歯牙咬合面の撮影方法及び歯牙咬合面撮影用OCT装置
【課題】正確な歯牙咬合面の撮影を可能とし、歯牙咬合面う触の的確な診察を可能とする歯牙咬合面撮影用OCT装置を提供する。
【解決手段】光源110と、シース150及びプローブ本体131を有するOCTプローブ140と、導光手段と、画像表示部125とを備え、プローブ本体131は、光を観察対象200である歯牙咬合面に射出してその反射光を導光手段に掃引し、この反射光に基づく画像を画像表示部125に表示する。OCTプローブ140は、プローブ本体131を回転駆動させる回転手段と、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させる移動手段とを有する。OCTプローブ140を水平に移動させる水平移動手段及び垂直に移動させる垂直移動手段を有する。
【解決手段】光源110と、シース150及びプローブ本体131を有するOCTプローブ140と、導光手段と、画像表示部125とを備え、プローブ本体131は、光を観察対象200である歯牙咬合面に射出してその反射光を導光手段に掃引し、この反射光に基づく画像を画像表示部125に表示する。OCTプローブ140は、プローブ本体131を回転駆動させる回転手段と、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させる移動手段とを有する。OCTプローブ140を水平に移動させる水平移動手段及び垂直に移動させる垂直移動手段を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙咬合面の撮影方法、及び歯牙咬合面撮影用OCT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、口腔内の細菌より産生される酸によって、歯質が脱灰されて起こる、硬組織疾患のことであり、歯周病と並んで歯科の二大疾患の一つである。う触の好発部位は、大別して3つ存在し、一つ目は歯牙咬合面であり、二つめは歯頚部であり、三つ目は歯牙隣接面である。
【0003】
う蝕原因菌、食物残渣はプラークとなって歯に付着する。プラークの付着は、歯肉縁や、歯科修復材料と歯との境界部分のみならず、臼歯の歯牙咬合面において顕著であり、この歯牙咬合面におけるプラークの付着が歯牙咬合面う触の主原因である。
【0004】
従来、歯科の歯牙咬合面診断において、X線撮影装置、口腔内カメラ、歯科用カメラ、X線CT、MRI等が検査及び診査に使用されている。このうち、X線撮影装置で得られる像は透過像であり、被計測体の内部構造を3次元的に知ることは困難であるうえに、X線は人体に為害性があり、被爆線量・撮影回数に制限がある。口腔内カメラは、口腔内組織の表面のみを撮像するので、歯等の内部情報が得られない。X線CTは、X線撮影装置と同様人体に有害である上に、分解能が悪い。MRIは、分解能が悪く、装置が大型かつ高価である。
【0005】
そこで、近年、OCT(Optical coherence tomography)装置が、人体に無害で、被計測体の3次元情報が高分解能で得られるため、角膜や網膜の断層計測等の眼科領域で利用されており、歯科分野においてもOCT装置を応用した発明がなされている。
【0006】
例えば特許文献1及び特許文献2には、被検体の歯部に照射するための低コヒーレント光の発生手段と、該低コヒーレント光を信号光として前記歯部の選定された所定領域を走査する手段と、前記走査領域内の所定深部からの反射光と参照光との干渉によって走査領域の光断層画像を取得するOCT手段とを備える歯科診断OCT装置が記載されており、低コヒーレント光を被検体の歯部に照射する手段として、アームの先端に取り付けられたハンドピース型のOCTプローブが記載されている。これらの技術により、歯牙・歯周組織の唇側面及び頬側面に関しての撮影並びに直線的に到達できる口腔軟組織の撮影は可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−344260号公報
【特許文献2】特開2004−344262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、下顎前歯切縁から上顎前歯切縁までの距離である人の最大開口量は、成人で35〜40mm程度が限界であり、特に女性の平均最大開口量は、男性のそれよりも約7mm程度少ない。そのため、上述の歯科診断OCT装置では、歯列の解剖学的な形態より舌側傾斜を認める歯牙咬合面の正確な撮影は困難である。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、正確な歯牙咬合面の撮影を可能とし、歯牙咬合面う触の的確な診察を可能とする歯牙咬合面の撮影方法、及び歯牙咬合面撮影用OCT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、OCTプローブを歯牙咬合面の表面形態に応じて移動させて撮影することを特徴とする。
【0011】
具体的には、本発明の第1の観点に係る歯牙咬合面の撮影方法は、少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に回転及び前後移動可能に配置されるプローブ本体、を備えたOCTプローブを歯牙咬合面の近傍に配置し、前記プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、前記OCTプローブを前記歯牙咬合面の表面形態に応じて水平方向及び垂直方向のうち少なくとも何れか一方に移動させることにより、前記OCTプローブで歯牙咬合面の撮影を行うことを特徴とする。
【0012】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられることが好ましい。
【0013】
また、前記プローブ本体は、光源からの光を該プローブ本体に導く導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用することも可能である。
【0014】
また、前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることが好ましい。
【0015】
また、側面に前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を、歯牙咬合面に接して配置した後、前記OCTプローブを前記器部の前記挿入孔に挿入し、その後、前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することが好ましい。
【0016】
また、本発明の第2の観点に係る歯牙咬合面撮影用OCT装置は、光を発する光源と、少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に配置されるプローブ本体、を有するOCTプローブと、一端が前記光源に接続され他端が前記プローブ本体に接続された導光手段と、観察対象である歯牙咬合面の画像を表示する画像表示部とを備え、前記プローブ本体は、前記光源から導光手段を経て導かれた光を前記観察対象である歯牙咬合面に射出してその反射光を前記導光手段に掃引し、この反射光に基づく画像を前記画像表示部に表示する歯牙咬合面撮影用OCT装置であって、前記プローブ本体を回転駆動させる回転手段と、前記プローブ本体を前記シース内にて前後に移動させる前後移動手段と、前記OCTプローブを水平に移動させる水平移動手段と、前記OCTプローブを垂直に移動させる垂直移動手段と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられることが好ましい。
【0018】
また、前記プローブ本体は、前記導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用するように構成されていることも可能である。
【0019】
また、前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることが好ましい。
【0020】
また、歯牙咬合面に接して設置され、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を有し、前記器部の側面には前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、前記OCTプローブは前記器部の前記挿入孔に挿入され、前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することが好ましい。
【0021】
本発明では、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、歯牙咬合面の表面形態に応じて移動させ、光源からの光を導光手段を通じてOCTプローブに導き、歯牙咬合面の画像を取得し、その画像を画像表示部に表示する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、歯牙咬合面の表面形態に応じてOCT撮影を行うから、例えば最大開口量の少ない女性であっても歯牙咬合面の正確な撮影が可能となる。また、シースを歯牙咬合面の起伏形態に沿って配置することにより、歯牙咬合面の表面形態に沿った精密なスキャンニングを可能とし、歯牙咬合面う触の正確な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る歯牙咬合面撮影用OCT装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】OCTプローブを説明する説明図である。
【図3】OCTプローブを水平に移動させる水平移動手段、及び、OCTプローブを垂直に移動させる垂直移動手段を説明する説明図である。
