説明

段階式固化施工法

【課題】 地中連続壁の構築において、掘削および固化の工程を見直し、固い地層が含まれる場合であっても、工期の短縮および工費の削減を可能としつつ高品質の地中連続壁を構築することができ、しかも排泥土中に固化材を含まない段階式固化施工法を提供する。
【解決手段】 地中連続壁の構築において、掘削装置の先端から非固化性の注入液を吐出しながら地盤を掘削し、前記注入液と掘削土とを混合撹拌して、前記注入液と掘削土からなる安定液のもと掘削を行う掘削工程と、既に掘削された掘削領域の一部を固化領域として、前記掘削装置以外の手段で該固化領域に固化材を含む固化液を供給して該固化領域を固化させる固化工程を含む段階式固化施工方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中連続壁の構築において、掘削および固化の工程を見直し、固い地層が含まれる場合であっても、工期の短縮および工費の削減を可能としつつ高品質の地中連続壁を構築することができ、しかも排泥土中に固化材を含まない段階式固化施工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より地中に連続壁を構築する方法としては、TRD工法(Trench cutting Re-mixing Deep wall method)に代表される等厚式連続壁工法と、SMW工法(Soil Mixing Wall method)に代表される柱列式連続壁工法が知られており、いずれも専用の掘削装置で地盤を溝状に掘削する。この掘削工程の間、溝中は常に安定液で満たされ、掘削工程の後の固化工程で溝中に固化材を供給することで溝を固化させるのが一般的である。そしてこの作業を繰り返すことで、地中に現位置で連続壁を構築するようにしている。
【0003】
例えばTRD工法では、図6の工程断面の模式図に例示したように、所望の深さに相当する長さのチェーンソー型のカッターを備えた掘削装置(1)を用い、そのカッターを地盤(7)に挿入して、カッターの先端からベントナイト等の注入液を供給しながら地盤(7)を水平方向に掘削し、同時に注入液と掘削土を撹拌混合して安定液(3)とすることにより溝壁を安定させる先行掘削を行い、次いで掘削装置(1)を戻り横行させた後、溝中に固化液(4)を供給して撹拌混合しながら進行する3パスによる施工を1台の掘削装置(1)により行うのが一般的である。なお、1パスで行うことも可能であるが、掘削時に固化材を含む安定液を使用することになるため溝壁安定性が悪く、また掘削深度が深い場合や硬質な地盤を掘削するときは掘削時間が長くなるため固化材が硬化してしまい、プレキャスト材(8)挿入等の後工程が施工できないといった問題が生じたり、また、玉石層に遭遇するなどして掘削装置(1)が停止すると、カッターがセメントスラリーで固化するため復旧に莫大な費用がかかるため、実際は、3パスで施工されることが多い。
【0004】
またSMW工法では、アースオーガ掘削装置を用い、オーガ先端からベントナイト等の注入液を供給すると同時に、注入液と掘削土とを撹拌混合して形成される安定液のもと鉛直方向に地盤を掘削する。次いで、掘削装置を引き抜く際に固化液を供給して、柱状のエレメントを構築する。そして連続壁を構築するには、第1エレメントを施工後、間隔をもって第2エレメントを施工し、その後に第1および第2エレメントを連続させるための第3エレメントをラップ施工するようにしている。
【0005】
そして、この出願の発明者らは、地中に連続壁を構築するに際し、安定液として気泡安定液を用いることを提案している(例えば、特許文献1〜4参照)。例えばTRD工法において気泡安定液を用いる場合、その施工手順は、図7に示すフロー図のように、先ず、TRD掘削装置のカッターの先端から気泡液を吐出しながら地山を掘進すると同時に気泡と水と掘削土からなる気泡安定液により先行掘削部を安定させ、一旦TRD掘削装置を戻り横行させた後、気泡の消泡液と固化液とをカッターの先端から吐出しながら進行し、気泡安定液中の気泡を消泡しつつ掘削土と固化材を混合撹拌して固化させ、壁を造成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3725750号
【特許文献2】特許4342558
【特許文献3】特願2007−286732号
