薬剤粒子、カーボンナノチューブ及び各種ウィルスなどを挙げることができる。
【0035】
本発明において、通常、これら機能性粒子の大きさは、いわゆるナノ粒子として認識されるナノオーダーの粒子サイズであるが、必ずしもナノオーダーに限定されるものではなく、粒径(平均粒径)が0.5nm〜1μmのものでもよい。
【0036】
なお、本発明の機能性膜において、好適に使用し得るのは平均粒径が1〜500nmの機能性粒子であり、特に機能性粒子として導電性顔料を採用した場合には、この粒径範囲が好ましく、3〜300nmが更に好ましく、5〜200nmが特に好ましい。
導電性顔料の平均粒径が1nm未満では、導電性向上に有意に寄与しないことがあり、500nmを超えると、上記オリゴマーに包接されず、局在化、特に塗膜表面への局在化が不十分となって導電性が有意に向上しないことがある。
【0037】
本発明の機能性膜においては、上記の機能性粒子以外に、他の機能性粒子を含有させることができる。「他の機能性粒子」は、通常、上記オリゴマー以外の硬化ないし固化する溶媒や有機物の相に含まれることになる。
「他の機能性粒子」の平均粒径は、500nm超であることが好ましい。500nm以下では、上記の機能性粒子の平均粒径と重複し、上記オリゴマーに包接されることがあり、機能性粒子のみを局在化するという観点から好ましくない。
【0038】
この「他の機能性粒子」は、上記機能性粒子が有する機能と異なる機能を有するものを意味するものとする。なお、上記機能性粒子が有する機能と同種の機能を有するものであっても、その機能の強弱が異なれば、「他の機能性粒子」に該当する。
例えば、強導電性の機能性粒子に対し、弱導電性の粒子は「他の機能性粒子」に該当し、両者を併用し、機能性粒子(強導電性)を上記オリゴマーを用いて局在化させれば、他の機能性粒子(弱導電性)との関係で、得られる機能性膜に導電性の勾配を設けることが可能になる。
【0039】
また、機能性粒子が有する機能を有し、且つ他の機能を有するものも、「他の機能性粒子」に該当する。
例えば、機能性粒子が導電性を有するとき、導電性と殺菌性を併有するものは「他の機能性粒子」に該当する。この場合、機能性粒子を上記オリゴマーやオリゴマー複合体で局在化させれば、機能性膜に、導電性を有する層と、導電性と殺菌性を併有する層とを設けることができる。
【0040】
本発明の機能性膜を静電塗装用の塗膜層に適用する場合、典型的には、機能性粒子として平均粒径1〜500nmの導電性顔料と、他の機能性粒子として平均粒径500nm超の下地隠蔽用顔料を用い、これらを上記オリゴマーやオリゴマー複合体とアクリルメラミンなどの硬化性樹脂、又はオレフィン系樹脂を含む非硬化性樹脂を含む溶媒との混合溶媒に分散させ、硬化又は成膜させることにより、塗膜を形成することができる。
【0041】
なお、かかる塗膜では、上述したオリゴマー分子集合体による機能性分子の局在化機能により、その上部に機能性粒子である導電性顔料とオリゴマー分子集合体が多く存在し、下部に他の機能性粒子である下地隠蔽用顔料が多く存在することになる。
また、このような局在化機能を適用すれば、理論的には、塗膜上部と塗膜下部とをほぼ完全に区画することも可能であり、当該塗膜を、導電性顔料を含む上層と下地隠蔽用顔料を含む下層との積層構造にすることも可能である。
【0042】
一方、上塗り層と下塗り層を備える通常の積層塗膜に対して本発明の機能性膜を適用すると、下塗り層の上部に導電性顔料とオリゴマー分子集合体が含まれ、下塗り層の下部に隠蔽用顔料と硬化性樹脂が含まれ、上塗り層にはクリヤー塗料やベース塗料、エナメル塗料又はカラーベース塗料が含まれることになる。
よって、導電性顔料が下塗り層の上部に高密度に局在化しているので、必要とされる導電性を従来よりも少量の導電性顔料で実現でき、静電塗装を効果的に行うことができる。
【0043】
図4は、従来の導電性プライマー又は本発明の機能性膜の一例である導電性積層塗膜を形成する導電性塗料を用いた場合の、導電性顔料及び隠蔽顔料の状態を示す模式断面図である。なお、下地はPP(ポリプロピレン層)である。
【0044】
図4に示すように、当初(硬化前)は、従来の導電性プライマーでも本発明に係る導電性塗料でも、導電性顔料1及び隠蔽顔料4は、硬化性樹脂又は硬化性樹脂と所定オリゴマーを含む混合溶媒2中に均等に分散している(図4(A))。その後、硬化性樹脂が硬化した状態においては、従来の導電性プライマーから形成された上塗り塗膜では、導電性顔料1と隠蔽顔料4は樹脂3に均等に分散したままであるが、本発明に係る積層塗膜では、上記オリゴマーによって導電性顔料1が塗膜表面に局在化している(図4(B))。
よって、本発明に係る塗膜では塗膜表面の導電性が良好であり、塗膜表面側に通電を行う静電塗装においては利点が多い。例えば、導電性顔料1の使用量を従来技術よりも低減できるし、導電性顔料が高密度化しているので、通電するまでの時間が短縮されるため、タクトタイムを短縮化することが可能となる。
【0045】
なお、上記の導電性顔料の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、導電性カーボン及び導電性酸化チタンなどを挙げることができる。
