説明

殺菌装置および殺菌方法

【課題】 より安全で確実な殺菌と、それによる食材の日保ち向上とを実現する。
【解決手段】 食材2を収容した処理槽3内を、排気手段4にて減圧後、二酸化炭素導入手段5にて二酸化炭素含有気体で復圧して、設定時間保持する。空気排除後の処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入することで、食材同士の隙間や食材の内部にまで二酸化炭素を行き渡らせることができる。食材を二酸化炭素に晒すことで、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。その後、処理槽3内を排気手段4にて再減圧後、給気手段6にて空気で大気圧まで復圧する。これにより、処理槽を開けた際の作業者の安全性が確保される。次亜塩素酸ナトリウムで殺菌後の食材を二酸化炭素でさらに殺菌すると、次亜塩素酸ナトリウムと副生成物の食材への残留を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カット野菜に代表される各種食材を殺菌または制菌するための殺菌装置および殺菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生鮮野菜、特に適宜カットされた状態のカット野菜は、次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液に浸して、殺菌が行われている。
【特許文献1】特開2005−124481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、より安全で確実な殺菌と、それによる食材の日保ち向上とが望まれている。安全性に関して述べると、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌の場合、殺菌後に食材を水洗いしても、次亜塩素酸ナトリウムの食材への残留や、トリハロメタンなどの副生成物の発生が指摘されている。
【0004】
本件発明者は、より安全で確実な殺菌について鋭意研究に努めた結果、高濃度の二酸化炭素が有効であることを見出した。ところが、単に高濃度の二酸化炭素を食材に晒すだけでは、食材同士の隙間や、食材の内部にまで十分に二酸化炭素が行き渡らず、十分な殺菌を図れず、また殺菌効果にムラが生じる。
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、より安全で確実な殺菌と、それによる食材の日保ち向上とを図ることにある。また、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌と併用することで、一層確実な殺菌とそれによる日保ち向上とを図る一方、残留する次亜塩素酸ナトリウムの低減と、トリハロメタンなどの副生成物の低減とを図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、食材が収容される処理槽と、この処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を減圧する排気手段と、この排気手段により減圧された前記処理槽内に、二酸化炭素を含む気体を導入する二酸化炭素導入手段と、前記排気手段により減圧された前記処理槽内に、空気を導入する給気手段とを備えることを特徴とする殺菌装置である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、処理槽内からの空気排除を図った後に、処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入することで、食材同士の隙間や、食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせることができる。食材を二酸化炭素に晒すことで、細菌の生育が抑制される。また、食材を二酸化炭素に晒すことで、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。すなわち、二酸化炭素が食材の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が解離して水素イオンを発生させ、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記二酸化炭素導入手段および/または前記給気手段は、前記処理槽内への気体の導入流量を調整して、前記処理槽内を徐々に復圧することを特徴とする請求項1に記載の殺菌装置である。
【0009】
減圧された処理槽内を復圧するために、処理槽内へ二酸化炭素含有気体を急激に導入する場合には、食材が締まってしまい、食材同士の隙間や食材の内部にまで十分に二酸化炭素が行き渡らず、十分な殺菌を図ることができないおそれがある。ところが、請求項2に記載の発明によれば、減圧された処理槽内に二酸化炭素含有気体を徐々に導入することで、食材同士の隙間や食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせて、確実な殺菌を図ることができる。また、同様に、減圧された処理槽内を復圧するために、処理槽内へ空気を急激に導入する場合には、食材が締まってしまうが、空気を徐々に導入することで、そのような不都合を防止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記二酸化炭素導入手段により、前記処理槽内を中途まで復圧して保持した後、前記給気手段により、前記処理槽内を大気圧まで復圧することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の殺菌装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、減圧された処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して保持することで、二酸化炭素による食材の殺菌を確実に図ることができる。その後、処理槽内へ空気を導入して、処理槽内を大気圧まで復圧することで、処理槽内外の差圧を無くして、処理槽の扉の開閉が可能となる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記二酸化炭素導入手段により、前記処理槽内を復圧して保持した後、前記排気手段により前記処理槽内を再減圧してから、前記給気手段により、前記処理槽内を大気圧まで復圧することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の殺菌装置である。