説明

残存シリコン融液の除去方法、単結晶シリコンの製造方法、単結晶シリコンの製造装置及び残存シリコン融液吸引器

【課題】チャンバ内に配置された坩堝に残存する残存シリコン融液を除去して冷却過程における坩堝の割れを防止し、坩堝の再利用を図ることが可能な残存シリコン融液の除去方法、単結晶シリコンの製造方法、単結晶シリコンの製造装置及び残存シリコン融液吸引器を提供する。
【解決手段】チャンバ11の内部に配置された坩堝20内に残存したシリコン融液Mを除去する残存シリコン融液の除去方法であって、吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部72と前記貯留空間に連通するノズル部とを備えた残存シリコン融液吸引器70を、ノズル部が坩堝20内の残存シリコン融液Mに浸漬されるようにして配置し、チャンバ11内にガスを導入してチャンバ11内の圧力を昇圧し、チャンバ11内と前記貯留空間内との差圧によって、残存シリコン融液Mを前記貯留空間へと吸引することを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバ内に配置された坩堝に残存した残存シリコン融液を除去する残存シリコン融液の除去方法、この残存シリコン融液の除去方法を利用した単結晶シリコンの製造方法及び単結晶シリコンの製造装置、及び、前述の単結晶シリコンの製造装置に用いられる残存シリコン融液吸引器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない発電方式として太陽電池モジュールを利用した発電が注目され、様々な分野で広く使用されている。このような太陽電池モジュールは、pn接合されたシリコンの半導体の板材からなるセルを複数備え、これらのセルが太陽電池用インターコネクタおよびバスバーによって電気的に接続された構成とされている。
このような太陽電池モジュールの普及に伴い、半導体の素材となる単結晶シリコンインゴットの需要が高まっている。
【0003】
ここで、単結晶シリコンインゴットは、一般的にチョクラルスキー法により製造されている。チョクラルスキー法は、例えば特許文献1、2に示すように、高耐圧気密チャンバ内に配置した石英製の坩堝内に多結晶シリコンを入れて、石英坩堝内の多結晶シリコンを加熱溶融し、石英坩堝の上方に配置されたシードチャックにシード(種結晶)を取り付けるとともにこのシードを石英坩堝内のシリコン融液に浸漬し、シード及び石英坩堝を回転させながらシードを引き上げて単結晶シリコンを成長させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−278696号公報
【特許文献2】特開平01−294600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2に記載された単結晶シリコンの製造装置では、単結晶シリコンの引き上げが終了した時点において、石英坩堝内に貯留されたシリコン融液の全てが消費されず、石英坩堝内にシリコン融液が残存することがある。このようにシリコン融液が残存した状態でチャンバ内を冷却すると、残存シリコン融液が石英坩堝の上部から凝固していき、この凝固に伴う応力が石英坩堝に作用するため、冷却過程において石英坩堝の底部に割れが生じることになる。
よって、次の単結晶シリコンの引き上げを行う際には、新規の石英坩堝に交換する必要があり、使用後の石英坩堝を廃棄処分していた。このため、単結晶シリコンの製造コストが増加してしまうととともに、単結晶シリコンの製造に伴う環境負荷が大きくなるといった問題があった。
【0006】
ここで、チャンバ内を常圧とし、チャンバに設けられた連通孔を介して、チャンバの外部から真空吸引装置等の吸引機構によって残存シリコン融液を除去することが考えられる。しかしながら、チャンバの外部から吸引除去する場合には、高温のシリコン融液がチャンバ外に取り出されることになり、吸引除去したシリコン融液の取扱いが非常に困難となる。また、特別な吸引機構を別途設けることになるため、残存シリコン融液の除去に多くの労力とコストが必要となる。このため、残存シリコン融液を除去して坩堝の再利用を図ることは非常に困難であった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、チャンバ内に配置された坩堝に残存する残存シリコン融液を除去して冷却過程における坩堝の割れを防止し、坩堝の再利用を図ることが可能な残存シリコン融液の除去方法、単結晶シリコンの製造方法、単結晶シリコンの製造装置及び残存シリコン融液吸引器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明に係る残存シリコン融液の除去方法は、チャンバの内部に配置された坩堝内に残存したシリコン融液を除去する残存シリコン融液の除去方法であって、吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と前記貯留空間に連通するノズル部とを備えた残存シリコン融液吸引器を、前記ノズル部が前記坩堝内の残存シリコン融液に浸漬されるようにして配置し、前記チャンバ内にガスを導入してチャンバ内の圧力を昇圧し、前記チャンバ内と前記貯留空間内との差圧によって、前記残存シリコン融液を前記貯留空間へと吸引することを特徴としている。
