説明

歩行者検出装置

【課題】検出点群から歩行者を高精度に検出する歩行者検出装置を提供することを課題とする。
【解決手段】検出手段によって検出された検出点を複数の検出点群としてグループ化し、それらの検出点群D4から歩行者を検出する歩行者検出装置であって、検出点群D4毎に検出点群D4の移動方向(速度ベクトルD5の方向に相当)を検出する移動方向算出手段S5と、検出点群D4毎に移動方向に対する検出点群D4の分布情報D7を算出する分布情報算出手段S7と、検出点群D4毎に移動方向に対する検出点群D4の分布情報D7の時間変化に周期性があるか否かを判定し、周期性がある検出点群を歩行者と判定する判定手段S9とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出手段によって検出された検出点を複数の検出点群としてグループ化し、それらの検出点群から歩行者を検出する歩行者検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転者は、走行中、車両周辺に存在する歩行者等に注意を払わなければならない。そのような運転者の負担を軽減するために、車両周辺の歩行者を検出するための装置が開発されている。歩行者検出装置としては、例えば、特許文献1では、レーザレーダによって取得された車両周辺の検出点の三次元位置情報の時系列データを用いて、時系列に沿った平面上の点群の分布変化の周期性を解析し、周期性がある点群を歩行者として検出する。また、特許文献1では、点群として歩行者の脚部付近に相当する高さの検出点を取得するとともに平面上の点群のサイズが一定範囲内に収まるものを歩行者候補の点群とし、精度向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−205042号公報
【特許文献2】特開2009−288099号公報
【特許文献3】特開2004−185363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の歩行者検出装置の場合、歩行者の動き以外に起因して周期性を持つ物体も歩行者と誤検出するおそれがある。例えば、レーザレーダの計測誤差等によって点群に周期的な分布変化が起こると、その点群を歩行者と誤検出するおそれがある。また、点群の分布変化が歩行者と同様の周期性を持つ他の移動体(例えば、自転車)の場合、歩行者と誤検出するおそれがある。また、周期的な動きを有する静止物体(例えば、風で揺らぐのぼり旗や木)の場合、歩行者と誤検出するおそれがある。さらに、特許文献1の歩行者検出装置の場合、歩行者が走ったときには歩幅が大きくなるので、点群のサイズが大きくなり、そのサイズが一定範囲を超えると、その点群が歩行者候補から除外され、歩行者として検出できない。
【0005】
そこで、本発明は、検出点群から歩行者を高精度に検出する歩行者検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歩行者検出装置は、検出手段によって検出された検出点を複数の検出点群としてグループ化し、それらの検出点群から歩行者を検出する歩行者検出装置であって、検出点群毎に検出点群の移動方向を算出する移動方向算出手段と、検出点群毎に移動方向算出手段で算出された移動方向に対する検出点群の分布情報を算出する分布情報算出手段と、検出点群毎に分布情報算出手段で算出された移動方向に対する検出点群の分布情報の時間変化に周期性があるか否かを判定し、周期性がある検出点群を歩行者と判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
この歩行者検出装置では、検出手段によって物体に対する各検出点を取得し、その取得された検出点をグループ化して複数の検出点群に分け、その複数の検出点群から歩行者を検出する。特に、歩行者検出装置では、検出点群毎に、移動方向算出手段によって検出点群の移動方向を算出し、分布情報算出手段によって検出点群の移動方向に対する分布情報(例えば、検出点群の移動方向のサイズ、検出点群の移動方向の分散値)を算出する。歩行者の場合、任意の方向にある程度継続して移動するので、脚の動きに起因する周期性も移動方向に沿って有することによる。そこで、歩行者検出装置では、検出点群毎に、判定手段によって検出点群の移動方向に対する分布情報の時間変化に周期性があるか否かを判定し、移動方向に対する分布情報の時間変化に周期性がある検出点群を歩行者と判定する。このように、歩行者検出装置では、検出点群の移動方向に対する分布情報の時間変化に周期性があるか否かを判定することにより、歩行者を高精度に検出することができる。これによって、歩行者の動き以外に起因して周期性を持つ物体についての検出点群を誤検出することを低減できる。
