説明

歯科用ユニット

【課題】簡易な構成で確実に上下動、傾倒及び起立時の衝撃が緩和される患者用椅子を備える歯科用ユニットを提供する。
【解決手段】基台30と、上下動、傾倒及び起立可能に設けられた患者用椅子10と、該上下動、傾倒及び起立のための動力を伝達する油圧回路40と、を備え、油圧回路は、ポンプ44と、作動油の流入流出により移動し、患者用椅子に直接又は他の機構を介して接続される油圧シリンダー42、43と、患者用椅子の上下動、傾倒及び起立の選択に応じて、油圧回路の一部を閉鎖、開放する複数の弁51〜57と、ポンプの吐出配管に対し並列に、かつ、複数の弁のうち油圧シリンダーの位置制御のための弁とポンプとの間に設けられたアキュムレータ46と、を備え、さらにアキュムレータ内の蓄圧状態を解消するための、減圧回路が設けられているものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科において患者が着座する歯科用椅子を備えた歯科用ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用ユニットに備えられる患者用椅子は、昇降自在であるとともに、背もたれを傾倒、起立できるように構成されている。そして、治療や処置の内容に応じて、着座部を適宜上げ下げし、背もたれを傾倒、起立させる。このような患者用椅子の昇降、傾倒、起立のための機構には油圧機構が適用される場合が多い。油圧機構では、着座部の上下、背もたれの傾倒、起立を直接行うシリンダーと、該シリンダーに作動油を流入、流出させるポンプとを有して油圧回路が形成されている。そして、当該ポンプの入り切り、及び各種弁の開閉が行われることにより、実際に患者用椅子が作動する。
【0003】
このような油圧機構では、ポンプの始動時や停止時、及び弁の開閉時に作動油中を衝撃が伝わり、これが患者用椅子にまで達することがあった。さらに患者用椅子は、昇降、傾倒及び起立の2つ以上の動作に対応するためにストローク、断面積、容積等が異なった複数の油圧シリンダーを用い、ポンプは1つの定流量型のモーターポンプを装備していることが多い。ここで、各油圧シリンダーはその移動速度が椅子の動作によって決まっており、必ずしも全てのシリンダーが同じように移動するわけではない。従って、油圧シリンダーの動作ごとに流量制御弁を設けてその絞りを調整する等してシリンダーごとに所定の動作速度にする必要がある。すなわち、場合によっては、あるシリンダーの動作速度にはちょうど良いポンプ吐出流量であっても、他のシリンダーの動作速度には速すぎることもある。その結果、過剰な流量となるところもあり、その際に電磁弁を開閉する時にはさらに衝撃が発生することがあった。
患者用椅子には、治療を受ける患者が着座するという性質上、このように衝撃が伝わることを回避し、できるだけ不安感を与えないことが望まれている。
これに対しては、例えば特許文献1には、歯科用椅子の上下、傾倒、起立の始動時、停止時において徐々に加速及び減速する医療用診療装置を開示している。
また特許文献2には、複数の油圧シリンダーに対して油圧シリンダーと油圧シリンダーの位置制御を担う電磁弁との間に、それぞれの緩衝吸収するためのアキュムレータを配置したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−325595号公報
【特許文献2】特開2003−305092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような患者用椅子の油圧回路では、衝撃を緩和するための機構や制御が複雑となる傾向にあった。このように複雑であることにより、コストが高くなったり、メンテナンスの必要性が増したり、不具合の可能性が高くなったりする虞があり、簡易で確実に油圧回路における衝撃を緩和させることが求められていた。
【0006】
