歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル
【課題】軽量性と歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金からなる自動車用フードパネルを提供する。
【解決手段】アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルを積層してなる自動車用フードパネルにおいて、(i)インナーパネルが、(i-1)その断面形状が略台形であり、フードパネルの長辺方向及び短辺方向に延伸する、エンジンルーム側から見て凸部を、複数個備え、(i-2)隣接する上記凸部の間に、アウターパネルに近接して対向する凹部を、複数備え、(ii)上記凸部及び凹部からなるインナーパネルの長辺方向の長さlが、アウターパネルの長辺方向の長さLの42%以上90%以下であり、(iii)インナーパネルの長辺方向中央の断面形状が、断面の二次モーメントをIxとし、インナーパネルの厚さをtinのとき、272.8<l/L+5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}を満たす。
【解決手段】アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルを積層してなる自動車用フードパネルにおいて、(i)インナーパネルが、(i-1)その断面形状が略台形であり、フードパネルの長辺方向及び短辺方向に延伸する、エンジンルーム側から見て凸部を、複数個備え、(i-2)隣接する上記凸部の間に、アウターパネルに近接して対向する凹部を、複数備え、(ii)上記凸部及び凹部からなるインナーパネルの長辺方向の長さlが、アウターパネルの長辺方向の長さLの42%以上90%以下であり、(iii)インナーパネルの長辺方向中央の断面形状が、断面の二次モーメントをIxとし、インナーパネルの厚さをtinのとき、272.8<l/L+5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者と自動車の衝突時に、歩行者、特に、歩行者の頭部を保護する性能、即ち、歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題を背景に、自動車のフードパネルに、軽量なアルミニウム合金板を採用した車両が増えつつある。一方、歩行者と自動車の衝突事故で、歩行者頭部を保護することが重要視され、歩行者保護性に優れるフードパネルの構造が検討されている。
【0003】
歩行者頭部がフードパネルに衝突した際には、まず、アウターパネルが変形し、その後、インナーパネルが変形して、衝突エネルギーが吸収される。しかし、アルミニウム合金は、鋼板に比べ、軽量で、強度が低いので、アルミニウム合金からなるフードパネルは、フードパネルの慣性移動によるエネルギー吸収能が小さい。
【0004】
そのため、歩行者頭部は、エンジンルーム内に深く進入し、エンジン部品などの剛性部材に衝突して、致命的な傷害を受け易い。アルミニウム合金を用いたフードパネルは、歩行者保護性が大きな課題となる。
【0005】
ここで、歩行者保護性能について説明する。歩行者保護性能は、歩行者頭部を模擬したインパクターを実際の車両に衝突させ、頭部に発生する加速度(反力に相当)から下記式(1)で計算される頭部障害基準値(Head Injury Criteria、以下「HIC値」という。)によって評価される。
【0006】
【数1】
【0007】
現在の基準では、図11に示すように、背の低い子供頭部は車両の前方に、背の高い大人頭部は車両後方に、地上から車両の該当する地点までの距離WAD(Wrap Around Distance)1700mmを基に、頭部インパクターの衝撃位置エリアが定められている。また、衝突荷重も、体格に合わせ、国内法規では、子供頭部3.5kg、大人頭部は4.5kgに設定されている。
【0008】
これら試験条件において試験領域の2/3以上の部分でのHIC値が1000以下であり、それ以外の試験領域でもHIC値が2000以下であることが求められている(非特許文献1、参照)。
【0009】
しかし、エンジンルーム内の剛性部材に衝突した場合、その衝撃によってHIC値が基準値を容易に超えてしまう。特に、大人頭部は重量があり、エンジンルーム内に深く進入して、強く剛性部材に衝突する可能性が高い。
【0010】
歩行者頭部を確実に保護するには、インナーパネルと剛性部材の干渉を回避する必要がある。その対策の一つは、フードパネルとエンジン部品などの剛性部材との間隔を大きく拡げることである。しかし、この間隔の拡大は、エンジンルーム周辺の設計自由度を大幅に損ねてしまうので、歩行者頭部の変位量を抑制する対策が検討されている。
【0011】
最も容易な方法は、フードパネルに重量物を配置する方法である(特許文献1、参照)。しかし、この方法は、重量物を配置するが故に、アルミニウム合金を用いたことによる軽量化を損ねてしまう。
【0012】
他に、インナーパネルの中央領域、即ち、図3に示すように、従来ならば梁骨格(ビーム)が延設され、アウターパネルを支持し、フードパネルの剛性を確保していたインナーパネルの中央域において、断面形状を波型とした骨格が、車幅方向に沿って伸びることで、歩行者頭部の変位量を抑制する構造が提案されている(特許文献2、参照)。
【0013】
しかし、上記構造では、上記骨格が進行方向に繋がっていないので、歩行者頭部が衝突した際の衝撃が、車両進行方向に伝播し難い。そのため、衝突初期における衝撃吸収が小さく、歩行者頭部の変位量が十分に抑制されない。
【0014】
そこで、本発明者らは、フードパネルが剛性部材と干渉しても、歩行者頭部が、直接、剛性部材からの衝撃を受けないように、インナーパネルの凹凸を利用するフードパネルを提案した(特許文献3及び4、参照)。しかし、このフードパネルにおいては、アウターパネルに近接する凹部頂上の曲げ剛性が弱く、特に、凹部の交差箇所は、剛性が極めて弱い。
【0015】
そのため、歩行者頭部の衝突位置によっては、凹部の交差箇所を起点に変形し、フードパネルが折れ曲がってしまうことがある。その場合、インナーパネルによる支持作用が得られず、歩行者頭部が、エンジンルーム内に深く進入する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−193871号公報
【特許文献2】特開2006−44311号公報
【特許文献3】特開2008−30732号公報
【特許文献4】特開2008−168844号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】独立行政法人 自動車事故対策機構[http://www.nasva.go.jp/mamoru/car/protection/index.html#01]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
歩行者保護の観点から、フードパネルと剛性部材が干渉しないように、フードパネルと剛性部材の間隔を大きく確保する必要がある。しかし、インナーパネルの材料として、成形性の劣る材料や、軽量な材料(例えば、アルミニウム合金)を使用すれば、歩行者頭部の変位量が増大し、フードパネルと剛性部材の間隔を、より大きく確保しなければならず、エンジンルーム周辺の設計自由度を大幅に損ねてしまう。
【0019】
本発明は、このような問題に鑑み、フードパネルの曲げ剛性を強化し、インナーパネルの局所的変形を抑制することで、歩行者頭部のエンジンルーム内への進入量(変位量)を小さくし、フードパネルとエンジン等の剛性部材との間隔を短縮すること、また、万が一、エンジンルーム内の剛性部材に衝突しても、衝撃吸収性に優れることを課題とし、軽量性と歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、インナーパネルの断面形状が略台形であり、複数の、エンジンルーム側から見て凸部と、アウターパネルに近接して対向する凹部からなり、凹部が、四方を囲み、凸部が、フードパネルの長辺方向に延伸するインナーパネル構造において、歩行者頭部の変位量を抑制でき、改善する知見を見いだし、該知見に基づいて、アルミニウム合金からなるインナーパネルの形状・構造を最適化したものである。
【0021】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0022】
(1)アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルにおいて、
(i)インナーパネルが、
(i-1)その断面形状が略台形であり、フードパネルの長辺方向及び短辺方向に延伸する、エンジンルーム側から見て凸部を、複数個備え、さらに、
(i-2)隣接する上記凸部の間に、アウターパネルに近接し対向する凹部を、複数備え、さらに、
(ii)上記凸部及び凹部からなるインナーパネルの長辺方向の長さlが、アウターパネルの長辺方向の長さLの42%以上90%以下であり、かつ、
(iii)インナーパネルの長辺方向中央の断面形状が、断面の二次モーメントをIxとし、インナーパネルの厚さをtinとして、下記式:
272.8<l/L+5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}
を満たすことを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0023】
(2)前記凹部が、前記凸部の周囲を囲むように配置されていることを特徴とする前記(1)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0024】
(3)前記アウターパネルとの距離が最短のエンジンルーム内の剛体部品を通るアウターパネルの垂線がインナーパネルと交差する点が、前記凹部によって周囲が囲まれている凸部の内であって、該凸部のアウターパネルの長辺方向及び短片方向の長さの25〜75%の長さで囲まれる中央領域に位置することを特徴とする前記(2)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0025】
(4)前記凸部において段差を有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0026】
(5)WAD1700mm未満の範囲におけるインナーパネルの前記凸部の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における前記凸部の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0027】
(6)インナーパネルの前記凸部の高さを、WAD1700mm未満の範囲では、15〜35mmとし、WAD1700mm以上の範囲では、20〜50mmとすることを特徴とする前記(5)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0028】
(7)WAD1700mmにある前記凸部が段差を有し、WAD1700mm未満の範囲の段差の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における段差の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0029】
(8)インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位において、前記(1)〜(7)のいずれかに記載される凸部が設けられたことを特徴する歩行者保護に優れた自動車用フードパネル。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、歩行者頭部がフードパネルに衝突した際のインナーパネルの局所変形を抑制し、かつ、衝撃を吸収するので、歩行者頭部の変位量を小さくで、さらに、エンジンルーム内の剛性部材に衝突した場合でも、衝撃吸収性に優れ、歩行者保護性能を著しく高めることができる。
【0031】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと、エンジン部品などの剛性部材との間隔を縮めることができ、車両のフロント構造の設計自由度を大きくすることができる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠創作の自由度が大きくなる。
【0032】
また、本発明によれば、インナーパネルの材料として、アルミニウム合金に替え、若干、成形性の劣る軽量材料を使用できるので、フードパネルの軽量化と歩行者保護性能の向上の両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のフードパネルを示す図である。(a)は、フードパネルの全体を示し、(b)は、フードパネルの断面を模式的に示す。
【図2】フードパネルの支持点と歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)の衝突地点を示す図である。
【図3】フードパネルのビーム構造(従来例1)を示す図である。
【図4】複数の略台形状の凸部と凹部を備えるが、凸部が、フードパネルの長辺方向に断続的に設けられているフードパネル構造(従来例2)を示す図である。
【図5】アウターパネルに、車幅方向に伸びる波型骨格が、車両進行方向に並んで設けられているフードパネル構造(従来例3)を示す図である。
【図6】本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、従来のフードパネルの変位−加速の相関曲線を比較して示す図である。(a)は、従来例1との比較を示し、(b)は、従来例2との比較を示し、(c)は、従来例3との比較を示す。
【図7】フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す図(衝突地点直下を長辺方向から見た図)である。(a)は、本発明の凸部を設けたフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、(b)は、従来のフードパネル(従来例1)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【図8】フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す図である。(a)は、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、(b)は、従来のフードパネル(従来例2)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【図9】フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す図である。(a)は、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、(b)は、従来のフードパネル(従来例3)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【図10】フードパネルの耐変形能を表す“パラメータX”(=(6.4×10-5)Ix+43.8tin)の技術的意味を示す図である。(a)は、“パラメータX”(=(6.4×10-5)Ix+43.8tin)と頭部変位量(mm)の相関を示し、(b)は、“パラメータX”(=(6.4×10-5)Ix+43.8tin)と、局所変形に対応する長辺方向長さ比l/L[%]の相関を示す。
【図11】歩行者頭部保護性能試験における、地上から車両の該当する地点までの距離WAD(Wrap Around Distance)と衝突条件を示す図である。WAD1700mmを基に、大人、子供の頭部の衝撃位置エリアとその条件が定められている(非特許文献1、参照)。
【図12】フードパネルと剛性部材の位置関係を模式的に示す図である。
【図13】アウターパネルに近接するリブのような凹部を形成し、対向してエンジン側に突出する、一定高さの凸部を有する構造とその断面を模式的に示す図である。(a)は、構造B(凸部高さが一定)の全体を示し、(b)は、車両前方の断面Aを示し、(c)は、車両後方の断面Bを示す。
【図14】本発明による、アウターパネルに近接するリブのような凹部を形成し、対向してエンジン側に突出する凸部を有し、フード前方と後方で凸部高さが異なる構造とその断面を模式的に示す図である。(a)は、構造A(凸部高さ調整)の全体を示し、(b)は、車両前方の断面Aを示し、(c)は、車両後方の断面Bを示す。
【図15】フードパネルの拘束地点と子供頭部、大人頭部の衝突位置を示す図である。
【図16】本発明の構造A(凸部高さ調整)におけるストローク−加速度の相関曲線を模式的に示す図である。(a)は、子供頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示し、(b)は、大人頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示す。
【図17】クリアランスが狭い箇所に衝突した場合における、本発明によるフード構造の変形挙動を模式的に示す図である。(a)は、フード衝突時(S1)を示し、(b)は、剛性部材衝突時(S2)の変形態様を示し、(c)は、ストローク最大時の変形態様(S3)を示す。
【図18】構造B(凸部高さ一定)におけるストローク−加速度の相関曲線を模式的に示す図である。(a)は、子供頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示し、(b)は、大人頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示す。
【図19】地点a、本発明の構造A(凸部高さ調整)に大人頭部が衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。(a)は、衝突前を示し、(b)は、衝突後の変形態様を示す。
【図20】地点b、構造B(凸部高さ一定)に大人頭部が衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。(a)は、衝突前を示し、(b)は、衝突後の変形態様を示す。
