説明

歯車伝動機のギヤノイズ評価方法及びその装置

【課題】より精度が高い評価をすることが可能な歯車伝動機のギヤノイズ評価方法及びギヤノイズ評価装置を提供する。
【解決手段】操作用PC6(算出手段及び評価手段)によって、ギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2が算出されて、このギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2に基き評価対象となるギヤ2のギヤノイズが評価されるので、ギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来技術と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車伝動機のギヤノイズ評価方法及びその評価装置に関するもので、例えば、自動車のトランスミッション(歯車伝動機)のギヤノイズを評価する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のトランスミッションのように、ギヤ対を介して複数の軸間の動力伝達を行う歯車伝動機においては、稼動中に、噛合わされたギヤ対の歯面間に作用する強制力が変動して、これによりギヤの歯部に振動が発生する。このギヤの歯部の振動は、各ギヤ並びに各軸を介してトランスミッションのケースに伝達されて当該ケースを振動させる。そして、このトランスミッションのケースの振動が周囲に放射されることによりギヤノイズが発生する。一般に、トランスミッションのギヤノイズを評価する場合、当該トランスミッションは、アセンブリされた状態でベンチ上にセットされる。この場合、図5に示されるように、ベンチ上のトランスミッション21は、入力軸8に駆動用モータが接続されると共に出力軸10に負荷用モータが接続されて、これらモータをインバータ制御することにより稼動状態が作り出される。
【0003】
上記稼動状態のトランスミッション21は、入力軸8の回転数が回転数センサ22によって検出されると共に、ギヤノイズ(トランスミッション21のケースの放射音)の音圧がマイクロフォン23によって計測される。回転数センサ22によって検出された入力軸8の回転数検出信号、及びマイクロフォン23によって計測されたギヤノイズの音圧の計測信号(以下、ギヤノイズの音圧信号という)はFFTアナライザ5に入力されて、このFFTアナライザ5においては、ギヤノイズの音圧信号が回転数同期波形に変換されて、さらに、この回転数同期波形が回転次数比分析波形に変換されてギヤノイズの周波数特性(図6参照)が解析される。そして、従来のギヤノイズ評価方法では、ギヤノイズのピーク値が予め設定された規格線を越えなければOK、ギヤノイズのピーク値が規格線を越えた場合にNGであると評価していた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述したように、従来のギヤノイズ評価方法では、トランスミッション21のケースの放射音(以下、ケース放射音という)に基きギヤノイズが評価されるが、このケース放射音は、振動伝達特性、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度を含む最終的な特性値(ケース放射感度)であり、特に、そのピーク値は、振動伝達特性、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響が極めて大きい。したがって、ケース放射音に基くギヤノイズ評価方法は、ギヤノイズのピーク値の出方に再現性が低く、より精度が高い評価が要望されていた。
【特許文献1】特開2004−212127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、より精度が高い評価をすることが可能な歯車伝動機のギヤノイズ評価方法及びギヤノイズ評価装置を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法は、相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する方法であって、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズを計測する計測ステップと、計測ステップにおける計測結果を周波数解析する解析ステップと、解析ステップにおける解析結果を積分処理あるいは平均化処理して評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出ステップと、を含み、算出ステップで算出された評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されることを特徴とする。
本発明の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法によれば、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズに基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除した、ギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価される。また、ギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、ギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価方法と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置は、相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する装置であって、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズを計測する計測手段と、計測手段の計測結果を周波数解析する解析手段と、解析手段の解析結果を積分処理あるいは平均化処理して評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出手段と、算出手段によって算出された評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価される評価手段と、を具備することを特徴とする。
本発明の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置によれば、評価手段によって評価対象となるギヤ単体のギヤノイズに基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除した、ギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価される。また、評価手段は、算出手段によって算出されたギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズを評価するので、ギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来の評価装置と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
