説明

残留環状エステルの少ない脂肪族ポリエステルの製造方法

環状エステルを開環重合して脂肪族ポリエステルを製造するに際して、少なくとも重合後期を固相重合反応として進行させ、生成した脂肪族ポリエステルを残留環状エステルの気相への脱離除去工程に付す。これにより、残留モノマーを可及的に減少させた脂肪族ポリエステルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコリドなどの環状エステルを開環重合して、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステルを製造する方法に関し、さらに詳しくは、環状エステルモノマーの残留量を低減した脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
【0003】
脂肪族ポリエステルの中でも、ポリグリコール酸は、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れ、耐熱性や機械的強度にも優れているので、包装材料などの分野において、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
【0004】
脂肪族ポリエステルは、例えば、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができるが、高分子量の脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、ポリグリコール酸が得られる。乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、ポリ乳酸が得られる。
【0005】
一般には、この環状エステルの開環重合による脂肪族ポリエステルの重合製造工程は全工程が生成脂肪族ポリエステルの融点以上で行う溶融重合の形態で行われるが、本発明者等は、この環状エステルの開環重合の後半工程を比較的細い管状反応器中で行うことにより、固相重合で行う方法を提案している(下記特許文献1)。この固相重合を採用することにより、生成ポリエステルを体積収縮させ反応管内面から離型させて塊状物として容易に回収できる、という利点が得られる。
【0006】
しかしながら、上記固相重合の場合も含めて、環状エステルの開環重合においては、未反応の環状エステルモノマーが生成脂肪族ポリエステル中にある程度(下記特許文献2〜4では2〜8%とされている)の量で残留するのは避けられない。この残留モノマーは、生成ポリエステルの溶融押出あるいは延伸特性の低下ならびにこれらから得られる製品特性の劣化ないしバラツキ(例えば糸にしたときの糸切れ、フィルムの局所的性能低下)の原因となるため、可及的に減少することが望ましい。このため生成ポリマー中の残留モノマーを低減するための方法もいくつか提案されている(例えば、下記特許文献2〜4)。例えば特許文献2では、生成ポリエステルの粒状物(ミル粉砕物)に高温乾燥ガスを接触させて、0.2%程度まで残留モノマーを低減したポリグリコール酸を製造できるとする方法が開示されている。また特許文献3は、特許文献2の方法では2%以下に低減するために数十時間の処理時間がかかり非効率であるとして、生成ポリマーの溶融物の減圧処理を提案する。更に特許文献4も生成ポリマーの溶融、減圧処理を提案する。
【0007】
[特許文献1]WO03/006526号公報
[特許文献2]米国特許第3565859号明細書
[特許文献3]特開平3−14829号公報
[特許文献4]特開平9−12690号公報
しかしながら、上記特許文献の方法のいずれによっても残留モノマーの低減は充分でなく、残留モノマーが0.3重量%以下の脂肪族ポリエステルを得ることは困難であり、依然として脂肪族ポリエステルの特性低下に対する悪影響は無視し得ないものであった。
【発明の開示】
【0008】
従って、本発明の主要な目的は、残留モノマーが可及的に少なく、より具体的には0.2重量%未満に確実に低減した脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の残留環状エステルの少ない脂肪族ポリエステルの製造方法は、上述の目的を達成するために開発されたものであり、より詳しくは環状エステルを開環重合して脂肪族ポリエステルを製造するに際して、少なくとも重合後期を固相重合反応として進行させ、生成した脂肪族ポリエステルを残留環状エステルの気相への脱離除去工程に付すことを特徴とする。
【0010】