【0008】
本発明の上記歩行者検出装置では、判定手段は、検出点群の移動速度と移動方向に対する分布情報に歩行者特有の相関関係がある場合に該検出点群を歩行者と判定すると好適である。
【0009】
歩行者の場合、歩いているとき(速度が遅いとき)には歩幅が小さく、走っているとき(速度が速いとき)には歩幅が大きくなる。このように、歩行者の速度と歩幅とには相関関係がある。そこで、この歩行者検出装置では、判定手段によって、検出点群の移動速度と移動方向に対する分布情報(移動方向に対する分布情報は歩幅に依存する)に歩行者特有の相関関係がある場合にその検出点群を歩行者と判定する。このように、歩行者検出装置では、検出点群の移動速度と移動方向に対する分布情報に歩行者特有の相関関係があるか否かを判定することにより、歩行者をより高精度に検出することができる。例えば、検出手段の検出誤差等によって検出点群の分布に周期的な変化が起こったとしても、その検出点群については移動速度と移動方向に対する分布情報に歩行者特有の相関関係がある可能性は極めて低いので、その検出点群を誤検出することを低減できる。また、検出点群の分布情報の時間変化が歩行者と同様の周期性を持つ他の移動体(例えば、自転車)の場合、速度が遅いときでも速いときでも移動方向に対する分布情報が変わらないので、そのような移動体を誤検出することを低減できる。また、歩行者が歩いているときでも走っているときでも、歩行者として検出できる。
【0010】
本発明の上記歩行者検出装置では、判定手段は、検出点群毎に検出点群の移動情報を蓄積し、該蓄積されている検出点群の移動情報に基づいて検出点群が一定時間安定して移動していると判断した場合に該検出点群を歩行者と判定すると好適である。
【0011】
歩行者は、所定の方向に、所定の速度である程度継続して移動し、移動方向や移動速度等の時間変化が少ない。そこで、この歩行者検出装置では、検出点群毎に検出点群の移動情報(例えば、移動方向、移動速度、位置)を時系列で蓄積する。そして、歩行者検出装置では、判定手段によって、検出点群の所定時間分の移動情報に基づいて検出点群が一定時間安定した移動(つまり、移動情報について変化が少ない移動)をしていると判断した場合にその検出点群を歩行者と判定する。このように、歩行者検出装置では、検出点群が一定時間安定した移動をしているか否か判定することにより、歩行者をより高精度に検出することができる。例えば、周期的な動きを有する静止物体(例えば、風で揺らぐのぼり旗や木)の場合、その移動方向や移動速度は短時間の間にランダムに変化するので、そのような静止動体を誤検出することを低減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出点群の移動方向に対する分布情報の時間変化に周期性があるか否かを判定することにより、歩行者を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る歩行者検出装置の構成図である。
【図2】本実施の形態に係るクラスタリング点群の時間変化の一例であり、(a)が正面方向から直進する車両に対するクラスタリング点群であり、(b)が正面方向から左折する車両に対するクラスタリング点群であり、(c)が正面方向から直進する歩行者に対するクラスタリング点群である。
