説明

正立等倍レンズアレイユニットおよび画像読取装置

【課題】正立等倍レンズアレイユニット全体としての被写界深度を拡大する。
【解決手段】正立等倍レンズアレイユニット13は第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18とを有する。第1のレンズアレイ17は複数の第1のレンズ20を有する。第1のレンズアレイ17に複数の第1のレンズを第1の方向に沿って配置する。第1の方向は第1のレンズ20の光軸に垂直である。第2のレンズアレイ18は複数の第2のレンズを有する。第2のレンズの光軸を第1のレンズ光軸と重ねる。第2のレンズアレイ18に複数の第2のレンズを第1の方向に沿って配置する。互いに光軸が重なる第1のレンズ20と第2のレンズとが光学系を形成する。光学系は正立等倍光学系である。光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャナやファクシミリなどの画像読取装置またはLEDプリンタなどの画像形成装置に用いられる正立等倍レンズアレイユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スキャナやファクシミリなどの画像読取装置、またはLEDプリンタなどの画像形成装置には、縮小光学系または正立等倍光学系が用いられる。特に、正立等倍光学系は、縮小光学系を用いる場合に比べて、装置全体の小型化が容易であることに特徴を有する。
【0003】
従来、正立等倍光学系は、セルフォック(登録商標、日本板硝子)やロッドレンズなどの棒状のレンズを、アレイ状に配置するように不透明の黒色樹脂に挿通させることにより形成される。各レンズが正立等倍性を有するので、アレイ状に配置しても正立等倍性は維持される。
【0004】
上述のセルフォックやロッドレンズには、棒の中心から周辺にかけて屈折力を変化させることにより集光性が備えられる。このように通常のレンズに比べて特殊な方法で製造する必要があるので、製造が難しく、また製造コストが高い。そこで、凸面をアレイ状に配置したレンズアレイプレートを用いた正立等倍光学系が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、セルフォックを用いた正立等倍光学系は被写界深度が狭い。スキャナなどの画像読取装置などにおいては、光学系からの距離を一定に保ったカバーガラス上に、画像が読出される物体を載置することにより、画像が読取られる物体と光学系との距離が所望の距離に保たれる。このように物体と光学系との距離を所望の距離に保つことにより狭い被写界深度であってもボケの少ない画像として読取ることが可能である。
【0006】
しかし、読取る物体によっては読取り面がカバーガラスに密着せずに離れることもある。このような場合には、その狭い被写界深度のために読取った画像のボケは大きい。そこで、被写界深度を拡大した正立等倍光学系が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−014081号公報
【特許文献2】特開2010−164974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2の正立等倍レンズアレイでは、個々のレンズの被写界深度の拡大が図られているが、アレイ状に配置された周囲の正立等倍レンズの影響が考慮されていない。そのため、光学系から物体までの距離の変化が被写界深度の範囲内であったとしても、読取った画像に視認し得る劣化が生じることが問題であった。
【0009】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、通常のレンズを用いて形成可能であって、全体としての被写界深度を拡大した正立等倍レンズアレイユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した諸課題を解決すべく、本発明による正立等倍レンズアレイユニットは、
複数の第1のレンズを有し、第1のレンズの光軸に垂直な第1の方向に沿って複数の第1のレンズが配置される第1のレンズアレイと、
第1のレンズそれぞれと光軸が重ねられた複数の第2のレンズを有し、第1の方向に沿って複数の第2のレンズが配置される第2のレンズアレイとを備え、
互いに光軸が重なる第1のレンズと第2のレンズとによって形成される各光学系は正立等倍光学系であり、
各光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックである
ことを特徴とするものである。
【0011】
上述した諸課題を解決すべく、本発明による画像読取装置は、
