説明

歯科用ガラス組成物

(a)シリカ10〜35重量%;(b)アルミナ10〜35重量%;(c)酸化亜鉛3〜30重量%;(d)P4〜30重量%;および(e)フッ化物3〜25重量%を含み、MO(ただし、MはLi、Na、および/またはKである)として計算されたアルカリ金属を最大3重量%含有し、酸化亜鉛およびフッ化物の合計の、Pに対する重量比が0.8から3.0であるアルミノシリケートガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミノシリケートガラス組成物、および本発明のガラス組成物で特徴づけられる粒状歯科用フィラーに関する。さらに、本発明は、本発明の粒状ガラスフィラーを含む歯科修復用組成物および歯科セメント用組成物の調製方法に関する。最後に、本発明は、歯科修復用組成物の調製のための、本発明のガラス組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
EP−A0997132は、光硬化型歯科用複合材のフィラーとして有用な歯科用ガラスを開示している。EP−A0997132は、そこに開示されたガラスが反応性であり、歯科用セメントに有用であるという証拠を開示していない。
【0003】
EP−A0469573は、反応性ガラスフィラーと水不溶性重金属塩とを含有するガラスアイオノマーセメントを開示している。EP−A−0469573によるガラス組成物は、亜鉛を必須成分として含有していない。
【0004】
米国特許第4775592号は、歯科用ガラスアイオノマーセメント向けのフルオロアルミノシリケートガラス粉末を開示しており、この粉末の表面は、セメントの破砕強度および流動性を改善するために、特定の量のフッ化物によって処理されている。
【0005】
ガラスは、多くの歯科修復用材料の重要な部分を形成し、歯科において多くの異なる方法で使用されている。ガラスの一般的な用途は、重合可能な組成物の不活性フィラーとしてであり、この場合は、不活性ガラスが通常望ましいのであり、使用されもする。歯科におけるガラスの第2の用途は、クラウンまたはインレーの製作であり、この場合は、ガラスは不活性だけでなく、高い表面硬度を有することが不可欠である。また、比較的低融点であり、クラウンまたはインレーの成形が容易であるガラスが望ましい。歯科分野におけるガラスの用途のさらなる例は、酸溶解性ガラスがリン酸と混合されている、いわゆる「シリケート」セメント、および酸溶解性ガラスが、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルホスホン酸などのポリ酸と混合されている、「高分子電解質」セメントである。この後者の種類のセメントは、しばしばガラスアイオノマーセメントと呼ばれる。
【0006】
米国特許第4814362号は、歯科用ガラスアイオノマー組成物におけるイオン源に適した、アルカリ土類金属アルミノシリケートガラスを開示しており、X線不透過性をもたらすために、ガラスはストロンチウムを含有している。米国特許第5318929号は、歯科用ガラスアイオノマーセメント向けのアパタイトガラスセラミックを開示している。米国特許第5360770号は、歯科用ガラスアイオノマーセメント向けのさらなるガラス組成物を開示している。これらの参考資料からわかるガラス組成物は、酸化亜鉛を含有していない。
【0007】
米国特許第6355585号は、歯科用ガラスアイオノマーセメント組成物向けのガラス粉末を開示しており、曲げ強さおよび引張り強さは、ガラス粒子を引き伸ばして特定の形状にすることによって改善されている。このガラス組成物は、亜鉛を必須成分として含有していない。
【0008】
歯科用ガラスアイオノマーセメント向けの亜鉛含有アルミノボレートガラス組成物は、米国特許第4336153号からわかる。ポリアルケン酸塩ガラスアイオノマー歯科用セメントを調製するための、三成分系アルミニウム−亜鉛−シリケートガラスは、Darling M.;Hill R.;Biomaterials1994、15(4)、299〜306頁に開示されている。しかし、ここに開示されているガラス組成物は、いかなるフッ化物をも含有していない。
【0009】