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、減圧された処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して保持することで、二酸化炭素による食材の殺菌を確実に図ることができる。しかも、そのような殺菌処理後には、処理槽内を再減圧してから空気で復圧することで、処理槽内から二酸化炭素を排除して、作業者の安全を確保することができる。また、処理槽内を大気圧まで復圧することで、処理槽内外の差圧を無くして、処理槽の扉の開閉が可能となる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記排気手段による前記処理槽内の減圧は、前記処理槽内の圧力が前記食材の水蒸気圧よりも低くならない範囲で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の殺菌装置である。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、食材内の水分が沸騰しない範囲で、処理槽内の減圧が図られる。従って、食材からの水分蒸発を防止すると共に、食材の色合いを保ち、また食感の悪化も防止することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記処理槽内に収容される食材は、次亜塩素酸ナトリウムにて殺菌後の食材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の殺菌装置である。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後、さらに二酸化炭素含有気体を用いて殺菌することになり、一層の日保ち向上を図ることができる。次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後の食材を二酸化炭素に晒すことで、二酸化炭素が食材の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が次亜塩素酸ナトリウムと反応する。これにより、食材に残留していた次亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸となり、殺菌効果を増強する。また、次亜塩素酸の一部は、さらに炭酸と反応し塩素となる。塩素は揮発しやすく、食材から抜け易くなるため、食材に残留していた次亜塩素酸ナトリウムを低減できる。さらに、減圧を伴うことで、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌で食材に生じたトリハロメタンなどの副生成物の低減を図ることもできる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、食材を収容した処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を減圧する減圧工程、減圧された前記処理槽内に二酸化炭素を含む気体を導入して、前記処理槽内を大気圧または中途まで復圧する第一復圧工程、この復圧後の状態で設定時間保持する保持工程を順次に含むことを特徴とする殺菌方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、処理槽内からの空気排除を図った後に、処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して保持することで、食材同士の隙間や、食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせることができる。食材を二酸化炭素に晒すことで、細菌の生育が抑制される。また、食材を二酸化炭素に晒すことで、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。すなわち、二酸化炭素が食材の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が解離して水素イオンを発生させ、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、前記保持工程後、前記処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を再減圧する再減圧工程と、この再減圧工程後、前記処理槽内に空気を導入して、前記処理槽内を大気圧まで復圧する大気開放工程とをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の殺菌方法である。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、二酸化炭素含有気体を用いた殺菌後、処理槽内を再減圧してから空気で復圧することで、処理槽内から二酸化炭素を排除して、作業者の安全を確保することができる。また、処理槽内へ空気を導入して、処理槽内を大気圧まで復圧することで、処理槽内外の差圧を無くして、処理槽の扉の開閉が容易となる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、前記第一復圧工程は、減圧された前記処理槽内に二酸化炭素を含む気体を導入して、前記処理槽内を中途まで復圧する工程であり、前記保持工程の直後に、前記処理槽内に空気を導入して、前記処理槽内をさらに復圧する第二復圧工程をさらに含むことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の殺菌方法である。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、減圧された処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽内を中途まで復圧した状態で保持することで、二酸化炭素による食材の殺菌を図ることができる。そして、その保持工程後(その後に再減圧工程および大気開放工程を実行する場合には、保持工程後で再減圧工程前)に、処理槽内に空気を導入して、処理槽内がさらに復圧される。保持工程後、第二復圧工程だけを実行する場合には、処理槽内を大気圧まで復圧するのがよい。その場合、第二復圧工程は、大気開放工程と同様に機能し、処理槽内外の差圧を無くして、処理槽の扉の開閉を容易とする。一方、保持工程後、再減圧工程前に第二復圧工程を実行する場合には、処理槽内を大気圧まで完全に復圧しないのがよい。