【特許文献4】特開2008-169545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の地中連続壁の構築方法は、掘削の工程と固化の工程を同一の機械で施工するため無理が多く、時間的、コスト的な改善の余地を残すものであった。たとえば、TRD工法の場合、TRD掘削装置は、掘削深さに相等する長尺のカッターでの掘削を行うため、非常に掘削能力に優れた掘削専用機である半面、機械損料が高価で、壁構築コストが高くなるとともに、1台の掘削装置で掘削工程と、掘削に比べてそれほど能力を必要としない固化工程の2つの工程の施工を行うため、工期も増加するという問題があった。
【0008】
また、SMW工法の場合は、機械損料はTRD掘削装置ほど高くないものの、ラップ施工が必須のため、排泥土中には必ず固化材が含まれてしまい、現場において産業廃棄物として回収して処分しなければならず、環境およびコストの面で改善されるべき課題となっている。また、ラップ施工自体、同一の箇所を2度施工するものであり、ラップ施工箇所が多いこの施工方法は見直しの余地が残されていた。
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、掘削装置を用いる地中連続壁の構築において、掘削および固化の工程を見直し、固化工程を掘削装置以外の別の手段により行うことで工期の短縮および工費の削減を可能としつつ、高品質の地中連続壁を構築できる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の段階式固化施工方法は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1の発明は、地中連続壁の構築において、掘削装置の先端から非固化性の注入液を吐出しながら地盤を掘削し、前記注入液と掘削土とを混合撹拌して、前記注入液と掘削土からなる安定液のもと掘削を行う掘削工程と、既に掘削された掘削領域の一部を固化領域として、前記掘削装置以外の手段で該固化領域に固化材を含む固化液を供給して該固化領域を固化させる固化工程を含むことを特徴としている。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、掘削装置が、チェーンソー型のカッターを備え、水平方向に掘進する掘削装置であることを特徴としている。
【0013】
第3の発明は、上記第1の発明において、掘削装置が、少なくとも先端に掘削ビットを備え、鉛直方向に掘進する掘削装置であることを特徴としている。
【0014】
第4の発明は、上記第1ないし第3のいずれかの発明において、掘削工程と固化工程とを同時に行うことを特徴としている。
【0015】
第5の発明は、上記第1ないし第4のいずれかの発明において、非固化性の注入液が気泡液であって、気泡と水と掘削土からなる気泡安定液のもとに掘削を行うことを特徴としている。
【0016】
第6の発明は、上記第5の発明において、固化液が、固化材とともに消泡液を含むことを特徴としている。
【0017】
第7の発明は、上記第1ないし第4のいずれかの発明において、非固化性の注入液がベントナイトを主成分とする懸濁液であって、主としてベントナイトと水と掘削土からなるベントナイト安定液のもとに掘削を行うことを特徴としている。
【0018】
第8の発明は、上記第1ないし第7のいずれかの発明において、固化工程における前記掘削装置以外の手段が固化液の供給が可能な撹拌装置であって、該撹拌装置により固化領域の安定液中に固化液を供給するとともに混合撹拌して、固化領域に固化液と安定液の混合物である固化液含有スラリーを調整することを特徴としている。
【0019】
第9の発明は、上記第1ないし第8のいずれかの発明において、固化工程における前記掘削装置以外の手段が固化液の供給が可能な攪拌装置であって、固化液の供給孔と攪拌翼が数段配備したことを特徴としている。
【0020】
また、第10の発明は、上記第1ないし第7のいずれかの発明において、固化工程における前記掘削装置以外の手段が液置換手段であって、予め調整した固化液を固化領域の安定液と置換することを特徴としている。
【0021】
第11の発明は、上記第1ないし第10のいずれかの発明において、固化段階において、固化液を供給後、固化前に芯材、プレキャスト材および鉄筋かごのうちのいずれか1種以上を建込むことを特徴としている。
【0022】
第12の発明は、上記第1ないし第11のいずれかの発明において、掘削領域に隔壁を設けることで固化領域を形成することを特徴としている。
【0023】
第13の発明は、上記第12の発明において、隔壁が移動可能とされていることを特徴としている。
【0024】
第14の発明は、上記第12または第13の発明において、固化領域における固化液または固化液含有スラリーの液面を調整することを特徴としている。