【図4】臼歯の歯牙咬合面の表面形態を説明する説明図であり、そのうち(a)は上顎第一小臼歯の歯牙咬合面の表面形態であり、(b)は上顎第一大臼歯の歯牙咬合面の表面形態である。
【図5】ハンドピース型OCTプローブを使用して歯牙咬合面をOCT撮影する比較例としての写真図であり、そのうち(a)は下顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影であり、(b)は上顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影である。
【図6】本実施形態に係る歯牙咬合面の撮影方法であって、そのうち(a)はOCTプローブの水平移動を説明するであり、(b)はOCTプローブの垂直移動を説明する説明図である。
【図7】歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられるシースを説明する説明図である。
【図8】直角とは異なる方向に入射光の向きを変える第3実施形態に係るOCTプローブを説明する図であり、そのうち(a)は、入射光を光ファイバに対し鋭角に向きを変えて射出する第2プローブ本体の説明図であり、(b)は、入射光を光ファイバに対し鈍角に向きを変えて射出する第3プローブ本体の説明図である。
【図9】第3実施形態に係るOCTプローブの使用態様を説明する図であり、そのうち(a)は第2プローブ本体を使用するOCTプローブの使用態様であり、(b)は第3プローブ本体を使用するOCTプローブの使用態様である。
【図10】歯牙咬合面に接して配置される器部の説明図である。
【図11】別実施形態に係る移動手段を有するOCTプローブを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0025】
本実施形態に係る歯牙咬合面撮影用OCT(Optical Coherent Tomography:OCT)装置900は、歯牙咬合面近傍にOCTプローブ140を挿入し、回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行い、歯牙咬合面の表面形態に応じてOCT撮影する。
【0026】
OCT装置は、生体内組織をマイクロオーダで極めて高解像度に測定可能な装置である。また、OCTでは、体表面下にまで到達しうる近赤外線の光源を使用することで、被写体の表面部だけではなく深部までの測定が可能である。近赤外線は、レントゲン線(X線)のような生体に為害性がある放射線ではないため、厳密に非侵襲な被写体の検査を行うことができる。
【0027】
図1は、本実施形態に係る歯牙咬合面撮影用OCT装置900の全体構成を示すブロック図である。歯牙咬合面撮影用OCT装置900には、波長走査型光源として一定の周波数範囲の光信号を発振する近赤外光の光源110が用いられる。波長走査型OCTであるため、2次元データ収集速度が著しく速い。光源110の波長は、例えば、700nm〜2500nmであり、生体内へ浸入する近赤外光の波長に相当する。光源110の出力は、導光手段としての光ファイバ111に与えられる。光ファイバ111の中間部分には、他の光ファイバ112を接近させて干渉させる結合部113が設けられる。
【0028】
導光手段としての光ファイバ112の一端にはOCTプローブ140が設けられる。OCTプローブ140は、シース150及びそのシース150内に配置されるプローブ本体131を有する。シース150は、少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有する材質にて形成される。プローブ本体131は、光ファイバ112から導かれる光を観察対象200である歯牙咬合面に射出し、その反射光を光ファイバ112に掃引し、この反射光に基づく画像を後述する画像表示部125に表示する。
【0029】
光ファイバ111の他端には、コリメートレンズ117を介して参照ミラー118が光軸に垂直に設けられている。ここで、結合部113から参照ミラー118までの光学距離L1と、結合部113から観察対象200の測定部位である表面までの光学距離L2と、を等しくしておく。光ファイバ112の他端には、レンズ120を介して光検出器121が接続される。参照ミラー118では、観察対象200から戻る後方散乱光と干渉し干渉光が作られる。光検出器121は、例えば、受光素子やCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、又はphoto detector、から構成され、参照ミラー118からの反射光と測定部位で反射された光の干渉光を受光することによって、ビート信号を電気信号として得る。ここで、光ファイバ111、光ファイバ112、結合部113、コリメートレンズ117、参照ミラー118、及び、レンズ120は、干渉光学計を構成している。
【0030】
光検出器121の出力は、増幅器122を介して信号処理部123に入力される。信号処理部123は、干渉光学計から得られる受光信号をフーリエ変換することによって、断層画像信号を得る。また、信号処理部123からの出力は、画像処理部124に与えられる。画像処理部124は、信号処理部123からの出力に基づいて、観察対象200の2次元乃至3次元画像を生成する。そして、こうして生成された表示画像は、画像表示部125によって表示される。
【0031】
図2は、OCTプローブ140を説明する説明図である。図2に示すように、OCTプローブ140は、シース150及びそのシース150内に配置されるプローブ本体131を有する。プローブ本体131は、光ファイバ112の先端側端面に軸合わせをした状態で接続されている。プローブ本体131は、先端側から順に、プリズム135と、GRINレンズ(屈折率傾斜レンズ)136と、GRINレンズ136と光ファイバ112とを接続する接続導光部137とを有する。プローブ本体131の厚みは、口腔内に挿入可能な大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば0.4〜0.8mmである。プリズム135は、例えば直角プリズムであり、光ファイバ112により導かれた光の射出角度が直角となるように配置されている。プリズム135によって直角に偏向された光は、シース150を透過して外部に存在する観察対象200に照射される。
【0032】
OCTプローブ140には、プローブ本体131の基端側の端部に、回転手段160が設けられる。回転手段160はモータを備えたアクチュエータを有し、プローブ本体131はそのモータの回転軸に接続される。プローブ本体131は、アクチュエータに着脱自在に構成され、回転手段160のアクチュエータにて回転駆動される。回転手段160は図示しないコントローラにて駆動させることができる。なお、回転手段160は、プローブ本体131の基端側の端部に設ける構成に限定されず、例えば、OCTプローブ140の基端側の端部に設けて、該回転手段160から先端側に延出する光ファイバ及びプローブ本体131を回転させる構成とすることも可能である。
【0033】
また、OCTプローブ140には、シース150の内部にその長手方向に沿って設けられるガイドレール171bと、スライダ171aとを有する前後移動手段171が設けられる。スライダ171aは、プローブ本体131とガイドレール171bとの間に設けられ、プローブ本体131を支えるとともに、ガイドレール171bに沿って前後に移動可能である。スライダ171aが前後に移動することで、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させることができる。スライダ171aは、例えばスライダシリンダ等により前後に移動させることができ、図示しないコントローラにて駆動させることができる。なお、スライダの代わりに、プローブ本体131を支えるとともに、ガイドレール171bに沿って前後に移動可能なローラを設けることも可能であり、ローラが前後に移動することで、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させることができる。
【0034】
図3は、OCTプローブ140を水平に移動させる水平移動手段220、及び、OCTプローブ140を垂直に移動させる垂直移動手段230を説明する説明図である。図の複雑さ回避のために図3において、移動手段171は省略している。図3に示されるように、シース150の両外側にはサポートレール210が敷設されており、サポートレール210はOCTプローブ140を支える。水平移動手段220は、サポートレール210の基端部を支持し、そのサポートレール210を左右(図3においてy軸方向)又は前後(図3においてx軸方向)に自在に移動させることが可能である。即ち、OCTプローブ140を左右に移動させる場合はサポートレール210を左右に移動させ、OCTプローブ140を前後に移動させる場合はサポートレール210を前方に進出させる又は後方に後退させる。これによりOCTプローブ140を水平自在に移動させる。また、垂直移動手段230は、水平移動手段220を垂直(上下)に移動させることが可能であり、OCTプローブ140を垂直(上下)自在に移動させる(図3においてz軸方向)。なお、本実施形態では、垂直移動手段230は水平移動手段220を垂直に移動させるものであったが、このような実施形態に限定されることはなく、例えば水平移動手段220は垂直移動手段230を水平に移動させる構成を採用することも可能である。
【0035】
次に、上述の構成の歯牙咬合面撮影用OCT装置900を使用する歯牙咬合面の撮影態様について、説明する。
【0036】
図4は、臼歯の歯牙咬合面の表面形態を説明する説明図であり、そのうち(a)は上顎第一小臼歯の歯牙咬合面の表面形態であり、(b)は上顎第一大臼歯の歯牙咬合面の表面形態である。図4(a)及び(b)に示すように、歯牙咬合面とは、上下顎臼歯部の咬頭の間にある相対向する陥凹している面のことであり、隆線、裂溝、及び窩等で構成され複雑な形態を有しており、上下の歯を咬合させることによって咀嚼機能を実現する。歯牙咬合面の凹凸は食物を噛み砕く機能を担保し、スピルウェイは噛み砕かれた食物を更に細かく磨り潰す機能を担保する。なお、前歯部では歯牙咬合面は形成されずに、切縁部が形成される。
