説明

歯磨剤組成物

【解決手段】フッ化ナトリウムを含有する歯磨剤組成物に、
(A)脂肪酸アミドプロピルベタインを0.4〜3質量%、
(B)カラギーナンを0.4〜1.6質量%、
(C)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種のセルロース誘導体を0.4〜2.2質量%
を配合してなり、(B)成分/(C)成分が質量比で0.7〜3.5であることを特徴とする歯磨剤組成物。
【効果】本発明の歯磨剤組成物は、フッ化物の口腔内、特に歯牙表面への滞留性に優れ、かつ、歯ブラシ上に採取したときの成形性に優れ、室温以上の中高温で保管時に液分離がなく、低温保存時に製剤外観が悪くなることもなく、低温又は中高温での経時保存安定性が良好であり、更に、歯磨ブラッシング時において十分な泡立ちが得られるもので、う蝕予防用の歯磨剤組成物として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物の口腔内滞留性に優れ、歯牙表面にフッ化物が効果的に作用し、かつ良好な成形性及び経時保存安定性を有し、起泡性にも優れ、使用感の良好な歯磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤組成物中には、歯磨成分を口腔内に速やかに行き届かせると共にブラッシング時の使用感を向上させるためなどに界面活性剤(発泡剤)が配合されており、起泡性に優れるラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤が多くの製品で用いられている。
【0003】
一方、歯磨製剤は歯ブラシ上に採取して使用することから、製剤に一定の成形性を与えることで歯ブラシに採取し易く製剤化されている。この成形性を作り出すため、多くの歯磨製剤に粘結剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどのアニオン性の水溶性高分子が配合されている。
【0004】
また、歯磨製剤の多くには、これらの基剤の他に各種有効成分が配合されており、その中でもう蝕予防効果を有する成分としてフッ化ナトリウムやモノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ化物が多くの製品に配合され、上市されている。
【0005】
フッ化物は多価金属イオンとの反応性が高く、フッ化ナトリウムは、カルシウムイオンなどが製剤中に存在する場合にはフッ化カルシウムを形成するなどして有効性が低下することが知られており、製剤組成に応じてモノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ化物を用い、種類を使い分けて使用している。また、フッ化物は大量摂取による急性中毒、慢性的な過剰摂取による歯のフッ素症や骨フッ素症を引き起こすことが知られており、このような危険性から薬効成分として配合されるフッ化物は、多くの国において配合上限値が設けられており、例外的には5,000ppm程度まで認められているが、一般的にはフッ素として1,000〜1,500ppmを配合の上限値に設定している。
【0006】
これらのことを踏まえ、一定の濃度でより効率的にフッ化物を歯牙表面へ作用させて高いう蝕予防効果を発揮させる技術が求められており、フッ化物の口腔内滞留性を改善し、作用効率を向上させる検討が行われている。
【0007】
このような技術としては、例えば、ジェランガムと非イオン性界面活性剤を併用して滞留性を向上させる口腔用液体組成物(特許文献1)、コロイド性炭酸カルシウムを併用する口腔用組成物(特許文献2)、ワックスを併用した歯磨剤組成物(特許文献3)、特定のアルギン酸塩、キサンタンガム及びリン酸塩を併用する液状口腔用組成物(特許文献4)などが提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの技術は、必ずしもフッ化物の作用効率を十分に向上させるものではなく、また、製剤化した場合に歯ブラシ上での成形性や経時による液分離、低温状態での外観の悪化等を抑制する十分な製剤安定性の確保、更に起泡性などによる使用感について必ずしも全てが十分満足できるものはなかった。よって、新たなフッ化物の作用効率を高める技術が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開平8−3074号公報
【特許文献2】特開平11−130643号公報
【特許文献3】特開2002−3351号公報
【特許文献4】特開2006−206581号公報
【特許文献5】特開平2−1402号公報
【特許文献6】特開平8−333226号公報
【特許文献7】特開平3−5417号公報