リン酸塩および高分子電解質セメントと共に、ガラスは固化反応に加わり、そのために部分的に溶解される。この目的のためには、ガラスは不活性であってはならず、適切な程度の酸溶解性を有し、ガラスを部分的に溶解させ、イオンを放出させなければならない。リン酸塩および高分子電解質セメントは、ガラスから放出されたイオンによる、酸の架橋結合によって主として硬化するので、ガラスは、したがって、酸により架橋結合されうる要素を含有しなければならないということは明白である。NaおよびKなどの1価のイオンは、酸を架橋結合させることはできないが、広範囲の多価イオンをこの目的のために使用することができる。所望の反応性または不活性をもたらすガラス組成は、したがって、意図されている目的に従って広範囲に変化するが、歯科用途の一般的な望ましい特徴は、ガラスがX線に対して不透明なことである。このことにより、歯科医師は、X線によって修復を見ることができ、さらに虫歯の診断が容易になり、あるいは残っている歯質を最小限破壊することによって修復物を除去することができる。クラウンおよびインレーが、誤って飲み込まれた場合は、クラウンおよびインレーに使用されているガラスのX線不透過性もまた重要である。したがって、歯科適用分野向けに意図されたガラスは、意図された用途に応じた、多くの厳格なおよびさまざまな仕様を満たさなければならないことを、理解することができる。
【0010】
適切なガラスを開発する試みは、例えば、Journal of Dental Research June 1979、1607〜1619頁、またはより最近では、米国特許第4814362号、米国特許第5318929号、米国特許第5360770号および米国特許出願公開第2004/0079258A1号に記載されている。後者の出願は、「不活性歯科用ガラス」であり、この不活性ガラスが、CaO、BaO、SrO、ZnO、NaO、KO、LiOなどの強塩基性酸化物を、スカンジウムまたはランタニドシリーズのものなどの弱塩基性酸化物で置換することにより、開発されたことを主張している。しかし、MgOおよびZnOは、弱塩基性でありCaOおよびBaOを置換するのに適している(抄録)、または強塩基性であり適切な不活性ガラスを得るためには置換する必要がある(パラグラフ0034)のように、この出願において、さまざまに言及されており、したがって、MgOおよびZnOがどちらの分類に属すると考えられているのか明確でない。例えば、0079258A1号のパラグラフ[00349]において、強塩基性イオンのLi、Na、K、Ca、Sr2+、Ba2+、およびZn2+を、Sc3+、Y3+、La3+またはCe3+またはランタニドシリーズからのその他のイオンなどの弱塩基性イオンによって置換または部分的に置換することにより、かなりの程度よりゆっくりと固化するガラスが得られることがわかったということが、具体的に述べられている。このことから期待されることとは逆に、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛イオンを高濃度で含有する、ゆっくりと固化するガラスを開発することが、本発明の目的である。特に、高亜鉛含有量のガラスが望ましい。酸化亜鉛は、歯科において主としてリン酸、ポリカルボン酸と共に、またはオイゲノールと共に広く使用されている。酸化亜鉛は、これらの材料と混合されると錯体を形成し、その結果得られた硬い物質は充填材料およびセメントとして有用である。これらの亜鉛含有材料は、長年にわたる臨床用途で、歯質に対して特に穏やかで有益であることが証明されており、このことは、Zn2+イオンの存在に起因するとされている。酸性調合物と共に使用する場合は、酸化亜鉛は、十分にゆっくりした反応時間を持つように、特別に処理されなければならず、したがって、亜鉛をガラスに添加した場合、それ自体で、ポリアルケン酸塩調合物中でゆっくり反応するガラスを生じさせることは期待できない。酸化亜鉛のみをベースとする材料の欠点は、非常に劣った物理的性質を有することであり、低い強度、大きな摩耗、高い水溶性を有し、不透明さが非常に大きいために美的外観に乏しい。これらのZnOベースの材料は、したがって、一時的な充填としての用途、またはクラウンの下のセメントなどの保護されて見ることのできない場所での用途に限定される。例えば、Journal of Hard Tissue Biology(2003)、12(1)、17〜24頁に記載されているように、ZnO粉末を直接ポリアルケン酸塩セメントに結合させる試みがなされている。