【0008】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、請求可能発明と称する)の態様を例示し、例示された各態様について説明する。ここでは、各態様を、特許請求の範囲と同様に、項に区分すると共に各項に番号を付し、必要に応じて他の項の記載を引用する形式で記載する。これは、請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施形態の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
なお、以下の各項において、(1)〜(3)及び(5)〜(7)項の各々が、請求項1〜3及び4〜6の各々に相当する。
【0009】
(1)相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する方法であって、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズを計測する計測ステップと、計測ステップにおける計測結果を周波数解析する解析ステップと、解析ステップにおける解析結果を積分処理あるいは平均化処理して評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出ステップと、を含み、算出ステップで算出された評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されることを特徴とする歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法によれば、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズに基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除した、ギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力に基き、歯車伝動機のギヤノイズを評価することができる。言い換えると、歯車伝動機のギヤの精度、特に、ギヤの歯面精度を評価することができる。そして、本項の態様では、ギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、再現性が低いギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価方法と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
本項の態様において、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズとは、評価対象となるギヤを歯車伝動機から切離した状態で評価されるギヤノイズのことであって、一対のギヤ対のいずれか一方のギヤに発生するギヤノイズを計測してその計測結果に基きギヤノイズを評価してもよいし、あるいは、一対のギヤ対の組合せのギヤノイズを計測してその計測結果に基きギヤノイズを評価してもよい。このように、評価対象となるギヤを歯車伝動機から切離すことにより、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除することができる。
【0010】
(2)計測ステップでは、一対のギヤ対がギヤノイズ計測治具の入力軸と出力軸とに装着されて相互に噛合わされた状態で、出力軸に回転負荷を作用させながら入力軸が回転駆動される時の評価対象となるギヤのギヤノイズが計測される(1)の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法によれば、ギヤノイズ計測治具を用いることにより、評価対象となるギヤのギヤノイズを歯車伝動機から切離した状態で計測することが可能になり、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除して、より精度の高いギヤノイズの評価を行うことができる。
【0011】
(3)計測ステップでは、評価対象となるギヤに作用する力が、分力計によってギヤノイズとして計測される(1)又は(2)の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法によれば、分力計によってギヤ単体に作用する力、すなわち、ギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力を計測することができるので、歯車伝動機のケースから放射される放射音の音圧を計測してギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価方法と比較して、振動伝達特性を排除したギヤノイズの計測及び評価を行うことができる。トランスミッション(歯車伝動機)のギヤノイズを評価する場合、ギヤの歯面精度を高めてギヤノイズの発生源であるギヤノイズ起振力を減少させることで当該ギヤノイズを低下させることが要望されているが、本項の態様によれば、分力計によってギヤ単体に作用する力を計測することによりギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力を高い精度で計測及び評価することができる。
【0012】
(4)相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する方法であって、歯車伝動機のギヤノイズを計測する計測ステップと、計測ステップにおける計測結果を周波数解析する解析ステップと、解析ステップにおける解析結果を積分処理あるいは平均化処理して評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出ステップと、を含み、算出ステップで算出された歯車伝動機のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されることを特徴とする歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法によれば、歯車伝動機のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、再現性が低いギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価方法と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