【0025】
第15の発明は、上記第14の発明において、隔壁を移動させることで、固化領域における固化液または固化液含有スラリーの液面を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
上記第1、第7の発明によれば、掘削工程および固化工程を単一の掘削装置で施工しないため、工期の短縮と工費の低減を図ることができる。
【0027】
上記第2の発明によれば、例えばTRD掘削装置等を用いる場合であっても、これを掘削のみに用い1パスで施工するようにしているため、工期の短縮と工費の低減を図ることができる。
【0028】
上記第3の発明によれば、例えばアースオーガ掘削装置等を用いる場合であっても、これを掘削のみに用いるため工期の短縮と工費の低減を図ることができ、また固化材を含む部分のラップ施工を必須としないため排泥土中への固化材の混入防止を図ることができる。
【0029】
上記第4の発明によれば、工期の短縮と工費の低減の効果がさらに向上される。
【0030】
上記第5の発明によれば、上記の発明の効果に加え、排泥土量を減らすことができる。
【0031】
上記第6の発明によれば、排泥土量の削減効果が更に向上される。
【0032】
上記第8ないし第10の発明によれば、上記の発明の効果に加え、より安価に固化液の混合撹拌が効率よく確実に行えるため、さらに工期の短縮と工費の低減を図ることができる。
【0033】
上記第11の発明によれば、上記の発明の効果に加え、所望の芯材、鉄筋かごを備えた連続地中壁やプレキャスト材による永久構造物を構築することができる。
【0034】
上記第12の発明によれば、上記の発明の効果に加え、固化領域に供給される固化液が掘削領域に流入することを防ぎ、固化壁の品質を向上させることができる。また、上記第13ないし第15の発明によれば、上記の発明の効果に加え、排泥土中への固化材の混入を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の方法による地中連続壁の構築の一例を示した断面模式図である。
【図2】固化液の供給孔と攪拌翼が攪拌装置のロッドの先端部に設けられた場合(A)と、これらが複数段設けられた場合(B)について示した断面模式図である。
【図3】安定液の特性と排泥土量の関係を例示した概念図である。
【図4】本発明の段階式固化施工方法の一例を示した断面模式図である。
【図5】本発明における隔壁の固定方法の一例を説明する断面模式図である。
【図6】従来のTRD工法による地中連続壁の構築の一例を示した断面模式図である。
【図7】従来のTRD工法において、安定液として気泡安定液を利用する場合の手順を例示した施工フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、本発明の段階式固化施工方法の実施形態の一例を示した施工断面の模式図である。この図1の本発明の段階式固化施工方法の第1の実施形態では、掘削装置(1)として、チェーンソー型のカッターを備え、水平方向に掘進する掘削装置として代表的なTRD掘削機を用いる場合を示している。本発明では、このような地中連続壁の構築において、
<A>掘削装置(1)の先端から非固化性の注入液を吐出しながら地盤(7)を掘削し、前記注入液と掘削土とを混合撹拌して、前記注入液と掘削土からなる安定液(3)のもと掘削を行う掘削工程と、
<B>既に掘削された掘削領域の一部を固化領域として、前記掘削装置(1)以外の手段で該固化領域に固化材を含む固化液を供給して該固化領域を固化させる固化工程、
を含むことを特徴とする。
【0037】
本発明では、例えば、従来TRD掘削装置(1)により3パスで行っていた施工を、上記のとおり、<A>TRD掘削装置(1)による1パスでの掘削工程と、<B>掘削装置(1)以外の手段による固化工程の組み合わせにより行うようにしている。ここで固化工程は、先行する掘削工程により規定長以上に掘削領域が形成されれば、その一部を固化領域として確保することで実施することができる。すなわち、固化の工程は、必ずしも掘削工程を停止したり、戻り横行を待って行う必要はなく、掘削の進行に伴い固化領域が確保できた段階で開始することができるのである。さらに本発明では掘削工程と固化工程とを同時進行させることもでき、工期の大幅な短縮を図ることが可能となる。
【0038】
