説明

歪補償増幅器

【課題】簡素な構成で信号の歪を補償するとともに、信号の出力電力の損失を最小限に抑える。
【解決手段】歪補償増幅器100は、送信信号を生成するDPD処理部104と、DPD処理部104から出力された送信信号を増幅する高周波電力増幅部116と、高周波電力増幅部116から出力された送信信号が入力され、入力された送信信号をアンテナ118へ送るサーキュレータ112と、を備え、サーキュレータ112の漏れ信号をDPD処理部104へ送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪補償増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線通信装置等で用いられる増幅器において、信号歪を補償するために方向性結合器を設けた構成が知られている。例えば、下記の特許文献1には、増幅器4とアンテナ9の送信経路に挿入された方向性結合器5が記載されている(図1)。また、特許文献2には、方向性結合器4、サーキュレータ5、反射波検出回路8を備えた構成が記載されている(段落0011、図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−57012公報
【特許文献2】特開2006−197545公報
【特許文献3】特開2011−19025公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、信号歪を補償するために方向性結合器を設けた場合、方向性結合器によって信号の出力電力に損失が生じてしまい、消費電力効率が低下してしまう問題が発生する。このため、増幅器の高効率化を達成することは困難である。
【0005】
また、上記従来の技術では、アンテナの反射電力を測定するために、反射電力検知回路を別途に設ける必要がある。このため、回路構成が複雑になるとともに、回路規模の大型化、製造コストの上昇といった問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、簡素な構成で信号の歪を補償するとともに、信号の出力電力の損失を最小限に抑えることが可能な、新規かつ改良された歪補償増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、送信信号を出力する送信信号生成部と、前記送信信号生成部から出力された送信信号を増幅する高周波電力増幅部と、前記高周波電力増幅部から出力された送信信号が入力され、入力された送信信号をアンテナへ送るサーキュレータと、を備え、前記サーキュレータの漏れ信号を前記送信信号生成部へ送る歪補償増幅器が提供される。
【0008】
上記構成によれば、サーキュレータの漏れ信号が送信信号生成部へフィードバックされることによって、漏れ信号には送信信号の歪成分が含まれているため、送信信号生成部にて送信信号の歪成分を補償することができる。
【0009】
また、歪補償増幅器は、送信時に前記サーキュレータの漏れ信号を前記送信信号生成部へ送り、受信時に前記アンテナが受信した受信信号を受信信号処理部へ送る送受信切換部を備える。この構成よれば、送信時にサーキュレータの漏れ信号が送信信号生成部へ送られ、受信時にはアンテナが受信した受信信号が受信信号処理部へ送られるため、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式で送受信を行う通信システムに適用することができる。
【0010】
また、前記送信信号生成部は、前記サーキュレータの前記漏れ信号に基づいて送信信号の歪を補償する。この構成により、送信信号生成部から出力される送信信号から歪成分を除去することができる。
【0011】
また、前記送信信号生成部は、送信時に前記アンテナからの反射電力を、前記サーキュレータ及び前記送受信切換部を介して受信し、前記反射電力に基づいて前記アンテナの状態を監視する。この構成により、送信信号生成部は、アンテナからの反射電力に基づいてアンテナの状態を監視することができる。
【0012】
前記サーキュレータは、
送信時に前記高周波電力増幅部から出力された送信信号が入力される第1の端子と、送信時に前記送信信号を前記アンテナへ出力するとともに、受信時に前記アンテナが受信された受信信号が入力される第2の端子と、受信時に前記受信信号を出力する第3の端子と、を有し、前記漏れ信号は、送信時に前記第1の端子から前記第3の端子に漏れる信号である。この構成により、送信信号が入力される第1の端子から第3の端子に漏れる信号を送信信号生成部へ送ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡素な構成で信号の歪を補償するとともに、信号の出力電力の損失を最小限に抑えることが可能な歪補償増幅器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る歪補償増幅器の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態の比較例に係る歪補償増幅器の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る歪補償増幅器100の構成を示す模式図である。実施形態に係る歪補償増幅器100は、一例として、携帯電話などの通信システムにおける基地局装置に使用可能であり、基地局装置の送受信のパワーアンプの部分に適用することができる。また、歪補償増幅器100は、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式で送受信を行う通信システムに適用することができる。
【0017】
