歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル
【課題】フードパネルとエンジン等の剛部材とのクリアランスを小さくしても、HIC値を低減することができ、材料の選定に対する制限を緩和することが可能な、歩行者保護性に優れた自動車用フードパネルを提供する。
【解決手段】インナーパネルの、エンジンルーム内の剛部材の位置に相当する剛部材干渉部に凸部と凹部を設け、アウターパネルから遠い側に該凸部を、近い側に該凹部を対向させ、前記インナーパネルと前記アウターパネルが一体化された自動車用フードパネルであって、前記凸部の面積と前記凹部の面積との合計が、前記剛部材干渉部の面積の70%以上であることを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【解決手段】インナーパネルの、エンジンルーム内の剛部材の位置に相当する剛部材干渉部に凸部と凹部を設け、アウターパネルから遠い側に該凸部を、近い側に該凹部を対向させ、前記インナーパネルと前記アウターパネルが一体化された自動車用フードパネルであって、前記凸部の面積と前記凹部の面積との合計が、前記剛部材干渉部の面積の70%以上であることを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者と自動車の衝突時に、歩行者、特に、歩行者の頭部を保護する性能、即ち、歩行者保護性に優れた自動車用フードパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者と自動車の衝突時における歩行者の頭部の保護が重要視され、歩行者保護性に優れる自動車用フードパネルの構造の検討が進められている。歩行者保護の性能は、下記式(1)によって計算される頭部障害基準値(Head Injury Criteria、以下「HIC値」という。)によって評価される。
【0003】
例えば、現在の判定基準では、自動車が40km/hの速度で衝突した場合、試験領域の2/3以上の部分でのHIC値が1000以下であり、それ以外の試験領域でのHIC値が2000以下であることが求められている。
【0004】
【数1】
【0005】
従来の自動車用フードパネルは、図13に示すように、金属板をプレス成形したアウターパネル1とインナーパネル2を接合した構造体である。インナーパネル2は、凹凸を有し、凹部22の一部は軽量化のために打ち抜かれている。凸部21と綾部23は、骨材の役割を果たしている。
【0006】
この自動車用フードパネルに、歩行者の頭部が衝突した際には、まず、アウターパネルが変形し、その後、インナーパネルが変形して、衝突のエネルギーが吸収される。歩行者保護性を確保するためには、歩行者の頭部とエンジン等の剛部材との干渉、接触を防止する必要がある。
【0007】
しかし、図13に示す従来のフードパネルでは、インナーパネルの骨材が存在しない部分の凹部に、歩行者の頭部が衝突した場合、フードパネルと剛部材とが干渉、接触し易い。なお、剛部材とは、エンジンやサスペンションの取り付け部など、フードパネルに比較して剛性が高く、頭部と衝突した際に、大きな障害を与える可能性が高い部材の総称である。
【0008】
したがって、従来、歩行者保護性の観点から、歩行者の頭部がフードパネルに接触した際のフードパネルと剛部材との干渉、接触を防ぐことが重要視されていた。
【0009】
フードパネルと剛部材との距離、即ち、クリアランスを大きくすれば、衝突時の変形によるフードパネルと剛部材との干渉、接触を防ぐことはできるが、これでは、車体の設計が制限される。
【0010】
そのため、クリアランスを小さくしても歩行者保護性を確保できる技術として、図14に示すように、インナーパネル2の断面を波型形状とし、部材としての剛性を高めたフードパネルが提案された(例えば、特許文献1)。
【0011】
しかし、この技術でも、フードパネルとエンジン等の接触を防ぐには、ある程度のクリアランスを確保しておく必要がある。
【0012】
これに対して、図15に示すように、インナーパネル2の凹部22に、インナーパネルと剛部材とが接触した際に局部的に変形する形状不正部を設け、歩行者の頭部への反力を抑制したコーン型のインナーパネルが提案された(例えば、特許文献2)。
【0013】
しかし、突起の形状が複雑になると、材料によっては成形が困難になることがある。また、クリアランスが小さい場合には、衝突時にコーンが潰れて、フードパネルと剛部材とが干渉、接触する可能性が大きくなり、材料の選定に制限がある。
【0014】
【特許文献1】特開2003−205866号公報
【特許文献2】特開2003−54449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、フードパネルとエンジン等の剛部材とのクリアランスを小さくしても、HIC値を低減することができ、材料の選定に対する制限を緩和することが可能な、歩行者保護性に優れた自動車用フードパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0017】
(1) インナーパネルの、エンジンルーム内の剛部材の位置に相当する剛部材干渉部に凸部と凹部を設け、アウターパネルから遠い側に該凸部を、近い側に該凹部を対向させ、前記インナーパネルと前記アウターパネルを一体化した自動車用フードパネルであって、前記凸部の面積と前記凹部の面積との合計が、前記剛部材干渉部の面積の70%以上であることを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0018】
(2) 前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の面積の合計が、凹部の面積の合計以上であることを特徴とする上記(1)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0019】
(3) 前記インナーパネルの剛部材干渉部の凸部の面積が、剛部材干渉部の面積の10%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0020】
(4) 前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部と凹部との間の綾部と凹部との垂直断面での角度が、40〜90°であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0021】
(5) 前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の形状が、3以上の頂部と、該頂部を結ぶ辺部からなることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0022】
(6) 前記インナーパネルの素材が、鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れか1つであることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0023】
(7) 前記インナーパネルの素材が、樹脂又は繊維強化樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0024】
(8) 前記アルミニウム合金の板厚が、0.6〜1.5mmであることを特徴とする上記(6)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、自動車用フードパネルとエンジン等の剛部材とのクリアランスを小さくすることができ、自動車の設計上の制限を小さくすることができる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠に対する自由度を大きくすることができる。
【0026】
また、インナーパネルの材料として、若干、成形性の劣る材料でも使用することができるので、例えば、アルミニウム合金板を使用して、フードパネルの軽量化と歩行者保護性を両立させることが可能になる。
【0027】
本発明によれば、燃費性能及び運動性能、さらに、歩行者保護性に優れた自動車を提供することができ、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1に、本発明の自動車用フードパネル(以下「本発明フードパネル」)の一例の断面を模式的に示す。図1に示すパネルの下側がアウターパネル1であり、上側のインナーパネル2は、凹凸を有し、アウターパネル1から遠い側が凸部21、近い側が凹部22であり、凸部21と凹部22との間は綾部23である。
【0029】
アウターパネル1の端部は、曲げ加工され、インナーパネル2と接合されている。図1に示すように、インナーパネル2の凹部22の底面とアウターパネル1との距離は、凹部22の深さよりも短くすることが必要であり、接触してもよい。
【0030】