大気圧まで復圧した場合には、処理槽と扉との間に隙間が生じ、再減圧に支障をきたすおそれがあるが、再減圧前の復圧を負圧状態にすることで、そのような不都合を回避することができる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、前記減圧工程前に、前記食材を次亜塩素酸ナトリウムで殺菌する次亜殺菌工程をさらに含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の殺菌方法である。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後、さらに二酸化炭素含有気体を用いて殺菌することになり、一層の日保ち向上を図ることができる。次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後の食材を二酸化炭素に晒すことで、二酸化炭素が食材の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が次亜塩素酸ナトリウムと反応する。これにより、食材に残留していた次亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸となり、殺菌効果を増強する。また、次亜塩素酸の一部は、さらに炭酸と反応し塩素となる。塩素は揮発しやすく、食材から抜け易くなるため、食材に残留していた次亜塩素酸ナトリウムを低減できる。さらに、減圧を伴うことで、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌で食材に生じたトリハロメタンなどの副生成物の低減を図ることもできる。
【0026】
さらに、請求項11に記載の発明は、前記処理槽内の減圧は、前記処理槽内の圧力が前記食材の水蒸気圧よりも低くならない範囲で行われることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の殺菌方法である。
【0027】
請求項11に記載の発明によれば、食材内の水分が沸騰しない範囲で、処理槽内の減圧が図られる。従って、食材からの水分蒸発を防止すると共に、食材の色合いを保ち、また食感の悪化も防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、より安全で確実な殺菌と、それによる食材の日保ち向上とを図ることができる。また、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌と併用することで、一層確実な殺菌と、それによる日保ち向上とを図ることができる。しかも、残留する次亜塩素酸ナトリウムの低減と、トリハロメタンなどの副生成物の低減とを図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。
この発明の殺菌装置は、各種食材の殺菌または制菌(以下、単に殺菌という)を図る装置である。殺菌が図られる食材は、特に問わないが、典型的には生鮮野菜であり、特にカット野菜である。カット野菜とは、カットまたはスライスされた生鮮野菜であり、学校給食などの大量調理に備えたり、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでサラダや調理用野菜として販売されたりするものである。
【0030】
一実施形態の殺菌装置は、食材が収容される処理槽と、この処理槽内の気体を外部へ吸引排出して処理槽内を減圧する排気手段と、この排気手段により減圧された処理槽内に二酸化炭素含有気体を導入する二酸化炭素導入手段と、排気手段により減圧された処理槽内に空気を導入する給気手段とを備える。
【0031】
二酸化炭素含有気体とは、二酸化炭素濃度が空気よりも高い気体をいう。空気中には二酸化炭素はほぼ含まれないので、単に二酸化炭素を含む気体ということもできる。二酸化炭素含有気体は、二酸化炭素濃度が空気よりも高ければよく、二酸化炭素と空気との混合気体、二酸化炭素とその他の不活性ガスなどとの混合気体、または二酸化炭素(二酸化炭素99%以上)から構成される。
【0032】
処理槽は、食材を密閉可能な中空構造に形成され、典型的には略矩形の中空ボックス状に形成された金属製の缶体である。この処理槽は、一側面へ開口して中空部を有する処理槽本体と、この処理槽本体の開口部を開閉する扉とから構成される。但し、処理槽は、このような構成に限らず、たとえば、上方へ開口する有底円筒状の処理槽本体と、この処理槽本体の上部開口を開閉する扉とから構成してもよい。
【0033】
処理槽には、処理槽内の圧力を検出する圧力センサが備えられる。但し、圧力センサに代えてまたはこれに加えて、処理槽内の温度を検出する温度センサを設けてもよい。また、食材の温度を検出する品温センサをさらに設けてもよい。
【0034】
排気手段は、処理槽内の気体を外部へ吸引排出する手段である。排気手段は、真空ポンプ、またはそれに代えてもしくはそれに加えて、蒸気エゼクタまたは水エゼクタなどを備える。排気手段は、排気路を介して、処理槽に接続される。従って、排気手段により、排気路を介して処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽内を減圧することができる。
【0035】
排気手段は、さらに熱交換器を排気路に備えてもよい。この熱交換器は、排気手段として真空ポンプを備える場合には、真空ポンプより上流側に設けられ、排気手段として蒸気エゼクタを備える場合には、蒸気エゼクタより下流側に設けられる。熱交換器は、排気路内の蒸気を、冷却し凝縮させるものである。この冷却および凝縮作用をなすために、熱交換器には冷却水が供給され、排気路の冷却が図られる。冷却水として、冷水製造装置(チラー)から供給される冷水を用いてもよい。また、冷却水に代えて、ブラインチラーから供給されるブラインを用いてもよい。いずれの場合も、排気路内の蒸気を予め熱交換器で凝縮させておくことで、その後の真空ポンプの負荷を軽減して、減圧能力を高めることができる。
【0036】
二酸化炭素導入手段は、排気手段により減圧された処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽内を復圧する手段である。二酸化炭素導入手段は、二酸化炭素含有気体を充填または生成する二酸化炭素供給源を備え、二酸化炭素導入路を介して処理槽に接続される。二酸化炭素導入路の中途には二酸化炭素導入弁が設けられており、この二酸化炭素導入弁を開くことで、処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽内を復圧することができる。