また、歯科用ユニットは性質上、外観的にも患者が安心し、不安を生じないデザインが好まれる。このような観点から、歯科用ユニット全体として様々なデザインを採用できるように各部を構成したいとの要望もある。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑み、簡易な構成で確実に上下動、傾倒、起立時の衝撃が緩和される患者用椅子を備える歯科用ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0009】
請求項1に記載の発明は、基台(30)と、上下動、傾倒及び起立可能に基台の上方に設けられた患者用椅子(10)と、患者用椅子の上下動、傾倒及び起立のための動力を伝達する油圧回路(40)と、を備え、油圧回路は、作動油を移動させることを可能に回路内に組み込まれたポンプ(44)と、作動油の流入流出により移動し、患者用椅子に直接又は他の機構を介して接続される油圧シリンダー(42、43)と、患者用椅子の上下動、傾倒及び起立の選択に応じて、油圧回路の一部を閉鎖、開放する複数の弁(51、52、53、54、55、56、57)と、ポンプの吐出配管に対し並列に、かつ、複数の弁のうち油圧シリンダーの位置制御のための弁とポンプとの間に設けられたアキュムレータ(46)と、を備え、さらにアキュムレータ内の蓄圧状態を解消するための、減圧回路が設けられている歯科用ユニット(1)を提供することにより前記課題を解決する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の歯科ユニット(1)において、減圧回路には弁(57)が備えられ、該弁の開放によりアキュムレータ(46)の蓄圧状態が解消されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の歯科ユニット(1)において、患者用椅子(10)の上下動、傾倒及び起立の選択に応じて閉鎖、開放される弁の該閉鎖、開放に先んじて、蓄圧状態を解消する弁(57)の開放が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯科用ユニットによれば、簡易な構造で患者用椅子の上下動、傾倒、起立時の該患者用椅子の衝撃を緩和することができる。従って、患者用椅子に着座する患者に安心感を与えることが可能となる。また、このような簡易な構成なので、油圧回路自体を小さく抑えることができ、歯科用ユニット全体のデザインの自由度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】1つの実施形態に係る歯科用ユニットの側面図である。
【図2】1つの実施形態に係る歯科用ユニットの背面図である。
【図3】患者用椅子の移動回動をさせるための油圧回路である。
【図4】油圧回路の作動のうち、単動油圧シリンダーを上昇させる場面を説明する図である。
【図5】油圧回路の作動のうち、単動油圧シリンダーを下降させる場面を説明する図である。
【図6】油圧回路の作動のうち、複動油圧シリンダーを下降させる場面を説明する図である。
【図7】油圧回路の作動のうち、複動油圧シリンダーを上昇させる場面を説明する図である。
【図8】油圧回路の作動のうち、アキュムレータの蓄圧状態を開放する場面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1及び図2は、1つの実施形態に係る歯科用ユニット1の外観を示している。図1は側面側から見た図、図2は背面側から見た図である。
歯科用ユニット1は、基台30の上に設置された患者用椅子10を有し、その上方には、歯科用照明2が設けられている。さらに、患者用椅子10の脇には、スピットン4、ドクターユニット20、及びアシスタントユニット25がそれぞれ配置されている。
【0016】
患者用椅子10は、着座部11、背もたれ12、フットレスト14及びフットレスト14の一部としてのステップ15を備えている。また、背もたれ12の上端には、ヘッドレスト13が設けられている。
【0017】
ここで、患者用椅子10の着座部11は、基台30に対して上下方向に移動可能に取り付けら、背もたれ12、ヘッドレスト13、フットレスト14及びステップ15は、着座部11と一体に昇降可能である。また、患者用椅子10は、傾きを変更することが可能とされており、背もたれ12及びフットレスト14は、着座部11の前後にある所定の点を支点としてそれぞれの傾きを変更することができる。