【特許文献8】特開2001−163743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、フッ化物の口腔内、特に歯牙表面への滞留性に優れ、歯ブラシ上での成形性に優れ、保存温度にかかわらず経時での製剤の保存安定性が良好であり、十分な泡立ちを有する、フッ化物を含有する歯磨剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため、フッ化物を含有する歯磨剤組成物におけるフッ素と歯の表面との相互作用への影響について鋭意検討した結果、フッ化ナトリウムを含有する歯磨剤組成物に、(A)脂肪酸アミドプロピルベタインと、(B)カラギーナンと、(C)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれるセルロース誘導体とを特定割合で配合することにより、上記課題が解決され、フッ化物の口腔内滞留性が高まり、歯牙表面へのフッ化物の作用効率が向上し、優れたう蝕予防効果を発揮すると共に、歯ブラシ上に載せた時の成形性に優れ、しかも、室温以上の中高温(40〜50℃)で保管された場合(実際に保管温度が40℃を超える場合もあるが、一般的に40℃で6ヶ月間保管した条件が室温3年保存に相当するとされており、室温での安定性を早期に判断する指標となる。)の液分離がなく、低温保存時に製剤外観が悪くなることもなく、更に泡立ちがよく、使用感も良好である歯磨剤組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0012】
脂肪酸アミドプロピルベタイン、カラギーナン、セルロース誘導体は何れも歯磨剤組成物の配合成分としては公知の物質であり、脂肪酸アミドプロピルベタインはカルボキシベタイン型の両性の界面活性剤であり、カラギーナンは海藻由来のアニオン性の粘結剤(高分子物質)、セルロース誘導体はセルロースにヒドロキシアルキル等を付加した非イオン性の水溶性高分子物質である。一般的にフッ化ナトリウムが歯表面へ滞留する作用機序は陰イオンに解離したフッ素イオンと歯表面との静電的相互作用によると考えられ、従って、水溶液中に他のイオン性の化合物が存在することでフッ素の口腔内滞留性が低下する傾向であることを知見している。しかしながら、本発明では、意外にもイオン性を有する脂肪酸アミドプロピルベタイン、カラギーナンを配合することで高いフッ化物の滞留性が得られ、しかも上記したような優れた特性を兼ね備え、本発明の目的を達成できることを新たに見出したものである。脂肪酸アミドプロピルベタインはイオン性の良好な泡立ちを示すにもかかわらず、カチオン性を示す部位とアニオン性を示す部位がメチレン基を3個介した近傍に存在することにより分子内で電気的中和状態となることでフッ化物の滞留性に影響を与えないものと考えられる。一方、カラギーナンがフッ化物の滞留性を高める理由は明確でないが、カラギーナンはアニオン性を示す硫酸基が結合する箇所が糖構造の4位の炭素(2級炭素)と特異的であり、アニオン性部位が糖鎖骨格に密着した状態にある。これにより、ポリアクリル酸ナトリウム等の他のアニオン性粘結剤に比べアニオン性部位のフレキシビリィテーが小さくなっており、このことが何らかの影響を与えているものと推察している。
【0013】
なお、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン又はカルボキシメチルセルロースといった粘結剤と両性界面活性剤をトリクロサン配合歯磨組成物に配合することで、殺菌力の経日的低下を防止した歯磨組成物(特許文献5)、アニオン界面活性剤と非イオン性界面活性剤とアルキルベタイン等の両性界面活性剤と、粘稠剤又は粘結剤を配合した特定粘度の液体組成物を非エアゾール型ノンガス常圧容器に充填した、ブラッシング時において泡の潤滑作用で使用感も良好な泡状口腔用組成物(特許文献6)などが知られているが、これら技術は、フッ化ナトリウム含有歯磨剤組成物に上記(A)〜(C)成分を配合することにより、フッ化物の歯牙表面への滞留性を向上し得る上、優れた成形性、経時保存安定性、起泡性等を有することを示唆するものではない。
【0014】
更に、水溶液中において解離したフッ化物イオンはアニオン性を有することから、カチオン性を有する化合物を用いることで静電的作用によりフッ化物を口腔内へ滞留させる技術が知られている(特許文献7,8)。しかし、上記特許文献7,8から、本発明において硫酸基を有するアニオン性のカラギーナンが、同様にアニオン性を有するフッ化物の口腔内滞留性を向上させ得ることは、予想できるものではない。
【0015】
従って、本発明は、フッ化ナトリウムを含有する歯磨剤組成物に、
(A)脂肪酸アミドプロピルベタインを0.4〜3質量%、
(B)カラギーナンを0.4〜1.6質量%、
(C)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種のセルロース誘導体を0.4〜2.2質量%
を配合してなり、(B)成分/(C)成分が質量比で0.7〜3.5である特徴とする歯磨剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯磨剤組成物は、フッ化物の口腔内、特に歯牙表面への滞留性に優れ、かつ、歯ブラシ上に採取したときの成形性に優れ、室温以上の中高温(40〜50℃)で保管された場合に液分離がなく、低温保存時に製剤外観が悪くなることもなく、低温又は中高温での経時保存安定性が良好であり、更に、歯磨ブラッシング時において十分な泡立ちが得られるもので、う蝕予防用の歯磨剤組成物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明につき更に詳細に説明する。本発明の歯磨剤組成物は、フッ化ナトリウムを含有し、かつ(A)脂肪酸アミドプロピルベタイン、(B)カラギーナン、(C)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種を配合してなるものである。