【図3】本実施の形態に係る歩行者検出のメイン処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態に係る点群移動情報判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本実施の形態に係るバラツキ量正規化処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態に係る周期性判定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る歩行者検出装置の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本実施の形態では、本発明に係る歩行者検出装置を、車両に搭載される歩行者検出装置に適用する。本実施の形態に係る歩行者検出装置は、レーザレーダによって車両周辺を計測し、計測された検出点の三次元情報を取得し、その検出点の三次元情報を用いて複数の移動体属性(例えば、歩行者、車両(乗用車、大型車等)、自転車、オートバイ)の中から歩行者を識別する。歩行者検出装置で検出された歩行者の情報は、歩行者情報を必要とする運転支援装置等で用いられる。
【0016】
図1及び図2を参照して、本実施の形態に係る歩行者検出装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係る歩行者検出装置の構成図である。図2は、本実施の形態に係るクラスタリング点群の時間変化の一例であり、(a)が正面方向から直進する車両に対するクラスタリング点群であり、(b)が正面方向から左折する車両に対するクラスタリング点群であり、(c)が正面方向から直進する歩行者に対するクラスタリング点群である。
【0017】
歩行者検出装置1では、レーザレーダによって計測された検出点の三次元点群から立体物を分離し、立体物の点群をクラスタリングし、クラスタリングされた点群毎に歩行者か否かを識別する。この歩行者の識別では、クラスタリング点群毎に、点群の時系列データを用いて点群を追跡して速度ベクトルを算出し、点群の移動方向(速度ベクトルの方向)に対するバラツキ量を算出し、このバラツキ量の時系列データに基づいてバラツキ量の時間変化の周期性の有無を判定して歩行者を識別する。特に、点群の移動情報の蓄積データに基づいて点群が一定時間安定した移動をしているか否かを判定するとともに、バラツキ量を移動速度(速度ベクトルの速度)に応じて正規化した正規化バラツキ量を用いて周期性を判定する。なお、クラスタリング点群毎(すなわち、検出点群毎)とは、全ての検出点群である場合であっても又は(サイズが大きすぎる検出点群を除去するなどして)一部の検出点群である場合であってもどちらでもよい。
【0018】
そのために、歩行者検出装置1は、レーザレーダ2とECU[Electronic Control Unit]3を備えている。なお、本実施の形態では、レーザレーダ2が特許請求の範囲に記載する検出手段に相当する。
【0019】
ここで、図2を参照して、クラスタリング点群のバラツキ量の時間変化について説明しておく。図2では、黒丸で2次元平面上に投影された検出点を示しており、太い矢印でクラスタリング点群の移動方向を示している。また、図2では、連続する時間t1,t2,t3,t4でのクラスタリング点群と移動方向を示している。
【0020】
図2(a)には、自車両の正面方向から直進してくる車両に対する検出点からなるクラスタリング点群の時間変化を示している。この場合、その車両の各時間t1,t2,t3,t4での移動方向D11,D12,D13,D14に対する点群の各時間t1,t2,t3,t4でのバラツキ量(この例では、移動方向の点群の長さL11,L12,L13,L14)は、時間が変化しても、殆ど変化しない。
【0021】
図2(b)には、自車両の正面方向で左折している車両に対する検出点からなるクラスタリング点群の時間変化を示している。この場合、その車両の各時間t1,t2,t3,t4での移動方向D21,D22,D23,D24に対する点群の各時間t1,t2,t3,t4でのバラツキ量(移動方向の点群の長さL21,L22,L23,L24)は、時間の変化に伴って、単調増加している。
【0022】