図1に示すように、歪補償増幅器100は、送受信デジタル信号処理部102、DPD(デジタルプリディストーション)処理部104、D/A変換部106、周波数変換部108、高周波電力増幅部110、サーキュレータ112、周波数変換部114、A/D変換部116、アンテナ118、送受信切換部120、低雑音増幅部122を有して構成されている。図2に示す構成では、DPD処理部104、D/A変換部106、周波数変換部108、高周波電力増幅部110、周波数変換部114、A/D変換部116によって、歪補償可能なDPDアンプ回路101が構成されている。
【0018】
送信時において、DPD処理部(送信信号生成部)104から出力された送信信号は、D/A変換部106にてアナログ信号に変換され、周波数変換部108にて周波数変換が行われて、高周波電力増幅器116へ入力される。DPD処理部104は、例えばマルチキャリアI Q 変調波信号を生成する機能を有し、また、後述する歪補償を行う機能を有している。周波数変換部108は、入力された信号を直交変調および高周波信号に周波数変換( U P − C O N V )する処理等を行う。高周波電力増幅器116では入力された送信信号を増幅し、増幅された送信信号はサーキュレータ112の端子1へ入力される。
【0019】
サーキュレータ112は、端子1に入力された信号を端子2から出力し、端子2に入力された信号を端子3に出力する機能を有しており、原則としてこの逆方向には信号を通過させない機能を有している。このため、サーキュレータ112は、端子1に入力された送信信号を端子2から出力し、送信信号はアンテナ118へ送られる。そして、アンテナ118から送信信号が他の端末に向けて送信される。
【0020】
一方、受信時においては、アンテナ118で受信された受信信号が、サーキュレータ112の端子2へ入力される。サーキュレータ112は、端子2に入力された受信信号を端子3から出力し、受信信号は送受信切換部120に送られる。受信時において、送受信切換部120の端子4は端子5と接続されている。このため、受信信号は、送受信切換部120から低雑音増幅部122に送られて、送受信デジタル信号処理部102へ送られる。
【0021】
このような構成において、高周波電力増幅器116で増幅されてアンテナ118から送信される信号には、歪が含まれている場合がある。この信号の歪は、高周波電力増幅器116による信号増幅等の要因によって発生する。このため、本実施形態に係る歪補償増幅器100は、送信時にサーキュレータ112の端子1から端子3へ漏れ出る信号を歪補償に利用する。上述したように、サーキュレータ112は端子1に入力された信号を端子2へ出力する機能を有しているが、端子1に入力された信号の一部は漏れ信号として端子3へ出力される。
【0022】
この漏れ信号を利用するために、送信時においては、送受信切換部120の端子4は端子6へ接続されている。これにより、送信時において、漏れ信号は周波数変換部114に入力され、A/D変換部116からDPD処理部104へフィードバックされる。
【0023】
サーキュレータ112からの漏れ信号には、送信信号の希望波と、歪成分が含まれている。漏れ信号は、周波数変換部114にて周波数変換が行われた後、A/D変換部116にてデジタル信号に変換されて、DPD処理部104へと送られる。
【0024】
DPD処理部104は、デジタル処理により歪を補償する処理を行う。DPD処理部104では、漏れ信号に含まれる送信信号の歪成分に基づいて、送信信号の歪を補償する。具体的には、DPD処理部104では、歪信号の位相を反転させて、送信信号に重畳する処理を行う。これにより、DPD処理部104から出力される送信信号の歪を補償することができ、高周波電力増幅部110から出力される送信信号の歪を確実に除去することが可能である。
【0025】
また、送信時において、アンテナ118の状態が悪いときには、アンテナ118から電力の反射が生じる。この場合、電力の反射は、アンテナ118からサーキュレータ112の端子2へ入り、端子3から出力される。送信時には送受信切換部120の端子4が端子6と接続されているため、アンテナ118における電力の反射も送受信切換部120から周波数変換部114、A/D変換部116へ送られて、DPD処理部104へフィードバックされる。
【0026】
アンテナ118からの電力の反射が生じると、サーキュレータ112から送受信切換部120を介してDPD処理部104へ送られる信号のレベルが大きく増加する。従って、DPD処理部104では、DPD処理部104へ送られる信号のレベルを監視することで、アンテナ118からの電力反射が生じたか否かを検出することができ、アンテナ118の状態を監視することが可能である。従って、本実施形態では、送信時にDPD処理部104でアンテナ118からの反射電力を測定することが可能となり、アンテナ118の整合状態を監視することができる。これにより、アンテナ118の電力反射を検出した場合に適切な処理を行うことができる。
【0027】
次に、図2に基づいて、本実施形態の比較例について説明する。図2は、本実施形態の比較例に係る歪補償増幅器200の構成を示す模式図である。図2に示す歪補償増幅器200は、高周波電力増幅部110の後段に方向性結合器202を備えている。方向性結合器202は、高周波電力増幅部110から入力された送信信号をサーキュレータ112へ送るとともに、送信信号を周波数変換部114にも送る機能を有している。図2に示す構成では、DPD処理部104、D/A変換部106、周波数変換部108、高周波電力増幅部110、周波数変換部114、A/D変換部116、及び方向性結合器202によって、DPDアンプ回路201が構成されている。
【0028】