【0037】
図5は、ハンドピース型OCTプローブを使用して歯牙咬合面をOCT撮影する比較例としての写真図であり、そのうち(a)は下顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影であり、(b)は上顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影である。図5(a)及び(b)に示すように、人の最大開口量は成人で35〜40mm程度が限界であるため、ハンドピース型OCTプローブを使用してのOCT撮影では、歯牙咬合面に対して光を垂直に入射させることは極めて困難である。そして、OCT撮影では、光の入射角の僅かな相違により屈折現象・散乱現象に差異が生じるため、歯牙咬合面に対し光を垂直に入射できない撮影法では、画像描出能に差異が生じて正確な歯牙咬合面の撮影が困難である。
【0038】
次に、図6は、本実施形態に係る歯牙咬合面の撮影方法であり、そのうち(a)はOCTプローブ140の水平移動を説明する図であり、(b)はOCTプローブ140の垂直移動を説明する図である。図の複雑さ回避のために図6において、シース150、回転手段160及び移動手段171の記載は省略している。歯牙咬合面の近傍にOCTプローブ140を配置させる。シース150は可撓性を有しているため歯周組織を傷つけにくい。そして、回転手段160によりプローブ本体131を回転させながら、シース150内にて移動手段171によりプローブ本体131を前方又は後方に移動させる。プローブ本体131の回転範囲角度は、プローブ本体131の回転により歯牙咬合面の形態をカバーできる回転範囲角度であることが必要であり、特に限定されるものではないが、例えば30°〜90°である。なお、前後に移動させずにプローブ本体131を回転させてOCTプローブ140で撮影する、又は、回転させずにプローブ本体131を前後に移動させてOCTプローブ140で撮影することも可能である。そして、図6(a)に示されるように、水平移動手段220にてOCTプローブ140を水平(前後・左右)に移動させて、水平位置についての歯牙咬合面の形態に応じたOCT撮影を行う。また、図6(b)に示されるように、垂直移動手段230にてOCTプローブ140を垂直(上下)に移動させ、観察対象200との距離を一定に保ち、感度及び解像度良く歯牙咬合面の形態に応じたOCT撮影を行う。
【0039】
このように、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、歯牙咬合面の表面形態に応じてOCT撮影を行うから、極めて正確な歯牙咬合面の撮影が可能となる。更に、本発明によれば、歯牙咬合面のみならず歯牙・歯周組織の舌側面や舌側傾斜を認める歯牙切縁部についても正確でクリアな撮影が可能となる。
【0040】
なお、プローブ本体131をシース150と共に前方又は後方に移動させて歯牙咬合面の画像をOCTプローブ140で撮影することも可能である。係る場合は、プローブ本体131をシース内150にて前後に移動させる移動手段171を設ける必要はない。また、シース150を外側シースと内側シースとから形成される二重構成にして、歯牙咬合面近傍にて該外側シースを固定させ、プローブ本体131を内側シースと共に前方又は後方に移動させて歯牙咬合面の画像を撮影することも可能である。
【0041】
また、上述の実施形態では、歯牙咬合面の撮影において、プローブ本体131の回転は回転手段160により行ったが、このような実施形態に限定されるわけではなく、プローブ本体131の回転は人の手による操作も可能である。また、プローブ本体131の前後移動は移動手段171により行ったが、このような実施形態に限定されるわけではなく、プローブ本体131の前後移動は人の手による操作も可能である。同様に、OCTプローブ140の水平移動及び垂直移動についても人の手による操作が可能である。
【0042】
また、上述の実施形態では、フーリエ・ドメインOCT(FD−OCT)のうち、スウェプト・ソースOCT(SS−OCT)を用いているがこの方式に限定されるわけではなく、OCT装置をスペクトル・ドメインOCT(SD−OCT)で提案されている形式とすることもでき、また、OCT装置をタイム・ドメインOCT(TD−OCT)で提案されている形式とすることもできる。
【0043】
(第2実施形態)
第2実施形態では、シース151は歯牙咬合面の起伏形態に沿って変形させて設けられる。図7は、歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられるシース151を説明する説明図である。図7に示されるように、歯牙咬合面は、隆起部及び中央にある溝底部を有する複雑形状であるが、この歯牙咬合面から一定距離間隔にてシース151が配置される。歯牙咬合面とシース151との距離は、特に限定されるものではないが、例えば0〜10mmであることが可能であり、シース151を歯牙咬合面に接触させて歯牙咬合面とシース151との距離を0mmにすれば、シース151を歯牙咬合面に密着させて固定支持させることができる。シース151は可撓性を有すると共に塑性変形する材質で構成され、シース151を観察対象200となる歯牙咬合面に押しつけることにより、歯牙咬合面の起伏形態に沿ったシース151を簡単に成形することができる。シース151を支えるサポートレール210は図示されていないが、例えばシース151の形態に沿って敷設されることが可能であり、水平移動手段220はサポートレール210の基端部を支持してOCTプローブ140を水平自在に移動させ、また、垂直移動手段230は水平移動手段220を垂直に移動させてOCTプローブ140を垂直自在に移動させる。なお、水平移動手段220及び垂直移動手段230を設けずに、歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられたシース151のみを設け、そのシース151の中にてプローブ本体131を回転させながら前後移動させて歯牙咬合面を撮影することも可能である。
【0044】
歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられるシース151を用いることにより、観察対象200となる歯牙咬合面とプローブ本体131との距離を精密に一定間隔に保つことが可能となり、更に解像度を向上させた撮影が可能となる。
【0045】
(第3実施形態)
上述の実施形態では、プローブ本体131は、光ファイバからの入射光を直角に向きを変えて射出するものであった(第1プローブ本体)。しかし、本発明の範囲はこのような実施形態に限定されるものではない。図8は、直角とは異なる方向に入射光の向きを変える第3実施形態に係るOCTプローブを説明する図であり、そのうち(a)は、入射光を光ファイバに対し鋭角に向きを変えて射出する第2プローブ本体132の説明図であり、(b)は、入射光を光ファイバに対し鈍角に向きを変えて射出する第3プローブ本体133の説明図である。
【0046】
図8(a)に示すように、第2プローブ本体132では、プリズム235が、光ファイバ112により導かれた光の射出角度が鋭角に照射されるように構成されており、本実施形態ではその照射角度θは例えば60度である。その他の構成は、上記の第1プローブ本体131と同様である。また、図8(b)に示すように、第3プローブ本体133では、プリズム335が、光ファイバ112により導かれた光の射出角度が鈍角に照射されるように構成されており、本実施形態ではその照射角度θは例えば130度である。その他の構成は、上記の第1プローブ本体131と同様である。
【0047】
図9は、第3実施形態に係るOCTプローブの使用態様を説明する図であり、そのうち(a)は第2プローブ本体132を使用するOCTプローブの使用態様であり、(b)は第3プローブ本体133を使用するOCTプローブの使用態様である。第3実施形態では、プローブ本体は、第1プローブ本体131、第2プローブ本体132、又は第3プローブ本体133の3タイプからなり、これら第1プローブ本体131、第2プローブ本体132、又は第3プローブ本体133を互換使用する。即ち、通常の使用態様では、第1プローブ本体131を使用する。そして、図9(a)に示されるように、歯牙咬合面の上にOCTプローブ140を挿入し、先端側から基端側へ斜め後方に歯牙咬合面を撮影する場合は、第2プローブ本体132を使用する。また、図9(b)に示されるように、基端側から先端側へ斜め前方に歯牙咬合面を撮影する場合は、第3プローブ本体133を使用する。これにより、複雑形態の歯牙咬合面であっても歯牙咬合面に対して垂直に撮影することが可能になり、屈折現象・散乱現象による解像度の差異を最小限に抑えることが可能となる。
【0048】
(第4実施形態)
上述の第1実施形態において、シース150とプローブ本体131との間の空間が空気である場合、プリズム135→空気の際と、空気→シース150の際とで、各々の接続部の屈折率の差に起因する光の接続損失が発生する場合がある。そこで、本実施形態では、シース150内に、シース150とプローブ本体131との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを有する。マッチングオイルの屈折率はプリズム135の屈折率に同一又は近いものを使用しても良いし、また、シース150の屈折率に同一又は近いものを使用しても良い。また、プリズム135の屈折率とシース150の屈折率とが同一又は近い場合は、その屈折率のものを使用することが可能である。
【0049】