本発明フードパネルに歩行者の頭部が衝突する際、図2に示す位置(位置Aという。)、即ち、インナーパネルの凸部に相当する位置に衝突する場合と、図3に示す位置(位置Bという。)、即ち、インナーパネルの凹部に相当する位置に衝突する場合が想定される。
【0031】
図4に、本発明フードパネルの位置A、図5に、本発明の位置Bに、それぞれ、歩行者の頭部が衝突した際におけるフートパネルの変形の態様と、エンジン等の剛部材との接触、干渉の態様を模式的に示す。
【0032】
図4は、歩行者の頭部3が位置Aに相当する部位のアウターパネル1に衝突し、インナーパネル2の凸部21が剛部材4に接触した際の断面を、模式的に示すものである。アウターパネル1に歩行者の頭部3が衝突すると、アウターパネル1が変形し、次いで、インナーパネル2も変形する。そして、図4に示すように、エンジン等の剛部材4とインナーパネル2の凸部21が接触するが、この接触により、綾部23を通じて、凹部22とアウターパネル1との間に、強い反力が生じる。
【0033】
この反力は、凹部の広い範囲に分散し、アウターパネルの過度の変形を抑制する。これにより、歩行者の頭部とエンジン等の剛性の高い構造物との直接干渉を回避することができる。
【0034】
図5は、歩行者の頭部3が位置Bに相当する部位のアウターパネル1に衝突し、インナーパネル2の凸部21が剛部材4に接触した際の断面を、模式的に示すものである。歩行者の頭部3が位置Bに衝突した際のアウターパネル1の変形は、位置Aに衝突した場合と比較して小さく、エンジン等の剛部材4とインナーパネル2の凸部21、綾部23が、ほぼ同時に接触し、凹部22と綾部23に、強い反力が生じる。
【0035】
この反力は凹部を伝播し、位置Aに衝突した場合に比べて、広い範囲に分散する。そのため、平面上の広範囲で凹部及び綾部が変形し、衝撃を吸収するので、エネルギーの吸収が大きくなる。
【0036】
従来のフードパネルにおいては、剛性を確保して変形を抑制するか、又は、フードパネルの一部を塑性変形させるかしてエネルギーを吸収し、歩行者の頭部のエンジン等への衝突を防止していた。
【0037】
これに対し、本発明フードパネルにおいては、インナーパネルと剛部材との干渉によって発生する反力を積極的に利用し、歩行者保護性能の向上を図っている。また、本発明フードパネルの凸部は、従来のフードパネルとは異なり、剛部材との干渉によって生じた反力を凹部に伝達させる機能を有する。
【0038】
したがって、インナーパネルの剛部材干渉部に設けた凸部の全体を打ち抜いてはならない。なお、剛部材干渉部以外の部位では、重量の軽減や折れ曲がり易くさせるための孔を設けてもよい。また、凹部については、凹部が交差する箇所では、特に剛性が高くなるため、変形が容易になるように孔を設けてもよい。
【0039】
図6に、自動車用フードパネルの平面態様を模式的に示す。外側の曲線によってアウターパネル1の輪郭が示されている。破線と斜線により区画、特定された部分は、エンジン等の剛部材4であり、実線で示す長方形の部分は、剛部材干渉部5である。剛部材4の配置は設計によって変更されるので、変更に応じて、剛部材干渉部5の位置も変更すればよい。
【0040】
歩行者保護性を考慮した場合、最も重要な剛部材はエンジンである。そのため、図6に示す自動車用フードパネルの各部位のうち、剛部材干渉部5以外の部位では、エンジン以外の剛部材とフードパネルとのクリアランスを、十分に大きく取ることが可能である。
【0041】
しかし、剛部材干渉部5において、エンジンと自動車用フードパネルとのクリアランスを大きくすると、設計の自由度が損なわれることが多い。したがって、本発明では、インナーパネルの剛部材干渉部に凹凸を設け、インナーパネルと剛部材とが接触しても、歩行者の頭部への反力を軽減できる構造を採用した。
【0042】
剛部材干渉部5の大きさは、剛部材4の大きさと同じでもよいが、歩行者保護性を確実に向上させるには、図6に示すように、剛部材干渉部5を、剛部材4よりも大きくすることが好ましい。
【0043】
剛部材干渉部5の大きさを、剛部材4の平面での面積よりも10%以上大きくすれば、剛部材の端部に相当する部位でも、確実に、歩行者保護性を確保することができる。エンジン以外の剛部材の配置によっては、インナーパネルの全面を剛部材干渉部5とする。
【0044】
なお、図6に示す剛部材4及び剛部材干渉部5の平面形状は長方形であるが、剛部材干渉部5の平面形状は、剛部材4の平面形状や材料の成形性に応じて、適宜設計すればよく、多角形、円形、楕円形でもよい。
【0045】
また、剛部材干渉部5の形状は、金型の製作コストの観点から、長方形又は台形であることが好ましい。長さ方向及び幅方向の大きさを、それぞれ、インナーパネルの長さ方向及び幅方向の大きさの1/2以上とした剛部材干渉部を、インナーパネルの中央部に配置すれば、エンジンの配置が変化しても、剛部材4の位置に相当する部位を、剛部材干渉部5の範囲内の部位とすることができる。
【0046】
図7に、本発明フードパネルにおけるインナーパネルの一例の平面態様を示す。図7において、縦横の線でハッチングした部分は、インナーパネルの凸部21であり、斜線でハッチングした部分は、凹部22である。凸部21と凹部22との間の白抜き部分は、綾部23である。凹部22の外枠は、剛部材干渉部5である。
【0047】
本発明フードパネルの最大の特徴は、図7に示すインナーパネルにおいて、凸部21と凹部22の面積の合計を、剛部材干渉部5の面積の70%以上としたことである。インナーパネルが剛部材と接触した際において、凸部に、局部的に大きな変形が生じると、広い範囲の凹部に反力を生じさせることができなくなる。そのため、凸部の合計の面積は、十分に大きいことが必要である。
【0048】
また、凹部も、アウターパネルの広い範囲における変形を抑制するために、相応の面積を必要とする。そのため、剛部材干渉部における凸部の面積と凹部の面積の合計を、剛部材干渉部の面積の70%以上とすることが好ましい。
【0049】
また、剛部材干渉部において、凸部の面積の合計は、凹部の面積の合計以上であることが好ましい。これは、凹部の面積が大きすぎると、凹部で、アウターパネルとインナーパネルが近接又は接触し易くなり、図13に示す従来のフードパネルと同様に、頭部が剛部材と、直接、干渉、接触する可能性が高くなるからである。
【0050】
さらに、歩行者の頭部が、剛部材と、直接、干渉、接触する可能性を小さくするために、剛部材干渉部において、各凸部の面積のうちの最小値を、剛部材干渉部の面積の10%以上とすることが好ましい。
【0051】
また、剛部材干渉部において、1つの凸部を大きくし、凸部の面積が、剛部材干渉部の面積の50%を超えると、衝突時の凹部の反力が十分でなくなることがある。
【0052】
なお、剛部材干渉部以外の部位では、軽量化のために凸部を部分的に打ち抜き、軽減孔を設けてもよい。また、剛部材干渉部の凸部に軽減孔を設ける場合は、凸部の面積を計算する際に、軽減孔の面積を除外する。この場合でも、剛部材干渉部において、凸部の面積と凹部の面積との合計を、剛部材干渉部の面積の70%以上とすることが必要である。
【0053】
即ち、凸部の面積の合計を凹部の面積の合計の70%以上とすることが好ましく、また、各凸部の面積のうちの最小値を、剛部材干渉部の面積の10%以上とすることが好ましい。
【0054】
剛部材干渉部、凸部、凹部の面積は、設計平面図から求めることができる。また、実部品の場合には、フードパネルの直上から写真撮影して画像解析すればよい。形状測定装置によってインナーパネルの凹凸の形状を測定し、平面図を作成してもよい。
【0055】
図8〜図10に、インナーパネルの剛部材干渉部に設けた凸部の形状例を模式的に示す。図8〜図10に示す外枠は、剛部材干渉部5であり、太線で示される凹部22の内側が凸部21である。図8〜図10においては、綾部が、凹部及び凸部と直角になるように成形した剛部材干渉部の平面態様が示されていて、綾部は示されていない。
【0056】
図8〜図10に示すように、凸部の平面形状は、図8では四角形、図9では三角形、図10では、剛部材干渉部の端部に近い部分における凸部の形状を三角形及び四角形とし、中央部の凸部の形状を六角形としている。
【0057】
なお、図8〜図10では、剛部材干渉部の端部を除く主要部分の凸部の形状を同一としているが、大きさ、形状とも、同じである必要はなく、フードパネルの形状に応じて、台形と大きさの異なる三角形の組合せなどを適宜選択すればよい。
【0058】
また、四角形については、長方形だけでなく、正方形、平行四辺形、菱形、台形など、どのような四角形でもよく、三角形についても、正三角形だけでなく、二等辺三角形、直角三角形など、どのような三角形であってもよい。
【0059】
また、凸部の頂部は、応力集中を避けるために、円弧状とすることが可能であり、曲率半径を、100mm以上とすることが好ましい。また、凸部の頂部と頂部を結ぶ辺部は、直線状であることが好ましいが、弧状であってもよい。剛部材とインナーパネルとが接触した際に、より大きな反力を得るためには、凸部を、局部的に、剛部材と同一又は相似の形状とすることが好ましい。
【0060】
なお、曲率が大きすぎると、凸部が、円形、楕円形になるが、凸部の面積と凹部の面積の合計が、剛部材干渉部5の面積の70%以上であれば問題ない。