【0018】
本発明組成物において、フッ化ナトリウムとしては、通常歯磨剤組成物に使用されるものであれば、何れでもよく、例えばステラケミファ(株)などから入手することができる市販品を使用することができる。フッ化ナトリウムの配合量は、組成物全体の0.05〜0.5%(質量%、以下同様。)が好ましい。なお、フッ素の含有量としては226〜2,263ppmであり、指定された配合上限内で用いることが好ましい。
【0019】
(A)成分の脂肪酸アミドプロピルベタインとしては、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等が好適に使用でき、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
ラウリン酸アミドプロピルベタインは、主としてラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸からなり、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインは、主としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸からなる。
【0020】
これらの脂肪酸アミドプロピルベタインとしては、市販品を使用でき、ラウリン酸アミドプロピルベタインとしては、例えばアンヒトール20AB(花王(株))、ソフタゾリン LPB(川研ファインケミカル(株))、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインとしては、TEGO BETAIN CK(Goldschmidt社)、アンヒトール55AB(花王(株))、NIKKOL AM−3130N(日光ケミカルズ(株))などの商品名で入手可能な市販品を使用できる。
【0021】
脂肪酸アミドプロピルベタインの配合量は、組成物全体の0.4〜3%であり、好ましくは0.6〜2.0%である。0.4%未満では歯磨ブラッシング時において十分な泡立ちが得られなかったり、低温保存後における練製剤の外観が悪くなり、3%を超えるとフッ化物の滞留性が低下したり、液分離安定性が悪くなる。
【0022】
(B)成分のカラギーナンは、一般に紅藻類海藻から抽出,精製される天然高分子物質であり、D−ガラクトースや3,6−アンヒドロ−D−ガラクトースを主成分とする多糖類であり、分子内に硫酸基を含有するアニオン性高分子化合物である。カラギーナンは、原料とする海藻の種類の違いから糖構造に違いがあり、κ(カッパ)−カラギーナン、ι(イオタ)−カラギーナン、λ(ラムダ)−カラギーナンがあるが、本発明では、κ(カッパ)−カラギーナン、ι(イオタ)−カラギーナンを好適に使用することができ、単独でも2種を併用してもよい。
このようなカラギーナンとしては、例えばι−型としては、CP Kelco社製のGENUVISCO type PJ−JPE、GENUGEL type CJ、κ−型としてはGENUGEL type WR−78−J、GENUGEL type WG−115などを用いることができる。
【0023】
カラギーナンの配合量は、組成物全体の0.4〜1.6%であり、好ましくは0.6〜1.2%である。0.4%未満では十分な成形性が得られなかったり、液分離安定性が低下する場合があり、1.6%を超えるとフッ化物の滞留性に劣り、また、0.4〜1.6%の範囲を外れると低温保存での外観安定性に劣る場合がある。
【0024】
(C)成分は、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれるセルロース誘導体であり、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して配合することができる。非イオン性粘結剤である上記セルロース誘導体は、フッ素イオンと歯表面間で働く静電的相互作用への影響が小さいため滞留性への影響が小さいと考えられ、また、ヒドロキシル基の親水部とセルロース骨格の疎水部とからなる高分子界面活性剤としての機能から泡立ちが高まり、更に保水性機能が液分離安定性を良好にするものと考えられる。
【0025】
ヒドロキシエチルセルロースとしては、重量平均分子量が10万〜300万のものが成形性を持たせる点で好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリエチレンオキサイドの検量線を用いて換算した値である。
このようなヒドロキシエチルセルロースとしては、例えば、HECダイセル SE600、SE850、SE900(ダイセル化学工業(株))などが市販されており使用することができる。