また、上記の隠蔽顔料も特に限定されるものではなく、有機顔料でも無機顔料でもよい。例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、酸化チタン及び酸化鉄などを例示できる。
【0046】
上記の積層塗膜における下塗り層において、上記オリゴマーの配合量は樹脂固形分に対して0.05〜50%とすることが好ましく、1〜15%とすることが更に好ましく、3〜5%とすることが特に好ましい。
配合量が0.05%未満では、導電性顔料の十分な表面局在化が得られず所望の導電性が実現できないことがあり、50%を超えると、上記オリゴマーが凝集することがあり、塗膜の密着性が損なわれることがある。
【0047】
上記下塗り層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常、5〜10μm程度である。
また、上記下塗り層の上に形成される上塗り層としては、カラーベース、クリヤー塗膜、濁りクリヤー塗膜、艶消しクリヤー塗膜又はエナメル塗膜を構成するものを挙げることができる。
【0048】
本発明の機能性膜を適用した導電性積層塗膜は、主として、自動車用塗膜や家電用塗膜など、樹脂を基材とする塗装物品に使用される。また、非導電性の各種材料、例えば、ガラス、木材、紙、繊維及び皮革などを基材とする塗装物品にも用いることができる。
【0049】
次に、本発明の機能性膜の前駆体組成物について説明する。
この前駆体組成物は、上述のような本発明の機能性膜を形成するものであり、通常は流体ないし液状であり、当該機能性膜が上述の導電性塗膜、特に導電性積層塗膜である場合には、当該塗膜形成用の塗料、特に導電性積層塗膜形成用の塗料である。
【0050】
この機能性膜前駆体組成物は、上記機能性粒子と、上記オリゴマーとを含み、必要に応じて、フッ素系溶剤や上記他の機能性粒子を更に含む。
フッ素系溶剤を含むのは、上記オリゴマーを十分に分散ないしは溶解させるためであり、通常、上記オリゴマーをフッ素系溶剤に溶解させた溶解液を、他の成分と混合することにより、機能性膜前駆体組成物が得られる。
【0051】
なお、この前駆体組成物が導電性塗膜形成用塗料である場合、従来公知の顔料、樹脂、有機系溶剤及び水系溶剤などを含有することができる。
【0052】
この導電性塗膜形成用塗料による導電性塗膜の形成法は、特に限定されず従来公知の手法でよく、スプレー塗装法、ディッピングコート法、スピンコート法、フローコート法及びロールコート法のいずれの方法であってもよい。
また、硬化乾燥方法も特に限定されるものではなく、常温硬化乾燥、焼き付け硬化乾燥などにより成膜でき、紫外線硬化乾燥や電子線硬化乾燥なども適用できる。
【実施例】
【0053】
以下、導電性塗膜を例に採って、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1〜11)
[導電性プライマー成分の調製]
分散容器に塩素化ポリプロピレン樹脂溶液(商品名「ハードレンCY9122」、東洋化成工業(株)製、無水マイレン酸変性塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素含有率22%、重量平均分子量50,000〜60,000、加熱残分20%)400質量部と導電性酸化チタン(商品名「ET−500W」、石原産業(株)製、平均粒子径250nm)50質量部を入れ、隠蔽顔料として水酸化アルミニウム(商品名B703、日本軽金属(株)製、平均粒径2μm)を加え、分散させた。
目的の粒度になった後、分散を止めて取り出し、取り出した分散ベースに、ブロック化ポリイソシアート(商品名「デスモジュールBL3157」、住化バイエルウレタン(株)製、オキシムでブロックされたHDIイソシアヌレート、含有NCO11.2%、加熱残分75%)26.7質量部を秤取して少量ずつ撹拌しながら加え、充分に撹拌して導電性プライマー成分を得た。
【0055】
[導電性塗料の調製:鎖状オリゴマー部位の導入]
上述のように調製した導電性プライマー成分20.0gに、次の(5)式
【化13】

に示すオリゴマー10%溶液(フッ素アルコール(TFP):IPA=0.75:0.25(重量比))1.83gを撹拌しながら溶解し、表1に示す割合で鎖状オリゴマーを含有する各例の導電性塗料を調製した。表1に、導電性顔料や隠蔽顔料の粒径などを併記する。
【0056】
[導電性塗膜(積層塗膜)の形成]
70mm×150mm×3mm(厚)のバンパー用PP(ポリプロピレン)材(日本ポリプロ製NB43)をIPA(イソプロピルアルコール)脱脂した後、各例の導電性塗料を乾燥膜厚10μmになるよう塗布し、ウェットの状態で、日本ペイント製ベース塗料(R305D)を乾燥膜厚15μmとなるように塗装し、更にウェットの状態で日本ペイント製クリヤー塗料(R−365)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した後、140℃で30分間焼き付け、各例の導電性塗膜(積層塗膜)を形成した。
【0057】
(実施例12〜22)
導電性プライマー成分の調製は実施例1〜11と同様に行った。
[導電性塗料の調製:3D−SN部位を有するオリゴマー部位の導入]