複数の第1のレンズを有し、第1のレンズの光軸に垂直な第1の方向に沿って複数の第1のレンズが配置される第1のレンズアレイと、第1のレンズそれぞれと光軸が重ねられた複数の第2のレンズを有し、第1の方向に沿って複数の第2のレンズが配置される第2のレンズアレイとを有し、互いに光軸が重なる第1のレンズと第2のレンズとによって形成される各光学系は正立等倍光学系であり、各光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックである正立等倍レンズアレイユニットを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明に係る正立等倍レンズアレイユニットによれば、各光学素子が少なくとも物体側にテレセントリックであるため、正立等倍レンズアレイユニットから物体までの距離が変化しても、ボケの発生を抑えた像を結像させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る正立等倍レンズアレイユニットを有する画像読取部の外観を示す斜視図である。
【図2】図1における主走査方向に垂直な平面による画像読取部の断面図である。
【図3】正立等倍レンズアレイユニットの外観を示す斜視図である。
【図4】単位光学系と像面および物体面との位置関係を示す図である。
【図5】単位光学系に対してθの定義を説明するための図である。
【図6】図3における第1の方向に垂直な平面による単位光学系の部分断面図である。
【図7】従来の正立等倍レンズアレイユニットにおいて理想位置から物体面が変位した場合における像面上の結像位置の変化を説明するための図である。
【図8】透光孔の第1のレンズ側の口径を算出するための、第1のレンズと透光孔の位置関係を示す図である。
【図9】重なり度の違いによって像シフト量が変動することを説明するために、被写界深度に対する許容される像シフト量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した正立等倍レンズアレイユニットの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る正立等倍レンズアレイユニットを有する画像読取部の斜視図である。画像読取部10はイメージスキャナ(図示せず)に設けられる。画像読取部10は、画像読取面icsに配置される被写体(図示せず)の画像を主走査方向に沿った直線状に読取可能である。画像読取部10を、主走査方向に垂直な副走査方向に変位させながら、直線状の画像を連続的に読取ることにより、被写体の2次元状の画像が読出される。
【0016】
次に、図2を用いて画像読取部10の構成を説明する。図2は、図1において主走査方向に垂直な平面であって二点鎖線で示した部位の断面を概略的に示す図である。ただし、図1と異なり、カバーガラス11が設けられている。なお、図2の裏面から表面に向かう方向を主走査方向、左から右に向かう方向を副走査方向、および上から下に向かう方向を光軸方向とする。
【0017】
画像読取部10は、カバーガラス11、照明系12、正立等倍レンズアレイユニット13、撮像素子14、および位置規定部材15を含んで構成される。カバーガラス11、照明系12、正立等倍レンズアレイユニット13、および撮像素子14は、位置規定部材15によって、互いの位置および姿勢が以下に説明する状態に維持されるように固定される。
【0018】
位置規定部材15には、孔部16が形成される。孔部16は第1の室部r1と第2の室部r2とを有している。第1の室部r1は第2の室部r2より副走査方向の幅が長くなるように、形成される。
【0019】
孔部16の第1の室部r1側の端に、カバーガラス11が冠着される。第1の室部r1には、照明系12が配置される。なお、照明系12は、光軸方向から見て第2の室部r2に重ならない位置に配置される。照明系12から発する照明光がカバーガラス11の方向に出射するように照明系12は設けられる。すなわち、照明系12を構成する光源(図示せず)や照明光学系(図示せず)の姿勢や位置が定められる。
【0020】
第2の室部r2には、正立等倍レンズアレイユニット13が挿着される。また、孔部16の第2の室部r2側の端に、撮像素子14が固着される。
【0021】
なお、カバーガラス11の平面の法線、正立等倍レンズアレイユニット13に設けられる各光学系(図2において図示せず)の光軸、および撮像素子14の受光面の法線は光軸方向と平行となるように、姿勢が調整される。
【0022】
上述のような構成において、照明系12から発する照明光がカバーガラス11を介して被写体(図示せず)に照射される。被写体による照明光に対する反射光がカバーガラス11を透過する。被写体の反射光が正立等倍レンズアレイユニット13によって撮像素子14の受光面に結像する。結像した光学像が撮像素子14によって撮像され、電気信号である画像信号が生成される。
【0023】