なお、本発明における掘削装置としては、上記のTRD掘削機に限定されることなく、公知の地中連続壁の構築のために使用される各種の掘削機とすることができる。例えば、いわゆる壁式掘削に用いられるバケット式、回転式、衝撃式の掘削機や、柱列式掘削に用いられる杭施工機やオーガー掘削機等である。本発明では、上記のTRD掘削機に並び、SMW工法等に用いられる、少なくとも先端に掘削ビットを備え、鉛直方向に掘進する単軸または多軸のオーガー掘削機を用いるのが、好適な例として示される。
【0039】
また、図1では、固化工程における掘削装置(1)以外の手段として、固化液の供給が可能な撹拌装置(2)を用いる例を示しており、この撹拌装置(2)により固化領域の安定液(3)中に固化液を供給し、混合撹拌して固化領域に固化液と安定液の混合物である固化液含有スラリーを調整するようにしている。撹拌装置(2)としては、例えば各種の柱状改良機等を用いることが例示される。この攪拌装置(2)については、固化液の供給が可能であって、しかも、固化液の供給孔と攪拌翼が数段配備されたものとすることも有効である。通常は、攪拌装置のロッドの先端部に固化液供給孔と攪拌翼を設けるが、この場合攪拌装置のロッド上昇下降可動ストロークより深度が深い場合には、図2(A)に例示したように、下部底部から上昇下降可動ストローク分の範囲(L)しか、固化液の供給と攪拌が出来ず、それより上部は、固化液の供給や攪拌ができない。固化液の供給および攪拌を行うためには継ぎ足していたロッドを順次取り外し、ロッド長分の範囲を順次固化材の供給と攪拌を行うことになる。さらに次の攪拌場所では、取り外したロッドを継ぎ足さなければ下部底部部分の固化材供給および攪拌できないため、非常に手間を要することになる。
【0040】
そこで、例えば図2(B)に示したように、攪拌装置のロッド上昇下降可動ストローク長(L)以内毎に固化液供給孔と攪拌翼を設けることで、ロッドの脱着なしに、掘削深度の全範囲で固化液の供給と攪拌を行うことができ、高品質の連続壁を効率よく、迅速に構築することができる。
【0041】
また、前記掘削装置以外のその他の手段としては、液置換手段等を考慮することができ、例えば地上に混合装置を設置し、この混合装置で予め調整した固化液を液置換手段により固化領域の安定液と置換することができる。液置換手段としては、各種のポンプ等の移送手段およびトレミー管等を利用することができる。この液置換手段を通じて固化液を固化領域の底部に導き、安定液(3)と置換することや、固化領域の安定液(3)を混合装置に移送して固化液と混合撹拌して固化液含有スラリーとした後、トレミー管等を通じて固化領域の底部に導き、残りの安定液(3)と置換することなどが例示される。
【0042】
このような本発明では、掘削工程において掘削装置(1)を使用することに加え、固化工程においてその掘削装置(1)以外の手段を用いて固化液を供給することが必須となるが、固化工程で用いる手段としては例えば比較的損料の廉価な柱状改良機等で十分であることから、上記のとおり工期が大幅に短縮されて、全体として工費を削減することが可能となる。特に、掘削装置(1)に損料の高い装置を用いる場合に、本発明の段階式固化施工方法は大きな工費削減効果を得ることができる。
【0043】
以上の本発明において、非固化性の注入液としては、セメント等の固化材を含まない非固化性であって、掘削土と混合撹拌されることで安定液としての機能を発現するものであれば特に制限されず、各種のものを用いることができる。例えば、ベントナイトを主成分とする懸濁液や、気泡液などを例示することができる。また、安定液(3)は、主としてベントナイトと水と掘削土からなるベントナイト安定液や、気泡と水と掘削土が均一に懸濁された気泡安定液などを考慮することができる。そして本発明の一つの実施態様として、掘削装置(1)の先端から非固化性の注入液として気泡液を吐出し、これを掘削土と混合撹拌することで気泡と水と掘削土からなる気泡安定液(3)を調製し、この気泡安定液(3)のもとに掘削を行うことを好適な例として示すことができる。気泡安定液(3)は、気泡粒が地山の土粒子と土粒子の間に入り込み、ある厚さを持った難透水性層を構成するため、安定液(3)の泥圧が溝壁に加わり、溝壁の崩壊を防いで安定を保つことができる。また、気泡が球形であるため、掘削工程において掘削土の土粒子等の非球形粒子間に生じる摩擦を軽減するため(キャリア効果、ベアリング効果)加水量が少なくても流動性が確保でき、施工を容易に行えるという特徴がある。また、気泡が混入した排泥土は、消泡により体積を減少させることができ、排泥土量を削減できること、処理・処分が比較的簡単であること、さらに消泡後は現地土と同様に扱える点も大きな特徴である。