【0061】
図11a及び図11bに、本発明のインナーパネルの断面を拡大して示す。綾部23の断面形状は、図11aに示したように直線状でもよく、図11bに示したように段付きでもよい。図11a及び図11bにおいて、凹部22と凸部21の間の綾部23と、凹部22の底面とがなす角度θは、40〜90°であることが好ましい。これは、歩行者の頭部が凹部22の直上に衝突した際に、凸部21と剛部材との接触が不十分となり、凹部21に十分な反力が生じない可能性があるためである。
【0062】
このような場合、歩行者の頭部と剛部材との強い干渉を避けるためには、綾部23が潰れる際の塑性変形によって、衝突の運動エネルギーを十分に吸収することが好ましい。したがって、凹部22と綾部23の角度は、90°であることが好ましい。
【0063】
しかし、凹部22と綾部23の角度が90°に近くなるほど、材料の成形性を高くすることが必要になる。一方、凹部22と綾部23の角度が小さくなると、成形性は向上するものの、綾部23が潰れる際の塑性変形による運動エネルギーの吸収量が小さくなるため、上記角度は、40°以上とすることが好ましい。
【0064】
成形性と塑性変形による運動エネルギーの吸収を両立させるためには、凹部22と綾部23の角度を55〜80°の範囲とすることが、さらに好ましい。
【0065】
また、フードパネルと剛部材とのクリアランスが小さい場合には、凹部22の高さHが重要になる。例えば、クリアランスが65mm以下の場合、凹部22の高さHは20mm超であることが好ましい。凹部22の高さHの上限には、特に制限はないが、インナーパネルをプレス成形する場合は、50mm超にすることは難しい。
【0066】
さらに、フードパネルと剛部材とのクリアランスが小さい場合、凹部22の幅Wにも、制限を設けることが好ましい。これは、凹部22の幅Wが10mm未満又は100mm超では、歩行者頭部が位置Bに衝突した際に、衝撃の吸収が不十分になる可能性があるためである。
【0067】
インナーパネルの素材は、鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れでもよい。軽量化の観点から、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れかが好ましい。
【0068】
軽量化、成形性、製造コストを考慮すると、アルミニウム合金が最適である。また、アウターパネルも同様であり、インナーパネルと同じ素材を使用することが好ましい。
【0069】
アルミニウム合金の場合は、Al−Mn系の3000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金を使用することが好ましい。成形性が要求される場合には、Mgを3〜6%、好ましくは4〜5%含有する5000系合金が好ましい。
【0070】
6000系合金は、塗装焼付硬化性(BH性という。)を発現するため、強度が要求される場合には、例えば、Mgを0.2〜1.2%、Siを0.5〜1.5%含有する6000系合金が好ましい。6000系合金は、Cuを0.1〜1.5%含有してもよい。
【0071】
6000系合金のBH性を発現させるには、製造工程における最終の溶体化処理を480〜560℃で行った後、冷却して、70〜150℃で巻取り、その温度範囲で5時間程度保持する予備時効処理を行うことが好ましい。
【0072】
一方、6000系合金の成形性を向上させるには、BH性とは相反するが、溶体化処理後、10℃/s以上の冷却速度で、室温から70℃以下までの温度範囲内に冷却し、その温度範囲で1〜100時間保持することが好ましい。
【0073】
なお、フードパネルの軽量化が最重要の課題である場合には、インナーパネルの素材を樹脂としてもよく、強度の観点から、繊維強化樹脂であることが好ましい。また、アウターパネルも同様であり、インナーパネルと同じ素材を使用することが好ましい。
【0074】
本発明フードパネルの素材がアルミニウム合金の場合、インナーパネルの板厚は0.6〜1.5mmの範囲が好ましい。図2に示す位置Aに歩行者の頭部が衝突する場合は、アウターパネルの変形を抑制するため、インナーパネルの板厚を0.6mm以上に厚くして、凹部22及び綾部23の剛性を増加させることが好ましい。
【0075】
一方、図3に示す位置Bに歩行者の頭部が衝突した場合は、インナーパネルの変形によって衝撃を吸収するため、インナーパネルの板厚が厚くなると、剛性が増すため衝撃吸収性は高まる。しかし、板厚が1.5mmを超えると、変形が小さくなり過ぎてHIC値が大きくなる可能性があるため、インナーパネルの板厚を1.5mmとすることが好ましい。さらに、インナーパネルの重量を効果的に軽減するためには、インナーパネルの板厚を、1.2mm以下とすることが好ましい。
【0076】
インナーパネルの素材がアルミニウム合金である場合は、アウターパネルの素材もアルミニウム合金とすることが好ましい。アウターパネルの板厚は、薄すぎると変形が大き過ぎ、厚すぎると剛性が大きくなり過ぎることがある。そのため、アウターパネルの板厚は、通常、0.8〜1.5mmである。
【実施例1】
【0077】
全長が900〜1200mm、全幅が1200〜1600mmであり、剛部材干渉部の長さが全長の50〜100%、幅が全幅の60〜100%であり、剛部材干渉部の位置を、長さ方向で前方及び後方からの距離が全長の25%以下、幅方向の端部からの距離が全幅の20%以下となるようにし、表1に示す条件で、インナーパネルに凹凸を設けたフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。
【0078】
インナーパネルの一態様を図12に示す。図12は、アウターパネル側の面の斜視図であり、窪みが、アウタパネルから遠い側に対向する凸部である。
【0079】
即ち、直径165mm、重量4.5kgのインパクターを65°の角度で32km/hの速度で衝突させた際の解析を、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、式(1)からHIC値を求めた。各フードパネルのアウターパネルとインナーパネルの凸部の外面間の距離は32mmで一定とし、材料は、自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。
【0080】
ただし、骨構造については軽減孔が大きく、インナー0.8mmでは重量が小さく不利となるので、重量を等価にする意味で、インナー板厚は1.0mmとした。なお、アウターパネルから剛部材までの距離(クリアランス)は、70から85まで変化させた。
【0081】
解析に用いた6000系アルミニウム合金の特性値は、Mgを0.2〜1.2%、Siを0.5〜1.5%含有し、残部Alからなるもの、さらにCuを0.1〜1.5%含有するものを予め製造し、引張試験を行って求めた。
【0082】
また、それぞれのフードパネルでの位置による差異を考慮し、それぞれ、図2及び図3の2箇所に衝突させた場合を想定し、解析を行った。図2は、インパクター3を凸部21に衝突させるもので、この衝突位置を位置Aとする。図3は、インパクター3を凹部22に衝突させるもので、この衝突位置を位置Bとする。
【0083】
位置A及び位置BにおけるHIC値を解析した結果を、表1に示す。表1において、面積計欄の数字は、凸部の面積と凹部の面積の合計を、凸部欄の数字は、凸部の面積を、凹部欄の数字は、凹部の面積を、それぞれ、剛部材干渉部の面積で除し、百分率で示したものである。
【0084】
【表1】
【0085】
表1において、No.1〜4が本発明のフードパネルであり、比較例のNo.6〜8のフードパネルに比べ、全般に、HIC値が小さい。
【0086】
表1に示すように、No.3及び4は、凸部の面積と凹部の面積の合計の割合が、No.1及び2よりも大きく、HIC値が小さい。また、凸部の面積と凹部の面積の合計の割合が同等である場合、凸部の面積が大きい方が、即ち、No.2よりもNo.1の方が、No.4よりもNo.3の方が、HIC値が小さい。
【0087】
また、No.5は、凸部の面積が凹部の面積よりも小さい参考例であり、本発明に比べて、HIC値が若干大きくなっている。
【0088】
特に、HIC値の差は、剛部材とのクリアランスが小さくなるほど顕著になる。このように、本発明によれば、クリアランスが小さい場合でも、HIC値を小さくすることができる。また、衝突位置によるHIC値のばらつきについても、波型と同程度に小さい。
【実施例2】
【0089】
全長、全幅、剛部材干渉部の大きさを、実施例1と同様とし、表2に示す条件で、インナーパネルに凹凸を設けたフードパネルを想定し、実施例1と同様にして、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。
【0090】
何れも、本発明のフードパネルであるNo.9〜13について、位置Bに相当する部位、即ち、凹部の直上に衝突させる場合を想定して、数値解析を実施した。この解析結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