本発明者等が上述の目的で研究して本発明に到達した経緯について若干付言する。本発明者等の研究によれば、上記特許文献2〜4の残留モノマーの除去処理工程を含む脂肪族ポリエステルの製造方法において、充分に残留モノマーの低減した脂肪族ポリエステルが得られなかった主たる理由は、環状エステルの開環重合が全体として溶融重合により行なわれたところにある。すなわちこれら文献に開示される方法では、重合の終期工程において、重合を完結させ且つ系の溶融状態を保って重合体の取り出しを容易とするために、重合系の温度を上昇する手段が採られている。しかしながら、公知なことであるが、グリコリドであれ、ラクチドであれ環状エステルの開環重合は、モノマー→ポリマーへの重合反応と、ポリマー→モノマーへの解重合反応の競合する平衡反応であり、重合末期においては解重合反応(すなわちポリマーの末端基を基点として環状エステルモノマーが生成する、いわゆるエンドバイティング反応)の影響が無視できない。これが上記重合系で重合の完結しない理由であるところ、重合末期で温度を上げて系の溶融状態を維持することは、むしろ平衡重合率を低下させ、残留モノマーを増大させることになる。従って、このように増大した残留モノマーを含む生成脂肪族ポリエステルを残留モノマー除去工程に付しても、この残留モノマー除去工程温度における解重合の存在もあって効果的なモノマー除去効果が得難い。これに対し、本発明のように重合末期の温度を抑制した固相重合であれば、平衡は解重合の抑制に有利であり、かくして重合工程において抑制された残留モノマーを含む脂肪族ポリエステルを得、これを適切な残留モノマー除去工程に付すことにより、可及的に残留モノマーの低減した脂肪族ポリエステルが得られることになる(このことは、後記実施例および比較例の対比により明瞭に理解できるであろう)。
【0011】
また、本発明に従い脂肪族ポリエステル中の残留モノマーおよび低分子量成分を低減することにより、生成する脂肪族ポリエステルの耐水性の著しい向上(加水分解速度の低下)が得られることが確認されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.環状エステル
本発明で用いる環状エステルとしては、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステル及びラクトンが好ましい。二分子間環状エステルを形成するα−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、L−及び/またはD−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。
【0013】
ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。また環状エーテルエステルとしては、例えばジオキサノンなどが挙げられる。
【0014】
環状エステルは、不斉炭素を有する物は、D体、L体、及びラセミ体のいずれでもよい。これらの環状エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上の環状エステルを使用すると、任意の脂肪族コポリエステルを得ることができる。環状エステルは、所望により、共重合可能なその他のコモノマーと共重合させることができる。他のコモノマーとしては、例えば、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーなどが挙げられる。
【0015】
環状エステルの中でも、グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリド、L−及び/またはD−乳酸の二分子間環状エステルであるL−及び/またはD−ラクチド、及びこれらの混合物が好ましく、グリコリドがより好ましい。グリコリドは、単独で使用することができるが、他の環状モノマーと併用してポリグリコール酸共重合体(コポリエステル)を製造することもできる。ポリグリコール酸共重合体を製造する場合、生成コポリエステルの結晶性、ガスバリア性などの物性上の観点から、共重合体中のグリコリドの割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上とすることが望ましい。また、グリコリドと共重合させる環状モノマーとしては、ラクチドが好ましい。
【0016】
環状エステルの製造方法は、特に限定されない。例えば、グリコリドは、グリコール酸オリゴマーを解重合する方法により得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、米国特許第2,668,162号明細書に記載の溶融解重合法、特開2000−119269号公報に記載の固相解重合法、特開平9−328481号公報や国際公開第02/14303A1パンフレットに記載の溶液相解重合法等を採用することができる。K.ChujoらのDie Makromolekulare Cheme,100(1967),262−266に報告されているクロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。