このような患者用椅子10の上下動や傾きの変更は、基台30の筐体31内に収められた油圧回路40により可能とされている。油圧回路40については後で詳しく説明する。また、油圧回路40の作動、停止はフットスイッチ32を操作することによって行うことができる。
【0018】
歯科用照明2は、治療を行う時に的確に患者の口腔内を照明することができるように、自在継ぎ手等により自由度高く移動回動可能なアーム3を介して取り付けられている。従って、歯科用照明2は、その位置、角度を調整することにより施術者は患者の口腔内を適切に観察することができる。
【0019】
スピットン4は、治療中や治療後に患者がうがいをして、口腔内を洗浄する時に使用するものである。従って、スピットン4は、うがい水を供給する不図示のうがい水供給部と、うがいした後の口腔内の水を吐き捨てるための鉢部5とを有している。そして鉢部5に排出された唾液や水は、ウオーターユニット8中の排水トラップを介して排出される。
【0020】
ドクターユニット20は、図2からわかるように、患者用椅子10の下部の基台30から前方に向けて、前後方向に移動可能に取り付けられている。ドクターユニット20の上面には、施術者がレントゲン写真を見ながら治療等ができるように、フィルムビュアー21が備えられている。近年のデジタル技術の進歩によりレントゲンを画像で見られることも多いので、ここには、フィルムビュアーの代わりにモニター等の映像表示装置が配置されることも多い。また、側面には操作パネル22が具備されており、これらを操作することにより、患者用椅子10の傾倒、起立の切り替えや、歯科用照明2の点灯、消灯等が可能とされている。
【0021】
さらに、ドクターユニット20には、施術者が使用するハンドピース23、23、…、及びこれを収納するホルダーが設けられている。ハンドピース23、23、…としては、例えば、エアタービン、マイクロエンジ、スケーラ、シリンジ等を挙げることができる。ほとんど全てのハンドピース23、23、…は、チューブ類24、24、…を介して、電気回路、水回路、エア回路等と連結されている。
【0022】
アシスタントが使用する器具が設けられたアシスタントユニット25は、患者用椅子10を挟んで、ドクターユニット20に対向するように、該ドクターユニット20と同様に前後方向に移動可能に取り付けられている。アシスタントユニット25には、助手が使用するバキューム、排唾管、シリンジ等のハンドピース26、26、…と、それらを収納するホルダーが設けられている。これにより、例えば、バキュームや排唾管は、吸引管27を介してバキュームユニットにより吸引される。
【0023】
次に基台30の筐体31内に収められた油圧回路40について説明する。図3に回路図を示した。油圧回路40は、モーター41、単動油圧シリンダー42、及び複動油圧シリンダー43を備えている。油圧回路40は、当該モーター41の回転力を単動油圧シリンダー42、及び複動油圧シリンダー43に作動油を介して伝達することにより、該単動油圧シリンダー42及び複動油圧シリンダー43を作動させるものである。ここで、単動油圧シリンダー42は患者用椅子10の上下動のために用いられるシリンダーである。一方、複動油圧シリンダー43は、患者用椅子10の傾倒、起立のために用いられるシリンダーである。以下、さらに詳しく油圧回路40について説明する。
【0024】
油圧回路40は、さらにモーター41により作動するポンプ44、電磁弁51、52、53、54、55、56、57、必要に応じて配置された逆止弁、可変絞り弁、及び油タンク45を備えるとともに、アキュムレータ46を具備している。これらがどのような関係を有して油圧回路内に配置されるかについては、後でその作動の説明と合わせて説明する。