【0037】
給気手段は、排気手段により減圧された処理槽内へ空気を導入して、処理槽内を復圧する手段である。この給気手段により、処理槽内へ空気を導入することで、処理槽内を大気圧まで復圧することができる。処理槽内への空気の導入は、衛生面を考慮して、フィルターを介して行うのが望ましい。フィルターを介した清浄空気は、給気路を介して処理槽内へ供給される。給気路の中途に設けた給気弁を開閉することで、処理槽内への外気導入の有無が切り替えられる。
【0038】
ところで、二酸化炭素導入弁と給気弁とは、開度調整可能なものが好ましい。具体的には、モータバルブまたは比例制御弁などの電動弁から構成するのがよい。この場合、弁の開度を徐々に開くことで、処理槽内を徐々に復圧することができる。
【0039】
殺菌装置には、真空冷却機能を付加したり、真空包装機能を付加したりしてもよい。逆にいうと、真空冷却機や真空包装機などの減圧機能を有する各種食品機械に、本発明の殺菌機能を付加してもよい。
【0040】
つぎに、この発明の殺菌方法について説明する。一実施形態の殺菌方法は、減圧工程および復圧工程(第一復圧工程)を順次に実行して、食材を殺菌する方法である。減圧工程は、食材を収容した処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽内を減圧する工程である。第一復圧工程は、減圧された処理槽内に二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽内を大気圧または中途まで復圧する工程である。いずれまで復圧する場合も、後述する大気開放工程により、最終的には、処理槽内を大気に開放するのがよい。
【0041】
処理槽内からの空気排除を図った後に、処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入することで、食材同士の隙間や、食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせることができる。食材の表面や内部を比較的高濃度の二酸化炭素に晒すことで、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。すなわち、二酸化炭素が食材の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が解離して水素イオンを発生させ、食材のpHを下げ、その酸により食材の殺菌が図られる。
【0042】
第一復圧工程の直後には、保持工程を実行するのが好ましい。この保持工程は、処理槽内を第一復圧工程後の状態で設定時間保持する工程である。二酸化炭素含有気体を導入して設定時間保持することで、二酸化炭素による食材の殺菌を確実に図ることができる。
【0043】
ところで、処理槽内を減圧することで膨張するような食材(液物でないような固形食材)は、膨張することで二酸化炭素含有気体との接触面積が広くなり、二酸化炭素による殺菌も効果的であるが、急激に復圧する場合には、食材も急激に収縮してしまい、二酸化炭素含有気体との接触面積が減り、十分な殺菌を図ることができないおそれがある。ところが、中途まで復圧して保持することで、広い接触面積を保つことで、効果的な殺菌を図ることができる。後述するように、処理槽内へ徐々に二酸化炭素を導入して、処理槽内を徐々に復圧する場合も同様である。
【0044】
保持工程後には、再減圧工程と大気開放工程とを順次に実行するのがよい。再減圧工程は、処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽内を再減圧する工程である。大気開放工程は、再減圧後の処理槽内を大気に開放する工程である。二酸化炭素による食材の殺菌処理後、処理槽内を再減圧してから空気で復圧することで、処理槽内から二酸化炭素を排除することができる。これにより、処理槽の扉を開いた際の作業者の安全を確保することができる。
【0045】
保持工程の直後には、第二復圧工程を実行してもよい。第一復圧工程が処理槽内を大気圧までではなくその中途まで復圧する場合、第二復圧工程は、保持工程直後の処理槽内に空気を導入して、処理槽内をさらに復圧する工程である。また、第一復圧工程が処理槽内を大気圧まで復圧する場合、第二復圧工程は、処理槽内を大気に開放する工程である。いずれにしても、再減圧工程を実行しない場合、第二復圧工程は、典型的には、処理槽内を大気に開放して、処理槽内を大気圧下にする工程である。この場合、第二復圧工程が、大気開放工程を兼ねることになる。一方、再減圧工程を実行する場合、第二復圧工程は、保持工程後、再減圧工程前に実行される。
【0046】
再減圧工程を実行する場合、第一復圧工程(さらに第二復圧工程を実行する場合には第二復圧工程)における処理槽内の復圧は、大気圧までの復圧に限らず、負圧状態への復圧としてもよい。大気圧まで復圧した場合には、処理槽と扉との間に隙間が生じ、再減圧に支障をきたすおそれがあるが、再減圧前の復圧を負圧状態にすることで、そのような不都合を回避することができる。
【0047】
減圧工程および/または再減圧工程における処理槽内の減圧は、処理槽内の圧力が食材の水蒸気圧(食材に含まれる水の水蒸気圧)よりも低くならない範囲で行われる。これにより、食材からの水分蒸発を防止すると共に、食材の色合いを保ち、また食感の悪化も防止することができる。
【0048】
再減圧工程を実行する場合、大気開放工程により、処理槽内を大気圧まで完全に復圧するのがよい。これにより、処理槽内外の差圧を無くして、処理槽の扉の開閉が可能となる。同様の理由から、再減圧工程を実行せず、しかも第一復圧工程において二酸化炭素含有気体で大気圧までの復圧を図る場合でも、処理槽の扉を開ける前に、第二復圧工程において、念のため大気に開放して、食材を取り出すのがよい。しかも、この場合、事前に大気に開放することで、処理槽内の二酸化炭素と空気との置換を図ることもできる。
【0049】
第一復圧工程、第二復圧工程および大気開放工程では、それぞれ、処理槽内を徐々に復圧することが好ましい。これには、処理槽内への気体の導入流量を調整すればよい。上述した殺菌装置を用いる場合、第一復圧工程では、二酸化炭素導入弁の開度を制限するか徐々に開けばよいし、第二復圧工程および大気開放工程では、給気弁の開度を制限するか徐々に開けばよい。これにより、処理槽内を徐々に復圧することができる。減圧された処理槽内を急激に復圧する場合には、食材が締まってしまうが、徐々に復圧することで、そのような不都合を回避することができる。しかも、減圧された処理槽内へ二酸化炭素を徐々に導入する場合には、食材同士の隙間や食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせることができる。
