説明

歯科用充填材、その製造方法および歯科用複合材料

【課題】 歯科材料に要求される光学的性質や機械的性質を兼ね備えた歯科用充填材並びにその製造方法、および該歯科用充填材を用いた歯科用複合材料に関する。
【解決手段】シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子群を含有する歯科用充填材並びにその製造方法、および該歯科用充填材とアクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂等から選ばれた硬化性樹脂とを含む歯科用複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系微粒子の表面を金属複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子群を含む歯科用充填材並びにその製造方法、および該無機酸化物微粒子群と硬化性樹脂とを含む歯科用複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯科用充填材には、実際の天然歯と同程度の充分な強度や硬度、更には表面の滑らかさや噛み合わせによる摩耗に対する耐性が必要であるため、その原材料としてシリカ系微粒子が使用されている。また、この歯科用充填材には、天然歯との色調適合性や天然歯と同等の透明性を与えるための屈折率の適合性や治療した箇所と天然歯の歯組織との区別ができる程度のX線不透過性が要求されるため、他の原材料として酸化ジルコニウムが使用されている。
【0003】
このような歯科用充填材については、種々の公知文献に開示されており、例えば、(1)二酸化珪素と少なくとも他の金属酸化物(酸化ジルコニウム等)を凝集させ、その酸化物の結晶化温度未満の温度で熱処理することにより製造した、二酸化珪素と他の金属酸化物が独立した非晶質層を形成してなる歯科用充填材(特許文献1)や、(2) 約100nm未満の平均直径を有する非重金属酸化物粒子(シリカ粒子等)と、重金属酸化物または約100nm未満の平均直径を有する重金属酸化物粒子(酸化ジルコニウム粒子等)とを含む実質的にアモルファス状のクラスタを含む歯科用充填材(特許文献2)などがある。
【0004】
しかし、これらの方法から得られる歯科用充填材は、シリカゾルとジルコニウム塩水溶液とを混合して、これをスプレイドライヤーなどを用いて乾燥した後、焼成しているため、屈折率などの性状が異なるシリカ微粒子と酸化ジルコニウム成分(微粒子)とが混在するものであった。結果として、得られる歯科用充填材の屈折率などにおいてムラが生じる場合があった。さらに、これらの歯科用充填材では、粒子の細孔容積や粒子の強度を調整することができず、このために透明性を向上させることが難しくなり、更には重合性樹脂との密着性が不十分であるため、治療または修理した歯(義歯を含む)の治療箇所における強度や硬度が低下して、噛み合わせによる摩耗に対する耐性などが不十分となることがあった。
【0005】
そこで、本出願人は、シリカゾル、酸性珪酸液およびジルコニウム塩水溶液を混合して、これをスプレイドライヤーなどを用いて乾燥した後、焼成する歯科用充填材の製造方法(特許文献3)を開発し、これを出願している。これによると、酸性珪酸液に由来するシリカ成分と酸性ジルコニウム成分がよく混じり合った金属酸化物が得られるため、シリカゾルに由来するシリカ微粒子に近づいた性状(例えば、屈折率など)のものになっている。しかし、シリカ微粒子が混在することには変わりないので、上記のような問題点が完全に解消されるものではなかった。
【0006】
さらに、本発明者らは、従来の歯科用充填材に付随する上記のような問題を解決するため、ジルコニウムシリケート化合物からなる結晶性の無機酸化物微粒子を含む歯科用充填材を開発し、これを特許文献4に記載の発明として出願している。この歯科用充填材は、天然歯と同程度である強度や硬度、噛み合わせ摩耗に対する耐久性等において優れた特性を有しているが、その使用用途によっては、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物等の有機金属化合物によって前記無機酸化物微粒子の表面を処理(または改質)することが必要となる。しかし、前記無機酸化物微粒子は、結晶性の表面性状を備えているため、その表面を前記有機金属化合物でむらなく処理することは必ずしも容易ではなかった。
【0007】
本願発明者らは、これらの問題を解決することを目的として鋭意研究を重ねたところ、シリカ系微粒子の表面を金属複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子が歯科用充填材として優れた特性を有していることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
【特許文献1】特開平7−196428号公報
【特許文献2】特表2003−512406号公報(国際公開WO01/030306)
【特許文献3】特開2003−146822号公報
【特許文献4】特願2006−086800号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先にも述べたように、歯科治療で使用される歯科用複合材料には、非毒性や非溶解性等の他に、天然歯と同程度である強度や硬度、噛み合わせ摩耗に対する耐久性、研磨後の表面滑性、天然歯と同等の透明性を与えるための屈折率適合性、天然歯との色調適合性や艶出性、さらには治療時に天然歯と識別できる程度のX線に対する不透過性等が要求されており、これらの性状の多くは、歯科用複合材料を製造する際に使用される歯科用充填材の物理的特性に負うところが大きい。
【0010】
本発明は、上記のような要求に合致し、しかもその表面を容易に処理(改質)することのできる非晶質の無機酸化物微粒子群を含む新規な歯科用充填材に関するもので、さらに詳しくはシリカ系微粒子の表面を金属複合酸化物で被覆してなる鎖状シリカ系微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその非晶質焼成粉体を含む歯科用充填材並びにその製造方法、更には該歯科用充填剤を用いた歯科用複合材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る歯科用充填材は、シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子群を含むことを特徴としている。
前記シリカ系微粒子は、2〜300nmの平均粒子径を有することが好ましい。
前記無機酸化物微粒子群は、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群の非晶質乾燥粉体または非晶質焼成粉体であることが好ましい。
【0012】
前記非晶質乾燥粉体は、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ系微粒子を、該シリカ系微粒子の被覆物質または該被覆物質から延びた前記複合酸化物の帯状物質を介して複数個、連結してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体、該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその粉砕物であることが好ましい。
前記非晶質焼成粉体は、上記の非晶質乾燥粉体を焼成して得られる無機酸化物微粒子群の非晶質焼成粉体またはその粉砕物であることが好ましい。
前記無機酸化物微粒子群は、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理されたものであることが好ましい。
前記歯科用充填材の屈折率は、1.43〜1.65の範囲にあることが好ましい。
【0013】
本発明に係る歯科用充填材の製造方法は、
シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体または該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体からなる歯科用充填材を製造する方法であって、
(a)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液に、アルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた混合水溶液を調製する工程、
(b)平均粒子径2〜300nmのシリカ系微粒子を水に分散させたシリカゾルに、該シリカゾルを撹拌しながら前記工程(a)で得られた混合水溶液と珪酸液の水溶液を添加する工程、
(c)前記工程(b)で得られた混合水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリする工程、
(d)前記工程(c)で得られた混合水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理して鎖状無機酸化物微粒子群を含む混合水溶液を調製する工程、および
(e)前記工程(d)で得られた混合水溶液中に含まれる鎖状無機酸化物微粒子群を乾燥する工程、
に処することを特徴としている。
【0014】
前記工程(a)で使用される酸化ジルコニウム水和物は、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウムおよびアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウムから選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩の水溶液にアンモニアまたはアンモニア水を撹拌下で添加して得られる中和反応物を洗浄したものであることが好ましい。
前記工程(a)で使用されるアルカリ金属の水酸化物は、水酸化カリウムであることが好ましい。
前記工程(b)において添加される珪酸液の水溶液は、水ガラスを水で希釈した後、陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリしたものであることが好ましい。
【0015】
前記工程(b)において前記シリカゾルは、前記ジルコニウム成分を含む水溶液および前記珪酸液の水溶液を添加する前に、70〜95℃の温度に加熱しておくことが好ましい。
前記工程(c)における脱アルカリ操作は、前記水溶液のpHが7.0〜10.0の範囲になるように行うことが好ましい。
前記工程(b)における添加操作と前記工程(c)における脱アルカリ操作は、複数回、繰り返して行うことが好ましい。
前記工程(c)における水熱処理操作は、オートクレーブ中で10〜100時間かけて行うことが好ましい。
前記工程(d)における乾燥処理は、熱風乾燥機中で乾燥またはスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥にて行うことが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る歯科用充填材の製造方法は、上記の方法で得られた鎖状シリカ系微粒子群の非晶質乾燥粉体、該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその粉砕物を300〜900℃℃の温度で焼成して得られる非晶質焼成粉体またはその粉砕物を製造することを特徴としている。
前記無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体または非晶質焼成粉体は、該粉体を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによってその表面を処理することが好ましい。
【0017】
本発明に係る歯科用複合材料は、上記の歯科用充填材と硬化性樹脂とを含むことを特徴としている。