シース150内に充填されるマッチングオイルは、OCTプローブ131の回転及び前後移動を円滑に担保する程度の粘性を有するものが好ましい。シース150とプローブ本体131との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを使用することにより、光の接続損失を防止することができ、クリアな歯牙咬合面の撮影が可能となる。
【0050】
(第5実施形態)
上述の第1実施形態において、シース150と観察対象200との間の空間が空気である場合、シース150→空気の際と、空気→観察対象200の際とで、各々の接続部の屈折率の差に起因する光の接続損失が発生する場合がある。そこで、本実施形態では、シース150と観察対象200との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを、シース150の周囲に配置する。マッチングオイルの屈折率はシース150の屈折率に同一又は近いものを使用することが可能である。
【0051】
シース150の周囲に配置されるマッチングオイルは、歯牙咬合面に接して一定時間停滞する程度の粘性を有するものが好ましい。歯牙咬合面に接してとは、下顎大臼歯の歯牙咬合面の場合はその歯牙咬合面の直上であり、上顎大臼歯の歯牙咬合面の場合はその歯牙咬合面の直下である。また、シース150の周囲に配置されるマッチングオイルは、歯牙咬合面に接触するため、生体為害性を有しないことが必要である。シース150の周囲に配置されるマッチングオイルの種類としては、特に限定されるものではないが、例えば植物性オイル等を使用することが可能である。シース150と観察対象200との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを使用することにより、光の接続損失を防止することができ、クリアな歯牙咬合面の撮影が可能となる。
【0052】
図10は、歯牙咬合面に接して設置される器部300の説明図である。図10に示されるように、歯牙咬合面に接して設置される器部300を設け、その器部300に屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体を充填しても良い。器部300の側面にはOCTプローブ140を挿入可能な挿入孔310が形成される。OCTプローブ140は器部300の挿入孔310に挿入される。減衰防止媒体は、生体為害性を有しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、水、生理食塩水、植物性オイル等を使用することが可能である。これにより、シース150と観察対象200との間の空間にある空気に起因する光の接続損失を防止することができ、クリアな歯牙咬合面の撮影が可能となる。
【0053】
挿入孔310は、OCTプローブ140が垂直移動及び水平移動できる程度の大きさを有している。そのため、OCTプローブ140が垂直移動及び水平移動することにより、挿入孔310から器部300に充填された減衰防止媒体が少量流出することがあるが、かかる流出による不利益を防止するためには、器部300の挿入孔310が口腔外に位置する程度の形状の大きさに設定する。これにより、仮に挿入孔310から減衰防止媒体が少量流出したとしても口腔外への流出であるので、患者に不快感を与える可能性はない。
【0054】
(第6実施形態)
上述の第1実施形態では、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させる移動手段171は、スライダ171aと、シース150の内部に設けられるガイドレール171bとを有して構成された。しかしながら、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させる移動手段は、このような実施形態に限定されない。
【0055】
図11は、別実施形態に係る移動手段を有するOCTプローブを説明する説明図である。図11に示すように、プローブ本体131の基端側の端部には、複数段ロッドから構成される伸縮自在の移動手段172が設けられる。この移動手段172が伸びることにより、シース150内にてプローブ本体131が先端側に移動し、移動手段172が縮むことにより、シース150内にてプローブ本体131が基端側に移動する。移動手段172は、図11に示すように
プローブ本体131の基端側の端部に位置する回転手段160に取り付けられても良いし、また直接的にプローブ本体131の基端側の端部に取り付けることも可能である。なお、移動手段172を伸縮自在の複数段ロッド構造と構成せずに、紐状部材から構成して該紐状部材をリール等により巻き取る構成とすることも可能である。係る構成によれば、シース150内にてプローブ本体131を先端側に移動させることはできないが、簡易な構成によりシース150内にてプローブ本体131を基端側に移動させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
歯牙咬合面う触の早期発見が可能となるので、歯科診断及び歯科治療の分野にて有益に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
110:光源
111,112:光ファイバ
113:結合部
117:コリメートレンズ
118:参照ミラー
120:レンズ
121:光検出器
122:増幅器
123:信号処理部
124:画像処理部
125:画像表示部
131:プローブ本体(第1プローブ本体)
132:第2プローブ本体
133:第3プローブ本体
135:プリズム
136:GRINレンズ
137:接続導光部
140:OCTプローブ
150,151:シース
160:回転手段
171:移動手段
171a:スライダ
171b:ガイドレール
200:観察対象
210:サポートレール
220:水平移動手段
230:垂直移動手段
300:器部
310:挿入孔
900:歯牙咬合面撮影用OCT装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙咬合面の撮影方法、及び歯牙咬合面撮影用OCT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、口腔内の細菌より産生される酸によって、歯質が脱灰されて起こる、硬組織疾患のことであり、歯周病と並んで歯科の二大疾患の一つである。う触の好発部位は、大別して3つ存在し、一つ目は歯牙咬合面であり、二つめは歯頚部であり、三つ目は歯牙隣接面である。
【0003】
う蝕原因菌、食物残渣はプラークとなって歯に付着する。プラークの付着は、歯肉縁や、歯科修復材料と歯との境界部分のみならず、臼歯の歯牙咬合面において顕著であり、この歯牙咬合面におけるプラークの付着が歯牙咬合面う触の主原因である。
【0004】
従来、歯科の歯牙咬合面診断において、X線撮影装置、口腔内カメラ、歯科用カメラ、X線CT、MRI等が検査及び診査に使用されている。このうち、X線撮影装置で得られる像は透過像であり、被計測体の内部構造を3次元的に知ることは困難であるうえに、X線は人体に為害性があり、被爆線量・撮影回数に制限がある。口腔内カメラは、口腔内組織の表面のみを撮像するので、歯等の内部情報が得られない。X線CTは、X線撮影装置と同様人体に有害である上に、分解能が悪い。MRIは、分解能が悪く、装置が大型かつ高価である。
【0005】
そこで、近年、OCT(Optical coherence tomography)装置が、人体に無害で、被計測体の3次元情報が高分解能で得られるため、角膜や網膜の断層計測等の眼科領域で利用されており、歯科分野においてもOCT装置を応用した発明がなされている。
【0006】
例えば特許文献1及び特許文献2には、被検体の歯部に照射するための低コヒーレント光の発生手段と、該低コヒーレント光を信号光として前記歯部の選定された所定領域を走査する手段と、前記走査領域内の所定深部からの反射光と参照光との干渉によって走査領域の光断層画像を取得するOCT手段とを備える歯科診断OCT装置が記載されており、低コヒーレント光を被検体の歯部に照射する手段として、アームの先端に取り付けられたハンドピース型のOCTプローブが記載されている。これらの技術により、歯牙・歯周組織の唇側面及び頬側面に関しての撮影並びに直線的に到達できる口腔軟組織の撮影は可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−344260号公報
【特許文献2】特開2004−344262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、下顎前歯切縁から上顎前歯切縁までの距離である人の最大開口量は、成人で35〜40mm程度が限界であり、特に女性の平均最大開口量は、男性のそれよりも約7mm程度少ない。そのため、上述の歯科診断OCT装置では、歯列の解剖学的な形態より舌側傾斜を認める歯牙咬合面の正確な撮影は困難である。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、正確な歯牙咬合面の撮影を可能とし、歯牙咬合面う触の的確な診察を可能とする歯牙咬合面の撮影方法、及び歯牙咬合面撮影用OCT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、OCTプローブを歯牙咬合面の表面形態に応じて移動させて撮影することを特徴とする。
【0011】
具体的には、本発明の第1の観点に係る歯牙咬合面の撮影方法は、少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に回転及び前後移動可能に配置されるプローブ本体、を備えたOCTプローブを歯牙咬合面の近傍に配置し、前記プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、前記OCTプローブを前記歯牙咬合面の表面形態に応じて水平方向及び垂直方向のうち少なくとも何れか一方に移動させることにより、前記OCTプローブで歯牙咬合面の撮影を行うことを特徴とする。