【0050】
最初の減圧工程前には、次亜殺菌工程を実行してもよい。この次亜殺菌工程は、食材を次亜塩素酸ナトリウムで殺菌する工程である。つまり、処理槽内へ収容される食材は、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後の食材としてもよい。これにより、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後、さらに二酸化炭素含有気体を用いて殺菌することになり、一層の日保ち向上を図ることができる。
【0051】
次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後の食材を二酸化炭素に晒すことで、二酸化炭素が食材の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が次亜塩素酸ナトリウムと反応する。これにより、食材に残留していた次亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸となり、殺菌効果を増強する。また、次亜塩素酸の一部は、さらに炭酸と反応し塩素となる。塩素は揮発しやすく、食材から抜け易くなるため、食材に残留していた次亜塩素酸ナトリウムを低減できる。さらに、減圧を伴うことで、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌で食材に生じたトリハロメタンなどの副生成物の低減を図ることもできる。
【0052】
このような殺菌方法は、好ましくは、前述した殺菌装置を用いて実行される。具体的には、まず、処理槽内に食材を収容して、処理槽内を密閉する。その状態で、排気手段を用いて、処理槽内圧力が設定圧力にまで、あるいは設定時間が経過するまで、処理槽内を減圧する。その後、排気手段を停止した状態で、二酸化炭素導入手段を用いて、処理槽内へ二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽内を復圧する。そして、所望により、復圧後の状態で設定時間保持する。その後、所望により排気手段を用いて、処理槽内圧力が設定圧力にまで、あるいは設定時間が経過するまで、処理槽内を再減圧した後、給気手段を用いて、処理槽内へ空気を導入して、処理槽内を大気圧まで復圧すればよい。
【実施例】
【0053】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の殺菌装置の一実施例を示す概略構成図である。この殺菌装置1は、殺菌を図りたい食材2が収容される処理槽3と、この処理槽3内の気体を外部へ吸引排出して処理槽3内を減圧する排気手段4と、減圧された処理槽3内へ二酸化炭素含有気体を導入して処理槽3内を復圧する二酸化炭素導入手段5と、減圧された処理槽3内へ空気を導入して処理槽3内を復圧する給気手段6と、これら各手段4〜6を制御する制御手段7とを備える。
【0054】
二酸化炭素含有気体とは、二酸化炭素濃度が空気よりも高い気体をいう。空気中には二酸化炭素はほぼ含まれないので、単に二酸化炭素を含む気体ということもできる。二酸化炭素含有気体の二酸化炭素濃度は、空気よりも高ければよいが、好ましくは40%以上、より好ましくは90%以上とされる。二酸化炭素含有気体は、二酸化炭素と空気との混合気体、二酸化炭素とその他の気体(たとえば窒素などの不活性ガス)との混合気体、または二酸化炭素(二酸化炭素濃度99%以上)から構成される。
【0055】
本実施例の処理槽3は、一側面へ開口して中空部を有する処理槽本体8と、この処理槽本体8の開口部を開閉する扉9とを備えた金属製の缶体である。扉9が閉じられた状態では、処理槽本体8と扉9との隙間は、パッキン(図示省略)にて封止される。処理槽3には、処理槽3内の圧力を検出する圧力センサ10が設けられる。処理槽3内への食材2の収容は、処理槽3に出し入れされるワゴン(図示省略)を介して行ってもよいし、図示例のように処理槽3内の棚板11に直接載せてもよい。
【0056】
本実施例の殺菌装置1にて殺菌を図られる食材2は、特に問わないが、典型的には生鮮野菜とされ、特にカット野菜とされる。図示例では、キャベツの千切りを示しているが、玉ねぎ、ジャガイモ、レタスなど、適宜にカットまたはスライスされたその他の野菜でもよい。これら食材2は、適宜の容器12に入れられて、処理槽3内に収容される。
【0057】
処理槽3には、処理槽3内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽3内を減圧する排気手段4が接続される。排気手段4は、特に問わないが、本実施例では水封式の真空ポンプ13から構成される。水封式の真空ポンプ13は、周知のとおり、封水と呼ばれる水が供給されて作動される。そのために、真空ポンプ13には、給水路14を介して水が供給可能とされる。
【0058】
真空ポンプ13は、排気路15を介して処理槽3に接続される。排気路15の中途には、真空弁16が設けられる。この真空弁16は、排気路15を開閉する弁であり、本実施例では電磁弁から構成される。
【0059】
処理槽3には、減圧された処理槽3内へ二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽3内を復圧する二酸化炭素導入手段5が接続される。二酸化炭素導入手段5は、本実施例では二酸化炭素ボンベ17を備えて構成される。二酸化炭素ボンベ17には、液化二酸化炭素が貯蔵されている。
【0060】
二酸化炭素ボンベ17は、二酸化炭素導入路18を介して処理槽3に接続される。二酸化炭素ボンベ17の出口には、ベーパライザ19が設けられており、このベーパライザ19により二酸化炭素ボンベ17内の液化二酸化炭素は、減圧され気化されて、二酸化炭素含有気体として処理槽3内へ供給可能とされる。二酸化炭素導入路18の中途には、二酸化炭素導入弁20が設けられる。この二酸化炭素導入弁20は、二酸化炭素導入路18を開閉する弁であり、開度調整可能であるのが好ましい。たとえばモータバルブなどの電動弁から構成される。
【0061】
このようにして、処理槽3内へは、二酸化炭素濃度がたとえば98〜99%の気体が導入可能とされる。但し、前述したように、二酸化炭素濃度はこれに限らないし、二酸化炭素とその他の気体との混合気体を、処理槽3内へ導入可能としてもよい。
【0062】