方向性結合器202から周波数変換部114に送られた送信信号は、周波数変換部114にて周波数変換が行われた後、A/D変換部116にてデジタル信号に変換されて、DPD処理部104へと送られる。このため、図2の回路においても、歪信号の位相を反転して送信信号の歪を補償することが可能である。
【0029】
しかし、図2の歪補償増幅器200では、方向性結合器202を設けたことにより、高周波電力増幅部110から出力された送信信号(高周波出力)に損失が生じてしまい、この結果、歪補償増幅器200の電力効率が低下してしまう問題がある。このため、消費電力効率が低下してしまい、高効率化を達成することは困難である。
【0030】
一方、本実施形態の歪補償増幅器200によれば、サーキュレータ112の漏れ信号を用いて歪補償を行うことができるため、方向性結合器202を設けた場合における損失が発生しない。従って、同じ出力電力時の消費電力効率を大幅に改善することが可能である。
【0031】
また、図2の歪補償増幅器200の場合、サーキュレータ112とアンテナ118との間に反射電力検知回路204を設ける必要がある。反射電力検知回路204は、アンテナ118の反射電力を検知するために設けられている。更に、図2の歪補償増幅器200の場合、送受信切換部120の端子4は端子6に接続されるが、端子6には50オーム終端器206を接続しておき、アンテナ118の反射電力を吸収する必要がある。
【0032】
以上のように、図2の歪補償増幅器200の場合、図1の歪補償増幅器100と比較して、反射電力検知回路204と50オーム終端器206を新たに設けておく必要がある。このため、回路構成が複雑となり、製造コストが上昇してしまう問題がある。
【0033】
一方、本実施形態の歪補償増幅器100によれば、サーキュレータ112のアンテナ118に反射電力が発生した場合は、DPD処理部104でこれを検出することができる。従って、反射電力検知回路204を設ける必要がなく、回路構成をより簡素にすることができる。また、反射電力をDPD処理部104で検出するため、50オーム終端器206を設ける必要がなく、回路構成をより簡素にすることが可能である。
【0034】
以上説明したように本実施形態によれば、サーキュレータ112の漏れ信号を用いて送信信号の歪を補償することができる。従って、方向性結合器202を設けた場合と比較すると、送信信号に損失が生じることを確実に抑えることができ、電力効率の高い歪補償増幅器100を構成することができる。また、本実施形態によれば、方向性結合器202を設けた図2の回路に比べて、大きな回路変更を行う必要がなく、より簡素な構成で送信信号の高周波出力の損失を抑えることができる。
【0035】
また、本実施形態の歪補償増幅器100によれば、アンテナ118の反射電力を送受信切換部120からDPD処理部104に送ることで、反射電力をDPD処理部104で検出することができる。従って、反射電力検知回路204を設ける必要がなく、50オーム終端器206を設ける必要も無いため、回路構成をより簡素にすることが可能である。従って、本実施形態の歪補償増幅器100によれば、方向性結合器202、反射電力検知回路204、及び50オーム終端器206を設ける必要が無いため、部品点数の削減、小型化、及び製造コストの低減等を達成することが可能である。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0037】
100 歪補償増幅器
104 DPD処理部
112 サーキュレータ
116 高周波電力増幅器
118 アンテナ
120 送受信切換部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を生成する送信信号生成部と、
前記送信信号生成部から出力された送信信号を増幅する高周波電力増幅部と、
前記高周波電力増幅部から出力された送信信号が入力され、入力された送信信号をアンテナへ送るサーキュレータと、を備え、
前記サーキュレータの漏れ信号を前記送信信号生成部へ送ることを特徴とする、歪補償増幅器。
【請求項2】
送信時に前記サーキュレータの漏れ信号を前記送信信号生成部へ送り、受信時に前記アンテナが受信した受信信号を受信信号処理部へ送る送受信切換部を備えることを特徴とする、請求項1に記載の歪補償増幅器。
【請求項3】
前記送信信号生成部は、前記サーキュレータの前記漏れ信号に基づいて送信信号の歪を補償することを特徴とする、請求項1又は2に記載の歪補償増幅器。
【請求項4】
前記送信信号生成部は、送信時に前記アンテナからの反射電力を、前記サーキュレータ及び前記送受信切換部を介して受信し、前記反射電力に基づいて前記アンテナの状態を監視することを特徴とする、請求項2又は3に記載の歪補償増幅器。
【請求項5】
前記サーキュレータは、
送信時に前記高周波電力増幅部から出力された送信信号が入力される第1の端子と、
送信時に前記送信信号を前記アンテナへ出力するとともに、受信時に前記アンテナが受信された受信信号が入力される第2の端子と、
受信時に前記受信信号を出力する第3の端子と、
を有し、
前記漏れ信号は、送信時に前記第1の端子から前記第3の端子に漏れる信号であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の歪補償増幅器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−110693(P2013−110693A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256298(P2011−256298)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】