【0017】
グリコリドを得るには、上記解重合法の中でも、溶液相解重合法が好ましい。溶液相解重合法では、(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)該オリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、(3)同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、(4)生成した2量体環状エステル(すなわち、グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、(5)溜出物からグリコリドを回収する。
【0018】
高沸点極性有機溶媒としては、例えば、ジ(2−メトキシエチル)フタレートなどのフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエートなどのアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレートなどの芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、ポリエチレンジアルキルエーテルなどのポリアルキレングリコールエーテル等を挙げることができ、該オリゴマーに対して、通常、0.3〜50倍量(重量比)の割合で使用する。高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、該オリゴマーの可溶化剤として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを併用することができる。グリコール酸オリゴマーの解重合温度は、通常、230℃以上であり、好ましくは230〜320℃である。解重合は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90.0kPa(1〜900mbar)の減圧下に加熱して解重合させることが好ましい。
【0019】
2.重合
環状エステルを用いて脂肪族ポリエステルを製造するには、環状エステルを加熱して開環重合させる方法を採用することが好ましい。この開環重合法は、実質的に塊状重合による開環重合法である。開環重合は、触媒の存在下に、通常100℃以上の温度で行われるが、本発明に従い、少なくとも重合の終期(好ましくはモノマーの反応率として50%以上において)は、系が固相となるように、好ましくは190℃未満、より好ましくは140〜185℃、更に好ましくは160〜180℃となるように調節する。
【0020】
触媒としては、各種環状エステルの開環重合触媒として使用されているものであればよく、特に限定されない。このような触媒の具体例としては、例えば、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)など金属化合物の酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコキシドなどが挙げられる。より具体的に、好ましい触媒としては、例えば、ハロゲン化スズ(例えば、二塩化スズ、四塩化スズなど)、有機カルボン酸スズ(例えば、2−エチルヘキサン酸スズなどのオクタン酸スズ)などのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
触媒の使用量は、一般に、環状エステルに対して少量でよく、環状エステルを基準として、通常0.0001〜0.5重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内から選択される。
【0022】
本発明者らが先の出願(PCT/JP2004/016706)において提案したように、水およびアルコールを含むプロトン源化合物を開始剤兼分子量調節剤として含む環状エステルを、環状エステル中の、全プロトン濃度、および水を含むカルボキシル(カルボン酸)源化合物モル濃度とアルコールを含むアルコキシカルボニル(エステル)源化合物モル濃度との比(カルボン酸/エステル・モル比)、を指標として制御しつつ、開環重合することが好ましい。より具体的にはカルボン酸/エステル・モル比を100/0〜2/98の範囲内、カルボン酸/エステル・モル比が99/1〜5/95の範囲内、としてそれぞれ制御して重合を行うことが好ましい。
【0023】