いずれも、HIC値は基準内となっているが、45°、50°、55°、60°、65°と綾部の角度を大きくするに従い、HIC値は低減され、55°以上で効果が大きい。したがって、HIC値低減のために、綾部の角度は、55°以上であることが好ましく、さらに、60°以上であることが好ましい。
【実施例3】
【0093】
全長、全幅、剛部材干渉部の大きさを、実施例1と同様とし、表3に示す条件で、インナーパネルに凹凸を設けたフードパネルを想定し、フードパネルと剛部材とのクリアランスを、表3に示した条件とし、実施例1と同様にして、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。
【0094】
何れも、本発明のフードパネルであるNo.14、及び、15について、位置Bに相当する部位、即ち、凹部の直上に衝突させる場合を想定して、数値解析を実施した。この解析結果を、表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
クリアランスが85mmでは、何れも、HIC値は基準内となっている。しかし、クリアランスが65mmになると、凹部の高さが20mmの場合、頭部が剛部材に接触した。そのため、表3には「−」を示した。したがって、フードパネルと剛部材とのクリアランスが小さい場合、例えば65mm以下の場合には、凹部の高さを20mm超とすることが好ましいことがわかる。
【実施例4】
【0097】
全長、全幅、剛部材干渉部の大きさを、実施例1と同様とし、表4に示す板厚及び材料のアルミニウム合金を用いたフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。なお、表3に示したインナーパネル及びアウターパネルの素材の0.2%耐力、引張強度及びBH特性を表4に示す。
【0098】
表5に示すアルミニウム合金の引張性質は、JIS Z 2201に準拠して作製した引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定したものである。また、BH後の耐力は、JIS G 3135の附属書に記載された塗装焼付硬化試験方法と同様、予歪みを2%、時効温度を170℃、時効時間を20分として測定したBH量である。
【0099】
なお、6000系合金の成分組成は、0.6%Mg、1.0%Si、残部Al及び不可避的不純物であり、3000系合金の成分組成は、1.2%Mn、1.0%Mg、残部Al及び不可避的不純物であり、5000系合金の成分組成は、4.5%Mg、残部Al及び不可避的不純物である。
【0100】
6000系合金は、BH性を発現させる製造工程と成形性を向上させる製造工程の両者の方法によって製造した。即ち、BH性を発現させる製造工程は、溶体化処理を480〜560℃で行なった後、冷却して70〜150℃以下で巻き取り、5時間程度の予備時効処理を行なう方法である。
【0101】
また、成形性を向上させる製造工程は、溶体化処理を480〜560℃で行なった後に、室温以上70℃以下の温度まで冷却し、保持して1〜100時間の熱処理をする方法である。なお、3000系合金及び5000系合金は常法で製造した。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
表4及び表5における、6000系合金の「BH型」及び「高成形型」は、それぞれ、BH性を発現させる製造工程及び成形性を向上させる製造工程によって製造されたことを意味する。表4に示したように、No.16、17、及び、18の結果を比較すると、インナーパネルの板厚が大きくなると、位置Aでは、HIC値が小さくなり、位置Bでは、HIC値が大きくなることがわかる。
【0105】
即ち、インナーパネルの板厚が増加すると、位置Aでは、インナーパネルによる支持が強まり、アウターパネルの過度の変形が抑制されて、HIC値が減少する。一方、位置Bでは、インナーパネルの変形が抑制されて、HIC値が増加する。また、アウターパネルの板厚の影響は、インナーパネルの板厚の影響と比較すると、小さいことがわかる。
【0106】
パネル材料による影響を比較すると、位置Aにおいては、3000系合金のHIC値が最も高く、次いで5000系、成形性を向上させた6000系、BH性を発現させた6000系の順となる。位置Bにおいては、BH性を発現させた6000系合金のHIC値が最も高く、成形性を向上させた6000系、5000系、3000系の順となる。
【0107】
一般に、塗装焼付け後の6000系アルミニウム合金の強度が最も高く、5000系、3000系合金の順となる。したがって、インナーパネルの板厚の影響と同じく、強度が高まることで、位置Aでは、インナーパネルの支持が強まり、アウターパネルの過度の変形が抑制されて、HIC値が減少する。一方、位置Bでは、インナーパネルの変形が抑制されて、HIC値が増加する。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、前述したように、燃費性能及び運動性能、さらに、歩行者保護性に優れた自動車を提供することができるので本発明は、自動車産業において、利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明のフードパネルの一例を模式的に示す図である。
【図2】位置Aを示す図である。
【図3】位置Bを示す図である。
【図4】本発明のフードパネルの位置Aへの頭部の衝突を模式的に示す図である。
【図5】本発明のフードパネルの位置Bへの頭部の衝突を模式的に示す図である。
【図6】本発明のフードパネルの剛部材干渉部を模式的に示す図である。
【図7】本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図8】凸部が四角形である本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図9】凸部が三角形である本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図10】凸部が多角形の組合せである本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図11a】本発明のインナーパネルの一例の断面の一部を模式的に示す図である。
【図11b】本発明のインナーパネルの別の一例の断面の一部を模式的に示す図である。
【図12】数値解析に用いた本発明のフードパネルの一例を示す図である。
【図13】従来のフードパネルの断面を模式的に示す図である。
【図14】従来の波型フードパネルの断面を模式的に示す図である。
【図15】従来のコーン型フードパネルの断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 頭部(インパクター)
4 剛部材
5 剛部材干渉部
21 凸部
22 凹部
23 綾部
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者と自動車の衝突時に、歩行者、特に、歩行者の頭部を保護する性能、即ち、歩行者保護性に優れた自動車用フードパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者と自動車の衝突時における歩行者の頭部の保護が重要視され、歩行者保護性に優れる自動車用フードパネルの構造の検討が進められている。歩行者保護の性能は、下記式(1)によって計算される頭部障害基準値(Head Injury Criteria、以下「HIC値」という。)によって評価される。
【0003】
例えば、現在の判定基準では、自動車が40km/hの速度で衝突した場合、試験領域の2/3以上の部分でのHIC値が1000以下であり、それ以外の試験領域でのHIC値が2000以下であることが求められている。
【0004】
【数1】
【0005】
従来の自動車用フードパネルは、図13に示すように、金属板をプレス成形したアウターパネル1とインナーパネル2を接合した構造体である。インナーパネル2は、凹凸を有し、凹部22の一部は軽量化のために打ち抜かれている。凸部21と綾部23は、骨材の役割を果たしている。
【0006】
この自動車用フードパネルに、歩行者の頭部が衝突した際には、まず、アウターパネルが変形し、その後、インナーパネルが変形して、衝突のエネルギーが吸収される。歩行者保護性を確保するためには、歩行者の頭部とエンジン等の剛部材との干渉、接触を防止する必要がある。
【0007】
しかし、図13に示す従来のフードパネルでは、インナーパネルの骨材が存在しない部分の凹部に、歩行者の頭部が衝突した場合、フードパネルと剛部材とが干渉、接触し易い。なお、剛部材とは、エンジンやサスペンションの取り付け部など、フードパネルに比較して剛性が高く、頭部と衝突した際に、大きな障害を与える可能性が高い部材の総称である。
【0008】
したがって、従来、歩行者保護性の観点から、歩行者の頭部がフードパネルに接触した際のフードパネルと剛部材との干渉、接触を防ぐことが重要視されていた。
【0009】