【0012】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられることが好ましい。
【0013】
また、前記プローブ本体は、光源からの光を該プローブ本体に導く導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用することも可能である。
【0014】
また、前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることが好ましい。
【0015】
また、側面に前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を、歯牙咬合面に接して配置した後、前記OCTプローブを前記器部の前記挿入孔に挿入し、その後、前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することが好ましい。
【0016】
また、本発明の第2の観点に係る歯牙咬合面撮影用OCT装置は、光を発する光源と、少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に配置されるプローブ本体、を有するOCTプローブと、一端が前記光源に接続され他端が前記プローブ本体に接続された導光手段と、観察対象である歯牙咬合面の画像を表示する画像表示部とを備え、前記プローブ本体は、前記光源から導光手段を経て導かれた光を前記観察対象である歯牙咬合面に射出してその反射光を前記導光手段に掃引し、この反射光に基づく画像を前記画像表示部に表示する歯牙咬合面撮影用OCT装置であって、前記プローブ本体を回転駆動させる回転手段と、前記プローブ本体を前記シース内にて前後に移動させる前後移動手段と、前記OCTプローブを水平に移動させる水平移動手段と、前記OCTプローブを垂直に移動させる垂直移動手段と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられることが好ましい。
【0018】
また、前記プローブ本体は、前記導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用するように構成されていることも可能である。
【0019】
また、前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることが好ましい。
【0020】
また、歯牙咬合面に接して設置され、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を有し、前記器部の側面には前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、前記OCTプローブは前記器部の前記挿入孔に挿入され、前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することが好ましい。
【0021】
本発明では、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、歯牙咬合面の表面形態に応じて移動させ、光源からの光を導光手段を通じてOCTプローブに導き、歯牙咬合面の画像を取得し、その画像を画像表示部に表示する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、歯牙咬合面の表面形態に応じてOCT撮影を行うから、例えば最大開口量の少ない女性であっても歯牙咬合面の正確な撮影が可能となる。また、シースを歯牙咬合面の起伏形態に沿って配置することにより、歯牙咬合面の表面形態に沿った精密なスキャンニングを可能とし、歯牙咬合面う触の正確な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る歯牙咬合面撮影用OCT装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】OCTプローブを説明する説明図である。
【図3】OCTプローブを水平に移動させる水平移動手段、及び、OCTプローブを垂直に移動させる垂直移動手段を説明する説明図である。
【図4】臼歯の歯牙咬合面の表面形態を説明する説明図であり、そのうち(a)は上顎第一小臼歯の歯牙咬合面の表面形態であり、(b)は上顎第一大臼歯の歯牙咬合面の表面形態である。
【図5】ハンドピース型OCTプローブを使用して歯牙咬合面をOCT撮影する比較例としての写真図であり、そのうち(a)は下顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影であり、(b)は上顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影である。
【図6】本実施形態に係る歯牙咬合面の撮影方法であって、そのうち(a)はOCTプローブの水平移動を説明するであり、(b)はOCTプローブの垂直移動を説明する説明図である。
【図7】歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられるシースを説明する説明図である。
【図8】直角とは異なる方向に入射光の向きを変える第3実施形態に係るOCTプローブを説明する図であり、そのうち(a)は、入射光を光ファイバに対し鋭角に向きを変えて射出する第2プローブ本体の説明図であり、(b)は、入射光を光ファイバに対し鈍角に向きを変えて射出する第3プローブ本体の説明図である。
【図9】第3実施形態に係るOCTプローブの使用態様を説明する図であり、そのうち(a)は第2プローブ本体を使用するOCTプローブの使用態様であり、(b)は第3プローブ本体を使用するOCTプローブの使用態様である。
【図10】歯牙咬合面に接して配置される器部の説明図である。
【図11】別実施形態に係る移動手段を有するOCTプローブを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0025】
本実施形態に係る歯牙咬合面撮影用OCT(Optical Coherent Tomography:OCT)装置900は、歯牙咬合面近傍にOCTプローブ140を挿入し、回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行い、歯牙咬合面の表面形態に応じてOCT撮影する。
【0026】
OCT装置は、生体内組織をマイクロオーダで極めて高解像度に測定可能な装置である。また、OCTでは、体表面下にまで到達しうる近赤外線の光源を使用することで、被写体の表面部だけではなく深部までの測定が可能である。近赤外線は、レントゲン線(X線)のような生体に為害性がある放射線ではないため、厳密に非侵襲な被写体の検査を行うことができる。
【0027】
図1は、本実施形態に係る歯牙咬合面撮影用OCT装置900の全体構成を示すブロック図である。歯牙咬合面撮影用OCT装置900には、波長走査型光源として一定の周波数範囲の光信号を発振する近赤外光の光源110が用いられる。波長走査型OCTであるため、2次元データ収集速度が著しく速い。光源110の波長は、例えば、700nm〜2500nmであり、生体内へ浸入する近赤外光の波長に相当する。光源110の出力は、導光手段としての光ファイバ111に与えられる。光ファイバ111の中間部分には、他の光ファイバ112を接近させて干渉させる結合部113が設けられる。
【0028】
導光手段としての光ファイバ112の一端にはOCTプローブ140が設けられる。OCTプローブ140は、シース150及びそのシース150内に配置されるプローブ本体131を有する。シース150は、少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有する材質にて形成される。プローブ本体131は、光ファイバ112から導かれる光を観察対象200である歯牙咬合面に射出し、その反射光を光ファイバ112に掃引し、この反射光に基づく画像を後述する画像表示部125に表示する。
【0029】
光ファイバ111の他端には、コリメートレンズ117を介して参照ミラー118が光軸に垂直に設けられている。ここで、結合部113から参照ミラー118までの光学距離L1と、結合部113から観察対象200の測定部位である表面までの光学距離L2と、を等しくしておく。光ファイバ112の他端には、レンズ120を介して光検出器121が接続される。参照ミラー118では、観察対象200から戻る後方散乱光と干渉し干渉光が作られる。光検出器121は、例えば、受光素子やCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、又はphoto detector、から構成され、参照ミラー118からの反射光と測定部位で反射された光の干渉光を受光することによって、ビート信号を電気信号として得る。ここで、光ファイバ111、光ファイバ112、結合部113、コリメートレンズ117、参照ミラー118、及び、レンズ120は、干渉光学計を構成している。
【0030】
光検出器121の出力は、増幅器122を介して信号処理部123に入力される。信号処理部123は、干渉光学計から得られる受光信号をフーリエ変換することによって、断層画像信号を得る。また、信号処理部123からの出力は、画像処理部124に与えられる。画像処理部124は、信号処理部123からの出力に基づいて、観察対象200の2次元乃至3次元画像を生成する。そして、こうして生成された表示画像は、画像表示部125によって表示される。
【0031】