【0044】
なお、気泡液は、気泡コンクリート、エアーモルタル等に使用されている消泡しにくく、気泡の粒度がおおよそ20〜500μm程度の範囲のものであれば、その種類等に特に制限なく使用することができる。例えば、気泡剤原液を水で希釈し、これをミキサーで泡立てて作成した気泡などを用いることができる。気泡剤の希釈率は、気泡剤の仕様書に規定された希釈倍率でよく、仕様と異なる場合には気泡安定液における気泡としての機能を十分に発揮することができる希釈倍率を採用すればよい。気泡剤としては、例えば、気泡コンクリート、エアーモルタル等に使用されている製品等を用いることができ、具体的には、アルキルサルフェート系界面活性剤、部分加水分解蛋白質、アルキルエーテル系化合物複合体等の各種のものを例示することができる。なかでも、掘削後の溝壁を安定した状態に保ち続ける性能を得るために、消泡し難く、酸やアルカリ等の化学的安定性に優れ、かつ起泡能力の大きい気泡剤として、アルキルサルフェート系界面活性剤を使用するのが好ましい。気泡液の吐出量は、溝壁の安定性を保つために、気泡安定液の単位体積重量が常に10.5KN/m以上となるように、気泡および水の量を調整することができる。
【0045】
固化液に含まれる固化材についても特に制限はなく、所望の特性を備える地中連続壁を構築するに適切な材料を用いることができる。例えば、SMW等の工法で使用する固化材と同様に、セメント等の水硬性材料を固化材として用い、これを適切な割合で水に分散させて固化液とすることができる。必須ではないものの、掘削時の逸泥量を減少させ、固化壁に止水性等を付加する効果を期待して、さらにベントナイト等を添加することも考慮できる。公知の様々な工法では、一般的に、固化材に、増粘材、凝結遅延材、分散材などの添加材を混合することが多く、本発明においても使用することができるが、基本的に不要である。特に置換の場合には、コンクリートを打設してもよい。
【0046】
また注入液として気泡液を用い、気泡安定液(3)のもとで掘削を行う場合には、固化液は、固化材とともに消泡液を含むことを考慮することができる。これは、安定液(3)が、例えば図3に例示したベントナイト安定液(3)の場合には、固化工程において固化液を供給するとその供給量と同量の廃土が地上に排出される一方で、気泡安定液(3)の場合には、固化液として固化材とともに消泡液を供給することで、気泡安定液(3)中の気泡を消泡して水と掘削土に戻すことができ、排泥土の排出を削減することができるためである。消泡剤については、用いる気泡剤に応じて適切なものを選ぶことができる。
【0047】
なお、注入液として気泡液を用い、気泡安定液(3)のもとで掘削を行う場合であっても、構築する地中連続壁に地震荷重などによるクラックの発生を防止する目的などで、固化液に消泡剤を添加しないことも考慮することができる。この場合、固化後の地中連続壁は内部に気泡を残しつつも不透水性に優れ、弾性率が高く、塑性変形性に優れたものとなることが確認されている。
【0048】
さらに、本発明の段階式固化施工方法においては、図4に例示したように、掘削領域に隔壁(5)を設けることで固化領域を形成することを考慮することができる。これは、固化領域に供給される固化液または固化液含有スラリー(固化液と安定液の混合物)(4)が掘削領域に流出することを防ぎ、固化壁の品質を安定させるためのものである。特に、安定液(3)が気泡安定液(3)の場合には、気泡安定液(3)よりも固化液または固化液含有スラリー(4)の比重が大きくなるため、固化領域に供給した固化液が掘削領域の気泡安定液(3)中に流動することが予想される。そこで、掘削領域と固化領域の間に隔壁(5)を設けてこれを防止するようにする。
【0049】
隔壁(5)の素材としては、固化工程において掘削領域の安定液と固化領域の固化液または固化液含有スラリーとを分離できる形状および強度を有するものであれば、材質や構成等に特に制限はなく、例えば、金属製、樹脂製の板状体や、シート状体を補強したものなどを使用することがその一例として示される。シート状体を補強したものとは、例えば不透水性の軟質の合成樹脂膜等を網型または枠型の剛性材料等で補強した物などである。隔壁(5)は、平らな板状体に限定されることはなく、例えば、直径が掘削幅で長さが掘削深度程度の円筒状、アーチ状に加工した物等も考慮することができる。しかし、その目的から、隔壁(5)の幅は掘削幅に等しく、長さは掘削深度と等しくすることが好ましい。
【0050】