【図21】本発明によるインナーパネルの凸部高さとHIC値の相関曲線を示す図である。(a)は、子供頭部衝突時のクリアランス−HIC値の相関曲線を示し、(b)は、大人頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示す。
【図22】WAD1700mmが凸部直上に位置した場合と衝突地点eを示す図である。
【図23】WAD1700mmが凸部直上に位置した場合に、凸部内に段を付けて高さを調整した構造を示す図である。(a)は、構造の全体を示し、(b)は、構造の断面を模式的に示す。
【図24】フードパネルの拘束地点と凹部直上の衝突位置c及びdを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について説明する。本発明は、歩行者保護性能の観点からなされたものであり、特に重要な歩行者の頭部衝突を例に説明する。なお、本発明は、歩行者の頭部衝突に限定されることなく、また、歩行者の頭部に限定されるものでない。本発明は、あらゆる物体と自動車フードパネルとの衝突に適用可能である。
【0035】
図1に、本発明のフードパネルを示す。図1(a)に、フードパネルの全体を示し、図1(b)に、フードパネルの断面を模式的に示す。
【0036】
図1(a)に示すフードパネル1は、複数の、エンジンルーム側から見て略台形状で、フードパネル1の長辺方向(図中、矢印、参照)に延伸する凸部2と、アウターパネルに近接して対向する凹部3からなり、かつ、凹部3が、凸部2の周囲を囲む部分があることを特徴とする。
【0037】
なお、図1(a)で示すフードパネルは、車軸方向長さが車両進行方向長さより大きいフードである。車種によっては、車両進行方向長さが車軸方向長さより大きいフードパネルもある。そのような場合、車両進行方向に強い曲げモーメントが生じるので、本発明によるフードパネルは、長辺方向となる車両進行方向に延伸する凸部を有する。
【0038】
また、インナーパネルの断面形状は、図1(b)で示すように、凸部2から凹部3につながる斜面部4が斜めに延びる略台形状である。断面形状が矩形であってもよい。また、凹部、凸部をなす面が平面に限らず、曲率を有する曲面であってもよい。
【0039】
図1(b)に、フードパネルの断面を、アウターパネル4と歩行者頭部5を含めて模式的に示す。そして、フードパネルの歩行者保護性能を、有限要素法(FEM)によって、次のように評価した。
【0040】
フードパネルは、アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなるものとした。アウターパネルの厚さは1.0mm、インナーパネルの厚さは0.8mmとした。
【0041】
図2に、フードパネルの支持点と歩行者頭部の衝突地点を示す。図2に示すように、歩行者頭部の衝突地点は、フードパネルの支持点から最も離れたフードパネル中央とした。
【0042】
この理由は、衝突地点が、端部の支持点(例えば、ヒンジ、フック)から離れるほど、フードパネルに生じる曲げモーメントが大きくなり、フードパネル中央付近の変位量が最も大きくなって、歩行者頭部の変位量も大きくなる傾向にあるからである。
【0043】
それ故、フードパネルの支持点から最も離れた中央付近における曲げ剛性を強化すれば、歩行者頭部の最大変位量を小さくすることができる。また、フード中央付近以外のところに歩行者頭部が衝突しても、剛性の強化によって、歩行者頭部の変位量を抑制でき、改善を見込むことができる。
【0044】
フードパネルの周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材を設けないで、歩行者頭部の鉛直方向の変位量(以下、単に「頭部変位量」ということがある。)によって、フードパネルの歩行者保護性能を評価した。頭部変位量が小さいほど、エンジン部品との間の間隔を縮めることができるので、頭部変位量が小さいフードパネルは、歩行者保護性能に優れていると評価することができる。
【0045】
なお、ここでは剛性部材と衝突しない条件であるため、いずれの構造も、HIC値は200〜300程度であり、法規値1000を十分下回る安全な値であった。
【0046】
[ビーム構造(従来例1)との比較]
図6に、本発明のフードパネルの変位−加速度曲線と、従来のフードパネルの変位−加速度曲線を比較して示す。図6(a)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、自動車用フードパネルのインナー構造として広く用いられているビーム構造(従来例1)の変位−加速度の相関曲線を示す。
【0047】
図6(b)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、凸部がフードパネルの長辺方向に断続的に設けられた構造(従来例2)を比較して示す。図6(c)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、横波型ビーム構造(従来例3)を比較して示す。
【0048】
なお、質量を等価にするため、本発明のフードパネルのインナーパネルの厚さは0.8mmとし、従来例の貫通孔を設けたビーム構造のインナーパネルの板厚は1.0mmとした。
【0049】
図6(a)〜(c)において、横軸は、模擬インパクターの鉛直方向の変位量であり、縦軸は、模擬インパクターに生じた加速度である。この加速度は、フードパネルの慣性及び剛性による反力で、歩行者頭部の進行方向とは逆向きに発生する加速度である。
【0050】
一般に、歩行者頭部がフードパネルに衝突すると、静止していたフードパネルの慣性により強い反力が発生する。この反力は、主に、フードパネルの質量に大きく影響される。歩行者頭部が衝突した後、静止していたフードパネルが運動し始め、フードパネルと歩行者頭部の相対速度が低下して、歩行者頭部への反力は、徐々に低減する。
【0051】
最終的には、ヒンジやフックによる端部の拘束で、フードパネルが緊張するので、再び、大きい反力が発生し、歩行者頭部は、上方に向かって跳ね返える。即ち、フードパネルの質量及び剛性が大きいほど、大きい反力が生じる。その結果、歩行者頭部の運動速度は減速され、頭部変位量を、より小さくすることができる。
【0052】
しかし、フードパネルは、端部が拘束されているので、大きい曲げ荷重を受けると、特に、フードパネルの長辺方向に、大きい曲げモーメントが発生する。そのため、フードパネルに、剛性が脆弱な箇所があると、その箇所で局所的な変形が発生し、剛性による反力が、十分に作用しない場合がある。
【0053】
その結果、歩行者頭部の運動速度は減速されず、歩行者頭部は、エンジンルーム内に深く進入することになり、頭部変位量は大幅に大きくなり、悪化する。そのまま、エンジン部品等の剛性部材に衝突することが起こり得る。
【0054】
図6(a)に示すように、一般に用いられているビーム構造(従来例1)の変位−加速度曲線においては、フードパネルの拘束によりフードパネルが緊張して、反力が増大する途上で、反力の大幅な落込みが認められる。
【0055】
ここで、図7に、フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す(衝突地点直下を長辺方向から見ている)。図7(a)に、本発明の凸部を設けたフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、図7(b)に、従来のフードパネル(従来例1)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【0056】
図7(a)に示すように、本発明構造は全体的に撓んで、局所的な変形が見られず、歩行者頭部が確実に支持される。一方、図7(b)に示すように、従来のフードパネル(従来例1)では、衝突後、曲げ剛性に優れるビーム部に大きな変形は見られないが、衝突地点近傍から局所変形が発生して、ビーム部の根元に変形が集中し、大きく折れ曲がっている。これは、フードパネルが、局所的に変形したためである。
【0057】
そのため、歩行者頭部の運動速度は、十分に減速されず、図7(a)に比べ、歩行者頭部の変位量の絶対量が大きい結果となっている。
【0058】
[本発明のフードパネルにおける凹凸の効果]
一方、本発明のフードパネルにおいては、厚肉のビーム構造のフードパネルに比べ、頭部変位量を小さくすることができる。そのことを、本発明のフードパネルの特徴である凸部と凹部、及び、その配置に基づいて、以下に説明する。
【0059】
本発明のフードパネルにおける凸部は、エンジンルーム側から見て略台形状の凸部であり、アウターパネルと閉断面空間を形成し(図1、参照)、フードパネルの曲げ剛性を強化する作用をなす。
【0060】
即ち、本発明のフードパネルにおいては、略台形状の凸部が、大きい曲げモーメントが発生するフードパネルの長辺方向の剛性を補強するように設けられているので、フードパネルの撓み変形が低減する。
【0061】
本発明のフードパネルにおいて、凹部は、アウターパネルに近接して位置するので(図1、参照)、衝突による衝撃を即座に受け、衝撃をインナーパネル全般に伝播する作用をなす。また、上記凹部は、アウターパネルを支持することにより、撓み変形を抑制する作用をなす。
【0062】
凸部の周囲を凹部で囲む構造の本発明のフードパネルにおいては、歩行者頭部が衝突した直後の衝撃を、即座に、凹部で受け、フードパネルの長辺方向に延伸した凸部に伝達するので、フードパネルの広範囲で、上記衝撃を受けることができる。
【0063】
即ち、本発明のフードパネルにおいては、歩行者頭部によって、下方に押し込まれたフードパネルに生じる大きな曲げモーメントを、フードパネルの長辺方向に延伸した凸部によって受け、フードパネル全体の撓み変形を抑制することができる。
【0064】
また、本発明のフードパネルにおいては、フードパネルの周囲に設けた凹部によって、アウターパネルが支えられ、閉断面空間を形成するアウターパネルの撓み変形を抑制することができる。
【0065】
さらに、本発明のフードパネルにおいては、大きい曲げモーメントが発生するフードパネルの長辺方向に凸部を設けることで、曲げ剛性が脆弱な凹部同士の交差が避けられ、凹部を起点として発生するフードパネルの局所的変形の発生を防ぐことができる。
【0066】
このように、本発明のフードパネルにおいては、大きい曲げ剛性を有する凸部と、アウターパネルに近接する凹部を、変形抑制の点で、効果的に配置しているので、厚さ1.0mmのビーム構造と同等の1次反力を発生させて、フードパネルの撓み変形の発生を抑制し、かつ、局所変形の発生を防いで、歩行者頭部の変位量を小さくすることができる。
【0067】
また、アウターパネルとエンジンルーム内の剛体、例えば、エンジンブロック、サスペンション、バッテリーなどの部品との距離が短い、即ち、クリアランスが狭い領域に、大きな曲げ剛性を有する凸部を配置すると、衝突時の衝撃を、フードパネルの全域に略均等に分散して吸収することができるので、歩行者頭部の変位量を最小限にすることができ、インナーパネルとエンジンルーム内の剛体との衝突を回避する高い効果を発揮する。
【0068】
このとき、歩行者頭部は車両後方側に向かって斜めに衝突するため、凸部はアウターパネルの曲率に沿った垂線方向から、エンジンルーム内の剛体に最も距離が短い位置に配置することが望ましい。
【0069】
[従来例との比較]
図4に、複数の略台形状の凸部と凹部を備えているが、凸部が、フードパネルの長辺方向に断続的に設けられているフードパネル(従来例2)を示し、図5に、アウターパネルに、車幅方向に伸びる波型骨格が、車両進行方向に並んで設けられているフードパネル(従来例3)を示す。本発明者らは、図4及び図5に示すフードパネルの歩行者保護性能を検証した。以下、説明する。
【0070】
[従来例2:反転構造の変位量]
図6(b)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、図4に示す従来のフードパネル(従来例2)の変位−加速度の相関曲線を比較して示す。
【0071】
図6(b)から、フードパネルの厚さが0.8mmでも、歩行者頭部衝突時の衝撃を、アウターパネルに近接する凹部を含む広範囲で受けることができるので、厚さ1.0mmのフードパネルの場合と同程度の1次加速度が発生していることが解る。
【0072】
図8に、フードパネルに歩行者頭部が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す。図8(a)に、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、図8(b)に、従来のフードパネル(従来例2)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【0073】
図8(a)及び(b)に示すように、曲げ剛性が脆弱な凹部を起点として、局所的な変形が生じたため、歩行者頭部に反力が作用しない状態となり、歩行者頭部の変位量は大幅に大きくなり、悪化した。
【0074】
[従来例3:横波構造の変位量]
図6(c)に、本発明のフードパネルの変位−加速度曲線と、図5に示す従来のフードパネル(従来例3)の変位−加速度曲線を比較して示す。
【0075】
図6(c)から、フードパネルの厚さが0.8mmでも、歩行者頭部衝突時の衝撃を、アウターパネルに近接する凹部を含む広範囲で受けることができるので、厚さ1.0mmのフードパネルの場合と同程度の1次加速度が発生していることが解る。また、フードパネルの長辺方向となる車幅方向の曲げ剛性が強化されているので、従来例2のような局所変形は生じず、反力の急激な落込みはなかった。
【0076】
図9に、フードパネルに歩行者頭部が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す。図9(a)に、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、図9(b)に、従来のフードパネル(従来例3)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【0077】
図9(a)及び(b)に示すように、フードパネル中央領域の外周が、アウターパネルに近接する凹部で囲われていないため、アウターパネルを支持することができず、歩行者頭部の衝突により、中央領域全体が押し下げられるように変形した。
【0078】
図6(c)中、破線の円で示すように、反力が低い状態となり、歩行者頭部の変位量は大幅に大きくなり、悪化した。
【0079】
[凸部形状の最適化]
図1に示す本発明のフードパネルにおいて、凸部形状が、歩行者頭部の変位量に及ぼす影響について検討した。
【0080】
歩行者頭部の変位量は、フードパネルの変形挙動の影響を大きく受ける。特に、フードパネルの長辺方向における曲げ剛性と局所変形の有無が、歩行者頭部の変位量に大きく影響する。
【0081】
そこで、凸部の形状について、長辺方向の曲げ剛性に対応する断面二次モーメントIx[mm4]、インナーパネルの板厚tin、局所変形に対応する長辺方向の長さ比l/L[%](l:凸部及び凹部からなる区画の長辺方向の長さ、L:アウターパネルの長辺方向の長さ)等の条件を、適宜変えて歩行者保護性能を評価した。
【0082】
評価は、自動車用フードに用いるビーム構造(従来例1)を基準とし、歩行者頭部の変位量が、該基準より小さい場合を、歩行者保護性能が良好であると評価した。
【0083】
図10に、評価結果を示す。図中、横軸の“パラメータX”は、下記式で定義する指標である。図中、縦軸は、局所変形に対応する長辺方向の長さ比l/L[%]である。
X=(6.4×10-5)Ix+43.8tin
Ix:長辺方向の曲げ剛性に対応する断面二次モーメント[mm4]
tin:インナーパネルの厚さ[mm]
【0084】
ここで、前記パラメータXは、以下のようにして求めた。
【0085】
フードパネルの質量が重くなるほど、歩行者頭部は減速され、変位量は小さくなるため、本発明による課題解決には、閉断面空間の曲げ剛性のみでは決まらず、フードパネル質量に対応するインナーパネル板厚にも大きく影響される。
【0086】
そこで、インナーパネルの厚さtinと、長辺方向の曲げ剛性に対応する断面二次モーメントIxを変数として組み込んだパラメータXを設定した。このパラメータXを指標として、歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)がフードパネルに衝突した後のフードパネルの最大変形量を抑える耐変形能を表すことができるからである。
【0087】
即ち、以下のようにしてパラメータXを定めた。
【0088】
(i)0.2%耐力126MPa、引張強さ256MPa、縦弾性係数70GPa、横弾性係数26GPa、ポアソン比0.33、密度2.7Mg/m3の6000系アルミニウム合金からなる板厚1.0mmのアウターパネルに、
(ii)同一の物理的、及び、機械的性質を有する同材料からなるものであって、図1に示す本発明所定の形状にし、断面二次モーメントを10000〜100000mm4の範囲で、かつ、板厚を0.7〜0.9mmの範囲で、合計20種類変化させた、インナーパネルを組み合わせた。
【0089】
(iii)図2で示すヒンジ部2点とストライカー部1点の合計3点で拘束した、全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのエンジンフードパネルを想定し、
(iv)歩行者頭部を模擬した、直径165mm、質量3.5kgの球状のインパクターを、65°の角度、35km/hの速度で、上記フードパネル中央部に衝突させた際の変位を、一般的な有限要素法(FEM)で数値解析した。
【0090】
(v)なお、前記(ii)の20種類の板厚tin及び曲げ剛性Ixの組合せは、数値解析において、アルミニウム合金板材の成形性を考慮して、閉断面空間の深さを25mmまで、また、一般的な0.5mm厚程度の鋼板からなるフードパネルと等価剛性を確保できるように、板厚0.7〜0.9mmの範囲として選択し、採用している。
【0091】