【0009】
この構成の残存シリコン融液の除去方法によれば、残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と前記貯留空間に連通するノズル部とを備えた残存シリコン融液吸引器を、ノズル部が残存シリコン融液中に浸漬するように配置しておき、この状態でチャンバ内にガスを導入することにより、チャンバ内の圧力が上昇するが、残存シリコン融液吸引器の貯留空間にはガスが導入されずに昇圧前の状態で維持されることになる。これにより、残存シリコン融液吸引器の貯留空間内とチャンバ内との間で差圧が生じることになり、残存シリコン融液が残存シリコン融液吸引器の貯留空間内に吸引されることになる。
よって、坩堝内の残存シリコン融液を除去した上で、チャンバ内を冷却することが可能となり、冷却過程における坩堝の割れの発生を防止することができ、使用後の坩堝を再使用することが可能となる。
【0010】
本発明に係る単結晶シリコンの製造方法は、チャンバ内に配置された坩堝に貯留したシリコン融液にシードを浸漬し、前記シードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造方法であって、前記単結晶シリコンの引き上げが終了した後に、前記坩堝内に残存したシリコン融液を請求項1に記載の残存シリコン融液の除去方法によって除去し、前記残存シリコン融液を除去した上で前記チャンバ内を冷却して、使用後の坩堝を取り出して再使用することを特徴としている。
【0011】
この構成の単結晶シリコンの製造方法によれば、前述の残存シリコン融液の除去方法によって、単結晶シリコンを引き上げた後に坩堝内に残存した残存シリコン融液を除去することができ、冷却過程における坩堝の割れが防止されることになる。よって、使用後の坩堝を取り出して再使用することが可能となり、単結晶シリコンの製造コストを大幅に削減できる。また、従来、1回の使用のみで廃棄されていた坩堝を再利用することにより、単結晶シリコンの製造に伴う環境負荷の削減を図ることができる。
また、前述の残存シリコン融液を汚染することなく除去することができ、汚染を最小限に留めた残存シリコンを再利用することが可能となる。
【0012】
ここで、使用後の前記坩堝の内周面に石英膜をコーティングした後に、シリコン融液を貯留する坩堝として再使用することが好ましい。
単結晶シリコンの引き上げに使用された坩堝においては、シリコン融液が長時間にわたって貯留されることにより、その内周面が劣化することになる。そこで、使用後の坩堝の内周面に石英膜をコーティングすることによって、新規の坩堝と同様に使用後の坩堝を使用することが可能となる。これにより、使用後の坩堝を再使用した場合であっても、高品質の単結晶シリコンを製出することができる。
【0013】
また、前記坩堝の開口部に、前記坩堝よりも高温強度の高い材料からなり、前記坩堝の側壁部の内周面に係止される係止部を備えた坩堝開口部保持部材を装着した状態で、前記単結晶シリコンの引き上げを行う構成とすることが好ましい。
単結晶シリコンの引き上げに使用された坩堝においては、長時間にわたって高温状態で保持されているために、単結晶シリコンの引き上げが終了した時点で坩堝の上端開口部が内周側に倒れこむように変形することがある。そこで、坩堝の開口部に、坩堝開口部保持部材を装着することによって、坩堝の開口部が内周側に向けて倒れこむように変形することを防止して、使用後の坩堝の開口部を使用前と同様の形状に保持することが可能となり、使用後の坩堝を確実に再使用することができる。
【0014】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置は、チャンバ内に配置された坩堝にシリコンに貯留したシリコン融液にシードを浸漬し、前記シードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造装置であって、吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と前記貯留空間に連通するノズル部とが設けられた残存シリコン融液吸引器を、有していることを特徴としている。
【0015】
この構成の単結晶シリコンの製造装置によれば、単結晶シリコンの引き上げ終了後において、坩堝内に残存する残存シリコン融液を残存シリコン融液吸引器によって除去することが可能となり、その後の冷却過程における坩堝の割れの発生を確実に防止することができる。よって、使用後の坩堝を再使用することができ、単結晶シリコンの製造コストを大幅に削減できるとともに、単結晶シリコンの製造に伴う環境負荷の削減を図ることができる。