前記硬化性樹脂は、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれた1種または2種以上の硬化性樹脂であることが好ましい。
また、前記歯科用複合材料の好ましき用途としては、歯科用修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルクブランク、歯科用セメント、義歯、歯科用矯正具、歯科用矯正接着剤、歯科用鋳造材料、歯科用被覆物などがある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る歯科用充填材は、以下のような特性を備えた新規な歯科材料である。
1)前記歯科用充填材を構成する無機酸化物微粒子群は、その屈折率が1.45〜1.63、さらに詳しくは1.49〜1.60の範囲にあるため、歯科材料として好適に使用することができる。しかし、前記無機酸化物粒子群の屈折率を調整する必要がある場合には、該無機酸化物微粒子群が少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群の非晶質乾燥粉体や非晶質焼成粉体であるため、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物などの有機金属化合物でその表面を容易に処理(改質)することができる。これにより、前記無機酸化物粒子群の屈折率を1.43〜1.65の範囲に容易に調整することができ、結果として歯科用複合材料の調合時に該無機酸化物微粒子群と混合して使用される硬化性樹脂の屈折率と適合したものが得られる。
【0019】
2)前記無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体や非晶質焼成粉体は、共に白色または乳白色の色調を有しているため、天然歯との色調適合性に優れている。また、前記無機酸化物微粒子群は、ジルコニウムを含む複合酸化物で被覆されているため、治療時に用いられるX線に対して充分な不透過性を備えている。
3)前記無機酸化物微粒子群の非晶質焼成粉体は、特許文献4に記載されたジルコニウムシリケート化合物からなる結晶性無機酸化物微粒子に比べれば、その機械的強度や耐摩耗性が少し劣っているものの、歯科材料に要求される機械的強度や耐摩耗性は充分に備わっている。しかし、前記無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体は、前記非晶質焼成粉体に比べると、その機械的強度や耐摩耗性が充分でないため、これらの性状に対する要求が大きくない用途において使用することが望ましい。
【0020】
4)前記無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体や非晶質焼成粉体は、歯科用複合材料の調合時に使用される硬化性樹脂の種類等によっても異なるが、そのまま歯科用複合材料の調合に使用することができる。しかし、前記硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性をさらに高める必要がある場合には、前記無機酸化物微粒子群の表面を前記有機金属化合物で表面処理することによって、これらの機能を向上させることができる。
5)前記無機酸化物微粒子群は、極めて安定した緻密な物質から構成されているため、これを歯科材料として用いても口腔内に溶出することはなく、また毒性のある重金属成分を一切、含んでいないため人体に悪影響を及ぼすこともない。
【0021】
また、本発明に係る歯科用充填材の製造方法は、新規な方法に関するものであって、シリカ系微粒子の表面を少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子群を含む歯科用充填材を容易に製造することができる。また、本発明方法によれば、特異な形状を有する無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体や非晶質焼成粉体が得られる。
さらに、本発明に係る歯科用複合材料は、当該材料に要求される上記の光学的性質や機械的性質などを兼ね備えているため、現在または今後の歯科医療分野で使用される各種材料として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る歯科用充填材並びにその製造方法、および該歯科用充填材を用いた歯科用複合材料について具体的に説明する。
【0023】
[歯科用充填材並びにその製造方法]
歯科用充填材
本発明による歯科用充填材は、シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子群を含むものである。
前記シリカ系微粒子としては、平均粒子径が2〜300nmの範囲にあるものを使用することが好ましい。ここで、平均粒子径が2nm未満では、該粒子を用いた歯科用充填材の機械的強度、特に圧縮強度や曲げ強度が低下し、また平均粒子径が300nmを超えると、該粒子を含む歯科用充填材を用いて歯を修復した場合、その研磨面の滑沢性が十分でなくなるので、好ましくない。
【0024】
前記シリカ系微粒子を被覆している複合酸化物は、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物であり、その構造式の一部を示せば、以下の通りである。

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―O―Zr―O―Si―O― (I)
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【0025】
さらに、上記の成分に加えてチタニウムやアルミニウムなどを含む複合酸化物を使用することもできる。これらの複合酸化物についてその構造式の一部を示せば、以下の通りである。

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―O―Zr―O―Si―O―Ti―O― (II)
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―O―Zr―O―Si―O―Al―O― (III)
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【0026】
前記歯科用充填材を構成する無機酸化物微粒子群は、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群の非晶質乾燥粉体または非晶質焼成粉体として調製される。
ここで、前記非晶質乾燥粉体は、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ系微粒子を、該シリカ系微粒子の被覆物質または該被覆物質から延びた前記複合酸化物の帯状物質を介して複数個、連結してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体、該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその粉砕物であることが好ましい。
なお、これらの非晶質乾燥粉体において、前記鎖状無機酸化物微粒子群は、概ね図1の電子顕微鏡写真に示すような形状を有しており、また該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群は、概ね図2の電子顕微鏡写真に示すような形状を有している。
【0027】
また、前記非晶質焼成粉体は、上記の非晶質乾燥粉体を焼成して得られる無機酸化物微粒子群の非晶質焼成粉体またはその粉砕物であることが好ましい。なお、この非晶質焼成粉体の形状は、前記非晶質乾燥粉体とほぼ同様な形状を有している。
しかし、前記非晶質乾燥粉体は、その機械的強度や耐摩耗性が充分でないため、通常はこの非晶質焼成粉体を使用することが望ましい。すなわち、前記非晶質乾燥粉体および前記非晶質焼成粉体は、その用途によって使い分ける必要がある。
【0028】
さらに、前記無機酸化物微粒子群は、必要に応じて有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理して使用することもできる。これにより、該微粒子群と混合して使用される硬化性樹脂の屈折率と適合したものを容易に得ることができ、さらには硬化性樹脂への分散性や密着性を向上させることができる。
なお、本発明に係る前記無機酸化物微粒子群は、前記非晶質乾燥粉体および非晶質焼成粉体のいずれにおいても、その表面を前記有機金属化合物で容易に処理(改質)することができるので、各歯科材料メーカー(異なった硬化性樹脂が使用される)が所望する表面特性(例えば、屈折率)を備えた粒子群を含む歯科用充填材を簡単に得ることができる。
【0029】
前記有機珪素化合物としては、下記一般式(1)で表される珪素化合物などがある。
nSiX4-n (1)
(式中、Rは炭素数1〜10の非置換型炭化水素基または置換型炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、Xは炭素数1〜4のアルコキシ基、シラノール基、ハロゲン基または水素を表し、nは0〜3である。)
【0030】
具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシトリプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロルシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン等が挙げられる。この中でも、シランカップリング剤としてよく用いられるビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランまたはその混合物を使用することが好ましい。
【0031】
前記有機チタニウム化合物としては、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等が挙げられ、また前記有機ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテート等が挙げられる。
さらに、場合によっては、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等の有機アルミニウム化合物で表面処理することもできる。
【0032】
前記有機金属化合物による表面処理は、これらの有機金属化合物を混合して使用してもよく、また同種のもので複数回または異種のもので複数回行ってもよい。
また、この表面処理は、使用される前記有機金属化合物の種類、更には得られる無機酸化物微粒子群の屈折率や分散性等に対する所望値によっても異なるが、前記無機酸化物微粒子群の表面に結合または被覆される前記有機金属酸化物(シラン化合物からなる有機珪素化合物、有機チタニウム化合物または有機ジルコニウム化合物にあっては、その加水分解物)の厚さが300nm以下、好ましくは100nm以下であることが望ましい。ここで、前記厚さが300nmを超えると、粒子表面に未反応の有機金属化合物(表面処理時に十分に加水分解されずに加水分解基が残っているものや、粒子表面と反応せずに有機金属化合物同士が反応したもの等)が残存し硬化性樹脂に分散させた場合、その粒子表面の経時安定性が悪くなり、粒子同士が付着して凝集したりすることもあるので、好ましくない。
【0033】
このような表面処理が施された前記無機酸化物微粒子群の屈折率は、その表面処理に使用される前記有機金属化合物の種類やその厚さなどによっても異なるが、1.43〜1.65、好ましくは1.45〜1.63の範囲にあることが望ましい。ここで、前記屈折率が1.43未満であると、硬化性樹脂の屈折率より低いため内部での光拡散が大きくなるため白化して審美性に欠けるようになり、また該屈折率が1.65を超えると、硬化性樹脂の屈折率より高いため内部での光散乱が大きくなるため白化して審美性に欠けるようになる。