フードパネルと剛部材との距離、即ち、クリアランスを大きくすれば、衝突時の変形によるフードパネルと剛部材との干渉、接触を防ぐことはできるが、これでは、車体の設計が制限される。
【0010】
そのため、クリアランスを小さくしても歩行者保護性を確保できる技術として、図14に示すように、インナーパネル2の断面を波型形状とし、部材としての剛性を高めたフードパネルが提案された(例えば、特許文献1)。
【0011】
しかし、この技術でも、フードパネルとエンジン等の接触を防ぐには、ある程度のクリアランスを確保しておく必要がある。
【0012】
これに対して、図15に示すように、インナーパネル2の凹部22に、インナーパネルと剛部材とが接触した際に局部的に変形する形状不正部を設け、歩行者の頭部への反力を抑制したコーン型のインナーパネルが提案された(例えば、特許文献2)。
【0013】
しかし、突起の形状が複雑になると、材料によっては成形が困難になることがある。また、クリアランスが小さい場合には、衝突時にコーンが潰れて、フードパネルと剛部材とが干渉、接触する可能性が大きくなり、材料の選定に制限がある。
【0014】
【特許文献1】特開2003−205866号公報
【特許文献2】特開2003−54449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、フードパネルとエンジン等の剛部材とのクリアランスを小さくしても、HIC値を低減することができ、材料の選定に対する制限を緩和することが可能な、歩行者保護性に優れた自動車用フードパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0017】
(1) インナーパネルの、エンジンルーム内の剛部材の位置に相当する剛部材干渉部に凸部と凹部を設け、アウターパネルから遠い側に該凸部を、近い側に該凹部を対向させ、前記インナーパネルと前記アウターパネルを一体化した自動車用フードパネルであって、前記凸部の面積と前記凹部の面積との合計が、前記剛部材干渉部の面積の70%以上であることを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0018】
(2) 前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の面積の合計が、凹部の面積の合計以上であることを特徴とする上記(1)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0019】
(3) 前記インナーパネルの剛部材干渉部の凸部の面積が、剛部材干渉部の面積の10%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0020】
(4) 前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部と凹部との間の綾部と凹部との垂直断面での角度が、40〜90°であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0021】
(5) 前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の形状が、3以上の頂部と、該頂部を結ぶ辺部からなることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0022】
(6) 前記インナーパネルの素材が、鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れか1つであることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0023】
(7) 前記インナーパネルの素材が、樹脂又は繊維強化樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0024】
(8) 前記アルミニウム合金の板厚が、0.6〜1.5mmであることを特徴とする上記(6)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、自動車用フードパネルとエンジン等の剛部材とのクリアランスを小さくすることができ、自動車の設計上の制限を小さくすることができる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠に対する自由度を大きくすることができる。
【0026】
また、インナーパネルの材料として、若干、成形性の劣る材料でも使用することができるので、例えば、アルミニウム合金板を使用して、フードパネルの軽量化と歩行者保護性を両立させることが可能になる。
【0027】
本発明によれば、燃費性能及び運動性能、さらに、歩行者保護性に優れた自動車を提供することができ、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1に、本発明の自動車用フードパネル(以下「本発明フードパネル」)の一例の断面を模式的に示す。図1に示すパネルの下側がアウターパネル1であり、上側のインナーパネル2は、凹凸を有し、アウターパネル1から遠い側が凸部21、近い側が凹部22であり、凸部21と凹部22との間は綾部23である。
【0029】
アウターパネル1の端部は、曲げ加工され、インナーパネル2と接合されている。図1に示すように、インナーパネル2の凹部22の底面とアウターパネル1との距離は、凹部22の深さよりも短くすることが必要であり、接触してもよい。
【0030】
本発明フードパネルに歩行者の頭部が衝突する際、図2に示す位置(位置Aという。)、即ち、インナーパネルの凸部に相当する位置に衝突する場合と、図3に示す位置(位置Bという。)、即ち、インナーパネルの凹部に相当する位置に衝突する場合が想定される。
【0031】
図4に、本発明フードパネルの位置A、図5に、本発明の位置Bに、それぞれ、歩行者の頭部が衝突した際におけるフートパネルの変形の態様と、エンジン等の剛部材との接触、干渉の態様を模式的に示す。
【0032】
図4は、歩行者の頭部3が位置Aに相当する部位のアウターパネル1に衝突し、インナーパネル2の凸部21が剛部材4に接触した際の断面を、模式的に示すものである。アウターパネル1に歩行者の頭部3が衝突すると、アウターパネル1が変形し、次いで、インナーパネル2も変形する。そして、図4に示すように、エンジン等の剛部材4とインナーパネル2の凸部21が接触するが、この接触により、綾部23を通じて、凹部22とアウターパネル1との間に、強い反力が生じる。
【0033】
この反力は、凹部の広い範囲に分散し、アウターパネルの過度の変形を抑制する。これにより、歩行者の頭部とエンジン等の剛性の高い構造物との直接干渉を回避することができる。
【0034】
図5は、歩行者の頭部3が位置Bに相当する部位のアウターパネル1に衝突し、インナーパネル2の凸部21が剛部材4に接触した際の断面を、模式的に示すものである。歩行者の頭部3が位置Bに衝突した際のアウターパネル1の変形は、位置Aに衝突した場合と比較して小さく、エンジン等の剛部材4とインナーパネル2の凸部21、綾部23が、ほぼ同時に接触し、凹部22と綾部23に、強い反力が生じる。
【0035】
この反力は凹部を伝播し、位置Aに衝突した場合に比べて、広い範囲に分散する。そのため、平面上の広範囲で凹部及び綾部が変形し、衝撃を吸収するので、エネルギーの吸収が大きくなる。
【0036】
従来のフードパネルにおいては、剛性を確保して変形を抑制するか、又は、フードパネルの一部を塑性変形させるかしてエネルギーを吸収し、歩行者の頭部のエンジン等への衝突を防止していた。
【0037】
これに対し、本発明フードパネルにおいては、インナーパネルと剛部材との干渉によって発生する反力を積極的に利用し、歩行者保護性能の向上を図っている。また、本発明フードパネルの凸部は、従来のフードパネルとは異なり、剛部材との干渉によって生じた反力を凹部に伝達させる機能を有する。
【0038】
したがって、インナーパネルの剛部材干渉部に設けた凸部の全体を打ち抜いてはならない。なお、剛部材干渉部以外の部位では、重量の軽減や折れ曲がり易くさせるための孔を設けてもよい。また、凹部については、凹部が交差する箇所では、特に剛性が高くなるため、変形が容易になるように孔を設けてもよい。
【0039】
図6に、自動車用フードパネルの平面態様を模式的に示す。外側の曲線によってアウターパネル1の輪郭が示されている。破線と斜線により区画、特定された部分は、エンジン等の剛部材4であり、実線で示す長方形の部分は、剛部材干渉部5である。剛部材4の配置は設計によって変更されるので、変更に応じて、剛部材干渉部5の位置も変更すればよい。
【0040】
歩行者保護性を考慮した場合、最も重要な剛部材はエンジンである。そのため、図6に示す自動車用フードパネルの各部位のうち、剛部材干渉部5以外の部位では、エンジン以外の剛部材とフードパネルとのクリアランスを、十分に大きく取ることが可能である。
【0041】