図2(c)には、自車両の正面方向から直進してくる歩行者に対する検出点からなるクラスタリング点群の時間変化を示している。この場合、その歩行者の各時間t1,t2,t3,t4での移動方向D31,D32,D33,D34に対する点群の各時間t1,t2,t3,t4でのバラツキ量(移動方向の点群の長さL31,L32,L33,L34)は、歩行者の脚及び手(特に、脚)の動きにより、周期的に変化している。つまり、左右の脚のうち一方が前方に他方が後方になっているとき又は一方が後方に他方が前方になっているときには移動方向の点群の長さL32,L34が長くなり、前方にあった脚が後方に移行しかつ後方にあった脚が前方に移行するときに移動方向の点群の長さL31,L33が短くなる。さらに、歩行者の場合、歩いているときには歩幅が小さいので、移動方向の点群の長さが短くなり、走っているときには歩幅が大きくなるので、移動方向の点群の長さが長くなる。
【0023】
レーザレーダ2は、レーザ光を利用して物体を検出する走査型のレーダである。レーザレーダ2は、車両周辺を検出するために、車両の所定の位置に取り付けられる。車両周辺の検出方向としては、少なくとも車両の前方であり、必要に応じた他の方向も検出する。レーザレーダ2では、一定時間毎に、水平方向を検出するために、発光部と受光部を水平方向に回転させ、レーザ光を水平方向の各走査角度で出射し、反射してきたレーザ光を受光する。また、レーザレーダ2では、一定時間毎に、鉛直方向を検出するために、発光部と受光部を鉛直方向に回転させ、レーザ光を鉛直方向の各走査角度で出射し、反射してきたレーザ光を受光する。そして、レーザレーダ2では、受光できた各反射点(検出点)についての情報(水平方向の走査角度、鉛直方向の走査角度、出射時刻、受光時刻、受光強度(反射強度)等)からなるレーダ信号をECU3に送信する。なお、鉛直方向あるいは水平方向に複数個のレーザレーダを設け、各レーザレーダで水平方向あるいは鉛直方向の一方向だけを走査するような構成でもよい。
【0024】
ECU3は、CPU[CentralProcessing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等からなる電子制御ユニットであり、歩行者検出装置1を統括制御する。ECU3では、ROMに記憶されている歩行者検出装置1用のアプリケーションをRAMにロードしてCPUで実行することにより、距離計測処理、道路平面推定処理、立体物分離処理、クラスタリング処理、点群追跡処理、点群移動情報判定処理、バラツキ量算出処理、バラツキ量正規化処理、周期性判定処理を行う。なお、本実施の形態では、し、点群追跡処理が特許請求の範囲に記載する移動方向算出手段に相当し、バラツキ量算出処理が特許請求の範囲に記載する分布情報算出手段に相当し、点群移動情報判定処理、バラツキ量正規化処理、周期性判定処理が特許請求の範囲に記載する判定手段に相当する。
【0025】
距離計測処理では、レーザレーダ2で検出できた検出点毎に、検出点についてのレーダ光の出射から受光までの時間に基づいて検出点までの相対距離を算出し、さらに、その検出点についての水平方向の走査角度及び鉛直方向の走査角度と相対距離に基づいて自車両の基準点(例えば、レーザレーダ2の取り付け位置、車両の重心位置)に対する三次元位置(前後方向の位置、横方向の位置、高さ方向の位置)を算出する。そして、距離計測処理では、レーザレーダ2で検出できた全ての検出点の三次元位置情報からなる三次元点群を取得する。さらに、必要に応じて、各検出点の相対速度等の他の情報も算出する。
【0026】
道路平面推定処理では、三次元点群の検出点の中から道路平面についての検出点を推定する。この推定方法としては、例えば、検出点の高さ位置に基づいて道路平面か否かを判定する。そして、道路平面推定処理では、道路平面の検出点の三次元位置情報からなる道路平面点群を取得する。
【0027】
立体物分離処理では、三次元点群の検出点から道路平面点群の検出点を除外することにより、立体物についての検出点を分離する。立体物分離処理では、全ての立体物の検出点の三次元位置情報からなる立体物点群を取得する。
【0028】
クラスタリング処理では、立体物点群の検出点の三次元位置を比較するなどして1つの物体をみなせる検出点を結合し、立体物点群に含まれる検出点をクラスタリングする。クラスタリング処理では、クラスタリングで分けられた複数の検出点の三次元位置情報からなるクラスタリング点群を取得する。
【0029】