さらに、処理槽3には、減圧された処理槽3内へ空気を導入して、処理槽3内を復圧する給気手段6が接続される。給気手段6は、処理槽3の内外を連通可能に構成される。本実施例では、処理槽3内は、給気路21およびフィルター22を介して、外気と連通可能とされる。給気路21の中途には、給気弁23が設けられる。この給気弁23は、給気路21を開閉する弁であり、開度調整可能であるのが好ましい。たとえばモータバルブなどの電動弁から構成される。給気弁23の開放により、処理槽3内は大気圧に開放可能とされる。
【0063】
排気手段4、二酸化炭素導入手段5、給気手段6などは、制御手段7により制御される。この制御手段7は、それが把握する経過時間や圧力センサ10による検出圧力などに基づき、前記各手段4〜6を制御する制御器24である。具体的には、圧力センサ10の他、真空ポンプ13、真空弁16、二酸化炭素導入弁20、給気弁23などは、制御器24に接続される。そして、制御器24は、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽3内の食材2の殺菌を図る。
【0064】
次に、本実施例の殺菌装置1を用いた殺菌方法について説明する。図2は、本発明の殺菌方法の一実施例を示すフローチャートである。また、図3は、本実施例の殺菌方法の内、前記殺菌装置1を用いて実行する工程について、処理槽内圧力の変化を示す概略図であり、処理槽内圧力と経過時間との関係を示している。そして、図4は、図3の変形例を示す図である。
【0065】
図2に示すように、本実施例では、次亜殺菌工程S1、減圧工程S2、第一復圧工程S3、保持工程S4、第二復圧工程S5、再減圧工程S6および大気開放工程S7が順次に実行される。この内、次亜殺菌工程S1は、好ましくは実行される工程であり、場合によっては省略可能である。また、第二復圧工程S5は、大気開放工程S7を兼ねる場合があり、その場合、再減圧工程S6および大気開放工程S7は実行する必要はない。
【0066】
次亜殺菌工程S1は、食材2を次亜塩素酸ナトリウムで殺菌する工程である。具体的には、適宜にトリミングされ、カットまたはスライスされた食材(カット野菜)は、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に浸される。たとえば、100〜200ppmの次亜塩素酸ナトリウムに、5〜10分、食材2が浸される。
【0067】
次亜殺菌工程S1にて殺菌を図られた食材2は、水洗いされた後、殺菌装置1の処理槽3内へ移される。但し、食材2の水洗いは、次亜殺菌工程S1直後に行うことに代えてまたはこれに加えて、大気開放工程S7(再減圧工程S6以降を実行しない場合には第二復圧工程S5)の後に行ってもよい。
【0068】
減圧工程S2は、処理槽3内を密閉した状態で、処理槽3内の空気を外部へ吸引排出して、処理槽3内を減圧する工程である。具体的には、二酸化炭素導入弁20および給気弁23を閉じた状態で、真空弁16を開くと共に真空ポンプ13を作動させて、処理槽3内を第一設定圧力P1まで減圧する。第一設定圧力P1は、適宜に設定されるが、食材2の水蒸気圧よりも低くならない範囲で設定される。たとえば、食材2の品温が17℃の場合には、処理槽3内の圧力が20hPaよりも低くならない範囲で設定される。これにより、食材2内の水分の沸騰を防止して、食材2の色合いを保ち、また食感の悪化も防止できる。食材2の品温を確認して制御するために、処理槽3に、品温センサ(図示省略)を設けてもよい。
【0069】
減圧工程S2では、圧力センサ10により処理槽3内の圧力を監視しつつ、真空ポンプ13を用いて処理槽3内の減圧が図られ、処理槽3内が第一設定圧力P1になると、真空弁16を閉じると共に真空ポンプ13の作動を停止する。但し、減圧工程S2では、処理槽3内を設定圧力まで減圧する以外に、真空ポンプ13を設定時間だけ作動させて、処理槽3内を設定時間だけ減圧してもよい。
【0070】
第一復圧工程S3は、減圧された処理槽3内へ二酸化炭素含有気体を導入して、処理槽3内を復圧する工程である。具体的には、二酸化炭素導入弁20を開いて、減圧された処理槽3内へ二酸化炭素含有気体を導入し、処理槽3内を第二設定圧力P2まで復圧する。第二設定圧力P2は、適宜に設定され、場合により大気圧まで復圧してもよいが、図3および図4では、処理槽3内を中途(たとえば半分程度)まで復圧する圧力に設定される。
【0071】
第一復圧工程S3では、圧力センサ10により処理槽3内の圧力を監視しつつ、処理槽3内への二酸化炭素含有気体の導入が図られ、処理槽3内が第二設定圧力P2になると、二酸化炭素導入弁20を閉じる。但し、第一復圧工程S3では、処理槽3内を設定圧力まで復圧する以外に、二酸化炭素導入弁20を設定時間だけ開いて、処理槽3内を設定時間だけ復圧してもよい。
【0072】
減圧工程S2で減圧した処理槽3内に、第一復圧工程S3で二酸化炭素含有気体を導入することにより、食材同士の隙間や、食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせることができる。食材2を二酸化炭素に晒すことで、細菌の生育が抑制される。また、食材2を二酸化炭素に晒すことで、食材2のpHを下げ、その酸により食材2の殺菌が図られる。すなわち、二酸化炭素が食材2の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が解離して水素イオンを発生させ、食材2のpHを下げ、その酸により食材2の殺菌が図られる。
【0073】
保持工程S4は、処理槽3内を第一復圧工程S3後の状態で設定時間保持する工程である。設定時間は、適宜に設定されるが、たとえば数分から数十分とされる。食材2を二酸化炭素に晒した状態で設定時間保持することで、二酸化炭素による食材2の殺菌を確実に図ることができる。
【0074】
保持工程S4の直後には、所望により第二復圧工程S5を実行してもよい。この第二復圧工程S5は、減圧下の処理槽3内へ空気を導入して、処理槽3内をさらに復圧する工程である。具体的には、処理槽3内が所望圧力になるまで給気弁23を開いて、減圧下の処理槽3内へ空気を導入し、処理槽3内をさらに復圧する。
【0075】
図4に示すように、第二復圧工程S5において、処理槽3内を大気圧まで復圧した場合には、次工程の再減圧工程S6に移行せずに、殺菌装置1の運転を終了することもできる。また、図4の変形例として、第一復圧工程S3において、処理槽3内を大気圧まで復圧して保持(保持工程S4)してもよく、この場合、第二復圧工程S5において、処理槽3内を大気に開放するのがよい。この場合も、次工程の再減圧工程S6に移行せずに、殺菌装置1の運転を終了することができる。いずれの場合も、第二復圧工程S5は、大気開放工程S7ともいえる。