【0016】
ここで、前記ノズル部の先端部には、前記ノズル部の側方に開口した切り込み部が形成されていることが好ましい。
この場合、残存シリコン融液吸引器において、坩堝内の残存シリコン融液に浸漬されるノズル部の先端部に、前記ノズル部の側方に開口した切り込み部が形成されているので、ノズル部の先端開口部のみでなく、切り込み部を通じて残存シリコン融液を吸引することができ、残存シリコン融液を確実に除去することができる。
【0017】
また、前記坩堝の開口部に、前記坩堝よりも高温強度の高い材料からなり、前記坩堝の側壁部の内周面に係止される係止部を備えた坩堝開口部保持部材が装着されていることが好ましい。
この場合、単結晶シリコンの引き上げに使用された坩堝において、その開口部が内周側に倒れこむように変形することを防止でき、坩堝の再使用を図ることが可能となる。
【0018】
本発明に係る残存シリコン融液吸引器は、前述の単結晶シリコンの製造装置に用いられる残存シリコン融液吸引器であって、吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と、前記貯留空間に連通するノズル部と、を備えていることを特徴としている。
この構成の残存シリコン融液吸引器によれば、ノズル部が残存シリコン融液中に浸漬されるように配置しておき、この状態でチャンバ内を昇圧することにより、貯留空間内とチャンバ内との間で差圧を生じさせ、この差圧を利用して残存シリコン融液を吸引除去することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、チャンバ内に配置された坩堝に残存する残存シリコン融液を除去して冷却過程における坩堝の割れを防止し、坩堝の再利用を図ることが可能な残存シリコン融液の除去方法、単結晶シリコンの製造方法、単結晶シリコンの製造装置及び残存シリコン融液吸引器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態である単結晶シリコンの製造装置において、単結晶シリコンの引き上げを行っている状態を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態である単結晶シリコンの製造装置において、ルツボ内の残存シリコン融液の除去を行っている状態を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態である残存シリコン融液吸引器の説明図である。
【図4】図1及び図2に示す単結晶シリコンの製造装置に備えられた坩堝開口部保持部材及び坩堝の拡大断面説明図である。
【図5】図1及び図2に示す単結晶シリコンの製造装置に備えられた坩堝開口部保持部材及び坩堝の上面図である。
【図6】本発明の実施形態である単結晶シリコンの製造方法を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施形態である残存シリコン融液の除去方法を示すフロー図である。
【図8】本発明の他の実施形態である残存シリコン融液吸引器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態である残存シリコン融液吸引器を備えた単結晶シリコンの製造装置について説明する。
図1及び図2に示す単結晶シリコンの製造装置10においては、耐圧気密に構成されたチャンバ11と、シリコン融液Mが貯留される石英坩堝20と、この石英坩堝20を支持する坩堝支持台22と、石英坩堝20の開口部に装着された坩堝開口部保持部材60と、石英坩堝20を加熱する加熱ヒータ40と、石英坩堝20の周囲を包囲する保温筒部50と、種結晶(シード)を保持するシードチャック27と、このシードチャック27を駆動するシードチャック駆動機構30と、本実施形態である残存シリコン融液吸引器70と、を備えている。
【0022】
チャンバ11は、メインチャンバ12と、メインチャンバ12の上方に接続されたトップチャンバ18と、トップチャンバ18の上方に接続されたプルチャンバ19とを備え、メインチャンバ12は底部13と、この底部13に立設する筒状部15と、から構成され、中心部には石英坩堝20が配置され、排気孔に図示しない真空ポンプが接続されてチャンバ11内を減圧又は真空状態とすることが可能な構成とされている。
【0023】
また、メインチャンバ12の底部13には、スピルトレイ16が配置されていて、石英坩堝20が破損してシリコン融液Mが流出することがあった場合に、シリコン融液Mが底部13と直接接触して、チャンバ11が破損するのを防止する構成とされている。
プルチャンバ19は、略円筒形状に形成され、引き上げられた単結晶シリコンTを収納する空間を有しており、トップチャンバ18によってメインチャンバ12と接続されている。