点群追跡処理では、クラスタリング点群の時系列蓄積データを用いて、クラスタリング点群毎に、同じ物体に対するクラスタリング点群を追跡し、追跡できたクラスタリング点群の速度ベクトルを算出する。例えば、同じ物体に対するクラスタリング点群の各時間での重心位置(三次元位置)を算出し、その各時間の重心位置から速度ベクトルを算出する。クラスタリング点群の速度ベクトルには、クラスタリング点群の移動方向と移動速度の情報が含まれる。
【0030】
点群移動情報判定処理では、クラスタリング点群毎に、点群追跡処理で算出されたクラスタリング点群の移動情報(速度ベクトル、重心位置情報等)を時系列で所定時間分(クラスタリング点群の移動状況が判る程度の時間分)蓄積する。そして、点群移動情報判定処理では、クラスタリング点群毎に、蓄積されているクラスタリング点群の移動情報に基づいて、クラスタリング点群が一定時間安定した移動を続けている(変化の少ない移動を継続している)か否かを判定する。この判定では、例えば、一定時間の間、移動速度の時間変化量が閾値以下かつ移動方向の時間変化量が閾値以下かを判定したり、重心位置間の距離の時間変化量が閾値以下かを判定する。これらの閾値や一定時間については、実験等によって設定する。
【0031】
風によって揺らぐ木やのぼり旗等は、周期的に揺らぐ場合があるが、その移動速度や移動方向は短い時間間隔でランダムに変化する。一方、歩行者は、所定の方向に、所定の速度である程度継続して移動し、その移動方向や移動速度の時間変化は少ない。そこで、点群移動情報判定処理では、一定時間安定した移動を続けていないと判定したクラスタリング点群については揺らぎを持つ静止物体と判断し、処理対象のクラスタリング点群から除外する。
【0032】
バラツキ量算出処理では、点群移動情報判定処理で一定時間安定した移動を続けていると判定されたクラスタリング点群毎に、クラスタリング点群の移動方向(点群追跡処理で算出された速度ベクトルの方向)に対するバラツキ量を算出する。移動方向に対するバラツキ量としては、例えば、クラスタリング点群の移動方向の長さ、クラスタリング点群の移動方向の分散値がある。
【0033】
バラツキ量正規化処理では、クラスタリング点群毎に、バラツキ量算出処理で算出されたバラツキ量をクラスタリング点群の移動速度(点群追跡処理で算出された速度ベクトルの速度)に応じて正規化する。バラツキ量の移動速度に応じた正規化としては、例えば、バラツキ量を移動速度で除算する。
【0034】
歩行者の場合、歩いているとき(速度が遅いとき)には歩幅が小さいので、移動方向に対するバラツキ量が小さくなり、走っているとき(速度が速いとき)には歩幅が大きくなるので、移動方向に対するバラツキ量が大きくなる。つまり、歩行者の場合、クラスタリング点群の速度と移動方向に対するバラツキ量には歩行者特有の相関関係があり、速度が変化しても正規化バラツキ量の変化は少ない。その結果、正規化バラツキ量を用いて周期性判定を行うことより、歩行者の速度が変化した場合でも、歩行者を精度良く識別することができる。しかし、自転車の場合、乗っている人の脚の動きによって移動方向に対するバラツキ量の時間変化に周期性を持つ場合があるが、速度が遅いときでも速いときでも移動方向に対するバラツキ量が変わらない。したがって、自転車の場合、速度が変化すると正規化バラツキ量も変化する。また、レーザレーダ2の計測誤差等によってバラツキ量の時間変化に周期性を持つ場合があったとしても、速度と移動方向に対するバラツキ量に相関関係がない。
【0035】
周期性判定処理では、クラスタリング点群毎に、バラツキ量正規化処理で算出された正規化バラツキ量を時系列で所定時間分(移動方向に対するバラツキ量の周期性を判定するために十分な時間分)蓄積する。そして、周期性判定処理では、クラスタリング点群毎に、蓄積された正規化バラツキ量蓄積データを用いて、正規化バラツキ量の時間変化の周期性を算出する。正規化バラツキ量の時間変化の周期性の算出では、例えば、任意の時間tで算出された正規化バラツキ量とその前時間t−1で算出された正規化バラツキ量との差を算出する。さらに、周期性判定処理では、クラスタリング点群毎に、正規化バラツキ量の時間変化の周期性に基づいて正規化バラツキ量の時間変化に周期性があるか否かを判定する。周期性がある場合、周期性判定処理では、そのクラスタリング点群の属性を歩行者と識別し、そのクラスタリング点群から三次元位置情報、移動方向、移動速度等の情報を取得する。一方、周期性がない場合、周期性判定処理では、そのクラスタリング点群の属性を歩行者以外と識別する。