ZnOは、セメントの機械的特性に大きな変化を与えることなく、象牙質の脱塩の阻止に貢献することが、この研究で結論づけられている。しかし、ZnOは高度に不透明であり、これをポリアルケン酸塩セメント中に取り込むとすれば、相当に美的外観を低減させることになろう。この混合物における2つの別々の固化機構のために、取り扱い特性および固化特性もまた減少させられる。歯および周辺組織に対する、可能性のある有益な効果を有することに加えて、亜鉛はX線に対して高度に不透明であり、歯科用充填材料に要求されるX線不透過性を付与するのに役立つ。一般に、ポリアルケン酸塩セメントにおいて使用されるガラスは、どちらかといえば反応性が大きすぎ、反応性を低減させ、十分に長い作業時間および固化時間をもたらすために、特別な処理を必要とする。ガラスの反応性を低減させるような処理には、例えば、特願平3−285510に記載されているような、熱処理、酸によるエッチング、フィルムによるガラスの被覆、またはこれらの方法の1つまたは複数の組合せがありうる。これは有効ではあるが、悪い方向に向かう可能性のある、製造における余分な工程であり、時間と費用も掛かる。加えて、ガラスの表面層は、エッチングまたは被覆によって改変され、この表面層は、さらなる調合工程または輸送の間に、後から機械的損失または摩耗を受けやすく、その結果かかる処理はあまり効果的ではない。歯に、自然に存在する元素としてのカルシウムも、また、歯科用ガラスの重要な成分であり、これが存在するとヒドロキシアパタイトの形成を促進することが明らかにされている。カルシウムは、ある環境においては、ストロンチウムによって置換することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、高濃度のZnOと、場合によりCaOおよびSrOとを含有し、それにもかかわらず、0.1から100μm、特に0.5から10μmの平均粒径を有するように製造され、ポリアルケン酸塩調合物において、好ましくはガラスの反応性を低減するさらなる処理を行うことなしに使用された場合に、十分長い作業時間をもたらす、反応性ガラスを提供することが、本発明の課題である。加えて、このようなガラスから得られた固化ポリアルケン酸塩セメントは、曝露された場所で永久充填物として使用することを可能にする、十分に高品位の物理特性、およびX線に対する十分大きな不透明性を持たなければならない。このようなガラスは、また、有機の重合可能な材料と混合することができ、混合物は、有機マトリックスの重合により、硬化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、
(a)シリカ10〜35重量%;
(b)アルミナ10〜35重量%;
(c)酸化亜鉛3〜30重量%;
(d)P4〜30重量%;および
(e)フッ化物3〜25重量%
を含み、MO(ただし、MはLi、Na、および/またはKである)として計算されたアルカリ金属を最大3重量%含有し、酸化亜鉛およびフッ化物の合計のPに対する重量比が0.8から3.0であるアルミノシリケートガラス組成物を提供する。
【0013】
第2の態様によれば、本発明は、本発明のガラス組成物によって特徴づけられる粒状ガラスフィラーを提供する。
第3の態様によれば、本発明は、本発明の粒状ガラスフィラーを含む歯科修復用組成物を提供する。
第4の態様によれば、本発明は、歯科用セメント組成物を調製する方法を提供するものであって、
(a)ポリ酸を含む成分を提供する工程;
(b)請求項6または7により定義された通りの粒状ガラスフィラーを含有する成分を提供する工程;
(c)硬化性歯科用セメント組成物を調製するために、工程(a)および(b)の成分を水の存在下で混合する工程
を含む。