【0026】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、例えば、信越化学工業(株)からメトローズの商品名で市販されているMETOLOSE 65SH400、65SH1500、65SH4000、60SH4000などが使用することができ、メチルセルロースとしては、例えば、信越化学工業(株)から市販されているMETOLOSE SM400、SM1500、SM4000などが使用することができる。これらのセルロース誘導体は、2%水溶液での粘度(mPa・s)が50〜4000mP・sのグレードのものが成形性を持たせる点で好ましい。なお、粘度測定は、単一円筒形回転粘度計ブルックフィールド型粘度計LV型(ローター#2、温度20℃、12rpm、1分間)で行った。
【0027】
(C)成分のセルロース誘導体の配合量は、組成物全体に対して0.4〜2.2%であり、好ましくは0.6〜1.8%である。0.4%未満では製剤の十分な成形性が得られなかったり、液分離安定性が悪くなり、2.2%を超えると製剤粘度が上昇し、歯磨ブラッシング時において十分な泡立ちが得られなかったり、低温保存後の外観が悪くなる。
【0028】
(B)成分/(C)成分の配合比率(質量比)は、0.7〜3.5であり、好ましくは1.0〜3.0である。0.7未満では歯ブラシ上での成形性や液分離安定性が低下し、3.5を超えるとフッ化物の滞留性が低下したり、低温保存後の外観が悪くなる。
【0029】
本発明の歯磨剤組成物は、上記した成分に加えて、任意成分として通常歯磨剤組成物に配合されるその他の成分、例えば研磨剤、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、甘味料、着色料、防腐剤、pH調整剤、香料、薬効成分等の適宜の成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。
【0030】
研磨剤としては、第2リン酸カルシウム2水和物、第2リン酸カルシウム無水和物、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、2酸化チタン、結晶性ジルコニウムシリケート、ポリメチルメタアクリレート、不溶性メタリン酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、カルシウム欠損アパタイト、第3リン酸カルシウム、第4リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤などが挙げられる。なお、製剤中でのフッ化物イオンとの反応性を考慮した場合、カルシウムイオンを放出しない研磨剤が好ましく、特にシリカ系研磨剤が好ましく、例えば沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケートなどが挙げられる。研磨剤の配合量は、通常、組成物全体の2〜50%、特に10〜40%である。
【0031】
粘稠剤としては、グリセリン、ソルビット、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、分子量200〜6000のポリエチレングリコール、還元でんぷん糖化物等の多価アルコール、糖アルコールなどの1種又は2種以上が使用でき、通常の配合量は5〜50%である。
【0032】
粘結剤としては、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースに加えて、他の粘結剤、具体的にはカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウムなどを挙げることができる。他の粘結剤の配合量は0〜1.0%である。
【0033】
なお、本発明においては、フッ化物の滞留性向上効果が、他のアニオン性化合物の配合により低減してしまうことがあるので、フッ化物の歯牙への滞留性を十分確保するために、カラギーナン以外の他のアニオン性粘結剤、例えばポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム等のアニオン性高分子を配合しないことが好ましく、配合しても必要最小限の配合量にすることが望ましい。具体的に他のアニオン性粘結剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.4%以下、特に0〜0.2%が望ましく、下限値は0%である。実質上含まれない(0%である)ことが最も好ましい。含有量が0.4%を超えると、本発明の効果であるフッ化物の歯牙への滞留性向上効果が低減してしまうことがある。
【0034】
界面活性剤としては、(A)成分の脂肪酸アミドプロピルベタインに加えて、通常歯磨剤組成物に用いられる他の界面活性剤を配合することができ、上記脂肪酸アミドプロピルベタイン以外の両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等を配合できるが、アニオン性界面活性剤は配合しないことが好ましい。
【0035】
上記したように、本発明では、フッ化物の滞留性向上効果がアニオン性界面活性剤の配合により低減してしまうことがあるので、フッ化物の歯牙への滞留性を満足に発揮させるために、一般的な歯磨剤組成物に配合されるラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウムなどのアニオン性界面活性剤を配合しないことが望ましく、配合しても必要最小限の配合量にすることが好ましい。アニオン性界面活性剤を配合する場合、その含有量は組成物中0.05%以下であることが好ましく、下限値は0%である。実質上含まれない(0%である)ことが最も好ましい。含有量が0.05%を超えると、本発明の効果であるフッ化物の歯牙への滞留性向上効果が低減してしまうことがある。