また、前記無機酸化物微粒子群を含む歯科用充填材の屈折率も、上記の理由により、1.43〜1.65、好ましくは1.45〜1.63の範囲にあることが望ましい。
しかし、表面処理を施す前の前記無機酸化物微粒子群の屈折率は、その組成や調製条件などによっても異なるが、1.45〜1.63、好ましくは1.49〜1.60、さらに好ましくは1.53〜1.57の範囲にあることが望ましい。
【0034】
さらに、前記無機酸化物微粒子群は、前記の表面処理の有無にかかわらず、平均粒子径が2〜50000nm、好ましくは7〜5000nm、さらに好ましくは10〜500nmの範囲にあるものが使用される。ここで、平均粒子径が2nm未満では、該粒子を用いた歯科用充填材の機械的強度、特に圧縮強度や曲げ強度が低下し、また平均粒子径が50000nmを超えると、該粒子を用いた歯科用複合材料を硬化させて得られる歯の修復箇所の研磨が困難になったり、あるいはその研磨面の滑沢性が充分でなくなったりするので、好ましくない。
【0035】
また、前記無機酸化物微粒子群を歯科用充填材として用いる場合には、該無機酸化物微粒子群のみを使用することが好ましいが、一般的に歯科用充填材材料として使用される他の微粒子、例えばシリカ微粒子や酸化ジルコニウム微粒子等の無機酸化物微粒子と混合して使用することもできる。しかし、前記の微粒子(すなわち、シリカ微粒子や酸化ジルコニウム微粒子等)の混合量は、特に制限されるものではないが、歯科用充填材に対して70重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%であることが望ましい。
【0036】
以下に、本発明に係る歯科用充填材の製造方法について説明するが、本発明に係る前記歯科用充填剤は、この方法から得られた無機酸化物微粒子群に限定されるものではない。
【0037】
歯科用充填材の製造方法
本発明に係る歯科用充填材の製造方法は、
シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体または該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体からなる歯科用充填材を製造する方法であって、
(a)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液に、アルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた混合水溶液を調製する工程、
(b)平均粒子径2〜300nmのシリカ系微粒子を水に分散させたシリカゾルに、前記工程(a)で得られた混合水溶液と珪酸液の水溶液を撹拌しながら添加する工程、
(c)前記工程(b)で得られた混合水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリする工程、
(d)前記工程(c)で得られた混合水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理して鎖状無機酸化物微粒子群を含む混合水溶液を調製する工程、および
(e)前記工程(d)で得られた混合水溶液中に含まれる鎖状無機酸化物微粒子群を乾燥する工程、
を含むものである。
さらに、前記の各工程について詳述すれば、以下の通りである。
【0038】
工程(a)
本発明でいう前記酸化ジルコニウム水和物は、化学式ZrO2・xH2Oで表され、この中には水酸化ジルコニウム(Zr(OH)n)も含まれるものとする。
また、前記酸化ジルコニウム水和物は、酸または酸を含む水溶液には溶解するが、水またはアルカリを含む水溶液には殆ど溶解しないことが知られている。
そこで、この工程(a)においては、純水または蒸留水中に水酸化ジルコニウムを含む懸濁水溶液を調製し、これにカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物(すなわち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)および過酸化水素を添加して攪拌することにより、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた混合水溶液(以下、「混合水溶液-(1)」という)を調製する。ここで、前記アルカリ金属水酸化物としては水酸化カリウムを使用することが好ましい。これは、水酸化カリウムを使用すると、水酸化ナトリウムに比べて前記の解膠が進みやすいためである。
【0039】
前記アルカリ金属水酸化物(M2O)は、前記前記懸濁水溶液中に含まれる酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・xH2O)に対して、モル比(M2O/ZrO2・xH2O)が1/1〜10/1、好ましくは2/1〜5/1となるような割合で添加することが好ましい。ここで、前記モル比が1/1未満であると酸化ジルコニウム水和物の解膠が進まず、また該モル比が10/1を超えると、高い解膠性は得られるものの、過剰なアルカリ金属イオンが水溶液中に含まれることになり、これを後段の工程で除去(陽イオン交換樹脂を使用)する必要があるため、経済的でない。
【0040】
前記過酸化水素(H22)は、前記懸濁水溶液中に含まれる酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・xH2O)に対して、モル比(H22/ZrO2・xH2O)が5/1〜30/1、好ましくは10/1〜25/1となるような割合で添加することが好ましい。ここで、前記モル比が5/1未満であると、酸化ジルコニウム水和物の解膠が進まず、また該モル比が30/1を超えると、酸化ジルコニウム水和物の溶解が早くなって溶解に要する時間は短くなるものの、未反応の過酸化水素が系内に大量に残存することになるので、経済的に好ましくない。
さらに、前記過酸化水素は、18〜35重量%濃度の過酸化水素水として添加することが望ましい。
【0041】
なお、前記酸化ジルコニウム水和物は、ジルコニウム塩を水溶液中で加水分解あるいは該水溶液中にアルカリまたはアンモニアを添加して中和反応を起こさせる等、従来公知の方法で調製することができる。しかし、本発明においては、純水または蒸留水にオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2・xH2O)、オキシ硫酸ジルコニウム(ZrOSO4・xH2O)、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO32・xH2O)、オキシ酢酸ジルコニウム(ZrO(C2322)、オキシ炭酸ジルコニウム(ZrOCO3・xH2O)およびアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウム((NH42ZrO(CO32)から選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩を溶解させた水溶液にアンモニアまたはアンモニア水を撹拌下で添加して中和反応を起こさせることによって得られる中和反応物(酸化ジルコニウム水和物)を、純水または蒸留水で十分に洗浄したものを使用することが好ましい。
【0042】
また、前記ジルコン酸塩としては、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2・8H2O)を使用することが望ましい。なお、前記オキシ塩化ジルコニウム、前記オキシ硫酸ジルコニウム、前記オキシ硝酸ジルコニウム、前記オキシ酢酸ジルコニウムおよび前記オキシ炭酸ジルコニウムは、それぞれ塩酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニルおよび炭酸ジルコニルと称されることもある。
【0043】
さらに、前記ジルコン酸塩の代わりに、炭酸ジルコニウム(ZrCO4・ZrO2・xH2O)、硫酸ジルコニウム(Zr(SO4)2・xH2O)、塩化ジルコニウム(ZrCl2、ZrCl3またはZrCl4)および硝酸ジルコニウム(Zr(NO34・xH2O)から選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩を使用することもできる。
前記水溶液中における前記ジルコン酸塩の含有量は、10〜20重量%、好ましくは13〜17重量%の範囲にあることが好ましい。
【0044】
前記アンモニア(NH3)またはアンモニア水(NH4OH)は、前記水溶液中に含まれるジルコン酸塩(ZrOXn)に対して、モル比(NH3/ZrOXnまたはNH4OH/ZrOXn)が13/7〜13/2、好ましくは13/5〜13/4となるような割合で添加することが好ましい。ここで、前記モル比が13/7未満であると、ジルコン酸塩の中和が十分でないため該ジルコン酸塩の一部がそのまま残り、また該モル比が13/2を超えると、アンモニアが過剰に添加されるためその残存アンモニアの洗浄に時間がかかることになるので、好ましくない。
さらに、前記アンモニア水は、5〜15重量%濃度のアンモニア水として添加することが望ましい。
【0045】
また、前記中和反応は、5〜20℃、好ましくは10〜15℃の温度で行うことが好ましい。ここで前記温度が20℃を超えると、ジルコン酸塩の中和により生成した酸化ジルコニウム水和物(例えば、水酸化ジルコニウム等)が経時的に変化していくため好ましくない。
【0046】
前記中和反応から得られる酸化ジルコニウム水和物は、濾過分離した後、純水または蒸留水で十分に洗浄して、前記中和反応における未反応物(ZrOXn等)や反応副生物(NH4X等)をできるだけ除去しておく必要がある。
このようにして得られる混合水溶液-(1)中に溶解して含まれるジルコニウム成分(酸化ジルコニウム水和物の解膠物)は、特にこれに制限されるものではないが、ZrO2換算基準で0.3〜5重量%の範囲にあることが望ましい。
【0047】
工程(b)
この工程(b)では、平均粒子径2〜300nmのシリカ系微粒子を水に分散させたシリカゾル中に、該ゾルを撹拌しながら前記工程(a)で得られた混合水溶液-(1)と珪酸液の水溶液をそれぞれ添加する。
ここで、前記シリカゾルとしては、平均粒子径が2〜300nmのシリカ系微粒子を含むものであれば、市販のもの(例えば、触媒化成工業(株)製SI-30等)を使用することができる。ここで、平均粒子径が2nm未満であると、該粒子を用いた歯科用充填材の機械的強度、特に圧縮強度や曲げ強度が低下し、また平均粒子径が300nmを超えると、該粒子を含む歯科用充填材を用いて歯を修復した場合、その研磨面の滑沢性が十分でなくなるので、好ましくない。なお、ここでいう平均粒子径は、レーザー回折散乱法を用いて測定した結果を示すものである。
【0048】
また、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子の濃度は、0.5〜5重量%の範囲にあることが好ましい。ここで、前記濃度が0.5重量%未満であると、経済的に前記無機酸化物微粒子を得ることが難しくなり、また前記濃度が5重量%を超えると、前記混合水溶液-(1)および前記珪酸液の水溶液を添加した場合、その混合液が不安定となって粒子の凝集が起こってしまうため、鎖状の無機酸化物微粒子を得ることが難しくなるので、好ましくない。
【0049】
さらに、前記混合水溶液-(1)中に含まれるジルコニウム成分は、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子の濃度のほか、この工程で別途添加される珪酸液の性状や濃度などによっても異なるが、ZrO2換算基準で0.3〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%の範囲となるように調整してから添加することが好ましい。ここで、前記含有量が0.3重量%未満であると、経済的に前記無機酸化物微粒子を得ることが難しくなり、また該含有量が5重量%を超えると、前記混合水溶液の安定性が悪く、しかも該水溶液の粘度が増加してしまう傾向にあるので、好ましくない。