第5の態様によれば、本発明は、歯科修復用組成物の調製のために、本発明のガラス組成物を使用することを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、アルミノシリケートガラス組成物を提供する。この組成物は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、リンおよびフッ素を必須成分として含有する。ケイ素、アルミニウム、亜鉛およびリンは、酸化物として組成物中に含有される。ガラスアイオノマーの性質は多くの因子に依存するが、ガラス組成物とガラスアイオノマーの性質との間の一般的な傾向を見つけることができる。傾向は必ずしも線形ではなく、多くの相互作用が存在するので、傾向を、既知の点から遠く離れたところまで外挿してはならない。ガラスの大部分の成分の変化は、ガラスにおける架橋結合の程度に影響を与え、したがって、ほとんどの組成変化は、ある程度反応性に影響する。ガラスと得られたガラスアイオノマーの性質との多重回帰分析においては、以下の傾向が見られる。
【0015】
シリカ(SiOとして計算される)は、本発明によるガラス組成物中に10〜35重量%の量で含まれる。好ましい実施形態においては、シリカは18〜30重量%の量で含まれる。この組成物における量がこの範囲未満である場合は、ガラスの溶解性および反応性が高くなりすぎ、得られたガラスアイオノマーは強度が低い。この組成物における量がこの範囲を超える場合は、ガラスの性質が悪化し、得られたガラスアイオノマーは、再びあまりにも速く固化しすぎる傾向を有する可能性がある。
【0016】
アルミナ(Alとして計算される)は、本発明によるガラス組成物中に10〜35重量%の量で含まれる。この組成物は、アルミナを少なくとも15重量%含むことができる。好ましい実施形態においては、アルミナは20〜30重量%の量で含まれる。この組成物における量がこの範囲未満である場合は、ガラスの性質が悪化する可能性があり、ガラスは非常に反応性になりうる。この組成物における量がこの範囲を超える場合は、ガラスの性質が悪化し、得られたガラスアイオノマーは強度が低い。
【0017】
シリカのアルミナに対する重量比は、好ましくは1.2から0.8の範囲、より好ましくは1.15から1.0の範囲である。組成物におけるこの比がこの範囲未満である場合は、ガラスの性質が悪化する可能性があり、ガラスは非常に反応性になりうる。この組成物におけるこの比がこの範囲を超える場合は、ガラスの性質が悪化する可能性があり、ガラスの反応性は非常に大きくなって制御するのが困難になる可能性がある。
【0018】
酸化亜鉛(ZnOとして計算される)は、本発明によるガラス組成物中に3〜30重量%の量で含まれる。好ましい実施形態においては、酸化亜鉛は3から25重量%の量で含まれる。この組成物における量がこの範囲未満である場合は、ガラスの性質が悪化する可能性があり、ガラスアイオノマーからの亜鉛イオンの放出速度が減少する可能性がある。この組成物における量がこの範囲を超える場合は、ガラスの性質が悪化する可能性があり、ガラスはあまりにも反応性になりすぎる可能性がある。
【0019】
リン(Pとして計算される)は、本発明によるガラス組成物中に4〜30重量%の量で含まれる。好ましい実施形態においては、リンは8から20重量%の量で含まれる。リン原子は、リン酸塩の形態で組成物中に含まれうる。組成物におけるリン酸塩の量がこの範囲を外れる場合は、作業時間および固化時間が悪化する可能性がある。
【0020】
フッ化物は、本発明によるガラス組成物中に3〜25重量%の量で含まれる。このガラス組成物は、フッ化物を少なくとも5重量%含むことができる。好ましい実施形態においては、フッ化物は6〜16重量%の量で含まれる。この組成物における量がこの範囲未満である場合は、ガラスの性質が悪化する可能性がある。ガラスは反応性がより低くいものになる可能性があり、このガラスから作られたガラスアイオノマーの強度が低減される可能性がある。この組成物における量がこの範囲を超える場合は、ガラスの性質が悪化する。ガラスは反応性の高いものになる可能性があり、ガラスアイオノマー調合物中で使用することが困難になる可能性がある。
【0021】
必須成分以外に、本発明のガラス組成物は、酸化カルシウムおよび/または酸化ストロンチウムを30重量%までさらに含んでもよい。好ましくは、この組成物は、酸化カルシウムおよび/または酸化ストロンチウムを、5から25重量%または約15から25重量%含有する。
【0022】