【0036】
例えば、図2(c)に示す例の場合、時間t1、t2、t3、t4における移動速度が同じ速度でvとし、正規化バラツキ量をL31/v,L32/v,L33/v,L34/vとする。この例の場合、時間t2とt1の間では正規化バラツキ量の差が(L32−L31)/vとなり、時間t3とt2の間では正規化バラツキ量の差が(L33−L32)/vとなり、時間t4とt3の間では正規化バラツキ量の差が(L34−L33)/vとなる。そして、(L32−L31)/vがプラス値、(L33−L32)/vがマイナス値、(L34−L33)/vがプラス値となり、各値の絶対値がほぼ同じ値となるので、正規化バラツキ量の時間変化に周期性を有することになる。
【0037】
図1を参照して、歩行者検出装置1における動作について説明する。特に、ECU3の処理について図3〜図6のフローチャートに沿って説明する。図3は、本実施の形態に係る歩行者検出のメイン処理の流れを示すフローチャートである。図4は、本実施の形態に係る点群移動情報判定処理の流れを示すフローチャートである。図5は、本実施の形態に係るバラツキ量正規化処理の流れを示すフローチャートである。図6は、本実施の形態に係る周期性判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0038】
レーザレーダ2では、一定時間毎に、水平方向及び/又は鉛直方向に走査し、各走査角度においてレーザ光を出射するとともにその反射光を受光する。そして、レーザレーダ2では、受光できた各検出点についての情報をレーダ信号としてECU3に送信する。
【0039】
各時間でのレーダ信号を受信する毎に、ECU3では、検出点毎に、レーダ信号に含まれる検出点の情報から検出点までの相対距離を算出し、三次元位置を算出する(S1)。ここで、今回の時間でレーザレーダ2によって検出された全ての検出点からなる三次元点群D1が得られる。
【0040】
ECU3では、三次元点群D1に含まれる検出点の中から道路平面に対する検出点を推定する(S2)。ここで、今回の時間で検出された道路平面に対する検出点からなる道路平面点群D2が得られる。さらに、ECU3では、三次元点群D1に含まれる検出点から道路平面点群D2に含まれる検出点を除外し、立体物に対する検出点を分離する(S3)。ここで、今回の時間で検出された全ての立体物に対する検出点からなる立体物点群D3が得られる。さらに、ECU3では、立体物点群D3に含まれる検出点をクラスタリングする(S4)。ここで、今回の時間での複数の検出点からなるクラスタリング点群D4が得られる。
【0041】
ECU3では、クラスタリング点群D4の時系列蓄積データを用いて、クラスタリング点群D4毎に、クラスタリング点群D4を追跡し、そのクラスタリング点群D4の速度ベクトルを算出する(S5)。ここで、今回の時間での各クラスタリング点群D4についての速度ベクトルD5が得られる。
【0042】
次に、ECU3では、点群移動情報判定処理に移行する(S6)。点群移動情報判定処理に移行すると、ECU3では、クラスタリング点群D4毎に、クラスタリング点群D4の移動情報(速度ベクトルD5等)を時系列で所定時間分蓄積する(S60)。ここで、今回の時間までの所定時間分のクラスタリング点群D4毎の移動情報蓄積データD6が得られる。そして、ECU3では、クラスタリング点群D4毎に、移動情報蓄積データD6に基づいて、クラスタリング点群D4が一定時間安定して移動しているか否かを判定する(S61)。S61にてあるクラスタリング点群D4について安定して移動していないと判定した場合、ECU3では、そのクラスタリング点群D4を揺らぎを持つ静止物体と識別し、そのクラスタリング点群D4に対しては以降の処理を行わない(S62)。
【0043】
S61にて安定して移動していると判定されたクラスタリング点群D4毎に、ECU3では、クラスタリング点群D4の移動方向(速度ベクトルD5の方向)に対するバラツキ量を算出する(S7)。ここで、今回の時間での各クラスタリング点群D4についてのバラツキ量D7が得られる。
【0044】