【0076】
再減圧工程S6は、処理槽3内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽3内を再減圧する工程である。具体的には、減圧工程S2と同様に、二酸化炭素導入弁20および給気弁23を閉じた状態で、真空弁16を開くと共に真空ポンプ13を作動させて、処理槽3内を第三設定圧力P3まで減圧する。第三設定圧力P3は、適宜に設定されるが、図3では、第一設定圧力P1と同一とされる。但し、再減圧工程S6でも、処理槽3内を設定圧力まで減圧する以外に、真空ポンプ13を設定時間だけ作動させて、処理槽3内を設定時間だけ減圧してもよい。
【0077】
大気開放工程S7は、減圧下の処理槽3内へ空気を導入して、処理槽3内を大気圧まで復圧する工程である。具体的には、真空ポンプ13の作動を停止し、真空弁16および二酸化炭素導入弁20を閉じた状態で、給気弁23を開いて、減圧下の処理槽3内へ空気を導入し、処理槽3内を大気圧まで完全に復圧する。これにより、処理槽3内外の差圧を無くして、処理槽3の扉9の開閉が可能となる。
【0078】
ところで、図3において、大気開放工程S7直前の再減圧工程S6は省略してもよいが、大気開放工程S7直前に再減圧工程S6を実行して、処理槽3内から二酸化炭素含有気体を排除した後、空気のみで復圧するのがよい。処理槽3内から二酸化炭素を排除した後、処理槽3内を空気で復圧することにより、処理槽3の扉9を開いた際の作業者の安全が確保される。具体的には、処理槽3の扉9の開放時に、酸素濃度が18%未満の作業環境になることが防止される。
【0079】
また、第一復圧工程S3、第二復圧工程S5および大気開放工程S7の内、いずれか一以上の工程では、処理槽3内を徐々に復圧するのが好ましい。具体的には、第一復圧工程S3では、二酸化炭素導入弁20を徐々に開けばよいし、第二復圧工程S5および大気開放工程S7では、給気弁23を徐々に開けばよい。減圧された処理槽3内を急激に復圧する場合には、食材2が締まってしまうが、徐々に復圧することで、そのような不都合を回避することができる。しかも、減圧された処理槽3内へ二酸化炭素を徐々に導入する場合には、食材同士の隙間や食材の内部にまで十分に二酸化炭素を行き渡らせることができる。
【0080】
本実施例の殺菌方法によれば、カット野菜などの食材2は、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後、さらに二酸化炭素含有気体により殺菌される。次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後の食材2を二酸化炭素に晒すことで、二酸化炭素が食材2の水分(食材中の水分および/または食材付着の水分)と反応して炭酸となり、その炭酸が次亜塩素酸ナトリウムと反応する。これにより、食材2に残留していた次亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸となり、4〜5倍程度殺菌効果を増強する。また、次亜塩素酸の一部は、さらに炭酸と反応し塩素となる。塩素は揮発しやすく、食材2から抜け易くなるため、食材2に残留していた次亜塩素酸ナトリウムを低減できる。さらに、減圧を伴うことで、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌で食材2に生じたトリハロメタンなどの副生成物の低減を図ることもできる。
【0081】
次に示す表1、表2および表3は、二酸化炭素含有気体を用いたカット野菜(キャベツの千切り)の殺菌効果についての試験結果を示す表である。ここで、表1と表2と表3とは、殺菌対象であるキャベツが異なる。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
試料1から試料4は、それぞれ次のとおりである。試料1は、キャベツを千切りしてから水道水で十分に洗った後、水切りしたカットキャベツである。試料2は、試料1と同様の処理を行ったカットキャベツを処理槽3内に収容し、その処理槽3内を25hPaまで減圧した後(減圧工程S2)、二酸化炭素濃度が99%の気体を処理槽3内へ導入して大気圧まで復圧し(第一復圧工程S3)、復圧後30分間保持してから(保持工程S4)、空気と置換する処理(大気開放工程S7を兼ねる第二復圧工程S5)を施したカットキャベツである。試料3は、試料1と同様の処理を行ったカットキャベツを、有効塩素200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に5分間浸した後(次亜殺菌工程S1)、水道水のため水に、このため水を5回入れ替えつつさらして十分にすすぐ処理を施したカットキャベツである。さらに、試料4は、試料3と同様の処理を行ったカットキャベツを処理槽3内に収容し、その処理槽3内を25hPaまで減圧した後(減圧工程S2)、二酸化炭素濃度が99%の気体を処理槽3内へ導入して大気圧まで復圧し(第一復圧工程S3)、復圧後30分間保持してから(保持工程S4)、空気と置換する処理(大気開放工程S7を兼ねる第二復圧工程S5)を施したカットキャベツである。
【0086】
生菌数の測定方法は、次のとおりである。試料を10℃で所定時間(表中の各時間)放置した後、その試料20gをストマッカーのポリ袋に移して、そのポリ袋に滅菌希釈液180mlを加えて、60秒間細砕した。これにより得られた上澄み液を試料原液とした。試料原液1mlは、検体0.1gに相当するとした。そして、試料原液は、滅菌0.1%ペプトン加生理食塩水で希釈した。この希釈液1mlをペトリ皿に分注し、あらかじめ121℃で15分間高圧滅菌後、約45℃の標準寒天培地を約15ml注ぎ混釈した。培地が凝固したら、ペトリ皿を上下逆にした状態で、35℃±1℃の恒温器にて24±2時間培養した。そして、肉眼で認められる集落数を生菌数として測定した。なお、試料原液の希釈は、省略してもよく、その場合、試料原液1mlをペトリ皿に分注して、以後同様の処理を行うことになる。
【0087】
表1、表2および表3から分かるように、水洗いのみの試料1と二酸化炭素殺菌処理を施した試料2とを比較して、二酸化炭素殺菌の効果が確認された。また、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌のみを行った試料3と次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌後に二酸化炭素殺菌処理を施した試料4とを比較して、次亜殺菌工程後の二酸化炭素殺菌処理の効果が確認された。さらに、試料4はその他の試料と比較して、殺菌効果が特にあることが確認された。