【0036】
従って、他の界面活性剤を配合する場合は、非イオン性界面活性剤を配合することが好適であり、例えば、アルキル基の炭素数が16〜18のポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキシドの付加モル数が40〜80モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0037】
これら他の界面活性剤を配合する場合、その配合量は、組成物中0〜6%が好ましく、(A)成分と併せた合計配合量が通常0.4〜9%程度となる範囲が好適である。
【0038】
薬効成分としては、フッ化ナトリウムに加え、他の薬効成分、例えばクロルヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸カリウム、ヒノキチオール等の抗菌剤、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、プロテアーゼ等の歯垢形成抑制剤、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アラントイン等の抗炎症剤、酢酸トコフェロール等の各種ビタミンなどが挙げられる。配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量である。
【0039】
甘味料としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、p−メトキシシンナミックアルデヒド、アスパルテーム等が配合できる。
【0040】
着色料としては、赤色2号、赤色3号、赤色225号、赤色226号、黄色4号、黄色5号、黄色205号、青色1号、青色2号、青色201号、青色204号、緑色3号、雲母チタン、酸化チタン等を挙げることができる。
防腐剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、酢酸、リン酸、ピロリン酸、グリセロリン酸やこれらの各種塩、水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。本発明の歯磨剤組成物のpHは6〜10、好ましくは7〜9の範囲になるよう調整されることが好ましい。
【0042】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これらの天然香料の加工処理(全溜部カット、後溜部カット、分留、液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−1−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアセデヒド、シトラール、プレゴン、カルビートアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、歯磨剤組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができ、実施例の香料に限定されない。
【0043】
本発明の歯磨剤組成物を収容する容器の材質は特に制限されず、通常、歯磨剤組成物に使用される容器を使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等のプラスチック容器等が使用できる。更に、例えば直径26mm、口部内径5mmのラミネートチューブチューブ(最外層よりLDPE55/PET12/LDPE20/白LDPE60/EMAA20/AL10/EMAA30/LDPE20/LLDPE30)などを好適に使用できる。なお、上記略号は下記の通りであり、末尾の数字は厚さ(μm)を示す。
LDPE:低密度ポリエチレン
白LDPE:白色低密度ポリエチレン
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン
AL:アルミニウム
PET:ポリエチレンテレフタレート
EMAA:エチレン・メタクリル酸の共重合体樹脂
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において%は特に断らない限り、いずれも質量%であり、表1,2に示される配合量は純分換算による配合量を示した。
【0045】
〔実施例、比較例〕
表1,2に示す組成の歯磨剤組成物を調製し、フッ化物の滞留性評価、歯ブラシ上での成形性の評価、製剤の液分離安定性の評価、低温保存後における練製剤の外観、歯磨ブラッシング時の泡立ちの評価を下記方法で評価した。結果を表1,2に示す。
【0046】
試験歯磨剤組成物の調製:
歯磨剤組成物の調製は、精製水にサッカリンナトリウム、フッ化ナトリウムを溶解させた後、ソルビット液、グリセリンを加え、別途、エチレングリコールにカラギーナンとヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種を分散させた液を加え撹拌した。その後、香料、研磨剤、脂肪酸アミドプロピルベタインを加え、更に減圧下(5.3kPa)で撹拌し、歯磨剤組成物を得た。製造にはユニミキサー(FM−SR−25,POWEREX CORPORATION社,容積25L)を用い、20kg仕込で調製した。
【0047】
これら歯磨剤組成物の調製に用いた各成分としては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(アンヒトール55AB,花王(株),30%水溶液)、ラウリン酸アミドプロピルベタイン(アンヒトール20AB,花王(株),30%水溶液)、κ−カラギーナン(GENUGEL type WR−78−J,CP−Kelco社)、ι−カラギーナン(GENUVISCO type PJ−JPE,CP−Kelco社)、ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業(株),SE850)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株),65SH400)、メチルセルロース(信越化学工業(株),SM400)、研磨性シリカ(ローディア日華(株),TIXOSIL 73)、70%ソルビット液(東和化成工業(株))、85%グリセリン水溶液(ライオンケミカル(株))、POE(ポリオキシエチレン)(20)セチルエーテル(日本エマルジョン(株))、POE(60)硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ(株))、フッ化ナトリウム(ステラケミファ(株))を使用し、その他、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルギン酸ナトリウム、増粘性シリカ(トクシールUR,(株)トクヤマ)、エチレングリコール、サッカリンナトリウム、水は医薬部外品原料規格2006に適合したものを用いた。なお、表中のソルビット、グリセリン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン及びラウリン酸アミドプロピルベタインについての配合量は純分換算の値を示した。
香料については、表3に示す香料A〜香料Iを、表4〜9に示すフレーバー組成を用い作成し、配合した。
【0048】
また、以下の評価においてはラミネートチューブチューブ(大日本印刷(株)製)に約50g充填したものを使用した。ラミネートチューブは、最外層よりLDPE55/PET12/LDPE20/白LDPE60/EMAA20/AL10/EMAA30/LDPE20/LLDPE30の層構成で厚さ257μm、直径26mm、口部内径5mmのものを使用した。
なお、上記略号は下記の通りであり、末尾の数字は厚さ(μm)を示す。
【0049】
LDPE:低密度ポリエチレン
白LDPE:白色低密度ポリエチレン
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン
AL:アルミニウム
PET:ポリエチレンテレフタレート
EMAA:エチレン・メタクリル酸の共重合体樹脂
【0050】
(1)フッ化物の滞留性評価
表1,2に示す組成の歯磨時組成物(サンプルの歯磨剤組成物)8gに精製水24gを加え、よく分散させた後、遠心(10,000rpm×10min)して上清液を得た。上清液8mLをヒドロキシアパタイトビーズ(PENTAX(株)製、平均粒径 10μm)200mgに加え、37℃で3分間撹拌した後に、吸引ろ過し、ろ紙上に回収されたヒドロキシアパタイトビーズを精製水(16mL)により分散し、再度吸引ろ過し、ろ紙上のヒドロキシアパタイトビーズを回収した。これに、1N−塩酸(4mL)を加え溶解させ、100℃で10分間加熱処理した。この液1mLを採取し、酢酸緩衝液(pH5.2)を3mL加え、フッ素イオンメーターでフッ素イオン濃度を測定した。また、0.21%のフッ化ナトリウム水溶液を作成し、水溶液8gに精製水24gを加えた液に対して同様にヒドロキシアパタイトを作用させ、フッ素イオン濃度を測定した。これらの結果から、フッ化物滞留性(%)を、フッ化ナトリウム水溶液を作用させた場合を100%とする以下の(式1)から求めた。なお、酢酸緩衝液(pH5.2)は、塩化アンモニウムを160gと酢酸アンモニウム230gを精製水800mLに加温溶解し、酢酸(100)を添加してpH5.2に調整した後、精製水を加え1,000mLにメスアップしたものを使用した。
【数1】

【0051】
フッ素滞留性を以下の指標で評価し、○及び◎の場合はフッ化物滞留性が良好であると判断した。
評価基準;
◎:フッ化物滞留性が80%以上
○:フッ化物滞留性が60%以上〜80%未満
△:フッ化物滞留性が40%以上〜60%未満
×:フッ化物滞留性が40%未満
【0052】
(2)歯ブラシ上での成形性の評価
サンプルの歯磨剤組成物を上記の直径26mm、口部内径5mmのラミネートチューブに50g充填し、歯ブラシ上に0.5g載せたときの形状変化を下記基準で評価した。
評価基準;
4点:歯ブラシ上での型くずれが観察される。
3点:歯ブラシ上での型くずれが若干観察される。