しかし、剛部材干渉部5において、エンジンと自動車用フードパネルとのクリアランスを大きくすると、設計の自由度が損なわれることが多い。したがって、本発明では、インナーパネルの剛部材干渉部に凹凸を設け、インナーパネルと剛部材とが接触しても、歩行者の頭部への反力を軽減できる構造を採用した。
【0042】
剛部材干渉部5の大きさは、剛部材4の大きさと同じでもよいが、歩行者保護性を確実に向上させるには、図6に示すように、剛部材干渉部5を、剛部材4よりも大きくすることが好ましい。
【0043】
剛部材干渉部5の大きさを、剛部材4の平面での面積よりも10%以上大きくすれば、剛部材の端部に相当する部位でも、確実に、歩行者保護性を確保することができる。エンジン以外の剛部材の配置によっては、インナーパネルの全面を剛部材干渉部5とする。
【0044】
なお、図6に示す剛部材4及び剛部材干渉部5の平面形状は長方形であるが、剛部材干渉部5の平面形状は、剛部材4の平面形状や材料の成形性に応じて、適宜設計すればよく、多角形、円形、楕円形でもよい。
【0045】
また、剛部材干渉部5の形状は、金型の製作コストの観点から、長方形又は台形であることが好ましい。長さ方向及び幅方向の大きさを、それぞれ、インナーパネルの長さ方向及び幅方向の大きさの1/2以上とした剛部材干渉部を、インナーパネルの中央部に配置すれば、エンジンの配置が変化しても、剛部材4の位置に相当する部位を、剛部材干渉部5の範囲内の部位とすることができる。
【0046】
図7に、本発明フードパネルにおけるインナーパネルの一例の平面態様を示す。図7において、縦横の線でハッチングした部分は、インナーパネルの凸部21であり、斜線でハッチングした部分は、凹部22である。凸部21と凹部22との間の白抜き部分は、綾部23である。凹部22の外枠は、剛部材干渉部5である。
【0047】
本発明フードパネルの最大の特徴は、図7に示すインナーパネルにおいて、凸部21と凹部22の面積の合計を、剛部材干渉部5の面積の70%以上としたことである。インナーパネルが剛部材と接触した際において、凸部に、局部的に大きな変形が生じると、広い範囲の凹部に反力を生じさせることができなくなる。そのため、凸部の合計の面積は、十分に大きいことが必要である。
【0048】
また、凹部も、アウターパネルの広い範囲における変形を抑制するために、相応の面積を必要とする。そのため、剛部材干渉部における凸部の面積と凹部の面積の合計を、剛部材干渉部の面積の70%以上とすることが好ましい。
【0049】
また、剛部材干渉部において、凸部の面積の合計は、凹部の面積の合計以上であることが好ましい。これは、凹部の面積が大きすぎると、凹部で、アウターパネルとインナーパネルが近接又は接触し易くなり、図13に示す従来のフードパネルと同様に、頭部が剛部材と、直接、干渉、接触する可能性が高くなるからである。
【0050】
さらに、歩行者の頭部が、剛部材と、直接、干渉、接触する可能性を小さくするために、剛部材干渉部において、各凸部の面積のうちの最小値を、剛部材干渉部の面積の10%以上とすることが好ましい。
【0051】
また、剛部材干渉部において、1つの凸部を大きくし、凸部の面積が、剛部材干渉部の面積の50%を超えると、衝突時の凹部の反力が十分でなくなることがある。
【0052】
なお、剛部材干渉部以外の部位では、軽量化のために凸部を部分的に打ち抜き、軽減孔を設けてもよい。また、剛部材干渉部の凸部に軽減孔を設ける場合は、凸部の面積を計算する際に、軽減孔の面積を除外する。この場合でも、剛部材干渉部において、凸部の面積と凹部の面積との合計を、剛部材干渉部の面積の70%以上とすることが必要である。
【0053】
即ち、凸部の面積の合計を凹部の面積の合計の70%以上とすることが好ましく、また、各凸部の面積のうちの最小値を、剛部材干渉部の面積の10%以上とすることが好ましい。
【0054】
剛部材干渉部、凸部、凹部の面積は、設計平面図から求めることができる。また、実部品の場合には、フードパネルの直上から写真撮影して画像解析すればよい。形状測定装置によってインナーパネルの凹凸の形状を測定し、平面図を作成してもよい。
【0055】
図8〜図10に、インナーパネルの剛部材干渉部に設けた凸部の形状例を模式的に示す。図8〜図10に示す外枠は、剛部材干渉部5であり、太線で示される凹部22の内側が凸部21である。図8〜図10においては、綾部が、凹部及び凸部と直角になるように成形した剛部材干渉部の平面態様が示されていて、綾部は示されていない。
【0056】
図8〜図10に示すように、凸部の平面形状は、図8では四角形、図9では三角形、図10では、剛部材干渉部の端部に近い部分における凸部の形状を三角形及び四角形とし、中央部の凸部の形状を六角形としている。
【0057】
なお、図8〜図10では、剛部材干渉部の端部を除く主要部分の凸部の形状を同一としているが、大きさ、形状とも、同じである必要はなく、フードパネルの形状に応じて、台形と大きさの異なる三角形の組合せなどを適宜選択すればよい。
【0058】
また、四角形については、長方形だけでなく、正方形、平行四辺形、菱形、台形など、どのような四角形でもよく、三角形についても、正三角形だけでなく、二等辺三角形、直角三角形など、どのような三角形であってもよい。
【0059】
また、凸部の頂部は、応力集中を避けるために、円弧状とすることが可能であり、曲率半径を、100mm以上とすることが好ましい。また、凸部の頂部と頂部を結ぶ辺部は、直線状であることが好ましいが、弧状であってもよい。剛部材とインナーパネルとが接触した際に、より大きな反力を得るためには、凸部を、局部的に、剛部材と同一又は相似の形状とすることが好ましい。
【0060】
なお、曲率が大きすぎると、凸部が、円形、楕円形になるが、凸部の面積と凹部の面積の合計が、剛部材干渉部5の面積の70%以上であれば問題ない。
【0061】
図11a及び図11bに、本発明のインナーパネルの断面を拡大して示す。綾部23の断面形状は、図11aに示したように直線状でもよく、図11bに示したように段付きでもよい。図11a及び図11bにおいて、凹部22と凸部21の間の綾部23と、凹部22の底面とがなす角度θは、40〜90°であることが好ましい。これは、歩行者の頭部が凹部22の直上に衝突した際に、凸部21と剛部材との接触が不十分となり、凹部21に十分な反力が生じない可能性があるためである。
【0062】
このような場合、歩行者の頭部と剛部材との強い干渉を避けるためには、綾部23が潰れる際の塑性変形によって、衝突の運動エネルギーを十分に吸収することが好ましい。したがって、凹部22と綾部23の角度は、90°であることが好ましい。
【0063】
しかし、凹部22と綾部23の角度が90°に近くなるほど、材料の成形性を高くすることが必要になる。一方、凹部22と綾部23の角度が小さくなると、成形性は向上するものの、綾部23が潰れる際の塑性変形による運動エネルギーの吸収量が小さくなるため、上記角度は、40°以上とすることが好ましい。
【0064】
成形性と塑性変形による運動エネルギーの吸収を両立させるためには、凹部22と綾部23の角度を55〜80°の範囲とすることが、さらに好ましい。
【0065】
また、フードパネルと剛部材とのクリアランスが小さい場合には、凹部22の高さHが重要になる。例えば、クリアランスが65mm以下の場合、凹部22の高さHは20mm超であることが好ましい。凹部22の高さHの上限には、特に制限はないが、インナーパネルをプレス成形する場合は、50mm超にすることは難しい。
【0066】
さらに、フードパネルと剛部材とのクリアランスが小さい場合、凹部22の幅Wにも、制限を設けることが好ましい。これは、凹部22の幅Wが10mm未満又は100mm超では、歩行者頭部が位置Bに衝突した際に、衝撃の吸収が不十分になる可能性があるためである。
【0067】
インナーパネルの素材は、鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れでもよい。軽量化の観点から、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れかが好ましい。
【0068】
軽量化、成形性、製造コストを考慮すると、アルミニウム合金が最適である。また、アウターパネルも同様であり、インナーパネルと同じ素材を使用することが好ましい。
【0069】
アルミニウム合金の場合は、Al−Mn系の3000系合金、Al−Mg系の5000系合金、Al−Mg−Si系の6000系合金を使用することが好ましい。成形性が要求される場合には、Mgを3〜6%、好ましくは4〜5%含有する5000系合金が好ましい。
【0070】
6000系合金は、塗装焼付硬化性(BH性という。)を発現するため、強度が要求される場合には、例えば、Mgを0.2〜1.2%、Siを0.5〜1.5%含有する6000系合金が好ましい。6000系合金は、Cuを0.1〜1.5%含有してもよい。
【0071】
6000系合金のBH性を発現させるには、製造工程における最終の溶体化処理を480〜560℃で行った後、冷却して、70〜150℃で巻取り、その温度範囲で5時間程度保持する予備時効処理を行うことが好ましい。
【0072】