また、トップチャンバ18には、チャンバ11の内部と外部とを連通する連通孔部18Aが形成されており、この連通孔部18Aには蓋部材18Bが装着されている。これにより、チャンバ11内は気密状態に保持されることになる。
【0024】
シードチャック27は、その先端側がカーボンにより形成されたカーボンチャック部28とされ、カーボンチャック部28の先端面中央には、先端側から基端側に向かって孔が形成されており、孔にはシード(種結晶)Sが挿入されて固定されている。
シードチャック27は、基端側がワイヤWに接続され、ワイヤWがシードチャック駆動機構30に接続されることにより、シードSがメインチャンバ12に対して相対的に回転及び昇降自在とされている。
【0025】
シードチャック駆動機構30は、プルチャンバ19の上部に設けられ、ワイヤWの基端側が接続されるとともに巻回されるプーリ31と、ワイヤWを回転軸線Oとしてプルチャンバ19に対して相対的に回転可能とされる回転駆動部32とを備えている。また、このプーリ31を駆動させてワイヤWを巻き取る引上駆動モータ33と、回転駆動部32を回転させる回転駆動モータ34と、を備えており、プーリ31がワイヤWを巻き取ることによりシードチャック27が昇降し、回転駆動部32が回転することによりシードチャック27が軸線O回りに回転するようになっている。
【0026】
チャンバ11内に配置された保温筒50は、円筒状の黒鉛からなる内側保温筒51と内側保温筒51の外方に配置された円筒状の多孔質黒鉛からなる外側保温筒52とを有している。この保温筒50は、内側保温筒51の内径と略同じ内径の孔が形成された円板状のロアリング54に載置されるとともに上方には内側保温筒51の内径と略同じ内径の孔が形成された円板状のアッパリング55が配置されている。
また、保温筒部50の上端にはアッパリング55、アダプタ47を介してフロー管48が取り付けられている。このフロー管48は、下端開口部より上端開口部が大径とされた逆円錐台形状の中空筒とされ、石英、SiCまたは黒鉛により形成されている。
【0027】
保温筒50の内周側には、円筒状をなす加熱ヒータ40が配置されている。
この加熱ヒータ40は、周方向の一部において、下方が電極継手41にボルト42で固定され、電極継手41はスピルトレイ16に形成された貫通孔に配置された黒鉛電極43を介して図示しない電源と接続されている。
【0028】
この加熱ヒータ40の内周側には、坩堝開口部保持部材60が装着された石英坩堝20が配設されている。
石英坩堝20は、その凹部に単結晶シリコンTの原料である塊状の多結晶シリコン(シリコン原料)を保持可能とするとともに多結晶シリコンが加熱、溶融されて生成したシリコン融液Mを貯留可能とされている。ここで、本実施形態においては、石英坩堝20は、黒鉛坩堝21に収納されている。
【0029】
黒鉛坩堝21は、坩堝支持台22の上面に配置されたペディスタル24に保持されることにより一体に組み合わせて形成されている。坩堝支持台22はその支持軸23がメインチャンバ12の底部13の中心部にて底部13及びスピルトレイ16を貫通して形成された貫通孔14に挿入されており、支持軸23に接続された駆動モータ25によって、メインチャンバ12に対して相対的に回転及び昇降が可能とされている。
【0030】
ここで、石英坩堝20が黒鉛坩堝21に収容された状態においては、図1及び図4に示すように、石英坩堝20の側壁部の上端が黒鉛坩堝21から上方に突出するように配置されており、この突出した部分に、坩堝開口部保持部材60が装着されている。
坩堝開口部保持部材60は、図5に示すように、石英坩堝20の開口部がなす円に沿った円環状をなしており、石英坩堝20の側壁部の上端が挿入される環状溝61が形成されている。この環状溝61により、この坩堝開口部保持部材60には、図4に示すように、石英坩堝20の側壁部の外周面に密着させられる本体部62と、石英坩堝20の側壁部の内周面に係止される係止部63と、本体部62と係止部63とを連結する連結部64と、が画成されることになる。
【0031】
係止部63は、図4に示すように、石英坩堝20の側壁部の内周面に密着させられることになり、石英坩堝20の側壁部の開口端を径方向外方に向けて押圧する構成とされている。
そして、本実施形態では、黒鉛坩堝21の上端に本体部62が位置するようにして、坩堝開口部保持部材60が配設されている。また、石英坩堝20の内周側に配置される係止部63を含めて坩堝開口保持部材60の全体が、石英坩堝20よりも高温強度が高い材料である炭化珪素で構成されている。
【0032】
残存シリコン融液吸引器70は、図2に示すように、単結晶シリコンTの引き上げが終了した後に、シードチャック27及び単結晶シリコンTの代わりに、シードチャック駆動機構30側から挿入されてメインチャンバ12内に配置されることになる。