【0050】
一方、前記珪酸液の水溶液(以下、単に「珪酸液」という場合もある)としては、アルカリ金属珪酸塩、有機塩基の珪酸塩等の珪酸塩水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリしたものが使用される。また、これらの珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム等のアルカリ金属珪酸塩、第4級アンモニウムシリケート等の有機塩基の珪酸塩などが挙げられる。
この珪酸液の水溶液の中でも、pHが2〜4、好ましくは2〜3の範囲にあり、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で0.5〜5重量%、好ましくは3〜4重量%の範囲にあるものを使用することが好ましい。ここで、前記pHが2未満であると、その処理に要する陽イオン交換樹脂の量と処理時間が必要以上に多くなって経済的でなくなり、また前記pHが4を超えると、脱アルカリの度合いが低いため、得られる珪酸液の安定性が悪くなるので、好ましくない。さらに、前記含有量が0.5重量%未満であると、経済的に前記無機酸化物微粒子を得ることが難しくなり、また前記含有量が5重量%を超えると、珪酸液の安定性が悪くなるので、好ましくない。
このような性状を有する珪酸液の水溶液としては、水ガラス(珪酸ナトリウム)を水で希釈した後、陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリしたものを使用することが好ましい。
【0051】
前記混合水溶液-(1)および前記珪酸液の水溶液は、該混合水溶液-(1)中に含まれるジルコニウム成分をZrO2で表し、さらに該珪酸液中に含まれる珪素成分をSiO2-(1)で表したとき、モル比(ZrO2/SiO2-(1))が1/16〜1/1、好ましくは1/8〜1/2となるようにそれぞれ調整して、前記シリカゾル中に共にゆっくりと添加することが好ましい。ここで、前記モル比が1/16未満であると、鎖状の無機酸化物微粒子を得ることが難しくなり、また前記モル比が1/1を超えると、前記シリカゾル中に添加している間にその混合液が不安定となって粒子の凝集が起こってしまうので、好ましくない。
【0052】
また、前記シリカゾル中へのこれらの添加量は、該シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子上への被覆度合いによっても異なるが、該シリカ系微粒子をSiO2-(2)で表したとき、重量比{(ZrO2/SiO2-(1))/SiO2-(2)}が7/100〜15/10、好ましくは5/10〜1/1の範囲にあることが好ましい。ここで、前記重量比が7/100未満であると、鎖状の無機酸化物微粒子を得ることが難しくなり、また前記重量比が15/10を超えると、前記シリカゾル中に添加している間にその混合液が不安定となって粒子の凝集が起こってしまうので、好ましくない。
【0053】
前記シリカゾルは、前記混合水溶液-(1)および前記珪酸液の水溶液を添加する前に、70〜95℃、好ましくは80〜90℃の温度に加熱しておくことが好ましい。ここで、前記温度が70℃未満では、前記ジルコニウム成分および前記珪素成分の加水分解反応が進まず、また前記温度が95℃を超えると、シリカゾル中の水分が蒸発し始めるので、好ましくない。なお、前記混合水溶液-(1)および前記珪酸液の水溶液は、加熱してから使用してもよいが、室温の状態にあるものをそのまま使用することができる。
また、前記混合水溶液-(1)および前記珪酸液の水溶液の添加は、これらの水溶液中に含まれる前記成分の濃度やその添加量(総量)によっても異なるが、それぞれ4〜24時間かけてゆっくりと行うことが好ましい。
【0054】
このようにして、前記シリカゾル中に前記混合水溶液-(1)および前記珪酸液の水溶液を撹拌しながら添加すると、この混合水溶液-(2)中で前記ジルコニウム成分と前記珪素成分の加水分解反応が起こって、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子の表面が、前記成分の部分加水分解物や加水分解物で被覆される。
強いアルカリ性を呈する前記混合水溶液-(1)の添加に伴い、前記混合水溶液-(2)中のpHは経時的に高まるので、該混合水溶液のpHが11、好ましくは10.5となった段階で、前記混合水溶液-(1)と前記珪酸液の添加を中止することが望ましい。ここで、前記pHが11を超えると、前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子がアルカリにより混合水溶液-(2)中に溶解し始めるので、好ましくない。
よって、pHが11になった段階で前記混合水溶液-(2)および前記珪酸液の添加が完了していない場合は、以下に述べる工程(c)に処して脱アルカリした後、この操作を再度または繰り返して行うことが好ましい。
【0055】
また、前記シリカ系微粒子の表面を、必要に応じてチタニウムやアルミニウムなどを含む複合酸化物で被覆する場合には、上記の成分に加えて、加水分解能を有するテトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等のチタニウム化合物水溶液やアルミン酸ナトリウム等のアルミニウム化合物水溶液を適宜、添加することによって行うことができる。
【0056】
工程(c)
この工程(c)では、前記工程(b)で得られた混合水溶液-(2)を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリする。
ここで使用される陽イオン交換樹脂としては、特に制限されるものではないが、三菱化学(株)製のSK1BH等の陽イオン交換樹脂を使用することが好ましい。
また、この工程では、前記混合水溶液-(2)を該混合水溶液のpHが7.0〜10.0、好ましくは8.5〜9.5となるように脱アルカリ処理することが好ましい。ここで、前記pHが7.0未満であると、混合液中の脱アルカリが進みすぎて、その混合液が不安定となって粒子の凝集などが起こり、また前記pHが10.0を超えると、前記混合水溶液-(1) および前記珪酸液を添加している間に前記シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子がアルカリによって溶け始めて前記混合水溶液-(2)中に溶解するので、好ましくない。
【0057】
この工程から得られる混合水溶液-(3)は、該混合水溶液中に前記混合水溶液-(2)および前記珪酸液をさらに添加する必要がある場合は、上記のように前記工程(b)に戻って再度、同工程における操作を行い、またその必要がない場合は、以下に述べる工程(d)に供される。なお、前記工程(b)と前記工程(c)の操作は、必要に応じて繰り返し行ってもよい。
【0058】
工程(d)
この工程(d)では、前記工程(c)で得られた混合水溶液-(3)を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理する。
ここで、前記反応器としては、0.5〜16.5Mpaの圧力に耐える耐圧・耐熱容器であれば特に制限されるものではないが、ステンレススチール製のオートクレーブを用いることが好ましい。
【0059】
また、前記水熱処理は、100〜350℃、好ましくは150〜200℃の温度条件下で、10〜100時間、好ましくは20〜40時間かけて行うことが好ましい。ここで、前記水熱温度が100℃未満であると、前記混合水溶液中に含まれる前記ジルコニウム成分と前記珪素成分の加水分解反応から得られる部分加水分解物および/または加水分解物の縮合反応が充分に進まないため、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群(鎖状無機酸化物微粒子群)を得ることが難しくなる。また、350℃以上の温度で水熱処理を行うためには16.5Mpa以上の圧力に耐える耐圧・耐熱容器が必要となり、さらにはエネルギー消費の面からも経済的でなくなる。
【0060】
さらに、前記水熱時間が10時間未満であると、前記ジルコニウム成分と前記珪素成分の加水分解反応から得られる部分加水分解物および/または加水分解物の縮合反応が充分に進まないため、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群(鎖状無機酸化物微粒子群)を得ることが難しくなる。また、前記水熱時間が100時間を超えても、前記複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群(鎖状無機酸化物微粒子群)を形成する上では余り影響しないので、これ以上の時間をかけることは得策でない。
【0061】
このようにして、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群(鎖状無機酸化物微粒子群)を含む混合水溶液-(4)が得られる。しかし、この混合水溶液-(4)中には、該混合水溶液中に含まれる固形分濃度によっても異なるが、前記鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結(または凝集)した無機酸化物微粒子群は殆ど見られない。
【0062】
工程(e)
この工程(e)では、前記工程(d)で得られた混合水溶液-(4)中に含まれる鎖状無機酸化物微粒子群からなる固形分を乾燥する。
前記混合水溶液-(4)中に含まれる固形分は、一般的に用いられている乾燥工程、即ち該固形分を濾過分離した後、必要に応じて純水または蒸留水で洗浄してから100〜200℃の温度で乾燥する工程に供して乾燥することができる。
また、前記混合水溶液-(4)を限外濾過膜を用いて8〜12重量%まで濃縮した後、該濃縮水溶液をそのまま乾燥機中に入れて、100〜200℃の温度で乾燥することもできる。
【0063】
しかし、粒子径の揃った無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体を得るためには、前記混合水溶液-(4)中に含まれる固形分濃度が0.01〜10重量%、好ましくは0.07〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3.0重量%になるように調整した後、これをスプレードライヤーに供して噴霧乾燥することが好ましい。ここで、前記固形分濃度が0.01重量%未満であると、粒子径が10nm以下の粒子が多くなって製品収率が低下するので好ましくない。また、該固形分濃度が10重量%を超えると、混合水溶液の粘度が高くなって安定性が低下するため粒子径の揃った粒子を得ることが難しくなる。さらに、粒子径が10000nm以上の粒子が多くなり、50000nmを超える粗大粒子も形成されるため、これを粉砕せずにそのまま歯科用充填剤として使用すると、これを用いた歯の修復箇所の研磨が難しくなったり、あるいはその透明性が低下したりすることがある。
【0064】
なお、前記スプレードライヤーとしては、従来公知のもの(ディスク回転式やノズル式等)を使用することができる。また、前記の噴霧乾燥は、従来公知の方法を用いて、濃縮された前記混合水溶液-(4)を熱風気流中に噴霧することによって行われる。
この際、前記熱風の温度は、入り口温度は150〜200℃、好ましくは170〜180℃の範囲にあることが望ましく、出口温度は40〜60℃の範囲にあることが好ましい。ここで、前記入口温度が150℃未満であると、前記固形分の乾燥が不充分となり、また200℃を超えると、経済的でなくなる。また、前記出口温度が40℃未満であると、粉体の乾燥度合いが悪くて装置内に付着するので、好ましくない。
【0065】