上記(5)式に示すオリゴマー10%溶液(フッ素アルコール(TFP):IPA=0.75%:0.25)1.83gを撹拌しながら、日産化学社製コロイダルシリカメタノール70%溶液1.22gを加え、更に関東化学製テトラエトキシシラン(TEOS)0.46gを添加して撹拌し、次いで、0.2Nアンモニア水0.31gを添加して、(2)式に示すようなオリゴマー複合体の含有溶液を得た。
得られたオリゴマー複合体含有溶液を上述のように調製した導電性プライマー成分20.0gに撹拌させながら混ぜ、表2に示す割合で所定オリゴマー複合体を含有する各例の導電性塗料を調製した。表2に、導電性顔料や隠蔽顔料の粒径などを併記する。
また、実施例1〜11と同様の操作を行い、各例の導電性塗膜(積層塗膜)を形成した。
【0058】
(比較例1)
実施例1〜11の導電性プライマー成分の調製において、導電性顔料を用いずに塗料を作成し、これを本例の塗料とした。上記同様に塗膜を形成した。表1に塗料配合などを示す。
【0059】
(比較例2)
導電性顔料の粒径と隠蔽顔料の粒径を同じにした以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の導電性塗料を得た。上記同様に塗膜を形成した。配合などを表1に示す。
【0060】
(性能評価)
以上のようにして得られた各例の導電性塗膜を、下記の性能評価に供した。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0061】
[密着性]
碁盤目カット試験によるテープ剥離後の塗膜欠損率で判断した。なお、表1及び表2において、評価は下記の基準に従って記載した。
○:0%
△:<15%
×:>35%
【0062】
[導電性(塗膜の電気抵抗)の測定]
70mm×150mm×3mm(厚)のバンパー用PP材(日本ポリプロ製NB43)をIPA脱脂した後、長手方向の両端に市販されているアルミニウムテープを100mm間隔になるよう貼り付けた。次いで、アルミニウムテープの上から、PP素材との境を約3〜5mm残して、マスキングテープを巻きつけた後、上記各例の塗料をエアースプレーにて塗装した。塗装直後、マスキングテープを速やかに剥がし、両端のアルミニウムテープ部分に、共立電気計器(株)製「3レンジ絶縁抵抗計 モデル3301」の端子を当て、導電性(塗膜抵抗値)を測定した。
なお、測定は、塗装後1分の「WET」、80℃×30分乾燥させた「DRY」の2モードで実施した。表1及び表2中の評価は、下記の基準に従って記載した。
【0063】
<WET>
○:抵抗値 100×10Ω未満
△:抵抗値 100×10Ω以上、2,000×10Ω未満
×:抵抗値 2,000×10Ω以上
<DRY>
○:抵抗値 0.3×10Ω未満
△:抵抗値 0.3×10Ω以上、1.0×10Ω未満
×:抵抗値 1.0×10Ω以上
【0064】
(隠蔽性)
隠蔽性については、以下の基準(表1及び表2参照)により目視で評価した。
○:隠蔽性が高い。
△:通常塗色と同等レベル。
×:通常塗色以下。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1及び表2から明らかなように、本発明に属する実施例1〜22の導電性塗膜は、所定のオリゴマーを含有しており、ウェット時及びドライ時(乾燥後)の導電性が良好であることが分かる。これは、ウェット時において、ナノサイズの導電顔料が所定オリゴマーに包接されたまま、塗膜表面に局在化したことによるものと考えられ、乾燥後も導電性顔料の表面局在化が維持されているものと考えられる。
【0068】
以上の結果から、上記実施例によれば、塗膜が溶剤揮発後(乾燥後)も充分な導電性を有するため、塗布後に残存する溶剤の種類や残存量による影響が少なく、膜厚が均一となり品質の安定性が向上する。また、高価な導電性顔料の配合量も少なくでき、材料コストを低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】オリゴマー分子集合体が機能性粒子を包接した様子を示す模式図である。
【図2】(1)式に示すオリゴマーに起因するオリゴマー分子集合体が、機能性粒子の一例である導電カーボンを包接した状態を示す模式図である。
【図3】(2)〜(4)式に示すオリゴマーやオリゴマー複合体に起因するオリゴマー分子集合体が導電カーボンを包接した状態を示す模式図である。
【図4】従来の導電性プライマー又は本発明の機能性膜の一例である導電性積層塗膜を形成する導電性塗料を静電塗装に用いた場合の、導電性顔料の状態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 導電性顔料
2 混合溶媒
3 樹脂
4 隠蔽顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水基又は親水基と疎水基の双方を有するオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、機能性粒子を含有する機能性膜であって、
複数個の上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が会合してオリゴマー分子集合体を形成し、このオリゴマー分子集合体に上記機能性粒子が保持されていることを特徴とする機能性膜。
【請求項2】