本発明では、望ましくは水分含有率が60ppm以下の精製した環状エステルにアルコールおよび必要に応じて追加の水を添加して、環状エステル中の全プロトン濃度および水を含むカルボキシル(カルボン酸)源化合物モル濃度とアルコールを含むアルコキシカルボニル(エステル)源化合物モル濃度との比(以下「カルボン酸/エステル・モル比」と称する)を調整することにより、生成する脂肪族ポリエステルの分子量を制御する。精製した環状エステルにアルコールおよび必要に応じて追加の水を添加して、環状エステル中の全プロトン濃度を好ましくは0.09モル%超過2.0モル%未満、より好ましくは0.1〜1.0モル%の範囲内に調整する。
【0024】
また添加するアルコールおよび必要に応じて追加する水の量を制御することにより、カルボン酸/エステル・モル比を、好ましくは100/0〜2/98、より好ましくは99/1〜5/95、更に好ましくは99/1〜10/90の範囲内に調整する。
【0025】
カルボン酸/エステル・モル比が2/98より小さいと、重合反応に使用するアルコール種の量が多くなり、未反応で残存しやすくなり、生成ポリマーの溶融加工中の分子量、溶融粘度の変動が大きくなり所望の物性(分子量、溶融粘度など)を有する成形物を得るのが困難になったり、溶融時に添加する安定剤、末端封止剤との反応が不均一になり、成形物の物性、加水分解速度のばらつきも大きくなりやすい。
【0026】
プロトン源化合物ならびにアルコキシカルボニル(エステル)源化合物として用いられるアルコールの例としては、炭素数が1〜5の鎖式アルコールである低級及び中級アルコール類、又は炭素数6以上の鎖式アルコールである高級アルコール類が挙げられる。またこれらの脂肪族アルコール類は、分岐構造を有していてもよい。また脂環式アルコール類、不飽和アルコール類、芳香族アルコール類、ポリオール類等が挙げられる。また、水酸基を有するヒドロキシカルボン酸類及びそのエステル(例えばグリコール酸メチル、乳酸メチル)、糖類等も用いられる。
【0027】
これらの中で、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタンオール、t−ブチルアルコール、オクチルアルコール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)、ミリスチルアルコールなど炭素数3以上の中級及び高級アルコール類、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類、グリセリンなどのトリオール類がモノマーへの溶解性、反応性(開始剤効率)、沸点の観点及び工業的入手性の観点から好ましい。これらのアルコール類は、二種以上併用してもよい。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、環状エステルを触媒の存在下に溶融槽内で加熱溶融させ、次いで、溶融状態の環状エステルを両端が開閉可能な複数の管を備えた重合装置に移送し、各管内で密閉状態で開環重合して生成ポリマーを析出させて後期は固相重合する方法;又は溶融状態の環状エステルを攪拌機付き反応缶で開環重合を進行させた後、生成したポリマーを取り下し一度ポリマーを冷却固化させた後、後期はポリマーの融点以下で固相重合反応を継続する方法、がより好ましい。重合時間は、重合温度などによって変化するが、通常30分間〜50時間、より好ましくは1〜30時間であり、できるだけ重合転化率を高める。密閉系で重合温度を制御することにより、目標とする分子量、溶融粘度などの物性を有するポリマーを安定的に、かつ、再現性良く製造することができる。
【0029】
本発明の方法では、環状エステル(例えば、グリコリドまたはグリコリドを主成分とする環状エステル)の開環重合により、温度240℃及び剪断速度121sec−1で測定した溶融粘度が好ましくは50〜6,000Pa・s、より好ましくは100〜5,000Pa・sの脂肪族ポリエステルを得ることができる。また、本発明の方法によれば、重量平均分子量が好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上、特に好ましくは100,000以上の高分子量の脂肪族ポリエステルを製造することができる。重量平均分子量の上限は、500,000程度、好ましくは300,000程度である。
【0030】
本発明法では、重合終期を固相重合反応として重合温度を抑制するために、高分子量で、低黄色度のポリマーが得られるのも一つの特徴である。
【0031】
3.残留モノマー除去工程