このような隔壁(5)は、地盤(7)に対して固定されていても良いし、また移動可能とされていてもよい。隔壁(5)を固定するには、例えば、図5に例示したように、掘削端部にH型鋼等によるアンカー(10)を埋設し、その底部アに補助ロープ(6)を固定し、この補助ロープ(6)を隔壁(5)の下端イおよび上端ウに設置した環状部11を通過させ、地表のアンカー(10)固定部エに緊張させて固定する。隔壁(5)を移動させたい場合には、固定部ウで補助ロープ(6)を緩めれば、安定液(3)と固化液または固化液含有スラリー(4)の差圧で隔壁(5)を移動させることができる。また隔壁(5)は掘削および固化工程の進行に伴い、掘削領域中に移動させることで、新たな固化領域を形成することができる。掘削が完了した際には、掘削領域を全て固化領域として隔壁(5)を撤去することができる。
【0051】
なお、実用的な安定液の比重は、ベントナイト安定液の場合で1.05〜1.1程度、気泡安定液の場合は気泡の添加量で変化するものの代表的には1.1〜1.4程度である。固化液であるセメントミルクの比重は水セメント比(W/C)に依存し、例えば気泡安定液に適用する場合の実用域(W/C=80〜100%)でその比重は1.5〜1.6程度である。そこで例えば、気泡安定液にセメントミルクを下記の条件で添加した場合の固化材含有スラリーの比重を計算すると、1.8となる。
【0052】
・気泡安定液の比重1.4、気泡の含有量30%、
・セメント添加量;150kg/m3、水セメント比W/C=100%、
・固化液は消泡剤を含み、気泡安定液における気泡を100%消泡させる
このように、掘削領域の気泡安定液の比重が1.4であるのに対し、固化領域の固化材含有スラリーの比重は1.8と、0.4の比重差がある。これを単位面積あたりの圧力に換算すると圧力差は400kg/m2となる。隔壁の重量は40kg/m2以下と考えることができるので、隔壁(5)はこの圧力差を利用することで容易に移動できることがわかる。
【0053】
そして本発明では、固化工程において固化領域に固化液を供給後、固化液または固化液含有スラリー(4)が固化する前に、H鋼、鋼材等の芯材、鉄筋かご、側壁部材、プレキャスト材(8)のうちのいずれか1種以上を固化液中または固化液含有スラリー(4)中に建込むことができる。図1の例では、下方に支持のためのH鋼が突出したプレキャスト材(8)を隙間なく連続して建込むようにしている。ここで、プレキャスト材(8)等の建込みに際し固化材を含む排泥土が発生しないように、図3のように、建込み後の固化液または固化液含有スラリー(4)の液面が所定の位置となるように、予め芯材やプレキャスト材(8)の体積に相当する分だけ、埋設する前の固化液または固化液含有スラリー(4)の液面を適切な低さに調節しておくことが考慮される。このような固化液または固化液含有スラリー(4)の液面の調節は、固化領域の固化液または固化液含有スラリー(4)の量を増減させることでも実現できるが、例えば、前記の(5)を固化領域から掘削領域の方向へ移動させることで、容易に実現することができる。とりわけ、安定液(3)が気泡安定液(3)の場合は、固化液または固化液含有スラリー(4)との比重差が大きいため、容易に液面の調整を行うことができる。これにより、固化材を含む排泥土を排出することなく、高品質の地中連続壁を構築することが可能となる。
【0054】
そこで以下に、チェーンソー型のカッターを備えたTRD掘削装置を用いて、従来法の3パスによる方法と本発明の段階式固化施工方法とにより、地中連続壁を構築する場合について、工期と工費を比較した。その結果を表1に示した。施工条件は、掘削幅800mm、深さ15m、長さ200m×両側とした。本発明の段階式固化施工方法では、TRD掘削機が気泡安定液のもとに掘削を開始したのち、適当な固化領域が確保できた段階で柱状改良機を用いて安定液に消泡剤を含む固化液を供給しながら混練りを開始したものとする。また、混練りした箇所に上部がパネル状で下部がH鋼からなるプレキャスト材を建て込み、固化させてコンクリート製地中連続壁による構造物を構築した。気泡安定液を用いるため柱状改良機による固化液の供給および撹拌混合はスムーズに行うことができ、施工はTRD掘削装置の掘進速度に大きく依存するものと考えられる。
【0055】
【表1】

【0056】
本発明によると、TRD掘削装置が地山掘削の専用となるため、日進量が従来法の6m/日から14m/日と2.3倍に向上する。
【0057】
本発明では柱状改良機を余分に使用するが、廉価であることと、日進量が大幅に増大するため、施工費が従来法に比べて約24%も低減できることが確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1 掘削装置