この方法から得られる無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体は、その粒子径が揃っており、またこの方法によれば、平均粒子径が10〜10000nmの範囲にあるものを容易に得ることができる。
しかし、前記固形分を一般的に知られている乾燥装置の中に入れて、100〜200℃の温度で乾燥させてもよいことは勿論である。ただし、この場合は、粒子径の揃った無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体を得ることができないので、場合によっては、すり鉢やボールミル等を用いた粉砕工程に供してその粒子径を調整することが必要である。
【0066】
このようにして、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ系微粒子を、該シリカ系微粒子の被覆物質または該被覆物質から延びた前記複合酸化物の帯状物質を介して複数個、連結してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体、該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその粉砕物が得られる。
【0067】
焼成工程
この工程では、前記工程(e)で得られた無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体を300〜900℃の温度で焼成する。
前記工程(e)で乾燥された無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体は、石英製の坩堝に入れて電気炉中で、300〜900℃、好ましくは500〜800℃の温度条件下で1時間以上、好ましくは3〜4時間かけて焼成することが好ましい。ここで、前記焼成温度が 300℃未満であると、得られる非晶質焼成粉体に所望の機械的強度が得られなくなるばかりでなく、その被覆物質の密度が高くならないため所望の屈折率(1.45〜1.63)が得られなくなることがあり、結果としてこれを用いた歯科用充填材の色調が歯の色調に合致しなくなる場合がある。また、前記焼成温度が900℃を超えると、酸化ジルコニウム(ZrO2)の結晶化が起こり始めて所望の屈折率(1.45〜1.63)が得られなくなることがあり、結果としてこれを用いた歯科用充填材の色調が歯の色調に合致しなくなる場合がある。また、前記焼成時間が1時間未満となると、得られる非晶質焼成粉体に所望の機械的強度が得られなくなるばかりでなく、その被覆物質の密度が高くならないため所望の屈折率(1.45〜1.63)が得られなくなることがあり、結果としてこれを用いた歯科用充填材の色調が歯の色調に合致しなくなる場合がある。
【0068】
このようにして、前記非晶質乾燥粉体を焼成してなる無機酸化物微粒子群の非晶質焼成粉体を容易に得ることができる。この非晶質焼成粉体の形状は、その形態収縮が一部、見られるものの、前記非晶質乾燥粉体の形状とほぼ同じである。
しかし、このようにして得られた無機酸化物粒子群(非晶質焼成粉体)の粒子径が所望値より大きい場合には、これをすり鉢やボールミル等の中に入れて粉砕して、2〜50000nmの範囲から選択された所望の平均粒子径に調整してから歯科用充填剤として使用してもよいことは勿論である。特に、前記工程(e)において、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥を行わない場合や得られた非晶質乾燥粉体の粉砕処理を行わない場合には、この段階で粉砕処理して所望の粒子径とすることが望ましい。
【0069】
表面処理工程
本発明に係る無機酸化物微粒子群、すなわち前記工程(e)で得られた非晶質乾燥粉体、前記焼成工程で得られた非晶質焼成粉体およびその粉砕物は、上記のような物理的性状を有しているので、その使用用途によっても異なるが、本発明に係る歯科用充填材としてそのまま使用することができる。
しかし、この無機酸化物微粒子群と混合して使用される硬化性樹脂とその屈折率を調整する必要がある場合、あるいはこの硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性を向上させる必要がある場合には、該無機酸化物微粒子群の表面を有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理(表面改質)して使用することが望ましい。
【0070】
この場合、前記の表面処理は、特にこれに制限されるものではないが、以下のような方法で行うことができる。この中でも、下記(2)および(3)に示す表面処理法、特に下記(3)の表面処理法を用いて行うことが好ましい。また、その表面処理法それ自体は、一般的に用いられる従来公知の方法を採用することができる。
【0071】
(1)前記工程(d)で得られた鎖状無機酸化物微粒子群からなる固形分を含む混合水溶液-(4)を、必要に応じて濃縮した後、該水溶液中に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記固形分の表面処理を行い、その後、後段の乾燥工程に供する方法。ただし、この方法から得られる無機酸化物微粒子群は、後段の焼成工程に供する必要がある場合には、その屈折率は調整できるものの、硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性の向上は余り期待できない。また、後段の乾燥工程や焼成工程で得られた無機酸化物微粒子群の平均粒子径を調製するための粉砕工程に供する必要がある場合には、該粉砕工程で該粒子が粉砕(分割)されてその表面処理部分が欠落または脱落したりするので、当初の表面処理の目的を達成できないことがある。
【0072】
(2)前記工程(e)で得られた無機酸化物微粒子群(非晶質乾燥粉体)を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記無機酸化物微粒子群(非晶質乾燥粉体)の表面処理を行い、その後、乾燥する方法。ただし、この方法から得られる無機酸化物微粒子群は、後段の焼成工程に供する必要がある場合には、その屈折率は調整できるものの、硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性の向上は余り期待できない。また、後段の焼成工程で得られた無機酸化物微粒子群の平均粒子径を調製するための粉砕工程に供する必要がある場合には、該粉砕工程で該粒子が粉砕(分割)されてその表面処理部分が欠落または脱落したりするので、当初の表面処理の目的を達成できないことがある。
【0073】
(3)前記焼成工程で得られた無機酸化物微粒子群(非晶質焼成粉体)を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって前記無機酸化物微粒子群(非晶質焼成粉体)の表面処理を行い、その後、乾燥する方法。この方法から得られる無機酸化物微粒子群は、焼成済みの粒子を表面処理したものであるため、その屈折率を調整できるばかりでなく、硬化性樹脂への分散性や該樹脂との密着性の向上が充分に期待できる。
【0074】
[歯科用複合材料]
本発明による歯科用複合材料は、前記の歯科用充填材と硬化性樹脂を含むものである。
ここで、前記硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂などがある。また、これらの硬化性樹脂は、前記歯科用複合材料の使用用途によって選択され、場合によってはこれらの2種以上を混合して使用してもよい。
【0075】
なお、前記歯科用複合材料の製造方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、一般的には、前記歯科用充填材10〜50重量部、前記硬化性樹脂10〜50重量部、および重合触媒または光重合開始剤0.1〜5重量部を攪拌下で混合して、該前記歯科用充填材を硬化性樹脂中に均一に分散させることによって製造される。この場合、必要に応じて一般的に使用されている安定剤、粘性剤、発色剤、風味保持剤、抗菌剤、芳香剤、補助剤などを添加してもよい。
このようにして製造される前記歯科用複合材料は、歯科用修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルクブランク、歯科用セメント、義歯、歯科用矯正具、歯科用矯正接着剤、歯科用鋳造材料、歯科用被覆物などの用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
[調製例1]
酸化ジルコニウム水和物の調製
オキシ塩化ジルコニウム250kg(ZrOCl2・8H2O、太陽鉱工(株)製)を温度15℃の純水4375kgに加えて攪拌し、オキシ塩化ジルコニウムを溶解させた。
さらに、このオキシ塩化ジルコニウム水溶液に、15重量%濃度のアンモニア水250 Lを攪拌下でゆっくりと添加して、15℃の温度条件下で前記オキシ塩化ジルコニウムの中和反応を行い、酸化ジルコニウム水和物の沈殿を含むスラリーを得た。このスラリーのpHは8.5であった。
次いで、このスラリーを濾過し、得られたケーキ状物質を純水で繰り返し洗浄して、前記中和反応での副生物や未反応物などを除去した。
その結果、酸化ジルコニウム水和物をZrO2換算基準で10重量%含み、残余物が水分であるケーキ状物質860kgを得た。
【0078】
[調製例2]
珪酸液の調製
市販の水ガラス10kg(旭硝子エスアイテック(株)製)を純水38kgで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)を用いて脱アルカリして、pHが3で、SiO2濃度が4重量%の珪酸液9kgを調製した。その後、この珪酸液10768gと純水14860gを混合し、2重量%の珪酸液25628gを調整した。
【0079】
無機酸化物微粒子の調製
[実施例1]
調製例1で調製された酸化ジルコニウム水和物を含むケーキ状物質5416gに純水45800gを加え、さらに攪拌しながら水酸化カリウム(関東化学(株)製)を85重量%含む水酸化カリウム1024gを添加してアルカリ性にした後、過酸化水素(林純薬工業(株)製)を35重量%含む過酸化水素水10248gを添加した。
さらに、この混合水溶液を攪拌しながら1時間、放置し、前記酸化ジルコニウム水和物を解膠して水溶液中に溶解させた。次いで、純水を冷凍して得られた氷水39991gを加えて、発熱反応によって温度が上昇した前記水溶液を30℃以下の温度に冷却した。これにより、ZrO2換算基準でジルコニウム成分を0.5重量%含み、pHが約11の混合水溶液102400g(以下、実施例調製液1Aという)を得た。
【0080】
平均粒子径12nmのシリカ微粒子を30重量%含むシリカゾル3336g(触媒化成工業(株)製 SI-30)に純水47900gを加えて十分に撹拌し、シリカ微粒子濃度2重量%のシリカゾル51236gを得た。
次に、前記シリカゾルを90℃に加熱し、これを撹拌しながら、これに調製例2で調製された珪酸液の水溶液12814gと前記実施例調製液1A51200gを10 時間かけてゆっくりと添加した。これにより、pHが約11の混合水溶液115250g(以下、実施例調製液1B-(1)という)を得た。
次いで、前記実施例調製液1B-(1)を陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SK1BH)で処理して脱アルカリした。これにより、pHが約9.5の混合水溶液117250g(以下、実施例調製液1C-(1)という)を得た。
【0081】
さらに、前記実施例調製液1C-(1)を90℃に加熱し、これを撹拌しながら、これに調製例2で調製された珪酸液の水溶液12814gと前記実施例調製液1A51200gを 10 時間かけてゆっくりと添加した。これにより、pHが約11の混合水溶液181264g(以下、実施例調製液1B-(2)という)を得た。