本発明に従い、上述のようにして重合工程を経て生成した脂肪族ポリエステルを、残留モノマー除去工程、すなわち、残留環状エステルの気相への脱離・除去工程に付す。より具体的には、固体または溶融状態のポリマーに加熱・乾燥ガスを接触させるか、減圧を作用させて残留モノマーを気相へと脱離除去する処理を行う。この工程においても起り得るポリマーの解重合反応を抑制するために、溶融状態よりは、固体粒子状態のポリマーを処理する方が好ましい。また大量処理のためには減圧の印加よりも、常圧の乾燥ガスを流通接触させることが好ましい。本発明においては、重合工程において残留モノマーが約0.3〜0.8重量%程度に低減されているために、この残留モノマー除去工程における負荷は軽減されており、常圧の加熱乾燥ガス処理によっても残留モノマーを0.2重量%未満まで確実に低減可能である。処理温度としては、120〜225℃、特に150〜220℃が好ましい。処理時間は0.5〜95時間、特に1〜48時間程度が採用される。ガスとしては、窒素、アルゴン等の不活性ガスを用いることももちろん可能であるが、工業的には乾燥空気が有利に用いられる。
【0032】
加熱乾燥ガス(あるいは減圧)を効率的に作用させるためにポリマーは、例えば径(長径)が8mm以下、特に5mm以下、の粒状(ペレット状物を含む)であることが好ましく、特にこの残留モノマー除去処理中の劣化防止ならびに二次加工の際の熱安定性を改善するために、上記残留モノマー除去処理工程に先立って、重合後のポリマーを、カルボキシル基、水酸基の末端封止剤および/または熱安定剤等と混煉し、ペレット化しておくことが好ましい。
【0033】
カルボキシル基封止剤としては、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているものを一般に用いることができ、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロヘキセンオキシドなどのエポキシ化合物などが挙げられる。なかでもカルボジイミド化合物が好ましい。これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能であり、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、0.01〜10重量部、更には0.1〜2重量部、特に0.3〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
【0034】
また熱安定剤の好ましい例としては、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル及び/又はリン酸アルキルエステルが挙げられ、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、好ましくは3重量部以下、より好ましくは0.003〜1重量部の割合で用いられる。
【0035】
上記したカルボキシル基封止剤及び熱安定剤を重合中に加えることもできる。
【実施例】
【0036】
以下に、ポリマー合成例、ペレット製造例、脱離除去工程例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。分析法、評価方法は、以下の通りである。
【0037】
(1)モノマー不純物定量分析:
高純度アセトン10mlの中に、約1gを精秤したグリコリドと内部標準物質として4−クロロベンゾフェノン50mgとを加え、十分に溶解させた。その溶液約1mlを採取し、該溶液にジアゾメタンのエチルエーテル溶液を添加した。添加量の目安は、ジアゾメタンの黄色が残るまでとする。黄色く着色した溶液のうち1μlをGC(ガスクロマトグラフィー)装置に注入し、内部標準物質の面積比とグリコリド及び内部標準物質の添加量を基にメチルエステル化されたヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸二量体を定量した。
【0038】
<GC分析条件>
装置:島津GC−2010
カラム:TC−17(0.25mmφ×30m)、
気化室温度:200℃、
カラム温度:50℃で5分間保持後、20℃/分の昇温速度で270℃まで昇温し、270℃で4分間保持、
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、
温度:300℃。
【0039】
ラクチドについても、グリコリドと同様の方法により、不純物を定量できる。
【0040】
(2)水分測定:
気化装置付カールフィッシャー水分計〔三菱化学社製CA−100(気化装置VA−100)〕を用い、予め220℃に設定した気化装置に、精密に秤量した約2gのモノマーサンプルを入れ、気化装置からカールフィッシャー水分測定器に流速250ml/分で乾燥窒素ガスを流した。サンプルから気化した水分をカールフィッシャー液に導入し、電気伝導度がバックグラウンドより+0.1μg/秒以下になった時点を終点として定量した。モノマーの水分測定については、気化装置の温度を140℃にし、電気伝導度がバックグラウンドより+0.05μg/秒以下になった時点を終点として定量した。
【0041】
(3)プロトン濃度の算出方法:
モノマー中に含まれる全プロトン濃度は、モノマー中に含まれるヒドロキシカルボン酸化合物と水との合計量に基づいて算出される。ヒドロキシカルボン酸化合物に基づくプロトン濃度(モル%)は、それぞれの含有量と分子量と水酸基数とに基づいて算出される。他方、水に基づくプロトン濃度はモノマー中に含まれている不純物の水分、溶解槽の雰囲気中に含まれている水分及び重合開始剤として用いたプロトン性化合物の合計量と分子量とに基づいて算出した。溶解槽の雰囲気中に含まれている水分は、モノマー溶解槽内部に予め乾燥空気を流しておき、その雰囲気の相対湿度を湿度計で求めた。その雰囲気の温度から絶対湿度を算出し、その値と槽容積から、槽内部の水分量を算出した。
【0042】
(4)残存モノマー量:
サンプル約300mgを約6gのジメチルスルホキシド(DMSO)中150℃で約10分加熱し溶解させ、室温まで冷却した後、ろ過を行う。そのろ液に内部標準物質の4−クロロベンゾフェノンとアセトンを一定量添加する。その溶液を2μl採取し、GC装置に注入し測定を行った。この測定により得られた数値より、ポリマー中に含まれる重量%として、残存モノマー量を算出した。
【0043】
<GC分析条件>
装置:島津GC−2010
カラム:TC−17(0.25mmφ×30m)、
カラム温度:150℃で5分保持後、20℃/分で270℃まで昇温して、270℃で3分間保持、
気化室温度:200℃、
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、
温度:300℃。
【0044】
(5)溶融粘度:
ポリマーサンプルを120℃の乾燥空気を接触させて、水分含有量を50ppm以下にまで低減させた。溶融粘度測定は、キャピラリー(1mmφ×10mmL)を装着した東洋精機製キャピログラフ1−Cを用いて測定した。設定温度240℃に加熱した装置に、サンプル約20gを導入し、5分間保持した後、剪断速度121sec−1での溶融粘度を測定した。
【0045】
(6)分子量測定:
ポリマーサンプルを分子量測定で使用する溶媒に溶解させるために、非晶質のポリマーを得る。すなわち、十分乾燥したポリマー約5gをアルミニウム板に挟み、275℃のヒートプレス機にのせて90秒加熱した後、2MPaで1分間加圧保持した後、直ちに水が循環しているプレス機に移し冷却した。このようにして、透明な非晶質のプレスシートを作製した。
【0046】
上記操作により作製したプレスシートからサンプル約10mgを切り出し、このサンプルを5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液10mlに溶解させた。このサンプル溶液をポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルターで濾過後、20μlをゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置に注入し、分子量を測定した。
【0047】
<GPC測定条件>
装置:昭和電工(株)製「Shodex−104」
カラム:HFIP−806M、2本(直列接続)プレカラム、
カラム温度:40℃、
溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたHFIP溶液、
流速:0.6ml/分、
検出器:RI(Refractive Index:示差屈折率)検出器、
分子量校正:分子量の異なる標準ポリメタクリル酸メチル5種を用いた。
【0048】
(7)耐水性評価
十分に乾燥したポリマーサンプル約1gをアルミニウム板に挟み、260℃のヒートプレス機にのせて3分間加熱した。その後、15MPaで加圧し1分間保持した後、直ちに水が循環しているプレス機に移し、冷却して透明な非晶質のプレスシートを作成した。
【0049】
上記操作により作成したプレスシートをアルミニウム板にはさんだ状態で、80℃で10分間熱処理した。
【0050】
上記操作により作製したサンプルを約10mg切り出し、温度50℃、相対湿度80%に維持した恒温恒湿器に入れ所定時間暴露した。所定時間(最長7日)後、取り出した後、サンプルの分子量をGPCにより測定した。
【0051】
得られた数平均分子量値から重合度を算出し、その重合度の逆数を暴露時間に対して対数プロットし、そのプロットの近似直線の傾きを加水分解速度定数とした。
【0052】
[グリコリド合成例]
ジャケット付き撹拌槽に70重量%グリコール酸水溶液を仕込み、缶内液を200℃まで加熱昇温し、水を系外に留出させながら縮合反応を行った。次いで、缶内圧を段階的に減圧しながら、生成水、未反応原料などの低沸点物質を留去し、グリコール酸オリゴマーを得た。
【0053】