ここで、モーター、ポンプ、電磁弁、逆止弁、及び可変絞り弁は、通常の油圧回路に用いられるものを適用することができる。また、アキュムレータの種類も特に限定されるものではなく、様々な型のアキュムレータを適用することが可能である。これには例えば、ブラダ型、ピストン型、ダイヤフラム型等を挙げることができる。
【0025】
以下、単動油圧シリンダー42、複動油圧シリンダー43を作動させることと関連づけつつ、油圧回路40についてさらに詳しく説明する。
図4は、単動油圧シリンダー42を上方(図4の矢印Aで示した方向)に移動させるときに用いられる油圧回路40の部分に注目した図である。わかり易さのため注目した部分を実線で、他の部分を破線で示している。これにより、患者用椅子10を上方に移動させることができる。
【0026】
単動油圧シリンダー42を上方に移動させるために、電磁弁51を開放し、他の電磁弁53〜57は閉鎖する。そして、モーター41を作動させてポンプ44を動かすと、油タンク45から作動油が吸い上げられ、配管内を矢印A1、A2、A3、A4のように移動する。ポンプ44から吐出した作動油が電磁弁51の上流にあるチェック弁61を押し上げる際の管路内の圧力は、患者用椅子10と患者自身の重量に相当する圧油分に釣り合う以上のサージ圧として急激に上昇し、単動油圧シリンダー42の初期動作と相まって衝撃となる。ここで、このような急激な圧力上昇を伴う作動油は、分岐J1に達して矢印A3’の方向に管路を伝わり、アキュムレータ46に達する。そして当該アキュムレータ46の作用により衝撃が吸収される。このとき、所定のタイミングで電磁弁57を開放することによりアキュムレータ46は予め減圧されている状態となり、その緩衝能力を最大限に発揮させることが可能となる。以上により急激な圧力上昇が抑えられ、ひいては単動油圧シリンダー42への送油も緩やかとなり当該衝撃分が吸収される。主流に相当する作動油は衝撃が緩和されつつ、電磁弁51を通過し、矢印A3、A4の方向に管路を伝わって単動油圧シリンダー42に流入する。これにより、該単動油圧シリンダー42のピストンが上方に移動する。
【0027】
このようにして、モーター41の初動時における単動油圧シリンダー42に伝わる衝撃を緩和することができる。従って、単動油圧シリンダー42の破損を防止し、さらには、患者用椅子10の上昇も円滑に行うことができ、患者への負担を軽減することが可能となる。
【0028】
図5は、単動油圧シリンダー42を下方(図5の矢印Bで示した方向)に移動させるときに用いられる油圧回路40の部分に注目した図である。わかり易さのため注目した部分を実線で、他の部分を破線で示している。これにより、患者用椅子10を下方に移動させることができる。
【0029】
かかる場合には、患者用椅子10、又は患者が椅子に座っている場合にはその体重を加えた重量によりシリンダー42のピストンが押し下げられる。そのためには、電磁弁52、57を開放し、他の電磁弁51、53〜56は閉鎖する。
このような状態により、上記重量によって作動油は単動油圧シリンダー42から押し出され、電磁弁52を通過しつつ、矢印B1、B2、B3の方向に配管内を移動して分岐J2に達し、さらに電磁弁57を通過して矢印B4、B5の方向に管路を伝わって油タンク45へと流入する。このとき、患者用椅子10の下降速度を所定の速さに制限するために、絞り弁60により流量を制限して作動油が流される。このようにして制限してせき止められることによっても圧力上昇を生じ、これが衝撃となる。そして当該衝撃の分が、矢印B4’の方向に管路を伝わり、アキュムレータ46に達する。当該アキュムレータ46の作用により衝撃が吸収される。このとき、予め電磁弁57を開放させる等してアキュムレータ46を減圧させておけば、その緩衝能力を最大限に発揮させることが可能となる。主流に相当する作動油は衝撃が緩和されつつ、該単動油圧シリンダー42のピストンが下方に移動する。
【0030】
このようにして、患者用椅子10の下降時における単動油圧シリンダー42で生じた衝撃を緩和することができる。従って、単動油圧シリンダー42の破損を防止し、さらには、患者用椅子10の下降も円滑に行うことができ、患者への負担を軽減することが可能となる。
【0031】