次に、ECU3では、バラツキ量正規化処理に移行する(S8)。バラツキ量正規化処理に移行すると、ECU3では、クラスタリング点群D4毎に、バラツキ量D7をクラスタリング点群D4の移動速度(速度ベクトルD5の速度)に応じて正規化する(S80)。ここで、今回の時間での各クラスタリング点群D4についての正規化バラツキ量D8が得られる。
【0045】
次に、ECU3では、周期性判定処理に移行する(S9)。周期性判定処理に移行すると、ECU3では、クラスタリング点群D4毎に、正規化バラツキ量D8を時系列で所定時間分蓄積する(S90)。ここで、今回の時間までの所定時間分のクラスタリング点群D4毎の正規化バラツキ量蓄積データD9が得られる。そして、ECU3では、クラスタリング点群D4毎に、正規化バラツキ量蓄積データD9を用いて、正規化バラツキ量の時間変化の周期性を算出する(S91)。さらに、ECU3では、クラスタリング点群D4毎に、正規化バラツキ量の時間変化の周期性に基づいて、正規化バラツキ量の時間変化に周期性があるか否かを判定する(S92)。S92にて周期性があると判定した場合、ECU3では、そのクラスタリング点群D4の属性を歩行者と識別し、そのクラスタリング点群D4から三次元位置情報等の情報を取得する(S93)。一方、S92にて周期性がないと判定した場合、ECU3では、そのクラスタリング点群D4の属性を歩行者以外と識別する(S94)。
【0046】
ECU3では、今回の時間の処理で歩行者を識別できた場合、その歩行者についての情報を運転支援装置等に出力する。
【0047】
この歩行者検出装置1によれば、クラスタリング点群の移動方向に対するバラツキ量の時間変化に周期性があるか否かで歩行者を識別することにより、歩行者を高精度に識別することができる。これによって、歩行者の動き以外に起因して周期性を持つ物体についてのクラスタリング点群を誤検出することを低減できる。もちろん、周期性を持たない物体についてのクラスタリング点群を誤検出することはない。さらに、一般的な交通環境に存在する普通車や大型車等の車両、オートバイ、自転車等の歩行者以外の移動体と歩行者とを高精度に識別できる。したがって、一般的な交通環境全体を対象として、歩行者を高精度に検出することができる。
【0048】
また、歩行者検出装置1によれば、クラスタリング点群のバラツキ量を移動速度に応じて正規化した正規化バラツキ量を用いることにより、クラスタリング点群の移動速度と移動方向に対するバラツキ量に歩行者特有の相関関係があるか否かを精度良く判定することができ、歩行者をより高精度に検出することができる。例えば、レーザレーダ2の計測誤差等によってクラスタリング点群のバラツキ量に周期的な時間変化があったとしても、そのクラスタリング点群については移動速度と移動方向に対するバラツキ量に歩行者特有の相関関係がある可能性は極めて低いので、そのクラスタリング点群を誤検出することを低減できる。また、バラツキ量の時間変化が歩行者と同様の周期性を持つ他の移動体(例えば、自転車)の場合、移動速度が変化しても移動方向に対するバラツキ量が変わらないので、歩行者特有の相関関係を有しておらず、そのような移動体を誤検出することを低減できる。また、歩行者が歩いているときでも走っているときでも、移動速度に関係なく歩行者として精度良く識別できる。
【0049】
また、歩行者検出装置1によれば、クラスタリング点群が一定時間安定して移動しているか否か判定することにより、歩行者をより高精度に検出することができる。例えば、周期的な動きを有する静止物体(例えば、風で揺らぐのぼり旗や木)の場合、その移動方向や移動速度は短時間の間にランダムに変化するので、そのような静止動体を誤検出することを低減できる。
【0050】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0051】
例えば、本実施の形態では車両に搭載される歩行者検出装置に適用したが、車両以外で用いられる歩行者検出装置にも適用可能である。
【0052】
また、本実施の形態では検出手段としてはレーザレーダとしたが、ミリ波レーダ、超音波レーダ、ステレオカメラ等の他の手段でもよい。また、本実施の形態では検出点の情報として三次元位置情報を取得し、三次元位置情報を用いて各処理を行う構成としたが、検出点の情報としては二次元位置情報(高さ情報無し)でも可能である。