【0013】
(5)相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する装置であって、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズを計測する計測手段と、計測手段の計測結果を周波数解析する解析手段と、解析手段の解析結果を積分処理あるいは平均化処理して評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出手段と、算出手段によって算出された評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価される評価手段と、を具備することを特徴とする歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置によれば、評価対象となるギヤ単体のギヤノイズに基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除した、ギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力に基き、歯車伝動機のギヤノイズ、言い換えると、歯車伝動機のギヤの精度、特に、ギヤの歯面精度を評価することができる。そして、本項の態様では、算出手段によってギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量が算出されて、このギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き評価手段によって歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、再現性が低いギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価装置と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
本項の態様において、計測手段としては、振動ピック(加速度計)、マイクロフォン等を適宜選択すればよい。例えば、ギヤの軸を支持する軸受の振動をギヤノイズの計測対象とする場合は振動ピックを選択すればよいし、評価対象となるギヤから発生する騒音の音圧を計測対象とする場合にはマイクロフォンを選択すればよい。また、本項の態様において、解析手段としては、例えば、FFTアナライザが用いられる。FFTアナライザは、計測手段の計測結果を周波数解析して、横軸が噛合い周波数(Hz)、且つ縦軸がギヤノイズ(dB)に設定された波形を出力する。さらに、本項の態様では、従来のギヤノイズ評価装置に対して、算出手段及び評価手段の処理を実行するためのプログラムをマイクロコンピュータからなる演算処理装置に格納するだけで実施することが可能であり、設備コストの増加を抑制することができる。
【0014】
(6)計測手段は、筐体に設けられて一対のギヤ対の入力側のギヤが装着される入力軸と、筐体に設けられて一対のギヤ対の出力側のギヤが装着される出力軸と、入力軸を回転駆動する駆動手段と、出力軸に回転負荷を付与する負荷手段と、を含むギヤノイズ計測治具を具備する(5)の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置によれば、ギヤノイズ計測治具を用いることにより、評価対象となるギヤのギヤノイズを歯車伝動機から切離した状態で計測することが可能になり、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除して、より精度の高いギヤノイズの評価を行うことができる。
本項の態様において、ギヤノイズ計測治具、特に筐体は、計測手段の計測結果が振動伝達特性の影響を極力受けないように構成することが要求される。
【0015】
(7)計測手段は、評価対象となるギヤに作用する力をギヤノイズとして計測する分力計を備える(5)又は(6)の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置によれば、分力計によってギヤ単体に作用する力、すなわち、ギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力を計測することが可能であり、歯車伝動機のケースから放射される放射音の音圧を計測してギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価装置と比較して、振動伝達特性を排除したギヤノイズの計測及び評価を行うことができる。トランスミッション(歯車伝動機)においては、ギヤの歯面精度を高めてギヤノイズの発生源であるギヤノイズ起振力を減少させることで当該ギヤノイズを低下させることが要望されているが、本項の態様によれば、分力計によってギヤ単体に作用する力を計測することによりギヤノイズの発生源であるギヤ単体のギヤノイズ起振力を高い精度で計測及び評価することができる。
本項の態様において、分力計は、例えば、ギヤノイズ計測治具におけるギヤが装着される軸を支持する軸受に設けられる4分力計である。この場合、4分力計によって、評価対象となるギヤに作用する力の、軸直角断面上の水平方向の成分並びに垂直方向の成分、軸方向の成分、及び軸回りに作用するモーメントが計測される。そして、FFTアナライザ(解析手段)は、4分力計の計測信号とギヤノイズ計測治具の負荷手段としての電動モータの回転数信号とを周波数解析してギヤノイズの波形を出力する。
【0016】
(8)相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する装置であって、歯車伝動機のギヤノイズを計測する計測手段と、計測手段の計測結果を周波数解析する解析手段と、解析手段の解析結果を積分処理あるいは平均化処理して歯車伝動機のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出手段と、算出手段によって算出された歯車伝動機のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価される評価手段と、を具備することを特徴とする歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。
本項に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置によれば、歯車伝動機のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き歯車伝動機のギヤノイズが評価されるので、再現性が低いギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来のギヤノイズ評価装置と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