図2は、OCTプローブ140を説明する説明図である。図2に示すように、OCTプローブ140は、シース150及びそのシース150内に配置されるプローブ本体131を有する。プローブ本体131は、光ファイバ112の先端側端面に軸合わせをした状態で接続されている。プローブ本体131は、先端側から順に、プリズム135と、GRINレンズ(屈折率傾斜レンズ)136と、GRINレンズ136と光ファイバ112とを接続する接続導光部137とを有する。プローブ本体131の厚みは、口腔内に挿入可能な大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば0.4〜0.8mmである。プリズム135は、例えば直角プリズムであり、光ファイバ112により導かれた光の射出角度が直角となるように配置されている。プリズム135によって直角に偏向された光は、シース150を透過して外部に存在する観察対象200に照射される。
【0032】
OCTプローブ140には、プローブ本体131の基端側の端部に、回転手段160が設けられる。回転手段160はモータを備えたアクチュエータを有し、プローブ本体131はそのモータの回転軸に接続される。プローブ本体131は、アクチュエータに着脱自在に構成され、回転手段160のアクチュエータにて回転駆動される。回転手段160は図示しないコントローラにて駆動させることができる。なお、回転手段160は、プローブ本体131の基端側の端部に設ける構成に限定されず、例えば、OCTプローブ140の基端側の端部に設けて、該回転手段160から先端側に延出する光ファイバ及びプローブ本体131を回転させる構成とすることも可能である。
【0033】
また、OCTプローブ140には、シース150の内部にその長手方向に沿って設けられるガイドレール171bと、スライダ171aとを有する前後移動手段171が設けられる。スライダ171aは、プローブ本体131とガイドレール171bとの間に設けられ、プローブ本体131を支えるとともに、ガイドレール171bに沿って前後に移動可能である。スライダ171aが前後に移動することで、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させることができる。スライダ171aは、例えばスライダシリンダ等により前後に移動させることができ、図示しないコントローラにて駆動させることができる。なお、スライダの代わりに、プローブ本体131を支えるとともに、ガイドレール171bに沿って前後に移動可能なローラを設けることも可能であり、ローラが前後に移動することで、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させることができる。
【0034】
図3は、OCTプローブ140を水平に移動させる水平移動手段220、及び、OCTプローブ140を垂直に移動させる垂直移動手段230を説明する説明図である。図の複雑さ回避のために図3において、移動手段171は省略している。図3に示されるように、シース150の両外側にはサポートレール210が敷設されており、サポートレール210はOCTプローブ140を支える。水平移動手段220は、サポートレール210の基端部を支持し、そのサポートレール210を左右(図3においてy軸方向)又は前後(図3においてx軸方向)に自在に移動させることが可能である。即ち、OCTプローブ140を左右に移動させる場合はサポートレール210を左右に移動させ、OCTプローブ140を前後に移動させる場合はサポートレール210を前方に進出させる又は後方に後退させる。これによりOCTプローブ140を水平自在に移動させる。また、垂直移動手段230は、水平移動手段220を垂直(上下)に移動させることが可能であり、OCTプローブ140を垂直(上下)自在に移動させる(図3においてz軸方向)。なお、本実施形態では、垂直移動手段230は水平移動手段220を垂直に移動させるものであったが、このような実施形態に限定されることはなく、例えば水平移動手段220は垂直移動手段230を水平に移動させる構成を採用することも可能である。
【0035】
次に、上述の構成の歯牙咬合面撮影用OCT装置900を使用する歯牙咬合面の撮影態様について、説明する。
【0036】
図4は、臼歯の歯牙咬合面の表面形態を説明する説明図であり、そのうち(a)は上顎第一小臼歯の歯牙咬合面の表面形態であり、(b)は上顎第一大臼歯の歯牙咬合面の表面形態である。図4(a)及び(b)に示すように、歯牙咬合面とは、上下顎臼歯部の咬頭の間にある相対向する陥凹している面のことであり、隆線、裂溝、及び窩等で構成され複雑な形態を有しており、上下の歯を咬合させることによって咀嚼機能を実現する。歯牙咬合面の凹凸は食物を噛み砕く機能を担保し、スピルウェイは噛み砕かれた食物を更に細かく磨り潰す機能を担保する。なお、前歯部では歯牙咬合面は形成されずに、切縁部が形成される。
【0037】
図5は、ハンドピース型OCTプローブを使用して歯牙咬合面をOCT撮影する比較例としての写真図であり、そのうち(a)は下顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影であり、(b)は上顎大臼歯の歯牙咬合面のOCT撮影である。図5(a)及び(b)に示すように、人の最大開口量は成人で35〜40mm程度が限界であるため、ハンドピース型OCTプローブを使用してのOCT撮影では、歯牙咬合面に対して光を垂直に入射させることは極めて困難である。そして、OCT撮影では、光の入射角の僅かな相違により屈折現象・散乱現象に差異が生じるため、歯牙咬合面に対し光を垂直に入射できない撮影法では、画像描出能に差異が生じて正確な歯牙咬合面の撮影が困難である。
【0038】
次に、図6は、本実施形態に係る歯牙咬合面の撮影方法であり、そのうち(a)はOCTプローブ140の水平移動を説明する図であり、(b)はOCTプローブ140の垂直移動を説明する図である。図の複雑さ回避のために図6において、シース150、回転手段160及び移動手段171の記載は省略している。歯牙咬合面の近傍にOCTプローブ140を配置させる。シース150は可撓性を有しているため歯周組織を傷つけにくい。そして、回転手段160によりプローブ本体131を回転させながら、シース150内にて移動手段171によりプローブ本体131を前方又は後方に移動させる。プローブ本体131の回転範囲角度は、プローブ本体131の回転により歯牙咬合面の形態をカバーできる回転範囲角度であることが必要であり、特に限定されるものではないが、例えば30°〜90°である。なお、前後に移動させずにプローブ本体131を回転させてOCTプローブ140で撮影する、又は、回転させずにプローブ本体131を前後に移動させてOCTプローブ140で撮影することも可能である。そして、図6(a)に示されるように、水平移動手段220にてOCTプローブ140を水平(前後・左右)に移動させて、水平位置についての歯牙咬合面の形態に応じたOCT撮影を行う。また、図6(b)に示されるように、垂直移動手段230にてOCTプローブ140を垂直(上下)に移動させ、観察対象200との距離を一定に保ち、感度及び解像度良く歯牙咬合面の形態に応じたOCT撮影を行う。
【0039】
このように、歯牙咬合面の近傍にOCTプローブを挿入し、プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、歯牙咬合面の表面形態に応じてOCT撮影を行うから、極めて正確な歯牙咬合面の撮影が可能となる。更に、本発明によれば、歯牙咬合面のみならず歯牙・歯周組織の舌側面や舌側傾斜を認める歯牙切縁部についても正確でクリアな撮影が可能となる。
【0040】
なお、プローブ本体131をシース150と共に前方又は後方に移動させて歯牙咬合面の画像をOCTプローブ140で撮影することも可能である。係る場合は、プローブ本体131をシース内150にて前後に移動させる移動手段171を設ける必要はない。また、シース150を外側シースと内側シースとから形成される二重構成にして、歯牙咬合面近傍にて該外側シースを固定させ、プローブ本体131を内側シースと共に前方又は後方に移動させて歯牙咬合面の画像を撮影することも可能である。
【0041】
また、上述の実施形態では、歯牙咬合面の撮影において、プローブ本体131の回転は回転手段160により行ったが、このような実施形態に限定されるわけではなく、プローブ本体131の回転は人の手による操作も可能である。また、プローブ本体131の前後移動は移動手段171により行ったが、このような実施形態に限定されるわけではなく、プローブ本体131の前後移動は人の手による操作も可能である。同様に、OCTプローブ140の水平移動及び垂直移動についても人の手による操作が可能である。
【0042】
また、上述の実施形態では、フーリエ・ドメインOCT(FD−OCT)のうち、スウェプト・ソースOCT(SS−OCT)を用いているがこの方式に限定されるわけではなく、OCT装置をスペクトル・ドメインOCT(SD−OCT)で提案されている形式とすることもでき、また、OCT装置をタイム・ドメインOCT(TD−OCT)で提案されている形式とすることもできる。
【0043】
(第2実施形態)