(vi)この結果において、上記フードパネルの動的最大変位量δmaxに対し、前記変化させた板厚tin及び曲げ剛性Ixを変数として、線形重回帰分析した結果、次式が得られた。
δmax=122.4−{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}
【0092】
ここで、決定係数R=0.83であり、数値解析結果の最大変位量をtin及びIxで精度良く表せることが判明した。
【0093】
(vii)即ち、最大変位量δmaxを、指標とするビーム構造(従来例1)の変位量85.7mm以下に抑えたい場合には、前式右辺の
(6.4×10-5)Ix+43.8tin
で求まる値を、図10(a)に示すように、36.7以上にすればよいことが解る。
【0094】
したがって、これをパラメータXとして定義することで、フードパネルの耐変形能を表示することができる。即ち、Xが大きいほど、動的最大変形量δmaxを抑えることができる。
【0095】
ここで、フードパネルの長辺方向に生じる局所変形を考慮して、それに対応する長辺方向長さの比l/Lで整理すれば、閉断面空間の適切な形状は、図10(b)に示すように、つまり、長辺方向長さの比l/Lは、42%以上90%以下の範囲、かつ
l/L<−5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}+272.8
を満たすことが望ましいことが解った。
【0096】
図10(a)及び(b)では、各条件につき、歩行者頭部の変位量が、基準(従来例1)より優れている場合を○で示し、基準(従来例1)より劣っている場合を●で示す。
【0097】
なお、前述のようにパラメータXを求める際、インナーパネルの板厚を0.7〜0.9mm、アウターパネルの板厚1.0mmとした解析結果を基にしたが、インナーパネルの板厚0.7〜1.0mm、アウターパネルの板厚0.8〜1.2mmの範囲内であれば、Xをそのまま適用して、歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)がフードパネル中央に衝突した場合のフードパネルの耐変形能を、実用上問題なく評価できる。
【0098】
[凸部の長さ]
以上の通り、本発明の凸部の長辺方向の長さは、アウターパネルの長辺方向の長さLに対して、“42%以上90%以下”が望ましい。凸部の長さが、長辺方向の42%未満とると、凹部の頂上からの局所的な変形により、フードパネルが、長辺方向に折れ曲がり、歩行者頭部の変位量が大幅に大きくなり、悪化する恐れがある。
【0099】
凸部は、長辺方向の全体に延伸して設けることが望ましいが、長さが、長辺方向の長さの90%を超えると、フードパネルの周囲に、剛性確保のため設ける閉断面構造を阻害して、フードパネルの捩り剛性や、曲げ剛性を損なう恐れがある。l/Lは、フードパネルの変形をより安定的に抑制し、かつフードパネルの設計の自由度を確保する観点から、55〜85%が好ましい。
【0100】
[凸部の幅]
本発明の凸部の短辺方向の長さは、90mm超、300mm以下が望ましい。凸部の間隔が90mm以下であると、曲げ剛性が不足し、インナーパネルが長辺方向で折れ曲がり、歩行者頭部の変位量が大幅に大きくなり、悪化する恐れがある。一方、凸部の間隔が300mm超であると、凹部の間隔が拡がり過ぎ、アウターパネルが大きく撓んで、歩行者頭部の変位量が大きくなり、悪化する。
【0101】
[凸部の高さ]
本発明の凸部の高さは、15mm超50mm以下が望ましい。凸部の高さが15mm以下であると、長辺方向の曲げ剛性が不足し、インナーパネルが長辺方向で折れ曲がり、頭部変位量が大きくなり、悪化する恐れがある。一方、凸部の高さが50mm超であると、エンジン部品との間隔が狭くなり、インナーパネルとエンジン部品が干渉し易くなる。また、インナーパネルの成形も極めて難しくなる。
【0102】
[凸部の配置位置]
本発明の凸部の中心は、図2に示すように、フードパネルの車両前方端から、短辺長さの30%超、75%以下の範囲に位置させることが好ましい。凸部の中心位置が、短辺長さの30%以下の範囲にあれば、凸部が、フードパネルの周囲に、剛性確保のため設ける閉断面構造を阻害して、フードパネルの捩り剛性や、曲げ剛性を損なう恐れがある。
【0103】
凸部の中心位置が、短辺長さの75%超の範囲においても、凸部が、フードパネルの周囲に、剛性確保のために設ける閉断面構造を阻害して、フードパネルの捩り剛性や、曲げ剛性を損なう恐れがある。
【0104】
このように、凸部が、一方に寄った場合、歩行者頭部の衝突位置によって、凸部による曲げ剛性強化の効果が小さく、歩行者頭部の変位量の抑制に効果的に作用しない恐れがある。そのため、歩行者頭部の変位量が最も大きくなり易いフードパネル中央付近(短辺長さの40〜60%程度の範囲)に、凸部を設けることが望ましい。
【0105】
[剛性部材衝突時の歩行者保護性能]
次に、エンジンルーム内の部品を想定した剛性部材を配置し、インナーパネルからエンジン部品までの距離、即ち、クリアランスが極めて狭い場合を想定した歩行者頭部保護性能試験の数値解析を実施した。フードパネルモデルは、インナーパネルとアウターパネル、及び、ヘム加工部から構成され、左右ヒンジ部、及び、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。
【0106】
そして、図12に示すように、クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。
【0107】
前記模擬フロント構造には、図15に示すようにWADによる衝突位置エリアに対応させ、子供・大人の異なる衝突条件で頭部インパクターを地点a、bの2箇所に衝突させた。つまり、フード前方の衝突地点aは、WAD1700mm未満として子供頭部インパクターを、フード後方の衝突地点bは、WAD1700mm以上として大人頭部インパクターを衝突させた。
【0108】
インナーパネルは、本発明に則し、アウターパネルに近接するリブのような凹部を形成し、対向してエンジン側に突出する凸部を有する構造であるが、構造Aは、図14に示すように、凸部の高さが異なる構造であり、フードパネルの前方の凹凸高さH1を24mm、後方での凹凸高さH2を28mmに設定した。
【0109】
一方、構造Bは、図13に示すように、フードパネルの前方及び後方でも一定の凹凸高さ24mmに設定されている。なお、フードパネルの板厚はいずれも、アウターパネルの板厚を1.0mm、インナーパネルの板厚を0.8mmとした。
【0110】
衝突条件は、歩行者頭部保護試験に基づき、衝突地点aには、子供頭部、直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、角度65°、速度35km/hとした。衝突地点bには、大人頭部の場合、直径165mm、質量4.5kgのインパクターを、角度65°、速度35km/hとした。
【0111】
歩行者保護性能はHIC値より、1000以下を良好として評価した。評価結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
凸部高さを調整した構造Aは、子供頭部、大人頭部いずれの衝突条件でもHIC値を1000以下に収めることができた。一方、凸部高さが一定の構造Bは、子供頭部の歩行者保護性能に優れるが、大人頭部が衝突する進行方向後方側では、HIC値が1000を超える結果となった。
【0114】
図16に、凸部高さを調整した構造Aにおける、(a)車両前方、子供頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図16(a))と、(b)車両後方、大人頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図16(b))、を模式的に示す。
【0115】
なお、図16において、横軸は、模擬インパクターの鉛直方向の変位量であり、縦軸は、模擬インパクターに生じた加速度である。この加速度は、フードパネルから生じる反力で、歩行者頭部の進行方向とは逆向きに発生する加速度である。
【0116】
また、剛性部材衝突時のフードパネルの変形挙動を、図17に示す。
【0117】
歩行者頭部がフードパネルのクリアランスが狭い箇所に衝突すると、1次の加速度ピークと、2次の加速度ピークが生じる。即ち、1次の加速度ピークは、図17(a)で示すように、衝突初期(S1時)に歩行者頭部がアウターパネルの変形及びフードパネルの慣性による反力を受け、速度が減少する際に生じる加速度ピークである。
【0118】
2次の加速度ピークは、さらに、フードパネルの変形が進み、図17(b)で示すように、インナーパネルと剛性部材との衝突(S2時)によって、速度が減少する際に生じる加速度ピークである。
【0119】
図17(c)で示すストローク量が最大となるS3において、歩行者頭部は、フードパネルから跳ね返り、ストローク量及び加速度は低下する。
【0120】
なお、フードパネル、剛性部材の材質、フードの拘束条件、クリアランスによっては、加速度ピークの傾向は異なる。例えば、鋼板製のフードパネルは、比重、強度が大きいため、衝突初期に受ける反力が非常に大きくなり、2次の加速度ピークが生じない場合などがある。また、クリアランスが極めて狭い場合には、1次の加速度ピークと2次の加速度ピークが合体し、1つの加速度ピークが生じる場合がある。
【0121】
地点a、軽量な子供頭部が衝突する場合は、剛性部材との衝突によりインナーパネルが変形することで衝撃が吸収される。構造Aでは、凸部が円滑に変形することで、図16に示すように、2次の加速度ピークが低く抑制され、HIC値も1000以下に収まった。
【0122】
また、地点b、重い大人頭部が衝突する場合でも、車両後方側の凸部高さH2を大きくしたことで、インナーパネルの変形による衝撃吸収性が増加し、図19に示すように、アウターパネルと剛性部材の間に十分な空間を確保することができた。したがって、強い衝撃を発生させず、大人頭部においてもHIC値を抑制することができた。
【0123】
次に、図18に、構造Bにおける、(a)車両前方、子供頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図18(a))と、(b)車両後方、大人頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図18(b))、を模式的に示す。図中破線で示すのは、構造Aのストローク量−加速度の相関である。
【0124】
構造Bは、構造Aと同様に、アウターパネルに近接する凹部と、対向してエンジンルーム側に突出する凸部からなる構造であるが、車両前方側と後方側の凸部の高さが同じに設定されている。
【0125】
そのため、図18(a)に示すように、車両前方、子供頭部衝突時には、2次の加速度ピークが抑制され、優れた歩行者保護性能が認められたが、質量が大きく、運動エネルギーが大きい大人頭部に対しては、凸部高さが低く、十分な衝撃吸収性がないため、図20に示すように、インナーパネルが潰れ、歩行者頭部は剛性部材に底付きした。よって、図18(b)に示すように、2次の加速度ピークが上昇し、HIC値が増大した。
【0126】
以上のように、アウターパネルに近接する凹部と、対向してエンジンルーム側に突出する凸部からなる構造において、フードパネルの進行方向前方と後方の凸部の高さを調整することで、子供・大人の異なる衝突条件に対しても、優れた歩行者保護性能を確保することができる。
【0127】
そこで、凸部高さを変動し、適切な設定範囲を検証した。クリアランスが狭い状態としてインナーパネルから60mmを基準とし、さらに狭まった条件も想定して、クリアランス55mm、50mmまでのHIC値の傾向を検証した。計算結果を図21に示す。
【0128】
子供頭部の場合、クリアランスが60mmであると、凸部高さの広い範囲で、HIC値は1000を十分下回ることができた。しかし、クリアランスが狭まるにつれて、HIC値は大きくなり、クリアランス50mmでは、凸部高さが15mm未満であると、剛性部材衝突時にインナーパネルが潰れ切り、頭部はエンジン剛体からの直接的な衝撃を受け、HIC値が増大した。
【0129】
一方、凸部高さが35mm超となれば、運動エネルギーが高い状態で、インナーパネルが剛性部材と衝突するので、2次の加速度ピークが1次の加速度ピークより大きくなり、HIC値が増大した。したがって、凸部高さ15〜35mmの範囲が適切であることが解った。
【0130】
また、大人頭部の場合、クリアランスが50〜60mmのいずれの場合も、凸部高さが20mm以上あれば、HIC値は1000を下回ることができた。しかし、凸部高さが20mm未満であると、剛性部材衝突時にインナーパネルが潰れ切り、エンジン剛体からの直接的な衝撃により、HIC値が1000を超えた。
【0131】
凸部高さHが大きいほど望ましいことが、図21からも明らかであるが、凸部高さが50mm超となるような構造は、成形が極めて難しく、実用的ではない。したがって、凸部高さを20〜50mmとすれば適切であることが解った。
【0132】
なお、図21からも明らかなように、より狭いクリアランス条件に対しては、子供頭部の場合は、凸部高さ25mm前後にて、大人頭部の場合は、30mm前後にて、HIC値が1000以下となる可能性がある。また、フードパネルの形状、アウターパネルやインナーパネルの板厚、拘束条件等によって、HIC値は大きく異なるため、好ましくは、子供頭部の場合は20〜30mmの範囲、大人頭部の場合は25〜40mmの範囲が適切である。
【0133】
[WAD1700の境界付近]
ここまで、1つの凸部に対し一定の高さを設定して説明したが、例えば、図22に示すように、子供、大人の衝突条件の境界線WAD1700mmが凸部直上に位置する場合には、図23に示すように、1つの凸部内で段差を設け、フード前方側と、フード後方側で異なる凸部高さに調整してもよい。また、フードパネル直下の剛性部材の形状に応じて、これら段差を複数設け、歩行者保護性能を調整してもよい。
【0134】
[パネルの板厚]
以上のように、本発明による凸部を設けたフードパネルはストローク量を縮め、万が一、剛性部材と衝突してもHIC値を低減することができる。このときのフード板厚について、インナーパネルの厚さが1.0mm超、又は、アウターパネルの厚さが1.2mm超であると、フードパネルの厚さが過度に厚すぎることになり、変形強度が高すぎ、優れた衝撃吸収性が得られない恐れがある。加えて、鋼板からなるフードパネルの軽量化が達成できない。
【0135】
一方、インナーパネルの厚さが0.7mm未満で、アウターパネルの厚さが0.8mm未満であると、フードパネルが変形し易い状態となって、ストローク量の増大、また、剛性部材衝突時には、インナーパネルが完全に圧潰し、剛性部材から強い衝撃を受ける恐れがあり、好ましい衝撃吸収性を得られない。
【0136】
したがって、所要の歩行者保護性能を確保するためには、インナーパネルの厚さは0.7〜1.0mmが好ましく、アウターパネルの厚さは0.8〜1.2mmが好ましい。
【0137】
[好ましい実施形態]
本発明においては、アウターパネルとの距離が最短のエンジンルーム内の剛体部品を通るアウターパネルの垂線がインナーパネルと交差する点を、凹部によって周囲が囲まれている凸部の内であって、凸部のアウターパネルの長辺方向及び短片方向の長さの25〜75%の長さで囲まれる中央領域に位置せしめると、衝突時の衝撃を、フードパネルの全域に略均等に分散して吸収することができるので、歩行者頭部の変位量を最小限にすることができる。また、たとえ、剛性部材と衝突しても、衝撃吸収性に優れ、HIC値を低減することができる。
【実施例】
【0138】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0139】
[実施例1:剛性部材無し、従来例との比較]
全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターをフードパネルに衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0140】
本発明の凸部を設けたインナーパネルとアウターパネル、及び、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、フードパネルは、左右ヒンジ部、及び、ストライカー部に該当する3箇所で固定して、構成した。なお、フードパネル周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材は設けていない。
【0141】
直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、及び、35km/hの速度で、フードパネルの中央に衝突させて、数値解析を行った。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部の最大変位量で歩行者保護性能を評価した。
【0142】
フードパネルの材質は、自動車パネル用の6000系アルミニウム合金を想定した。
【0143】
6000系アルミニウム合金の特性は、Mg:0.2〜1.2%、Si:0.5〜1.5%を含有し、残部Alからなる合金、さらに、Cu:0.1〜1.5%を含有する合金の引張試験を行って求めた。
【0144】
アウターパネルの厚さは1.0mmとし、インナーパネルの厚さは、フードパネルの総質量を揃えるため、打抜き孔の有無によって設定した。本発明の凹部に囲まれた凸部を設けるフード構造は0.8mmとした。比較に用いた、凸部を設けない従来例2及び3の構造も、打抜き孔を設けないので、厚さを0.8mmとした。
【0145】
比較に用いた従来例1のビーム構造(図3)は、打抜き孔を設けるので、厚さは1.0mmとした。表2に、解析結果を示す。
【0146】
【表2】
【0147】
表2中の従来例1は、自動車用フードパネルのインナーパネルに一般的に用いるビーム構造について解析した結果である。従来例1の頭部変位量85.7mmを基準として、頭部変位量が、上記基準より小さく、改善された状態を「○」と評価し、上記基準より大きくなり、悪化した状態を「×」と評価した。
【0148】
従来例2は、本発明の凸部の効果を検証するため、凸部を断続的に設けた構造について解析した結果である。従来例3は、本発明の凸部の周囲を凹部で囲った効果を検証するため、アウターパネルに近接する凹部を、車幅方向のみに延伸し、車両進行方向に並べて配置した構造について解析した結果である。