次に、前記実施例調製液1B-(2)を陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SK1BH)で処理して脱アルカリした。これにより、pHが約9.5の混合水溶液182264g(以下、実施例調製液1C-(2)という)を得た。
【0082】
次いで、前記実施例調製液1C-(2)100200gをステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、165℃の温度で18時間、水熱処理を行った。これにより、表面被覆された無機酸化物微粒子群の固形分を含む混合水溶液 99750g(以下、実施例調製液1Dという)を得た。
【0083】
次に、前記実施例調製液1D中から500gを取り出し、これをシャーレ上に極めて薄く流して(すなわち、前記微粒子群が重なり合わない状態)、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された無機酸化物微粒子群の乾燥粉体9.5g(以下、実施例粉体1A-(1)という)を得た。さらに、残余の前記実施例調製液1D 2050gを該調製液中に含まれる固形分濃度が8重量%になるまで濃縮した後、シャーレ上に厚く流して(すなわち、前記微粒子群が重なり合っている状態)、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された無機酸化物微粒子群の乾燥粉体4.5g(以下、実施例粉体1A-(2)という)を得た。
【0084】
このようにして得られた実施例粉体1A-(1)および実施例粉体1A-(2)の中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、これを電解放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ(株)製 FE-SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮ったところ、それぞれ図1および図2に示す通りであった。
この結果、実施例粉体1A-(1)は、前記複合酸化物で被覆されたシリカ系微粒子を、該シリカ系微粒子の被覆物質または該被覆物質から延びた前記複合酸化物の帯状物質を介して複数個、連結してなる鎖状形状を有しており、さらに実施例粉体1A-(2)は、鎖状形状の無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結したような形状を有していることがわかった。
【0085】
次に、前記実施例粉体1A-(2)をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群の乾燥粉体(粉砕物)3.5g(以下、実施例粉体1B)を得た。
次いで、前記実施例粉体1B3.0gを石英製の坩堝に入れて電気炉(東洋製作所(株)製)中に収納し、これを800℃の温度条件下で3時間かけて焼成した。これにより、無機酸化物微粒子群の焼成粉体2.1g(以下、実施例粉体1Cという)を得た。
【0086】
このようにして得られた実施例粉体1Bおよび実施例粉体1Cの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、これをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定したところ、共に結晶性ピークは認められず、非晶質の無機酸化物微粒子群であることがわかった。また、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ(株)製 FE-TEM)を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質を選択)の組成を測定・分析したところ、該被覆物質はジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物であることがわかった。
さらに、前記実施例粉体1Bおよび実施例粉体1Cの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、密度、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0087】
なお、前記の測定は、以下の方法で行った。
(a)粒子径
水-グリセリン溶液(水/グリセリンの重量比=6/4)に無機酸化物微粒子群を添加して、その含有量が1重量%になるように調整した。次に、この混合液を注入したセルを、遠心沈降式粒度分析計(堀場製作所、CAPA700)にかけて粒子の平均粒子径を測定した。また、この測定は、テーブル回転数1000rpm、粒度範囲0.5〜15μmの条件下で行った。
【0088】
(b)屈折率
無機酸化物微粒子である試料0.2gとCARGILIE標準屈折率液0.2gを均一に混合したペーストを得た。次に、スライドガラス板上に厚さ1mmの金属製リングをのせ、該リングの中へ前記ペーストを流し込み、その上にカバーガラスをのせて、軽く圧接した。さらに、前記ペーストの透明度を目視により確認した。
(C)圧縮強度
微小圧縮試験機(島津製作所製)を用いて、ダイヤモンド圧盤で無機酸化物微粒子(3〜4μm)に負荷を与え、負荷圧力と圧縮変位を測定し粒子の圧縮強度とした。
なお、実施例1で採用された測定装置や測定方法に関しては、異なった記載がない限り、以下に示す実施例2〜9、および比較例2〜10においても同じものを使用した。
【0089】
[実施例2および比較例1]
実施例1で前記実施例調製液1C-(2)を調製した方法と同じ方法で、調製液2C-(2) 15000gを調製した。
次いで、前記調製液2C-(2)の中から4800gずつを取り出し、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れて、それぞれ90℃、110℃、300℃の温度で18時間、水熱処理を行った。これにより、表面被覆された無機酸化物微粒子群からなる固形分を含む混合水溶液(以下、それぞれ比較例調製液1D、実施例調製液2D-(1)および実施例調製液2D-(2)という)を得た。
【0090】
次に、前記の比較例調製液1D、実施例調製液2D-(1)および実施例調製液2D-(2)をこれらの調製液中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮した後、実施例1の場合と同様に、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体1A、実施例粉体2A-(1)及び実施例粉体2A-(2)という)を得た。
さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体1B、実施例粉体2B-(1)及び実施例粉体2B-(2)という)を得た。その結果、得られた比較例粉体1B、実施例粉体2B-(1)および実施例粉体2B-(2)は、それぞれ2.8g、2.1gおよび2.3gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体1C、実施例粉体2C-(1)および実施例粉体2C-(2))を得た。
【0091】
このようにして得られた比較例粉体1C、実施例粉体2C-(1)および実施例粉体2C-(2)の中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体1C、実施例粉体2C-(1)および実施例粉体2C-(2)の中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0092】
[実施例3および比較例2]
実施例1で前記実施例粉体1Bを調製した方法と同じ方法で、粉体3B200gを調製した。
次いで、前記粉体3Bの中から30gずつを取り出し、石英製の坩堝に入れて電気炉(東洋製作所(株)製)中に収納して、それぞれ350℃、500℃、800℃および1000℃の温度条件下で3時間かけて焼成した。これにより、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ実施例粉体3C-(1)、実施例粉体3C-(2)、実施例粉体3C-(3)および比較例粉体2Cという)を得た。
【0093】
このようにして得られた実施例粉体3C-(1)、実施例粉体3C-(2)、実施例粉体3C-(3)および比較例粉体2Cの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の実施例粉体3C-(1)、実施例粉体3C-(2)、実施例粉体3C-(3)および比較例粉体2Cの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0094】
[実施例4]
実施例1で前記実施例調製液1Dを調製した方法と同じ方法で、調製液4D11500 gを調製した。
次いで、前記調製液4Dに含まれる固形分濃度を2重量%に調整して、これらをスプレードライヤー(NIRO ATOMIZER)に供して噴霧乾燥を行った。この時の噴霧乾燥おける温度(熱風温度)は180℃であり、また噴霧条件はスラリー供給量2L/分でスプレー圧0.45Mpaであった。これにより、充分に乾燥された実施例粉体4Aを得た。得られた実施例粉体4A50gをエタノール100gと十分混合し1時間静置を行った後、上澄みから約3cmの液、及び上澄みから約3〜6cmの液、約6〜9cmの液、約9cm以下の沈降物含有液(以下、それぞれ実施例調製液4E-(1)、実施例調製液4E-(2)、実施例調製液4E-(3)および実施例調製液4E-(4))を得た。
【0095】
次に、前記の実施例調製液4E-(1)、実施例調製液4E-(2)、実施例調製液4E-(3)および実施例調製液4E-(4)を実施例1の場合と同様に、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これより得られた実施例粉体4A-(1)、実施例粉体4A-(2)、実施例粉体4A-(3)および実施例粉体4A-(4)は、それぞれ10g、10g、10gおよび10gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ実施例粉体4C-(1)、実施例粉体4C-(2)、実施例粉体4C-(3)および実施例粉体4C-(4)という)を得た。
【0096】
このようにして得られた実施例粉体4C-(1)、実施例粉体4C-(2)、実施例粉体4C-(3)および実施例粉体4C-(4)の中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の実施例粉体4C-(1)、実施例粉体4C-(2)、実施例粉体4C-(3)および実施例粉体4C-(4)の中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0097】
[実施例5および比較例3]
実施例1で前記実施例調製液1Aを調製した方法と同じ方法で、調製液5A98kgを調製した。
次に、調製例2で調製された珪酸液と前記調製液5Aを以下に示す割合にて、実施例1と同様な方法で、90℃に加熱されたシリカゾル13480g中に2回に分けて添加すると共に、脱アルカリ処理を行った。なお、下記のモル比は、前記珪酸液中に含まれる珪素成分をSiO2で表し、さらに前記水溶液中に含まれるジルコニウム成分をZrO2で表したときのものを示す。
【0098】
珪酸液(g) 調製液5A(g) モル比(SiO2/ZrO2
混合水溶液1 10784.0 43136.0 2/1
混合水溶液2 5055.0 20200.0 2/1
混合水溶液3 8087.5 32350.0 2/1
混合水溶液4 337.0 1348.0 2/1
【0099】