第2実施形態では、シース151は歯牙咬合面の起伏形態に沿って変形させて設けられる。図7は、歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられるシース151を説明する説明図である。図7に示されるように、歯牙咬合面は、隆起部及び中央にある溝底部を有する複雑形状であるが、この歯牙咬合面から一定距離間隔にてシース151が配置される。歯牙咬合面とシース151との距離は、特に限定されるものではないが、例えば0〜10mmであることが可能であり、シース151を歯牙咬合面に接触させて歯牙咬合面とシース151との距離を0mmにすれば、シース151を歯牙咬合面に密着させて固定支持させることができる。シース151は可撓性を有すると共に塑性変形する材質で構成され、シース151を観察対象200となる歯牙咬合面に押しつけることにより、歯牙咬合面の起伏形態に沿ったシース151を簡単に成形することができる。シース151を支えるサポートレール210は図示されていないが、例えばシース151の形態に沿って敷設されることが可能であり、水平移動手段220はサポートレール210の基端部を支持してOCTプローブ140を水平自在に移動させ、また、垂直移動手段230は水平移動手段220を垂直に移動させてOCTプローブ140を垂直自在に移動させる。なお、水平移動手段220及び垂直移動手段230を設けずに、歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられたシース151のみを設け、そのシース151の中にてプローブ本体131を回転させながら前後移動させて歯牙咬合面を撮影することも可能である。
【0044】
歯牙咬合面の起伏形態に沿って設けられるシース151を用いることにより、観察対象200となる歯牙咬合面とプローブ本体131との距離を精密に一定間隔に保つことが可能となり、更に解像度を向上させた撮影が可能となる。
【0045】
(第3実施形態)
上述の実施形態では、プローブ本体131は、光ファイバからの入射光を直角に向きを変えて射出するものであった(第1プローブ本体)。しかし、本発明の範囲はこのような実施形態に限定されるものではない。図8は、直角とは異なる方向に入射光の向きを変える第3実施形態に係るOCTプローブを説明する図であり、そのうち(a)は、入射光を光ファイバに対し鋭角に向きを変えて射出する第2プローブ本体132の説明図であり、(b)は、入射光を光ファイバに対し鈍角に向きを変えて射出する第3プローブ本体133の説明図である。
【0046】
図8(a)に示すように、第2プローブ本体132では、プリズム235が、光ファイバ112により導かれた光の射出角度が鋭角に照射されるように構成されており、本実施形態ではその照射角度θは例えば60度である。その他の構成は、上記の第1プローブ本体131と同様である。また、図8(b)に示すように、第3プローブ本体133では、プリズム335が、光ファイバ112により導かれた光の射出角度が鈍角に照射されるように構成されており、本実施形態ではその照射角度θは例えば130度である。その他の構成は、上記の第1プローブ本体131と同様である。
【0047】
図9は、第3実施形態に係るOCTプローブの使用態様を説明する図であり、そのうち(a)は第2プローブ本体132を使用するOCTプローブの使用態様であり、(b)は第3プローブ本体133を使用するOCTプローブの使用態様である。第3実施形態では、プローブ本体は、第1プローブ本体131、第2プローブ本体132、又は第3プローブ本体133の3タイプからなり、これら第1プローブ本体131、第2プローブ本体132、又は第3プローブ本体133を互換使用する。即ち、通常の使用態様では、第1プローブ本体131を使用する。そして、図9(a)に示されるように、歯牙咬合面の上にOCTプローブ140を挿入し、先端側から基端側へ斜め後方に歯牙咬合面を撮影する場合は、第2プローブ本体132を使用する。また、図9(b)に示されるように、基端側から先端側へ斜め前方に歯牙咬合面を撮影する場合は、第3プローブ本体133を使用する。これにより、複雑形態の歯牙咬合面であっても歯牙咬合面に対して垂直に撮影することが可能になり、屈折現象・散乱現象による解像度の差異を最小限に抑えることが可能となる。
【0048】
(第4実施形態)
上述の第1実施形態において、シース150とプローブ本体131との間の空間が空気である場合、プリズム135→空気の際と、空気→シース150の際とで、各々の接続部の屈折率の差に起因する光の接続損失が発生する場合がある。そこで、本実施形態では、シース150内に、シース150とプローブ本体131との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを有する。マッチングオイルの屈折率はプリズム135の屈折率に同一又は近いものを使用しても良いし、また、シース150の屈折率に同一又は近いものを使用しても良い。また、プリズム135の屈折率とシース150の屈折率とが同一又は近い場合は、その屈折率のものを使用することが可能である。
【0049】
シース150内に充填されるマッチングオイルは、OCTプローブ131の回転及び前後移動を円滑に担保する程度の粘性を有するものが好ましい。シース150とプローブ本体131との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを使用することにより、光の接続損失を防止することができ、クリアな歯牙咬合面の撮影が可能となる。
【0050】
(第5実施形態)
上述の第1実施形態において、シース150と観察対象200との間の空間が空気である場合、シース150→空気の際と、空気→観察対象200の際とで、各々の接続部の屈折率の差に起因する光の接続損失が発生する場合がある。そこで、本実施形態では、シース150と観察対象200との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを、シース150の周囲に配置する。マッチングオイルの屈折率はシース150の屈折率に同一又は近いものを使用することが可能である。
【0051】
シース150の周囲に配置されるマッチングオイルは、歯牙咬合面に接して一定時間停滞する程度の粘性を有するものが好ましい。歯牙咬合面に接してとは、下顎大臼歯の歯牙咬合面の場合はその歯牙咬合面の直上であり、上顎大臼歯の歯牙咬合面の場合はその歯牙咬合面の直下である。また、シース150の周囲に配置されるマッチングオイルは、歯牙咬合面に接触するため、生体為害性を有しないことが必要である。シース150の周囲に配置されるマッチングオイルの種類としては、特に限定されるものではないが、例えば植物性オイル等を使用することが可能である。シース150と観察対象200との間の空間を充填する屈折率調整用のマッチングオイルを使用することにより、光の接続損失を防止することができ、クリアな歯牙咬合面の撮影が可能となる。
【0052】
図10は、歯牙咬合面に接して設置される器部300の説明図である。図10に示されるように、歯牙咬合面に接して設置される器部300を設け、その器部300に屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体を充填しても良い。器部300の側面にはOCTプローブ140を挿入可能な挿入孔310が形成される。OCTプローブ140は器部300の挿入孔310に挿入される。減衰防止媒体は、生体為害性を有しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、水、生理食塩水、植物性オイル等を使用することが可能である。これにより、シース150と観察対象200との間の空間にある空気に起因する光の接続損失を防止することができ、クリアな歯牙咬合面の撮影が可能となる。
【0053】
挿入孔310は、OCTプローブ140が垂直移動及び水平移動できる程度の大きさを有している。そのため、OCTプローブ140が垂直移動及び水平移動することにより、挿入孔310から器部300に充填された減衰防止媒体が少量流出することがあるが、かかる流出による不利益を防止するためには、器部300の挿入孔310が口腔外に位置する程度の形状の大きさに設定する。これにより、仮に挿入孔310から減衰防止媒体が少量流出したとしても口腔外への流出であるので、患者に不快感を与える可能性はない。
【0054】
(第6実施形態)
上述の第1実施形態では、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させる移動手段171は、スライダ171aと、シース150の内部に設けられるガイドレール171bとを有して構成された。しかしながら、プローブ本体131をシース150内にて前後に移動させる移動手段は、このような実施形態に限定されない。
【0055】
図11は、別実施形態に係る移動手段を有するOCTプローブを説明する説明図である。図11に示すように、プローブ本体131の基端側の端部には、複数段ロッドから構成される伸縮自在の移動手段172が設けられる。この移動手段172が伸びることにより、シース150内にてプローブ本体131が先端側に移動し、移動手段172が縮むことにより、シース150内にてプローブ本体131が基端側に移動する。移動手段172は、図11に示すように
プローブ本体131の基端側の端部に位置する回転手段160に取り付けられても良いし、また直接的にプローブ本体131の基端側の端部に取り付けることも可能である。なお、移動手段172を伸縮自在の複数段ロッド構造と構成せずに、紐状部材から構成して該紐状部材をリール等により巻き取る構成とすることも可能である。係る構成によれば、シース150内にてプローブ本体131を先端側に移動させることはできないが、簡易な構成によりシース150内にてプローブ本体131を基端側に移動させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
歯牙咬合面う触の早期発見が可能となるので、歯科診断及び歯科治療の分野にて有益に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
110:光源
111,112:光ファイバ
113:結合部
117:コリメートレンズ
118:参照ミラー
120:レンズ
121:光検出器
122:増幅器
123:信号処理部
124:画像処理部
125:画像表示部
131:プローブ本体(第1プローブ本体)
132:第2プローブ本体
133:第3プローブ本体
135:プリズム
136:GRINレンズ
137:接続導光部
140:OCTプローブ
150,151:シース
160:回転手段
171:移動手段