【0149】
[実施例2:剛性部材無し、凸部の形状]
実施例1と同じ条件で、即ち、全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターをフードパネルに衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0150】
本発明の凸部を設けたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、フードパネルは左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。なお、フードパネル周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材は設けていない。
【0151】
直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、及び、35km/hの速度で、フードパネルの中央に衝突させて、数値解析を行った。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部の最大変位量で、歩行者保護性能を評価した。表3に、解析結果を示す。
【0152】
【表3】
【0153】
No.1〜3は、凸部の幅と深さを一定として、凸部の長さを変更した例である。長辺方向における凸部の長さが短くなるほど、凸部に近接する凹部頂上を起点として、長辺方向に折れ曲がる局所変形が大きくなる。No.3は、凸部の長さが、フードパネルの長辺方向の長さの50%となり、頭部変位量が大幅に大きくなり、悪化し、基準とするビーム構造の頭部変位量より大きくなった例である。
【0154】
No.1、4〜6、及び、9〜11は、凸部の長さと深さを一定として、凸部の幅を変更した例である。凸部の幅が100mm以下のNo.4は、長辺方向の曲げ剛性が不十分で、凸部が折れ曲がり、頭部変位量が、基準とするビーム構造の頭部変位量より大きくなり、悪化した例である。
【0155】
No.1、7、及び、8は、凸部の長さと幅、及び、配置を一定として、凸部の深さを変更した例である。凸部の深さが浅くなるほど、フードパネルの長辺方向の曲げ剛性が低下する。凸部の深さが12mm以下になると、頭部変位量が、基準とするビーム構造の頭部変位量より大きくなり、歩行者保護性が悪化した。
【0156】
No.1、9、及び、10は、凸部の形状を一定として、インナーパネルの厚さを変更した例である。インナーパネルの厚さが薄くなると、フードパネルの質量及び剛性が低下し、頭部変位量が大きくなり、歩行者保護性が悪化する。
【0157】
[実施例3:剛性部材無し、凸部の位置]
実施例1と同じ条件で、即ち、全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターをフードパネルに衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0158】
本発明の凸部を設けたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、フードパネルは左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。なお、フードパネル周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材は設けていない。
【0159】
直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、及び、35km/hの速度で、フードパネルの中央に衝突させて、数値解析を行った。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行った。凸部の中心位置を、前後方向に寄せて、歩行者頭部の最大変位量で、歩行者保護性能を評価した。表4に、解析結果を示す。
【0160】
【表4】
【0161】
No.1〜3は、凸部の形状を一定として、配置位置を変更した例である。凸部が、中心位置からずれ、片側に寄せた状態においても、優れた歩行者保護性能を発揮することが認められた。
【0162】
[実施例4:剛性部材あり、剛性部材衝突時の歩行者保護性能]
アウターパネルからクリアランス60mmの位置に剛性部材を設置した模擬車両前方構造において、実施例1の本発明例のインナーパネルを設けたフードパネルに、歩行者頭部保護基準の子供・大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0163】
即ち、子供頭部の場合、直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、35km/hの速度とした。また、大人頭部の場合、直径165mm、質量4.5kgのインパクターを、65°の角度、35km/hの速度とした。
【0164】
これら条件でインパクターをフードパネルに衝突させた際の数値解析を、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部が受ける衝撃を求め、HIC値によって評価した。衝突位置は、図15に示すように2箇所とした。つまり、フードの車両進行方向前方の衝突地点aに、子供頭部インパクターを衝突させ、フードの車両進行方向後方の衝突地点bに、大人頭部インパクターを衝突させた。
【0165】
ここで、インナーパネルは、アウターパネルに近接する凹部と、一様な高さでエンジンルーム側に突出する凸部からなる以下の2構造を適用した。構造Aは、図14に示すように、凸部高さが車両前方における高さH1より車両後方側の高さH2が大きい。構造Bは、図13に示すように、凸部高さが車両前方及び後方とも同じの高さである。
【0166】
数値解析結果を表5に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを、良好と評価した。
【0167】
【表5】
【0168】
凸部高さを調整した構造Aは、子供頭部、大人頭部いずれの衝突条件でもHIC値を1000以下に収めることができた。一方、凸部高さが一定の構造Bは、子供頭部の歩行者保護性能に優れるが、大人頭部が衝突する進行方向後方側では、HIC値が1000を超える結果となった。
【0169】
[実施例5:剛性部材あり、クリアランスによる影響]
実施例4と同じ条件で、即ち、剛性部材を配置し、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供及び大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0170】
本発明により凸部の高さを調整し、H1を24mmとし、H2を28mmとしたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。
【0171】
さらに、クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。さらに、クリアランス55、50mmまでのHIC値の傾向を検証した。
【0172】
子供及び大人用インパクターは各々、図15に示す地点に衝突させた。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行ない、歩行者頭部が受ける衝撃からHIC値を算出し、評価した。数値解析結果を表6に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを、良好と評価した。
【0173】
子供頭部衝突時の数値解析結果を表3に、大人頭部衝突時の数値解析結果を表7に示す。また、凸部高さとHIC値の相関を図21に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを、良好と評価した。
【0174】
【表6】
【0175】
【表7】
【0176】
No.1〜No.7は、子供頭部が衝突する車両前方の凸部高さH1を変動させた実施例である。子供頭部衝突時に対し、凸部高さH1を15mm以上に設定する必要がある。また、凸部高さが35mm以上の場合には、クリアランスが極めて狭いクリアランス50mmの場合に1000を超えた。
【0177】
No.8〜No.13は、大人頭部が衝突する車両後方の凸部高さH2を変動させた実施例である。運動エネルギーが大きい大人頭部衝突する場合には、凸部高さH2を20mm以上に設定する必要がある。
【0178】
[実施例6:剛性部材あり、凹部直上衝突時の歩行者保護性能]
実施例4と同じ条件、即ち、剛性部材を配置し、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供及び大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0179】
本発明により凸部の高さを調整し、H1を24mmとし、H2を28mmとしたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。さらに、クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。
【0180】
図24に示す本発明による凸部の周囲に設けられる、アウターパネルに近接した凹部直上の地点c、dに、子供及び大人用インパクターを衝突させる数値解析を実施した。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行ない、歩行者頭部が受ける衝撃からHIC値を算出し評価した。数値解析結果を、表8に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを良好と評価した。
【0181】
【表8】
【0182】
No1、2いずれの条件においても、HIC値を1000以下に収めることができた。本発明によるフード構造は、凸部を囲むように凹部が配置されているので、近接する凸部によって衝突直後の衝撃をフードパネル全体に伝播し、剛体衝突時には、近接する凸部が変形することで衝撃が吸収される。よって、本発明による衝撃吸収効果は保持され、子供、大人どちらの衝突条件でも、優れた歩行者保護性能が認められた。
【0183】
[実施例7:剛性部材あり、段差を設けた凸部直上衝突時の歩行者保護性能]
実施例4と同じ条件、即ち、剛性部材を配置し、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供及び大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0184】
インナーパネルは、図23に示すように、本発明により、一つの凸部内に段があり、その高さが、フード前方のH3では24mmとし、フード後方のH4では28mmとしたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。
【0185】
クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。
【0186】
図22に示す凸部直上の地点eに、子供及び大人用インパクターを衝突させる数値解析を実施した。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行ない、歩行者頭部が受ける衝撃からHIC値を算出し、評価した。数値解析結果を表9に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを良好と評価した。
【0187】
【表9】
【0188】
子供、大人いずれの衝突条件でも、HIC値を1000以下に収めることができた。凸部内に段差を設けた場合であっても、本発明による衝撃吸収効果は保持され、子供、大人どちらの衝突条件でも、優れた歩行者保護性能が認められた。
【0189】
[実施例8:材料強度の影響]
実施例1及び4と同様に、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、インナーパネルが6000系、5000系、及び、3000系アルミニウム合金からなるとした場合の歩行者保護性能を数値解析によって評価した。
【0190】
表10に、6000系、5000系、及び、3000系のアルミニウム合金の0.2%耐力、引張強度、及び、BH特性を示す。
【0191】
なお、6000系合金の成分組成は、0.6%Mg、1.0%Si、残部Al及び不可避的不純物であり、5000系合金の成分組成は、4.5%Mg、残部Al及び不可避的不純物であり、3000系合金の成分組成は、1.2%Mn、1.0%Mg、残部Al及び不可避的不純物である。
【0192】
【表10】
【0193】
表10に示すアルミニウム合金の引張性質は、JIS Z 2201に準拠して作製した引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。BH後の耐力は、JIS G 3135の附属書に記載の塗装焼付硬化試験方法と同様に、予歪みを2%、時効温度を170℃、時効時間を20分として測定した。
【0194】
アウターパネルの材質は、自動車用のボディーパネル用の6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの厚さは1.0mmとし、インナーパネルの厚さは0.8mmとした。
【0195】
本発明の凸部の形状について、長さは、長辺方向の81%の長さとし、短辺方向の幅は210mmとし、深さは24mmとし、凸部の中心位置が、進行方向前端から55%の位置になるように、凸部を配置した。剛性部材なしの状態において、子供頭部を衝突させた際の解析結果を、表11に示す。
【0196】
【表11】
【0197】
No.1〜3より、本発明の凸部を設けたインナーパネルは、いずれのアルミニウム合金を適用しても、頭部変位量が、ビーム構造の頭部変位量より小さくなり、優れた歩行者保護性能を発揮することが認められる。
【0198】
また、同じフードパネルにおいて、アウターパネルから60mmの位置に剛性部材を設置した状態で、子供及び大人の歩行者頭部を衝突させた際の解析結果を、表12に示す。
【0199】
【表12】
【0200】
No.4〜6より、本発明の凸部高さを調整したインナーパネルは、いずれのアルミニウム合金を適用しても、歩行者保護性能に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0201】
前述したように、本発明によれば、歩行者頭部がフードパネルに衝突した際のインナーパネルの局所変形を防止し、かつ、衝撃を吸収するので、歩行者頭部の変位量を抑制し、歩行者保護性能を著しく高めることができる。また、万が一エンジンルーム内の剛性部材に衝突しても閉断面空間が変形することで、剛性部材からの衝撃を吸収し、子供・大人どちらの衝突条件においてもHIC値を抑制し優れた歩行者保護性能が得られる。
【0202】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと、エンジン部品などの剛性部材との間隔を縮めることができ、車両のフロント構造の設計自由度を大きくすることができる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠創作の自由度が大きくなる。
【0203】
また、本発明によれば、インナーパネルの材料として、アルミニウム合金に替え、若干、成形性の劣る軽量材料を使用できるので、フードパネルの軽量化と歩行者保護性能の向上との両立が可能となる。
【0204】
したがって、本発明によれば、意匠性に加えて、燃費性能、及び、運動性能の向上が可能な、歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金製のフードパネルを提供することができる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が極めて大きいものである。
【符号の説明】
【0205】
1 フードパネル
2 凸部
3 凹部
4 斜面部
5 歩行者頭部
6 剛性部材
7 アウター
8 インナー
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者と自動車の衝突時に、歩行者、特に、歩行者の頭部を保護する性能、即ち、歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題を背景に、自動車のフードパネルに、軽量なアルミニウム合金板を採用した車両が増えつつある。一方、歩行者と自動車の衝突事故で、歩行者頭部を保護することが重要視され、歩行者保護性に優れるフードパネルの構造が検討されている。
【0003】
歩行者頭部がフードパネルに衝突した際には、まず、アウターパネルが変形し、その後、インナーパネルが変形して、衝突エネルギーが吸収される。しかし、アルミニウム合金は、鋼板に比べ、軽量で、強度が低いので、アルミニウム合金からなるフードパネルは、フードパネルの慣性移動によるエネルギー吸収能が小さい。
【0004】
そのため、歩行者頭部は、エンジンルーム内に深く進入し、エンジン部品などの剛性部材に衝突して、致命的な傷害を受け易い。アルミニウム合金を用いたフードパネルは、歩行者保護性が大きな課題となる。
【0005】
ここで、歩行者保護性能について説明する。歩行者保護性能は、歩行者頭部を模擬したインパクターを実際の車両に衝突させ、頭部に発生する加速度(反力に相当)から下記式(1)で計算される頭部障害基準値(Head Injury Criteria、以下「HIC値」という。)によって評価される。
【0006】
【数1】
【0007】
現在の基準では、図11に示すように、背の低い子供頭部は車両の前方に、背の高い大人頭部は車両後方に、地上から車両の該当する地点までの距離WAD(Wrap Around Distance)1700mmを基に、頭部インパクターの衝撃位置エリアが定められている。また、衝突荷重も、体格に合わせ、国内法規では、子供頭部3.5kg、大人頭部は4.5kgに設定されている。
【0008】