上記で調製したグリコール酸オリゴマーを反応槽に仕込み、溶媒としてジエチレングリコールジブチルエーテルを加え、さらに、可溶化剤としてオクチルテトラエチレングリコールを加えた。加熱及び減圧下で解重合反応させて、生成グリコリドと溶媒とを共留出させた。留出物は、温水を循環させた二重管式コンデンサーで凝縮し、受器に受けた。受器内の凝縮液は、二液に層分離し、上層が溶媒で、下層がグリコリド層に凝縮された。受器の底部から液状グリコリドを抜き出し、得られたグリコリドを、塔型精製装置を用いて精製した。回収した精製グリコリドは、DSC測定による純度が99.99%以上であった。
【0054】
[ポリマー合成例1]
ジャケット構造を有し、密閉可能な容器(グリコリド溶解槽)内に、上記グリコリド合成例で製造したグリコリド[グリコール酸80ppm、グリコール酸2量体200ppm、水分6.4ppm]350kg、二塩化スズ2水和塩10.5g及び水101gを加え、全プロトン濃度(設定プロトン濃度)を0.22mol%に調整した。
【0055】
容器を密閉し、撹拌しながらジャケットにスチームを循環させ、100℃になるまで加熱して、内容物を溶融し、均一な液体とした。内容物の温度を100℃に保持したまま、内径24mmの金属(SUS304)製管からなる装置に移した。この装置は、管が設置されている本体部と上板からなり、本体部と上板のいずれもジャケット構造を備えており、このジャケット部に熱溶媒油を循環する構造になっている。内容物を該装置に移送する際には、各管内に移送が終了したら、直ちに上板を取り付けた。
【0056】
この本体部および上板のジャケット部に170℃熱媒体油を循環させ、7時間保持した。7時間後、ジャケットに循環させている熱媒体油を冷却することにより、重合装置を冷却した。冷却後、上板を取り外し、本体部を縦方向に回転させることによって、生成ポリグリコール酸の塊状物を取り出した。収率は、ほぼ100%であった。塊状物を、粉砕機により粉砕した。得られたポリマーを、以下でポリマーAと呼ぶ。
【0057】
[ポリマー合成例2]
モノマーとしてグリコリド合成例と同様にして製造したグリコリド(グリコール酸20ppm、グリコール酸2量体140ppm、水分2ppm)とL−ラクチド(乳酸2量体100ppm、水分2ppm)を用い、二塩化スズ水和物10.5g、及び水92gを加え、全プロトン濃度(設定プロトン濃度)を0.2mol%に調整し、本体部及び上板のジャケット部に170℃の熱媒体油を循環させた状態で24時間保持した以外は、ポリマー合成例1と同様の方法で合成を行った。得られたポリマーを、ポリマーBと呼ぶ。
【0058】
[ポリマー合成例3]
本体部及び上板のジャケット部に230℃の熱媒体油を循環させた状態で7時間保持した以外はポリマー合成例1と同様の方法で合成を行った。得られたポリマーを、ポリマーCと呼ぶ。
【0059】
[ペレット製造例1]
十分に乾燥したポリマー合成例1〜3のいずれかの方法で製造したポリマー100重量部に対して、モノ及びジ−ステアリルアシッドホスフェート(旭電化工業(株)製「アデカスタブAX−71」;「添加剤I」という)0.03重量部をブレンドし、押出機を用いて溶融混練しながらペレットを得た。
【0060】
<押出条件>
押出機:東芝機械株式会社製TEM−41SS
スクリュウ:同方向L/D=4.15 回転数40rpm、
温度条件:最高温度240℃、
押出速度:30kg/h。
【0061】
[ペレット製造例2]
十分に乾燥したポリマー合成例1〜3のいずれかの方法で製造したポリマー100重量部に対して、モノ及びジ−ステアリルアシッドホスフェート(旭電化工業(株)製「アデカスタブAX−71」;「添加剤A」という)0.03重量部に加えて、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI)(川口化学工業(株)製「DIPC」;「添加剤II」という)を1重量部ブレンドした以外はペレット製造例1と同様の方法でペレットの製造を行った。
【0062】
<脱離除去工程例1(熱処理法1)>
ポリマーサンプルをステンレス製の浅型バットに入れ、それを乾燥空気(露点−50度以下)が吹き込まれている乾燥機(yamato製「DN−61」又は富山産業製「ミニジェットオーブン」)に入れて、所定時間熱処理を行った。所定時間後、サンプルを乾燥機に入れた状態で室温まで冷却したものを熱処理後のサンプルとした。
【0063】
<脱離除去工程例2(熱処理法2)>
ポリマーサンプルをステンレス製の浅型バットに入れ、排気管及びガラス製受器を介して真空ポンプにより減圧下で保持できる乾燥機(yamato製「ADP−31」)で、所定時間熱処理を行った。所定時間後、サンプルを乾燥機に入れた状態で室温まで冷却したものを熱処理後のサンプルとした。
【0064】
以下に、実施例、比較例を示し、評価結果を後記表1〜4に示す。
【0065】
(実施例1,2及び比較例1〜4)