図6は、複動油圧シリンダー43を下方(図6の矢印Cで示した方向)に移動させるときに用いられる油圧回路40の部分に注目した図である。わかり易さのため注目した部分を実線で、他の部分を破線で示している。これにより、患者用椅子10の傾倒又は起立のいずれか一方をさせることができる。
【0032】
複動油圧シリンダー43を下方に移動させるために、電磁弁53、56を開放し、他の電磁弁51、52、54、55、57は閉鎖する。そしてモーター41を作動させてポンプ44を動かすと、油タンク45から作動油が吸い上げられ、配管内を矢印C1、C2、C3、C4、C5のように移動する。一方、複動油圧シリンダー43の他方からは作動油がC6、C7、C8のように移動して油タンク45へと排出される。ポンプ44から吐出した作動油が電磁弁53の上流にあるチェック弁61を押し上げる際の管路内の圧力は、患者用椅子10の背もたれと患者自身の上半身の重量に相当する圧油分に釣り合う以上のサージ圧として急激に上昇し、複動油圧シリンダー43の初期動作と相まって衝撃となる。ここで、このような急激な圧力上昇を伴う作動油は,分岐J1に達して矢印C3’の方向に管路を伝わり、アキュムレータ46に達する。そして当該アキュムレータ46の作用により衝撃が吸収される。このとき、所定のタイミングで電磁弁57を開放することによりアキュムレータ46は予め減圧されている状態となり、その緩衝能力を最大限に発揮させることが可能となる。以上により急激な圧力上昇が抑えられ、ひいては複動油圧シリンダー43への送油も緩やかとなり当該衝撃分が吸収される。主流に相当する作動油は衝撃が緩和されつつ、電磁弁53を通過して矢印C3、C4、C5の方向に管路を伝わって複動油圧シリンダー43の一方側43bに流入する。
複動油圧シリンダー43の他方側43aの作動油は、複動油圧シリンダー43から押し出され、電磁弁56を通過しつつ、矢印C6、C7、C8の方向に配管内を移動して油タンク45へと流入する。これにより、複動油圧シリンダー43のピストンが下方に移動する。
【0033】
このようにして、モーター41の初動時における複動油圧シリンダー43に伝わる衝撃を緩和することができる。従って、複動油圧シリンダー43の破損を防止し、さらには、患者用椅子10の傾倒又は起立も円滑に行うことができ、患者への負担を軽減することが可能となる。
【0034】
図7は、複動油圧シリンダー43を上方(図7の矢印Dで示した方向)に移動させるときに用いられる油圧回路40の部分に注目した図である。わかり易さのため注目した部分を実線で、他の部分を破線で示している。これにより、患者用椅子10の傾倒又は起立のいずれか一方をさせることができる。
【0035】
複動油圧シリンダー43を上方に移動させるために、電磁弁54、55を開放し、他の電磁弁51、52、53、56、57は閉鎖する。そして、モーター41を作動させてポンプ44を動かすと、油タンク45から作動油が吸い上げられ、配管内を矢印D1、D2、D3、D4、D5のように移動する。一方、複動油圧シリンダー43の他方からは作動油がD6、D7、D8のように移動して油タンク45へと排出される。ポンプ44から吐出した作動油が電磁弁55の上流にあるチェック弁61を押し上げる際の管路内の圧力は、患者用椅子10の背もたれと患者自身の上半身の重量に相当する圧油分に釣り合う以上のサージ圧として急激に上昇し、複動油圧シリンダー43の初期動作と相まって衝撃となる。ここで、このような急激な圧力上昇を伴う作動油は、分岐J1に達して矢印D3’の方向に管路を伝わり、アキュムレータ46に達する。そして当該アキュムレータ46の作用により衝撃が吸収される。このとき、所定のタイミングで電磁弁57を開放することによりアキュムレータ46は予め減圧されている状態となり、その緩衝能力を最大限に発揮させることが可能となる。以上により急激な圧力上昇が抑えられ、ひいては複動油圧シリンダー43への送油も緩やかとなり当該衝撃分が吸収される。主流に相当する作動油は衝撃が緩和されつつ、電磁弁55を通過して矢印D3、D4、D5の方向に管路を伝わって複動油圧シリンダー43の他方側43aに流入する。