なお、撮像素子14はCCDラインセンサやCMOSラインセンサなどであって、1次元の画像信号を生成する。生成された1次元の画像信号は信号処理回路(図示せず)に送信され、所定の画像処理が施される。画像読取部10を変位させながら生成した複数のフレームの1次元の画像信号を生成することによって2次元状の画像信号が生成される。
【0024】
次に、正立等倍レンズアレイユニット13の詳細な構成を、図3を用いて説明する。正立等倍レンズアレイユニット13は、第1のレンズアレイ17、第2のレンズアレイ18、および連結部19によって構成される。
【0025】
第1のレンズアレイ17には、複数の第1のレンズ20が設けられる。複数の第1のレンズ20は光軸が互いに平行になるように姿勢が定められる。また、第1のレンズ20の光軸に垂直な第1の方向に沿って互いに密着するように、第1のレンズ20は配置される。
【0026】
第2のレンズアレイ18には、複数の第2のレンズ21(図2参照)が設けられる。複数の第2のレンズ21は光軸が互いに平行になるように姿勢が定められる。また、第2のレンズ21の光軸に垂直な方向に沿って並ぶように、第2のレンズ21は配置される。
【0027】
第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18とは、連結部19によって連結される。各第1のレンズ20の光軸と何れかの第2のレンズ21の光軸とが重なるように、第1のレンズアレイ17と第2のレンズアレイ18との位置が合わせされる。
【0028】
連結部19には、複数の透光孔22が形成される。透光孔22は各第1のレンズ20から第2のレンズ21に向けて貫通している。なお、連結部19の第1のレンズ20側の面は絞りとして機能し、透光孔22以外の面に入射する光を遮光する。したがって、第1のレンズ20、透光孔22、および第2のレンズ21によって単位光学系23が構成される。
【0029】
各単位光学系23が、正立等倍光学系となるように且つ物体側に実質的にテレセントリックとなるように、第1のレンズ20および第2のレンズ21が設計され、単位光学系23が構成される。なお、実質的にテレセントリックである条件については、後述する。
【0030】
本実施形態においては、第1のレンズ20の第1面および第2のレンズ21の両面が凸面になるように形成することにより、正立等倍性が単位光学系23に設けられる。なお、第1のレンズ20の第2面は凸面、凹面、および平面のいずれであってもよい。
【0031】
さらに、各単位光学系23は、以下の(1)式を満たすように設計され、形成される。
0.5≦y/D≦1.0 (1)
【0032】
なお、図4に示すように、yは単位光学系23の視野半径、すなわち単位光学系23が取込み可能な光の物体面os上の範囲の半径である。なお、単位光学系23から物体面osまでの距離Lは予め定められており、被写体となる原稿が載置されるガラス面と単位光学系23との距離が該定められた距離Lとなるように、イメージスキャナは形成される。また、Dは単位光学系23の直径である。
【0033】
さらに、各単位光学系23は、以下の(2)式を満たすように設計され、形成される。
D/(8×L)<tanθ (2)
【0034】
ただし、Lは単位光学系23から物体面osまでの、予め定められた物体距離である。また、θは、図5に示すように、物体面os上の一点を単位光学系23によって像面isに結像させた微小な光学像fiの重心位置cgを通る光線の単位光学系23への入射角度である。
【0035】
さらに、各単位光学系23が実質的にテレセントリックとなるために、以下の(3)式を満たすように設計され、形成される。
tanθ<δ/Δz (3)
【0036】
ただし、δは単位光学系23に対して予め許容される像シフト量である。なお、像シフト量とは、物体を単位光学系23から被写界深度だけ変位させることによる、像面の任意の一点に像を結像させる物体面上の一点の、単位光学系23の光軸から垂直な方向への変位量である。
【0037】
例えば、撮像素子14の撮影光学系として正立等倍レンズアレイユニット13を用いる場合には、像シフト量δが画素ピッチ以下である場合には、撮像された画像には異なる単位光学系23による物体上の同じ点に対応する像面における結像点のズレに起因するボケは認識され得ない。したがって、許容される像シフト量δは、用いる撮像素子や受光機器などに応じて定められたり、人間により知覚し得るズレ量などに定められる。
【0038】
次に透光孔22の形状について、詳細に説明する。図6に示すように、同一の中心線clを有して連続する2つの円錐台の側面に沿った形状に、透光孔22の内面は形成される。また、第1のレンズ20側の透光孔22の口径が第2のレンズ21側の口径より小さくなるように、透光孔22は形成される。中心線clが第1のレンズ20および第2のレンズ21の光軸と重なるように、透光孔22の形成位置が定められる。
【0039】
特に、透光孔22の第1のレンズ20側の口径の半径rは、以下の(4)式を満たす整数sを存在させる値に定められる。
【0040】
【数1】