このガラス組成物は、好ましくは、いかなるアルカリ金属も本質的に含有しない。特に、この組成物は、アルカリ金属MO(ただし、Mは、Li、Na、またはKである)を、最大3重量%、好ましくは最大1.5重量%含有する。このガラス組成物は、MO(ただし、Mは、Li、Na、またはKである)として計算されるアルカリ金属を、最大2重量%含有することができる。この組成物におけるアルカリ金属の含有量がこの範囲を超える場合は、ガラスがより溶解しやすくなる可能性があり、対応するアイオノマーセメントの作業時間および固化時間が悪化する可能性がある。
【0023】
このガラス組成物は、好ましくは、いかなるホウ素原子も本質的に含有しない。特にこの組成物は、Bを最大2重量%、好ましくは最大1.5重量%含有する。この組成物におけるB含有量がこの範囲を超える場合は、対応するセメントの加水分解安定性が悪化する可能性がある。
【0024】
さらなる実施形態においては、アルミノシリケートガラス組成物は、本質的にジルコニウムを含有しない。特に、この組成物は、ZrOを2重量%未満、好ましくは最大1.5重量%含有する。
【0025】
好ましい実施形態において、このガラス組成物は、酸化亜鉛のPに対する重量比が2.0から0.2であることを特徴とする。この重量比がこの範囲を外れる場合は、対応するアイオノマーの作業時間および固化時間が悪化する可能性がある。
【0026】
このガラス組成物は、0.8から3.0の、酸化亜鉛およびフッ化物の合計の、Pに対する重量比を有することを特徴とする。好ましくは、酸化亜鉛およびフッ化物の合計の、Pに対する重量比は、最大2.0である。この重量比がこの範囲を外れる場合は、対応するアイオノマーの作業時間および固化時間が悪化する可能性がある。
好ましい実施形態において、本発明は、
(a)シリカ10〜35重量%;
(b)アルミナ10〜35重量%;
(c)酸化亜鉛3〜30重量%;
(d)P4〜30重量%;および
(e)フッ化物5〜25重量%を含み、
O(ただし、MはLi、Na、および/またはKである)として計算されたアルカリ金属を最大2重量%含有し、酸化亜鉛およびフッ化物の合計の、Pに対する重量比が0.8から3.0であるアルミノシリケートガラス組成物を提供する。
特に好ましい実施形態において、
(a)シリカ20〜26重量%;
(b)アルミナ21〜27重量%;
(c)酸化亜鉛15〜21重量%;
(d)15〜21重量%P;および
(e)フッ化物6〜10重量%、
およびCaO11〜17重量%を含む、アルミノシリケートガラス組成物。
【0027】
本発明によるアルミノシリケートガラス組成物は、歯科用ガラスを調製するためのいかなる方法に従っても調製することができる。特に、適切な出発材料の混合物を調製することができる。したがって、混合物は、通常、シリカ、酸化アルミニウム、五酸化リン、および三フッ化アルミニウムなどの適切なフッ化物源を含有することができる。場合により、混合物は、炭酸カルシウムまたは炭酸ストロンチウムまたは対応するフッ化物を含有することができる。有利には、引き続きこの混合物を振り動かして、成分を互いに完全に混合させる。引き続き、好ましい方法においては、混合物を、50から300℃/分までの適切な速度で約600から800℃の第1の高温に加熱して、脱気および水分の蒸散を行わせる。高温で適切な時間が経過した後、この混合物を50から300℃/分までの適切な速度で約1300から1500℃の第2の高温に加熱し、この温度で約60から180分間保持し、次いで、50から300℃/分までの適切な速度で1400から1600℃までの第3の高温に加熱し、この温度で約10から60分間保持する。オーブンからルツボを取り出した後、溶融ガラスを冷水中に直接注ぎ込み、砕けたガラス片を得る。
【0028】
次いで、ガラス片を、例えば乾式ボールミル中で粉砕し、100μm未満、好ましくは10μm未満の平均粒径を有する粉末を得る。次いで、この粉末を、例えば水スラリ中でさらに粉砕し、さらに小さな平均粒径(通常は0.1から8μmの範囲にある)を有するガラス粉末を得る。粒径測定は、Malvern Particle Master Sizer model Sによって具体的に例示されているような、いずれの従来法によっても実施することができる。ガラス粒子の反応性はガラスの寸法および表面積に依存しているので、粒径を注意深く制御することが重要である。また、ガラスは、代替の加熱冷却法またはゾル−ゲル法を含む、他の方法によっても調製することができる。
【0029】