これら試験条件において試験領域の2/3以上の部分でのHIC値が1000以下であり、それ以外の試験領域でもHIC値が2000以下であることが求められている(非特許文献1、参照)。
【0009】
しかし、エンジンルーム内の剛性部材に衝突した場合、その衝撃によってHIC値が基準値を容易に超えてしまう。特に、大人頭部は重量があり、エンジンルーム内に深く進入して、強く剛性部材に衝突する可能性が高い。
【0010】
歩行者頭部を確実に保護するには、インナーパネルと剛性部材の干渉を回避する必要がある。その対策の一つは、フードパネルとエンジン部品などの剛性部材との間隔を大きく拡げることである。しかし、この間隔の拡大は、エンジンルーム周辺の設計自由度を大幅に損ねてしまうので、歩行者頭部の変位量を抑制する対策が検討されている。
【0011】
最も容易な方法は、フードパネルに重量物を配置する方法である(特許文献1、参照)。しかし、この方法は、重量物を配置するが故に、アルミニウム合金を用いたことによる軽量化を損ねてしまう。
【0012】
他に、インナーパネルの中央領域、即ち、図3に示すように、従来ならば梁骨格(ビーム)が延設され、アウターパネルを支持し、フードパネルの剛性を確保していたインナーパネルの中央域において、断面形状を波型とした骨格が、車幅方向に沿って伸びることで、歩行者頭部の変位量を抑制する構造が提案されている(特許文献2、参照)。
【0013】
しかし、上記構造では、上記骨格が進行方向に繋がっていないので、歩行者頭部が衝突した際の衝撃が、車両進行方向に伝播し難い。そのため、衝突初期における衝撃吸収が小さく、歩行者頭部の変位量が十分に抑制されない。
【0014】
そこで、本発明者らは、フードパネルが剛性部材と干渉しても、歩行者頭部が、直接、剛性部材からの衝撃を受けないように、インナーパネルの凹凸を利用するフードパネルを提案した(特許文献3及び4、参照)。しかし、このフードパネルにおいては、アウターパネルに近接する凹部頂上の曲げ剛性が弱く、特に、凹部の交差箇所は、剛性が極めて弱い。
【0015】
そのため、歩行者頭部の衝突位置によっては、凹部の交差箇所を起点に変形し、フードパネルが折れ曲がってしまうことがある。その場合、インナーパネルによる支持作用が得られず、歩行者頭部が、エンジンルーム内に深く進入する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−193871号公報
【特許文献2】特開2006−44311号公報
【特許文献3】特開2008−30732号公報
【特許文献4】特開2008−168844号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】独立行政法人 自動車事故対策機構[http://www.nasva.go.jp/mamoru/car/protection/index.html#01]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
歩行者保護の観点から、フードパネルと剛性部材が干渉しないように、フードパネルと剛性部材の間隔を大きく確保する必要がある。しかし、インナーパネルの材料として、成形性の劣る材料や、軽量な材料(例えば、アルミニウム合金)を使用すれば、歩行者頭部の変位量が増大し、フードパネルと剛性部材の間隔を、より大きく確保しなければならず、エンジンルーム周辺の設計自由度を大幅に損ねてしまう。
【0019】
本発明は、このような問題に鑑み、フードパネルの曲げ剛性を強化し、インナーパネルの局所的変形を抑制することで、歩行者頭部のエンジンルーム内への進入量(変位量)を小さくし、フードパネルとエンジン等の剛性部材との間隔を短縮すること、また、万が一、エンジンルーム内の剛性部材に衝突しても、衝撃吸収性に優れることを課題とし、軽量性と歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、インナーパネルの断面形状が略台形であり、複数の、エンジンルーム側から見て凸部と、アウターパネルに近接して対向する凹部からなり、凹部が、四方を囲み、凸部が、フードパネルの長辺方向に延伸するインナーパネル構造において、歩行者頭部の変位量を抑制でき、改善する知見を見いだし、該知見に基づいて、アルミニウム合金からなるインナーパネルの形状・構造を最適化したものである。
【0021】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0022】
(1)アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルにおいて、
(i)インナーパネルが、
(i-1)その断面形状が略台形であり、フードパネルの長辺方向及び短辺方向に延伸する、エンジンルーム側から見て凸部を、複数個備え、さらに、
(i-2)隣接する上記凸部の間に、アウターパネルに近接し対向する凹部を、複数備え、さらに、
(ii)上記凸部及び凹部からなるインナーパネルの長辺方向の長さlが、アウターパネルの長辺方向の長さLの42%以上90%以下であり、かつ、
(iii)インナーパネルの長辺方向中央の断面形状が、断面の二次モーメントをIxとし、インナーパネルの厚さをtinとして、下記式:
272.8<l/L+5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}
を満たすことを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0023】
(2)前記凹部が、前記凸部の周囲を囲むように配置されていることを特徴とする前記(1)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0024】
(3)前記アウターパネルとの距離が最短のエンジンルーム内の剛体部品を通るアウターパネルの垂線がインナーパネルと交差する点が、前記凹部によって周囲が囲まれている凸部の内であって、該凸部のアウターパネルの長辺方向及び短片方向の長さの25〜75%の長さで囲まれる中央領域に位置することを特徴とする前記(2)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0025】
(4)前記凸部において段差を有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0026】
(5)WAD1700mm未満の範囲におけるインナーパネルの前記凸部の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における前記凸部の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0027】
(6)インナーパネルの前記凸部の高さを、WAD1700mm未満の範囲では、15〜35mmとし、WAD1700mm以上の範囲では、20〜50mmとすることを特徴とする前記(5)に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0028】
(7)WAD1700mmにある前記凸部が段差を有し、WAD1700mm未満の範囲の段差の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における段差の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【0029】
(8)インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位において、前記(1)〜(7)のいずれかに記載される凸部が設けられたことを特徴する歩行者保護に優れた自動車用フードパネル。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、歩行者頭部がフードパネルに衝突した際のインナーパネルの局所変形を抑制し、かつ、衝撃を吸収するので、歩行者頭部の変位量を小さくで、さらに、エンジンルーム内の剛性部材に衝突した場合でも、衝撃吸収性に優れ、歩行者保護性能を著しく高めることができる。
【0031】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと、エンジン部品などの剛性部材との間隔を縮めることができ、車両のフロント構造の設計自由度を大きくすることができる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠創作の自由度が大きくなる。
【0032】
また、本発明によれば、インナーパネルの材料として、アルミニウム合金に替え、若干、成形性の劣る軽量材料を使用できるので、フードパネルの軽量化と歩行者保護性能の向上の両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のフードパネルを示す図である。(a)は、フードパネルの全体を示し、(b)は、フードパネルの断面を模式的に示す。
【図2】フードパネルの支持点と歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)の衝突地点を示す図である。
【図3】フードパネルのビーム構造(従来例1)を示す図である。
【図4】複数の略台形状の凸部と凹部を備えるが、凸部が、フードパネルの長辺方向に断続的に設けられているフードパネル構造(従来例2)を示す図である。
【図5】アウターパネルに、車幅方向に伸びる波型骨格が、車両進行方向に並んで設けられているフードパネル構造(従来例3)を示す図である。
【図6】本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、従来のフードパネルの変位−加速の相関曲線を比較して示す図である。(a)は、従来例1との比較を示し、(b)は、従来例2との比較を示し、(c)は、従来例3との比較を示す。
【図7】フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す図(衝突地点直下を長辺方向から見た図)である。(a)は、本発明の凸部を設けたフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、(b)は、従来のフードパネル(従来例1)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【図8】フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す図である。(a)は、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、(b)は、従来のフードパネル(従来例2)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【図9】フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す図である。(a)は、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、(b)は、従来のフードパネル(従来例3)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【図10】フードパネルの耐変形能を表す“パラメータX”(=(6.4×10-5)Ix+43.8tin)の技術的意味を示す図である。(a)は、“パラメータX”(=(6.4×10-5)Ix+43.8tin)と頭部変位量(mm)の相関を示し、(b)は、“パラメータX”(=(6.4×10-5)Ix+43.8tin)と、局所変形に対応する長辺方向長さ比l/L[%]の相関を示す。
【図11】歩行者頭部保護性能試験における、地上から車両の該当する地点までの距離WAD(Wrap Around Distance)と衝突条件を示す図である。WAD1700mmを基に、大人、子供の頭部の衝撃位置エリアとその条件が定められている(非特許文献1、参照)。
【図12】フードパネルと剛性部材の位置関係を模式的に示す図である。
【図13】アウターパネルに近接するリブのような凹部を形成し、対向してエンジン側に突出する、一定高さの凸部を有する構造とその断面を模式的に示す図である。(a)は、構造B(凸部高さが一定)の全体を示し、(b)は、車両前方の断面Aを示し、(c)は、車両後方の断面Bを示す。
【図14】本発明による、アウターパネルに近接するリブのような凹部を形成し、対向してエンジン側に突出する凸部を有し、フード前方と後方で凸部高さが異なる構造とその断面を模式的に示す図である。(a)は、構造A(凸部高さ調整)の全体を示し、(b)は、車両前方の断面Aを示し、(c)は、車両後方の断面Bを示す。
【図15】フードパネルの拘束地点と子供頭部、大人頭部の衝突位置を示す図である。
【図16】本発明の構造A(凸部高さ調整)におけるストローク−加速度の相関曲線を模式的に示す図である。(a)は、子供頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示し、(b)は、大人頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示す。
【図17】クリアランスが狭い箇所に衝突した場合における、本発明によるフード構造の変形挙動を模式的に示す図である。(a)は、フード衝突時(S1)を示し、(b)は、剛性部材衝突時(S2)の変形態様を示し、(c)は、ストローク最大時の変形態様(S3)を示す。
【図18】構造B(凸部高さ一定)におけるストローク−加速度の相関曲線を模式的に示す図である。(a)は、子供頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示し、(b)は、大人頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示す。
【図19】地点a、本発明の構造A(凸部高さ調整)に大人頭部が衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。(a)は、衝突前を示し、(b)は、衝突後の変形態様を示す。
【図20】地点b、構造B(凸部高さ一定)に大人頭部が衝突した際の変形挙動を模式的に示す図である。(a)は、衝突前を示し、(b)は、衝突後の変形態様を示す。
【図21】本発明によるインナーパネルの凸部高さとHIC値の相関曲線を示す図である。(a)は、子供頭部衝突時のクリアランス−HIC値の相関曲線を示し、(b)は、大人頭部衝突時のストローク−加速度の相関曲線を示す。
【図22】WAD1700mmが凸部直上に位置した場合と衝突地点eを示す図である。
【図23】WAD1700mmが凸部直上に位置した場合に、凸部内に段を付けて高さを調整した構造を示す図である。(a)は、構造の全体を示し、(b)は、構造の断面を模式的に示す。
【図24】フードパネルの拘束地点と凹部直上の衝突位置c及びdを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について説明する。本発明は、歩行者保護性能の観点からなされたものであり、特に重要な歩行者の頭部衝突を例に説明する。なお、本発明は、歩行者の頭部衝突に限定されることなく、また、歩行者の頭部に限定されるものでない。本発明は、あらゆる物体と自動車フードパネルとの衝突に適用可能である。
【0035】
図1に、本発明のフードパネルを示す。図1(a)に、フードパネルの全体を示し、図1(b)に、フードパネルの断面を模式的に示す。
【0036】
図1(a)に示すフードパネル1は、複数の、エンジンルーム側から見て略台形状で、フードパネル1の長辺方向(図中、矢印、参照)に延伸する凸部2と、アウターパネルに近接して対向する凹部3からなり、かつ、凹部3が、凸部2の周囲を囲む部分があることを特徴とする。
【0037】
なお、図1(a)で示すフードパネルは、車軸方向長さが車両進行方向長さより大きいフードである。車種によっては、車両進行方向長さが車軸方向長さより大きいフードパネルもある。そのような場合、車両進行方向に強い曲げモーメントが生じるので、本発明によるフードパネルは、長辺方向となる車両進行方向に延伸する凸部を有する。
【0038】
また、インナーパネルの断面形状は、図1(b)で示すように、凸部2から凹部3につながる斜面部4が斜めに延びる略台形状である。断面形状が矩形であってもよい。また、凹部、凸部をなす面が平面に限らず、曲率を有する曲面であってもよい。
【0039】
図1(b)に、フードパネルの断面を、アウターパネル4と歩行者頭部5を含めて模式的に示す。そして、フードパネルの歩行者保護性能を、有限要素法(FEM)によって、次のように評価した。
【0040】
フードパネルは、アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなるものとした。アウターパネルの厚さは1.0mm、インナーパネルの厚さは0.8mmとした。
【0041】
図2に、フードパネルの支持点と歩行者頭部の衝突地点を示す。図2に示すように、歩行者頭部の衝突地点は、フードパネルの支持点から最も離れたフードパネル中央とした。
【0042】
この理由は、衝突地点が、端部の支持点(例えば、ヒンジ、フック)から離れるほど、フードパネルに生じる曲げモーメントが大きくなり、フードパネル中央付近の変位量が最も大きくなって、歩行者頭部の変位量も大きくなる傾向にあるからである。
【0043】
それ故、フードパネルの支持点から最も離れた中央付近における曲げ剛性を強化すれば、歩行者頭部の最大変位量を小さくすることができる。また、フード中央付近以外のところに歩行者頭部が衝突しても、剛性の強化によって、歩行者頭部の変位量を抑制でき、改善を見込むことができる。
【0044】
フードパネルの周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材を設けないで、歩行者頭部の鉛直方向の変位量(以下、単に「頭部変位量」ということがある。)によって、フードパネルの歩行者保護性能を評価した。頭部変位量が小さいほど、エンジン部品との間の間隔を縮めることができるので、頭部変位量が小さいフードパネルは、歩行者保護性能に優れていると評価することができる。
【0045】