【0041】
(4)式において、
rは透光孔22の第1のレンズ20側の半径、
pは隣接する第1のレンズ20間のピッチ(距離)、
は第1のレンズ20の肉厚、
nは第1のレンズ20の屈折率とする。
【0042】
さらに、透光孔22の内面には、光の反射を抑える処理や光を吸収する処理が施される。例えば、光の反射を抑制する処理として、サンドブラストなどにより表面を荒らすシボと呼ばれる処理や、表面をスクリュー状に加工することによって反射光線の進行を抑制する処理である。また、光を吸収する処理として、吸光塗料による内面の塗布などが挙げられる。
【0043】
以上のような構成の本実施形態の正立等倍レンズアレイユニットによれば、通常のレンズを用いて形成可能であって、アレイ全体として被写界深度を拡大した正立等倍レンズアレイユニットを形成することが可能である。アレイ全体として被写界深度が拡大される効果について以下に詳細に説明する。
【0044】
図7(a)に示すように、従来の正立等倍レンズアレイユニット13’では、像面isまでの距離に対して理想の物体面osの位置に載置された物体が各単位光学系23’により像面is上に等倍の正立像として結像される。複数の単位光学系23’によって形成される像は位置ずれを生じることなく一つの全体像として写し出される(図7(a)参照)。
【0045】
しかし、図7(b)に示すように、物体面osが理想位置から変位することにより個々の単位光学系23’の像面isにおける等倍性が崩れ、物体面osにおける同じ一点の像面isにおける結像位置が互いに隣接する単位光学系23’で異なる。それゆえ、正立等倍レンズアレイユニット13’全体により写し出される像にはブレが生じる。したがって、正立等倍レンズアレイユニット全体としての被写界深度は浅くなる。
【0046】
一般的に、物体側の主光線の入射角度が大きくなるほど、物体面の変位に対するレンズの倍率の変化は大きくなる。正立等倍レンズアレイユニット全体では、倍率の変化が大きくなるほど、隣接するレンズによる物体面の同一の点の結像位置のズレが大きくなる。
【0047】
それゆえ、理想的には、主光線の入射角度がゼロであれば、物体面の変位に対して倍率は変化しない。それゆえ、物体面が理想位置から変位しても物体面上の一点の別々のレンズによる結像位置がずれずに像面上の同じ位置に結像する。すなわち、レンズアレイを構成する個々の光学系が物体側テレセントリックであれば、レンズアレイ全体としての被写界深度を深く保つことが可能である。このように、本実施形態の正立等倍レンズアレイユニット13は、レンズアレイ全体としての被写体深度を深化させることが可能である。
【0048】
また、本実施形態によれば、第1のレンズ20が第1の方向に沿って互いに密着するように配置される。このような構成により、第1の方向に沿って欠落の無い画像を形成することが可能である。
【0049】
本実施形態では、前述のように、各単位光学系23は物体側に実質的にテレセントリックであるため、単位光学系23の径外に位置する点からの光の透過量は低い。それゆえ、隣接する単位光学系23間に隙間があると、隙間の延長上の物体面os上の点の像が極めて暗くなり、画像が欠落することもあり得る。しかし、上述のように、第1のレンズ20が第1の方向に沿って密着するので、このような隙間が無く、第1の方向に沿って欠落の無い画像を得ることが可能である。
【0050】
また、本実施形態によれば、0.5≦y/Dとなるように単位光学系23は形成される。それゆえ、物体面上のすべての点がいずれかの単位光学系23の視野域に含まれ得るので、像の一部欠落が防止される。
【0051】
ところで、y/Dが大きくなるほど、単位光学系23は光軸からの距離の離れた物体面も視野域に含むことになる。それゆえ、y/Dが大きくなると、物体面上の一点を結像させる単位光学系23の数が増え、異なる単位光学系23により形成される像のズレの影響がより大きくなる。
【0052】
そこで、本実施形態では、y/D≦1となるように単位光学系23は形成される。それゆえ、物体面上の一点を結像させる単位光学系23の数が2以下に限定され、像のズレの影響を低減化させることが可能である。
【0053】
また、本実施形態では、各単位光学系23は、(2)式(D/8L<tanθ)を満たすように形成されるので、以下に説明するように、明るさのムラを抑えることが可能である。
【0054】
従来知られているように、レンズなどの光学系による像は、像面と光軸との交点が最も明るく光軸から離れるほど暗くなる。それゆえ、結像される画像には明るさのムラが生じる。デジタルカメラの場合には、画像の領域毎に増幅率を変えることにより明るさのムラを低減化させることが可能である。
【0055】
しかし、光軸から離れた領域の光量が極端に低い場合には増幅率を大きくする必要があり、ノイズの影響も大きくなる。それゆえ、光軸上の光量に対する光量の比が、何れの位置であっても、50%程度を超えるように設計することが好ましい。
【0056】
本実施形態の正立等倍レンズアレイユニット13の場合には、隣接する2つの単位光学系23を透過する光束を合わせて50%程度を超える光量が得られればよいので、単一の単位光学系23からは25%を超える光量が得られればよい。次の(5)式を満たす入射角度θであれば、単一の単位光学系23の視野範囲内の何れの位置においても光軸近辺の25%を越える光量の光を伝達可能である。
【0057】
【数2】