【0088】
本発明の殺菌装置および殺菌方法は、前記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。特に、食材が収容された空間内を一旦減圧後、二酸化炭素含有気体を導入して復圧する構成であれば足り、二酸化炭素含有気体の組成や、殺菌装置の具体的構成、殺菌方法の処理手順は、適宜に変更可能である。
【0089】
たとえば、前記実施例では、二酸化炭素含有気体は、二酸化炭素のみとされたが、他の気体との混合気体であってもよい。その場合、二酸化炭素ボンベ17に混合気体を充填していてもよいし、二酸化炭素導入路18において、二酸化炭素ボンベ17からの二酸化炭素に他の気体を混合してもよい。
【0090】
前記実施例では、排気手段4として真空ポンプ13のみを用いたが、これに加えて、蒸気エゼクタおよび/または熱交換器を、排気路15に設けてもよい。また、二酸化炭素導入路18と給気路21とは、処理槽3側の端部において共通路とすることもできる。
【0091】
前記実施例では、次亜塩素酸ナトリウムにて殺菌後の食材2を、二酸化炭素にてさらに殺菌する例について説明したが、本発明の殺菌装置および殺菌方法は、次亜塩素酸ナトリウムにて殺菌を施されていない食材、または次亜塩素酸ナトリウム以外で事前に殺菌を施された食材について、二酸化炭素により殺菌する場合にも同様に適用できる。
【0092】
さらに、処理槽3内において二酸化炭素含有気体により殺菌を図られた食材2を、真空包装機に移して、特定組成の気体により、食材2をパックしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の殺菌装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】図1の殺菌装置を用いた殺菌方法の典型例を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートに示される殺菌方法を実施した場合の処理槽内の圧力変化を示す概略図である。
【図4】図3の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 殺菌装置
2 食材
3 処理槽
4 排気手段
5 二酸化炭素導入手段
6 給気手段
10 圧力センサ
13 真空ポンプ
17 二酸化炭素ボンベ
20 二酸化炭素導入弁
23 給気弁
S1 次亜殺菌工程
S2 減圧工程
S3 第一復圧工程
S4 保持工程
S5 第二復圧工程
S6 再減圧工程
S7 大気開放工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材が収容される処理槽と、
この処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を減圧する排気手段と、
この排気手段により減圧された前記処理槽内に、二酸化炭素を含む気体を導入する二酸化炭素導入手段と、
前記排気手段により減圧された前記処理槽内に、空気を導入する給気手段と
を備えることを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素導入手段および/または前記給気手段は、前記処理槽内への気体の導入流量を調整して、前記処理槽内を徐々に復圧する
ことを特徴とする請求項1に記載の殺菌装置。
【請求項3】
前記二酸化炭素導入手段により、前記処理槽内を中途まで復圧して保持した後、前記給気手段により、前記処理槽内を大気圧まで復圧する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の殺菌装置。
【請求項4】
前記二酸化炭素導入手段により、前記処理槽内を復圧して保持した後、前記排気手段により前記処理槽内を再減圧してから、前記給気手段により、前記処理槽内を大気圧まで復圧する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の殺菌装置。
【請求項5】
前記排気手段による前記処理槽内の減圧は、前記処理槽内の圧力が前記食材の水蒸気圧よりも低くならない範囲で行われる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の殺菌装置。
【請求項6】
前記処理槽内に収容される食材は、次亜塩素酸ナトリウムにて殺菌後の食材である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の殺菌装置。
【請求項7】
食材を収容した処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を減圧する減圧工程、
減圧された前記処理槽内に二酸化炭素を含む気体を導入して、前記処理槽内を大気圧または中途まで復圧する第一復圧工程、
この復圧後の状態で設定時間保持する保持工程
を順次に含むことを特徴とする殺菌方法。
【請求項8】
前記保持工程後、前記処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を再減圧する再減圧工程と、
この再減圧工程後、前記処理槽内に空気を導入して、前記処理槽内を大気圧まで復圧する大気開放工程と
をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の殺菌方法。
【請求項9】
前記第一復圧工程は、減圧された前記処理槽内に二酸化炭素を含む気体を導入して、前記処理槽内を中途まで復圧する工程であり、
前記保持工程の直後に、前記処理槽内に空気を導入して、前記処理槽内をさらに復圧する第二復圧工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の殺菌方法。
【請求項10】
前記減圧工程前に、前記食材を次亜塩素酸ナトリウムで殺菌する次亜殺菌工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項11】
前記処理槽内の減圧は、前記処理槽内の圧力が前記食材の水蒸気圧よりも低くならない範囲で行われる
ことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−153455(P2009−153455A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335838(P2007−335838)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】