この残存シリコン融液吸引器70は、図3に示すように、有底筒状をなして内部に貯留空間71を備えた吸引器本体72と、円筒状をなすとともに吸引器本体72の貯留空間71に連通するノズル部73と、を備えている。
【0033】
このノズル部73は、先端側(図3において下側)端面が開口されており、かつ、先端部の側面に開口した切り込み部74が形成されている。
なお、本実施形態においては、吸引器本体72は、例えば耐熱材料であるステンレス鋼で構成されており、ノズル部73は、例えば石英で構成されている。
【0034】
次に、前述の単結晶シリコンの製造装置10を用いた単結晶シリコンの製造方法について、図6に示すフロー図を用いて説明する。
まず、石英坩堝20内に原料となる塊状の多結晶シリコンを充填する(シリコン原料充填工程S1)。多結晶シリコンが充填された石英坩堝20を移送して、黒鉛坩堝21内に収容するとともに石英坩堝20の上端に坩堝開口保持部材60を装着する(石英坩堝装着工程S2)。
【0035】
次に、加熱ヒータ40で石英坩堝20を加熱して石英坩堝20内の多結晶シリコンを溶解して1420℃のシリコン融液Mとし、シードSを浸漬する部分近傍のシリコン融液Mを過冷却状態とする(シリコン溶融工程S3)。
そして、カーボンチャック部28にシードSを挿入して固定し、シードチャック駆動機構30を駆動して、シードチャック27を下降させてシードSをシリコン融液Mに浸漬し、シードSをシリコン融液Mになじませる(シード浸漬工程S4)。
【0036】
シードSがシリコン融液Mになじんだら、シードチャック27を、例えば5rpmから23rpmで平面視右回転させながら、0.3mm/分から4.5mm/分の速度で上昇させて、単結晶シリコンTを析出させることにより、断面円形をなす単結晶シリコンTを成長させる(引き上げ工程S5)。なお、この引き上げ工程S5においては、石英坩堝20を例えば0.1rpmから5rpmで平面視左回転させている。
【0037】
そして、単結晶シリコンTの引き上げが終了した後には、単結晶シリコンTを取り出して、次の単結晶シリコンの製造準備を行う。
まず、石英坩堝20内に残存したシリコン融液を吸引除去する(残存シリコン融液除去工程S6)。このように石英坩堝20内に残存したシリコン融液を吸引除去した上で、チャンバ11内部を冷却する(冷却工程S7)。
次に、使用後の石英坩堝20を取り出し(石英坩堝取り出し工程S8)、使用後の石英坩堝20の内周面に石英膜をコーティングする(石英膜コーティング工程S9)。
そして、石英膜をコーティングした石英坩堝20に、原料となる多結晶シリコンを充填し、次の単結晶シリコンの引き上げの準備を行う。
【0038】
以下に、残存シリコン融液除去工程S6について、図7に示すフロー図を用いて説明する。
単結晶シリコンTを取り出すとともに、シードチャック駆動機構30側から、残存シリコン融液吸引器70を下降させて、メインチャンバ12内に装入する(吸引器装入工程S61)。そして、チャンバ11の内部が減圧された状態において、ノズル部73を石英坩堝20内に残存されたシリコン融液M中に浸漬させる(ノズル部浸漬工程S62)。
【0039】
ノズル部73をシリコン融液M中に浸漬させた状態において、チャンバ11内に不活性ガスであるアルゴンガスを導入し、チャンバ11内部の圧力を上昇させる(ガス導入工程S63)。
このとき、ノズル部73がシリコン融液M中に浸漬させられているため、ノズル部73の開口部(先端開口部及び切り込み部74)がシリコン融液Mによって閉塞されることになり、残存シリコン融液吸引器70の貯留空間71内は、ガスが導入されずに減圧状態のままで維持されることになる。よって、チャンバ11内と貯留空間71内との間に差圧が生じることになり、この差圧によって、石英坩堝20内に残存されたシリコン融液Mが、貯留空間71内に吸引される(シリコン融液吸引工程S64)。
【0040】
こうして、石英坩堝20内のシリコン融液Mが除去された後に、チャンバ11内部を冷却する(冷却工程S7)。チャンバ11内の温度が下がった時点で、坩堝開口保持部材60を取り外し、使用後の石英坩堝20を黒鉛坩堝21から取り出す(石英坩堝取り外し工程S8)。
そして、使用後の石英坩堝20の内周面に石英膜をコーティングし(石英膜コーティング工程S9)、石英膜をコーティングした石英坩堝20を再使用することになる。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態である残存シリコン融液吸引器70を用いた単結晶シリコンの製造方法及び単結晶シリコンの製造装置10によれば、有底筒状をなして内部に貯留空間71を備えた吸引器本体72と円筒状をなすとともに吸引器本体72の貯留空間71に連通するノズル部73とを備えた残存シリコン融液吸引器70を、チャンバ11の内部が減圧された状態においてノズル部73が石英坩堝20内に残存されたシリコン融液M中に浸漬させて配置するノズル部浸漬工程S62と、ノズル部73をシリコン融液M中に浸漬させた状態において、チャンバ11内に不活性ガスであるアルゴンガスを導入してチャンバ11内部の圧力を上昇させるガス導入工程S63と、を備えているので、チャンバ11内と貯留空間71内との間に差圧を生じさせることが可能となり、この差圧によって石英坩堝20内のシリコン融液Mを貯留空間71へと吸引することができる。よって、吸引機構等の複雑な機構を新たに設けることなく、石英坩堝20内に残存したシリコン融液Mを除去することができる。