【0058】
(5)式の左辺はD/8Lであり、各単位光学系23は、(2)式を満たすように形成されるので、増幅処理によって十分に補償可能な程度に、明るさのムラを抑えることが可能である。
【0059】
また、本実施形態では、各単位光学系23は、(3)式(tanθ<δ/Δz)を満たすように、形成される。すなわち、許容される像シフト量δおよび許容される被写界深度Δzにより算出される角度がθの最大角度となるように、単位光学系23は設計される。
【0060】
この条件は、前述のように、単位光学系23が物体側に実質的にテレセントリックとなる条件である。このような条件を満たすことにより、隣接する単位光学系23によって結像される像の結像位置のズレを、視認が難しい程度に抑えることが可能である。
【0061】
また、本実施形態では、透光孔22の第1のレンズ20側の口径が第2のレンズ21側の口径より小さいので、他の単位光学系23の第1のレンズ20からの迷光の、第2のレンズ21への入射を防止することが可能である。
【0062】
互いに密着する第1のレンズ20では、隣接する第1のレンズ20の側面などから迷光が入射することがあり得る。このような迷光の混入により、結像される画像のノイズの影響が大きくなる。しかし、本実施形態のように、透光孔22を用いて迷光の第2のレンズ21への入射を抑制することにより迷光が抑止され、画像のノイズの影響を低減化させることが可能である。
【0063】
さらに、本実施形態では、透光孔22の第1のレンズ20側の口径が(4)式を満たすように形成されるので、迷光の第2のレンズ21への入射光量をさらに低下させることが可能である。(4)式による迷光の入射抑制について、図8を用いて、以下に詳細に説明する。
【0064】
物体面os上の任意の一点から全方向に光線が進み、すべての第1のレンズ20の第1面に入射し得る。第1面に入射した光線が異なる第1のレンズ20の第2面から出射する場合に、光線は迷光となる。それゆえ、このような迷光を出来るだけ低減化出来るように、透光孔22を形成することが好ましい。
【0065】
任意の第1のレンズ20の光軸と交差する物体面os上の基準点spから出射し、隣接する第1のレンズ20の第1面に入射する第1の光線b1について検討する。第1の光線b1の第1のレンズ20への入射角をθ、第1のレンズ20に入射した第1の光線b1の入射した角度をθとする。
【0066】
スネルの法則により、以下の(6)式の関係が成り立つ。
n×sinθ=sinθ (6)
【0067】
幾何学的な関係から、以下の(7)、(8)式の関係が成り立つ。
【0068】
【数3】