上記機能性粒子は、上記オリゴマー分子集合体において、複数個の上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体の疎水基が形成する空間に保持されていることを特徴とする請求項1に記載の機能性膜。
【請求項3】
上記オリゴマーが、次式(1)
【化1】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、Xはそれぞれ独立してOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、nは1〜10の整数、mはn以下の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の機能性膜。
【請求項4】
上記オリゴマー複合体が、次式(2)
【化2】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O基、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O基又はR−C=O基(R:アルキル基)、nは1〜10の整数、mはn以下の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の機能性膜。
【請求項5】
上記オリゴマー複合体が、次式(3)
【化3】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O基、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O基又はNR−C=O基(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよくそれぞれ独立して酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Gは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]、(CF)j又は(CFO)h、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の機能性膜。
【請求項6】
上記オリゴマー複合体が、次式(4)
【化4】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよく酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Lは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]−α、(CF)j−α又は(CFO)h−αを示し、この場合、αはXと同一でも異なっていてもよくCOY基(親水基)、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)、R基(アルキル基)、OH基又は水素原子、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の機能性膜。
【請求項7】
上記(1)〜(4)のいずれか1つの式で表されるオリゴマー又はオリゴマー複合体において、鎖状オリゴマー部位の分子量が252〜100,000であることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1つの項に記載の機能性膜。
【請求項8】
上記オリゴマーを、樹脂固形分に対して0.05〜50質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の機能性膜。
【請求項9】
上記機能性粒子の粒径が1〜500nmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の機能性膜。
【請求項10】
上記機能性粒子が有する機能と異なる機能を有する他の機能性粒子を更に含有し、該他の機能性粒子の粒径が500nmを超えることを特徴とする請求項9に記載の機能性膜。
【請求項11】
上記機能性粒子が導電性顔料であり、上記他の機能性粒子が弱導電性ないし非導電性の顔料であることを特徴とする請求項10に記載の機能性膜。
【請求項12】
上部及び下部を有し、その上部に上記機能性粒子と上記オリゴマー分子集合体が含まれ、該下部に上記他の機能性粒子が含まれることを特徴とする請求項10に記載の機能性膜。
【請求項13】
上塗り層と下塗り層を備える積層塗膜構造をとり、且つこの下塗り層が上部と下部を有し、
該下塗り層の上部に上記機能性粒子としての導電性顔料と上記オリゴマー分子集合体が含まれ、該下塗り層の下部に上記他の機能性粒子としての弱導電性ないし非導電性顔料が含まれることを特徴とする請求項12に記載の機能性膜。
【請求項14】
上記上塗り層が、クリヤー塗膜、濁りクリヤー塗膜、艶消しクリヤー塗膜又はエナメル塗膜又はカラーベース塗膜を構成することを特徴とする請求項13に記載の機能性膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−280695(P2009−280695A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134025(P2008−134025)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】