2点:歯ブラシ上で徐々に型くずれする。
1点:歯ブラシ上ですぐに型くずれする
【0053】
5回の評価結果を平均し、以下の基準で判定し、◎及び○のものを、泡立ちが確保され、満足できる使用感が得られる歯磨剤組成物であると判断した。
◎:歯ブラシ上での成形性が3.5点以上〜4.0点以下
○:歯ブラシ上での成形性が3.0点以上〜3.5点未満
△:歯ブラシ上での成形性が2.0点以上〜3.0点未満
×:歯ブラシ上での成形性が2.0点未満
【0054】
(3)製剤の液分離安定性の評価
サンプルの歯磨剤組成物を上記の直径26mm、口部内径5mmのラミネートチューブに50g充填し、各組成3本を50℃、1ヶ月間保存し、わら半紙上に10cm歯磨剤組成物を押出し、わら半紙に染み出た液の長さを測定し、下記の4段階で液分離の度合いを評価した。なお、40℃以上の中高温保存における製剤の液分離安定性は温度に依存して液分離が促進される傾向を示し、1ヶ月間の保存期間で評価が可能である保存温度として50℃を選択した。
評価基準;
4点:液分離は全く観察されない。
3点:押し出した時、口元に僅かに液分離が認められる。
2点:押し出した時、口元に液分離が1〜3cm認められる。
1点:押し出した時、口元に液分離が3cmを超えて認められる。
【0055】
3本の評価点の平均値を求め、下記基準で判定し、◎及び○のものを、中高温保存時における製剤の液分離安定性に優れる歯磨剤組成物であると判断した。
◎:液分離の度合いが3.5点以上〜4.0点以下
○:液分離の度合いが3.0点以上〜3.5点未満
△:液分離の度合いが2.0点以上〜3.0点未満
×:液分離の度合いが2.0点未満
【0056】
(4)低温保存後における練製剤の外観の評価
サンプルの歯磨剤組成物を上記の直径26mm、口部内径5mmのラミネートチューブに50g充填し、各組成3本を−5℃で1ヶ月保存し、室温(25℃)に戻して1日放置した後、わら半紙上に直ちに歯磨を15cm押出した場合の練歯磨の表面状態の滑らかさの評価として、艶、つぶ、しわ、均一性について以下の基準で評価した。
評価基準;
4点:表面状態に艶があり、つぶ、しわなどが無く、均一で滑らかな表面である。
3点:表面状態につぶ、しわが僅かに認められるが、ほぼ均一で滑らかな表面である。
2点:表面状態につぶ又はしわが認められ、練表面の均一性がない。
1点:表面状態に著しくつぶ又はしわが認められ、練表面が不均一で連続性がない。
【0057】
3本の評価点の平均値を求め、下記基準で判定し、◎及び○のものを、低温保存による練製剤外観の劣化(表面肌荒れ)を生じない優れた歯磨剤組成物であると判断した。
◎:表面状態が3.5点以上〜4.0点以下
○:表面状態が3.0点以上〜3.5点未満
△:表面状態が2.0点以上〜3.0点未満
×:表面状態が2.0点未満
【0058】
(5)歯磨ブラッシング時の泡立ちの評価
専門家パネラー10人を用いた官能試験により評価した。歯ブラシ上に約0.7gの歯磨剤組成物を載せ、通常歯を磨く方法で使用した。使用中の口腔内での歯磨剤組成物の泡立ちについて、以下の基準で評価した。
【0059】
評価基準;
4点:泡立ち量が十分に多い。
3点:泡立ち量がやや多い。
2点:泡立ち量がやや少ない。
1点:泡立ち量が少ない。
【0060】
10名の評価結果を平均し、以下の基準で判定し、◎及び○のものを、泡立ちが確保され、満足できる使用感が得られる歯磨剤組成物であると判断した。
◎:口腔内での泡立ちが3.5点以上〜4.0点以下
○:口腔内での泡立ちが3.0点以上〜3.5点未満
△:口腔内での泡立ちが2.0点以上〜3.0点未満
×:口腔内での泡立ちが2.0点未満
【0061】
【表1】

※フッ化ナトリウム:0.21%配合はフッ素含有量として950ppmに相当。
【0062】
【表2】

【0063】
表1,2の結果から、本発明の歯磨剤組成物(実施例)は、フッ化物の歯牙表面への滞留性に優れ、歯ブラシに採取したときの成形性に優れ、経時での製剤からの液分離が少なく、低温に置かれた場合に製剤外観が悪くなることが無く、歯磨ブラッシング時において十分な泡立ちが得られるものであった。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

なお、上記表中、部はいずれも質量部である(以下、同様。)。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ナトリウムを含有する歯磨剤組成物に、
(A)脂肪酸アミドプロピルベタインを0.4〜3質量%、
(B)カラギーナンを0.4〜1.6質量%、
(C)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種のセルロース誘導体を0.4〜2.2質量%
を配合してなり、(B)成分/(C)成分が質量比で0.7〜3.5であることを特徴とする歯磨剤組成物。

【公開番号】特開2009−155217(P2009−155217A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331753(P2007−331753)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】