ポリマーAを0.05mmHgの減圧状態(熱処理方法2)で熱処理したものを実施例1、常圧状態(熱処理法1)で熱処理したものを実施例2とした。熱処理を行わないポリマーAを比較例1とした。ポリマーCを0.05mmHgの減圧状態(熱処理方法2)で熱処理したものを比較例2、常圧状態(熱処理法1)で熱処理したものを比較例3とした。熱処理を行わないポリマーCを比較例4とした。これら実施例1,2及び比較例1〜4のポリマーはペレット化せずに、粉砕品のまま、上記各種の物性評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3、4及び比較例5)
ポリマーAをペレット製造例1の方法でペレット化し、0.05mmHgの減圧状態(熱処理方法2)で熱処理したものを実施例3、常圧状態(熱処理方法1)で熱処理したものを実施例4とした。尚、熱処理を行わないものを比較例5とした。評価結果を表2に示す。
【0067】
(実施例5〜10及び比較例6)
ポリマーAをペレット製造例2の方法でペレット化し、0.05mmHgの減圧状態(熱処理法2)で熱処理したものを実施例5、常圧状態(熱処理方法1)で熱処理したものを実施例6〜10とした。ポリマーCをペレット製造例2の方法でペレット化し、熱処理を行わないものを比較例6とした。評価結果を表3に示す。
【0068】
(実施例11、12及び比較例7)
ポリマーBをペレット製造例1の方法でペレット化し、常圧状態(熱処理方法1)で熱処理したものを実施例11とした。ポリマーBをペレット製造例2の方法でペレット化し、常圧状態(熱処理方法1)で熱処理したものを実施例12とした。ポリマーBをペレット製造例1の方法でペレット化し、熱処理を行わないものを比較例7とした。評価結果を表4に示す。
【0069】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【産業上の利用可能性】
【0070】
上述したように本発明によれば、環状エステルの開環重合により脂肪族ポリエステルを製造するに際して、少なくとも重合後期を固相重合で進めた後、残留モノマー除去を行うことにより、残留環状エステル量を可及的に減少し、特性の安定した脂肪族ポリエステルの製造が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状エステルを開環重合して脂肪族ポリエステルを製造するに際して、少なくとも重合後期を固相重合反応として進行させ、生成した脂肪族ポリエステルを残留環状エステルの気相への脱離除去工程に付すことを特徴とする、残留環状エステルの少ない脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
固相重合反応温度が195℃未満である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
環状エステルがグリコリドまたはグリコリドとラクチドの混合物である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
残留環状エステルの除去工程において、重合により生成した脂肪族ポリエステルの粒状物に、加熱乾燥ガスを接触させて、残留環状エステルをガスに同伴させて脂肪族ポリエステルから除去する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
加熱乾燥ガス温度が120〜225℃である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
残留環状エステルの除去工程において、重合により生成した脂肪族ポリエステルの粒状物に、減圧を作用させて、残留環状エステルを減圧気相中に放出させて、脂肪族ポリエステルから除去する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
重合により生成した脂肪族ポリエステルに熱安定剤を配合して形成したペレット状物を残留環状エステルの除去工程に付す請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
残留環状エステルの除去工程に付される脂肪族ポリエステルの粒状物の径が8mm以下である請求項4〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの方法により得られた残留環状エステルが0.2重量%未満の脂肪族ポリエステル。

【国際公開番号】WO2005/090438
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−511214(P2006−511214)
【国際出願番号】PCT/JP2005/004771
【国際出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】