より精度が高い評価をすることが可能な歯車伝動機のギヤノイズ評価方法及びギヤノイズ評価装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態を図1〜図4に基いて説明する。なお、本実施形態のギヤノイズ評価装置1は、トランスミッション(歯車伝動機)の評価対象となるギヤ2のギヤノイズを計測して、その計測結果に基き当該ギヤ2のギヤノイズ(本実施形態では歯面精度)が評価される。図1に示されるように、ギヤノイズ評価装置1は、ギヤノイズ計測治具4、FFTアナライザ5(解析手段)、及び操作用PC6(算出手段及び評価手段)を含む。図2に示されるように、ギヤノイズ計測治具4は、テストボックス7(筐体)、評価対象となるギヤ2が装着される入力軸8、該入力軸8を回転駆動させる駆動用モータ9(駆動手段、図1参照)、評価対象となるギヤ2に噛合わされるギヤ3が装着される出力軸10、該出力軸10に回転負荷を付与する負荷用モータ11(負荷手段、図1参照)によって構成される。入力軸8は、ギヤ2が固定される位置(図2参照)の軸方向両側が一対の軸受12によって回転可能に支持される。
【0019】
各軸受12は、それぞれの外輪が、円環形状の各4分力計13(計測手段、図3参照)の内周面に固定される。また、各4分力計13は、それぞれの外周面が、テストボックス7に形成された入力軸収容部14に固定される。さらに、入力軸8は、先端部(一対の軸受12によって支持される部分)に対して外径が大きく形成される基部が、軸受15によって回転可能に支持される。出力軸10は、ギヤ3が固定される位置(図2参照)の軸方向両側及び基部(負荷用モータ11側の部分)がそれぞれ各軸受16によって回転可能に支持される。そして、ギヤノイズ計測治具4では、入力軸8に装着された評価対象となるギヤ2と出力軸10に装着されたギヤ3とが相互に噛合わされて、この状態で、駆動用モータ9によって入力軸8が回転駆動されると共に、負荷用モータ11によって出力軸10に回転負荷が付与される。
【0020】
そして、ギヤノイズ評価装置1は、ギヤノイズ計測治具4上で回転する評価対象となるギヤ2に作用する力を、当該ギヤ2の軸方向両側に配置される各4分力計13によってギヤノイズとして計測する。なお、各4分力計13によって、評価対象となるギヤ2に作用する力の、入力軸8の軸直角断面上の水平成分(Fz)並びに垂直成分(Fx)、軸方向成分(Fy)、及び軸回りに作用するモーメント(My)が計測される。また、駆動用モータ9及び負荷用モータ11は、インバータ制御基板を含むモータ制御部17(図1参照)によってそれぞれ回転数が制御される。ここで、本実施形態におけるギヤノイズとは、評価対象となるギヤ2から発生するギヤノイズの発生源であるギヤ起振力を指す。
【0021】
FFTアナライザ5(解析手段)は、アンプ18を介して入力された各4分力計13(計測手段)の計測信号(計測結果)と負荷用モータ11から出力される回転数信号とを周波数解析して、横軸が噛合い周波数(Hz)、且つ縦軸がギヤノイズ(dB)に設定された評価対象となるギヤ2のギヤノイズの波形(図4参照)を解析結果として出力する。この出力された解析結果は操作用PC6によって処理される。操作用PC6は、まず、FFTアナライザ5の解析結果、すなわち、評価対象となるギヤ2のギヤノイズの波形(周波数解析データ)を、積分処理あるいは平均化処理(本実施形態では平均化処理)して、この処理結果に基き評価対象となるギヤ2のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2を算出する(算出手段の作用)。
【0022】
次に、操作用PC6は、算出結果、すなわち、評価対象となるギヤ2のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2と予め設定された規定値E0とを比較して、評価対象となるギヤ2のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2が規定値E0よりも小さい場合(E0 > E2)に、評価対象となるギヤ2のギヤノイズ、すなわち、評価対象となるギヤ2の歯面精度が合格(OK)であると判定すると共にその判定結果をモニタまたはプリンタへ出力して、また、評価対象となるギヤ2のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2が規定値E0以上である場合(E2 >= E0)に、評価対象となるギヤ2のギヤノイズ、すなわち、評価対象となるギヤ2の歯面精度が不合格(NG)であると判定すると共にその判定結果をモニタまたはプリンタへ出力する(評価手段の作用)。
【0023】
次に、ギヤ2に噛合わされるギヤ3を評価対象として上述した手法でギヤノイズを計測する。そして、評価対象となるギヤ3のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E3と予め設定された規定値E0とを比較して、評価対象となるギヤ3のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E3が規定値E0よりも小さい場合(E0 > E3)に、評価対象となるギヤ3のギヤノイズ、すなわち、評価対象となるギヤ3の歯面精度が合格(OK)であると判定すると共にその判定結果をモニタまたはプリンタへ出力して、また、評価対象となるギヤ3のギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E3が規定値E0以上である場合(E3 >= E0)に、評価対象となるギヤ3のギヤノイズ、すなわち、評価対象となるギヤ3の歯面精度が不合格(NG)であると判定すると共にその判定結果をモニタまたはプリンタへ出力する。
【0024】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、評価対象となるギヤ2(またはギヤ3)単体のギヤノイズに基きトランスミッション(歯車伝動機)のギヤノイズが評価されるので、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除した、ギヤノイズの発生源であるギヤ2単体のギヤノイズ起振力に基き、トランスミッションのギヤノイズ、言い換えると、評価対象となるギヤ2の歯面精度を評価することができる。
また、本実施形態では、操作用PC6(算出手段及び評価手段)によって、ギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2(またはE3)が算出されて(算出手段としての作用)、このギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量E2に基き評価対象となるギヤ2のギヤノイズが評価されるので(評価手段としての作用)、ギヤノイズのピーク値に基いてギヤノイズを評価する従来技術と比較して、より精度が高い評価を行うことができる。