本発明のガラス組成物は、歯科修復用組成物を調製するために使用することができる。したがって、本発明は、また、本発明の第1の態様によるガラス組成物によって特徴づけられる、粒状ガラスフィラーを提供する。好ましくは、粒状ガラスフィラーは、0.1から100μmの範囲、より好ましくは1.0から10μmの範囲にある平均粒径を有する。
【0030】
粒状ガラスフィラーを、歯科修復用組成物中に取り込むことができる。適切な歯科修復用組成物はガラスアイオノマーセメントである。本発明のガラスはガラスアイオノマーセメント組成物中のイオン源として使用するのに適している。本発明は、さらにカルボキシル基などの遊離酸基を含有するポリマーを、本発明の粒状ガラスと水の存在下で反応させることを含む、架橋結合されたガラスアイオノマーセメントを調製する方法を提供する。したがって、この歯科修復用組成物は、好ましくは酸またはポリ酸をさらに含む。ポリ酸は、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、スルホン酸、ホウ酸などを含む、直接ポリマー鎖に結合する、もしくはエステル、アミド、無水物、エーテル、アミン、ウレタン、またはヒドロカルビル鎖などの結合基を介してポリマー鎖に結合する、適切な酸基の任意の混合物を含むことができる。遊離カルボキシル基を含有する適切なポリ酸ポリマーは、好ましくはアクリル酸のホモポリマーである。アクリル酸と、マレイン酸、イタコン酸またはメタクリル酸などの1種または複数種のエチレン不飽和カルボン酸とのコポリマーも、使用することができる。アクリル酸ポリマーまたはコポリマーは、5000からの、特に10000から150000の、好ましくは35000から70000の、もっとも好ましくは、好ましくは45000から75000の平均分子量を、適切には有する。好ましい実施形態においては、歯科修復用組成物は、さらに少なくとも1種のエチレン不飽和化合物を含む。
【0031】
ポリ酸のガラスに対する重量比は、適切には0.1:1から0.5:1、好ましくは0.2:1から0.4:1であり、水のガラスに対する重量比は、好ましくは0.4:1から0.1:1である。
【0032】
ポリアクリル酸とガラスとの反応は、混合物の作業時間および/または固化時間を変化させるまたは調節する役割を果たす別の材料、例えば、組成物の固化速度を上昇させる役割を果たす酒石酸などのヒドロキシカルボン酸の存在下で、実施することができる。
【0033】
本発明のガラスおよびポリ酸からセメントを形成するための組成物は、2つの部分が一組になったものとして提供することができ、1つの部分は、ポリアクリル酸(および場合により作業/固化時間調節剤)の水溶液を含み、残りの部分は粒状ガラスを含む。別法としては、粒状ガラスと粉末状ポリマーから乾燥混合物を作製し、引き続き水を添加してセメント形成組成物を形成させることができる。この後者の場合、作業/固化時間調節剤は、乾燥混合物中にまたは水中に存在することができる。さらなる別法としては、ポリアクリル酸(および場合により作業/固化時間調節剤)の水溶液を含む1つの部と粒状ガラス及び粉末状ポリマーから形成される乾燥混合物を含む他の部分とを供給してセメント形成組成物を形成することができる。
【0034】
また、本発明のガラスは、ラジカル重合可能な歯科用組成物中で使用することもできる。したがって、本発明は、本発明のガラスをフィラーとして含有する重合可能な組成物を含む組成物を提供する。このような組成物は、歯科修復用複合材料、すなわち、1種または複数種のエチレン不飽和モノマー、特定のフィラーおよび通常アクリレートモノマーを含むエチレン不飽和モノマー(すなわち、アクリル酸またはメタクリル酸のエステル)用の重合開始剤を含む組成物の重合から誘導されるもの、である可能性がある。
本発明によれば、歯科用セメント組成物を調製する方法は、
(a)ポリ酸を含む成分を提供する工程;
(b)本発明による粒状ガラスフィラーを含む成分を提供すること;
(c)工程(a)および(b)の成分を水の存在下で混合して、硬化性歯科用セメント組成物を調製すること
を含む。
【0035】
本発明を良く理解することができるために、以下の実施例を単なる例として提示する。これらの実施例においては、特段の記述がない限りすべての割合は重量に基づくものである。
【0036】
(実験の部)