2 撹拌装置
3 安定液(気泡安定液)
4 固化液または固化液含有スラリー
5 隔壁
6 補助ロープ
7 地盤
8 プレキャスト材
9 クレーン
10 アンカー
11 環状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中連続壁の構築において、
掘削装置の先端から非固化性の注入液を吐出しながら地盤を掘削し、前記注入液と掘削土とを混合撹拌して、前記注入液と掘削土からなる安定液のもと掘削を行う掘削工程と、
既に掘削された掘削領域の一部を固化領域として、前記掘削装置以外の手段で該固化領域に固化材を含む固化液を供給して該固化領域を固化させる固化工程を含むことを特徴とする段階式固化施工方法。
【請求項2】
掘削装置が、チェーンソー型のカッターを備え、水平方向に掘進する掘削装置であることを特徴とする請求項1に記載の段階式固化施工方法。
【請求項3】
掘削装置が、少なくとも先端に掘削ビットを備え、鉛直方向に掘進する掘削装置であることを特徴とする請求項1に記載の段階式固化施工方法。
【請求項4】
掘削工程と固化工程とを同時に行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項5】
非固化性の注入液が気泡液であって、気泡と水と掘削土からなる気泡安定液のもとに掘削を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項6】
固化液が、固化材とともに消泡液を含むことを特徴とする請求項5に記載の段階式固化施工方法。
【請求項7】
非固化性の注入液がベントナイトを主成分とする懸濁液であって、主としてベントナイトと水と掘削土からなるベントナイト安定液のもとに掘削を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項8】
固化工程における前記掘削装置以外の手段が固化液の供給が可能な撹拌装置であって、該撹拌装置により固化領域の安定液中に固化液を供給するとともに混合撹拌して、固化領域に固化液と安定液の混合物である固化液含有スラリーを調整することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項9】
固化工程における前記掘削装置以外の手段が固化液の供給が可能な攪拌装置であって、固化液の供給孔と攪拌翼が数段配備したことを特徴とする請求項1ないし8いずれか記載の段階式固化施工方法。
【請求項10】
固化工程における前記掘削装置以外の手段が液置換手段であって、予め調整した固化液を固化領域の安定液と置換することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項11】
固化工程において、固化液を供給後、固化前に芯材、プレキャスト材および鉄筋のうちのいずれか1種以上を建込むことを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項12】
掘削領域に隔壁を設けることで固化領域を形成することを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の段階式固化施工方法。
【請求項13】
隔壁が移動可能とされていることを特徴とする請求項12に記載の段階式固化施工方法。
【請求項14】
固化領域における固化液または固化液含有スラリーの液面を調整することを特徴とする請求項12または請求項13に記載の段階式固化施工方法。
【請求項15】
隔壁を移動させることで、固化領域における固化液または固化液含有スラリーの液面を調整することを特徴とする請求項14に記載の段階式固化施工方法。

【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236349(P2010−236349A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56574(P2010−56574)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(390001421)学校法人早稲田大学 (14)
【出願人】(597057254)有限会社マグマ (10)
【出願人】(390020488)太洋基礎工業株式会社 (15)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】