また、本実施形態では、従来のギヤノイズ評価装置に対して、算出手段及び評価手段の処理を実行するためのプログラムを操作用PC5に格納するだけで実施することが可能であり、設備コストの増加を抑制することができる。
また、本実施形態では、ギヤノイズ計測治具4を用いることにより、評価対象となるギヤ2のギヤノイズをトランスミッションから切離した状態で計測することが可能になり、振動伝達特性の影響、すなわち、ギヤトレイン伝達感度及びケース伝達感度の影響を排除して、より精度の高いギヤノイズの評価を行うことができる。
また、本実施形態では、4分力計13によってギヤ2単体に作用する力、すなわち、ギヤノイズの発生源であるギヤ2単体のギヤノイズ起振力を計測することが可能であり、トランスミッションのケースから放射される放射音の音圧を計測してギヤノイズを評価する従来技術と比較して、振動伝達特性を排除したギヤノイズの計測及び評価を行うことができる。トランスミッションにおいては、ギヤ2の歯面精度を高めてギヤノイズの発生源であるギヤノイズ起振力を減少させることで当該ギヤノイズを低下させることが要望されているが、4分力計13によってギヤ2単体に作用する力を計測することにより、ギヤノイズの発生源であるギヤ2単体のギヤノイズ起振力を高い精度で計測及び評価することができる。
【0025】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
本実施形態では、相互に噛合わされる一対のギヤ対の各ギヤ2,3のギヤノイズをそれぞれ単独で計測して、各計測結果に基き各ギヤ2,3のギヤノイズをそれぞれ単独で評価したが、図2において、ギヤノイズ計測冶具4のギヤ3の軸方向両側に配置された一対の軸受16と出力軸収容部19との間にも4分力計13を配置することで、合計4つの4分力計13によってギヤ2とギヤ3との組合せ的なギヤ起振力を計測することができる。
図5に示されるように、トランスミッション21をアセンブリされた状態でベンチ上にセットしておいて、この状態で、トランスミッション21のケースの放射音の音圧をギヤノイズとしてマイクロフォン23によって計測して、この計測結果を本実施形態の操作用PC6、すなわち、算出手段及び評価手段によって処理することにより、当該トランスミッション21のギヤノイズを評価してもよい。言い換えると、センサを除くハードウェアは従来のものを用いてソフトウェアのみ本実施形態のもの、すなわち、算出手段及び評価手段を用いてギヤノイズ評価装置1を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態のギヤノイズ評価装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態のギヤノイズ計測軸の概略構成を示す図である。
【図3】本実施形態の計測手段としての4分力計を示す平面図である。
【図4】本実施形態のFFTアナライザの解析結果としての波形を示す図である。
【図5】従来のギヤノイズ計測装置の概略構成を示す図である。
【図6】従来のギヤノイズ計測装置のFFTアナライザの解析結果としての波形を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ギヤノイズ評価装置、2 ギヤ(評価対象となるギヤ)、4 ギヤノイズ計測冶具、5 FFTアナライザ(解析手段)、6 操作用PC(算出手段及び評価手段)、7 テストボックス(筐体)、8 入力軸、9 駆動用モータ(駆動手段)、10 出力軸、11 負荷用モータ(負荷手段)、13 4分力計(計測手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する方法であって、
評価対象となるギヤ単体のギヤノイズを計測する計測ステップと、
前記計測ステップにおける計測結果を周波数解析する解析ステップと、
前記解析ステップにおける解析結果を積分処理あるいは平均化処理して前記評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出ステップと、
を含み、前記算出ステップで算出された前記評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き前記歯車伝動機のギヤノイズが評価されることを特徴とする歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
【請求項2】
前記計測ステップでは、前記一対のギヤ対がギヤノイズ計測治具の入力軸と出力軸とに装着されて相互に噛合わされた状態で、前記出力軸に回転負荷を作用させながら前記入力軸が回転駆動される時の前記評価対象となるギヤのギヤノイズが計測されることを特徴とする請求項1に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
【請求項3】
前記計測ステップでは、前記評価対象となるギヤに作用する力が、分力計によってギヤノイズとして計測されることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価方法。
【請求項4】
相互に噛合わされる少なくとも一対のギヤ対を含む歯車伝動機のギヤノイズを評価する装置であって、
評価対象となるギヤ単体のギヤノイズを計測する計測手段と、
前記計測手段の計測結果を周波数解析する解析手段と、
前記解析手段の解析結果を積分処理あるいは平均化処理して前記評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記評価対象となるギヤのギヤノイズの計測時間内の総エネルギ量に基き前記歯車伝動機のギヤノイズが評価される評価手段と、
を具備することを特徴とする歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。
【請求項5】
前記計測手段は、筐体に設けられて前記一対のギヤ対の入力側のギヤが装着される入力軸と、前記筐体に設けられて前記一対のギヤ対の出力側のギヤが装着される出力軸と、前記入力軸を回転駆動する駆動手段と、前記出力軸に回転負荷を付与する負荷手段と、を含むギヤノイズ計測治具を具備することを特徴とする請求項4に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。
【請求項6】
前記計測手段は、前記評価対象となるギヤに作用する力をギヤノイズとして計測する分力計を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の歯車伝動機のギヤノイズ評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−36544(P2009−36544A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199071(P2007−199071)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】