表に提示した組成を有するガラスは、商業的な供給源から入手したか、または電気炉において1400から1500℃で溶融した。あるガラス(実施例1)を溶融した手順を下記に提示し、商業的に入手できない他のガラスは、適切な原料を使用して同様に作製した。
【実施例1】
【0037】
重量基準による以下の材料を共に添加した。シリカ(25.8部)、酸化アルミニウム(23.4部)、炭酸カルシウム(25.0部)、五酸化リン(16.4部)、およびフッ化カルシウム(20.4部)。混合物をガラス瓶の中に入れ、1時間タンブルし成分を合わせて完全に混合した。次いで、混合物を酸化アルミニウムのルツボに移し、200℃/分の速度で700℃に加熱し、脱気および水分の蒸散を行わせた。700℃で10分間経過した後、混合物を200℃/分の速度で1400℃に加熱し、この温度で120分間保持し、次いで、温度を200℃/分の速度で1500℃に上げ、この温度で30分間保持した。次いでオーブンを開け、ルツボを取り出し、溶融ガラスを冷水中に直接注ぎ込み、砕けたガラス片を得た。
【0038】
(粒径の減少)
上述のように溶融した、または商業的に入手したガラスを、必要なら乾式ボールミル中で最初に粉砕し、約10μm未満の平均粒径を有する粉末を得た。次いで、この粉末を水スラリ中でさらに粉砕して、ほぼ3μmの平均粒径を有するガラス粉末を得た。このガラス粉末の一部をさらに粉砕して、ほぼ1μmの平均粒径を有するガラス粉末を得た。粒径測定は、Malvern Particle Master Sizer model Sによって行った。ガラスの反応性は、ガラスの寸法および表面積に依存しているので、粒径を注意深く制御することが重要である。
【0039】
(標準試験法)
(標準試験法1)
3μmの平均寸法を有するガラス粉末(86.64部)を、乾燥したポリアクリル酸(12.27部)および微粉砕した酒石酸(1.09部)と混合した。この成分をガラス瓶中で1時間合わせてタンブルし、均質な混合物を得た。粉末3重量部を、23℃の水に溶解したポリアクリル酸の40%溶液1重量部と一緒にすることによって、この粉末混合物を調査した。
【0040】
(標準試験法2)
ガラス粉末(1.65重量部)を、40%ポリアクリル酸および12%酒石酸を含有する水溶液1重量部と23℃で一緒にし、この2つを均質なペーストが得られるまでヘラで混合した。
両方の試験方法について、作業時間(w.t.)を、混合開始から混合物がゴム状になって使用できなくなる時刻までの時間とした。固化時間(s.t.)および圧縮強さは、ISO9917−1に準拠して求めた。
【表1】

ガラス組成は、酸化物として計算した元素により表すことが慣例である。表2においては、実施例1から4を4個の商業ガラスと共にこのやり方で示す。
【表2】

Schott、ドイツから商業的に入手可能;§John Kent Ltd.、イギリスから商業的に入手可能。ChemFilおよびChemFlexはDentsplyの商業製品である。
表1および2に示した実施例1から4におけるw.t.およびs.t.は標準試験法1に基づく。
【0041】
実施例1および2から、ガラスのCaO含有量が減少し、約4%のZnOが添加されると、若干作業時間が短くなることがわかり、このことは、ガラスがより反応性に富むようになったことを意味する。実施例3においては、CaO含有量を一定に保持しながら、ZnO含有量を約7.6%に上昇させると、これによって作業時間はさらに1分まで短くなり、このことは、ガラスがより一層反応性になったことを意味する。さらなる実施例5および6にいては、Schottから商業的に入手したガラス018−090は、10%のZnO含有量を有し、リン酸塩は含有せず、高いフッ素含有量を有する。このガラスは、わずか25秒の作業時間を有し、凝固時間は、前述の条件下で試験した場合、あまりにも短すぎて測定することができなかった。したがって、このガラスは、反応性を低下させるためには特別の処理が必要となるはずである。同様に、John Kent、イギリスから商業的に入手できる、22%のZnOと4.2%の酸化ナトリウムをも含有するガラスDF3は、これらの試験条件下においてわずか12秒の作業時間を有し、固化時間もまた、あまりにも短すぎて測定することができなかった。同様に、実施例7および8のガラスもまた、前処理なしで使用した場合は、反応性が高すぎる。