複動油圧シリンダー43の一方側43bの作動油は、複動油圧シリンダー43から押し出され、電磁弁54を通過しつつ、矢印D6、D7、D8の方向に配管内を移動して油タンク45へと流入する。これにより、複動油圧シリンダー43のピストンが上方に移動する。
【0036】
このようにして、モーター41の初動時における複動油圧シリンダー43に伝わる衝撃を緩和することができる。従って、複動油圧シリンダー43の破損を防止し、さらには、患者用椅子10の傾倒又は起立も円滑に行うことができ、患者への負担を軽減することが可能となる。
【0037】
図8は、蓄圧状態にあるアキュムレータ46の圧力を開放するときに用いられる油圧回路40の部分に注目した図である。わかり易さのため注目した部分を実線で、他の部分を破線で示している。これにより、アキュムレータ46の蓄圧状態を解消させることが可能である。アキュムレータ46が蓄圧状態にあると、次の作動において適切に衝撃を吸収することができない可能性があるので、アキュムレータ46の当該蓄圧状態を速やかに解消し、次の作動の準備ができていることが好ましい。図8で注目した油圧回路40の部分は、そのためのものである。
【0038】
具体的には、電磁弁51〜56を閉鎖し、電磁弁57のみを開放する。これによりアキュムレータ46から電磁弁57を通過しつつ、E1に示した方向に作動油が流れて油タンク45に流出する。これによりアキュムレータ46の蓄圧状態が解消される。
【0039】
歯科用ユニット1ではその性質上、患者用椅子10の上下動、傾倒、起立は頻繁であり、速やかにアキュムレータ46の蓄圧状態を解消しておく必要がある。従って、上記した油圧回路40を作動させるときには蓄圧状態が解消しているように、上記電磁弁57の開放を行っておくことが好ましく、このような蓄圧状態の開放は、自動に行われることがさらに好ましい。
【0040】
蓄圧状態を解消するための電磁弁57開放のタイミングは上記目的を達するものであれば特に限定されることはない。ただし、より効果的な蓄圧状態の開放の観点から、図4〜図7で説明した各電磁弁を開放する時点を含む前後の一定時間、電磁弁57を開放することを挙げることができる。以下に例を説明する。
【0041】
図4を参照しつつ説明したように、単動油圧シリンダー42により患者用椅子10を上昇させる場合には電磁弁51を開放する。ここで、電磁弁51を閉鎖の姿勢から開放の姿勢にする切替時点の前100ミリ秒から後100ミリ秒の間電磁弁57を開放する。これにより、患者用椅子10の上昇開始時において、アキュムレータ46の蓄圧状態を解消することができる。
一方、患者用椅子10の上昇を停止する際には、電磁弁51を開放の姿勢から閉鎖の姿勢にする。このときも、その切替時点の前100ミリ秒から後100ミリ秒の間電磁弁57を開放する。これによって、次の作動のために予めアキュムレータ46の蓄圧状態を解消しておくことができる。
【0042】
図5を参照しつつ説明したように、単動油圧シリンダー42により患者用椅子10を下降させる場合には電磁弁52、57を開放する。この場合には電磁弁57は、蓄圧状態の開放の他、患者用椅子10の下降のために開放される。かかる場合であっても、蓄圧状態の解消の観点から、電磁弁52と電磁弁57とを同時に開放するのではなく、その切替時点を少しずらすことができる。具体的には、電磁弁52は電磁弁57よりも遅れて開放させて患者用椅子10の下降を開始させ、電磁弁57よりも早く閉鎖させて患者用椅子10の下降を終了させる。
【0043】
図6を参照しつつ説明したように、複動油圧シリンダー43により患者用椅子10の傾倒又は起立させる場合には電磁弁53、56を開放する。ここで、電磁弁53、56を閉鎖の姿勢から開放の姿勢にする切替時点の前100ミリ秒から後100ミリ秒の間電磁弁57を開放する。これにより、患者用椅子10の傾倒又は起立開始時において、アキュムレータ46の蓄圧状態を解消することができる。