一方、6000系合金の成形性を向上させるには、BH性とは相反するが、溶体化処理後、10℃/s以上の冷却速度で、室温から70℃以下までの温度範囲内に冷却し、その温度範囲で1〜100時間保持することが好ましい。
【0073】
なお、フードパネルの軽量化が最重要の課題である場合には、インナーパネルの素材を樹脂としてもよく、強度の観点から、繊維強化樹脂であることが好ましい。また、アウターパネルも同様であり、インナーパネルと同じ素材を使用することが好ましい。
【0074】
本発明フードパネルの素材がアルミニウム合金の場合、インナーパネルの板厚は0.6〜1.5mmの範囲が好ましい。図2に示す位置Aに歩行者の頭部が衝突する場合は、アウターパネルの変形を抑制するため、インナーパネルの板厚を0.6mm以上に厚くして、凹部22及び綾部23の剛性を増加させることが好ましい。
【0075】
一方、図3に示す位置Bに歩行者の頭部が衝突した場合は、インナーパネルの変形によって衝撃を吸収するため、インナーパネルの板厚が厚くなると、剛性が増すため衝撃吸収性は高まる。しかし、板厚が1.5mmを超えると、変形が小さくなり過ぎてHIC値が大きくなる可能性があるため、インナーパネルの板厚を1.5mmとすることが好ましい。さらに、インナーパネルの重量を効果的に軽減するためには、インナーパネルの板厚を、1.2mm以下とすることが好ましい。
【0076】
インナーパネルの素材がアルミニウム合金である場合は、アウターパネルの素材もアルミニウム合金とすることが好ましい。アウターパネルの板厚は、薄すぎると変形が大き過ぎ、厚すぎると剛性が大きくなり過ぎることがある。そのため、アウターパネルの板厚は、通常、0.8〜1.5mmである。
【実施例1】
【0077】
全長が900〜1200mm、全幅が1200〜1600mmであり、剛部材干渉部の長さが全長の50〜100%、幅が全幅の60〜100%であり、剛部材干渉部の位置を、長さ方向で前方及び後方からの距離が全長の25%以下、幅方向の端部からの距離が全幅の20%以下となるようにし、表1に示す条件で、インナーパネルに凹凸を設けたフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。
【0078】
インナーパネルの一態様を図12に示す。図12は、アウターパネル側の面の斜視図であり、窪みが、アウタパネルから遠い側に対向する凸部である。
【0079】
即ち、直径165mm、重量4.5kgのインパクターを65°の角度で32km/hの速度で衝突させた際の解析を、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、式(1)からHIC値を求めた。各フードパネルのアウターパネルとインナーパネルの凸部の外面間の距離は32mmで一定とし、材料は、自動車用のボディーパネル用6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの板厚は1.0mm、インナーパネルの板厚は0.8mmとした。
【0080】
ただし、骨構造については軽減孔が大きく、インナー0.8mmでは重量が小さく不利となるので、重量を等価にする意味で、インナー板厚は1.0mmとした。なお、アウターパネルから剛部材までの距離(クリアランス)は、70から85まで変化させた。
【0081】
解析に用いた6000系アルミニウム合金の特性値は、Mgを0.2〜1.2%、Siを0.5〜1.5%含有し、残部Alからなるもの、さらにCuを0.1〜1.5%含有するものを予め製造し、引張試験を行って求めた。
【0082】
また、それぞれのフードパネルでの位置による差異を考慮し、それぞれ、図2及び図3の2箇所に衝突させた場合を想定し、解析を行った。図2は、インパクター3を凸部21に衝突させるもので、この衝突位置を位置Aとする。図3は、インパクター3を凹部22に衝突させるもので、この衝突位置を位置Bとする。
【0083】
位置A及び位置BにおけるHIC値を解析した結果を、表1に示す。表1において、面積計欄の数字は、凸部の面積と凹部の面積の合計を、凸部欄の数字は、凸部の面積を、凹部欄の数字は、凹部の面積を、それぞれ、剛部材干渉部の面積で除し、百分率で示したものである。
【0084】
【表1】
【0085】
表1において、No.1〜4が本発明のフードパネルであり、比較例のNo.6〜8のフードパネルに比べ、全般に、HIC値が小さい。
【0086】
表1に示すように、No.3及び4は、凸部の面積と凹部の面積の合計の割合が、No.1及び2よりも大きく、HIC値が小さい。また、凸部の面積と凹部の面積の合計の割合が同等である場合、凸部の面積が大きい方が、即ち、No.2よりもNo.1の方が、No.4よりもNo.3の方が、HIC値が小さい。
【0087】
また、No.5は、凸部の面積が凹部の面積よりも小さい参考例であり、本発明に比べて、HIC値が若干大きくなっている。
【0088】
特に、HIC値の差は、剛部材とのクリアランスが小さくなるほど顕著になる。このように、本発明によれば、クリアランスが小さい場合でも、HIC値を小さくすることができる。また、衝突位置によるHIC値のばらつきについても、波型と同程度に小さい。
【実施例2】
【0089】
全長、全幅、剛部材干渉部の大きさを、実施例1と同様とし、表2に示す条件で、インナーパネルに凹凸を設けたフードパネルを想定し、実施例1と同様にして、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。
【0090】
何れも、本発明のフードパネルであるNo.9〜13について、位置Bに相当する部位、即ち、凹部の直上に衝突させる場合を想定して、数値解析を実施した。この解析結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
いずれも、HIC値は基準内となっているが、45°、50°、55°、60°、65°と綾部の角度を大きくするに従い、HIC値は低減され、55°以上で効果が大きい。したがって、HIC値低減のために、綾部の角度は、55°以上であることが好ましく、さらに、60°以上であることが好ましい。
【実施例3】
【0093】
全長、全幅、剛部材干渉部の大きさを、実施例1と同様とし、表3に示す条件で、インナーパネルに凹凸を設けたフードパネルを想定し、フードパネルと剛部材とのクリアランスを、表3に示した条件とし、実施例1と同様にして、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。
【0094】
何れも、本発明のフードパネルであるNo.14、及び、15について、位置Bに相当する部位、即ち、凹部の直上に衝突させる場合を想定して、数値解析を実施した。この解析結果を、表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
クリアランスが85mmでは、何れも、HIC値は基準内となっている。しかし、クリアランスが65mmになると、凹部の高さが20mmの場合、頭部が剛部材に接触した。そのため、表3には「−」を示した。したがって、フードパネルと剛部材とのクリアランスが小さい場合、例えば65mm以下の場合には、凹部の高さを20mm超とすることが好ましいことがわかる。
【実施例4】
【0097】
全長、全幅、剛部材干渉部の大きさを、実施例1と同様とし、表4に示す板厚及び材料のアルミニウム合金を用いたフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の大人用インパクター試験相当の数値解析を実施した。なお、表3に示したインナーパネル及びアウターパネルの素材の0.2%耐力、引張強度及びBH特性を表4に示す。
【0098】
表5に示すアルミニウム合金の引張性質は、JIS Z 2201に準拠して作製した引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定したものである。また、BH後の耐力は、JIS G 3135の附属書に記載された塗装焼付硬化試験方法と同様、予歪みを2%、時効温度を170℃、時効時間を20分として測定したBH量である。
【0099】
なお、6000系合金の成分組成は、0.6%Mg、1.0%Si、残部Al及び不可避的不純物であり、3000系合金の成分組成は、1.2%Mn、1.0%Mg、残部Al及び不可避的不純物であり、5000系合金の成分組成は、4.5%Mg、残部Al及び不可避的不純物である。
【0100】
6000系合金は、BH性を発現させる製造工程と成形性を向上させる製造工程の両者の方法によって製造した。即ち、BH性を発現させる製造工程は、溶体化処理を480〜560℃で行なった後、冷却して70〜150℃以下で巻き取り、5時間程度の予備時効処理を行なう方法である。
【0101】
また、成形性を向上させる製造工程は、溶体化処理を480〜560℃で行なった後に、室温以上70℃以下の温度まで冷却し、保持して1〜100時間の熱処理をする方法である。なお、3000系合金及び5000系合金は常法で製造した。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