【0069】
ただし、(8)式において、dは、第1の光線b1の第2面への到達位置と第1のレンズ20の光軸との距離である。(8)式を変形することにより、以下の(9)式が得られる。
【0070】
d=L×tanθ (9)
【0071】
また、tanθ=sinθ、tanθ=sinθとみなし、(6)、(7)式を用いて、(9)式を変形させると、以下の(10)式が得られる。
【0072】
【数4】

【0073】
したがって、第1の光線b1の第2面への到達位置と第1のレンズ20の光軸lxとの距離は、以下の(11)式によって得られる。
【0074】
【数5】

【0075】
第1の光線b1が、第1のレンズ20から(s−1)個およびs個(sは任意の整数)離れた第1のレンズ20s−1、20に対応する透光孔22s−1、22の間に到達すれば、第1の光線b1の透光孔22s−1、22への迷光の入射が防がれる。
【0076】
透光孔22s−1の遠方の縁までの、光軸lxからの距離はr+(s−1)×pである。また、透光孔22の近い側の縁までの、光軸lxからの距離はs×p−rである。
【0077】
したがって、第1の光線b1を、透光孔22s−1、22の間に到達させるための条件として(4)式が得られる。本実施形態では、(4)式を満たすように、透光孔22は形成されるので、前述のように迷光の入射量を低減化させることが可能である。
【0078】
また、本実施形態では、透光孔22の内面には光の反射を抑える処理や光を吸収する処理が施されるので、第1のレンズ20側の開口を通過し、透光孔22の内面に入射する迷光の第2のレンズ21への伝播を防ぐことが可能である。
【0079】
次に、視野半径yに対する単位光学系23の直径Dの比を重なり度mと定義し、重なり度mと像シフト量δとの関係を、数値を用いて以下に説明する。物体面上の任意の一点から放射される光の入射角度をθとすると、以下の(12)、(13)式が成り立つ。
【0080】
【数6】

【0081】
(12)、(13)式とmとを用いて、以下の(14)式が導かれる。
【0082】
【数7】

【0083】
(14)式から明らかなように、重なり度mが1/2から変化するほど、像シフト量δが増加する。図9に、m=0.65およびm=2.7である場合を例として、被写界深度Δzと像シフト量δとの関係を示す。なお、D=2.0、L=9とする。
【0084】
像シフト量δが大きくなるほど、正立等倍レンズアレイユニット13全体としての解像度が低下し、隣接する単位光学系23により結像される同一の物体面上の点の結像位置のズレが大きくなる。図9に示すように、同じ被写界深度Δzにおいて、像シフト量δは、m=2.7の場合に比べて、m=0.65の場合の方が小さい。したがって、mと1/2との差が大きくなるほど、結像位置のズレが大きくなることが分かる。
【0085】
例えば、許容される像シフト量が例として用いられる撮像素子14の画素ピッチの0.05mmである場合には、m=2.7で被写界深度Δzは0.1mmである。一方で、m=0.65では被写界深度Δzは0.65mmである。このように、許容される像シフト量に基づいて定められる被写界深度Δzは、重なり度mが1/2に近い程、深いことが分かる。
【実施例】
【0086】
次に、実施例により本発明の効果を説明するが、本実施例はあくまでも本発明の効果を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0087】
表1および表2に示すレンズデータを用いて、実施例1の単位光学系23を作成した。なお、表1における面番号に対応する面を、図2に示した。
【0088】
【表1】

【0089】
ただし、表1において、
※1は、非球面であること示しており、非球面式は以下の(15)式によって与えられる。
※2は、SCHOTT AG bk7である。
※3は、日本ゼオン株式会社 ZEONEX(登録商標)E48Rである。
※4は、絞りである。
【0090】
【数8】

【0091】
(15)式において、
Zは面頂点に対する接平面からの深さ、
rは曲率半径、
hは光軸からの高さ、
kは円錐定数、
Aは4次の非球面係数、
Bは6次の非球面係数、
Cは8次の非球面係数、
Dは10次の非球面係数である。
円錐定数kおよび非球面係数A、B、C、Cを表2に示した。
【0092】
【表2】

【0093】
表3および表4に示すレンズデータを用いて、実施例2の単位光学系23を作成した。なお、表3における面番号に対応する面は、表1と同じである。
【0094】
【表3】

【0095】
ただし、表3において、
※1は、非球面であること示しており、非球面式は上述の(15)式によって与えられる。円錐定数kおよび非球面係数A、B、C、Cを表4に示した。
※2は、SCHOTT AG bk7である。
※3は、日本ゼオン株式会社 ZEONEX(登録商標)E48Rである。
※4は、絞りである。
【0096】
【表4】

【0097】
表5および表6に示すレンズデータを用いて、実施例3の単位光学系23を作成した。なお、表5における面番号に対応する面は、表1と同じである。
【0098】
【表5】

【0099】
ただし、表5において、
※1は、非球面であること示しており、非球面式は上述の(15)式によって与えられる。円錐定数kおよび非球面係数A、B、C、Cを表6に示した。
※2は、SCHOTT AG bk7である。
※3は、日本ゼオン株式会社 ZEONEX(登録商標)E48Rである。
※4は、絞りである。
【0100】
【表6】