なお、ここでは剛性部材と衝突しない条件であるため、いずれの構造も、HIC値は200〜300程度であり、法規値1000を十分下回る安全な値であった。
【0046】
[ビーム構造(従来例1)との比較]
図6に、本発明のフードパネルの変位−加速度曲線と、従来のフードパネルの変位−加速度曲線を比較して示す。図6(a)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、自動車用フードパネルのインナー構造として広く用いられているビーム構造(従来例1)の変位−加速度の相関曲線を示す。
【0047】
図6(b)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、凸部がフードパネルの長辺方向に断続的に設けられた構造(従来例2)を比較して示す。図6(c)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、横波型ビーム構造(従来例3)を比較して示す。
【0048】
なお、質量を等価にするため、本発明のフードパネルのインナーパネルの厚さは0.8mmとし、従来例の貫通孔を設けたビーム構造のインナーパネルの板厚は1.0mmとした。
【0049】
図6(a)〜(c)において、横軸は、模擬インパクターの鉛直方向の変位量であり、縦軸は、模擬インパクターに生じた加速度である。この加速度は、フードパネルの慣性及び剛性による反力で、歩行者頭部の進行方向とは逆向きに発生する加速度である。
【0050】
一般に、歩行者頭部がフードパネルに衝突すると、静止していたフードパネルの慣性により強い反力が発生する。この反力は、主に、フードパネルの質量に大きく影響される。歩行者頭部が衝突した後、静止していたフードパネルが運動し始め、フードパネルと歩行者頭部の相対速度が低下して、歩行者頭部への反力は、徐々に低減する。
【0051】
最終的には、ヒンジやフックによる端部の拘束で、フードパネルが緊張するので、再び、大きい反力が発生し、歩行者頭部は、上方に向かって跳ね返える。即ち、フードパネルの質量及び剛性が大きいほど、大きい反力が生じる。その結果、歩行者頭部の運動速度は減速され、頭部変位量を、より小さくすることができる。
【0052】
しかし、フードパネルは、端部が拘束されているので、大きい曲げ荷重を受けると、特に、フードパネルの長辺方向に、大きい曲げモーメントが発生する。そのため、フードパネルに、剛性が脆弱な箇所があると、その箇所で局所的な変形が発生し、剛性による反力が、十分に作用しない場合がある。
【0053】
その結果、歩行者頭部の運動速度は減速されず、歩行者頭部は、エンジンルーム内に深く進入することになり、頭部変位量は大幅に大きくなり、悪化する。そのまま、エンジン部品等の剛性部材に衝突することが起こり得る。
【0054】
図6(a)に示すように、一般に用いられているビーム構造(従来例1)の変位−加速度曲線においては、フードパネルの拘束によりフードパネルが緊張して、反力が増大する途上で、反力の大幅な落込みが認められる。
【0055】
ここで、図7に、フードパネルに歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す(衝突地点直下を長辺方向から見ている)。図7(a)に、本発明の凸部を設けたフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、図7(b)に、従来のフードパネル(従来例1)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【0056】
図7(a)に示すように、本発明構造は全体的に撓んで、局所的な変形が見られず、歩行者頭部が確実に支持される。一方、図7(b)に示すように、従来のフードパネル(従来例1)では、衝突後、曲げ剛性に優れるビーム部に大きな変形は見られないが、衝突地点近傍から局所変形が発生して、ビーム部の根元に変形が集中し、大きく折れ曲がっている。これは、フードパネルが、局所的に変形したためである。
【0057】
そのため、歩行者頭部の運動速度は、十分に減速されず、図7(a)に比べ、歩行者頭部の変位量の絶対量が大きい結果となっている。
【0058】
[本発明のフードパネルにおける凹凸の効果]
一方、本発明のフードパネルにおいては、厚肉のビーム構造のフードパネルに比べ、頭部変位量を小さくすることができる。そのことを、本発明のフードパネルの特徴である凸部と凹部、及び、その配置に基づいて、以下に説明する。
【0059】
本発明のフードパネルにおける凸部は、エンジンルーム側から見て略台形状の凸部であり、アウターパネルと閉断面空間を形成し(図1、参照)、フードパネルの曲げ剛性を強化する作用をなす。
【0060】
即ち、本発明のフードパネルにおいては、略台形状の凸部が、大きい曲げモーメントが発生するフードパネルの長辺方向の剛性を補強するように設けられているので、フードパネルの撓み変形が低減する。
【0061】
本発明のフードパネルにおいて、凹部は、アウターパネルに近接して位置するので(図1、参照)、衝突による衝撃を即座に受け、衝撃をインナーパネル全般に伝播する作用をなす。また、上記凹部は、アウターパネルを支持することにより、撓み変形を抑制する作用をなす。
【0062】
凸部の周囲を凹部で囲む構造の本発明のフードパネルにおいては、歩行者頭部が衝突した直後の衝撃を、即座に、凹部で受け、フードパネルの長辺方向に延伸した凸部に伝達するので、フードパネルの広範囲で、上記衝撃を受けることができる。
【0063】
即ち、本発明のフードパネルにおいては、歩行者頭部によって、下方に押し込まれたフードパネルに生じる大きな曲げモーメントを、フードパネルの長辺方向に延伸した凸部によって受け、フードパネル全体の撓み変形を抑制することができる。
【0064】
また、本発明のフードパネルにおいては、フードパネルの周囲に設けた凹部によって、アウターパネルが支えられ、閉断面空間を形成するアウターパネルの撓み変形を抑制することができる。
【0065】
さらに、本発明のフードパネルにおいては、大きい曲げモーメントが発生するフードパネルの長辺方向に凸部を設けることで、曲げ剛性が脆弱な凹部同士の交差が避けられ、凹部を起点として発生するフードパネルの局所的変形の発生を防ぐことができる。
【0066】
このように、本発明のフードパネルにおいては、大きい曲げ剛性を有する凸部と、アウターパネルに近接する凹部を、変形抑制の点で、効果的に配置しているので、厚さ1.0mmのビーム構造と同等の1次反力を発生させて、フードパネルの撓み変形の発生を抑制し、かつ、局所変形の発生を防いで、歩行者頭部の変位量を小さくすることができる。
【0067】
また、アウターパネルとエンジンルーム内の剛体、例えば、エンジンブロック、サスペンション、バッテリーなどの部品との距離が短い、即ち、クリアランスが狭い領域に、大きな曲げ剛性を有する凸部を配置すると、衝突時の衝撃を、フードパネルの全域に略均等に分散して吸収することができるので、歩行者頭部の変位量を最小限にすることができ、インナーパネルとエンジンルーム内の剛体との衝突を回避する高い効果を発揮する。
【0068】
このとき、歩行者頭部は車両後方側に向かって斜めに衝突するため、凸部はアウターパネルの曲率に沿った垂線方向から、エンジンルーム内の剛体に最も距離が短い位置に配置することが望ましい。
【0069】
[従来例との比較]
図4に、複数の略台形状の凸部と凹部を備えているが、凸部が、フードパネルの長辺方向に断続的に設けられているフードパネル(従来例2)を示し、図5に、アウターパネルに、車幅方向に伸びる波型骨格が、車両進行方向に並んで設けられているフードパネル(従来例3)を示す。本発明者らは、図4及び図5に示すフードパネルの歩行者保護性能を検証した。以下、説明する。
【0070】
[従来例2:反転構造の変位量]
図6(b)に、本発明のフードパネルの変位−加速度の相関曲線と、図4に示す従来のフードパネル(従来例2)の変位−加速度の相関曲線を比較して示す。
【0071】
図6(b)から、フードパネルの厚さが0.8mmでも、歩行者頭部衝突時の衝撃を、アウターパネルに近接する凹部を含む広範囲で受けることができるので、厚さ1.0mmのフードパネルの場合と同程度の1次加速度が発生していることが解る。
【0072】
図8に、フードパネルに歩行者頭部が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す。図8(a)に、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、図8(b)に、従来のフードパネル(従来例2)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【0073】
図8(a)及び(b)に示すように、曲げ剛性が脆弱な凹部を起点として、局所的な変形が生じたため、歩行者頭部に反力が作用しない状態となり、歩行者頭部の変位量は大幅に大きくなり、悪化した。
【0074】
[従来例3:横波構造の変位量]
図6(c)に、本発明のフードパネルの変位−加速度曲線と、図5に示す従来のフードパネル(従来例3)の変位−加速度曲線を比較して示す。
【0075】
図6(c)から、フードパネルの厚さが0.8mmでも、歩行者頭部衝突時の衝撃を、アウターパネルに近接する凹部を含む広範囲で受けることができるので、厚さ1.0mmのフードパネルの場合と同程度の1次加速度が発生していることが解る。また、フードパネルの長辺方向となる車幅方向の曲げ剛性が強化されているので、従来例2のような局所変形は生じず、反力の急激な落込みはなかった。
【0076】
図9に、フードパネルに歩行者頭部が衝突したときの、フードパネルの変形態様を示す。図9(a)に、本発明のフードパネルに歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示し、図9(b)に、従来のフードパネル(従来例3)に歩行者頭部が衝突したときの変形態様を示す。
【0077】
図9(a)及び(b)に示すように、フードパネル中央領域の外周が、アウターパネルに近接する凹部で囲われていないため、アウターパネルを支持することができず、歩行者頭部の衝突により、中央領域全体が押し下げられるように変形した。
【0078】
図6(c)中、破線の円で示すように、反力が低い状態となり、歩行者頭部の変位量は大幅に大きくなり、悪化した。
【0079】
[凸部形状の最適化]
図1に示す本発明のフードパネルにおいて、凸部形状が、歩行者頭部の変位量に及ぼす影響について検討した。
【0080】
歩行者頭部の変位量は、フードパネルの変形挙動の影響を大きく受ける。特に、フードパネルの長辺方向における曲げ剛性と局所変形の有無が、歩行者頭部の変位量に大きく影響する。
【0081】
そこで、凸部の形状について、長辺方向の曲げ剛性に対応する断面二次モーメントIx[mm4]、インナーパネルの板厚tin、局所変形に対応する長辺方向の長さ比l/L[%](l:凸部及び凹部からなる区画の長辺方向の長さ、L:アウターパネルの長辺方向の長さ)等の条件を、適宜変えて歩行者保護性能を評価した。
【0082】
評価は、自動車用フードに用いるビーム構造(従来例1)を基準とし、歩行者頭部の変位量が、該基準より小さい場合を、歩行者保護性能が良好であると評価した。
【0083】
図10に、評価結果を示す。図中、横軸の“パラメータX”は、下記式で定義する指標である。図中、縦軸は、局所変形に対応する長辺方向の長さ比l/L[%]である。
X=(6.4×10-5)Ix+43.8tin
Ix:長辺方向の曲げ剛性に対応する断面二次モーメント[mm4]
tin:インナーパネルの厚さ[mm]
【0084】
ここで、前記パラメータXは、以下のようにして求めた。
【0085】
フードパネルの質量が重くなるほど、歩行者頭部は減速され、変位量は小さくなるため、本発明による課題解決には、閉断面空間の曲げ剛性のみでは決まらず、フードパネル質量に対応するインナーパネル板厚にも大きく影響される。
【0086】
そこで、インナーパネルの厚さtinと、長辺方向の曲げ剛性に対応する断面二次モーメントIxを変数として組み込んだパラメータXを設定した。このパラメータXを指標として、歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)がフードパネルに衝突した後のフードパネルの最大変形量を抑える耐変形能を表すことができるからである。
【0087】
即ち、以下のようにしてパラメータXを定めた。
【0088】
(i)0.2%耐力126MPa、引張強さ256MPa、縦弾性係数70GPa、横弾性係数26GPa、ポアソン比0.33、密度2.7Mg/m3の6000系アルミニウム合金からなる板厚1.0mmのアウターパネルに、
(ii)同一の物理的、及び、機械的性質を有する同材料からなるものであって、図1に示す本発明所定の形状にし、断面二次モーメントを10000〜100000mm4の範囲で、かつ、板厚を0.7〜0.9mmの範囲で、合計20種類変化させた、インナーパネルを組み合わせた。
【0089】
(iii)図2で示すヒンジ部2点とストライカー部1点の合計3点で拘束した、全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのエンジンフードパネルを想定し、
(iv)歩行者頭部を模擬した、直径165mm、質量3.5kgの球状のインパクターを、65°の角度、35km/hの速度で、上記フードパネル中央部に衝突させた際の変位を、一般的な有限要素法(FEM)で数値解析した。
【0090】
(v)なお、前記(ii)の20種類の板厚tin及び曲げ剛性Ixの組合せは、数値解析において、アルミニウム合金板材の成形性を考慮して、閉断面空間の深さを25mmまで、また、一般的な0.5mm厚程度の鋼板からなるフードパネルと等価剛性を確保できるように、板厚0.7〜0.9mmの範囲として選択し、採用している。
【0091】
(vi)この結果において、上記フードパネルの動的最大変位量δmaxに対し、前記変化させた板厚tin及び曲げ剛性Ixを変数として、線形重回帰分析した結果、次式が得られた。
δmax=122.4−{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}
【0092】
ここで、決定係数R=0.83であり、数値解析結果の最大変位量をtin及びIxで精度良く表せることが判明した。
【0093】
(vii)即ち、最大変位量δmaxを、指標とするビーム構造(従来例1)の変位量85.7mm以下に抑えたい場合には、前式右辺の
(6.4×10-5)Ix+43.8tin
で求まる値を、図10(a)に示すように、36.7以上にすればよいことが解る。
【0094】
したがって、これをパラメータXとして定義することで、フードパネルの耐変形能を表示することができる。即ち、Xが大きいほど、動的最大変形量δmaxを抑えることができる。
【0095】
ここで、フードパネルの長辺方向に生じる局所変形を考慮して、それに対応する長辺方向長さの比l/Lで整理すれば、閉断面空間の適切な形状は、図10(b)に示すように、つまり、長辺方向長さの比l/Lは、42%以上90%以下の範囲、かつ
l/L<−5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}+272.8
を満たすことが望ましいことが解った。
【0096】
図10(a)及び(b)では、各条件につき、歩行者頭部の変位量が、基準(従来例1)より優れている場合を○で示し、基準(従来例1)より劣っている場合を●で示す。
【0097】
なお、前述のようにパラメータXを求める際、インナーパネルの板厚を0.7〜0.9mm、アウターパネルの板厚1.0mmとした解析結果を基にしたが、インナーパネルの板厚0.7〜1.0mm、アウターパネルの板厚0.8〜1.2mmの範囲内であれば、Xをそのまま適用して、歩行者頭部(歩行者頭部を模擬したインパクター)がフードパネル中央に衝突した場合のフードパネルの耐変形能を、実用上問題なく評価できる。
【0098】
[凸部の長さ]
以上の通り、本発明の凸部の長辺方向の長さは、アウターパネルの長辺方向の長さLに対して、“42%以上90%以下”が望ましい。凸部の長さが、長辺方向の42%未満とると、凹部の頂上からの局所的な変形により、フードパネルが、長辺方向に折れ曲がり、歩行者頭部の変位量が大幅に大きくなり、悪化する恐れがある。
【0099】
凸部は、長辺方向の全体に延伸して設けることが望ましいが、長さが、長辺方向の長さの90%を超えると、フードパネルの周囲に、剛性確保のため設ける閉断面構造を阻害して、フードパネルの捩り剛性や、曲げ剛性を損なう恐れがある。l/Lは、フードパネルの変形をより安定的に抑制し、かつフードパネルの設計の自由度を確保する観点から、55〜85%が好ましい。
【0100】
[凸部の幅]
本発明の凸部の短辺方向の長さは、90mm超、300mm以下が望ましい。凸部の間隔が90mm以下であると、曲げ剛性が不足し、インナーパネルが長辺方向で折れ曲がり、歩行者頭部の変位量が大幅に大きくなり、悪化する恐れがある。一方、凸部の間隔が300mm超であると、凹部の間隔が拡がり過ぎ、アウターパネルが大きく撓んで、歩行者頭部の変位量が大きくなり、悪化する。
【0101】
[凸部の高さ]
本発明の凸部の高さは、15mm超50mm以下が望ましい。凸部の高さが15mm以下であると、長辺方向の曲げ剛性が不足し、インナーパネルが長辺方向で折れ曲がり、頭部変位量が大きくなり、悪化する恐れがある。一方、凸部の高さが50mm超であると、エンジン部品との間隔が狭くなり、インナーパネルとエンジン部品が干渉し易くなる。また、インナーパネルの成形も極めて難しくなる。
【0102】
[凸部の配置位置]
本発明の凸部の中心は、図2に示すように、フードパネルの車両前方端から、短辺長さの30%超、75%以下の範囲に位置させることが好ましい。凸部の中心位置が、短辺長さの30%以下の範囲にあれば、凸部が、フードパネルの周囲に、剛性確保のため設ける閉断面構造を阻害して、フードパネルの捩り剛性や、曲げ剛性を損なう恐れがある。
【0103】
凸部の中心位置が、短辺長さの75%超の範囲においても、凸部が、フードパネルの周囲に、剛性確保のために設ける閉断面構造を阻害して、フードパネルの捩り剛性や、曲げ剛性を損なう恐れがある。