これらの商業的に入手できるガラスは、適切な処理の後では、適切な作業時間および固化時間を間違いなく実現するのであるが、本発明の1つの具体的な目的は、好ましくは、このような処理なしで使用することができるガラスを提供することである。上記の結果から、ガラスにZnOを添加することによって、より反応性に富むガラスが生じるように見え、高ZnO含有量を使用する場合でさえ、より反応性に乏しいガラスを得ることができるはずであると期待することは、直感に反する。しかし、実施例4は、ガラスのリン酸塩含有量を増大させ、フッ化物含有量を減少させることにより、約8%のZnO含有量を有していてさえ、ガラス−ポリアルケン酸塩セメント混合物の作業時間はより長くなるという結果になることを示す。しかし、実施例4においては、ポリアルケン酸塩セメントの固化時間は、21分を超えるまでに増大し、その結果、適切な固化時間を得るためには、組成のさらなる調節が必要となる。ガラスの反応性およびこのガラスから製造されたポリアルケン酸塩セメントの作業時間は、多くの因子に依存しており、1成分のみに依存することはないことも、上記から明らかである。
したがって、さらなるガラス組成物を、実施例1について説明したのと同様にして溶融し、酸化物として計算した組成を、表3に示した。
【表3】

表1および2において示した実施例におけるw.t.およびs.t.は、試験法2に基づく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シリカ10〜35重量%;
(b)アルミナ10〜35重量%;
(c)酸化亜鉛3〜30重量%;
(d)P4〜30重量%;および
(e)フッ化物3〜25重量%
を含み、MO(ただし、MはLi、Na、および/またはKである)として計算されたアルカリ金属を最大3重量%含有し、酸化亜鉛およびフッ化物の合計のPに対する重量比が0.8から3.0であるアルミノシリケートガラス組成物。
【請求項2】
少なくとも5重量%のフッ化物を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
O(ただし、MはLi、Na、および/またはKである)として計算されたアルカリ金属を最大2重量%含有する、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
30重量%までの酸化カルシウムおよび/または酸化ストロンチウムをさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項5】
酸化亜鉛のPに対する重量比が2.0から0.2であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガラス組成物を特徴とする粒状ガラスフィラー。
【請求項7】
0.1から100μmの範囲の平均粒径を特徴とする、請求項6に記載の粒状ガラスフィラー。
【請求項8】
請求項6または7に記載の粒状ガラスフィラーを含む歯科修復用組成物。
【請求項9】
酸またはポリ酸をさらに含む、請求項8に記載の歯科修復用組成物。
【請求項10】
少なくとも1つのエチレン不飽和化合物をさらに含む、請求項8または9に記載の歯科修復用組成物。
【請求項11】
(a)ポリ酸を含む成分を提供する工程;
(b)請求項8または9により定義された通りの粒状ガラスフィラーを含有する成分を提供する工程;
(c)硬化性歯科用セメント組成物を調製するために、工程(a)および(b)の成分を水の存在下で混合する工程、
を含む歯科用セメント組成物を調製する方法。
【請求項12】
歯科修復用組成物を調製するための、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガラス組成物の使用。

【公表番号】特表2008−519749(P2008−519749A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540534(P2007−540534)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011584
【国際公開番号】WO2006/050829
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】