次いで、前記混合水溶液1〜4(すなわち、それぞれ比較例調製液3C-(1)、実施例調製液5C-(1)、実施例調製液5C-(2)および比較例調製液3C-(2)である。)から2000gずつを取り出し、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れ、それぞれ160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、表面被覆された無機酸化物微粒子群からなる固形分を含む混合水溶液(以下、それぞれ比較例調製液3D-(1)、実施例調製液5D-(1)、実施例調製液5D-(2)および比較例調製液3D-(2)という)を得た。
【0100】
次に、前記の比較例調製液3D-(1)、実施例調製液5D-(1)、実施例調製液5D-(2)および比較例調製液3D-(2)をこれらの調製液中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮した後、実施例1の場合と同様に、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体3A-(1)、実施例粉体5A-(1)、実施例粉体5A-(2)および比較例粉体3A-(2)という)を得た。
【0101】
さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体3B-(1)、実施例粉体5B-(1)、実施例粉体5B-(2)および比較例粉体3B-(2)という)を得た。その結果、得られた比較例粉体3B-(1)、実施例粉体5B-(1)、実施例粉体5B-(2)および比較例粉体3B-(2)は、それぞれ12g、11g、13gおよび10gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体3C-(1)、実施例粉体5C-(1)、実施例粉体5C-(2)および比較例粉体3C-(2)という)を得た。
【0102】
このようにして得られた比較例粉体3C-(1)、実施例粉体5C-(1)、実施例粉体5C-(2)および比較例粉体3C-(2)の中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体3C-(1)、実施例粉体5C-(1)、実施例粉体5C-(2)および比較例粉体3C-(2)の中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0103】
[実施例6および比較例4]
実施例1で前記実施例調製液1Aを調製した方法と同じ方法で、調製液6A60.0kgを調製した。
次に、調製例2で調製された珪酸液6740gと前記調製液6A26960gを、実施例1と同様な方法で、50℃および80℃に加熱されたシリカゾル13480g中に2回に分けて添加すると共に、脱アルカリ処理を行った。
次いで、得られた混合水溶液(すなわち、それぞれ比較例調製液4Cおよび実施例調製液6Cである。)を、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れて、それぞれ160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、表面被覆された無機酸化物微粒子群からなる固形分を含む混合水溶液(以下、それぞれ比較例調製液4Dおよび実施例調製液6Dという)を得た。
【0104】
次に、前記の比較例調製液4Dおよび実施例調製液6Dをこれらの調製液中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮した後、実施例1の場合と同様に、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体4Aおよび実施例粉体6Aという)を得た。
【0105】
さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体4Bおよび実施例粉体6Bという)を得た。その結果、得られた比較例粉体4Bおよび実施例粉体6Bは、それぞれ12gおよび15gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体4Cおよび実施例粉体6Cという)を得た。
【0106】
このようにして得られた比較例粉体4Cおよび実施例粉体6Cの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体4Cおよび実施例粉体6Cの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0107】
[比較例5]
実施例1で前記実施例調製液1Aを調製した方法と同じ方法で、調製液7A28kgを調製した。
次に、調製例2で調製された珪酸液6740gと前記調製液7A26960gを、90℃に加熱されたシリカゾル13480g中に1回で添加し、脱アルカリ処理を行った。
次いで、得られた混合水溶液(すなわち、比較例調製液5Cである。)を、ステンレススチール製のオートクレーブ(耐圧ガラス工業(株)製)の中に入れて、それぞれ160℃の温度で16時間、水熱処理を行った。これにより、無機酸化物微粒子群からなる固形分を含む混合水溶液(以下、比較例調製液5Dという)を得た。
【0108】
次に、前記の比較例調製液5Dをこれらの調製液中に含まれる固形分濃度が2重量%になるまで濃縮した後、実施例1の場合と同様に、乾燥器中で110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、充分に乾燥された無機酸化物微粒子群(以下、比較例粉体5Aという)を得た。
【0109】
さらに、この無機酸化物微粒子群をすり鉢に入れて、大きな粒子径を有する粒子や塊状物を粉砕して、比較的粒子径の整った無機酸化物微粒子群(以下、比較例粉体5Bという)を得た。その結果、得られた比較例粉体5Bは、14gであった。
次いで、実施例1と同じ条件下でこれらの粉体を焼成して、それぞれの無機酸化物微粒子群(以下、それぞれ比較例粉体5Cという)を得た。
【0110】
このようにして得られた比較例粉体5Cの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体5Cの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0111】
[実施例7]
実施例1で前記実施例粉体1Bを調製した方法と同じ方法で、粉体7B135gを調製した。
次いで、前記粉体7Bの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された実施例粉体7BX107gを得た。
【0112】
このようにして得られた実施例粉体7BXの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の実施例粉体7BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、密度、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0113】
[実施例8]
実施例1で前記実施例粉体1Cを調製した方法と同じ方法で、粉体8C152gを調製した。
次いで、前記粉体8Cの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの加水分解物で表面処理された実施例粉体8CX112gを得た。
【0114】
このようにして得られた実施例粉体8CXの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の実施例粉体8CXの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0115】
[比較例6]
比較例1で前記比較例粉体1Bを調製した方法と同じ方法で、粉体6B122gを調製した。
次いで、前記粉体6Bの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された比較例粉体6BX112gを得た。
【0116】
このようにして得られた実施例粉体6BXの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の実施例粉体6BXの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0117】
[比較例7]
平均粒子径6μmのシリカ微粒子100g(触媒化成工業(株)製、シリカマイクロビードP−1500、450℃焼成品)をガラス容器にいれて、エチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された比較例粉体7AX112gを得た。
【0118】
このようにして得られた比較例粉体7AXの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体7AXの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0119】
[比較例8]
平均粒子径17nmのシリカ微粒子をSiO2基準で10重量%含むシリカゾル(触媒化成工業(株)製、カタロイドS−20L)を蒸留水で希釈して、3重量%のシリカ微粒子を含むシリカゾル1867gを得た。これに、濃度3重量%のNaOH水溶液12gと、ジルコニウム成分をZrO2基準で4重量%含む炭酸ジルコニルアンモニウム水溶液407g(第一稀元素化学工業(株)製、ジルコゾールAC−7)を添加した後、15分間攪拌してこれらの混合スラリー液2286gを調製した。
【0120】
次いで、この混合スラリー液をスプレードライヤー(NIRO ATOMIZER)に供して噴霧乾燥を行った。この時の噴霧乾燥おける温度(熱風温度)は180℃であり、また噴霧条件はスラリー供給量2L/分でスプレー圧0.5Mpaであった。これにより、充分に乾燥された比較例粉体8Aを得た。得られた比較例粉体8Aを650℃の温度で3時間かけて焼成した。これにより、無機酸化物微粒子群からなる比較例粉体8Cを得た。
【0121】
このようにして得られた比較例粉体8Cの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体8Cの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0122】
[比較例9]
比較例8で前記比較例粉体8Cを調製した方法と同じ方法で、粉体9C188gを調製した。
次いで、前記粉体9Aの中から100gを取り出し、ガラス容器に入れてエチルアルコール99.5重量%および水0.5重量%を含むエタノール18gとγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12gを添加して1時間、攪拌混合した後、乾燥器に入れて110℃の温度にて16時間乾燥させた。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物で表面処理された比較例粉体9CX112gを得た。
【0123】
このようにして得られた比較例粉体9CXの中から無機酸化物微粒子群のサンプルを取り出し、実施例1の場合と同様に、これらをX線回折装置(RINT-1400、X線回折法)でX線回折ピークを測定し、得られた無機酸化物微粒子群が非晶質であるかどうかを調べた。また、実施例1の場合と同様に、これらのサンプルを電解放出型透過電子顕微鏡を用いて、前記被覆物質(シリカ系微粒子間に延びた帯状物質)の組成を測定・分析して、該被覆物質中にジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物が存在するかどうかを調べた。
さらに、実施例1の場合と同様に、前記の比較例粉体9CXの中から選ばれた無機酸化物微粒子群の粒子径、屈折率および圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