【0053】
また、本実施の形態ではレーザレーダで検出された全ての検出点からクラスタリング点群を抽出するために、距離計測処理、道路平面推定処理、立体物分離処理、クラスタリング処理による従来の手法の1つを適用したが、クラスタリング点群を抽出する手法としてはどのような手法を適用してもよい。また、本実施の形態では検出点を複数の検出点群にグループ化するために、クラスタリングを用いたが、他の手法でグループ化を行ってもよい。
【0054】
また、本実施の形態ではクラスタリング点群の移動速度と移動方向に対するバラツキ量に歩行者特有の相関関係があるか否かを判断するために、バラツキ量を移動速度に応じて正規化した正規化バラツキ量を用いる構成としたが、正規化バラツキ量以外のパラメータを求めて移動速度と移動方向に対するバラツキ量に歩行者特有の相関関係があるか否かを判断してもよい。
【0055】
また、本実施の形態では点群移動情報判定処理及びバラツキ量正規化処理を行う構成としたが、いずれか一方の処理あるいは両方の処理を行わない構成としてもよい。
【0056】
また、歩行者を識別する場合、脚の動きに起因した周期性に着目しているので、歩行者の下半身に特徴がある。そこで、クラスタリング点群を高さ情報に基づいて上部の点群と下部の点群に更に分け、下部の点群だけを用いて各処理を行ってもよい。このような上下分離処理を行うことにより、レーザレーダによる計測誤差等によるノイズを抑制でき、検出精度を更に向上できる。
【0057】
また、歩行者と車両との大きさを比較すると車両の方が明らかに大きく、歩行者と車両との速度を比較すると車両の方が明らかに速い。他の移動体についても、大きさや速度について歩行者と異なる。そこで、クラスタリング点群の中でサイズが明らかに大きいもの(歩行者と明らかにみなせないサイズのもの)を除外したり、クラスタリング点群の中から速度が明らかに速いもの(歩行者と明らかにみなせない速度のもの)を除外したりすることにより、歩行者らいし属性のクラスタリング点群に絞り込み、絞り込んだクラスタリング点群だけを用いて各処理を行ってもよい。このような属性絞り込み処理を行うことにより、処理負荷を軽減できるとともに(処理時間を短縮)、バラツキ量蓄積データのデータ量を削減できる(メモリ量を低減)。
【符号の説明】
【0058】
1…歩行者検出装置、2…レーザレーダ、3…ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出手段によって検出された検出点を複数の検出点群としてグループ化し、それらの検出点群から歩行者を検出する歩行者検出装置であって、
検出点群毎に検出点群の移動方向を算出する移動方向算出手段と、
検出点群毎に前記移動方向算出手段で算出された移動方向に対する検出点群の分布情報を算出する分布情報算出手段と、
検出点群毎に前記分布情報算出手段で算出された移動方向に対する検出点群の分布情報の時間変化に周期性があるか否かを判定し、周期性がある検出点群を歩行者と判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする歩行者検出装置。
【請求項2】
前記判定手段は、検出点群の移動速度と移動方向に対する分布情報に歩行者特有の相関関係がある場合に該検出点群を歩行者と判定することを特徴とする請求項1に記載の歩行者検出装置。
【請求項3】
前記判定手段は、検出点群毎に検出点群の移動情報を蓄積し、該蓄積されている検出点群の移動情報に基づいて検出点群が一定時間安定して移動していると判断した場合に該検出点群を歩行者と判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歩行者検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−145444(P2012−145444A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4022(P2011−4022)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】