表4及び表5における、6000系合金の「BH型」及び「高成形型」は、それぞれ、BH性を発現させる製造工程及び成形性を向上させる製造工程によって製造されたことを意味する。表4に示したように、No.16、17、及び、18の結果を比較すると、インナーパネルの板厚が大きくなると、位置Aでは、HIC値が小さくなり、位置Bでは、HIC値が大きくなることがわかる。
【0105】
即ち、インナーパネルの板厚が増加すると、位置Aでは、インナーパネルによる支持が強まり、アウターパネルの過度の変形が抑制されて、HIC値が減少する。一方、位置Bでは、インナーパネルの変形が抑制されて、HIC値が増加する。また、アウターパネルの板厚の影響は、インナーパネルの板厚の影響と比較すると、小さいことがわかる。
【0106】
パネル材料による影響を比較すると、位置Aにおいては、3000系合金のHIC値が最も高く、次いで5000系、成形性を向上させた6000系、BH性を発現させた6000系の順となる。位置Bにおいては、BH性を発現させた6000系合金のHIC値が最も高く、成形性を向上させた6000系、5000系、3000系の順となる。
【0107】
一般に、塗装焼付け後の6000系アルミニウム合金の強度が最も高く、5000系、3000系合金の順となる。したがって、インナーパネルの板厚の影響と同じく、強度が高まることで、位置Aでは、インナーパネルの支持が強まり、アウターパネルの過度の変形が抑制されて、HIC値が減少する。一方、位置Bでは、インナーパネルの変形が抑制されて、HIC値が増加する。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、前述したように、燃費性能及び運動性能、さらに、歩行者保護性に優れた自動車を提供することができるので本発明は、自動車産業において、利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明のフードパネルの一例を模式的に示す図である。
【図2】位置Aを示す図である。
【図3】位置Bを示す図である。
【図4】本発明のフードパネルの位置Aへの頭部の衝突を模式的に示す図である。
【図5】本発明のフードパネルの位置Bへの頭部の衝突を模式的に示す図である。
【図6】本発明のフードパネルの剛部材干渉部を模式的に示す図である。
【図7】本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図8】凸部が四角形である本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図9】凸部が三角形である本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図10】凸部が多角形の組合せである本発明のインナーパネルの一例を模式的に示す図である。
【図11a】本発明のインナーパネルの一例の断面の一部を模式的に示す図である。
【図11b】本発明のインナーパネルの別の一例の断面の一部を模式的に示す図である。
【図12】数値解析に用いた本発明のフードパネルの一例を示す図である。
【図13】従来のフードパネルの断面を模式的に示す図である。
【図14】従来の波型フードパネルの断面を模式的に示す図である。
【図15】従来のコーン型フードパネルの断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 頭部(インパクター)
4 剛部材
5 剛部材干渉部
21 凸部
22 凹部
23 綾部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーパネルの、エンジンルーム内の剛部材の位置に相当する剛部材干渉部に凸部と凹部を設け、アウターパネルから遠い側に該凸部を、近い側に該凹部を対向させ、前記インナーパネルと前記アウターパネルを一体化した自動車用フードパネルであって、前記凸部の面積と前記凹部の面積との合計が、前記剛部材干渉部の面積の70%以上であることを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項2】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の面積の合計が、凹部の面積の合計以上であることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項3】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の面積が、剛部材干渉部の面積の10%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項4】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部と凹部との間の綾部と凹部との垂直断面での角度が、40〜90°であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項5】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の形状が、3以上の頂部と、該頂部を結ぶ辺部からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項6】
前記インナーパネルの素材が、鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れか1つであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項7】
前記インナーパネルの素材が、樹脂又は繊維強化樹脂であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項8】
前記アルミニウム合金の板厚が、0.6〜1.5mmであることを特徴とする請求項6に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項1】
インナーパネルの、エンジンルーム内の剛部材の位置に相当する剛部材干渉部に凸部と凹部を設け、アウターパネルから遠い側に該凸部を、近い側に該凹部を対向させ、前記インナーパネルと前記アウターパネルを一体化した自動車用フードパネルであって、前記凸部の面積と前記凹部の面積との合計が、前記剛部材干渉部の面積の70%以上であることを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項2】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の面積の合計が、凹部の面積の合計以上であることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項3】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の面積が、剛部材干渉部の面積の10%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項4】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部と凹部との間の綾部と凹部との垂直断面での角度が、40〜90°であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項5】
前記インナーパネルの剛部材干渉部における凸部の形状が、3以上の頂部と、該頂部を結ぶ辺部からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項6】
前記インナーパネルの素材が、鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金の何れか1つであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項7】
前記インナーパネルの素材が、樹脂又は繊維強化樹脂であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項8】
前記アルミニウム合金の板厚が、0.6〜1.5mmであることを特徴とする請求項6に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図13】
【図14】
【図15】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図13】
【図14】
【図15】
【図12】
【公開番号】特開2008−30732(P2008−30732A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−659(P2007−659)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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