一方、患者用椅子10の傾倒又は起立を停止する際には、電磁弁53、56を開放の姿勢から閉鎖の姿勢にする。このときも、電磁弁53の切替時点の前100ミリ秒から後100ミリ秒の間電磁弁57を開放する。これによって、次の作動のために予めアキュムレータ46の蓄圧状態を解消しておくことができる。
【0044】
図7を参照しつつ説明したように、複動油圧シリンダー43により患者用椅子10の傾倒又は起立させる場合には電磁弁54、55を開放する。ここで、電磁弁54、55を閉鎖の姿勢から開放の姿勢にする切替時点の前100ミリ秒から後100ミリ秒の間電磁弁57を開放する。これにより、患者用椅子10の傾倒又は起立開始時において、アキュムレータ46の蓄圧状態を解消することができる。
一方、患者用椅子10の傾倒又は起立を停止する際には、電磁弁54、55を開放の姿勢から閉鎖の姿勢にする。このときも、電磁弁55の切替時点の前100ミリ秒から後100ミリ秒の間電磁弁57を開放する。これによって、次の作動のために予めアキュムレータ46の蓄圧状態を解消しておくことができる。
【0045】
このような歯科用ユニット1によれば、簡易な構造で確実に患者用椅子の上下動、傾倒、起立動作時の該患者用椅子の衝撃を緩和することができる。従って、患者用椅子に着座する患者に安心感を与えることが可能となる。また、このような簡易な構成なので、油圧回路自体を小さく抑えることができ、歯科用ユニット全体のデザインの自由度を向上させることが可能となる。
【0046】
以上、現時点において実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う歯科用ユニットもまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0047】
1 歯科用ユニット
2 歯科用照明
3 アーム
4 スピットン
5 鉢部
8 ウオーターユニット
10 患者用椅子
11 着座部
12 背もたれ
13 ヘッドレスト
14 フットレスト
15 ステップ
20 ドクターユニット
21 フィルムビュアー
22 操作パネル
23 ハンドピース
24 チューブ類
25 アシスタントユニット
26 ハンドピース
27 吸引管
30 基台
31 筐体
32 フットスイッチ
40 油圧回路
41 モーター
42 単動油圧シリンダー
43 複動油圧シリンダー
44 ポンプ
45 油タンク
46 アキュムレータ
51、52、53、54、55、56、57 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
上下動、傾倒及び起立可能に前記基台の上方に設けられた患者用椅子と、
前記患者用椅子の前記上下動、傾倒及び起立のための動力を伝達する油圧回路と、を備え、
前記油圧回路は、
作動油を移動させることを可能に回路内に組み込まれたポンプと、
前記作動油の流入流出により移動し、前記患者用椅子に直接又は他の機構を介して接続される油圧シリンダーと、
前記患者用椅子の上下動、傾倒及び起立の選択に応じて、前記油圧回路の一部を閉鎖、開放する複数の弁と、
前記ポンプの吐出配管に対し並列に、かつ、前記複数の弁のうち油圧シリンダーの位置制御のための弁と前記ポンプとの間に設けられたアキュムレータと、を備え、
さらに前記アキュムレータ内の蓄圧状態を解消するための、減圧回路が設けられている歯科用ユニット。
【請求項2】
前記減圧回路には弁が備えられ、該弁の開放により前記アキュムレータの蓄圧状態が解消されることを特徴とする請求項1に記載の歯科ユニット。
【請求項3】
前記患者用椅子の上下動、傾倒及び起立の選択に応じて閉鎖、開放される弁の閉鎖、開放に先んじて、前記蓄圧状態を解消する弁の開放が行われることを特徴とする請求項2に記載の歯科ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−233604(P2010−233604A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81951(P2009−81951)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】