【0104】
このように、凸部が、一方に寄った場合、歩行者頭部の衝突位置によって、凸部による曲げ剛性強化の効果が小さく、歩行者頭部の変位量の抑制に効果的に作用しない恐れがある。そのため、歩行者頭部の変位量が最も大きくなり易いフードパネル中央付近(短辺長さの40〜60%程度の範囲)に、凸部を設けることが望ましい。
【0105】
[剛性部材衝突時の歩行者保護性能]
次に、エンジンルーム内の部品を想定した剛性部材を配置し、インナーパネルからエンジン部品までの距離、即ち、クリアランスが極めて狭い場合を想定した歩行者頭部保護性能試験の数値解析を実施した。フードパネルモデルは、インナーパネルとアウターパネル、及び、ヘム加工部から構成され、左右ヒンジ部、及び、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。
【0106】
そして、図12に示すように、クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。
【0107】
前記模擬フロント構造には、図15に示すようにWADによる衝突位置エリアに対応させ、子供・大人の異なる衝突条件で頭部インパクターを地点a、bの2箇所に衝突させた。つまり、フード前方の衝突地点aは、WAD1700mm未満として子供頭部インパクターを、フード後方の衝突地点bは、WAD1700mm以上として大人頭部インパクターを衝突させた。
【0108】
インナーパネルは、本発明に則し、アウターパネルに近接するリブのような凹部を形成し、対向してエンジン側に突出する凸部を有する構造であるが、構造Aは、図14に示すように、凸部の高さが異なる構造であり、フードパネルの前方の凹凸高さH1を24mm、後方での凹凸高さH2を28mmに設定した。
【0109】
一方、構造Bは、図13に示すように、フードパネルの前方及び後方でも一定の凹凸高さ24mmに設定されている。なお、フードパネルの板厚はいずれも、アウターパネルの板厚を1.0mm、インナーパネルの板厚を0.8mmとした。
【0110】
衝突条件は、歩行者頭部保護試験に基づき、衝突地点aには、子供頭部、直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、角度65°、速度35km/hとした。衝突地点bには、大人頭部の場合、直径165mm、質量4.5kgのインパクターを、角度65°、速度35km/hとした。
【0111】
歩行者保護性能はHIC値より、1000以下を良好として評価した。評価結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
凸部高さを調整した構造Aは、子供頭部、大人頭部いずれの衝突条件でもHIC値を1000以下に収めることができた。一方、凸部高さが一定の構造Bは、子供頭部の歩行者保護性能に優れるが、大人頭部が衝突する進行方向後方側では、HIC値が1000を超える結果となった。
【0114】
図16に、凸部高さを調整した構造Aにおける、(a)車両前方、子供頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図16(a))と、(b)車両後方、大人頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図16(b))、を模式的に示す。
【0115】
なお、図16において、横軸は、模擬インパクターの鉛直方向の変位量であり、縦軸は、模擬インパクターに生じた加速度である。この加速度は、フードパネルから生じる反力で、歩行者頭部の進行方向とは逆向きに発生する加速度である。
【0116】
また、剛性部材衝突時のフードパネルの変形挙動を、図17に示す。
【0117】
歩行者頭部がフードパネルのクリアランスが狭い箇所に衝突すると、1次の加速度ピークと、2次の加速度ピークが生じる。即ち、1次の加速度ピークは、図17(a)で示すように、衝突初期(S1時)に歩行者頭部がアウターパネルの変形及びフードパネルの慣性による反力を受け、速度が減少する際に生じる加速度ピークである。
【0118】
2次の加速度ピークは、さらに、フードパネルの変形が進み、図17(b)で示すように、インナーパネルと剛性部材との衝突(S2時)によって、速度が減少する際に生じる加速度ピークである。
【0119】
図17(c)で示すストローク量が最大となるS3において、歩行者頭部は、フードパネルから跳ね返り、ストローク量及び加速度は低下する。
【0120】
なお、フードパネル、剛性部材の材質、フードの拘束条件、クリアランスによっては、加速度ピークの傾向は異なる。例えば、鋼板製のフードパネルは、比重、強度が大きいため、衝突初期に受ける反力が非常に大きくなり、2次の加速度ピークが生じない場合などがある。また、クリアランスが極めて狭い場合には、1次の加速度ピークと2次の加速度ピークが合体し、1つの加速度ピークが生じる場合がある。
【0121】
地点a、軽量な子供頭部が衝突する場合は、剛性部材との衝突によりインナーパネルが変形することで衝撃が吸収される。構造Aでは、凸部が円滑に変形することで、図16に示すように、2次の加速度ピークが低く抑制され、HIC値も1000以下に収まった。
【0122】
また、地点b、重い大人頭部が衝突する場合でも、車両後方側の凸部高さH2を大きくしたことで、インナーパネルの変形による衝撃吸収性が増加し、図19に示すように、アウターパネルと剛性部材の間に十分な空間を確保することができた。したがって、強い衝撃を発生させず、大人頭部においてもHIC値を抑制することができた。
【0123】
次に、図18に、構造Bにおける、(a)車両前方、子供頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図18(a))と、(b)車両後方、大人頭部衝突時の頭部のストローク量−加速度の相関(図18(b))、を模式的に示す。図中破線で示すのは、構造Aのストローク量−加速度の相関である。
【0124】
構造Bは、構造Aと同様に、アウターパネルに近接する凹部と、対向してエンジンルーム側に突出する凸部からなる構造であるが、車両前方側と後方側の凸部の高さが同じに設定されている。
【0125】
そのため、図18(a)に示すように、車両前方、子供頭部衝突時には、2次の加速度ピークが抑制され、優れた歩行者保護性能が認められたが、質量が大きく、運動エネルギーが大きい大人頭部に対しては、凸部高さが低く、十分な衝撃吸収性がないため、図20に示すように、インナーパネルが潰れ、歩行者頭部は剛性部材に底付きした。よって、図18(b)に示すように、2次の加速度ピークが上昇し、HIC値が増大した。
【0126】
以上のように、アウターパネルに近接する凹部と、対向してエンジンルーム側に突出する凸部からなる構造において、フードパネルの進行方向前方と後方の凸部の高さを調整することで、子供・大人の異なる衝突条件に対しても、優れた歩行者保護性能を確保することができる。
【0127】
そこで、凸部高さを変動し、適切な設定範囲を検証した。クリアランスが狭い状態としてインナーパネルから60mmを基準とし、さらに狭まった条件も想定して、クリアランス55mm、50mmまでのHIC値の傾向を検証した。計算結果を図21に示す。
【0128】
子供頭部の場合、クリアランスが60mmであると、凸部高さの広い範囲で、HIC値は1000を十分下回ることができた。しかし、クリアランスが狭まるにつれて、HIC値は大きくなり、クリアランス50mmでは、凸部高さが15mm未満であると、剛性部材衝突時にインナーパネルが潰れ切り、頭部はエンジン剛体からの直接的な衝撃を受け、HIC値が増大した。
【0129】
一方、凸部高さが35mm超となれば、運動エネルギーが高い状態で、インナーパネルが剛性部材と衝突するので、2次の加速度ピークが1次の加速度ピークより大きくなり、HIC値が増大した。したがって、凸部高さ15〜35mmの範囲が適切であることが解った。
【0130】
また、大人頭部の場合、クリアランスが50〜60mmのいずれの場合も、凸部高さが20mm以上あれば、HIC値は1000を下回ることができた。しかし、凸部高さが20mm未満であると、剛性部材衝突時にインナーパネルが潰れ切り、エンジン剛体からの直接的な衝撃により、HIC値が1000を超えた。
【0131】
凸部高さHが大きいほど望ましいことが、図21からも明らかであるが、凸部高さが50mm超となるような構造は、成形が極めて難しく、実用的ではない。したがって、凸部高さを20〜50mmとすれば適切であることが解った。
【0132】
なお、図21からも明らかなように、より狭いクリアランス条件に対しては、子供頭部の場合は、凸部高さ25mm前後にて、大人頭部の場合は、30mm前後にて、HIC値が1000以下となる可能性がある。また、フードパネルの形状、アウターパネルやインナーパネルの板厚、拘束条件等によって、HIC値は大きく異なるため、好ましくは、子供頭部の場合は20〜30mmの範囲、大人頭部の場合は25〜40mmの範囲が適切である。
【0133】
[WAD1700の境界付近]
ここまで、1つの凸部に対し一定の高さを設定して説明したが、例えば、図22に示すように、子供、大人の衝突条件の境界線WAD1700mmが凸部直上に位置する場合には、図23に示すように、1つの凸部内で段差を設け、フード前方側と、フード後方側で異なる凸部高さに調整してもよい。また、フードパネル直下の剛性部材の形状に応じて、これら段差を複数設け、歩行者保護性能を調整してもよい。
【0134】
[パネルの板厚]
以上のように、本発明による凸部を設けたフードパネルはストローク量を縮め、万が一、剛性部材と衝突してもHIC値を低減することができる。このときのフード板厚について、インナーパネルの厚さが1.0mm超、又は、アウターパネルの厚さが1.2mm超であると、フードパネルの厚さが過度に厚すぎることになり、変形強度が高すぎ、優れた衝撃吸収性が得られない恐れがある。加えて、鋼板からなるフードパネルの軽量化が達成できない。
【0135】
一方、インナーパネルの厚さが0.7mm未満で、アウターパネルの厚さが0.8mm未満であると、フードパネルが変形し易い状態となって、ストローク量の増大、また、剛性部材衝突時には、インナーパネルが完全に圧潰し、剛性部材から強い衝撃を受ける恐れがあり、好ましい衝撃吸収性を得られない。
【0136】
したがって、所要の歩行者保護性能を確保するためには、インナーパネルの厚さは0.7〜1.0mmが好ましく、アウターパネルの厚さは0.8〜1.2mmが好ましい。
【0137】
[好ましい実施形態]
本発明においては、アウターパネルとの距離が最短のエンジンルーム内の剛体部品を通るアウターパネルの垂線がインナーパネルと交差する点を、凹部によって周囲が囲まれている凸部の内であって、凸部のアウターパネルの長辺方向及び短片方向の長さの25〜75%の長さで囲まれる中央領域に位置せしめると、衝突時の衝撃を、フードパネルの全域に略均等に分散して吸収することができるので、歩行者頭部の変位量を最小限にすることができる。また、たとえ、剛性部材と衝突しても、衝撃吸収性に優れ、HIC値を低減することができる。
【実施例】
【0138】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0139】
[実施例1:剛性部材無し、従来例との比較]
全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターをフードパネルに衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0140】
本発明の凸部を設けたインナーパネルとアウターパネル、及び、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、フードパネルは、左右ヒンジ部、及び、ストライカー部に該当する3箇所で固定して、構成した。なお、フードパネル周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材は設けていない。
【0141】
直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、及び、35km/hの速度で、フードパネルの中央に衝突させて、数値解析を行った。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部の最大変位量で歩行者保護性能を評価した。
【0142】
フードパネルの材質は、自動車パネル用の6000系アルミニウム合金を想定した。
【0143】
6000系アルミニウム合金の特性は、Mg:0.2〜1.2%、Si:0.5〜1.5%を含有し、残部Alからなる合金、さらに、Cu:0.1〜1.5%を含有する合金の引張試験を行って求めた。
【0144】
アウターパネルの厚さは1.0mmとし、インナーパネルの厚さは、フードパネルの総質量を揃えるため、打抜き孔の有無によって設定した。本発明の凹部に囲まれた凸部を設けるフード構造は0.8mmとした。比較に用いた、凸部を設けない従来例2及び3の構造も、打抜き孔を設けないので、厚さを0.8mmとした。
【0145】
比較に用いた従来例1のビーム構造(図3)は、打抜き孔を設けるので、厚さは1.0mmとした。表2に、解析結果を示す。
【0146】
【表2】
【0147】
表2中の従来例1は、自動車用フードパネルのインナーパネルに一般的に用いるビーム構造について解析した結果である。従来例1の頭部変位量85.7mmを基準として、頭部変位量が、上記基準より小さく、改善された状態を「○」と評価し、上記基準より大きくなり、悪化した状態を「×」と評価した。
【0148】
従来例2は、本発明の凸部の効果を検証するため、凸部を断続的に設けた構造について解析した結果である。従来例3は、本発明の凸部の周囲を凹部で囲った効果を検証するため、アウターパネルに近接する凹部を、車幅方向のみに延伸し、車両進行方向に並べて配置した構造について解析した結果である。
【0149】
[実施例2:剛性部材無し、凸部の形状]
実施例1と同じ条件で、即ち、全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターをフードパネルに衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0150】
本発明の凸部を設けたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、フードパネルは左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。なお、フードパネル周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材は設けていない。
【0151】
直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、及び、35km/hの速度で、フードパネルの中央に衝突させて、数値解析を行った。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部の最大変位量で、歩行者保護性能を評価した。表3に、解析結果を示す。
【0152】
【表3】
【0153】
No.1〜3は、凸部の幅と深さを一定として、凸部の長さを変更した例である。長辺方向における凸部の長さが短くなるほど、凸部に近接する凹部頂上を起点として、長辺方向に折れ曲がる局所変形が大きくなる。No.3は、凸部の長さが、フードパネルの長辺方向の長さの50%となり、頭部変位量が大幅に大きくなり、悪化し、基準とするビーム構造の頭部変位量より大きくなった例である。
【0154】
No.1、4〜6、及び、9〜11は、凸部の長さと深さを一定として、凸部の幅を変更した例である。凸部の幅が100mm以下のNo.4は、長辺方向の曲げ剛性が不十分で、凸部が折れ曲がり、頭部変位量が、基準とするビーム構造の頭部変位量より大きくなり、悪化した例である。
【0155】
No.1、7、及び、8は、凸部の長さと幅、及び、配置を一定として、凸部の深さを変更した例である。凸部の深さが浅くなるほど、フードパネルの長辺方向の曲げ剛性が低下する。凸部の深さが12mm以下になると、頭部変位量が、基準とするビーム構造の頭部変位量より大きくなり、歩行者保護性が悪化した。
【0156】
No.1、9、及び、10は、凸部の形状を一定として、インナーパネルの厚さを変更した例である。インナーパネルの厚さが薄くなると、フードパネルの質量及び剛性が低下し、頭部変位量が大きくなり、歩行者保護性が悪化する。
【0157】
[実施例3:剛性部材無し、凸部の位置]
実施例1と同じ条件で、即ち、全長900〜1500mm、全幅1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供用インパクターをフードパネルに衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0158】
本発明の凸部を設けたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、フードパネルは左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。なお、フードパネル周辺に、エンジン部品、車体フレーム等の剛性部材は設けていない。
【0159】
直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、及び、35km/hの速度で、フードパネルの中央に衝突させて、数値解析を行った。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行った。凸部の中心位置を、前後方向に寄せて、歩行者頭部の最大変位量で、歩行者保護性能を評価した。表4に、解析結果を示す。
【0160】
【表4】
【0161】
No.1〜3は、凸部の形状を一定として、配置位置を変更した例である。凸部が、中心位置からずれ、片側に寄せた状態においても、優れた歩行者保護性能を発揮することが認められた。
【0162】
[実施例4:剛性部材あり、剛性部材衝突時の歩行者保護性能]