【0042】
このように、石英坩堝20内に残存したシリコン融液Mを除去した上で、チャンバ11内を冷却する構成とすることが可能となり、冷却過程における石英坩堝20の割れを防止することができ、単結晶シリコンTの引き上げに使用した石英坩堝20を再使用することが可能となる。これにより、単結晶シリコンTの製造コストを大幅に削減できるとともに、単結晶シリコンTの製造に伴う環境負荷の削減を図ることができる。
【0043】
また、石英坩堝20内に残存したシリコン融液Mを吸引除去した後に、チャンバ11内を冷却し、使用後の石英坩堝20を取り出して石英坩堝20の内周面に石英膜をコーティングする石英膜コーティング工程S9を備えているので、使用後の石英坩堝20を、新規の石英坩堝と同様に使用することができる。これにより、使用後の石英坩堝20を再使用した場合であっても高品質の単結晶シリコンTを製出することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、石英坩堝20内に残存したシリコン融液Mに浸漬されるノズル部73の先端部に、ノズル部73の側面に開口した切り込み部74が形成されているので、ノズル部73の先端開口部のみでなく、側面に開口した切り込み部74を通じて残存シリコン融液Mを吸引することができ、石英坩堝20内に残存したシリコン融液Mを確実に除去することができる。
【0045】
また、本実施形態では、石英坩堝20の開口部に、石英坩堝20の側壁部の内周面に係止される係止部63を備えた坩堝開口部保持部材60が装着されているので、長時間にわたって高温に保持された石英坩堝20の開口部が内周側に向けて倒れこむように変形することを防止でき、使用後の石英坩堝20の開口部を使用前と同様の形状に保持することができる。よって、使用後の石英坩堝20を、再度使用することが可能となる。
【0046】
また、坩堝開口部保持部材60においては、石英坩堝20の内周側に配置される係止部63を含めて坩堝開口保持部材60の全体が、石英坩堝20よりも高温強度が高い材料である炭化珪素で構成されているので、1400℃を超えるような高温状況下においても、係止部63を含めた坩堝開口保持部材60全体の剛性が確保され、石英坩堝20の開口部の変形を確実に防止することができる。また、石英坩堝20の内周側に配置される係止部63が破損しにくく、石英坩堝20内に貯留されたシリコン融液M内に不純物が混入することを防止でき、高品質の単結晶シリコンTを製出することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、石英坩堝20が黒鉛坩堝21に収容されており、収容状態において、石英坩堝20の側壁部の上端が黒鉛坩堝21から上方に突出するように構成され、黒鉛坩堝21の上端に本体部62が位置するようにして、坩堝開口部保持部材60が配設されているので、石英坩堝20に装着した坩堝開口部保持部材60が、シードS及びシードチャック27、フロー管48等と干渉するおそれがなく、単結晶シリコンTの引き上げを安定して行うことができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態である残存シリコン融液吸引器を備えた単結晶シリコンの製造方法及び単結晶シリコンの製造装置10について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、ステンレス鋼からなる吸引器本体と、石英からなるノズル部と、を備えた残存シリコン融液吸引器を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、吸引器本体及びノズル部が他の材質で構成されていてもよい。
【0049】
また、残存シリコン融液吸引器をシードチャック駆動機構側からメインチャンバ内に装入するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の手段によって残存シリコン融液吸引器を配置してもよい。
さらに、石英坩堝の開口部に坩堝開口部保持部材を装着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、坩堝開口部保持部材を用いていなくてもよい。
また、チャンバ、シードチャック及びシードチャック駆動機構の構成は、本実施形態に記載されたものに限定されることはなく、適宜設計変更してもよい。
【0050】