上記の表1において、○印は、その大部分がジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物になっており、△印は、その一部分が前記複合酸化物になっており、また×印は、その殆どが前記複合酸化物になっていないことを意味する。
【0126】
歯科用複合材料の調製
[実施例9および比較例10]
ウレタンジメタクリレート130gとトリエチレングリコールジメタクリレート70gを混合した後、カンファーキノン2gおよびジメチルアミノエチルメタクリレート4gを添加して溶解させた重合性単量体を調製した。
【0127】
次いで、前記重合性単量体を30gずつ取り出し、これらに、実施例粉体7BX、実施例粉体8CX、比較例粉体6BX、比較例粉体7AXおよび比較例粉体9CXをそれぞれ70g加えて1時間、攪拌混合した。これにより、歯科用複合材料(試料)としての実施例ペースト9CY-(1)、実施例ペースト9CY-(2)、比較例ペースト10CY-(1)、比較例ペースト10CY-(2)および比較例ペースト10CY-(3)をそれぞれ100g得た。次に、これらをテフロン(登録商標)製の鋳型にそれぞれ均一に充填した後、光照射して実施例複合材料9CZ-(1)、実施例複合材料9CZ-(2)、比較例複合材料10CZ-(1)、比較例複合材料10CZ-(2)および比較例複合材料10CZ-(3)を得た。
【0128】
さらに、前記実施例複合材料9CZ-(1)、実施例複合材料9CZ-(2)、比較例複合材料10CZ-(1)、比較例複合材料10CZ-(2)および比較例複合材料10CZ-(3)のX線造影性、透明性および曲げ強度をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0129】
なお、前記の測定は、以下の方法で行った。
(a)X線造影性
X線撮影装置を用いて前記複合材料を歯科用X線フィルムに撮影した。さらに、同時に厚さを規定したアルミニウム板を撮影し、前記複合材料のX線不透過性がアルミニウム板と等価の場合を100%とした。
【0130】
(b)透明性
前記複合材料を白色と黒色に二分された透明性テスト紙上にプレートの1/2が黒色上に位置するように置いて、白色部と黒色部のプレート上での透明性を観察した。さらに、以下の基準で評価した。
○印:黒色部に白濁や反射光がなく、白色部に何ら着色が認められない。(すなわち、透明性が高いことを意味する。)
△印:黒色部がやや白味を帯び、白色部にやや着色の傾向が認められる。(すなわち、透明性がやや低いことを意味する。)
×印:黒色部が白味を帯びて反射光があり、白色部に薄茶の着色が認められる。(すなわち、透明性が低いことを意味する。)
【0131】
(c)曲げ強度
前記複合材料を37℃の蒸留水中に24時間保持した後、これを取り出してインストロン万能試験機を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件下で曲げ強度試験を行った。なお、ここでは、各試料5本ずつの試験片(幅約2mm、高さ約2mm、長さ約25mmの直方体)を作製し、その平均値を以ってその試料の曲げ強度とした。
【0132】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施例1で製造した実施例粉体1A-(1)の中から無機酸化物微粒子群のサンプルを電解放出型走査電子顕微鏡(倍率50万倍)を用いて電子顕微鏡写真を撮った結果を示す。
【図2】実施例1で製造した実施例粉体1A-(2)の中から無機酸化物微粒子群のサンプルを電解放出型走査電子顕微鏡(倍率30万倍)を用いて電子顕微鏡写真を撮った結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子群を含むことを特徴とする歯科用充填材。
【請求項2】
前記シリカ系微粒子が、2〜300nmの平均粒子径を有することを特徴とする請求項1に記載の歯科用充填材。
【請求項3】
前記無機酸化物微粒子群が、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ微粒子群の非晶質乾燥粉体または非晶質焼成粉体であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の歯科用充填材。
【請求項4】
前記非晶質乾燥粉体が、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆されたシリカ系微粒子を、該シリカ系微粒子の被覆物質または該被覆物質から延びた前記複合酸化物の帯状物質を介して複数個、連結してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体、該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその粉砕物であることを特徴とする請求項3に記載の歯科用充填材。
【請求項5】
前記非晶質焼成粉体が、前記非晶質乾燥粉体を焼成して得られる無機酸化物微粒子群の非晶質焼成粉体またはその粉砕物であることを特徴とする請求項3または4に記載の歯科用充填材。
【請求項6】
前記無機酸化物微粒子群が、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物で表面処理されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用充填材。
【請求項7】
前記歯科用充填材の屈折率が、1.43〜1.65の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用充填材。
【請求項8】
シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素および酸素からなる複合酸化物で被覆してなる鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体または該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体からなる歯科用充填材を製造する方法であって、
(a)酸化ジルコニウム水和物を含む水溶液に、アルカリ金属の水酸化物と過酸化水素を添加して攪拌することにより、該酸化ジルコニウム水和物を解膠して溶解させた混合水溶液を調製する工程、
(b)平均粒子径2〜300nmのシリカ系微粒子を水に分散させたシリカゾルに、該シリカゾルを撹拌しながら前記工程(a)で得られた混合水溶液と珪酸液の水溶液を添加する工程、
(c)前記工程(b)で得られた混合水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリする工程、
(d)前記工程(c)で得られた混合水溶液を反応容器中に入れて、100〜350℃の温度で水熱処理して鎖状無機酸化物微粒子群を含む混合水溶液を調製する工程、および
(e)前記工程(d)で得られた混合水溶液中に含まれる鎖状無機酸化物微粒子群を乾燥する工程、
に処することを特徴とする歯科用充填材の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)で使用される酸化ジルコニウム水和物が、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウムおよびアンモニウムオキシ炭酸ジルコニウムから選ばれた1種または2種以上のジルコン酸塩の水溶液にアンモニアまたはアンモニア水を撹拌下で添加して得られる中和反応物を洗浄したものであることを特徴とする請求項8に記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項10】
前記工程(a)で使用されるアルカリ金属の水酸化物が、水酸化カリウムであることを特徴とする請求項8〜9のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項11】
前記工程(b)において添加される珪酸液の水溶液が、水ガラスを水で希釈した後、陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリしたものであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項12】
前記工程(b)において、前記ジルコニウム成分を含む水溶液および前記珪酸液の水溶液を添加する前に、前記シリカゾルを70〜95℃の温度に加熱しておくことを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項13】
前記工程(c)における脱アルカリ操作を、前記水溶液のpHが7.0〜10.0の範囲になるように行うことを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項14】
前記工程(b)における添加操作と前記工程(c)における脱アルカリ操作を複数回、繰り返して行うことを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項15】
前記工程(c)における水熱処理操作を、オートクレーブ中で10〜100時間かけて行うことを特徴とする請求項8〜14のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項16】
前記工程(d)における乾燥処理を、熱風乾燥機中で乾燥またはスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥にて行うことを特徴とする請求項8〜15のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜16のいずれかに記載の方法で得られた鎖状無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体、該鎖状無機酸化物微粒子群が絡み合って凝結した無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体またはその粉砕物を300〜900℃の温度で焼成して得られる非晶質焼成粉体またはその粉砕物からなる歯科用充填材の製造方法。
【請求項18】
前記無機酸化物微粒子群の非晶質乾燥粉体または非晶質焼成粉体を水および/または有機溶媒の中に分散させた混合液に、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた1種または2種以上の有機金属化合物を添加して、該有機金属化合物の加水分解反応を起こさせることによって該無機酸化物微粒子群の表面を処理することを特徴とする請求項8〜17のいずれかに記載の歯科用充填材の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれかに記載の歯科用充填材と硬化性樹脂とを含む歯科用複合材料。
【請求項20】
前記硬化性樹脂が、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれた1種または2種以上の硬化性樹脂であることを特徴とする請求項19に記載の歯科用複合材料。
【請求項21】
前記歯科用複合材料が、歯科用修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルクブランク、歯科用セメント、義歯、歯科用矯正具、歯科用矯正接着剤、歯科用鋳造材料および歯科用被覆物から選ばれた1種または2種以上の用途に使用されることを特徴とする請求項19〜20のいずれかに記載の歯科用複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−115136(P2008−115136A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302166(P2006−302166)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】