アウターパネルからクリアランス60mmの位置に剛性部材を設置した模擬車両前方構造において、実施例1の本発明例のインナーパネルを設けたフードパネルに、歩行者頭部保護基準の子供・大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0163】
即ち、子供頭部の場合、直径165mm、質量3.5kgのインパクターを、65°の角度、35km/hの速度とした。また、大人頭部の場合、直径165mm、質量4.5kgのインパクターを、65°の角度、35km/hの速度とした。
【0164】
これら条件でインパクターをフードパネルに衝突させた際の数値解析を、汎用の動的陽解法の解析コードで行い、歩行者頭部が受ける衝撃を求め、HIC値によって評価した。衝突位置は、図15に示すように2箇所とした。つまり、フードの車両進行方向前方の衝突地点aに、子供頭部インパクターを衝突させ、フードの車両進行方向後方の衝突地点bに、大人頭部インパクターを衝突させた。
【0165】
ここで、インナーパネルは、アウターパネルに近接する凹部と、一様な高さでエンジンルーム側に突出する凸部からなる以下の2構造を適用した。構造Aは、図14に示すように、凸部高さが車両前方における高さH1より車両後方側の高さH2が大きい。構造Bは、図13に示すように、凸部高さが車両前方及び後方とも同じの高さである。
【0166】
数値解析結果を表5に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを、良好と評価した。
【0167】
【表5】
【0168】
凸部高さを調整した構造Aは、子供頭部、大人頭部いずれの衝突条件でもHIC値を1000以下に収めることができた。一方、凸部高さが一定の構造Bは、子供頭部の歩行者保護性能に優れるが、大人頭部が衝突する進行方向後方側では、HIC値が1000を超える結果となった。
【0169】
[実施例5:剛性部材あり、クリアランスによる影響]
実施例4と同じ条件で、即ち、剛性部材を配置し、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供及び大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0170】
本発明により凸部の高さを調整し、H1を24mmとし、H2を28mmとしたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。
【0171】
さらに、クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。さらに、クリアランス55、50mmまでのHIC値の傾向を検証した。
【0172】
子供及び大人用インパクターは各々、図15に示す地点に衝突させた。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行ない、歩行者頭部が受ける衝撃からHIC値を算出し、評価した。数値解析結果を表6に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを、良好と評価した。
【0173】
子供頭部衝突時の数値解析結果を表3に、大人頭部衝突時の数値解析結果を表7に示す。また、凸部高さとHIC値の相関を図21に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを、良好と評価した。
【0174】
【表6】
【0175】
【表7】
【0176】
No.1〜No.7は、子供頭部が衝突する車両前方の凸部高さH1を変動させた実施例である。子供頭部衝突時に対し、凸部高さH1を15mm以上に設定する必要がある。また、凸部高さが35mm以上の場合には、クリアランスが極めて狭いクリアランス50mmの場合に1000を超えた。
【0177】
No.8〜No.13は、大人頭部が衝突する車両後方の凸部高さH2を変動させた実施例である。運動エネルギーが大きい大人頭部衝突する場合には、凸部高さH2を20mm以上に設定する必要がある。
【0178】
[実施例6:剛性部材あり、凹部直上衝突時の歩行者保護性能]
実施例4と同じ条件、即ち、剛性部材を配置し、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供及び大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0179】
本発明により凸部の高さを調整し、H1を24mmとし、H2を28mmとしたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。さらに、クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。
【0180】
図24に示す本発明による凸部の周囲に設けられる、アウターパネルに近接した凹部直上の地点c、dに、子供及び大人用インパクターを衝突させる数値解析を実施した。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行ない、歩行者頭部が受ける衝撃からHIC値を算出し評価した。数値解析結果を、表8に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを良好と評価した。
【0181】
【表8】
【0182】
No1、2いずれの条件においても、HIC値を1000以下に収めることができた。本発明によるフード構造は、凸部を囲むように凹部が配置されているので、近接する凸部によって衝突直後の衝撃をフードパネル全体に伝播し、剛体衝突時には、近接する凸部が変形することで衝撃が吸収される。よって、本発明による衝撃吸収効果は保持され、子供、大人どちらの衝突条件でも、優れた歩行者保護性能が認められた。
【0183】
[実施例7:剛性部材あり、段差を設けた凸部直上衝突時の歩行者保護性能]
実施例4と同じ条件、即ち、剛性部材を配置し、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、歩行者頭部保護基準の子供及び大人用インパクターを衝突させる試験に相当する数値解析を実施した。
【0184】
インナーパネルは、図23に示すように、本発明により、一つの凸部内に段があり、その高さが、フード前方のH3では24mmとし、フード後方のH4では28mmとしたインナーパネルとアウターパネル、ヘム加工部から構成されるフードパネルモデルを、左右ヒンジ部、ストライカー部に該当する3箇所で固定して構成した。
【0185】
クリアランスが極めて狭い状態を想定して、インナーパネルからのクリアランスが60mmとなる位置に剛性部材を設け、エンジン部品が備わった車両用フロント構造を模擬した。
【0186】
図22に示す凸部直上の地点eに、子供及び大人用インパクターを衝突させる数値解析を実施した。数値解析は、汎用の動的陽解法の解析コードで行ない、歩行者頭部が受ける衝撃からHIC値を算出し、評価した。数値解析結果を表9に示す。歩行者頭部が受けた衝撃から算出されるHIC値が1000以下となるものを良好と評価した。
【0187】
【表9】
【0188】
子供、大人いずれの衝突条件でも、HIC値を1000以下に収めることができた。凸部内に段差を設けた場合であっても、本発明による衝撃吸収効果は保持され、子供、大人どちらの衝突条件でも、優れた歩行者保護性能が認められた。
【0189】
[実施例8:材料強度の影響]
実施例1及び4と同様に、全長が900〜1500mm、全幅が1200〜2000mmのフードパネルを想定し、インナーパネルが6000系、5000系、及び、3000系アルミニウム合金からなるとした場合の歩行者保護性能を数値解析によって評価した。
【0190】
表10に、6000系、5000系、及び、3000系のアルミニウム合金の0.2%耐力、引張強度、及び、BH特性を示す。
【0191】
なお、6000系合金の成分組成は、0.6%Mg、1.0%Si、残部Al及び不可避的不純物であり、5000系合金の成分組成は、4.5%Mg、残部Al及び不可避的不純物であり、3000系合金の成分組成は、1.2%Mn、1.0%Mg、残部Al及び不可避的不純物である。
【0192】
【表10】
【0193】
表10に示すアルミニウム合金の引張性質は、JIS Z 2201に準拠して作製した引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。BH後の耐力は、JIS G 3135の附属書に記載の塗装焼付硬化試験方法と同様に、予歪みを2%、時効温度を170℃、時効時間を20分として測定した。
【0194】
アウターパネルの材質は、自動車用のボディーパネル用の6000系アルミニウム合金とし、アウターパネルの厚さは1.0mmとし、インナーパネルの厚さは0.8mmとした。
【0195】
本発明の凸部の形状について、長さは、長辺方向の81%の長さとし、短辺方向の幅は210mmとし、深さは24mmとし、凸部の中心位置が、進行方向前端から55%の位置になるように、凸部を配置した。剛性部材なしの状態において、子供頭部を衝突させた際の解析結果を、表11に示す。
【0196】
【表11】
【0197】
No.1〜3より、本発明の凸部を設けたインナーパネルは、いずれのアルミニウム合金を適用しても、頭部変位量が、ビーム構造の頭部変位量より小さくなり、優れた歩行者保護性能を発揮することが認められる。
【0198】
また、同じフードパネルにおいて、アウターパネルから60mmの位置に剛性部材を設置した状態で、子供及び大人の歩行者頭部を衝突させた際の解析結果を、表12に示す。
【0199】
【表12】
【0200】
No.4〜6より、本発明の凸部高さを調整したインナーパネルは、いずれのアルミニウム合金を適用しても、歩行者保護性能に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0201】
前述したように、本発明によれば、歩行者頭部がフードパネルに衝突した際のインナーパネルの局所変形を防止し、かつ、衝撃を吸収するので、歩行者頭部の変位量を抑制し、歩行者保護性能を著しく高めることができる。また、万が一エンジンルーム内の剛性部材に衝突しても閉断面空間が変形することで、剛性部材からの衝撃を吸収し、子供・大人どちらの衝突条件においてもHIC値を抑制し優れた歩行者保護性能が得られる。
【0202】
本発明によれば、フードパネルのインナーパネルと、エンジン部品などの剛性部材との間隔を縮めることができ、車両のフロント構造の設計自由度を大きくすることができる。例えば、自動車車体におけるアウターパネルの相対的な高さを低くすることができ、意匠創作の自由度が大きくなる。
【0203】
また、本発明によれば、インナーパネルの材料として、アルミニウム合金に替え、若干、成形性の劣る軽量材料を使用できるので、フードパネルの軽量化と歩行者保護性能の向上との両立が可能となる。
【0204】
したがって、本発明によれば、意匠性に加えて、燃費性能、及び、運動性能の向上が可能な、歩行者保護性に優れた、アルミニウム合金製のフードパネルを提供することができる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が極めて大きいものである。
【符号の説明】
【0205】
1 フードパネル
2 凸部
3 凹部
4 斜面部
5 歩行者頭部
6 剛性部材
7 アウター
8 インナー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルにおいて、
(i)インナーパネルが、
(i-1)その断面形状が略台形であり、フードパネルの長辺方向及び短辺方向に延伸する、エンジンルーム側から見て凸部を、複数個備え、さらに、
(i-2)隣接する上記凸部の間に、アウターパネルに近接して対向する凹部を、複数備え、さらに、
(ii)上記凸部及び凹部からなるインナーパネルの長辺方向の長さlが、アウターパネルの長辺方向の長さLの42%以上90%以下であり、かつ、
(iii)インナーパネルの長辺方向中央の断面形状が、断面の二次モーメントをIxとし、インナーパネルの厚さをtinとして、下記式:
272.8<l/L+5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}
を満たすことを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項2】
前記凹部が、前記凸部の周囲を囲むように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項3】
前記アウターパネルとの距離が最短のエンジンルーム内の剛体部品を通るアウターパネルの垂線がインナーパネルと交差する点が、前記凹部によって周囲が囲まれている凸部の内であって、該凸部のアウターパネルの長辺方向及び短片方向の長さの25〜75%の長さで囲まれる中央領域に位置することを特徴とする請求項2に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項4】
前記凸部において段差を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項5】
WAD1700mm未満の範囲におけるインナーパネルの前記凸部の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における前記凸部の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項6】
インナーパネルの前記凸部の高さを、WAD1700mm未満の範囲では、15〜35mmとし、WAD1700mm以上の範囲では、20〜50mmとすることを特徴とする請求項5に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項7】
WAD1700mmにある凸部が段差を有し、WAD1700mm未満の範囲の段差の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における段差の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項8】
インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位において、請求項1〜7のいずれか1項に記載される凸部が設けられたことを特徴する歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項1】
アルミニウム合金からなるアウターパネル及びインナーパネルが積層してなる自動車用フードパネルにおいて、
(i)インナーパネルが、
(i-1)その断面形状が略台形であり、フードパネルの長辺方向及び短辺方向に延伸する、エンジンルーム側から見て凸部を、複数個備え、さらに、
(i-2)隣接する上記凸部の間に、アウターパネルに近接して対向する凹部を、複数備え、さらに、
(ii)上記凸部及び凹部からなるインナーパネルの長辺方向の長さlが、アウターパネルの長辺方向の長さLの42%以上90%以下であり、かつ、
(iii)インナーパネルの長辺方向中央の断面形状が、断面の二次モーメントをIxとし、インナーパネルの厚さをtinとして、下記式:
272.8<l/L+5.2{(6.4×10-5)Ix+43.8tin}
を満たすことを特徴とする歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項2】
前記凹部が、前記凸部の周囲を囲むように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項3】
前記アウターパネルとの距離が最短のエンジンルーム内の剛体部品を通るアウターパネルの垂線がインナーパネルと交差する点が、前記凹部によって周囲が囲まれている凸部の内であって、該凸部のアウターパネルの長辺方向及び短片方向の長さの25〜75%の長さで囲まれる中央領域に位置することを特徴とする請求項2に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項4】
前記凸部において段差を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項5】
WAD1700mm未満の範囲におけるインナーパネルの前記凸部の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における前記凸部の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項6】
インナーパネルの前記凸部の高さを、WAD1700mm未満の範囲では、15〜35mmとし、WAD1700mm以上の範囲では、20〜50mmとすることを特徴とする請求項5に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項7】
WAD1700mmにある凸部が段差を有し、WAD1700mm未満の範囲の段差の高さをH1、WAD1700mm以上の範囲における段差の高さをH2としたとき、H1に対しH2の方が大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【請求項8】
インナーパネルと剛性部材との距離が60mm以下である部位において、請求項1〜7のいずれか1項に記載される凸部が設けられたことを特徴する歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル。
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図22】
【図23】
【図24】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−219083(P2011−219083A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68799(P2011−68799)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】
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