さらに、残存シリコン融液吸引器を、図8に示すような構成としてもよい。図8に示す残存シリコン融液吸引器170においては、取り除かれた残存シリコン融液が貯留される貯留空間171を上方に向かって口径が拡がるように構成している。これにより、貯留空間171内部で残存シリコン融液を一方向凝固させることが可能となる。また、貯留空間171の内壁に離型剤をコートしておくことで、固化後の残存シリコンを容易に取り外すことができる。さらに、必要に応じて、高周波加熱コイルによる冷却や加熱を行い、より一層確実な一方向凝固を行うこともできる。なお、このように、残存シリコンを再利用する際には、一方向凝固させて際の最後に固化した結晶部位(最終凝固部)に不純物が偏析することになるので、この最終凝固部を除去することが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
10 単結晶シリコンの製造装置
11 チャンバ
20 石英坩堝
21 黒鉛坩堝
60 坩堝開口部保持部材
63 係止部
70、170 残存シリコン融液吸引器
71、171 貯留空間
72、172 吸引器本体(本体部)
73、173 ノズル部
74、174 切り込み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバの内部に配置された坩堝内に残存したシリコン融液を除去する残存シリコン融液の除去方法であって、
吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と前記貯留空間に連通するノズル部とを備えた残存シリコン融液吸引器を、前記ノズル部が前記坩堝内の残存シリコン融液に浸漬されるようにして配置し、
前記チャンバ内にガスを導入してチャンバ内の圧力を昇圧し、前記チャンバ内と前記貯留空間内との差圧によって、前記残存シリコン融液を前記貯留空間へと吸引することを特徴する残存シリコン融液の除去方法。
【請求項2】
チャンバ内に配置された坩堝に貯留したシリコン融液にシードを浸漬し、前記シードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造方法であって、
前記単結晶シリコンの引き上げが終了した後に、前記坩堝内に残存したシリコン融液を請求項1に記載の残存シリコン融液の除去方法によって除去し、
前記残存シリコン融液を除去した上で前記チャンバ内を冷却して、使用後の坩堝を取り出して再使用することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
使用後の前記坩堝の内周面に石英膜をコーティングした後に、シリコン融液を貯留する坩堝として再使用することを特徴とする請求項2に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記坩堝の開口部に、前記坩堝よりも高温強度の高い材料からなり、前記坩堝の側壁部の内周面に係止される係止部を備えた坩堝開口部保持部材を装着した状態で、前記単結晶シリコンの引き上げを行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
チャンバ内に配置された坩堝にシリコンに貯留したシリコン融液にシードを浸漬し、前記シードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造装置であって、
吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と前記貯留空間に連通するノズル部とが設けられた残存シリコン融液吸引器を、有していることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項6】
前記ノズル部の先端部には、前記ノズル部の側方に開口した切り込み部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の単結晶シリコンの製造装置。
【請求項7】
前記坩堝に、前記坩堝よりも高温強度の高い材料からなり、前記坩堝の側壁部の内周面に係止される係止部を備えた坩堝開口部保持部材が装着されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の単結晶シリコンの製造装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された単結晶シリコンの製造装置に用いられる残存シリコン融液吸引器であって、
吸引した残存シリコン融液が貯留される貯留空間を備えた本体部と、前記貯留空間に連通するノズル部と、を備えていることを特徴とする残存シリコン融液吸引器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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