【0101】
表1、表3、および表5の第4面として示すように、第1のレンズ20の第2面は平面でも(実施例1参照)凹面でも(実施例2参照)、凸面でも(実施例3参照)正立等倍性を有するように形成可能であることが分かる。
【0102】
実施例1〜実施例3の単位光学系23の視野半径yおよび単位光学系23の直径Dを測定し、直径Dに対する視野半径yの比を算出した。算出結果を表7に示した。
【0103】
【表7】

【0104】
表7に示すように、0.5≦y/D≦1.0を満たす単位光学系23を形成できることが分かる。
【0105】
実施例1〜実施例3の単位光学系23の視野半径yおよび単位光学系23の直径Dに基づいて、被写界深度Δzを算出した。なお、許容できる像シフト量δは、0.05mmとした。算出結果を表8に示した。
【0106】
【表8】

【0107】
従来のセルフォックレンズやロッドレンズを用いた場合の被写界深度は±0.4である一方で、表8に示すように、実施例1において±2.6、実施例2において±1.74、および実施例3において±2.6と、従来に比べて被写界深度が拡大されていることが分かる。
【0108】
実施例1〜実施例3の単位光学系23に対して(4)式を満たす透光孔22を設計可能であるかを算出した。算出結果を表9に示した。
【0109】
【表9】

【0110】
表9に示すように、透光孔22の第1のレンズ20側の半径rは、実施例1において0.125、実施例2において0.23、実施例3において0.13である場合に、(4)式を満たす整数sを存在させ得る。このように、実施例1〜実施例3の単位光学系23に対して(4)式を満たすことにより、迷光の光量を低減化させる透光孔22を設計可能であることが分かる。
【0111】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0112】
例えば、上記実施形態において、(2)式(D/8L<tanθ)を満たすように、単位光学系23は形成される構成であるが、0<tanθを満たすように設計され、形成される構成であってもよい。
【0113】
tanθ<D/8Lであっても、被写界深度の深い単位光学系23を形成し得る。しかし、tanθ=0である場合には、光束の幅もゼロとなる必要がある。その場合には、像面に届く光量が略ゼロとなってしまう。それゆえ、tanθは少なくともゼロを超える値である必要がある。
【符号の説明】
【0114】
10 画像読取部
11 カバーガラス
12 照明系
13、13’ 正立等倍レンズアレイユニット
14 撮像素子
15 位置規定部材
16 孔部
17 第1のレンズアレイ
18 第2のレンズアレイ
19 連結部
20 第1のレンズ
21 第2のレンズ
22 透光孔
23、23’ 単位光学系
cg 重心位置
cl 中心線
fi 微小な光学像
ics 画像読取面
is 像面
os 物体面
r1、r2 第1の室部、第2の室部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1のレンズを有し、前記第1のレンズの光軸に垂直な第1の方向に沿って前記複数の第1のレンズが配置される第1のレンズアレイと、
前記第1のレンズそれぞれと光軸が重ねられた複数の第2のレンズを有し、前記第1の方向に沿って前記複数の第2のレンズが配置される第2のレンズアレイとを備え、
互いに光軸が重なる前記第1のレンズと前記第2のレンズとによって形成される各光学系は正立等倍光学系であり、
前記各光学系は少なくとも物体側に実質的にテレセントリックである
ことを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の正立等倍レンズアレイユニットであって、前記光学系のレンズ径に対する該光学系の視野半径の比が0.5以上、且つ1.0以下であることを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の正立等倍レンズアレイユニットであって、
前記光学系によって物体上の一点を結像させた光学像の重心位置を通る光線の前記第1のレンズへの入射角度をθ、前記光学系に対して定められる被写界深度をΔz、前記光学系に対して定められる量であって、該被写界深度だけ前記光学系から物体を変位させることによる、前記光学系の像面の任意の一点に像を結像させる前記物体上の一点の光軸から垂直な方向への変位量である像シフト量をδとするとき
0<tanθ<δ/Δz
を満たすことを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項4】
請求項3に記載の正立等倍レンズアレイユニットであって、
前記単位光学系のレンズ径をD、前記光学系によって結像される物体までの理想的な距離として定められる距離をLとすると、
D/(8×L)<tanθ
を満たすことを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の正立等倍レンズアレイユニットであって、前記複数の第1のレンズは互いに密着するように、前記第1の方向に沿って配置されることを特徴とする正立等倍レンズアレイユニット。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の正立等倍レンズアレイユニットを備える画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−45093(P2013−45093A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185281(P2011−185281)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】