171a:スライダ
171b:ガイドレール
200:観察対象
210:サポートレール
220:水平移動手段
230:垂直移動手段
300:器部
310:挿入孔
900:歯牙咬合面撮影用OCT装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に回転及び前後移動可能に配置されるプローブ本体、を備えたOCTプローブを歯牙咬合面の近傍に配置し、前記プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、前記OCTプローブを前記歯牙咬合面の表面形態に応じて水平方向及び垂直方向のうち少なくとも何れか一方に移動させることにより、前記OCTプローブで歯牙咬合面の撮影を行うことを特徴とする歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項2】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って変形させて設けられることを特徴とする請求項1に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項3】
前記プローブ本体は、光源からの光を該プローブ本体に導く導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、
これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用することを特徴とする請求項1又は2項に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項4】
前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項5】
側面に前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を、歯牙咬合面に接して配置した後、
前記OCTプローブを前記器部の前記挿入孔に挿入し、
その後、前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項6】
光を発する光源と、
少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に配置されるプローブ本体、を有するOCTプローブと、
一端が前記光源に接続され他端が前記プローブ本体に接続された導光手段と、
観察対象である歯牙咬合面の画像を表示する画像表示部とを備え、
前記プローブ本体は、前記光源から導光手段を経て導かれた光を前記観察対象である歯牙咬合面に射出してその反射光を前記導光手段に掃引し、この反射光に基づく画像を前記画像表示部に表示する歯牙咬合面撮影用OCT装置であって、
前記プローブ本体を回転駆動させる回転手段と、
前記プローブ本体を前記シース内にて前後に移動させる前後移動手段と、
前記OCTプローブを水平に移動させる水平移動手段と、
前記OCTプローブを垂直に移動させる垂直移動手段と、を備えていることを特徴とする歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項7】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って変形させて設けられることを特徴とする請求項6に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項8】
前記プローブ本体は、前記導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、
これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用するように構成されていることを特徴とする請求項6又は7項に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項9】
前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項10】
歯牙咬合面に接して設置され、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を有し、
前記器部の側面には前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、
前記OCTプローブは前記器部の前記挿入孔に挿入され、
前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項1】
少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に回転及び前後移動可能に配置されるプローブ本体、を備えたOCTプローブを歯牙咬合面の近傍に配置し、前記プローブ本体の回転及び前後移動のうち少なくとも何れか一方を行うと共に、前記OCTプローブを前記歯牙咬合面の表面形態に応じて水平方向及び垂直方向のうち少なくとも何れか一方に移動させることにより、前記OCTプローブで歯牙咬合面の撮影を行うことを特徴とする歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項2】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って変形させて設けられることを特徴とする請求項1に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項3】
前記プローブ本体は、光源からの光を該プローブ本体に導く導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、
これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用することを特徴とする請求項1又は2項に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項4】
前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項5】
側面に前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を、歯牙咬合面に接して配置した後、
前記OCTプローブを前記器部の前記挿入孔に挿入し、
その後、前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の歯牙咬合面の撮影方法。
【請求項6】
光を発する光源と、
少なくとも先端側領域が透過性を有する可撓性を有するシース、及び、前記シース内に配置されるプローブ本体、を有するOCTプローブと、
一端が前記光源に接続され他端が前記プローブ本体に接続された導光手段と、
観察対象である歯牙咬合面の画像を表示する画像表示部とを備え、
前記プローブ本体は、前記光源から導光手段を経て導かれた光を前記観察対象である歯牙咬合面に射出してその反射光を前記導光手段に掃引し、この反射光に基づく画像を前記画像表示部に表示する歯牙咬合面撮影用OCT装置であって、
前記プローブ本体を回転駆動させる回転手段と、
前記プローブ本体を前記シース内にて前後に移動させる前後移動手段と、
前記OCTプローブを水平に移動させる水平移動手段と、
前記OCTプローブを垂直に移動させる垂直移動手段と、を備えていることを特徴とする歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項7】
前記歯牙咬合面の近傍に配置されるシースは、該歯牙咬合面の起伏形態に沿って変形させて設けられることを特徴とする請求項6に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項8】
前記プローブ本体は、前記導光手段からの入射光を直角に向きを変えて観察対象に射出する第1プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鋭角に向きを変えて観察対象に射出する第2プローブ本体と、
前記入射光を前記導光手段に対し鈍角に向きを変えて観察対象に射出する第3プローブ本体との3タイプからなり、
これら第1プローブ本体、第2プローブ本体、又は第3プローブ本体を互換使用するように構成されていることを特徴とする請求項6又は7項に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項9】
前記シース内には、マッチングオイルが充填されていることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【請求項10】
歯牙咬合面に接して設置され、屈折率の差による光の減衰を防止する減衰防止媒体が充填される器部を有し、
前記器部の側面には前記OCTプローブを挿入可能とする挿入孔を有し、
前記OCTプローブは前記器部の前記挿入孔に挿入され、
前記器部の内部に、前記減衰防止媒体を注入して歯牙咬合面の画像をOCTプローブで撮影することを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の歯牙咬合面撮影用OCT装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2011−217973(P2011−217973A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90838(P2010−90838)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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